特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ブラックホール

2024-07-06 10:58:52 | 腐乱死体
便所の話。
そこは「お手洗い」とか「トイレ」という呼称は似合わない、いかにも「便所!」という感じの現場だった。
発見が早かったためか、汚染は軽いもの済んでいた。
悪臭も腐乱臭なのか便所臭なのか分からないくらい。
それよりも、私はその便所の形態に驚いた!
水洗式ではなく、いわゆるボットン便所。
しかも、私が知るボットン便所よりはるかにハイグレードで古風なモノだった。


ほとんどの人が「ん?どんな便所だろう?」と、その便所の形態を理解できないと思うので、詳しく説明しておこう。
地面に深さ1.5~2.0m、直径1.5~2.0mくらいの穴を掘る。
その上に床板を敷き、屋根と囲いをつける。
床板に直径20~30cmの穴を開ける。
床板に和式便器をくっつけて完成。
あまりにシンプル過ぎて、これ以上詳しく説明できない。

大きな口を開けた和式便器を覗き込んでみると、下は真っ暗のブラックホール状態。
深くて大きな穴が開いているらしかったけど、真っ暗で何も見えない。
それは、悪臭を忘れるくらいの不気味さがあった。
そして、小心者の私には、薄くて古ぼけた床板に乗る勇気はなかった。
床板には悪いけど、その風貌からは強度を信用する訳にはいかなかった。
信用性が乏しいこの床に乗るということは、一種のロシアンルーレットみたいなもの。
万が一にも「バキッ!」といってしまったら、アウトーッ!
「故人はいつもこの床板に乗って用を足していたのか・・・勇気あるなぁ」と感心してしまった。

しかし、シンプル便所と故人の勇気に感心してばかりもいられない。
これを何とかしなきゃならないのが私の仕事。
トイレや風呂で死ぬ人も少なくないので水回りの始末も慣れてはいたが、ここまでシンプルな便所は見たことがなかった私。
「汚い」というより「怖い」という気持ちの方が大きかった。
掃除するより解体した方が早いと判断して、依頼者に相談。

汚染されているのは床板の一部と便器が少し。
もう誰も使わない便所なので解体することで話はまとまり、すぐさま作業にとりかかった。
どうしてもブラックホールへの恐怖心が抜けない私は、恐る恐る床板の隙間にバールを差し込んだ。
驚いたことに、床板の一枚一枚は固定されている訳ではなく、細い梁にポンとのせられているだけだった。
「えッ?こんな簡単なもんだったの?」
おかげで、便器も床板も簡単に取り外せて作業的には楽だった。

そして、床板を外すと底の穴が露になった。
「これが肥溜というヤツか!」
ずっと以前から言葉では知っていた肥溜、その本物を生まれて初めて見た瞬間だった。
その光景にはちょっとした衝撃を受けた。
そして、妙に感心したというか感銘を受けたというか・・・人が生きることの凄さのようなものを感じた。
肥溜に、生きるエネルギーみたいなものを感じる私は変?・・・やっぱ変だろうな(苦笑)。
そしてその中ではウジが気持ちよさそうに泳ぎ、ハエが気持ちよさそうに飛んでいた。
彼らは、いつも私の行く先々に先回りする賢い連中だ(笑)。

そして、肥溜の臭いは鼻にツンとくる刺激臭で、「アンモニアの影響か?糞尿が熟成されるとこんな臭いになるのか!」と、またまた感心してしまった。

ちょっと余談。
下水道が完備されていな地域では、行政による糞尿回収サービスが行われている。
たまに、その車を見かけることがあり、車輌後部に表記してある積載物欄に「糞尿」と書いてあるのが印象的。当然、それに従事する人もいる。
子供の頃の風説に、その仕事に従事する人のことを言ったものがあった。
「身体にウ○コの臭いが染みついていて、風呂に入ったくらいでは臭いは落ちない」というもの。
実際にその仕事に従事する人と接したことがないのでハッキリしたことは分からないけど、
多分それはガセ。
濃い!腐乱臭が着いた私でも、ユニフォームを着替えて風呂に入れば完全に臭いは落ちるから。
変な偏見は持たないで、そんなことを言っている子供達がいたらキチンと否定しておいてね(笑)。

私を含めて、現代の男どもは軟弱になっているような気がする。
歳のせいもあるのかもしれないけど、最近の若者は、外見からは性の違いが分かりにくくなってきているような気もする。
最近の家庭は、ほとんどが水洗・洋式。そして、小でも便座に座る男が増えているらしい。
筋肉に負担が大きい和式便所にまたがって、心もとない床板に勇気を持って身体をあずけていた故人は、この有り様を憂いているかもしれない(完全な想像)。
男として、もっと強くなりたいものだ。

しっかし、便所ネタでここまで語れる私ってウ○コ臭い・・・もとい、ウサン臭いヤツかもね。


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液体人間

2024-06-11 05:32:19 | 腐乱死体
  • 今回の表題を見て、これ以降にどんな文章が続いていくのかは容易に想像できると思う。
食事中の方、そしてこれから食事をしようと思っている方は、一旦このページを閉じて食事を済ませ、一息ついてからあらためて読んだ方がいいかもしれない・・・イヤ、読まない方がいかもしれない(うまい誘い方でしょ?)
読者に避難するチャンスを与えるために、少し行間を空けておこう↓



期待通り?今回は腐敗液のお話。
人間が腐乱していく過程で液状のなることはご存知の通り(残念ながら、知ってしまったね)(6月30日掲載「お菓子な奴」その他参照)。

この腐敗液が放つ悪臭にはモノ凄いパワーがある(6月15日掲載「臭いなぁ」その他参照)。そのパンチは鼻にくるのは当然、それ以上に腹をえぐってくる。
一般の人には「臭い」ということは分かっても、「腐乱死体の臭い」ということは分からないらしい。ま、当然と言えば当然か(笑)。
私は、かすかな臭いでも、ただの悪臭と腐乱死体臭とを区別することができる(自慢にもならないけど)。
たま~に、街を歩いていると、それと似た臭いが漂ってきて「ん!?」と思うこともあるが(結構怖いでしょ)、仮に自分で腐乱死体でも発見しようものならやっかいなことに巻き込まれる可能性が高いので、それ以上の深追いはしないことにしている。
冷たいかもしれないけど、発見したとしても既に手遅れなのは確実だしね。

腐敗液の原料は大きく分けると脂と血肉の二つに分かれる。
脂は黄色がかったもので、濁ったオリーブオイルみたいな感じ。
時間経過とともに、色が濃くなり粘度が増してくる。
血肉は赤茶色で、チョコレートに少し赤味を加えてみたいな感じ。
時間経過とともに、黒ずんで固くなってくる。
フローリング床等で薄く広がって乾燥した場合は、薄く伸ばした飴のようにパリパリになって剥がれる。
また、それが厚い場合は、コーヒーの出し殻に脂を染み込ませ粘性を足したような感じになって残っている。
余談だが、どうも私は、食べ物に例えるのが好きみたいだ(最近、自覚)。
食は生に直結したものであり、死と対極にあるものだからかもしれない。

故人の死んだ場所で、この腐敗液痕の態様も異なる。

畳やカーペット等、浸透するもの上だと当然染み込む。
深刻なケースだと、畳を通り抜け、床板から梁まで汚染されている。
ここまでいくとリフォームも大掛かりになり、アパート・マンション等の集合住宅の場合は大変なことになる。
大掛かりでも梁で済めばまだ何とかなるが、基礎コンクリート部分まで汚染されていると、もうお手上げ。
さすがに、建築基準法に違反した改装はできないので。

フローリングやビニールクロス等、浸透しないものの上だと当然溜まる。
「オエッ!」ときやすいのはこっちの方。
何故なら、液体になった人間を拭き取らなければならないから。
しかし、拭き取りで済めばまだマシな方。
汲み出し、吸い取りレベルまでいくと、経験を積んでいてもかなりツライものがある。
こういう現場では、脳の思考を停止させ、「この液体は元々人間だった」という現実を完全に消去しないと作業ができない。
強引に自分の感覚をコントロールし、液体を単なるモノとして捉える。
しかし!ちょっとでも油断すると「液体=人体」という事実が頭をよぎる!
すると、たちどころに「オエーッ!!」とくるわけである。

ちなみに、どっちがいいかと言われると難しい(普通はどっちもイヤーッ!)
浸透性のものだと清掃作業は楽な分、ゴミ処分が大変。
不浸透性のものだと清掃作業が大変な分、ゴミ処分は楽。
どっちもどっちだし、「どっちがいい?」なんてバカな質問をし合うのは仲間内だけ。

特に、気温の高い夏は人間が液体になりやすい。
チョコレートやアイスクリームと同じように・・・おっと、また食べ物に例えてしまった。
この季節は、ただでさえ食欲が減退しやすいのに、このブログでもっと食欲を落としてしまったら申し訳ない。


我々の肉体は放っておくと液になり、そして消えていく。
髪と骨と爪と、思い出だけを残して。
そしてまた、思い出も時間とともに消える。
人生は夢幻なり(しんみり)。



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金魚すくい

2024-06-03 05:53:42 | 腐乱死体
腐乱現場でやる仕事は色々ある。
除菌消臭から家一軒丸ごとの解体処分まで、依頼される内容な多様である。
その中でも最も多いのが、家財道具・生活用品の全て一式を撤去し除菌消臭する作業。
ついでに内装工事まで依頼されることも多い。撤去する中身の主役は、もちろん腐乱死体に汚染されたモノである。


今回も、その様な依頼だった。
独り暮らしの故人は普段から病気がちで、一人で家にこもっていることが多かったという。

フローロングのリビングで倒れ、そのまま腐ってしまっていた。
汚染家財をはじめ、部屋にあるものは全て回収撤去した。作業中は作業に集中して、黙々とやることが多い。ほとんどの物を撤収してから、ふと気がついた。
リビングには水槽が3つあり、中には色違いの金魚が数匹づつ泳いでいる。

何日も前から(故人が死んでから)、餌も与えられてなかっただろうし、電気が止められたため酸素を送る機械も停止していたはず。
なのに、一匹も死なずに、全員(全匹?)生きていたのである。ちょっと驚いた。


勝手に想像すると、独り暮らしで病弱な故人にとっては、犬猫を飼うのは負担が多き過ぎる。金魚だったら、肉体的負担もないし、水槽はインテリア的にもお洒落だし、水の中を泳ぐ魚を見ると気分が癒されたのではないかと思う。


しかし、この金魚達。
自分達を可愛がってくれていた人が目前で倒れ死に、腐っていく様子が水槽の中から見えていただろうか(位置関係で言うと見えていたはず)。
仮に、金魚にも感情・思考力があると仮想してみようか。
彼らは飼主が死んで腐っていく様を見ていた訳である。しかも、腐乱していく様子が目の前で見えてしまっていては辛い!
自分達を愛してくれた人を失って、悲しくて寂しかったことだろう。

しかし、彼らは、飼主の死を悲嘆しているばかりもいられない。
何故なら、餌を与えてくれる人もいなくなり、おまけに酸素供給機もストップ!「死」は他人事ではなく、自分達もその直前の状況に置かれてしまったからである。

「この状態で、自分達はいつまで生きられるのだろうか・・・」

と不安はつのるばかり。しかし、一向に誰かが来る様子もない。
どこから現れたのか、倒れたままの飼主にはウジがたかり始め、こともあろうに飼主の身体を食べ始めてしまった。
飼主にたかったウジ達は丸々と肥えてハエになっていく。愛する飼主が餌にされて(悲)。

その間、飼主の身体はバンバンに膨らんだかと思うと、今度は液体を流しながら溶けだした。
ハエがまたウジを産み、ウジがまたハエになり、みるみるうちに増殖していく。
一方の自分達は、だんだんと息苦しくなり、空腹感も襲ってきはじめた。
極限状態に置かれた金魚は、何のなす術もなく、ただただ助けが来るのを待つしかなかった。助けが来るのが先か、自分達が死ぬのが先か・・・ノイローゼ寸前。


何日もして、やっと誰かが来た。
ずかずかと入り込んで、なにやら騒いでいる。そのうち、飼主の身体は運び去られていき、腐敗痕だけが残された。

「やっと助けが来た!これで助かる!」

と喜んだのもつかの間、誰も、自分達に気づいてくれないまま、いや、気づいても気づかないフリをしたまま居なくなってしまったのである。

その後、何度かは騒々しく人の出入りがあったが、結局、誰も自分達のことを気に掛けてくれる人はいなく、人間という生き物は冷酷だということが初めて分かった金魚達であった。
飼主があまりに優しく愛情深かったため、金魚達は、全ての人間は愛情深く優しいものだと大きな誤解をしていたのである。
人間が冷たい生き物であることを知ってしまった金魚達は、もう生きる望みを失った。
あとは、酸欠死か餓死かの違いがあるだけで、黙って死を待つしかない金魚達。


そこに現れたのが、彼等の救世主?特掃隊長!(自分で書いてて恥ずかしい)

私は、最後に残った水槽を覗いてみて、金魚が生きていること驚きながら困惑した。
ゴミとして捨てる訳にもいかないし、そのまま置いていくと依頼者との約束を破ることになる。

三つの水槽はそれなりの大きさで、それなりの器具がついている。
とても、そのまま運んで行けるようなものでもなく、思案した。
当然、結論は「救う」しかない。それよりも、「どうやって救うか」が要だった。
とりあえず、金魚達を多少の水と一緒にビニール袋に入れて、それを運転席に乗せて車を走らせた。ここまできて、酸欠とかで死なせたらもともこいうもない。とにかく、急いで走った。

目的地は、とある公園の池。人目を避けるように、金魚達を池に放してやった。
この私の行為は、自己満足に値するものだったが、公共の池に勝手に魚を放すことは犯罪行為になるんだろうか?どちらにしろ、その時は調べているヒマはなかったけど。


縁日の露店によくある「金魚すくい」。
私は、子供の頃からド下手なもんで、いつの頃からかチャレンジさえもしなくなった。
でも、今回の金魚救いは上手にできた。



善い行いをすると気持ちがいいもんだ。
晩酌もいつもより美味く、ツマミの刺身もうまかった!


トラックバック 2006/07/04 08:19:53投稿分より


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2024-06-02 05:24:20 | 腐乱死体
人は必ず誰かの子であり、親がいる。

また、とある腐乱現場。亡くなったのは独居の中年男性。死後、かなりの時間が経過しているようだった。例によって、遺体は警察が持って言った後で、腐乱痕と異臭が残されていた。
もちろん、私とは旧来の喧嘩友達であるハエ君とウジちゃん達もたくさん集まっていてくれた(笑)。


遺族は、故人の両親と故人の姉妹らしき二人の4名。見積時も作業時も4人とも現場に来た。両親はもうかなりの年配で

「おじいさん、おばあさん」

という感じ。
姉妹達(中年女性)は見積時も作業時も玄関から中に入ることはなく、ハンカチでずっと鼻口を押さえ、嫌悪感丸出しの表情で、私の作業を遠めに眺めていた。

それは、どう見ても、

「最初から来たくなかった!」

という感じ。
明らかに、現場に居たくないという雰囲気をひしひしと感じ、気のせいか、やり場のない不満を私に向けているような威圧感を感じた。
そんな雰囲気じゃ、こっちこそいい気分がしないので、

「そんなに居たくないなら、立ち会ってもらう必要はないんだけどなぁ」

と思いながら、その一家の会話を聞いていると、両親(特に父親)が強制的に姉妹達も現場に来させたみたいな様子が見受けられた。
父親(おじいさん)からは、

「兄弟の死の実態を、身内としてシッカリ見て置け!現実から逃げるな!後始末は我家の責任なんだ!」

と言わんばかりのガンコ親父的な雰囲気を感じた。



当人の父親と母親は、私の作業の邪魔にならないように、部屋の中に入って私の作業をずっと見ていた。臭いし、ホコリっぽいし、何より不衛生なので、

「外で待っていてもいいですよ」

と声を掛けたが、

「大丈夫ですから」

と言って外に出ようとしない。
何事においても浅はかな考えが第一にくる私は、

「貴重品がでてくるかもしれないから、チェックのために居るのかなぁ」

と疑心暗鬼になりながら黙々と作業を進めた。


すると、いつも間にか父親は、目を閉じ合掌してなにやら経文のようなものを唱え始めた。
てっきり

「亡くなった息子の冥福を祈ってるんだろう」

と思った。
しかし、違った。
父親は、明らかに私に向かって拝んでいたのである。作業であちこちと動いているうちに、父親が常に私の居る方へ向きを変えながら合掌・読経し続けていることに途中で気が付いたのである。
一体、何故?
ひとしきりの読経が終わると、父親は

「この作業にこんな若い人が来るとは思っていなかった。貴方が何故この仕事をしているかは分からないが、社会から嫌な思い受けることも少なくないでしょう。」

と私に言い、傍の妻には、私のことを指して

「死んで極楽に行けるのは、この人のような人間なんだよ。」

と言った。


妻は

「・・・そんなこと言ったら失礼よ!」

と返した後、私に

「縁起でもないことを言ってスイマセン・・・。」

と謝罪。


それでも父親は、その類の話をやめず、私への労い・感謝の気持ちと、親としての無責任さを恥じるような話を続けた。
ストレートな言葉から、その謙虚で誠実な人柄と責任感の強さがちゃんと私に伝わった。


この両親は、自分の子供がこんなこと(腐乱死体)になって色々な人に迷惑を掛けてしまっていることを重く受け止め、親として、なすべき責任を少しでもまっとうしようとしているのだった。だからこそ、悪臭漂うおぞましい現場に一緒に入っていたのである。
これには、逆に私の方が敬服。

息子を亡くした悲しみを抑えて、親として責任をとることを第一に考えるとは・・・こんな責任感の強い人にはなかなか出会えないものである。
片や、姉妹達は相変わらず嫌悪感丸出しで、玄関外で仏頂面(そのギャップに笑)。

惨めな気持ちになりやすいこの仕事に、強力なカンフル剤を打たれたようで、ありがたかった!嬉しかった!

ただし、人から拝まれるなんてめっそうもない!さすがに、それには恐縮しまくった!
ただの仕事として割り切るところは割り切って、時にはふざけた邪心を持ちながらやっている愚か者の私をそこまで高評してくれるなんて。

しつこく書いているように、一般には嫌悪されるこの仕事・・・父親の言葉に涙が零れ落ちて上を向けない私だった。
床の腐敗液を拭きながらうつむいたままの私に、

「どうしました?大丈夫ですか?」

と母親が声を掛けてくれた。
父親の言葉が心に沁みて泣けていたんだけど、

「ちょっと薬剤が目に染みちゃいまして・・・」

とごまかす私だった。



「親」と言えば・・・
6月6日掲載の「金がない」で保留になっていたその後の結末を追記しておこう。
代金は、故人の父親が約束通り支払ってくれた。そして、後日、丁寧な礼状と贈答品が送られてきた。

自分のケツを他人に拭かせるような親が目に付く昨今、まだまだちゃんとした親も多く居ることを気づかされ、少しホッとした。
同時に、

「結果オーライ」

と言ってしまえばそれまでだが、この仕事は代金未収のリスクを背負ってでも施行した判断は正しかった(良かった)と思った。



いくつになっても親は親、子は子。
親のある人、子を持つ人。親には孝行し、子には愛情をタップリと注ごう。



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ハグ

2024-05-22 05:50:58 | 腐乱死体
ある不動産会社から依頼が来た。過去のその不動産屋:担当者からの依頼で仕事をやったことがあり、お互い全く知らない間柄でもなかった。

現場は少し古いマンション。近隣の住人が

「異臭がする」

と言ってきたらしい。不動産業も長年やっていれば、住民が「異臭がする」と言ってくれば腐乱死体かゴミ屋敷かどちらかしかないと判断する。あとは、せいぜい排水溝の問題くらいである。

今回は、腐乱死体だと判断したらしく、

「ドアを開錠するので立ち会ってほしい」

という依頼だった。


現場に行ってみると、やはり腐乱死体の異臭が漂っていた。異臭の原因は腐乱死体に間違いない!
いつも通り手袋をして、ドアを開けるため鍵を預かった。

手袋を着けている間、一応、ドア回りを見回したら、ドアの淵が妙に湿っていて、よく見ると隙間にかすかにウジの姿が見えた。


「遺体は玄関ドアから近いところにあるな」

と内心警戒しながら、何となくイヤーな予感がしたので、

「第三者が最初に開錠して、後々に法的な問題が発生したらマズイから」

と、不動産屋に鍵を返して、不動産屋にドアを開けてもらうことにした。

「あ、そうですかぁ・・・」

と言いながら、少し嫌そうにしながら不動産屋は鍵を受け取った。不動産屋が嫌そうにしたのは、私だけが着けている手袋が気になったからであって、中の状況に不安感があってのことではなかったと思う。

渋々、その不動産屋は開錠・ドアを開けた・・・その途端、腐乱死体が不動産屋に抱きつくように被いかぶさってきたのである。
死体は、ドア金具に紐を掛けて首を吊ったまま腐乱していたのである。

不動産屋は

「ぎゃーっ!!!!!」

と悲鳴をあげて倒れこんだ。そして、その上には腐乱死体が!私も驚いて

「ウワ~ッ!!」

と声を上げて後ずさりしてしまった。


もう、ビックリして頭の中が真っ白になった。
とりあえず、この場は何とかせねば!不動産屋は自分にのしかかってきた遺体を押し退けて言葉にならない嘆きの奇声を発していた。それはそれは悲惨な状況だった。

まずは警察を呼ぶべきなのに、不動産屋は

「先に俺を助けてくれ!」

という状態に。それでも警察に一報いれてから、消毒剤を使いながら汚れた身体を清拭し、汚れた服を脱がせ、私の着替用の予備作業服を着せてあげた。不動産屋の服や身体には腐敗液がベットリ着いて、とっさに遺体を押し退けた手は、それこそ腐乱死体の手のように汚れていた。

近隣の人も集まってきて、大騒ぎになった。
そのうちやって来た警察に、その場はバトンタッチして一時退散。

「もし開錠を自分がやっていたら・・・」と思うと・・・たまらん!
よく「虫の知らせ」と言うが、ウジの知らせで助かった!私であった。



ウジさん、いつもアナタを虐めている私を助けてくれて、どうもありがとう!




トラックバック 2006/06/21 09:26:53投稿分より

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臭いなぁ

2024-05-16 05:42:15 | 腐乱死体
「腐乱死体の匂いって、例えて言うとどんな臭い?」

と尋ねられることがある。返事に困る。何故なら、何にも例えられない臭いだからである。そもそも、臭いだけじゃなく、音・味・色など、五感で受けるものを代替的に表現し伝えるのは難しい。特に腐乱死体の臭いなんて、世間一般に似たような匂いがないからなお更である。とにかく、腐乱死体は臭い!としか言えない。

腐乱死体の臭いに興味のある人は割と多く居そうだが、どんな臭いなのか具体的に伝えられなくて残念だ(申し訳ない)。ちなみに、ウ○コや腐敗ゴミどころのレベルじゃないんで。
多分、代替物をもって腐乱死体の臭いを作ることも無理だと思う(やってみる意味もないが)。自分で試作して「こんな臭いでどうか?」とくれぐれも送って来ないように。


ちなみに、遺体からの臭いには死臭というものもある。私は死臭・腐敗臭・腐乱臭をレベル毎に分けて捉えている。通常の遺体は死臭がする。これも独特の臭いだが、我慢できないレベルではない(スタッフの中には死臭好きもいる)。腐敗臭はだいぶ悪臭なので、我慢できない人が大半であろう。腐乱臭ともなると、ほとんどの人がノックダウンだ。吐く人もいるかもしれない。

私の場合は、嗚咽は日常茶飯事で喉まで上がってきたことは何度かあるが、口から外へ吐いたことは一度もない。もともとこの仕事に向いていたのだろうか?

やはり、私には、慣れと防臭マスクが一番の防御となっている。防臭マスクといっても、消防や警察が使っているような高価で高品質のマスクではないので、着けてないよりはマシという程度のものである。

昔の友人に、

「トイレでウ○コをする時は口で息をすればいい」

という奴がいた。鼻に臭いを感じさせない工夫なのだろうが、どうも納得できない。特に特殊清掃の現場では、とても口で息をする気にはなれない。科学的な根拠はないけど、身体にスゴク悪いような気がするから。この気持ち分かるかな?分かるでしょ?


口で息をするくらいなら、鼻が壊れてもいいから鼻で息をしたい。これからも。


トラックバック 2006/06/15 09:34:13投稿分より

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宝探し競争

2024-05-09 05:33:32 | 腐乱死体
腐乱死体で発見される故人は、やはり独居が多い。
前ブログにも載せたが、独居でない珍しいケースもあるが。

「お金持ち」とまではいかなくても、一般的には誰しもそれなりの御宝を持っているものである。生命保険証券・株券・預金通帳・現金をはじめ、新型のAV機器やブランド品などである。

普段は疎遠・不仲にしていた遺族達も、こうおう時はハイエナのように集まってきて、宝探しを始める。臭くて汚い現場でもお構いなし。ビニールの簡易カッパ・ビニール手袋・マスクを着用して、人よりも先に御宝を発見すべく、欲望を剥き出しに目の色を変えて探しまくるのである。

そうなれば、身内と言えども競争相手・ライバルである。さながら、死体に群がるハイエナのようである。遺族がハイエナなら、私はウジかもしれない?が・・・(苦笑)

その無神経さには、苛立ちを覚えるくらいである。でも、これが人間の悲しい性か。
可笑しいのは、せっかく発見した「御宝」が「汚宝」になってでてくることである。

例えば、高級ブランド品に腐敗液やウジがついていると、

内心「ざまぁ見ろ」と思ってしまう。

遺族は、そういう品物を私にきれいにして欲しそうにするが、

「壊したら責任とれないし、それは私の受けた仕事の範囲に入っていないから」

と断る。

「せっかく御宝を探しに来たんだから、汚宝でも喜んで持って行けよ!」

と思う。


生前は疎遠にしていながら、本人が死んでからそそくさとやって来て、御宝だけを頂戴して帰ろうなんて虫が良すぎる。
そういう人達は、欲が強いばかりか猜疑心も強くなっている。

「死んだ故人も悔しい思いをしているかもな」

と思いながら、私は私で特殊清掃の作業に励むのであるが、その私の動きにも注目してくる。


私は、故人の御宝を盗んだりはしないよ。汚い仕事はしていても、心までは汚したくないと思っているから。


トラックバック 2006/06/08 投稿分より


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香りのソムリエ 

2024-04-29 09:59:12 | 腐乱死体
  • マンションの大家さん依頼があって現場へ出掛けた。間取りは2DKで最上階の角部屋。

腐乱死体が発見・処理されたのは約一年前で、あとはそのままの状態で一年間も放置され
ていた現場だった。
一年間も手を入れずに放置しておくなんて、かなり珍しいケースである。隣近所はもちろん、大家さんもそんな物件を抱えたままで気持ち悪くなかったのだろうか、と不思議に思った。
同時に「一年経過した腐乱臭は、どんな臭いになっているだろう」と興味を覚えた。

「腐敗臭の中でも、めったに嗅げない匂いに違いない」といそいそと出掛けた自分に苦笑い。

誰もが忌み嫌う腐乱死体の発見現場に喜んで出かけて行く訳だから、我ながら、つくづく神経が麻痺してきていると思う。
現場に到着して、玄関を入ってみたら、全く期待外れ?で、いつもの腐敗臭と変わりはなかった。一年間熟成された腐敗臭がどんな臭いか期待していたのに・・・残念(バカな自分)。
逆に、一年経っても、悪臭度が全く低下しない腐乱死体のスゴさを感じた。


ただ、時間経過を思わせたのは、腐敗液を吸ったフローリング床がめくれ上がっていたことと、原因不明の木グズのような粉が床にたくさんあったことくらい。
腐敗当時はウジも大量に発生したはずだが、みんなハエになって飛んで行ったのだろう、ウジ・ハエは一匹もいなかった。どこかに飛んで行ったハエは、またどこかの死体に卵を産んで、子孫を増やしていることだろう。そして、その子孫達と私はまたどこかの現場で再会するかもしれない。

「ハエさん、お手柔らかに頼むよ。」

亀や鮭が故郷に戻ってきて再会するのとは次元が違い過ぎて、自分でも可笑しい。


トラックバック 2006/05/29投稿分より


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家庭内別居

2024-04-27 16:07:01 | 腐乱死体
閑静な住宅街の大きな家。豪邸といってもいいくらい。腐乱死体は離れの小部屋にあった。


依頼者は故人の夫。広い敷地内の大きな家で、家庭内別居でもしていたのだろうか、妻が腐乱死体で発見されるまで異変に気づかなかったなんて。

依頼者はとにかく近隣への世間体を気にしていた。私が行ったときは、まだ妻の死を近所には知らせていないようだった。とにかく「近隣へ悪臭が漏れないように。」「清掃業者が入って作業していることを気づかれないように。」ということを重々念押しされて作業。
したがって、いつも使っている業務用車輌ではなく自家用車風の車で、機材の持ち運びも回りの目を気にしながらコソコソと。ユニフォームもスーツにネクタイ姿での作業になった。非常にやりにくかったし、自前のスーツに腐敗臭と腐敗液が付着するなんて我慢ならなかった。それでも、依頼者のたっての願いだから仕方がない。

更には、悪臭が外に漏れるのを防ぐために、戸や窓も締め切ったまま。
鼻が壊れそうになりながら、密室で清掃作業をすすめた。身体はもちろん、自前のスーツもタップリ腐敗臭が付着して、悲しかった。
決して高いブランドスーツではないけど、量販店で数万円するスーツだ。まさか、
この特殊清掃作業で着ることになるとは・・・

料金にスーツ代もプラスすればよかった。


トラックバック 2006/05/27 投稿分より


-1989年設立―
日本初の特殊清掃専門会社
ヒューマンケア株式会社
0120-74-4949


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どうすりゃいいんだよぉ

2024-04-26 09:38:56 | 腐乱死体
小規模の賃貸マンション。依頼者はマンションオーナー。いつもの調子で現場検証・見積りへ出掛けた。


玄関ドアを開けるといつもの悪臭。豊富な現場経験を自負していた私は、いつものノリで室内へ。「マスクとかしなくて大丈夫ですか?」とオーナーは気遣ってくれたが、「現場見積でいちいちマスクしててもきりがないんで・・」と余裕をかましていた。

故人はトイレで亡くなっていたと聞いていたので、トイレのドアを開けてみた。
そこで仰天!ユニットトイレだから、腐敗液が床に染み込んだり隙間から漏れたりしていないものだから、人間の容積がそのまま液体になったくらいの量の腐敗液が便器と床に溜まっていたのである。これにはさすかに驚いた!正直「どうすりゃいいんだよぉ」と思った。いつものように、作業手順が即座に組み立てられなかったのである。
私は、吐きそうになる現場は少ないのだが、ここではいきなり「オエッ」ときた。

この現場は、トイレユニットごと入れ替え必要があったが、まずは、その腐敗液を何とかしなければならなかった。
通常は、吸収剤+拭き取りで処理できるのだが、ここはそうはいかなかった。そんなレベルではなく、汲み出す必要があった。この汲み出し作業が辛かった!小さい容器を使ってトイレ床の腐敗液を少しずつ汲み出していくのだが、汲んでも汲んでもなかなか終わらなず、気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がない。なにせ、液体人間を汲み出してる訳だから。腐敗液の中に落ちていたメガネが人間的なものを感じさせ、余計に不気味さを増長させた。

これが腐敗液だと思うと、直ちに「オエッ!」とくるので、何も考えないように、心を無にしてやるのがこの仕事のコツである。


この仕事は、死体の腐乱臭が身体や衣服をはじめ、鼻にもばっちりついてしまうのは言うまでもない。もちろん、そのまま家にも帰れないし、どこかの店に立ち寄るのもはばかられる。そんな仕事なのである。


トラックバック  2006/05/26 投稿分より

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特殊清掃専門会社
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妙な同居人

2024-04-20 10:15:54 | 腐乱死体
現場は古い二階建の一軒家。遺体は一階の角部屋で腐乱しており、その臭いはいつもの悪臭のレベルを超えた強烈なものであった。悪臭は、鼻ではなく腹で受け止めなければならないことを始めて知らされた現場だった。
腹でも受け止められない人は吐いて退散するしかない。
しかも、そこは1~2日前とかいったものではなく、最低でも1~2週間前から悪臭を放っていたと思われるような現場だった。
しかし、家族が死体に気づいたのは2~3日前とのこと。
家族の一人がまったく部屋からでてこなくなったうえ、その部屋から悪臭が漂うようになるまで本人が死んだでいたことに気がつかなかったとは、とても信じられなかった。
しかも、その家族は、酷い悪臭の中を、金目の物がないか必死で探していた。
何はともあれ、私の仕事はその現場をきれいに片付けることで、余計な詮索は無用。
四畳半の和室の汚染度はかなり酷く、何からどう手をつけてよいやら迷うような状況。
とりあえず、大量に発生した蛆(ウジ)を始末することからスタート。
蛆というヤツは、一体どこから入り込んで死体を喰っていくのか、その増殖力の強さは不思議で仕方がない。蛆との戦いにはいつも手を焼く。
奴等は、市販のウジ殺薬でもビクともせず、早く蝿(ハエ)になって飛び去ってほしいくらいだった。
仕方なく、汚染された布団と一緒にビニール袋に入れて圧縮。手で押さえてもムニュムニュと動く感触は、鳥肌もので不気味だった。
とにかく、その現場は、家財一式はもちろん畳・床板まで全部撤去。
代金は作業前に値切りに値切られたため、どことなく損をしたような気分になった現場だった。

トラックバック 2006/05/20 より


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脂でツルッ

2024-04-19 16:41:08 | 腐乱死体
これは特定の現場での話ではない。
人間の身体は平均的に観ると約70%が水分・約25%が脂肪といわれている。
遺体は腐敗していくと、骨・歯・爪などの固形物を残して最終的には溶けて液状になる。もちろん、その過程はおぞましい光景で、強烈な悪臭を放っていく。
液状になった遺体の水分は時間の経過とともに自然と蒸発していくが、最後の最後に残るのは脂肪、つまり脂。
我々の仕事でやっかいなものはたくさんあるが、この脂もやっかいなモノのひとつである。ある程度は吸収剤を使って処理できるものの、やはり最後は手での拭き取り作業が必要。これが、拭いても拭いてもなかなかきれいに落ちない!ジョイ君に頼んでもダメでしょう。
おまけに、ヌルヌル・ツルツル滑りやすく、そんなところで転んだらアウト!
私はまだ転んだことはないが、転びそうになったことは何度もあるし、実際に転んでしまって緊急退避したスタッフもいる。
このブログを読んでくれている方々、生きているうちに、できるだけ体脂肪は減らしておいていただけるとありがたい。

トラックバック 2006-05-19 より

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哀愁のマットレス

2024-04-15 08:21:04 | 腐乱死体
時は4月下旬、晴天・春暖の心地よい季節のなか、その現場は発生した。
場所は東京都某所・分譲マンション2階の寝室。遺体の腐乱液はベッド上とベッド脇の家具・床に渡って染み広がっており、当然ながらかなりの悪臭もあり、かなり刺激的な光景だった。遺族によると故人は太った老人とのこと。
通常の作業チャートでは「現場検証見積」→「作業合意」→「代金前払い」→「作業実施」である。
しかし、この現場の遺族は、見積に行った私に「このまま作業をやってくれ!」と懇願。遺族の心情を汲むのも当社の大事な方針なので、結局、断りきれず作業用の装備がほとんどないまま作業にとりかかることに。
必要最低限の道具・備品を近くのホームセンターで調達。
ベッド脇の床の家具に溜まった腐乱液を吸い取り、拭き取るときは、場慣れした私もさすがに吐き気がして、何度も「オエッ」「オエッ」。
しかし!最も困難を極めた作業は、ベッドマットの運び出しであった。しかもダブルサイズで、タップリの腐敗液吸い込み済みの代物。
それを自分一人で一階まで降ろし、少し離れた路上にとめたトラックに積み込む作業は、体力的にも精神的にも困難を極めた(泣きたい気分)。
ただでさえ大きなベッドマットで、更に腐敗液をタップリ吸っている訳で、とても自分一人では持ち上げられるものではなかった(例え、持ち上げられても、持ち上げたくない代物)。もう、引きずって運び出すしかなかった。
一歩玄関を出たら、そこは公共の場所。
通りかかる通行人は、遠目には不思議そうに見ていたが、近づいて来た途端に強烈な悪臭パンチを浴びることとなってしまった。
人々は口々に「くせぇっ!」「何だこれ?」「キャー!」等と叫びながら逃げ去って行った。
心無い悪口を甘んじて受けざるをえない中、私は、独りの世界に入りたいような気分で、ひたすらマットを引きずった。
早々とトラックに積んで退散したいのは山々だったが、なにせその重さではズルズル・ノロノロと引きずっていくしかなく、その時間が長く感じたことは言うまでもない。
遺族は感謝してくれたが、私は作業の悲しみを背負って逃げるように現場を離れた。

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偽善意

2023-05-18 07:43:29 | 腐乱死体
もう、二十年も前のことになる。
私は、会社近くの賃貸マンションで暮らしていた。
駅近で立地はよかったのだが、その分、家賃は高め。
併せて、色々な事情があり、岐路に立たされ、人生は、入居時には想像できなかった方向へ進み、結局、たった一年で転居することになった。

そこで、不本意かつ不愉快なことが起こった。
それは、部屋の原状回復についてのこと。
ゴミを溜めていたわけでもなければ、掃除もキチンとしていた。
タバコも吸わなければ、動物も飼っていなかった(迷い犬を一時的に保護したことはあったけど)。
にも関わらず、退去時、預けていた敷金はまるごと没収され、追加の原状回復費用まで請求されてしまった。


「たった一年しか住んでいないのに・・・」
納得できなかった私は、不動産会社に説明を求めた。
しかし、
「居住期間を問わず、退去時には一律に請求させてもらうことになっているので」
と、無碍の一言。
その後、何度かやりとりしたが、納得のできる説明はなし。
結局、
「数万円で片付くなら・・・」
と、私は、イヤな思いをすることから逃れたくて、泣き寝入ったのだった。


似たような事案は、仕事上でも、数えきれないくらい遭遇している。
賃貸物件を退去する際の原状回復についてはトラブルになることが多い。
貸主(大家・管理会社側)からすると、部屋の原状回復にかかる負担は少しでも軽い方がいい。
つまり、できるだけ借主に負担させたいと考える。
一方、借主(住人側)からすると、その負担は軽い方がいい。
そういった利害が対立することで、退去時のトラブルに発展するのである。

賃貸物件は借物なのだから、善良な管理者としての注意義務を負って使用しなければならない。
言い換えれば、「社会通念上“当然”とされる良識をもって丁寧に使わなければならない」とうこと。
逆に言うと、「通常使用による損耗や経年による劣化は借主に責任はない」ということにもなる。
ただ、発生した損耗が通常使用によるものなのか、また、発生した劣化が経年によるものなのか、結局それを判断するのは人の感覚。
損耗や劣化を「当然」「自然」とみるかどうか、「悪意」「怠慢」とみるかどうかで着地点は変わる。
孤独死現場やゴミ部屋・ペット部屋など、借主が良識をもって使用していなかったことが明らかな場合を除いて、双方で客観的・公正にそれをジャッジし着地させるのは難しい。

前記の汚損事例を当社では「特別汚損」と称しているが、「孤独死」は借主(住人側)にとって分が悪い。
遺体が腐敗してしまうと尚更。
誰もが「不可抗力」とわかりつつも、原因をつくったのか借主であることはハッキリしており、「借主に責がある」とみなされる。
自然死でもそうなのだから、死因が自殺となれば尚更そうで、貸主に対して抗弁の余地はなくなる。



「管理しているマンションで孤独死が発生した」
「退去立ち合いのため遺族と現地で会う予定」
「我々だけでは判断できないことがあるかもしれないので、それに合わせて来てもらえないだろうか」
と、何度か取引をしたことがある不動産管理会社から現地調査の依頼が入った。
担当者は、そこで住人が孤独死したことのみ把握。
死因をはじめ、亡くなってから発見されるまでの経緯や時間、汚染や異臭についての情報は一切持っておらず。
ただ、遺族の態度や様子から、“一筋縄ではいかなそう”といった不安を感じているようだった。

訪れた現場は、街中に建つ賃貸マンション。
約束の時刻より早く着いた私は建物前で待機。
ヒマつぶしに建物の外観を観察。
窓やベランダの構造から想像するに、そこは単身者用のマンションで、間取りはすべて1K。
そうこうしていると、程なくして、管理会社の担当者二名が現れた。
どこかで時間調整をしていたのだろうか、二人とも、約束の時刻ピッタリに。
私は、こちらに歩いてくる二人に視線を合わせて会釈。
表情がわかるくらいまで近づいたところで、社交辞令の笑顔と共に言葉を交わして挨拶をした。

遺族もじきに現れるものと思っていたが、「先に部屋に入っている」とのこと。
我々三人は管理キーを使ってオートロックをくぐり、エントランスの中へ。
そのままエレベーターに乗り込み、目的階のボタンを押し、目的の部屋を目指した。

部屋の玄関ドアは既に開いていた。
訪問のマナーとしてだろう、それでも、担当者はインターフォンを押した。
すると、即座に中から応答があり、中年の男性が出てきた。
笑顔を浮かべる場面ではないのは当然ながら、その表情は、強張った感じ。
男性は寡黙で、短い挨拶の言葉以外、一言も発さず。
抱える緊張感がビンビンと伝わってきた。

我々は小さな玄関に脱いだ靴を揃えながら中へ。
玄関を上がると、まず通路。
その左側には下駄箱兼収納庫とミニキッチンが並び、右側には洗濯機置場とユニットバス。
その奥が六畳程度の洋間。
そして、突き当りの窓の向こうには、狭いながらも生活で重宝しそうなベランダ。
見晴らしも陽当たりも良好。
駅も近く、周辺には店も多く、「高級」という程ではないものの、やや贅沢にも思えるくらいのマンションだった。

我々が集合した用向きは、「部屋の退去・引き渡し」だったため、当然、室内に家財はなく空っぽ。
また、部屋も水周も、少々の生活汚れがあっても然るべきところ、きれいな状態。
どうも、一通りのルームクリーニングをやったよう。
部屋を退去する際の礼儀としては充分過ぎるくらい・・・見方を変えると、ちょっと不自然に思えるくらいきれいだった。

ただ、そこは孤独死があった現場。
で、違和感を覚えることがいくつかあった。
それは、暑くもないのに玄関や窓が全開であったことと、ユニットバスとキチンの換気扇が回りっぱなしだったこと。
そして、人工的な芳香剤臭が強めに感じられたこと。

その状況から、私はすぐに“ピン!”ときた。
それは、異臭対策。
部屋に異臭があるからこその対策。
「異臭がある」ということは、「遺体は腐敗していた」ということ。
「腐敗していた」ということは、「汚染があった」ということ。
「汚染があった」ということは、「汚染部からは強い異臭が出ている」ということ。

訊きにくいことだったが、私は、男性に故人が倒れていた場所を質問。
すると、男性は、
「部屋のどこからしいんですけど、詳しいことはよくわかりません」
と返答。
男性は、遺体があった状態の部屋を見ていないようだったので、まずは得心した。
が、考えてみると、状況を警察から聞いた可能性は高い。
にも関わらず、「わからない」と言うのは、何とも不自然。
そうは言っても、「知らないはずないでしょ?」と問い詰める権利が自分にないことは百も承知だったので、私は、これからやるべきことを考えつつ、それ以上のことは訊かなかった。

結局、玄関から台所、ユニットバスにかけて一か所一か所を確認することに。
私は、どこかに汚染痕がないかどうか、部屋のあちこちを凝視。
また、ときには四つん這いになって、方々の床に鼻を近づけ、犬のように隅から隅へとニオイを嗅いで回った。

すると、台所と部屋の境目付近の床で強い異臭を感知。
同時に、不自然な変色も。
一見すると見落としそうになるくらいのものだったが、よくよく見ると、床の一部がわずかに暗色になっており、その部分の目地にも妙な汚れが浸みついていた。
ニオイの種類といい、変色といい、経験上、私にとっては、それが腐敗遺体の汚染痕であるとするのがもっとも合理的な判断だった。

とは言え、男性がいるその場では、具体的なコメントは避けた。
それが、男性に対する私なりの最低限の礼儀だった。
で、部屋の見分を終えた私は、担当者に声をかけ、男性を部屋に残し、一旦 外へ。
そして、「あくまで個人的かつ主観的は所感」と前置きした上で自分なりの見解を伝えた。

それは、
「故人は、台所と部屋の境目付近に倒れていた」
「発見が遅れ、遺体は酷く腐敗していた」
「表向きには分かりにくいが、腐敗遺体液は床材に浸透し、下地まで汚染されている可能性がある」
「外部の空気が通っている間は感じにくいが、部屋を密閉すれば強い異臭が感じられるはず」
といったものだった。


管理会社が私に求めてきたのは、部屋の原状回復についてルームクリーニングのみで済むのか、内装の改修工事や設備の入れ替えが必要なのかどうか、仮に内装設備の改修が必要な場合、どの程度の工事が適切なのか等の関する意見。
その管理会社(貸主側)は、私にとっては“客”。
しかし、偏った意見を言うつもりはなかった。
忖度なく、あくまで、客観的に、公正に判断するつもりでいた。
ただ、部屋には、通常の生活では発生しようがない種類の内装汚損があり、特有の異臭が残留。
通常使用では起こり得ない状況があったわけで、それが現実であり事実。
男性(借主側)に責があるのは明白。
私に悪意はなかったのは当然ながら、結果として、男性にとって不利な意見ばかりを並べることになってしまった。

一方で、男性の保身に走りたい気持ちも痛いほどわかった。
この類の補償や賠償については、世間一般に認知されている「適正価格」や「標準価格」といったものがないから、不安は尽きなかったはず。
「そこで住人が亡くなっていた」という事実は覆せないにしても、部屋の汚損や劣化は「日常生活における通常損耗」として決着させたかったに違いない。
そのために、男性達遺族は、素人ながらに、精一杯の原状回復を試みたはず。
汗をかき、涙をのみながら、市販の物品と自分の手を使ってできるかぎりのことをやったはず。
愛する娘が使っていた家財を片付け、遺体汚染を掃除し、手強い悪臭と格闘し・・・
懐かしい想い出と、深い悲しみと、後始末のプレッシャーと、事後補償の不安・・・
ただ、残念ながら、内装建材は相応に傷んでおり、その汚染は、素人の清掃で片付くほど軽いものではなく・・・
先の見えない金銭的負担や精神的負担について際限のない不安に襲われながらの作業が、どんなにツラいものであったか、想像すると気の毒で仕方がなかった。

結局のところ、フローリングは下地ごと、天井壁クロスの全面的な貼り替えも避けられそうになかった。
もちろん、本格的な消臭消毒も。
原状回復させるにためには、他に選択肢はなかった。
そして、かかる費用のほとんどは遺族が負担することになるはず。
ただ、私の見解があってもなくても、早かれ遅かれ、内装汚損と異臭の問題は明らかになったはず。
だから、男性に対して申し訳ないことをしたといった感覚はなかった。

内装の汚損も残留する異臭も、それに見合った工事や作業で片付けることはできる。
物理的には、それで原状回復は実現できる。
しかし、そこで起こった「孤独死」「遺体腐敗」といった事実まで消すことはできない。
夢幻の出来事にしたくても、「事故物件」「瑕疵物件」という事実は残る。

これは、貸主にとっても借主にとっても、大きな損害となる。
しばらくの間、当室の家賃は従来額より引き下げざるを得ず、場合によっては、それは現場となった部屋だけでなく、隣の部屋や建物全体にも影響する。
そしてまた、それは死因によって・・・「自然死(病死)」なのか「自殺」なのかによっても大きく異なる。
その訳を言葉で表すのは難しいが、人々が抱く嫌悪感や恐怖心は自殺の方が大きい。
言うまでもなく、その分、その後の補償も膨らむ。

そこに暮らしていたのは、男性の娘で歳は二十代後半。
肉体が腐敗するまで発見されなかったことを考えると、「無職」またはそれに近い身の上だったのか・・・
浅はかな偏見なのだが、若年者が孤独死する原因として「病気」は浮かびにくい。
「病死」と並行して「自殺」という二文字がどうしても過ってしまう。


「死因も確認した方がいいと思いますよ」
一通りの見解を述べた私は、担当者へそう言いかけた。
しかし、咄嗟に、その言葉を呑み込んだ。
何かしらの理性に制止されたわけでも何かしらの正義が過ったわけでもなかったが、思わず口をつぐんだ。
故人に対する同情でもなく、男性に対する優しさでもなく、ただ、自分が嫌な思いをしないため、自分が悪者になりたくないがために口を閉ざしたのだった。

ただ、その時点で、私がそのことを口にしようしまいが、結果は変わらなかったはず。
どちらにしろ、先々は、家賃補償の問題も浮上するはず。
併せて、死因についても。

私ができたことと言えば、死因が自殺でなかったことを願うことのみ。
ただ、これもまた、一時的な感傷、穢れた自己満足・・・
この一生につきまとう、「私」という人間の本性を表す乾いた偽善意なのではないかと顧みるのである。


お急ぎの方は0120-74-4949
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無関心と孤独

2022-12-31 09:52:14 | 腐乱死体
2022年大晦日、今年も今日でおしまい。
世間は、正月に向けて賑やかに華やかになっている。
ただ、そんな祝賀ムードに反して、コロナ禍が、再び暗い影を落としている。
まさか、こんなに長い戦いになるとは・・・
「もう、大きな波はこないのではないか・・・」
七波が過ぎた頃、何の根拠もない中で、私は、何となくそんな風に思っていた。
しかし、現実はこの通り。
再び、大波が押し寄せている。

ただ、世の中に漂う不安感は、それほど大きくない。
特段の行動制限もないうえ、メディアも、以前のような不安を煽るような?報道もしていないような気がするし。
また、外国人観光客も戻りつつあるようだし、気持ちにも財布にも余裕がない私には縁のない話だけど、TVをつけると、家族や友人を連れ立ってショッピングやレジャー、行楽や旅行、趣味や飲食を楽しむ人の姿が多く映し出される。
良し悪しは別として、“withコロナ”が定着しつつあるのだろう、慣れてしまった感が強い。

当初は、ワクチンを打たない人は少数派で、時には、非難の的になることもあった。
が、接種回数が進むにつれ、接種率も低下。
副反応のツラさや重症化率・死亡率の低下が影響しているのだろう、私の周りにも、「面倒くさいから」と、四回目を打たない人がでてきている。
私もその一人なのかもしれないけど、多くの人が、良くも悪くも危機感が低下、良くも悪くも無関心になっているような気がする。

しかし、この第八波、感染者数だけみると、第七波を超えて最大の波になりそう。
依然としてコロナの感染力は強いわけだし、危惧されていたインフルエンザとの同時流行も現実化しつつある。
重症化率や死亡率が高くないとはいえ、重症化している人や亡くなる人が絶えているわけではない。
事実、一日の死者数は400人を超え、過去最悪を記録。
病院への見舞いが制限される中で、淋しく亡くなっている人も少なくないはず。
更に、今が八波のピークではないわけで、重症者や死亡者はまだまだ増える。
高齢者じゃなくても基礎疾患がなくても、油断は禁物。
後遺症に苦しんでいる人も多いようだし、「他人事」として済ませるわけにはいかない。

そうは言っても、今更、行動制限をかけるのは困難。
ここまできての行動制限は、感情的に不満を覚え、感覚的に違和感を覚え、経済的に厳しさを覚える。
医療関係の方々には申し訳ないが、行動制限によるメリットよりもデメリットの方が大きいような気もするし、今更の行動制限が“焼け石に水”になるのは明白。
となると、我々は、コロナに対して無関心にならず、できることをやるしかない。
まずは、基本的な感染対策の励行。
あと、打てる人はワクチンを接種すること。
旅行や飲食は中止しないにしても、責任ある行動と周りへの配慮は大切にしたいものだ。



ある日の夜、とある不動産管理会社から電話が入った。
依頼の内容は、
「管理物件で孤独死が発生」
「発見されるまで時間がかかった」
「苦情がきているわけじゃないが、マズイ状態」
というもの。
話の内容から、私は、ヘビー級の汚染の想像。
次の日の朝一で現場に出向く約束をした。

出向いた現場は、かなり古いマンション。
私は約束の時間より少し早く現場に到着。
建物に間違いがないか確認するため外壁に建物名を探したが、それより先に、私の視線は一室の窓に引き寄せられた。
その部屋の窓には、でっかく成長した無数のハエが・・・
「ここかぁ・・・」
建物名や部屋番号を確認するまでもなく、私は、そこが現場であることを確信し玄関の方へ。
「かなり臭うな・・・」
慣れたことだから、不快に思ったわけでも緊張したわけでもなかったが、それでも、私の眉間にはシワが寄ってしまった。

担当者は、約束の時間通りにやってきた。
見た感じ、歳は三十前後か。
不動産管理の仕事に就いて数年が経っていたが、こういった現場に遭遇した経験はないそう。
にも関わらず、会社からは「一人で行ってこい」と指示されたよう。
孤独感と心細さのせいか、その表情は硬く、やや強ばった感じ。
普段はスーツを着て仕事をしているのだろうに、その時は、作業着のような私服姿。
“腐乱死体現場”とはいかなるものか、インターネットで下調べをしたそうで、自分なりに考えて、部屋に中に入るための対策を講じているようだった。

ただ、実際のところ、部屋に入るだけでは服が汚れたりはしない。
もちろん、汚れたところを踏んだりすれば靴が汚れてしまうけど。
飛び回るハエだって、わざとぶつかってくるようなことはないし、這いまわるウジだって、わざわざ近寄ってくるようなこともない。
むしろ、逃げようとするばかり。
だから、部屋を見るだけなら汚れを心配する必要はない。

問題なのはニオイ。
短時間でも、服や髪に付着する。
ちょっと長い時間になると、露出した皮膚にまで付着する。
ヘヴィー級の現場で特殊清掃なんかやったりすると、ヒドいことになる。
このブログで たまに登場する「ウ〇コ男」の状態になるわけ。
当然、そのまま、電車やバスに乗ったり、店に入ったりすることはできなくなる。
咎められることはないかもしれないけど、人に不快な思いをさせ顰蹙を買うことは間違いない。
だから、マナーとして“ウ〇コ男”は、公の場に姿を現してはいけないのである。

担当者は、窓に集るハエと、玄関前に漂うニオイと、インターネット情報に脅されて及び腰。
明らかに部屋に入りたくなさそう。
ただ、凄惨な部屋に私一人を突っ込むことに罪悪感みたいなものも覚えているよう。
「私も一緒じゃないとだめですよね?」
と、ちょっと気マズそうに訊いてきた。
一方、その心情を察した私は、
「大丈夫ですよ!ニオイもつくしトラウマになるといけないから、○○さん(担当者)は入らない方がいいかもしれませんよ」
と、“ドンマイ!ドンマイ!”といった雰囲気で明るく返答。
ホッと安堵の表情を浮かべる担当者から鍵を受け取り、高濃度の異臭とハエが飛び出してくることを警戒しながら鍵を開け、ドアを最小限に引きて素早く身体を滑り込ませた。

間取りは1DK。
玄関を上がった脇に浴室とトイレ。
その隣がDKで、更に奥が居室。
部屋には布団が敷かれており、遺体汚染は、そこを中心に残留。
汚染具合は重症で、敷布団には身体のカタチがクッキリと浮かび上がっており、掛布団も酷い有様。
腐敗体液をタップリ吸い込んだ状態で、グッショリと茶黒く変色。
その中には、丼飯を引っくり返したようなウジ群がウヨウヨ。
また、枕は、頭のカタチに丸く凹んでおり、カツラのごとく頭髪も残留。
もちろん、高濃度の異臭も充満。
私の出現に気づいた窓辺のハエも、狂気したように乱舞。
故人にその意図がなかったことは当然のことながら、
「どうして、ここまでになるまで放って置かれたかな・・・」
と、私は、何かに対して不満を覚えた。


現場は、結構な老朽建物。
建物としての寿命も過ぎており、修繕やメンテナンスの費用を考えると、不動産運用の旨味はなし。
取り壊しになるのも時間の問題で、部屋が空室になっても積極的に入居者を募集することもしていないようだった。
本来なら、隣や上の部屋にニオイの影響があってもおかしくない状況だったが、そんな事情もあり、故人宅の隣室も上室も空室。
また、故人宅は角部屋でもあり、玄関前を歩く人もおらず。
それでも、風向きによっては、故人宅から発せられる異臭は感知できたはずだし、何より、おびただしい数のハエが集る窓は異様な光景となっていたわけで、そこに関心を寄せないことも、やや不自然に思われた。
が、何事においても余計なことに関わりたくないのは人の性。
他の住人が「見て見ぬフリ」をしていたかどうかは不明ながら、その心情がわからなくはなかった。

“近所付き合い”なんて、積極的にしなくても支障はない。
本件のような単身者用の賃貸物件なら尚更。
町内会や管理組合等の縛りがあるわけではないし、顔を合わせたとき、一言、挨拶を交わすだけで礼儀は守れる。
昨今では、隣室などに引っ越しの挨拶をしないのも失礼にあたらず、むしろ当り前のよう。
事実、隣にどんな人が住んでいるのか知らないケースも多いのではないだろうか。
他人に無関心でいることは、ある意味、プライバシーを守るための自己防衛であり、相手に対するマナーであったりもする。

ただ、この社会を生きていくうえでは、人づき合いは不可欠。
そして、「人付き合い」って、楽しいことも多いが煩わしいことも多い。
とりわけ、仕事上では、気の合う人とだけ、好きな人とだけ付き合えばいいということにはならない。
気の合わない人や嫌いな人とも付き合っていかなければならない。
となると、お互い、“いい人”でいるために一定の距離が必要になる。
とりわけ、相性の悪い相手だと、お互いで本音と建て前を使いわけ、愛想笑いの裏で腹を探り合いながら付き合っていくことが求められる。
そんな、必要最低限、上辺だけの社交辞令だけで付き合いきれなくなると、「親しき仲にも礼儀あり」といったルールが崩れ、“いい人”ばかりではいられなくなる。
相手の一挙手一投足にストレスを感じるようになり、そのうち、陰口を叩くようになってきて、それが態度や表情に表れはじめ、幼稚な争いに発展してしまうこともある。
それで絶交できればいいのだが、現実的にそれができない場合、最悪、自分を殺して付き合うしかなくなってしまう。

ちなみに、私の個人的な感覚なのだが・・・
耳障りがいいからか、意味が曖昧で使いやすいからか、一文字の字面がいいからか、東日本大震災が期だったように記憶しているが、「絆」という言葉がもてはやされるようになって久しい。
私が、人付き合いが苦手で下手なせいか、あちこちで多用されるこの言葉には、何とも言えないムズ痒さを覚える。
「詭弁」とまでは言わないけど、「言葉と現実が乖離している」というか、「人の都合で強弱が変わる」というか、大なり小なり、ある種の共喰いや同士討ちがやめられない性質を持つ人間にはシックリこないような気がするのだ。


人付き合いを好む好まざるを問わず、高齢化が著しい社会の中では、社会との関りや人との繋がりを失った独居老人が増えている。
また、経済事情の厳しさや価値観の変化から、結婚願望を持たない若者も。
つまり、「私生活は一人」という人は多く、また、増えていくということ。
となると、「孤独死」も増えていくということか。

「孤独死」というと、「淋しそう」「かわいそう」等といった否定的な感情や暗い印象を抱きやすい。
しかし、「一人でいる」って、明るい一面もある。
何より、気楽。
誰かに干渉されることもなく、誰かを干渉する気を持たずにも済む。
事実、淋しさや孤独感を覚えることなく、一人を楽しんでいる人も多いと思う。
一人で生きるのが淋しい人生とは限らないし、多くの人に囲まれて生きる人生が淋しいものであることがあるかもしれない。
もちろん、淋しさに耐えながら、仕方なく一人でいる人もいると思うけど、それでも、そういう人を一方的に憐れむのは、軽率なことのように思う。
最期が孤独死だったからといって「淋しい人生だったのではないか」と、浅慮な早合点をしてはいけない。

とにもかくにも、人が一人で死んでいくことは自然なこと。
そして、その身体が朽ち果てるのも。
ただ、人間は社会的動物なわけで、死後、放置されることは、世間から自然なこととは受け止められない。
時に、それは、過剰な悲哀や嫌悪感を誘う。
肉体の腐敗が進み、現場が凄惨なものになると尚更で、故人の何もかもが否定的に捉えられやすくなってしまう。

しかし、現実の孤独死の現場では、
「どんな人生でしたか?」
と、世間が否定しがちな人生を肯定的に受け止めようとする気持ちが湧いてくる。
また、自殺現場では、
「必死に戦ったんですよね・・・」
と、世間が否定しがちな人生を労う気持ちが湧いてくる。
生前からの汚部屋やゴミ部屋では、
「どうしてこんなことしちゃったかな・・・」
と、非難に近い疑問を覚えることはあるけど、それでも、その人生を蔑むことはない。


「愛」の対義は「無関心」とも言われる。
確かに、一理も二理もあると思う。
世界や社会の諸問題、弱者や困窮者に関心を寄せないのはよくないことだろう。
しかし、「無関心=非情」とは言い切れないとも思う。
無益なことを知らずに済み、余計なことを考えずに済むから。
無用な争いを引き起こさずに済み、誰かをキズつけないで済むから。
無関心が孤独死の発見を遅らせ、遺体を腐らせ、人々の嫌悪感を膨らませ色々なところに害を及ぼしてしまうという事実はあるが、人が平和に生まれ、平和に生き、平和に死んでいくため、世間が大らかに受け止めることも大切になってくるのではないかと思う。

「愛のある無関心」と「淋しさのない孤独」
これからの時代、今までにはなかった概念や観念が必要とされ、今までは持ち得なかった価値観や感性が重宝されていくのかもしれない。
“一人”は“一人”なりに、楽しく幸せに生きていくために。

今年も色々あった、色々なことがあり過ぎた。
「人生、悪いことばかりじゃない」と言い聞かせながらも、良いことを探しあぐねた一年。
そんな一年も今日で終わる。
明日からの2023年が、一人一人にとって、よい年になるよう願うばかりである。

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