特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ホスピタル

2006-08-08 14:26:19 | 遺体搬送
この仕事は、夜中に電話が鳴ることもある。
寝ていても、まるでずっと起きていたかのように電話に出ることができる特技が身についた。
一年を通じても夜中の出動は少ないのだが、何故だか続くときは続いてしまう。
昼間は昼間で仕事があり寝ていられる訳じゃないので、あまり続くとキツイ!
そんな日々が続く中で夜中に電話が鳴ると「冗談?」と思ってしまう。
正直なところ、ありがた迷惑に思ってしまう時もある。

遺体搬送業務の服装は、特掃業務とは違ってスーツ姿(喪服ではない)。
したがって、身だしなみを整えるのに少々の時間を要する。
しかし、病院へのお迎えは一分一秒を争うことが多いので、モタモタしてはいられない。
「だったら、スーツを着たまま寝てりゃいいだろ」と思わないでもらいたい。
それじゃ眠れないから。
電話を切ったらテキパキと身支度を整えて出発する。

同じ建物なのに、夜中の病院は昼間の様相とは異なる。
抽象的な表現になるけど、昼間は生を感じさせ夜は死を感じさせる。
もちろん、病院から死人が出るのは夜に限ったことではないが。
シーンと静まり返る夜中の病院には、人の死を感じさせる独特の雰囲気がある。

大きな病院だと夜勤の医師・看護士、警備員の姿があり、適当に明かりもあるので緊張することも少ないが、小さな病院だと人の気配もなく、非常灯が緑色に光っているだけなので妙な緊張感がある。
インターフォンを押しても誰も出て来ないところは、人を探して回らなければならない。
そんな時は、入院患者に迷惑を掛けないよう、できるだけ物音を立てないように歩く。
もちろん、「こんばんはー!」等と大きな声もだせない。
自分の靴の音ばかりが響く中で、とにかく人を探す。

そんな小さな病院には、キチンとした霊安室がないことがある。
または、亡くなって間もないので、わざわざ霊安室に移動しないで病室から直接搬出することがある。
個室ならまだしも、相部屋だと何となく気まずい思いをする。悪いことをしに行って訳でもないのに。
死人がいないところには出てこない私、死人がいるところにだけ出てくる私は、これから病気を治して元気になろうという人(他の患者)にとっては死神みたいなものかもしれない。もしくは、縁起でもない奴?招かざる客?
したがって、作業はできるだけ短時間にシンプルに済ませるように心掛ける。遺族の心情に配慮することとのバランスを図りながら。

遺体は、ある中年男性。
体格のいい身体には濃い黄疸がでていた。
医学に素人の私は、「黄疸=肝臓病etc」→「肝臓病=肝癌・肝硬変・肝炎etc」→「肝炎=ウィルス性肝炎etc」と判断することにしている。
玄人から見ると非科学的かもしれないけど、私の場合、遺体衛生は悪い方に考えて備えるようにしている。その方が自分のリスクは低減できるから。
したがって、この黄疸男性を触るときも手袋を着用した。
外見や死因、感染の危険度に関わらず、私はどんな遺体でも最初に素手で触ることはない。
つまり、最初に触るときは、どの遺体でも手袋を着用するということ。

やりにくいのは、看護士も遺族も手袋を着用していない時。
遺体のことは看護士や遺族がよく知っているだろうから、私だけ手袋を着ける必要もないのだろうが、そこは一線引いているドライな私。
ただ、遺族の心象を害さないために、使う手袋と態度にもそれなりの工夫をしている。

この黄疸遺体の場合は、看護士も遺族も素手だった。
ただ、看護士は遺体に指一本触れることはなかった。
どこの病院にも共通して、私は遺体に対する看護士の態度や行動にはかなり注意している。
やはり、遺族や看護士が近寄らない遺体は不気味。

ちょっと注釈。
おおむね40代以上の人達はC型肝炎ウィルスに感染していてもおかしくないらしく、関係機関では検査を奨励しているそう。
40代以上というのは、学校の各種予防接種で注射針を使いまわしていた世代である。
雑学教養レベルであっても、死体業にはある程度の医学的知識が必要という訳。
精神性と根性だけじゃ務まらない。

夜中に死体とドライブしていても、特に恐怖心はない。
時には、死体を積んでいることを忘れて、コンビニに寄りそうになることもある。
そんな私でも、ひとつ注意していることがある。
ルームミラーは見えないようにしているのである。
死体がある後部荷台に妙なモノが映ったら、ちょっとヤバイかもしれないので。
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冷暗室

2006-07-14 07:40:33 | 遺体搬送
「霊安室」と聞いて何を思いつくだろうか。
言うまでもなく、そこは遺体を安置する場所。
そして、霊安室という名前がつけられた部屋がある施設と言えば、ますは火葬場が挙がる。葬儀専用式場もある。あとは、病院。

一口に霊安室と言っても、部屋の模様は各種バラバラ。
ホテルのラウンジのような豪華な所もあれば、倉庫のような御粗末な所もある。
遺体保管用の保冷庫を設置してある所もあれば、ただのテーブルをベッド代わりにしているような所もある。

これは、とある老人病院の霊安室でのこと。
「老人病院」と言われるだけあって入院患者のほとんどが高齢者。
死人がでない月はないだろう。
俗に言う、「アノ病院に入ったら、生きては出られない」と揶揄される病院の一つかもしれない。

私の仕事は、故人に死後処置を施し、自宅まで送り届けること。
病院の指示によると、「故人は霊安室の保冷庫の中。霊安室には何人かいるけど、行って見れば分かるから。」とのこと。
病院の職員も何かと忙しいのは変わりないので、遺体搬出に立ち会ってもらうことは断念。
職員の手を煩わせないように、一人で霊安室へ。

そこには遺体用の保冷庫が備わっていた。
「家庭用の大型冷蔵庫をそのまま横にした感じ」と言えば具体的に想像できるだろうか。とにかく、横長方形のでっかい冷蔵庫だと思ってもらっていい。
ほとんどの機種が一人一空間になるような構造。

私も、指定された遺体を求めて保冷庫のドアを開け、中を見てビックリ!
一人用の空間に、複数人の遺体が折り重なるように納まっていたのである。
それは、まるで一人分のカプセルホテルに5人で寝るようなもの。
それはまるで、死体のミニ山。
「うわぁ・・ヒドイことするもんだなぁ・・・」と呆れた。
全ての遺体は浴衣を着ており、判別しやすいようにその襟元には大きな字で姓名が書いてあった。
「この名前を見て遺体を捜し出せ」と言うことか・・・不満。

たまたま患者の死亡が重なって保冷庫の数が足りなくなったのだろうが、この状態を遺族が見たら見たらきっと怒るはず。
「ドライアイスをうまく使うとか、もっと他にやり方があるだろうに」と呆れるやら不満に思うやら。

折重なり合う遺体の中から、目的の人物を捜すのは往生した。
老人とは言え人間一人分の大きさと重さがある。
それらが狭いスペースに折り重なっているものだから、そりゃ大変。
「○○さぁ~ん、どこですかぁ?」と独り言が口からでてしまうのはいつもの癖。
やっと目当ての遺体を見つけても、それを保冷庫から出すのがまた大変だった。
他の遺体を「ごめんなさいね。ちょっとどいてて下さいね。」等とまた独り言をいいながら、ヨイショ!ヨイショ!と作業した。


また、別の日、別の病院。
この病院では、病室のベッドまで直接迎えに行った。
霊安室を経由しないで、病室まで行くことも珍しくない。
私はストレッチャー(7月10日掲載「死体が通る」参照)を押しているので、他の人からみても何者かがすぐ分かる。

その病院で、一階から患者さんと同じエレベーターに乗ったときのこと。
私は何も言っていないのに、その患者さんは私の目的階のボタンを押してくれた。
そして、その人は「○階に行くんでしょ」と私の行く先を言い当てた。
霊安室がある階ならまだしも、一般病棟の一般病室に行くだけなのに。
「この人、超能力でもあるのか?」と困惑していると、その患者さんは追い討ちをかけるように「今日で○日連続なんですよぉ。○階で死人がでるのはぁ。」と言い残して、自分の病室がある階で先にエレベーターを降り去って行った。

余計な最新ニュースを聞いてしまった私は唖然。
「嫌なこと聞いちゃったなぁ」とブルーになりながら、目的階の目的病室へ。
気のせいか、その階では、他の患者さんの視線がひときわ鋭く感じた。
私は誰とも視線が合わない様、あえてうつむいたまま目的の病室へ行った。
たまたまとは言え、この階で○日連続して人が死んでいるものだから、看護士も気まずいのか、神経質に私と遺体に「さっさ遺体を積んで、さっさと消え去ってくれ」と言わんばかりの促し様だった。
遺族も早く出て行くように急かされているように映った。


死体業の実態もなかなか面白いかもしれないけど、病院の裏側にも面白い(笑えない)実態がある・・・自分が知っている事はほんの一部だと思うと人間不信に陥る。
汚い物って社会的にも物理的にも人目につきにくい「裏」にあることが多いと思う。
そして、何事も裏を知らないで済めばその方が幸せなのかもしれない。
病院霊安室の出入口が冷たく暗い裏側にあるのと同じように。


-1989年設立―
日本初の特殊清掃専門会社
ヒューマンケア株式会社

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ま、間違えたーッ!

2006-07-12 14:36:54 | 遺体搬送
遺体搬送業務の話。
もう随分と前のこと、遺体を自宅から葬儀式場へ搬送する依頼が入った。
病院へのお迎えは「今すぐ」という依頼がほとんどだが、自宅へのお迎えは事前に時間を決められているケースがほとんど。
時間厳守も礼儀のひとつ。到着時間に余裕を持って連絡された住所へ車を走らせた。
当時はまだカーナビはほとんど普及しておらず、いつも縮尺一万分の一地図を使用して目的地に行っていた。それで、大きな支障はなかった。

指定された地番に依頼者名の入った表札を見つけるのは容易だった。
インターフォンを鳴らすと、家の中から初老の女性が出てきた。少し疲れた様子だった。
「故人を迎えにきた」旨を伝えると、少々怪訝そうな表情で私を家の中に通してくれた。
話がスムーズに通らないので、ちょっと変に思いながらも私は家の中に入った。

そして、仏間に通された。
てっきり、布団に寝かされた遺体があるものと思っていたのに、部屋には何もない。
よく見ると、扉の開いた仏壇の前に、お骨・遺影があった。
「?」と思った私は、「あのぉ、故人様は?」と尋ねてみた。
女性は、お骨に目をやって、「こんなに小さくなってしまって・・・」と泣きそうになった。
私の「?」は更に大きくなった。
次に何を言っていいのか分からなくて黙っていると、女性は「○日前に火葬して・・・」と、葬式の話をし始めた。
「住所は間違いないし、名字も合ってる」「なのに、故人は骨になっている」「どういうことだ?」あれこれ考えているうちに心臓がドキドキし始めた。
そして、やっと気づいた。

「ま、間違えたーッ!」
そう、私は行くべき家を間違っていたのである。

一瞬、頭が真っ白になったが、呆然としているヒマはない!
あとは、この場をどう取り繕って退散するか。
とにかく、ゆっくり仏壇の前に正座し、うやうやしく焼香をした。
冷汗をかきながら、その間にうまく脱出する策を考えた。
・・・葬儀を無事に終えた疲労をねぎらい、落ち着かれた頃に伺って焼香だけでもさせてもらいたかった旨を伝え、お骨になると喪失感も倍増するのであまり気落ちされないように励ました。
そして、「それでは、私はこれで失礼します」と深々と頭をさげて、玄関を出た。
女性の方も「わざわざ、ご丁寧に恐縮です」と言った感じで私に頭を下げた。

「故人を迎えに来た」と言って家に入っておきながら「焼香に来た」と用件をすりかえ、しかも名前も名乗らないまま退散。我ながら怪し過ぎる!

私は逃げるようにその家から離れて一息ついた。
家を間違ったことは分かったけど、今度は本当の目的地に行かなくてはならなかった。
心臓はバクバクと鼓動したまま、約束の時間を少し過ぎていることが合わさって焦りに焦った。

目的の家は、間違った家の近所で、番地も名字も全く同じだった。
確かに、同じ番地の家が数件あるような地域は珍しくない。
ただ、よりによって同番地・同姓で、葬儀を終えたばかりの家があったなんて・・・。

今度は、故人をフルネームで慎重に確認した。
時間も大幅に遅れることなく到着できて、ホッと一息。
しかし、すぐに一息なんかついている場合じゃないことに気がついた。
間違って訪問した家はこの家のすぐ目と鼻の先。
万が一あの女性が私の居る間にこの家の前を通りかかりでもしたらアウト!だ。
とにかく、回りの人影にビクビクと怯えながら急いで遺体を車に積み、ここも逃げるように車を出した。
幸い、どちらの家にもミスを気づかれずに済んだが、私は胃に穴が開きそうな思いをした。自業自得だけど。

結局、間違って行った家の女性が憔悴していたことが幸いして切り抜けられた訳だが、後から女性の方も「???」と思ったことだろう(ゴメンナサイ)。


次は遺体処置業務の話。
これも、もう随分と前のこと、遺体処置の依頼が入った。
この家にも地図をみながら出向いたのだが、その家はすぐに見つけることができた。
家族も私の到着を待っており、話はスムーズに通り、私は家に上げてもらった。

玄関から近い薄暗い和室に布団が敷いてあり、掛布団が盛り上がっていた。
「この部屋か」と、その部屋に入り、布団の前に正座した。
遺体は頭までスッポリと布団をかぶっていた。
うやうやしくお辞儀をしてから掛布団を取ろうとした時、死んでいるはずの遺体が寝返りをうった。「うッ!?」と、思わず体が反った。
と同時に遺族の女性(嫁)が後から部屋に入ってきて「そっちじゃない!そっちじゃない!」、「こっち!こっち!」と、笑いながら片手で口を押さえ、片手で手招き。

「ま、間違ったーッ!」
そう、私はお昼寝中のお爺さんを遺体と間違えたのである。

家の奥からは、「爺さんはまだ生きてるよぉー。殺しちゃダメだめだよぉー(笑)。」と、中年男性(故人夫婦の息子)の笑い声も聞こえてきた。
目当ての故人はお婆さんで、私が死人と間違ったお爺さんの奥さんだった。

遺体処置の場には、家族に集まってもらう訳だが、先程の失敗が尾を引いてかなり気まずかった。
しかし、すごく大らかと言うか寛容な遺族で、男性(息子)は、昼寝から起きてきたお爺さんに、「さっきコノ人、爺さんが死んでると思って間違ったんだぞ」と茶化しながら報告。
そして、お爺さんの方は「ああ、そうかい・・」と言って意に介していない様子。
女性(嫁)も声を殺して爆笑しているのが分かった(肩がスゴク揺れていた)。
・・・分かり易く言うと「ちびまる子ちゃん一家」に似た雰囲気の家族で、とにかく、私はそれで救われた!
一方の私はどんな顔をしていいのか分からず、ただただ苦笑いをしながらペコペコするしかなかった。
本来は、主役であるべき故人(お婆さん)の存在が薄らいでしまったが、「生前も粋な家族に囲まれて幸せだっただろうな」と冷汗をかきながら思った。

お爺さんは、冷たくなった妻(お婆さん)の額を弱々しく撫でながら、「あっと言う間だった・・・なぁ、婆さん・・・」と一言つぶやいた。
共に80歳を過ぎた老夫婦。
何度も何度も妻の額を撫でていたその姿と、その言葉が心に残った。


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