特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

忘嫌者

2015-12-24 08:54:37 | Weblog
今年は暖冬と言われているが、その言葉の通り、先の何日か極端に暖かな日があった。
その日は、春を通り越して初夏のような暖かさで、現場で作業をしていても季節に似合わない大汗をかいた。
そうは言っても、冬は冬。
暖かな日は長く続かず、寒さは戻ってきている。

そうやって冬か深まっていく中、今年も、だんだんと終わりに近づいてきた。
そして、今日はクリスマスイブ。
街は、どこもかしこもクリスマスカラーで彩られ、「Merry Christmas」の文字が躍っている。
私には、クリスマスに宴会をする習慣はないけど、街の賑わいに包まれているだけで楽しい気分になる。
これもクリスマスの恩恵だろう。

私にとって、年の瀬の宴会といえば忘年会。
忘年会は「その年の苦労を忘れるための宴会」(諸説あり)と言われているように、本来は楽しく飲むべきもの。
だけど、実際は、職場や仕事上で行われることが多く、色んな人に気を使って忘年会自体が苦労になってしまっているケースも多そう。
前ブログにも書いたように、私も、今年は、仕事上で二回の忘年会があった。
ただ、無礼講ではないものの微礼講的な雰囲気で、そんなに堅苦しい思いはしなくて済んだ。
だからか、気をつけていたつもりなのに、ちょっと飲みすぎた。
若い頃に比べると弱くなったとはいえ、もともと酒は強いほうなので「泥酔」とまではいかなかったけど、結構酔ってしまった。
ま、それでも、記憶を喪失することもなく、醜態を晒すこともなく、社交的に楽しくやれたのでよかった。

しかし、過去には、忘れてしまいたいような失態が多々ある。
友人宅、駅、タクシーetc・・・嘔吐したことも数知れず。
自分で掃除するわけでもないのに・・・
まったく、掃除する人の身になって考えると、土下座級の失態だ。
(今、何倍にもなってそのツケが回ってきてる?)
また、相手が暴力に訴えることができない公務員であることをいいことに、飲み仲間を連れていった警官に悪態をついたこともあった。
もともと小心者なので酔ってケンカをすることはなかったし、酷い暴言を吐くこともなかったけど、たまに、そんなみっともない振る舞いをしてしまうことがあった。

また、以前に書いたことがあったかどう忘れてしまったけど、恐い経験もある。
学生の頃、仲間内でも一二を争う酒豪だった私。
若輩者の集団においては、「酒が強い=カッコいい」「酒に弱い=カッコわるい」みたいな文化があり、得意になっていた。
そして、「強い!強い!」と煽てられると、人間が強いかのように錯覚し無茶な飲み方をしていた。

そんな時分、バイト先の忘年会があった。
始めて間もないバイトで、まだ親しいバイト仲間もいなかった私。
話の輪に入れず寂しい思いをするリスクもあったけど、私は、あえて参加。
積極的に人間関係をつくろうとしない今とは真逆で、「友達をつくるには絶好の機会」と考えたからだった。

ありがたいことに、会の責任者は新米の私が参加したことを喜び歓迎してくれた。
そして、他の皆も、私に気をつかってくれ、旧知の輪に入れてくれた。
それが嬉しかった私は、気分も上々に。
すすめられるまま酒をグイグイ。
当時、痩型色白だった私は酒が飲める風には見えなかったらしく、そんな私が誰よりも飲む姿は周囲にインパクトを与えたよう。
すすめられる酒の量はどんどん増えていき、調子に乗った私はそれに応えていき、泥々の深みにはまっていった。

問題はここから・・・
楽しく騒いだ二次会のカラオケがお開きになった後。
そこは、家から離れた街で飲むのも初めての街(八王子)。
自宅に帰るには電車を二度乗り継ぐ必要があった。
が、同じ方向に帰る人(面倒をみてくれる人)は誰もおらず。
最初の駅までは誰かと一緒だったのだが、その後は一人自力で帰途につかなければならなかった。

翌朝、私は、目覚めるとしばし呆然。
ヒドい二日酔いに襲われたのと同時に前夜のことが甦り、周囲をキョロキョロ。
すると、そこは見覚えのあるところ・・・つまり自宅。
相当の千鳥足だったはずだが・・・どうやら私は無事に帰還したようだった。
が、しかし、どこをどうやって帰ってきたのか何も思い出せず。
一人で電車を乗り継ぎ、道を歩いて帰ってきたことが信じられず、
「夢か?」
と思いながら、自分の中で、頭痛と倦怠感の原因とその後の動向を探った。
しかし、いくら考えても、二次会が終わって駅の階段を上ったところから翌朝目覚めるまでの記憶が甦ってこず。
唯一思い出せたのは、二度目の乗換駅で嘔吐したこと。
ホームのベンチに座って嘔吐していると、その前を「汚ねぇなぁ!」と吐き捨てるように言いながら若い男女が通り過ぎていったことを思い出した。
と同時に、それまで味わったことのない恐怖感が襲ってきて、心臓を大きく鼓動させたのだった。

結局、二日酔いが治っても、それ以外の記憶が戻ることはなかった。
そして、そのことは私に強烈な恐怖感を覚えさせ、それ以来、私は、酔うほど飲むことはあっても、記憶を失くすほど飲むことはなくなった。
そして、その経験は、中年になった今でも生きている。


「お礼に一杯・・・」
数は少ないけど、たまに、そう言ってくれる依頼者がいる。

現場の状況や依頼者の要望によるけど、私の仕事では、依頼者と長い期間関わることになるケースもある。
特に、ハイレベルの消臭消毒や内装改修工事を請け負った場合はそう。
となると、自ずとコミュニケーション量は多くなる。
そうすると、自然とお互いの気心が知れてくる。
その結果として、「一杯どう?」となるのである。

もちろん、
「現場での色んなエピソードを聞いてみたい」
「珍業に従事する人間の話を聞いてみたい」
等といった好奇心もあるのかもしれないけど、それでも誘ってもらって悪い気はしない。
しかし、私は、その気持ちだけありがたくいただき、実際に付き合うことはしない。
日時が合わないことを口実に丁重に断っている。

ただ、実際の理由は別なところにある。
それは、酒に酔うことによって表れる人間性(悪性)。
酔うと、感情や欲が露出する。
普段は、理性良心によってきれいに包み込まれているものが剥き出しになる。
私は、軽薄な人間だから、ちょっと褒められると調子に乗ってしまうはず。
そして、ちょっと煽てられると、すぐに高飛車になるはず。
つまらないことを自慢したり、くだらない話を偉そうに喋ったり、挙句の果てには泣いてしまうかもしれない。
また、相手が女性だったりしたら、イケない方へいってしまうかもしれない。
どちらにしろ、醜態を晒すことになりかねない。
つまり、 “忘れてしまいたい過去”をつくらないために予防線を敷いているのだ。


幸い、今年、「忘れてしまいたい」と思うほどの出来事はなかった。
もちろん、一般の人が見たら仰天失神してしまうような光景には何度となく遭遇したし、過酷な作業に従事した数も多々ある。
確かに、どれもこれも、きれいな光景ではなかったし、愉快な作業でもなかった。
記憶に残しておきたくないと思っても不自然ではないような出来事ばかりだった。
だけど、実際に、「忘れてしまいたい」という気持ちは抱いていない。
マイナスの出来事でも、人々の汗と涙と苦悩と想いがその底を持ち上げ、私の心に落ち着く頃にはプラスに転じているのだろう、それが、私の死生観を上向きに育んでくれているような気がするから。

忘れてしまいたいことって、ほとんどはイヤな過去だと思う。
失敗したこと、後悔していること、恥をかいたこと、苦痛だったことetc・・・
しかし、実は、“忘れてしまいたいこと”の多くは“忘れてはいけないこと”“忘れないほうがいいこと”ではないだろうか。
苦い思い出は、自分を律する教訓として、自分を導く教本として、自分を学ばせる教師になるから。

イヤなことを忘れて、イヤなことから逃げて生きられるのなら、こんな楽なことはない。
それができないから人生は苦しい。
それができないから人生は辛い。
しかし、人間を成長させるため、強くするため、賢くするための種は、「悩」「苦」「痛」「悲」「哀」等といった陰の性質。
イヤなことだけど、「爽」「楽」「快」「嬉」「喜」等といった陽の性質ではない。
そして、その芽は、「格闘」「忍耐」「努力」「挑戦」。
そうして採れる実が、人間を養い、人生を輝かせるのである。

実を収穫するチャンスはたくさんある。
自分を見つめてみれば、そのチャンスがたくさん与えられていることがわかるだろう。
だって、生きることに苦しさや辛さを覚えることは多々あるから。
しかし、自らそのチャンスから目を背け、境遇ばかりを嘆いていないだろうか。
自分に言い訳をして、自分を甘やかしていないだろうか。
心のどこかで、それが自分のためにならないことがわかっていながら。

忘れてはいけない・・・
楽しい人生は、遊興快楽のみでつくられるものではない。
幸せな人生は、幸福のみでつくられるものではない。
遊興快楽欲を手放すことで採れる楽しさもある。
幸福欲を手放すことで採れる幸せもある。
・・・人生という荒野には、そうしなければ収穫できない喜びと希望がある。

どれだけ雨が続いても、どれだけ夜が長くても、人生の冒険者として、このことだけは忘れたくないものである。



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