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特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

姉の居ぬ間に選択

2025-06-05 07:00:00 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
前回5月26日の「兄妹」で書いたとおり、私には兄と妹がいる。
裏を返せば、「姉と弟はいない」ということ。
そんな私は、「姉」というものに憧れを持っていた。
母親の愛情に不足を感じていたのか、幼少の頃は「姉ちゃんがいたらよかったのになぁ・・・」と思うことがしばしばあった。

小学校低学年の時、姉が二人いる同級生(後に転校)がいた。
よくは思い出せないけど、当時、その姉二人は同じ小学校にはいなかったので、既に中学生や高校生だったはず。
つまり、“歳の離れた姉”ということ。
「可愛がってくれる」「世話を焼いてくれる」「甘やかしてくれる」等々・・・
級友から自慢話を聞かされたわけでもないのに、私は、“姉”というもの、とりわけ“歳の離れた姉”というものに対していいイメージしか持っていなかった。

唯一、姉に似た存在として、八つ上の従姉弟がいた。
お互いの家も近くはなかったし、それだけ歳が離れていると「一緒に遊ぶ」ということもなかった。
それでも、会えばフレンドリーに優しく接してくれ(それは大人になっても変わらず)、それが、私の“姉”に対するイメージを更に良いものにしていた。



訪れた現場は、東京 城東エリアの老朽マンション。
築年数は40年余・・・いや50年は経っているか、外見は公営団地、内装設備は木造アパートに見えるような地味な造り。
現場の部屋は小さめの3LDK。
人間同様、 “年相応”に内装・設備はボロボロ。
そんな中、この部屋をリフォームする話が持ち上がった。
そこで依頼されたのは、一時転居準備の一環である生活必需品以外の物品処分。
ただ、そんなフツーの仕事で当社が呼ばれるわけはなし。
実のところ部屋は半ゴミ部屋で、かつ家族間に温度差があり、依頼者が業者を厳選しての縁だった。

そこに暮らしていたのは、老年の母親と中年の息子(以後「男性」)の親子二人。
もともとは、父・母・娘・男性の四人家族だったのだが、娘は他所に嫁ぎ、父は既に他界。
男性は独身のまま、それから、ずっと二人暮らし。
つまり、男性は生まれてからずっと母親と一緒の生活。
食事・洗濯・掃除等々、身の回りの世話や家事全般は母親がやってくれるのが当り前。
社会人になってからも、男性は生活費を入れるだけ。
外身は大人でも中身は子供のまま。
そんな自由奔放な生活は何の訓練にもならず、結果的に、男性は、ゴミ出しはもちろん、ゴミをゴミ箱に入れることさえしない人間になっていた。
一方、母親の方は、還暦頃を境に老い衰えが目立つように。
「人間(生き物)の宿命(自然現象)」と言うには簡単だが、充分な家事ができなくなってきたことは 日々においては小さくても 年々においては大きな問題に。
そうして、部屋は次第に汚くなっていき、徐々にゴミ部屋化していったのだった。

男性には、歳の離れた姉がいた。
その姉は、若い時分に結婚し 家庭を持ち、少し離れた街に暮らしていた。
姉にとって、ここは母と弟の家でありながら自分の実家でもあり、もう何年も前から実家が荒れてきていることを把握。
母親が弱ってきていることを心配しながら、男性(弟)にキチンと家事をするよう、再三再四、発破をかけてきた。
また、時々足を運んでは、母親のために、掃除できるところは掃除し 片付けられるモノは片付けていた。
しかし、男性は姉の意見を聞き流し、一向に生活をあらためようとせず。
姉がどれだけ片付けても どれだけ掃除しても、男性の暮らしぶりがそれを邪魔立てし、ゴミ部屋化は止まらず。
結果的に、姉の手だけではどうしようもないくらいの状態になってしまったのだった。


3LDKの間取りのうちLDKや水廻りは親子共用、二部屋を男性が占有し、残りの一部屋を母親が使用。
計画されたリフォーム工事は、単なる新装工事ではなく、バリアフリー化をともなうもの。
部屋数を減らして廊下やバス・トイレを拡張。
新しい間取りでは、男性が自分の部屋として使えるのは一部屋に。
広さはこれまでの約半分。
今の二部屋分の荷物が新しい一部屋に収まり切るわけはなく、更に、現状は二部屋ともギュウギュウの物置のようになっているわけだから、大半を処分しなければ新生活が始められないことは誰の目にも明らかなことだった。

工事にあたって、母親と男性は仮住居に一時転居。
母親は娘(姉)宅に、男性はウイークリーマンションに移るため、最低限の生活必需品だけを残し、その他の物は処分することに。
「全部捨てていいくらい!」
「本当に必要なモノなら買い直せばいい!」
と、片づけの段取りは、姉が全面的に仕切って進行。
それについて、先が暮らしやすくなることに期待した母親は協力的。
一方、男性(弟)の反応はいまいち。
そもそも、男性はゴミや物を増やし部屋を汚してきた張本人なわけで、積極的に協力することは見込めず。
拒んだり難色を示したりする可能性も充分にある中、そんなことはとっくにお見通しの姉は、姉としての威厳と正論を武器に男性を屈服させるつもりのよう。
「コレも要らない! アレも要らない!」
「コレも捨てていい! アレも捨てていい!」 
と、“男性の部屋=ゴミ箱”のような扱いで、ゴミ類はもちろんのこと、男性の所有物を含めて、部屋にある物の八割~九割くらいを 容赦なく“捨てるモノ”として指定した。


作業の日、一足先に娘(姉)宅へ転居した母親は不在。
姉は所用があって現場には来ず、男性一人だけが在宅。
ただ、作業の内容については姉とシッカリ話ついており、当方はその契約に則って施工するのみだった。
そして、当初は、男性も黙ってその様子を眺めていた。
が、しかし、作業の後半、作業の手が男性の部屋に伸びはじめたときに潮目が変わってきた。

男性の部屋は、床がほとんど見えておらず。
日用品をはじめ、書類や洋服が放られたまま。
雑誌・書籍・CD・DVD・アニメグッズ等が山積。
置かれた家具は埋没、押入も色んな物が重ね詰められて日常の用では使えない状態。
食べ物が混ざっていないことが“不幸中の幸い”だったものの、ホコリとカビが不衛生さに輪をかけていた。

DVDは大人モノと、昔のTVドラマや映画の類が混在。
CDや雑誌・書籍も古い物ばかり。
中には、大量の写真集もあった。
そのほとんどは、昭和・平成時代の女性タレントの水着姿やヌードを撮ったもの。
男性は、かなりの熱量で収集していたよう。
二百冊~三百冊くらいはあろうか、通販の箱にしまわれたままの物も多々。
「気持ちはわかるけど、さすがに集め過ぎじゃないか・・・」
と、羨ましさを通り越して呆れるような気持ちが湧いてきた。

それらの表紙や背表紙には憶えのあるタレントの名前や顔がチラホラ。
どうしても向いてしまう視線に困ったフリ(自分に言い訳)をしながらも、
「いた!いた! そう言えば、こんな人いたなぁ・・・」
と懐かしんだり、
自分のことは棚に上げて、
「もう、みんな いい歳のオバちゃんになってんだよな・・・」
と思って苦笑したり、
特定の名前が目につくと、
「この人に世話になったことあったなぁ・・・」
と青春を回顧したり、
スケベ心の中にも過ぎた時間の感慨が込み上げ、歳に似合わない甘酸っぱさが甦ってきた。

当初、男性の部屋についても、「生活必需品のみを残して、あとはすべて処分」という約束だった。
が、その場になると「要らないモノだけ捨ててもらえばいい」と微妙に変化。
色々と取捨選択しながら明らかなゴミだけを選別して捨てることを指示し、CD・DVD・書籍など、元々は捨てる約束をしていたはずのモノでも自分が捨てたくないモノは「要るモノ」として処分を拒み始めた。
しかし、男性の言うがままになると、片付ける量は契約した量の約半分になる。
そうすると、姉と交わした契約は不完全履行ということになり、当方に過失がないとはいえ、後で面倒臭いことが起こることも考えられた。
かといって、男性の許可なくその所有物に手を出すこともできない。
また、何の権利もない私が男性を説き伏せるなんてことできるはずもなく、「これ以上は無理そうだな・・・」と、思考は諦めの方に傾き始めていた。

とにもかくにも、業務上の権限は姉にある。
とりあえず、私は部屋を離れて姉に電話、困った状況になっていることを伝えた。
すると姉は、
「アイツめ、この期に及んで・・・」
と、イラ立ちを露わに。
「この後、どうればいいでしょうか?」
と指示を仰ぐと、男性と電話で話してもラチがあかないことを見越したようで、
「こっちの用は後回しにして、今からそっちに行きます!」
と、即座に自分の予定を変更。
そして、
「弟には、キッチリ言うことを聞かせますから!」
と、不敵な自信をみせた。

しばらくすると、姉がやってきた。
せっかくの美人が台なしになるくらいの鬼の形相で。
頭には、生えた角と 立ち昇る湯気が見えるような気がするくらい。
その登場により、静かに淀んでいた空気は波乱を予感させるものに一変。
「外せない用があるから来るわけない」と高を括っていたのだろう、突然 現れた姉に男性は驚愕。
“気マズい”をとうに越え、怯えたように顔を強ばらせた。
そんな男性に向かって、姉は長年に渡って溜め込んできた不満・憤り・ストレスを人目もはばからず爆発させた。

「アンタ! 何度言ったらわかんの!!」
と一喝。
そして、
「そのCD、もう何年も聴いてないでしょ!」
「DVDだって観るわけないし、本だって読むわけないよね!」
「そもそも、何がどこにあるか自分でもわかってないでしょ!」
「自分はやりたい放題やって、後始末は お母さんや私にやらせて、半人前のくせに一人前面すんじゃないわよ!」
と連打を浴びせた。

ヌード写真集に至っては、
「何でこんなにたくさんあんの!」
「全部いるの!? 全部見るの!?」
「気持ち悪っ!!」
と酷評。
続けて、「だからアンタは ずっと・・・」と、何かを言いかけた・・・
・・・ところで、何を思ったか、姉は悔しげな表情で吐きかけた言葉を呑み込んだ。


エロ本もヌード写真集も、姉(女)からすれば同じモノか。
しかし、男の都合では、それは似て非なるもの
“芸術愛好”と性的欲求“の狭間、その微妙な位置は、“こし餡orつぶ餡” “絹豆腐or木綿豆腐”くらいの違いかもしれないけど、いやらしい目で見るのか 美を求めて見るのか、見方を変えれば違いは大きい。 
男性がどちらの嗜好で集めたものはかはわからなかったけど、男の私には、「捨てたくない」という男性の気持ちがどことなくわかった。
ただ、下手な口出しは藪蛇になりかねない。
私は、野球でも観るかのような軽々しい気分で姉弟の攻防を傍観。
姉は、そんな観客を無視して、言葉の剛速球を男性の胸元に投げ込み続けた。
しかも、一つ間違えばデッドボール、危険球退場になりかねないくらいの内角ギリギリに。
しかし、そんな試合を客席で観られていたのは序盤だけ。
女のヌードを好む男性を非難する口撃には、他の男までションボリさせてしまうような破壊力があり、男性のいるところにだけに敷かれていたはずの“針の筵(むしろ)”は、私の足元にまで広がってきた。


「どうせ姉は来ないし、テキトーに片付ければいい」
当初、男性は、片付け作業を“鬼の居ぬ間に洗濯”くらいにしか考えていたのかもしれなかった。
しかし、実際にそれは叶わず。
“自分で自分の尻を拭けないヤツは黙ってろ!”といった姉の圧に抗う力は男性になし。
結局、
「新生活に必要なモノではない!」
「リフォームした部屋を再びゴミ部屋にしたら許さん!」
と一方的に断じられ、拒んだモノのほとんどは姉の命令で処分されることに。
次々に運び出される趣味嗜好品を男性は諦念をもって眺めているほかなく、その寂しげな様子は やや気に毒に思えるものでもあった。

ただ、大人になっても、自分を律してくれる人がいるということはありがたいこと。
弟には、母親を頼りに生きるのではなく、自立して、自分と同じように あったかい家庭を持って幸せな人生を歩いてほしい・・・
姉の厳しい振る舞いは優しさの裏返し・・・
母親を想う気持ちだけでなく 弟を想う気持ちからでてきたものでもあったはず・・・
あの時「だからアンタは ずっと・・・」と言いかけて止めた言葉の続きは、おそらく「女に縁がないのよ!」
しかし、姉は、その優しさで痛烈な一言を途中で吞み込んだ・・・

・・・と、うまくまとめようとしつつも、私は、
「でも、あのタイプの姉さんだったら・・・俺はいらないかな・・・」
とも思ったのだった。


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ゴミがごみごみ

2024-05-10 05:05:55 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
ゴミ屋敷の話である。少し前に10chのある番組の企画で「汚宅拝見」というのをやっていたが、まさにそれである。
ゴミを「これでもか!」という程、溜め込んでいる人って結構いるものなのである。

普段は特殊清掃・遺品回収がメインの仕事だが、時々、ゴミ屋敷の片付依頼も入ってくる。
当社は、ただのゴミ処分業者ではないので、住人が亡くなっている上での遺品回収ということで依頼を受けるのだが、実際はゴミ屋敷の片付けである。

私はこういう仕事はかなり苦手である。地道に単調にコツコツやらなければならないことが苦手なのである。それが体力仕事だったらなお更で。同じやるなら特殊清掃の方がよっぽどいい。


ある程度分別してトラックに積み込んでいく。分別作業の手間のかかることといったら、そりゃ大変。そして、運び出しても運び出してもゴミは減らない。

最もやっかいなのは、遺族から「○○を探してほしい」と特定の物を探し出すことを頼まれたときである。例えば、印鑑・預金通帳・年金手帳・写真など。山のようなゴミの中からこんな小さな物を探し出すなんて、気が遠くなるような話である。それでも、やれるだけはやってみる。その代わり、値引きなしで遺族にも手伝ってもらう。

「貴重品につき、探し出せない場合でも責任はとれない」

と言えば、イヤイヤでも手伝う。


不衛生で細かい作業なので、やってるうちに遺族も嫌気がさしてきてイライラし始める。そのうち、探し物が「いる」「いらない」とか言って内輪揉めを始めることも少なくない。

それでも、まあまあの金額が残った預金通帳なんかがでてくると、急に元気になって仕事を再開。私も含めてだが、人間って本当に強欲で面白い生き物である。

とにかく、ゴミを溜める人には、本人にしか分からない趣向・感覚があるのだろうが、私には到底理解できない。
そんなことを言うと、

「そういう仕事をしているオマエの感覚の方がよっぽど理解できないよ!」

と言われそうだが(苦笑)。


ま、何はともあれ、ゴミ屋敷は遠い地の他人事と思ってたら大間違い。ひょっとしたら、貴方の隣家がゴミ屋敷になっている可能性があるかもよ。


トラックバック 2006/06/09 投稿分より

日本初の特殊清掃専門会社
ヒューマンケア株式会社
0120-74-4949


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ゴミ山の亡骸

2024-04-24 05:55:33 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
ある公営団地の一室。私を呼んだのは中年男性。「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」(古い?)ではないが、玄関を開けてビックリ!いきなり真っ暗、よくよく見るとゴミの山。


亡くなったのはその中年男性の父親らしく、亡骸はまだ部屋の中にあるとのこと。
土足で中に入ったところ、ゴミ山の中に一畳弱のくぼみがあり、汚れた布団らしきものが見えた。
恐る恐る掛け布団をめくってみると、冷たくなった老人が横たわっていた。
部屋の様子に反して遺体は若干の汚れはあったものの通常だったので、とりあえず安堵。特に腐敗が進んでいる様子もなく、警察の検死も済んでいるらしかった。
故人は、4年前、奥さん(中年男性の母親)が亡くなった時のまま、家の中の物には一切手を触れさせなかったとのこと。心配した身内が頻繁に出入りしていたにも関わらず、誰にも掃除もさせず汚れた洗濯物と食物ゴミが蓄積されていって、このゴミ屋敷が完成したらしい。

故人は、奥さんと二人で暮らした部屋をその当時のままにしておきたかったのだ知り、臭くて汚い部屋にいながらも、ちょっとした感動を覚えた。
それから、遺体処置からゴミ屋敷の特殊清掃撤去へと作業は進んでいくことになるのだが、いつもの現場と違って汚いゴミもそんなに汚く感じない仕事だった。

トラックバック 2006/05/24投稿分より


-1989年設立―
日本初の特殊清掃専門会社
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修羅場

2022-06-16 10:50:22 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
ゴミの撤去処分について、電話で相談が入った。
声と語気で判断するに、相手は、老年の女性。
また、丁寧な言葉遣いと上品な語り口から、“お金持ちの家の奥様”を連想。
女性は、色々と相談したいことがあるみたいだったが、「まずは、事情をお話ししたい」という。
私は、「必要であれば伺うこともできますから、それもご検討ください」と前置きして、女性の話に耳を傾けた。
 
女性は、自己所有の一軒家で生活。
夫は数年前に死去し、この時は、40代になる娘(以後「当人」)と二人暮らし。
相談の内容は、当人が部屋に溜めたゴミの片付けについて。
しかし、話を聞くにつれ、問題の中核は“ゴミ”ではなく“当人”であることが明るみになってきた。
 
当人は、女性の一人娘。
裕福な家庭だったのだろう、小中、そして、高校も大学も、それなりのところへ進学。
「人並」という言葉は思慮なく使うべきではないのかもしれないけど、人並に成長。
そして、大学を卒業し、とある企業に就職。
父親のコネもあったようで、希望の職種で、しかも名のある企業。
夢と希望に満ち溢れ、その前途は揚々としていた。
 
しかし、ほどなくして、職場の人間関係に揉まれることに。
会社の方針は、「成果主義」の皮をかぶった競争主義で、同僚は「仲間」ではなくライバル。
そして、上司は、「指導管理者」ではなく、手柄は自分に、責任は部下に押しつける上官。
当時は、世の中に、「パワハラ」なんて言葉も問題意識もなく、黙って耐えるのが当り前の時世。
それに耐えられない者は、敗者として辞めていくか、出世コースから外れるしかなく、当人の精神は疲弊していった。
 
精神科にかかっても、薬を飲んでも、根本的な問題が解決しない以上、快方に向かうわけはない。
結局、入社後、一年を待たずして退職。
その後は、働くでもなく、学ぶでもなく、ただ、自宅で寝食を繰り返すばかりの日々。
当人の将来を考えると心配ではあったが、両親は、娘が元気を取り戻すことを一番に望んで、当人の休養生活を容認。
まだ歳も若く、「継続勤務していたとしても、いずれは“寿退社”したはず」と考え、また、「このまま再就職しなくても、いい縁談を探して結婚すればいい」と、楽観的に考えてもいた。
 
両親が、そんな“余裕”を持っていたせいもあったのだろうか、時間が経てば経つほど、当人と社会との距離は空く一方で、次第に、当人は家に引きこもるように。
そして、それは、日に日に深刻化。
当初は、ちょっとしたレジャーや散歩、買い物くらいなら一緒に外出していたのだが、それも減少。
そして、女性の夫(当人の父親)が亡くなったのを機に状況は一変。
女性の願いとは裏腹に、悪い方へ、悪い方へと転がっていった。
 
外に出ることも滅多になくなり、家の中でも、ほとんど自室にこもるように。
当人の部屋は二階の一室だけだったのだが、次第に専有面積を拡大。
いつの間にか、二階はすべて当人の占有スペースに。
そんなことより女性を戸惑わせたのは、当人の、人柄・人格が変わっていったこと。
それまで見たこともないような悪態をつくようになり、耳にしたこともないような粗暴な言葉を使うように。
意見でもしようものなら「クソばばあ!」と、平気で女性を罵った。
機嫌のいいときは一緒に食事をすることもあったが、逆に、ちょっとでも気に入らないことがあると、恐怖を感じるくらいに高圧的な態度をとり、ときには発狂したりもした。
そのうち、二階に上がることも拒み始め、女性は、階段の途中までしか上がれなくなってしまった。
 
食品や食材は、女性が、適当なモノを適当な量、買い揃えておく生活。
三食分だけでなく、菓子や飲料も。
冷蔵庫や棚に買い置いておくと、気ままに下に降りてきては、自分で勝手に調理して二階に持って上がるそう。
ティッシュやトイレットペーパー等の生活消耗品も同様。
たまには、当人が「〇〇が食べたい」「〇〇が必要」とリクエストしてくるようなこともあり、その場合は、それを買ってきていた。
洗濯物は、洗濯カゴに入れられているものを女性が洗濯し、乾いたものを当人が二階に持って上がるといったルーティーン。
ただ、外出着はないわけで、家着・寝間着・下着・靴下・タオルくらいのもの。
労力としては大したことはなかったが、女性にとっては、酷く虚しい作業だろうと思われた。
 
当人は、無職で無収入のため、生活費は、女性が全額負担。
「生活費」と言っても、土地・家屋は自己所有だから家賃がかかっているわけではなく、食費と水道光熱費がメイン。
あとは、医療費・保険料くらい。
外に出ないわけだから現金の必要性はなく、小遣いは渡しておらず。
ただ、ネットで購入されるマンガ書籍・DVD・ゲームソフト等の代金は、女性が払っていた。
また、家賃はかからずとも、土地家屋には税金や修繕費などの維持費はかかる。
女性には、いくからの年金収入があっただろうが、それだけでまかない切れるものではなく、貯えを切り崩しながらの生活であることが察せられた。
 
トイレは二階にあるものの、風呂・洗面所・台所は一階のため、当人は、その用のときだけは一階へ。
以前は、女性に連れられて精神科のカウンセリングに出掛けることもあったが、それも途絶えた状態。
つまり、当人が部屋を出るのは、食事とトイレと風呂のときくらい。
家から出るということはなし。
言い換えれば、「当人の留守を狙って二階を見ることはできない」「強引に二階に上がるしかない」ということだった。
 
当人の部屋をはじめ、二階には、たくさんのゴミが溜まっているそう。
うず高く積み上げられているようなことはないながらも、床は、大半覆われ、所々が見えているくらい。
たまに、当人の部屋を盗み見た女性の話と、当人の生活スタイルを勘案して、私は、部屋の模様を想像。
自分で外に出て何か買ってくることがないわけだから、部屋に溜まっているのは、女性が用意したモノに限られているはず。
つまり、ほとんどが、食品容器・菓子箱・菓子袋・ペットボトル・缶食等の食品系ゴミと思われた。
あとは、衣類や鍋・食器類くらいか。
ゴミの量は定かではなかったが、私が見たところで驚くほどのことではなく、“ありがちなゴミ部屋”になっているものと思われた。
 
一通りの話を聞いた私は、作業が可能かどうか判断しかねた。
また、費用がいくらかかるかも読めない。
具体的に話を進めるには、現地調査が必要であることを女性に説明。
そうは言っても、訪問したところで二階に上がれなければ意味がない。
当人とトラブルになることも避けたい。
考えれば考えるほど心配事がでてきて、それを吐露する様は、どっちが相談者なのかわからなくなるくらいだった。
 
女性によると、「言葉の暴力に耐えられれば大丈夫!」とのこと。
発狂したり暴言を吐いたりするのは日常茶飯事だけど、身体的な暴力に打って出ることはないそう。
何かしらの理性が働くのか、当人は、その一線は越えないらしい。
言葉の暴力にどこまで耐えられるか自信はなく、「殴られなければいい」ということも まったくなかったが、何らかのアクションを起こさなければ次に進めない。
他人に話しにくい家族の問題を打ち明けてくれた女性の期待に応えたい気持ちもあり、現地調査の日時を約束して、とりあえず最初の電話相談は終わった。
 
 
約束した日時に、私は女性宅を訪問。
そこは、「大豪邸」というほどでもないながら、広い土地に建つ大きな家。
寂れた感が強く、庭の手入れや、建物・外構のメンテナンスが疎かになっているのが気になったものの、想像していたより立派な建物。
門のインターフォンを押すと、「お待ちしてました・・・どうぞ・・・」との声。
自分の手で門扉を開け、庭を通って玄関へ。
内側から開いたドアの向こうには女性がにこやかに立っており、私を出迎えてくれた。
 
一階の広いリビングに通された私は、促されるまま、座り心地のよさそうな大きなソファーに腰を降ろした。
女性は、お茶の用意をしてから、ドアを閉め、私の向かい側に。
二階に声が届かないようにだろう、何やら悪い相談でもするかのような小声で
「お電話でお話しした通りのことですけど・・・」
と前置きして、話を始めた。
 
「一人娘」ということもあってか、女性夫妻は当人を溺愛。
「甘やかしすぎでは?」と自認するようなことも多々あった。
「本人のためにならない」と自重したこともあったが、可愛さ余って厳しくしきれず。
「甘やかし過ぎたんでしょうか・・・」
「ワガママな娘に育てたつもりはないんですけどね・・・」
と、女性は、悲しげな顔で、溜め息をつき、
そして、
「小さい頃は、おやつを渡しても“ママと半分ずつね”と言うような優しい子だったんですよ・・・」
「可愛らしかったあの頃のことが忘れられないんです・・・」
と、自嘲気味に微笑んだ。
そこには、この期に及んでも、当人を見放すことも、見捨てることもできない、深い親心があった。
 
親類縁者など、他に頼れる人はいないよう。
行政に相談しても、「プライベートの問題だから・・・」と聞く耳を持ってもらえず。
心ある人の中には、当人の説得を試みてくれた者もいたが、とんだ藪蛇に。
正論や理屈が通用するわけはなく、当人は激怒し、手が付けられなくなるくらい逆上。
誰彼かまわず怒鳴り散らすばかりで、何一つ聞こうとせず。
「警察呼ぶぞ!」と、実際に110番通報し、警察が駆け付けたこともあった。
 
 
女性は、悲壮感が漂うくらいの強い覚悟を持っていた。
「手を出したりはしてきませんから、本人のこと無視して下さい!」
と私に告げると、
「〇〇ちゃん(当人名)、これからそっちに行くよ!」
「もう、〇〇ちゃんの言いなりにはならないからね!」
と大きな声で宣戦布告し、二階への階段を登り始めた。
 
物音から、一階に来客があるのは当人も察知していたはず。
しかし、二階にまで上がってくるとは思っていなかったはず。
いきなりのことで慌てたのだろう、「親に対してそこまで言うか!?」と、憤りを覚えてしまうくらいの悪口雑言を女性に浴びせた。
話には聞いていたし、その覚悟もできていたつもりだったけど、その現実を目の当たりにした私は、不覚にも怯んでしまった。
しかし、そんなの慣れたことなのだろう、女性は一向に怯まず。
ドシドシと威圧するような足音を立てながら階段を登り続け、私も、ややビビりながら、その後に続いた。
 
二階に上がると、すぐに当人が視界に入った。
我々の行く手を阻むように仁王立ちする当人は、「いかにも」といった風貌。
久しぶりに目にする女性以外の人間(私)に、明らかに動揺している様子はあったが、目つきも顔つきも、体形も髪型も、服装も着こなしも、総じて、病的、危険な感じ。
そんな当人と、そんな修羅場に遭遇して導かれた答はただ一つ。
それは、「断念」。
女性の要望が強いことはわかっていたけど、当人を越えて前に進むことはできず。
調査は断念せざるを得ず、自ずと、それは、作業が不可能であることも示唆。
暴言だけでは済まされず、場合によっては、暴力事件、悪ければ刃傷沙汰も起こりかねず、そんなことになったら本末転倒。
女性の期待を裏切るようで申し訳なかったが、無理矢理介入して問題を引き起こすわけにはいかなかった。
 
女性は非常に残念がったが、私の立場も充分に理解してくれた。
で、結局、何の役にも立てないまま引き揚げることに。
帰り際、先々のことについて、役に立つようなアドバイスもできず。
また、気分が変わるような気の利いた言葉を残すこともできず。
私は、自分に対しての後味の悪さだけを残し、惜しまれつつ女性宅を後にしたのだった。
 
 
その後、女性親子がどうなったか、知る由もない。
ただ、悲観的に考えるのは私の悪い癖だけど、女性親子の生活が好転することは想像し難く、また、親子関係が好転することも想像し難く、
それでも、女性は、「娘を守りたい」という母心は持ち続けていくはずで、
しかし、そんな女性だって、確実に年老いていくわけで、そのうち、自分の力だけでは、自分の身も生活も維持できないようになってしまうのは明白で、
そうなると、当人は、どうなってしまうのか、
女性が亡くなって、相続した不動産を金に換えれば、最期まで食べていけるだけの糧は得られるかもしれないけど、社会性も生活力も失くしてしまった当人が、そういった術を使うことができるのか、
病気になったり介護の手が必要になったりしたときはどうするのか、
このまま、朽ちていく家屋の中で、ゴミに埋もれて野垂れ死んでしまうのではないか、
自分が死んだ後、そんな風になることを想像すると、死ぬに死ねない、
老い衰えていくばかりの身体、朽ちていくばかりの家屋、減っていくばかりの貯え、好転の希望が持てない当人の人生・・・女性の苦悩は、察するに余りあるものがあった。
 
 
種類は違えど、精神を病んでいる者としては、私も同類。
そして、引きこもり経験のある私は、一方的に当人を非難できる立場にはなかったし、そんな気も起らなかった。
自分にぶつけきれない鬱憤を女性(母親)にぶつけていい理由にはならないけど、「社会の落伍者」として生きていなければならないことの苦しみは私も理解できる。
非難されても仕方がないことは当人もわかっているはずで、それだけ当人も苦しいはず。
ただ、下り坂で転がりはじめた石を止めるのは簡単なことではない。
いつかは、その気持ちが癒やされる日が来るのか、また、最期までこないのか、誰も知ることができない中で、ただ、一日一日、絶え間なく続く修羅場を、未来志向を捨てて生きるしかなく、まるで、死の際を歩かされるような人生を、死人のようにやり過ごしていくしかない。
 
 
六月中旬、梅雨の候、どんよりした天気が続いている。
梅雨寒の日でも、ちょっと身体を動かしただけで、途端に汗が流れる。
毎年のことながら、この蒸し暑さには閉口する。
とりわけ、一段と体力が衰え、今年は精神も傷んでいるので、一層、堪える。
舞い込む現場も、徐々に修羅場と化してきている。
更に、深刻化する猛暑の夏を想うと、辟易するばかりで、愚痴をこぼす元気さえなくなる。
何もかも放り出して逃げだしたくなる。
 
とにもかくにも、この先も、いくつもの修羅場が私を待っているはず。
まるで、誰かが意図して用意したかのように。
私を打ちのめすためのものか、それとも、一つ一つを乗り越える力をつけさせるためのものかわからないけど、生きているかぎりは、それを受け入れるしかない。
 
ただ、私は、「乗り越えればいいことがある」なんて、安直に受け入れられるような性質ではない。
それでも、「乗り越えればいいことが待っている」という望みは持っていたい。
それが嘘だとはかぎらないから。
本当に、そうなのかもしれないから。
 


お急ぎの方は 0120-74-4949へご連絡ください
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だらしな

2022-04-18 07:00:00 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
春本番を迎え、桜の樹はとっくに葉桜になっている今日この頃。
夏のように暑い日があったかと思ったら、冬のように寒い日があったりして、身体が困惑気味。
ただ、そんなことを他所に、自然の草木は次のステップへ。
鮮やかな新緑が、下を向きがちな視線を上に向けてくれている。
桜花にかぎらず、新葉の黄緑色も、生命力が漲っている感じがして、淀んだ空気を洗ってくれるような新風が心の中にスーッと入ってくるような気がする。
そして、瞬間的にでも、暗い心に光が差し込み、ちょっとだけ明るくなれるような気がする。

コロナは、落ち着いているのかいないのか、よくわからない状況だけど、昨年に比べ、今年は、花見に出かけた人も多いだろう。
私は、花見はしなかったけど、ウォーキングコースにある桜や、現場の街々で見かけた桜を愛でては、「元気だしたいな・・・」と思ったりした。
そして、桜の下にレジャーシートを敷いて楽しんでいる人達を見かけて、幸せな気分をおすそ分けしてもらったりもした。

私は、花見酒こそ飲まなかったものの、精神不安も相まって、今は、毎晩、だらしなく酒を飲み続けている。
意志を貫き、頑なに休肝日を設けていた自分が信じられないくらいに。
「このまま生きていて、何かいいことあるだろうか・・・」
「この先、何か楽しいことあるだろうか・・・」
等と、ネガティブな思考に苛まれてばかり、何の楽しみもない日々で、晩酌は、心がわずかでも軽くなるひととき。
アルコールで、一次的に憂鬱をごまかしているだけであることは、自分でもわかっているのだけど、それでもいいから、私は、少しでも、暗い気分がまぎれる時間がほしいのだ。

私は、覚醒剤や危険ドラッグの類には縁がないし、縁を持とうとも思わないが、仮に、その味を覚えてしまったら、無限の深みにハマっていく可能性が高い。
そういう薬物を使っている人を擁護するつもりはないし、精神救済を求めて使用する人がどれくらいいるのかわからないけど、手を出してしまうその気持ちがわかるような気がする。



不動産管理会社から現地調査の依頼が入った。
現場は、利便性のいい街中に建つ賃貸マンション。
状況は、いわゆる「ゴミ部屋」。

実のところ、この案件は、この数週間前に調査依頼が入って日時設定をした後にキャンセルを喰っていた。
住人の都合で、それも、二度も。
だから、今回、調査依頼が入ったとき、少々不愉快に思った。
言葉に出さずとも、その想いは伝わったようで、管理会社の担当者は、
「今度は、留守の場合でもスペアキーを使って入室することを了承してもらっていますから・・・」
と、気マズそうに私に説明。
ただ、三度目の正直、そういうことなら話は変わってくる。
私と担当者は、お互いの都合を合わせて、調査日時を設定した。

調査の日は平日の昼間。
待ち合わせた担当者は、
「度々キャンセルになってすいませんでした・・・キチンと約束を守らない、だらしない人でして・・・」
と、恐縮した面持ちで私にペコリ。
一方の私は、
「どんでもないです・・・○○さん(担当者)のせいじゃありませんから・・・」
と、その時は、かなり気を悪くしたクセに、社交辞令の笑顔をつくって水に流した。

住人は仕事に出ており留守で、玄関は、担当者が持参したスペアキーで開錠。
ドアを開けると、ゴミ部屋特有の異臭がプ~ン。
中を覗くと、その先は、完全なゴミ部屋。
床はゴミで埋め尽くされ、足の踏み場はなし。
我々は、誰もいないはずの部屋に「失礼しま~す」と声を掛け、薄暗い中を、ゴミを踏みながら入室。
玄関の入り口から廊下にかけては、比較、は薄い堆積だったものの、奥に進むにしながって急勾配に。
担当者は、平坦なところでストップ。
“山登り”は私の役目で、そこから先は、私一人で前進した。

私は、ポイント・ポイントのゴミを引っくり返して、ゴミの内容を確認。
食品系ゴミを中心に、日常生活で発生する色々なモノが混合。
下の方は、かなり圧縮された状態で、固く堆積。
結局のところ、部屋の方は山積み状態で、多少の高低凹凸はあったものの、壁の半分くらいの高さまで埋め尽くされていた。

管理会社は、当室がゴミ部屋になっていることを、もう何か月も前から把握。
住人に対し、賃貸借契約で決められた条項、「善良な管理者としての義務」に著しく違反しているため、すみやかに片付けるよう通告。
それを受けた女性から反論はなく、承知した旨の返答。
しかし、それは口だけ。
再三の催促にも返事をするだけで、いつまでも、実際に行動を起こさず。
そんなイタチごっこが続いて堪忍袋の尾を切らした管理会社は、とうとう強制退去を前提として警告。
ここまできて、さすがに慌てたのだろう、女性は降参。
部屋のゴミ撤去は、管理会社主導で算段される手はずとなり、当方が参上することになったのだった。

女性が自発的に動かなかったせいだろうか、一連の契約手続きは、すべて、管理会社が女性を代理するかたちで行われた。
ただ、作業日だけは、女性の休暇日に設定。
ゴミ部屋とはいえ、中には、引っ越し先に持っていくものや大切なものもあるはずで、取捨錯誤を防ぐため、女性の立ち合いが必要だったから。
あらかじめ「捨てない物リスト」を作ってもらいこともできたけど、それでも、こういう部屋では間違いが起こりやすい。
例えば、「きれいな服は捨てない」という要望があったとして、その「きれいor汚い」の判断に困るわけ。
当然、作業上の免責事項として「貴重品・必要品等の取捨錯誤・滅失損傷は免責」と、契約書面に記載はするけど、想定されるトラブルは未然に防ぐに越したことはない。
とにかく、本人がいてくれさえすれば、その辺の問題は起きないのである。

女性について把握していたのは氏名のみ。
顔も歳も知らぬまま、作業の日を迎えた。
その日、約束の時刻に1Fエントランスのインターフォンを押すと、約束通り女性は在宅。
私は、その時に、はじめて女性の声を聞いたのだが、礼儀正しく言葉遣いも丁寧で、抱いた印象は、「聡明な人」。
私は、開けてもらったオートロックをくぐり、女性の部屋へ。
玄関から出てきた女性は、私が想像していたより若く、外見も清楚。
わかりやすく言うと、「とても、ゴミ部屋をつくるような人には見えない」といった雰囲気。
また、「とても、ゴミ部屋に住んでいるようには見えない」清潔感のある服装で、少し驚いてしまった。

ゴミの荷造・梱包作業を担う要員として、二人の女性スタッフを入れたのだが、それだけでは手が足りず、私も室内作業へ。
しかし、女性の心情を察すると、ただでさえゴミ部屋は恥ずかしいだろうに、下着や使用済みの生理用品等、羞恥心を更に刺激するもの混ざっており、気遣いの足りなさを申し訳なく思ったりもした。
だからこそ、好奇心や野次馬根性を言葉や態度にだすのは禁物で、そこは、あえて事務的な物腰で、淡々と作業することを心掛けた。

年齢・学歴・勤務先・・・探るつもりは毛頭なかったのだが、ゴミの中には、女性の素性がわかるものがたくさんあった。
見た目通りで「中年」というには早い年齢、東京の難関私立大学を卒業、そして、TVのCMでも見かけるような某大手企業に勤務。
比べる必要は何もないのだけど、その社会的ポジションは羨ましいかぎり。
私なんか、逆立ちしても入れない世界で生きていた。

一方、生活する部屋はゴミだらけ。
親しい友人や彼氏がいたとしても、とても中に入れることはできない。
となると、そこまで親しく付き合える人はいなかったのか・・・
とにもかくにも、周囲の人間は、女性がゴミ部屋で暮らしているなんて、微塵も想像していなかっただろうと思う。

作業を注文した側・金を払う側とはいえ、自分が溜めたゴミを他人に片付けさせることに後ろめたさがあったのか、はじめ、女性は我々に対して遠慮がち。
したがって、当初の会話は、作業上で必要な最低限のことのみ。
しかし、女性が開き直ってくれたのか、我々と打ち解けることができたのか、作業をすすめるうちに世間話や雑談めいた会話が増えてきた。
こちらから、いちいち質問するより、女性の方から細かな要望を伝えてもらった方が作業は楽で、女性も、遠慮せず要望を言ってくれるように。
それにより、ゴミが掘り返されていく部屋の光景とは真逆に、雰囲気は和やかになり、随分と作業もしやすくなった。

作業を進める上で困難なこともあった。
ゴミ下層は、それほど固くは圧縮されていないと判断していたものが、想像以上に固い層となっていた。
また、ゴミを撤去した後に現れた床の一部、台所床の一部と浴室前の廊下の一部は著しく汚損。
床に固く貼りついたゴミを剥がし掃除するのには、結構な手間を要した。
ただ、内装汚損について、全体的には予想よりはるかに軽症。
居室の方は、ほぼ無キズで、簡単な拭き掃除できれいに。
また、キッチンシンク・トイレ・浴室は、ほどほどに汚れたいたけど、ここもクリーニングで復旧。
「経年劣化」「通常損耗」と言っても充分に通用するくらいきれいになった。

作業が完了して後、私と女性は二人で部屋を確認。
長く悩み続けていたゴミ部屋が片付いたことと、内装が心配していたほど傷んでいなかったことによる安堵感がそうさせたのだろう、女性は、きれいになった部屋を見て安堵の笑顔をみせてくれた。
そして、
「ここまできれいになるなんて思っていませんでした・・・ありがとうございました!」と、嬉しそうに礼を言ってくれた。
私の方も仕事の礼を言いながら、
「余計なお世話かもしれませんけど・・・部屋にゴミを溜めたことがある人は、同じことを繰り返す傾向が強いようですから、引っ越し先では気をつけてくださいね」
と、柔らかく進言。
すると、女性は笑顔を曇らせたかと思うと、急に泣き出してしまった。

「ただ、どうしても片付けられない人っていますから、危ない感じがしてきたら、少量のうちに連絡ください」
「そうすれば、今回のような大事にはなりませんから」
そう言うと、女性は泣き笑いの表情でうなずくように、ペコリペコリと私に頭を下げてくれた。
その嬉しそうな笑顔と理由のある涙は、女性の役に立てた名誉なことにも感じられ、私も嬉しく思った。

人間、誰しも、事情も心情も、本人にしかわからないことはある。
他人には小さなことに見えても、自分にとっては大きな悩みであることも・・・
他人には簡単なことでも、自分にとっては難しく感じられてしまうことも・・・
女性にゴミを溜めさせたのは何か・・・
何が女性にゴミを溜めさせてしまったか・・
女性が抱えている重荷が何であるかわからなかったけど、私は、そこに、他人には決してわかりえない、また、自分でもわからないかもしれない“自分の理由”があることを感じ、ある種の同士的な想いと同情心、そして、応援したい気持ちを抱いたのだった。


種類や強弱は異なるけど、だいたいの人間は、だらしない一面を持っていそう。
「酒にだらしない」「金にだらしない」「異性にだらしない」「時間にだらしない」「身体がだらしない」等々、自らを省みてみると「自分は○○がだらしない」と思い当たることが、一つや二つはあるのではないだろうか。

振り返って見ると、随分と、私もだらしない生き方をしてきた。
自分でも、悲しくなるやら、呆れるやら・・・
自分をぬるま湯に浸けておくことが大好きで、自分に厳しくすることが大嫌い。
「特掃隊長って、自分に厳しくがんばってるんじゃない?」
と思ってくれる人がいるかもしれないけど、実のところ、生きるために仕方なくがんばっているだけ。
能ナシの私は、他に、がんばりようがないだけのこと。
決して、褒められたものではない。

しかし、ある程度のだらしなさは人間味の一つ。
社会や人の迷惑をかけてはいけないけど、いい意味で、皆お互い様、人間の面白さ、社会の潤滑油だったりする。
五十路をとっくに越え、残された月日が少ない私にとっては、今抱えている このだらしなさは、もう、一生の携行品になるだろう。
捨てたくても捨てられないし、今更、捨てなくていいものかも?
誰かに迷惑をかけないよう努めれば、このまま生きていってもいいのかも?
それくらいに開き直れる図太さがあれば、こんなに苦悩しないで済むのかもしれない。

そんなことを考えながら、私は、今夜も酒をあおり、懸命に眠るのである。
明日も、“自分の理由”に抗うために、“自分の理由”に負けないために。



-1989年設立―
日本初の特殊清掃専門会社
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崖っぷち

2020-06-18 09:01:26 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
ある日の深夜、電話が鳴った。
「掃除をお願いしたいんですけど・・・」
声の感じからすると、30代くらいに思われる女性。
「知り合いに部屋を貸していたら、汚されてしまって・・・」
訊きもしないのに、そういって語尾を濁した。

これまで、似たような電話を何本も受けてきた私は、“知り合いに部屋を貸していたら・・・”というセリフにピンときた。
これは、よくあるパターン・・・ほとんどのケースで、それはウソ。
昼間でもいいはずなのに、間夜中にかけてくるというのも不自然。
他人がしでかしたことなら尚更。
実のところ、ゴミ部屋をつくったのは、知り合いでも何でもなく本人。
それが、羞恥心に耐えられず、第三者のフリをするのである。
ただ、そこのところは、契約前の電話問い合わせに影響するものではないから、真に受けたフリをして話を聞くのが、ある種の礼儀なのである。

また、夜中の電話は、“急を要している”ということを示唆している。
緊急事態でなければ、寝静まっている夜中にわざわざ電話してこなくてもいいはずだから。
もちろん、その事情は色々ある。
腐乱死体、自殺、汚物嘔吐、汚水漏水、動物死骸、トイレ掃除etc・・・
中には、「ゴキブリが出た!」といった、呆れた電話もある。
夜遅く、飲んだ帰り道、もよおしてきてしまい、どうしても我慢ができず、通りすがりのマンションの物陰で脱糞していたところを住人に見つかって警察に通報された人もいた。
で、住人から「すぐに掃除と消毒をしろ!」と言われて、当方に電話してきたのだ。
悪意ではなく便意が問題を引き起こしたわけで・・・本人は困り果てているにも関わらず、その時は、同情心とおかしさが同時に込みあげてきた。

ただ、この女性の依頼はこの類にあらず。
経験にもとづいて推察したところ、現場は“ゴミ部屋”。
しかし、ゴミなんて、数週間くらいでは、たいした量にはならない。
相当な量に達するには、相応の年月・月日がかかる。
長期間で出来上がるものだから、“急を要する”なんてことは考えにくい。
とはいえ、それが、いきなり、緊急事態に陥ることが、ままあるのである。

それは、建物設備の定期点検。
分譲・賃貸問わず、一般のマンションならどこでも行われているもの。
そして、そういうものは、事前に通知される。
共用部の場合は、理事会を通して各住人に口頭伝達されると同時に、エントランスの掲示板やエレベーター内に掲示告知される。
そして、専有部の場合は、当該住人に個別に通知され日時調整がなされる。
マンション全体のメンテナンスに関わることだから、住人は個人の事情でそれを拒むことはできない。
点検業者と都合を合わせての在宅が原則だけど、仕事等で在宅できない場合は、入室承諾書等を書いて入室を許可する運びとなる。

しかし、女性は、これを無視し続けてきたのだろう。
一方の管理会社だって素人ではなく、これを不審に思わないはずはない。
頑なに点検を拒み続けるには、それなりの理由があることくらい容易に想像できる。
そして、その“理由”とは、“部屋が、人に見られたらマズイ状態になっているから”ということも。
漏電・漏水・ペット・異臭騒ぎetc・・・事故でも起こって、管理責任を問われると管理会社も困る。
必要に迫られた管理会社は、結局、「不在の場合は合鍵を使って入る」と、女性に最終通告を発したものと思われた。

最後通告は、入室予定の何日も前、余裕をもった日付が設定されたはず。
“通告の翌日に入室”なんて急なことはなかったと思う。
しかし、女性の怠惰な性分は変わらず。
一時的に慌てただけで、直ちにアクションを起こすことなく、その結果、ジリジリと崖っぷちへ。
そして、ギリギリになってようやく尻に火がつき、ネット検索。
作業してくれそうな業者をシラミ潰しに当たり、そうしてヒットしたうちの一つが当社だったのだろう。

“年貢の納め時”がきたのか・・・
ゴミ部屋が発覚すると、大家や管理会社を巻き込んでの大騒動に発展する。
早急にゴミを片づけさせられることはもちろん、清掃消毒、リフォーム等、原状回復の責任を負わされ、挙句には追い出されてしまう。
そういった一連のプレッシャーが圧し掛かっているだろう、女性は、ヒドく焦っている様子。
「いくらかかりますか?」
「いつ来てもらえますか?」
と、しきりに費用と工期を訊いてきた。

現場を見ないで作業内容や料金を提案することは困難。
また、現場を見ないでの見積は、後々でトラブルが発生するリスクが高い。
で、当社の場合、余程の簡易作業でないかぎり電話見積には応じていない。
そうは言っても、大まかな作業内容や概算費用くらいは応えないと、問い合わせてきた相手の期待を裏切ることにもなりかねない。
そのため、相手の要望によっては、電話の段階でも、現場の状況をできるかぎり詳細に把握する必要がある。
この案件のそうで、現地調査・見積提出をする以前に、要望の作業が責任をもって施工できるかどうかも判断しなければならなかったので、私は、その事情を説明したうえで、現地の詳細を聞き出そうと、細かな質問を投げかけた。
もちろん、女性が第三者であることを鵜呑みにしたフリをしたままで。

この女性もそうだったが、こういったケースの案件で、大方の人は、はじめのうちは軽症を臭わせる。
これには、ある種、交渉に入る前のウォーミングアップのような意味があり、業者が、どういう反応を示すのかを確かめるため、あと、早い段階で断られないようにするためだと思われる。
女性も、始めは、「浴室とトイレがちょっと汚れてまして・・・」と控えめな説明からスタート。
しかし、私の想像通り、それは、質疑応答をすすめるにしたがって変容。
これまた、私の想像通りの実状が、徐々に明るみになってきた。

やはり、状況は深刻。
部屋には、長年のゴミが堆積、結構なゴミ部屋になっている模様。
床が見えていないことはもちろん、結構な高さまで積み上がっているよう。
食べ物ゴミ、衣類、雑誌等々・・・本来なら、日々、家庭ゴミとして出されるべき生活ゴミが、そのまま溜まっていた。
とりわけ深刻なのが、トイレと浴室。
糞尿系の汚物や生理用品等、不衛生度が高いゴミはそこへ集められていた。
ビニール袋に入れた糞尿が、いくつも突っ込んであるらしい。
相当量に達しているだけでなく、悪臭も充満。
破れたビニール袋もたくさんあるはずで、かなり悲惨な状況になっているのは容易に想像できた。

“ゴミを片づけさえすれば問題は解決する”と思っていたら大間違い!
ゴミを撤去しても、部屋は、再び以前のような姿で現れることはない。
床も壁も内装建材には、相応の汚染・汚損が残り、水廻りもサビ・カビだらけでボロボロ。
浴室・トイレにいたっては、腐り果てていることだろう。
しかし、その辺をリアルに想像できる人はいない。
女性も、かかる費用と工期以外のことは、鼻で笑うくらい簡単に考えているようだった。

一つのウソをつき通すには、その周囲を多くのウソで固めなければならない。
その辺の詰めが甘かった女性は、時々、自分が“第三者”であることを忘れたかのように、そこで生活していた者でしかわかり得ないようなことも口にした。
通常、他人がつくったゴミ部屋について詳細に回答できるわけはなく、もうバレバレ。
仮に作業することになった場合、契約書には実名を書いてもらわなければならないし、室内には個人情報がタップリ詰まっているはず。
恥ずかしいのはわかるけど、作業に入ればすぐバレる。
ウソは恥の上塗りになるだけ。
いずれ恥ずかしい思いをすることになるのだから、始めからウソをつかないことが肝要。
それでも、女性は正体がバレてないつもりのようで、時々、思い出したように“知り合い”の悪口を織り交ぜて被害者を装った。

「現金での分割払いではできますか?」
状況からみて、結構な費用になりそうなことは覚悟しているよう。
しかし、たいした預貯金もなさそうで、どうも、クレジットカードも使えないよう。
精神衛生上だけではなく、与信上も問題のある人物だった。

「周囲にわからないようにできますか?」
荷物は、どうみてもフツーの家財には見えないはず。
糞尿系汚物や腐敗物も多くあるはずで、悪臭も放つはず。
管理人に問われてウソをつくと無用なとばっちりを受けるかもしれず、自己防衛上、それは困難だった。

「明日中・・・いや、もう0時過ぎてるから“今日中”ってことになるのか・・・今日中にできますか?」
“点検が入るのは明日”ということなのだろう。
切羽詰まっていることが伺えたが、現地調査もやっていない段階で作業日は決められない。
事故トラブルなく安全に施工しようと思えば、無理な話だった。

女性と会ってもいないし、現場もみていない上は、安請け合いはできない。
作業日時は、マンション管理人の勤務日・勤務時間に合わせる必要があるかもしれない。
管理規定で、引越し作業等は事前の申請・許可が必要かもしれない。
車両を停めるにも事前予約・許可が必要かもしれない。
1Fエントランス・通路・エレベーター等の共用部にどの程度の養生をする必要があるのかも判断不能。
相当の不衛生物もあるわけで、無用なトラブルを招かないため、作業を行ううえで必要な諸々のことを、管理人と打合せる必要がある。
私は、「現地調査→見積提出→契約→マンション側との打ち合わせ→施工」といった流れが必要かつ重要であることを説明し、それを理解してくれるよう促した。

しかし、女性は、理屈としてそれを理解できても感情が受け入れないよう。
“そんなことやってるヒマはない”とでも言いたげに、少しイラついた感じで
「仕事が忙しくて、明日しか時間がないんです」
と、お得意のウソっぽい返事。
その雑な考え方に危うさを感じた私は、結局、この案件から降りることに。
「ご期待に沿うことができず申し訳ありません・・・」
そういって電話を終えた。


その後、女性はどうしたか・・・
多分、その後も寝ずにネットを検索して、やってくれる業者を探したことだろう。
女性の要望に応えられる業者がいたかどうかは知る由もないけど、普段からキチンとした仕事をやっている業者は請け負わない思う。
仮に施工業者が見つかったとしても、施工条件も厳しく安易度も高い仕事なわけだから、高額な料金を見積もられた可能性が高い。
女性は資力が乏しいようだから、その辺のところは引っかかっただろう。

可能性として高いのは、結局、どうすることもできず朝を迎え、何も策を打つことなく予告通り点検業者に踏み込まれた・・・
そして、私が想像したような大騒動になった・・・
同時に、女性は、“もっと早く手を打っておくべきだった!”“その前に、日常でゴミをキチンと片づけていればよかった!”と、自業自得を痛感しつつ、後悔の念に苛まれた・・・
しかし、もはや手遅れ・・・自分を甘やかしてきたツケを払うかたちで、厳しい現実に苦悩することになったのではないかと思う。


やらなければならないことを放っておいて、期日ギリギリなって慌ててやる。
どうせやらなければならないことなら、さっさとやってしまった方がいいに決まっているのに。
しかし、自分の怠け心がそれを邪魔する。
そのうちには、自分が自分に、都合のいい言い訳をし始める。
もっといくと、やらなくても済むような逃げ道を探し始める。
こういう類のことは、多かれ少なかれ、誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。
面倒臭がりの私も、これまで幾度も、自分で自分を崖っぷちに追いやったことがある。
「学習能力がない」というか、「教訓を生かせない」というか、懲りずに何度も。

一方、自分に起因しないことで崖っぷちに立たされることもある。
このコロナ渦がまさにそう。
今、これで苦境に陥っている人はあまりに多い。
飲食・レジャー・観光・イベント・エンターテイメント・スポーツ・・・多くの業種業界に多大な悪影響を及ぼしている。
社会の底、世間の陰、世の中の隙間で小さく生きている私にさえ影響があるのだから、事態は深刻だ。

これからくる第二波・第三波・・・
それがどんな影響を及ぼすのか、考えると恐ろしい。
だけど、私なんかよりもっと深刻な状況で戦っている人達がいる。
顔も名前も知らない多くの人達が苦境と戦っていることを思うと、心細さが薄れ、心強さを感じる。

「人生なんてアッという間!」
「崖っぷちの人生でも死ぬまでは生きられる!」
「開き直って闘志を燃やそうじゃないか!」
今、生きるために必死に戦っている“仲間”と、戦うことに怯えている自分にそう訴えたい、人生 黄昏時の私である。




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夢のカケラ

2017-08-16 08:38:17 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
八月も後半に入るというのに、相変わらず、梅雨のような天気が続いている。
しかし、専門家によると、これでも“異常気象”というほどではないらしい。
でも、何だか おかしな感じがする。
そうは言っても、悪いことばかりではない。
常々不眠症に悩まされている私でも、雨が降っているとよく眠れるから。
気圧のせいなのか湿度のせいなのかよくわからないけど、何故だか昔からそう。
ただ、その分、朝がツラい!
普段、寝起きがいい私も なかなか起きられず、いつもより寝坊してしまうこともしばしば。
もちろん、仕事に遅刻するようなヘマはしないけど、ショボショボする眼とボーッとする頭が朝の私を鈍らせる。

そんな今日この頃、お盆休みが終わった人、また、終わる人も多いだろう。
家族サービスや渋滞混雑で、仕事より疲れた人もいるだろう。
それでも、やはり、長期休暇の後の仕事は憂鬱だろうか。
ま、盆休も正月休もない私には無縁のこと。
長期休暇なんて夢のまた夢。
ただ、そのおかげで、休み明けの鬱に遭わないですんでいる。
また、ここ数日は一部の商業地域を除いて都内は道路が空いていて快適だった。
「いつも、このくらい空いてればいいのにな・・・」
そんな風に思いながら、お盆休みなんかない私も、その平和な雰囲気だけは楽しんだ。



出向いた現場は、郊外の賃貸マンション。
間取りは1K。
依頼者は若い女性。
依頼の内容はゴミの片づけ
そう・・・女性の自宅はゴミ部屋となっていた。

主なゴミは食べ物・飲み物関係。
そこへ、雑誌・衣類・生活消耗品等が混ざっている感じ。
「山のように積まれている」というほどではなかったが、床は見えておらず、そこそこの厚みをもって堆積。
ともなって、ゴミ部屋特有の異臭も充満。
特掃隊長の腕が鳴る前にガス警報器が鳴りそうなくらいだった。

また、台所シンク・浴室・トイレ等の水廻りもヒドい有様。
掃除なんてまったくしていないようで、どこもかしこもカビだらけ垢だらけ。
女性がこれを日常生活で使っていることを思うと、こっちが恥ずかしくなるくらい。
“女=きれい好き”といった男の先入観(エゴ?願望?)を持ち出してしまうと、女性の顔を見て話すのが躊躇われるくらいだった。

ただ、そんな状況に驚いたり顔を顰めたりするのは無神経だと思った私は、あえて表情を変えず、淡々とした口調でコメント。
そして、率直な感想を口にしながらも、針の筵(むしろ)に座らされているかのように表情を強張らせる女性が気の毒に思えた私は、
「でも平気ですよ・・・もっと凄いとこ、たくさんやってきましたから・・・」
と、自分なりの優しさをそっと後付けした。

そうは言っても、状況は、ライト級より重め。
したがって、見積もった費用は、まあまあの金額になった。
「やっぱり、それくらいになりますか・・・」
「ちょっと厳しいです・・・」
おおよその金額は覚悟していたものの、それが現実とわかり、女性は、もともと曇っていた表情を更に曇らせた。

事情をきくと、女性は、学生ではなく社会人。
しかし、定職には就いておらず。
派遣のアルバイトをしながら生活。
ただ、それは、何らかの目的があってのことのようだった。
しかし、収入は不安定で、貯えもほとんどなし。
家賃や公共料金の滞納はなさそうだったが、経済的に逼迫した生活を送っていることは容易に想像できた。

当方としてもビジネスとして成り立つ範囲内なら値引きにも応じる。
しかし、女性の資力は見積金額と随分かけ離れており、とても そこまでの値引きに応じることはできず。
当然、最終的に折り合わなければ、契約はできない。
“ここは仕事にならなそうだな・・・”
私は、内心でそう諦めながら、
「でも、キャッシングとか、変なところで借りたりするのはやめたほうがいいですよ!」
「その気になれば、自分で片づけることもできるはずですし・・・」
と、親切心を押し売り、足労が無駄になった自分を慰めて現場を後にした。


それから、二年近くが経った頃、会社に現地調査の依頼が入った。
依頼者は私の名を挙げ、
「以前、見に来てもらったことがある」
「もう一度、見に来てほしい」
とのこと。
会社からその報を受けた私だったが、あちこちの現場を走り回り、色んな人と関わっているため(おまけに記憶力も悪いため)、すぐには、その依頼者や現場のことを思い出すことができず。
ただ、自ずと 今回も私が出向くことに。
「“流れた”と思っていた仕事が二年近くもたって舞い戻ってくるなんて・・・先のことはわからないもんだよな・・・」
私は、そんな些細なことに人生の機微を重ねながら、事務所の壁にあるスケジュール表に現地調査の予定を書き込んだ。

現地調査の日。
建物を確認すると、その瞬間、それまで何も思い出せなかった私の脳裏に、多くのことが蘇ってきた。
同時に、二年近く経って部屋がどうなっているのか、野次馬根性に近い興味も湧いてきた。
それから、暗かった女性のことも思い出され、それに合わせるため、私は、自分の明るさも暗めに調節。
そうして、やや緊張しながらインターフォンを押した。

女性は、すぐに玄関を開けてくれた。
そして、私の顔を見るなり、旧知の友に再開したときのように、照れくさそうな笑みを浮かべた。
私の中で、女性については暗い印象しか残っていなかったため、その笑顔は意外なものだったが何だか嬉しいものでもあった。
そんな雰囲気に安心した私も笑顔を返し、今回は、淡々とした姿勢をあらためて感情ある人間味を醸し出した。

幸か不幸か、部屋の状況は大きく変わっておらず。
ただ、二年近くが経過していた割にゴミは増えておらず。
水廻りは相変わらずの汚さだったが、ゴミが詰められたゴミ袋が十数個あり、女性が自らの手で片づけているような形跡が残っていた。
そして、女性自身も、その労苦を やや誇らしげに私に話してきた。

見積金額は、女性の労苦を勘案し、前回より若干低めに。
それは、女性の許容範囲内だったようで快諾
ただ、女性の経済力を知っていた私には、精算について疑義が残った。
通常、代金は、作業が終わってから銀行の会社口座に振り込んでもらうことが多いのだが、女性の場合、その辺のところの信用度が低い。
作業が終わった後で値引きを要望されたり、不払いの問題を起こされたりしたらたまらない。
だから、作業後、現地で全額現金精算させてもらうことを条件に契約を結んだ。

女性は、相変わらず、派遣アルバイトで生活。
収入は低く、しかも不安定。
ただ、実のところは、実家の親にいくらか仕送ってもらって生活を成り立たせていた。
そして、今回の費用も、「自分の資力では賄えないので親に出してもらう」とのこと。
それを聞いた私は、瞬間的に複雑な心境に陥った。
が、当方にリスクがあるわけではないので、余計なことは考えずビジネスとして割り切ることにした。


職業は派遣アルバイト。
生計は親の仕送りがないと成り立たない。
家はゴミ部屋。
ルーズな人間・だらしない人間として世間は扱うだろう。
かくいう私も、そういう見方をする。
しかし、そんな女性でも、必死に夢を追いかけていた時期があったよう。
夢見た職業があったよう。

しかし、理想と現実は違ったのだろう。
理想を甘く描きすぎていたのか・・・
現実が厳しすぎたのか・・・
スタート地点に到達することさえできなかったのか・・・
チャレンジするチャンスさえ掴めなかったのか・・・
夢は破れ、それを追うことも諦めてしまったようだった。

そんな女性には、徐々に、ここでの生活の限界が見えてきた。
今はまだ若くとも、時がたてば年をとる。
親も老いていき、仕送りも永久には続かない。
ここにいては、片づけられない習性も変えられない。
結局、親の勧めもあって、女性は、この部屋を引き払って実家に戻ることにしたよう。
そして、夢から離れた定職に就くことを志すよう。
生きる環境を変えて、生き方をリセットするつもりのようだった。


人生、思い通りにならないことはたくさんある。
思い通りになることより、思い通りにならないことのほうが多いかもしれない。
それでも、人は、岐路に立つ度に、次の道を取捨選択して歩いていく。
生きているかぎり、生かされているかぎり、それが不本意な道でも、失望の道でも進んでいかなければならない。
そして、それが人を育み、人生を彩る。

ただ、夢を持ったこと、夢を追いかけたことは無駄ではない。
夢に破れたことも無駄にはならない。
夢はなくなっても、そのカケラは残る。
涙して悩んだこと、汗して努めたこと、歯を食いしばって耐えたこと、勇気を振りしぼって挑んだこと、熱く燃えたこと・・・そのカケラは残る。
そして、それは、次の道の歩みを強めるバネになる。


作業後の私は、汗と脂と汚れにまみれて疲弊。
それでも、無事に終わった安堵感と ささやかな達成感と 心地よい疲労感が心身を覆った。
そして、領収証と引き換えに受け取った紙幣を数えながら、
「ありがとうございます・・・これで、なんとか今月も食べていけますよ」
と冗談を言う余裕も生まれていた。

傍らに立つ女性は、その時、満面の笑顔を浮かべた。
部屋がきれいになった安心感、新しい道を決めた爽快感、新しい道に進む期待感、そういったものが女性に笑顔をもたらしたのかも。
また、女性の耳には、くたびれたオッサンの冗談が冗談に聞こえず、また女性の目には、その気の毒さの中にある幸福感が滑稽に見えたからかも。
とにかく、それは、私にとって、何かいいものを拾ったような喜ばしい笑顔だった。


夢をみたことがない私でも、人の夢に触れることはできる・・・
夢を持ったことがない私でも、夢のカケラを拾うことはできる・・・
そして、夢を追いかけたことがない私でも、誰かに夢をみせてあげることができるかもしれない・・・

汚仕事に次ぐ汚仕事でボロ雑巾のようになっている中年男だけど、私は、そんな夢をみているのである。



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つぼみ

2017-03-27 08:17:53 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
三月も下旬。
冬の残寒の中にも春暖が感じられるようになってきた。
が、今日の東京の空は、まるで真冬に戻ったかのような厳寒冷雨。
桜の開花は既に宣言されているものの、ぶり返す寒さの中で、まだ ほとんど蕾(つぼみ)の状態。
とは言え、それも丸々と膨らんでおり、それが、一花咲かせるのをワクワクしながら待ちわびているようにも見え、何とも愛らしい。

一昨年は、仕事が終わってから夜桜を見に出かけた。
そして、他の花見客に混じって、弁当を食べたり露店を見て回ったりした。
桜もそうだけど、露店というものは人々の笑顔が集まるせいか、見ているだけでも楽しい。
ささやかなレジャーだったけど、幸福が味わえたひとときだった。
しかし、夜桜と露店を両方楽しもうすると時間が限られる。
昨年は、残念ながら都合がつかず、夜桜現物は叶わなかった。
さて、今年はどうなるか・・・暗い仕事からの いい気分転換になるから、できることなら楽しく出かけたいものである。


ゴミ部屋の片付けについて、相談の電話が入った。
依頼の声は、若い男性。
現場は、街中の賃貸マンション。
間取りは1K。
男性の説明によると、どうもライト級っぽい感じだった。

“ゴミ部屋”と言っても、そのレベルは様々。
ヘビー級になると、玄関ドアの向こうにゴミ壁が立ちはだかっているなんてことも。
ゴミと天井との隙間が数十センチで、匍匐前進(ほふくぜんしん)せざるをえないこともある。
あとは、腐敗食品や糞尿汚物が大量で異臭が充満している部屋とか、害虫・害獣が大量発生している部屋とか。
それでも、ほとんどのケースで、部屋の主は、他人から察知されることなく、きれいな身なりで、人と同じように働き、自宅以外では一般人と同じように生活している。
唯一、一般の人と違うのは、“自宅がゴミだらけ”ということだけ。
その私生活は興味深いところではあるが、実体験がないため、具体的には想像しにくい。
トイレ・風呂・食事等、一般の人は思いつかないような工夫を凝らして暮らしているのだろう。
ひょっとしたら、涙ぐましい努力をしているかもしれない。

ただ、男性宅は、そこまでの重症ではなさそう。
また、現地調査が無料(原則)であることをいいことに、“冷やかし”(情報収集のみ)で呼ばれることも少なくないため、私は、
「依頼があれば喜んでやりますけど、自分でやれば余計な費用をかけないで済みますよ・・・」
と、親切心を匂わせて、それを逆手に男性の真意を探ろうと試みた。
すると、男性は、
「それはわかってるんですけど・・・なかなか難しくて・・・」
とのこと。
男性に“冷やかし”のつもりがないことがわかった私は、それ以上言うと“やる気のない業者”と思われかねないので、その話はすぐにやめた。

電話で判断するかぎり、部屋はライト級。
だから、私は、そんなに緊張もせず男性宅を訪問。
実際、男性の部屋は、「ゴミ部屋」と言えばゴミ部屋だったけど、ゴミは山にはなっておらず。
床は所々に見えており、“散らかっている部屋に多目のゴミがある”といった程度。
決して、ヒドい方ではなかった。

しかし、男性は、自らの手で自宅をこんな風にしてしまったことを気に病んでいた。
「自分が、こんなにだらしない人間だとは思っていなかった・・・」
「自分に嫌気がさす・・・」
と、深刻に悩んでいた。
そして、ネットでヘビー級のゴミ部屋を見ては、“自分の部屋もいずれこうなるんじゃないか・・・”と、恐怖感を募らせていた。

平日は、早朝に家を出て、夜遅く帰宅するのが常の生活だから、家事はろくにできない。
しかし、週末には休みがある。
そして、その都度、「片付けなきゃ!」と決意する。
が、その意気はすぐにしぼんでしまう。
家事をやるも、ある程度のところで力尽きてしまう。
そんなことを繰り返しているうち、部屋は、次第にゴミ部屋化していった。

男性は、もともと几帳面な性格で、きれい好き。
部屋の隅や家具の上に薄っすら積もるホコリや、床の髪の毛も気になるくらいに。
そんな自分が変わってしまった原因について、男性自身、心当たりがあった。
それは、仕事。
今の会社に転職したのを機に、生活が変わってきた。
仕事の疲労とストレスが、男性の私生活を蝕んだのだった。

もともと、男性は、前職に大きな不満を持っていたわけではなかった。
多少の労苦はあったものの、大組織の歯車として安定したサラリーマン生活を送ることができていた。
ただ、将来に対して失望感のような危機感のようなものも抱えていた。
そんな中、転職の誘いが舞い込んだ。
それは、先に移っていた元上司からのものだった。

「現状に感謝して満足するべき」or「現状に満足せず向上心を持つべき」
“30代”という“攻”“守”どちらにつくか悩ましい年齢も相まって、男性の中で その二つが戦った。
そして、仕事のやり甲斐と出世できる可能性を天秤にかけ、
「せっかくの人生、小さくても一花咲かせたい」
と、男性は、転職を決意したのだった。

移った先は、同業他社。
前職よりも小さな会社だったが、右肩上がりの成長過程にあった。
だから、将来に夢が持てそうに思えた。
実際、就職から程なくして、肩書も給与も前職を上回り、表面上、転職は成功に見えた。
しかし、目に見えないストレスは、それらをはるかに上回った。

肌に合わない社風、ウマが合わない上司や同僚。
同じ会社で働く仲間のはずなのに、陰口と陽口を露骨に使い分け、責任を擦りつけ合い、足を引っ張り合う・・・
業績を上げるため、会社側も意図的にそんな風土をつくっているような感もあり、何とも殺伐とした雰囲気・・・
そんな人間関係に嫌悪感を覚え、人間不信・・・ひいては自分不信に陥った。

そうは言っても、それなりの決意をもってした転職。
簡単に辞めることはできない。
また、再度の転職先にアテもなく、再び転職を試みるパワーも残っていない。
となると、当面は、我慢して続けるしかない。
結果、男性は、会社に大きなストレスを抱え、ゴミ部屋にも大きなストレスを抱え、そんな自分に対しても大きなストレスを抱えることになってしまったのだった。

それでも、男性は、
「会社が悪いわけでも、誘った元上司が悪いわけでもない」
「ただ、自分の考えが甘かっただけ、すべては自分の責任」
「人のせいにして自分を慰めても自分のためにならない」
と潔かった。
私なんて、自己中心的な独善者になりやすい。
何かあるとすぐに他人のせいにして、他人を悪人にしてしまう癖がある。
しかし、男性はそうではなかった。
そこのところに、“男性の強さ”というか“成熟した人格”というか、そんなものを感じ、随分と年上の私も何かを教えられたような気がした。

片付け・清掃作業は、私一人で施工。
風呂、トイレ、キッチン等の水廻りは、そこそこ汚れていたけど、「特殊清掃」と呼ぶほどの仕事ではなかった。
また、過述にとおり、ゴミの量もほどほど。
トラックを乗りつけなければならないほどの量ではなく、愛車の1tワンボックス充分。
熟練技を発揮するまでもない作業で、ものの二~三時間で終了した。

「二度とこんなことしない!」
部屋がきれいになった後、男性はそう決意したはず。
しかし、根本原因がなくならない以上、あまり楽観はできない。
私の経験で考えると、ゴミ部屋を再発させてしまう可能性は低くなかった。
だから、
「○○さん(男性)を脅すつもりも売り込むつもりも毛頭ないですけど・・・」
と前置きした上で、私は、“ゴミ部屋の持つ常習性”を男性に語った。
そして、
「プレッシャーに思うと それがストレスになりますから、“散らかったら、また頼めばいい”くらいに割り切ったほうがいいですよ」
「また、必要があったらいつでも連絡下さい・・・重症になる前にね」
と、商売っ気をだしつつ男性を励ました。
すると、男性は、少しは気が楽になったのか、こんな仕事でも嬉しそうにやるオッサンが滑稽に見えたのか、
「ハイ・・・わかりました」
「でも、できるかぎり頑張ってみます」
と笑って応えてくれた。

今のところ、男性から再依頼はない。
その必要がないくらいの部屋を維持しているのかもしれないし、先々呼ばれることがあるかもしれない。
また、今の会社で頑張る決意をしたのかもしれないし、再度の転職を試みるための努力をはじめたのかもしれない。
どちらにしろ、「自分の考えが甘かっただけ」と自省できる誠実さを有し、自分の人生に責任を持って生きようとしている男性が道を外すようなことはなさそうに思えた。
誠実の樹からのびる希望の枝に蕾はつく。
人生の蕾は、そういう人格につくもの。
いつになるかわからないけど、この先、男性が今の苦境から脱し、一花咲かせることは充分に期待できると思った。


過ぎた日より来る日のほうが少なくなっている私。
残念ながら、「一花咲かせよう」なんて熱い思いを持ったこともなければ、花が咲いた時季があったかどうか憶えもない。
猜疑心が強く、冷めた性格で、花のない人生を送っている。
誰よりも勉強ができた小学時代、大人の建前に歯向かった中学時代、女の子にモテた高校時代、酒と車とバイクに費やした大学時代、自分を“できる人間”と勘違いした二十代後半、特掃隊長に就任(?)した三十代後半・・・
しいて言えば、あの頃、チョコチョコと小さな雑花が咲いていたのかもしれない。
それでも、大輪の花を咲かせたような記憶はない。
そうして、四十代後半・・・もう身体も精神も“枯れかけた葉桜”。
できることなら、「これから咲く蕾が まだ残っている」って思いたい。
だけど、「んなわけないか・・・」と、今の歳と能と境遇がそれを阻む。

しかし、それでも期待したい。
年甲斐もないし、期待と諦めの狭間にいるけど、自分なりの花を咲かせたい。
そのためには、ささやかでも 先の人生に夢の蕾をつける必要がある。
だから、私は、日当たりが悪く痩せた土地でも、今もこの場所に根を張り続けているのである。



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老の行方 ~その一~

2017-03-15 08:50:14 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
「ゴミの処分をお願いしたいんですけど・・・」
「ただ、“ゴミ”といっても、普通のゴミじゃなくて・・・」
ある日、中年の男性からそんな電話が入った。

「ゴミの処分」と言ったって、自分で片付けることができれば、ほとんどの人は自分でやるはず。
自分の手には負えないから、他人に頼むわけで・・・
で、“自分の手に負えない”ということは、“それだけ困難な事情が発生している”ということ。
“ゴミが大量にたまってしまっている”とか、“ゴミが極めて不衛生”とか、または、その両方であるとか。
したがって、私は、すぐにゴミ部屋を想像し、また、男性が いよいよ追い詰められて相談をよこしたであろうことを察し、その緊張感や羞恥心を刺激しないよう、終始 明るい応対に努めた。

しかし、相談の内容は、私の想像とは少し違っていた。
現場は、男性の自宅ではなく、男性の両親が暮す家、つまり男性の実家。
両親は、数十年に渡り そこで生活。
が、寄る年波には勝てず、身体を動かすことが億劫になり、それに従って家事が疎かに。
掃除洗濯をはじめ、食事の支度や後片付けをキチンしなくなった。
更に、近年は、両親共に認知症が疑われるようになり、荒れた生活は深刻化していった。

息子である男性は、週末等、こまめに両親宅を訪れることを心掛けたが、自分にも都合があり、毎週のように訪れることはできず。
月に一~二度訪れるのが精一杯。
そして、その都度、たまったゴミを片付けてきたのだけど、それももう限界に。
特に、難題となったのが食品の始末と糞尿の清掃。
食べ残しはもちろん、まったく手をつけずに腐らせてしまった食品が大量に発生。
次々に買ってくるものの、食欲が湧かないのか買ってきたことを忘れるのか、食品はたまる一方、腐る一方。
とりわけ、生鮮食品は、凄まじい腐り方をする。
それらが、冷蔵庫や棚から溢れ、収拾がつかなくなった。
また、トイレの失敗や失禁も多くなり、便器だけではなく、トイレの床や廊下のあちこちを糞が汚染。
その掃除も手に負えなくなったのだった。

一通りの事情を聞いた私は、いつも通り現地調査に出向くことに。
「見たら驚くと思いますよ・・・」
男性は、恥ずかしそうに、また申し訳なさそうにそう言った。
けど、私は、
「慣れてるから大丈夫ですよ・・・伺った感じだと、今まで私が経験した中で一番ヒドいってことはなさそうですから」
と、男性の荷を軽くするつもりでそう応えた。
すると、男性は、
「え!?これよりスゴいところがあるんですか!?」
と、少し気が楽になったように言葉を躍らせた。
「あります!あります!詳しいことは言えませんけど、ありますよ!」
と、私はテンションを上げて男性の笑いを誘った。


訪れた現場は、古い一戸建。
荒れた庭、窓越に見えるガラクタ、薄汚れた玄関ドアからは「いかにも」といった雰囲気が漂っていた。
そして、そんな予想に反さず、玄関を開けると、糞尿のニオイと腐った食べ物のニオイと全体的なカビ・ゴミ臭が混ざり合った悪臭が噴出。
私は、本当は臭くて仕方がなく 顔を歪めたかったのだけど、申し訳なさそうにする男性が気の毒に思えたので、“慣れてるから まったく平気!”といった表情で平然を装った。
また、腐乱死体現場等で重宝する専用マスクを用意していたのだけど、それはフツーの紙マスクなどとは違って見た目が結構ゴツいため、男性に失礼なような気がして、それも使わなかった。

悪臭が証するとおり、家の中も酷い有様。
所狭しと家財生活用品が並び積まれ、ゴミかゴミじゃないのか判断つかないようなモノが床を覆い尽くしていた。
特に深刻だったのは台所と冷蔵庫。
台所には、食べ物ゴミ、残飯、手をつけず腐らせた食品etcが散乱。
また、流し台やテーブルには、汚れたままの鍋や食器が並び重ねられていた。
中には、食べ残したものが入ったままのものもあり、あるものはヘドロのようになり、またあるものはフサフサのカビで覆われていた。
また、冷蔵庫も腐敗食品で満パン。
特に、肉や魚などの生鮮食品や調理済みの惣菜などは酷いことに。
パックの中でドロドロに溶け、凄まじい異臭を放っていた。

トイレも重症。
失禁や失敗を繰り返したようで、糞は便器やトイレだけでなく、その前の廊下のあちこちまで汚染。
長く放っておいたせいでそれは乾いて黒くなり、まるで溶岩のように固く付着。
私のようにコツを心得ている者ならまだしも、男性の手に負えないことは一目瞭然。
また、同じように、尿痕もあちこちに散在。
更には、床板は今にも腐り朽ちそうになっており、そこから上がるアンモニア臭が他の悪臭を刺激し、悪臭濃度を高めていた。

「父は、潔癖症かと思うくらいきれい好きだったんですけど・・・」
「母も、家事はキチンとする人だったんですけど・・・」
「まさか、年老いてこんな生活になるとは、思ってもみませんでした・・・」
気マズそうに話す男性の言葉は、何か悪いことでもしたときの言い訳のように聞こえた。
そして、そんな男性の姿が気の毒に見え、また、何となく他人事とは思えず同情する気持ちが湧いてきた。

私の目には、両親二人だけの生活は、もう限界・・・いや、限界を越えているように見えた。
衛生的な問題はもちろん、急な病気やケガにも対処できないし、火事などの事故も起きかねない。
ただ、私が言うまでもなく、それは男性もわかっていた。
わかっているからこそ、男性は悩んでいた。

男性には家庭があり、また、できあがった生活スタイルがある。
家のスペースや自分や妻子にかかる負担を考えると、とても引き取れるものではない。
そうなると、第三者の手を借りるしかない。
訪問医療や訪問介護を受けたり、医療施設や介護施設に入ったりと。
民間の老人施設だと希望すればすぐに入れることが多いだろうけど、その分、費用も高額になる。
この家を処分して費用を捻出するにしても、値段がつけられるのは土地のみ。
ただ、一等地でもないうえ、面積も小さい。
更に、使い物にならない老朽家屋が乗っかっているわけで、とても満足のいく値段では売れそうにない状況だった。

また、男性の経済力にも限界がある。
家族の生活は優先して守らなければならないわけで、有料老人ホーム等の費用までは負担できず。
そうは言っても、二人の年金もそれには足りない。
特別養護老人ホーム等は比較的安く入れるけど、入所を希望する待機者が多過ぎて、すぐに入れる見込みはなし。
しかし、事は一刻の猶予のならない状況。
とりあえず、特別養護老人ホーム等の入所を申し込んでおくとして、当面は、介護保険を利用した訪問介護と家事援助を受ける方向で着地点を見出した。

私は、両親を自宅に引き取らない男性のことを
“血を分けた親子なのに、薄情だな・・・”
なんて、少しも思わなかった。
年老いた親を持つ私にとってもリアルな問題だから。
そして、私が同じような立場に置かれたら、同じようにするだろうから。

どちらにしろ、部屋があまりに不衛生だと介護ヘルパーも来てくれない。
仮に、それがなくても、現状のままにはできない。
今後の生活を考えると、ゴミを始末し、掃除し、害虫駆除と消臭消毒をかけることは必要。
提案した作業内容と費用に折り合いがついたので、その作業は、私の方で請け負うことになった。

食べ物が腐ったニオイは、人間が腐ったのとはまた違う凄まじさがある。
そして、それを片付ける際には、そのニオイは一段と放出される。
あと、見た目もグロテスク。
ほとんどのモノが原形をとどめず、ドロドロの正体不明物体に。
フサフサの毛(カビ)がはえた鍋皿も、何かの生き物のように見えて不気味。
しかし、このくらいなら まだかわいいもの。
この家ではないけど、ガスコンロにのせたまま長く放置された鍋の蓋を開けたら、雑炊と見間違えるほどのウジが溜まっていたこともある(この時は、蓋を開けた途端 驚嘆の声を上げてしまった)。
そんな類のモノをいちいち手に取って始末していかなければならないわけで、糞尿まみれのトイレを掃除する方がよっぽど楽だった。

ただ、どんなに大変な作業でも仕事は仕事。
親切心がないわけではなかったけど、ボランティアではない。
有料の請負契約なわけで、売上利益を手に入れることができた。
ただ、それ以上の収穫・・・自分が必要とされたこと、頼りにされたこと、役に立てたこと・・・も得ることができた。
とりわけ、男性の両親の行く末について思案することに関わらせてもらったことは大きな収穫だったように思う。


先々の心配ばかりしていては、人生 楽しくない。
だけど、“楽観的”と“無責任”とを混同してはいけない。
もちろん、“悲観的に考えること”が“責任感を持つこと”にはならないけど、現実に起こりうる可能性が高くなってきたことについては考える必要がある。
考えなければならないことを考えず、考える必要のないことを考えてしまうのが私の悪い癖だけど、親の老い先はもちろん、自分の老い先もキチンと考えておきたい。

私も、もうそんなことを考えなければいけないお年頃。
それにともない、少しばかり落ち着きをなくしている。
されど、進まされる人生に逆らうことはできない。
そんな人生途上にあって、
「このままじゃダメだ!」「このままはイヤだ!」
と、まるで趣味嗜好のように、今日も悩みながら生きているのである。



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隠し事

2014-04-14 11:39:24 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
依頼者は、若い女性。
依頼の内容は、ゴミの片付け。
現場は、女性の自宅アパート。
女性は、電話で色々と訊いてきたが、現場を見ないで答えられることは限られている。
私は、現地調査の必要性と説明し、女性はそれを理解。
ただ、当日の待ち合わせ場所には、アパートではなく少し離れた公園を指定。
そこから、女性に、それなりの事情があることを感じた私は女性の指示に従い、調査日時を約束した。

その日時、約束した公園に女性は現れた。
仕事は休みのはずなのに、キチンとしたスーツ姿。
作業服姿の中年男とスーツ姿の若い女性が二人でベンチに座っている光景を思い浮かべると、明らかにミスマッチ。
話が長くなりそうな雰囲気はあったけど、私は、立ち話で通すことにした。

誰しも、アカの他人に自分の身分や経歴、個人情報に関することを知られるのは抵抗があるだろう。
隠し通せるものなら隠し通したいもの。
女性も同様のようだったが、それらは、部屋の中にあるものを見ればすぐにわかってしまうこと。
それを悟った女性は、何もかも包み隠さずに話して、自分が抱える事情を汲んでもらったほうが、自分にとってはプラスと考えたよう。
私が訊きもしない事情や心情を吐露し、抱える苦悩を打ち明けた。
もちろん、そんな女性にも羞恥心はあるはず。
私は、女性の羞恥心を刺激しないよう、感情を抑えた態度と淡々とした受け答えを心がけた。


女性は、20代後半。
地方出身で、大学入学と同時にこのアパートに入居。
学生だった4年と社会人になってからの2~3年を、この部屋で暮した。
ゴミがたまりはじめたのは、就職活動を始めた頃。
公務員試験を受けるべく、その勉強を始めた頃だった。

厳しい社会情勢では、公務員は人気職種。
試験自体の難易度もさることながら、その競争率がハンパではなかった。
女性はその厳しさを知っており、とにかく、ライバルより少しでも高得点をとれるよう勉強に没頭。
それまでの生活スタイルを一変させ、友人との遊びやアルバイトも控えた。
しかし、それによってプレッシャーとストレスが更にかかってきたのか、それまでは普通にできていた片付けやゴミ出しが滞るように。
そうしているうちに、部屋にゴミが堆積していったのだった。

努力の甲斐あって、女性は公務員試験に合格。
希望の職業を手に入れた。
同時に、受験勉強から解放され、ゴミを片付けるチャンスがやってきた。
しかし、部屋には相当量のゴミ。
その惨状を前にすると、片付けようとする気力は萎えるばかり。
更に、身に染みついた生活習慣を変えることもできず、ゴミは増加の一途をたどったのだった。

女性は、就職後一年が経過すると、仕事にも慣れてきた。
収入した安定によって安定した生活が送れるようになり、社会人として一人前にやれていることに対する高揚感と達成感も持てるようになってきた。
しかし、ことあるごとに、自宅の惨状がそれに水を差した。
公に奉仕すべき公務員がゴミ部屋の主・・・
いつか誰かが、それに気づくのではないか・・・
そんな不安と恐怖感が、常に、女性につきまとった。

その状況から脱するために、女性は、引っ越すことを決意。
新居となるべく物件を見つけて、秘密裏に居を移した。
一般的には、退去一ヵ月以上前にその旨を大家や管理会社に伝えるのがルールなのに、それをせずに。
ただ、移ったのは女性自身と貴重品のみ。
大量のゴミは片付けることができず、放置されたままとなった。
そうなると、当然、賃貸借契約を終了させることはできず、家賃もそれまでと同様に発生。
女性は、新居と旧居の家賃をダブルで負担することに。
しかし、安定しているとはいえ、給与は限られた額。
いつまでも、二軒分の家賃を負担しているわけにもいかず、悩んだ末、勇気を振り絞って他人の手を借りることにしたのだった。

女性からは特命があった。
それは、大家や近隣に気づかれないように作業をすること。
しかし、アパートの周辺は、家屋がビッシリ建ち並ぶ住宅地。
しかも、真下の一階には大家が居住。
そんな環境で、他の誰にも気づかれないように作業を遂行するなんて、ほとんど不可能。
私は、できるかぎりの努力をすることは約束するけど、周囲に気づかれた場合の責任は負いかねる旨を伝え、了承を求めた。


現場の部屋は、古い木造アパートの二階。
ベランダもない狭い和室。
トイレはついていたが、風呂はなし。
洗濯機を置けるようなスペースもなし。
一階は大家の住居となっており、「アパート」というより「下宿」といったほうがいいくらいの建物。
そして、女性の説明のとおり、室内には、一般の家財生活用品に混ざり大量のゴミがあった。
床はまったく見えておらず、ゴミが結構な厚さ(高さ)に堆積。
私は、これを、秘密裏に片付けるのは不可能であることを再認識した。

大家は、老年の女性。
同じ建物の一階に居を構え、年金と家賃収入で生活。
足腰は達者ながら高齢であり、外出は少なめ。
せいぜい、買い物や病院に出掛けていくぐらい。
基本的に、自宅(一階)にいることが多かった。
しかも、女性とは顔見知り。
日常で頻繁に顔を合わせることはないものの、盆暮には女性の両親が送ってくる田舎の土産物を贈るくらいの親しい間柄にあった。

作業時、建物前にトラックもとめるし、スタッフも出入りする。
おのずと、物音も立てば話声もでる。
やはり、作業を気づかれずに行うのはほぼ不可能。
ならば、見られて困らないような外観を整えるしかない。
幸い、うちのトラックや作業服には、社名とロゴマークが入っているだけで、余計な宣伝文句はない。
したがって、ゴミをキチンと梱包して外から見えないようにすれば、普通の引越しのようにみせることができる。
そんな検討の結果、作業は引越しを装って行われることになった。

それでも、大家に何の連絡もせず、いきなり作業をするわけにはいかない。
また、作業日時は事前に伝えないのは、極めて不自然。
私は、引っ越すことを、大家に事前に伝えることを進言。
その上で、「物音やホコリで迷惑をかけたくないから、作業は大家が不在のときに行う」というのを口実に、大家の外出予定を聞きだすことを提案。
女性もそれに同意し、その後、大家の不在日時を事前に把握することに成功した。

作業の日、約束の時刻より早く到着した我々だったが、女性はそれよりも更に早く現場にきていた。
そして、大家が外出したことを、自分の目で確認していた。
それでも、女性は、真相がバレることを心配してか、緊張の面持ち。
「ヨロシクお願いします」
と、深々と頭を下げ、
「くれぐれも打ち合わせの通りにお願いします」
と念を押してから、“針のムシロ”から離れて消えた。

トラックを離れたところにとめ、まず、ゴミの荷造りから開始。
室内にいくつものダンボール箱とビニール袋を持ち込み、根気よく荷造り。
屋外での作業時間を最小限にとどめるために、それが必要だった。
そして、室内に荷物を置いておくスペースがなくなると、いよいよ搬出開始。
その後は、室内での荷造りと室外への搬出を同時併行。
それは、大家にウソをついての作業。
周囲の目を気にしながらの、罪悪感に満たない後ろめたさがともなう作業となった。

作業工程については、念入りに段取り、シミュレーションを行っていた。
現場規模に比して多めの人員も配置。
だから、特に問題も発生することなく、作業は順調に進んだ。
問題と言えば、予定より早く大家が戻ってきたことくらい。
予想していなかった大家の帰宅で、現場には緊張が走った。
そんなこと意に介さず、大家は、
「ご苦労様です」
と、にこやかに挨拶。
そして、
「ゴミがたくさんあるでしょ?」
と、意味深な一言を残して、そのまま自宅へ入っていった。
「ひょっとしてバレてる?」
私は、大家の一言に動揺。
大家の残像がグルグルと頭を巡る中、私の肝はどんどん冷えていった。
それでも、それは作業を中断する理由にはならず、ひたすら身体を動かし続けるしかなかった。

そんな労苦も虚しく、ゴミを撤去した後の部屋には、重汚損が残留。
水回りにはヒドい生活汚染、畳の一部は腐り、壁はカビだらけ、押入や桟はホコリまみれ。
とても、掃除だけですべてを復旧するのは無理な状況。
しかし、大家に見られる前にこれを何とかしなければならない。
大家の許可なく建材建具に手を入れるのは躊躇われたが、女性が責任を持つということで、畳を撤去し、クッションフロアと壁紙を剥離。
そして、その他の部分を突貫清掃した。

後日、新規畳の設置、クッションフロア・壁紙張り、水回りの仕上げ清掃等々が行われた。
部屋は、見違えるようにきれいになり、その状態で大家に引き渡された。
大家は、内装が新しくなっていることに驚き、
「次に住む人がいるかどうかもわからないのに、こんなにきれいにしてもらって・・・」
「いくらかかりました? 全額負担してもらうのは申し訳ないから・・・」
と、費用負担を申し出た。
しかし、女性は、
「長くお世話になりましたから・・・」
と、大家が申し出た費用負担を固辞。
そして、少々気マズそうに、少々照れくさそうに笑顔を浮かべた。

元の状態を知ってか知らずか、大家は穏やかに微笑んでいた。
小さな老婆であったが、私は、そこに、若輩者には持ち得ない懐の深さを感じた。
同時に、「結果よければすべて良し」と割り切るにはいささか心労が過ぎた仕事だったが、和やかに談笑する二人の姿をみると、隠し事に加担した後ろめたさも爽やかに消えていったのだった。



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痩心

2014-01-11 08:42:39 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
ゴミの片付け依頼が入った。
電話の向こうは、中年女性の声。
現場は、女性が暮す賃貸アパート。
間取りは2DK。
床一面をゴミが覆い尽くし、更に、それが結構な厚さに堆積しているとのこと。
「どれくらいの費用がかかりそうですか?」
との問いに、私は、想定の概算費用を返答。
「やっぱり、それくらいかかりますか・・・」
女性は、その金額を聞いて、しばし沈黙。
声のトーンを落とし
「分割で払うことはできますか?」
と、言いにくそうに訊いてきた。
女性の資力が乏しいことは、聞かずとも明白だった。

代金の分割払いは原則として可能。
しかし、そこには、おのずと条件がつく。
頭金の金額、月々の支払金額、支払期間、安定収入の有無etc・・・当社にとって受忍できる範囲のリスクを超える場合は、契約することができない。
しかし、それも原則。
諸条件をクリアすることも大事だけど、最後は人物で判断する。
イザとなった場合、契約書も契約書も何の役にも立たないから。
(それが痛い思いをする原因にもなるわけだけど。)
そこで、私は、質問がプライベートなことに及ぶことをあらかじめ詫びて、女性の経済力を知るべく、色々と質問をしてみた。
すると・・・
職業は派遣スタッフ。
月の収入は十数万円、しかも不安定。
クレジットカードの与信はなし。
資産や預金類、担保になりそうなモノもなし。
お金を貸してくれそうな人も保証人になってくれそうな人もいない。
・・・とのこと。

それでも、私は、女性がある程度の予算は確保しているものと思っていた。
ところが、女性はそれを一切持っておらず。
まとまった額の頭金もなく、その上で分割払いを希望。
「ちゃんと払いますから、何とかお願いします!」
と、声のトーンを上げた。
それを聞いた私は、逆にトーンダウン。
私が聞いたもの以外の借金や滞納がないとも限らないし、それがなくても、月々の収入は、家賃を払って食べていくのがやっとではないかと思われるような金額。
「こりゃ仕事にならないな」
と、内心で思いながら、
「その条件で分割払いは無理です・・・」
と、私は、展開した話を締めにかかった。
それでも、女性は引かず。
「何とかならないでしょうか・・・お願いします!」
と、切羽詰った様子で訴えてきた。

女性は、当方に相談する前に、既に、自分で探しうる各方面・各業者にも相談していた。
だが、女性に資力がないことがわかると、どこも、女性を相手にせず。
現場は、東京の隣県の某市。
「近い」とは言えない距離。
現場を見に行けば、時間もかかるし移動交通費もかかる。
仕事にならない可能性が極めて高いとなれば、二の足を踏んでしまうのも当然。
しかし、誰も相手にしたがらない相手を相手にするのが私の仕事でもある。
私は、無駄足にならない可能性を探すため、無駄足になる可能性が高い現場に向かって車を走らせた。


訪れた現場は、住宅地に建つ二階建のアパート。
女性宅は、その一階。
私は、いきなり訪問してインターフォンを押すようなことはせず、少し離れたところに車をとめ、そこから女性に電話をかけた。
これは、依頼者に心の準備をしてもらうためであり、近隣対策のためでもあり、また、ゴミ部屋を訪問する際の私なりのマナーでもあるのだ。
そして、その心づかいは、女性も気づいてくれたよう。
部屋を見て驚かないよう心の準備をしてくること、近隣住民に気づかれないように玄関を入ること等、訪問するにあたって注意する点をいくつか教えてくれた。

玄関を入ると、目前には想像通りのゴミ野原。
悪臭も著しく、天井や壁には何匹ものゴキブリが張りつき、あちこちにネズミが走り回っていた。
玄関には靴を脱ぐ隙間もなく、また、広がっているのは靴を脱ぐ必要があるような光景でもなく、私は、「土足のままで構わない」という女性の言葉よりも先に、靴のまま上がりこんだ。
そして、あまり驚くと女性に失礼なので、私は、事務的かつ淡々と、狭い部屋に広大に広がるゴミ野原を散策した。

しばらく前から、このアパートにはゴキブリやネズミが発生するように。
始めは、その原因は不明で、その駆除については各戸がそれぞれ対応。
しかし、その発生はおさまるどころか、増える一方。
そのまましばらくの時が経つ中で、次第に、女性宅が原因として怪しまれるように。
窓にゴキブリが張りついているのを見られたり、周辺に漂う異臭が女性宅からでていることを勘付かれたりしたのだ。
決定的なのは、隣の住人に室内を見られたこと。
窓は中が見えないようカーテンを閉めっぱなしにしていたのだが、玄関ドアは出入りの際に開けざるを得ない。
その際は、室内の光景が外からの視線に晒されないよう細心の注意を払っていたのだが、ある時、隣の住人と玄関前で鉢合わせ。
瞬間的とはいえ、閉じかかった玄関ドアの隙間から室内の一部が露に。
以前から女性宅を疑っていた隣人にとって、それは、疑心を確信に変える絶好の材料となった。
隣人は自分の目を疑うことなく、すぐにアパートの管理会社へ通報。
そして、管理会社は、数日後に立入検査を行う旨を通知してきたのだった。

部屋の惨状を管理会社が目の当たりにしたら、タダでは済まないことは容易に想像できる。
ただちにゴミを片付けることはもちろん、すみやかにアパート退出することを命じられるだろう。
そして、重汚損が残留するであろう部屋を原状に回復させる責任を負わされるはず。
しかし、一連の費用を工面できない女性は、即座に行き詰るだろう。
住処をなくし、路頭に迷うかもしれない。
八方ふさがって、“死”が頭を過ぎることになるかもしれなかった。

それでも、この状況を招いた責任は女性にある。
他人の所有物である部屋を借りている女性には、その使用にあたって、善良なる管理者としての注意義務がある。
一般的な良識・常識をもって、社会通念を逸脱しないよう借用物を善良に使用する義務があるのだ。
女性がそれを怠ったのは明らかで、女性に非があるのも明らか。
普段から、ゴミを出す生活をしていればこんなことにはならないわけで、他の誰が悪いわけでも、他の誰かの責任でもない。
「自業自得の自己責任」としか思いようがなく、私の中には、代金の分割払いにおいて女性を信用する気持ちは一向に沸いてこなかった。

せっかく現場を訪問した私だったが、結局、無駄足にならない可能性を見つけることはできず。
数万円規模の仕事なら裏切られても浅いキズで済むので請け負った可能性が高いけど、これはその域をはるかに越えたもの。
私は、会社に相談するまでもなく女性の依頼を断った。
すると、女性は、とうとう泣きだした。
そして、
「お願いします!お願いします!お願いします!」
と、必死に懇願し、とめどなくあふれる涙もそのままに、私に向かって手を合わせた。

その必死さは私にも伝わった。
ただ、同時に、“人間は、ノドもと過ぎればすぐに熱さを忘れる生き物”という冷めた思いも頭を過ぎった。
また、女性が、情に訴えようとして涙をみせたわけではないこともわかった。
しかし、私の中には、イヤな不快感も沸いてきた・・・
正確に言うと、女性が涙をみせたことが不快だったのではなく、女性の涙を不快に感じてしまう自分の痩せた心が不快だったのかもしれなかった。


特掃隊長は、優しさや親切心が“売り”のようになってしまっている。
“しまっている”と、まるで不本意なことのように書きながらも、それは、“他人から善人に見られたい”という気持ちが強い私の本意でもある。
善人ぶりがわざとらしくて、あまりいい印象をもたれていないかもしれないけど、中には好印象をもってくれている人もいるかもしれない。
しかし、私は、それを売りに仕事をしているわけではない。
人のためになることがあっても、人のためにやっているのではない。
自分のため、金のため、ビジネスと割り切って仕事をしている。
人に優しくできるのは、ふくよかな心を持った人。
人に親切にできるのは、ふくよかな心を持った人。
自分を犠牲にできるのは、ふくよかな心を持った人。
ふくよかな心は、きっとあたたかいはず。
そういう心を持たない私は、特掃隊長の皮を被った別の人間なのかもしれない。


私の判断は、仕事としては正しかったと思う。
しかし、人として正しかったのかどうかまではわからない。
仕事として請け負うことはできなくても、人として手助けできることは他にあったかもしれないから。
人は、助け合って生きている・・・助け合わないと生きていけないのだから。

事情はどうあれ、自分に助けを求める人が目の前のいたのに、私は、それを見捨てた。
ここに挙げたのは仕事上の一事だが、残念ながら、私という人間は万事がそう。
後悔とか罪悪感にまでは及ばないけど、その度に、少しずつ心が痩せていくような気がして、寒い思いをしているのである。



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大掃除

2013-12-14 13:49:16 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
暮れも押し迫ってきて、家や会社の大掃除を予定している人も多いのではないだろうか。
一年の汚れやホコリをサッパリ落とせば、気持ちもスッキリする。
新年を迎えるにあたって、身辺をリセットできる。
そうは言っても、私に大掃除の予定はない。
普段からきれいにしているからではない。
また、仕事のせいで掃除に飽きているのでもない。
ただ、面倒臭いだけ。
あと、特別な年末年始休暇があるわけでもないから、掃除によって気持ちがリフレッシュされることも期待できないといった諦めもある。
ま、私は、潔癖症の皮を被った不潔症といったところか。

この時季は、大掃除とあわせて忘年会のシーズンでもある。
会社の仲間や学校の友達等が寄り集まって、街では毎晩のように忘年会が開かれていることだろう。
美味しいモノを飲み食いして、一年の嫌なことを忘れることが忘年会の本来の趣旨だとも言われる。
一年過ごせば、忘れてしまいたいことはたくさんでてくるが、一度くらいの飲み会で嫌なことが忘れられるはずもない。
それどころか、酒に酔っての悪態や悪行で、嫌なことが増えてしまうようなこともありそう。
また、新人社員や下戸の人等、イヤイヤながら参加せざるを得ない人もいるだろう。
かくいう私もその一人。
私は、新人社員でも下戸でもないが、忘年会(飲み会)は好きじゃない。
大勢でワイワイ・ガヤガヤと騒ぎ、また、ダラダラと無意味な話で時間を浪費するのがイヤなのだ。
(“KY”“遊び心がない”“つまらない人間”と言われることもあるけど、あまり気にしてない。)

うちの会社の忘年会は、今月上旬に行われた。
当日、私は遠方の特掃に出かけていたので、遅れて参加。
それでも、作業を途中で切り上げて急いで帰京。
血が着いたままの作業服姿で、末席に座った。
そして、隣に座る同僚に申し訳なかったので、身体をなるべく端に寄せて静かにしていた。
そんな状態でもあり、既にできあがっている人とも温度差もあり、また、翌日も早朝から続きの特掃が待っていたので、私は、とても楽しめるできる心境にあらず。
だから、酒は一滴も飲まず、飲んだのはウーロン茶のみ。
それでも、心の仏頂面をつくり笑顔で隠すよう自分なりに努力。
そんな調子で、何とか一次会をしのぎ、その後の二次会は行かず、そそくさと退散したのだった。

そんなことがあると、ある思いが湧いてくる。
たくさんの酒を飲むのも、お腹いっぱい食べるのも、おおいに結構。
しかし、身体的・精神的リスクも顧みず酒に酔い、飽食をむさぼることに、そして、命をつなぎ幸せをもたらすための食べ物が、無残に食べ散らかされた挙句、捨てられる現実に何とも言えない虚無感を覚える。
ゲロ掃除に呼ばれるのがイヤだから言うわけじゃないけど、それは、単なる“もったいない”という感覚を通り越して、この社会の何かが、人の何かが狂っているように思えてしまう。
「これも生きている楽しみのひとつ」と言う前に、もっと理性的になったほうがいい。
その方が、楽しさも増すのではないだろうか。

何はともあれ、幸い、私の忘年会はこれだけ。
年が明けて、外の人と新年会をやる予定はあるけど、年内は、飲み会の予定はない。
やはり、酒は家飲みが一番。
誰かに話を合わせる必要もなく、誰かに気をつかう必要もなく、飲むことを強制もせず、強制もされず、好きな酒を好きな量だけ飲むのがいい。

しかし、この時季はちょっとわけが違う。
家でも、好きなはずの酒がすすまない。
飲んでもあまり美味くない。
それでもまだ、飲んでる最中はいい。
前夜の飲酒が翌朝の精神にどう影響するのかまったくわからないけど、翌朝はめっぽうツラいのだ。
だから、飲むときは、それをわかったうえで飲む。
そんな具合だから、3月から実行している「週休肝二日」も「週飲二日」に逆転しているような状態。
身体的・経済的にはこっちのほうがいいんだけど、精神的にはあまり好ましい状態ではない。
好きな酒を美味しく飲めるかどうかが、私の元気のバロメーター。
そういったところでみると、今の私の元気度はいまいちなのである。

それでも、飲みたければ飲める、食べたければ食べられる、非常に恵まれた環境に私はいる。
「不況」「不景気」と言ったって、まだまだ日本は裕福(物質的に)。
お金を払えば食べ物は手に入り、自分の好きなように食べることができる。
もちろん、一庶民の私は、高級レストランに行くこともできなければ、高級食材を口にすることもできないけど、一般的なものなら、毎日・毎日、当り前のように食べることができている。

しかし、これとは真逆の世界がある。
食べることが当り前のことではなく、食べられないことが当り前の生活を強いられている人々が、世界にはたくさんいる。
世界では、20%の人間が、世界全体の食料の80%を消費しているという。
それは、我が国を含む、少数の先進国・新興国の人間が、世界の食料の大半を消費しているということ。
そして、多数の後進国・発展途上国の人々が、少ない食料を分け合っているということを意味している。

世界にいる80%の人々は、満腹感のない人生を生きている。
その多くは、後進国・発展途上国に暮す人々。
世界では、5秒に一人の割合で子供が餓死していると言われている。
その原因は貧困。
紛争、戦争、人種差別、自然災害、搾取、低い国際競争力、低い労働生産性・・・
そういったものが人々を貧困に陥れ、貧困がまた次の貧困を呼び、子供が大人になることを妨げているのだ。

しかし、もはやこれは、対岸の火事ではなくなってきている。
餓死が日本でも起こるようになってきている。
貧困にあえぎ、三食の食事も満足にとれないような生活をしている人も少なくないらしい。
日本では、一日あたり数十人の人が自殺している。
また、自殺が死因とされていない隠れた自殺者も多くいるという。
その大きな原因のひとつが経済的な問題。貧困だ。
「先進国」といわれて久しい我が国で、「豊かな国」と言われる我が国で起こっていることとは思えないような現実がある。
現場でそれを目の当たりにして、愕然とすることもある。

私は、世界で起こっている、この日本で起こっているそれらのことを知っている。
その話をきいて、気に毒に思う。
同情心も湧く。
しかし、それだけ。
自分の生活を削ってまで、困窮する人に援助の手を差しのべようとは思わない。
私は、美味しいものも食べたいし、酒も飲みたい。
遊びにも行きたいし、欲しいものは手に入れたい。
生きていくうえで絶対的に必要なものじゃなくても、欲しいものはたくさんある。
“自分さえよければそれでいい”
そんな思いが、常に私を支配している。

そんな私には、大きなことはできない。
また、その意志も度量もない。
それでも、できることがある。
やってみようかと思ったことがある。

今、家の食卓には、小さな募金箱が置いてある。
食事をするたび、酒を飲むたび、そこにお金を入れている。
腹を空かせている誰かと一緒に食事をしているつもりで。
意思の弱い私のことだから、いつまで続けられるかわからない。
自分でも呆れるくらいはやく終わってしまうかもしれない。
とにかく、いっぱいになったら、とある団体に寄付するつもり。

金額は、この歳に似合わない、恥ずかしいくらいの小額。
それでも、やらないよりはいいと思っている。
ただ、気に留めておかなければいけない。
「自分は正しいことをしている」「自分は善い人間」だと思わないことを。
あくまで、「自分のため、自分を満たすためにやっている」ということを。

人間は、あたたかい生き物だけど、冷たい生き物でもある。
人間は、善いこともできるけど、悪いこともできる。
人間は、愛ある行為ができるけど、残酷なこともできる

一人の人間の中に、善人と悪人がいる。
善の中にも悪があり、悪の中にも善がある。
無条件の愛を求めながら、条件付の愛を持つ。
その矛盾を思うと、心は乱れ、騒ぎだす。
そして、ときに汚れ、ときに腐り、自分を痛めつける。

そんな人間と、そんな心。
私が私であるかぎり、人が人であるかぎり、この大掃除を自分でやることはできない。
ただ、せめて、忘れないようにしたい・・・
苦難の中にある人々のことを。
自分の中で矛盾する、善と偽善、悪と偽悪を。
そして、そんな自分の心と向き合うことを。




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短気は損気

2013-11-18 08:48:22 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
「引越しをするのでゴミを片付けてほしい」
そんな依頼が入った。
「うちに頼んでくるわけだから、何か事情があるんだろうな・・・」
私はそう思いながら現地調査の日時を設定した。

訪問した現場は小さな一戸建。
家屋の周囲にはゴミやガラクタが散乱しており、家の中が“案の定”であることをうかがわせた。
私は、家の前の路上に車とめ、約束の時間がくるまで待機。
自分でいうのもおかしいが、変なところで几帳面な私は、約束の時刻ピッタリになったところで車を降り、玄関のチャイムを押した。

家の中からは、恥ずかしそうな物腰と気マズそうな表情をもって依頼者がでてきた。
そして、
「驚かないでくださいね」
「靴のままでかまいませんから」
と、外からの視線を避けるようにそそくさと私を家の中へと促した。

室内は、玄関土間からゴミ、ゴミ、そしてまたゴミ・・・
依頼者は、長年にわたって生活ゴミを蓄積。
本当の床なんてどこにも見えておらず、ゴミで埋め尽くされていた。
依頼者は、近々、引っ越す予定。
そのため、“このゴミを片付けたい”とのこと。
ただ、依頼者は“特殊清掃でなんとなる”と考えている様子。
私は、実現不可能な期待を持たせてはいけないので、ゴミの撤去と清掃だけでは原状回復はできないことを伝えた。
それを聞いた依頼者は動揺。
顔をこわばらせたまま黙り込んでしまった。
そうは言っても、このゴミを片付けないと何も始まらない。
私は、作業の内容とかかる費用を説明し、当方に作業を依頼するかどうか充分に検討するよう伝えた。

調査を終え外に出ると、私の車の脇に初老の女性が一人立っていた。
そして、私を見つけると恐い顔で睨みつけ、
「オタクが片付けんの!?」
と一言。
初対面にもかかわらずタメ口をきくその高圧的な態度に気分を害した私は、
「まだわかりません・・・」
と、無愛想に返事。
「○○(依頼者名)はいるの!?」
女性は依頼者を呼び捨て。
「・・・・・」
“いる”というとトラブルに巻き込まれそうな予感がした私は何も応えず。
その態度に、女性は依頼者の在宅を感じたようで、勝手に玄関扉を開けてズカズカと中に踏み込んでいった。

そのまま帰ってもよかったのだが、そのまま帰ってはいけないような気がした私は、玄関前を行ったり来たり。
不審者のようにソワソワ、ウロウロした。
すると、ほどなくして、依頼者と女性が玄関からでてきた。
そして、私は、キナ臭いニオイがプンプンする二人の輪に入れられてしまった。

女性は、この家の大家。
しばらく前から、この家にゴミがたまっているのを知っていた。
もちろん、依頼者に「ゴミを片付けるように!」と再三注告。
しかし、依頼者は、毎回のようにこの注告を聞き流し、ゴミを片付けることはなかった。
結果、堪忍袋の尾が切れた大家は、「すぐに出ていけ!」となり、依頼者は引越しを余儀なくされたのだった。

ゴミを片付ければ元のままの床や壁が現れると思っている人が多い。
しかし、実際はそんなに甘くない。
床や壁には相応の汚損が発生し、再使用が不可能になっていることも多い。
ゴミを片付けたくらいでは、この家が元通りにならないことは大家の目からも明白だった。
その状況が、大家を更に激高させていた。

「どうしてくれんのよ!」
「あれほど“片付けろ!”って言ってきたのに、なんで片付けなかったのよ!」
「アンタがこの家建て替えてくれんの!?」
大家は完全にキレていた。
大家の言い分はいちいち正論で、反論の余地はなく・・・
完全に射程距離内に捉えられた依頼者は、撃たれっぱなしの蜂の巣状態に。
更に、その“蜂の巣”さえもボロボロに砕けるくらい撃ちまくられていた。

当初、私も依頼者の一味みたいに位置づけられ、依頼者を貫通した流れ弾は私にも命中。
しかし、それをいちいち避けていては、本題が一向に進まない。
私は、大家マシンガンの弾が切れるのを待つことにして、しばし地蔵になった。

弾が尽きた頃、私は、自分が専門業者で依頼者とはアカの他人であることを説明。
大家は、私が依頼者の関係者ではなく、このときが初対面であることを知ると、次第にその態度は軟化させた。
そして、それまでの態度を詫びるように、文句を愚痴に変えた。

大家と依頼者は親戚関係。
不動産会社を通さず、また正式な契約書も交わさず、血縁者というところに暗黙の信頼を置き、簡単な口約束だけで家を賃貸借。
家賃も地域の相場より低めに設定。
それでも、依頼者は度々それを滞納。
迷惑はそれだけにとどまらず、本件のようなことをしでかしてしまった。

相手がアカの他人ならもっと毅然と行動し、問題は早期に解決できたかも。
しかし、大家は、相手が身内ということもあって、できるかぎり寛容に接した。
我慢に我慢を重ね、耐えてきた。
しかし、とうとう、我慢の限界を超えたのだった。

「この人のお陰で、性格まで悪くなっちゃいましたよ!」
大家は、そうボヤいた。
ここ数年来、大家は依頼者にずっと腹を立て、苛立ちを抱えたまま過ごしてきたのだから、
自分でも気づかないうちに、関係のない他人に八つ当たりしたり、悪い態度をとってしまうことが多かったのかもしれなかった。
事実、私と最初に顔を合わせたときもそうだったわけだし。
大家が悪い態度をとれば、相手が無愛想になるのは自然なこと。
無愛想な相手に好感は持てず、また、相手も自分に好感を持つはずもない。
その人間関係は悪循環に入っていき、その性格はますます悪くみえてくる。
愚痴る大家を前に、私は、“性格まで悪くされた”という大家の言い分が、まったくの言いがかりとは言いきれないと思った。


後日、相当の時間と相当の手間を要してゴミは撤去された。
しかし、当初の予想通り、家には重汚損と重異臭が残り、とても人が住めるような状態でなくなっていた。
大家は、怒ることに疲れたのか、それとも、怒っても仕方がないことを悟ったのか、以前とはうって変わって穏やかに。
依頼者に対しても、
「あとのことはお金で解決しましょ」
と、淡々とした調子。
大家は、依頼者との血縁にもとづいた心的つながり捨てたのか・・・
家の復旧を諦めて開き直ったのか・・・
時折、浮かべる大家の笑みは、依頼者の目には不気味に映ったかもしれなかったが、私の目には何かを悟ったあとの平安の表情に映ったのだった。



仕事でもプライベートでも、身近なところでも世界的にも、世の中には腹の立つことが少なくない。
仕事上のことだけをとってみても・・・
近隣住民や大家等から私が言われる筋合いではない苦情をぶつけられることもある。
約束の仕事をしたのに金を払わない依頼者もいる。
現地調査に呼んでおいて、何の連絡もなくバックレる人もいる。
この仕事を勝手に“人手不足”“高賃金”と思って、「働いてやる」といわんばかりの態度で応募してくる者もいる。
いちいち思い返すと腹が立ってくる。

一人でイライラし、一人で腹を立てることってよくある。
しかし、腹を立てて損をするのは誰か。
不満を抱いて損をするのは誰か。
それは、結局、自分。
腹を立てたり、不平不満を抱いたりして物事が進捗したり解決したりできる場面にあるなら、それなりに腹を立てて言いたいことをぶちまけてもいいかもしれないが、そうでないときに腹を立てても仕方がない。

腹を立てても仕方がないこと、不満に思っても仕方がないことってたくさんある。
「自分の感情は自分でコントロールできない」というのが私の自論だが、コントロールできなくてもそれを把握することはできる。
把握できれば、そこに、冷静さを取り戻すための思考を加えればいい。
自分が冷静になれる言葉や経験を思い出すといい。
私の場合は、やはり“死”が終局的なキーワードで、そこから派生する人生観が自分を冷静にしてくれることが多い。
このブログで頻繁に書いているとおりである。

元来、気が短い私。
ただ、幸いなことに、歳を重ねるにしたがって少しずつだが気は長くなっていると思う。
もちろん、短気な自分が完全にいなくなることはないけど、できるかぎり、のん気に大らかに生きたいと思っている。
短い人生、気まで短くしたってあまりいいことないと思うから。



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迷 ~後編~

2012-05-06 08:33:17 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
翌日の朝・・・
私は、アパートの近くの大家宅を訪問。
作業開始の挨拶と、大家の指示・要望を聞くためだった。
大家や管理会社の意向によっては、作業内容を大きく変えざるを得なくなるケースもある。
やはり、あまり神経質になられると、仕事はやりにくい。
したがって、インターフォンを押す私は、ちょっと緊張していた。

玄関に現れたのは年配の男性。
大家は、私が何者かすぐにわかったようで、開口一番「ご苦労様」。
現れた強面に、一瞬、緊張度が増した私だったが、その一言で緊張は和らいだ。
私は、「これから作業をはじめますので、ヨロシクお願いします」とペコリ。
それから、作業を実施するにあたっての注意点や要望を訊ねた。

自分のアパートをあんな状態にされて心中穏やかではなかっただろうに、大家からは特に細かい指示はなし。
前日のうちに母親から連絡を受けていたこともあり、二つ返事で作業実施を承諾。
とにかく、悩みの種だった部屋がやっと片付くことになってホッとした様子。
「お手数おかけします」「ヨロシクお願いします」と頭を下げてくれ、軟らかくなっていた緊張感を更にほぐしてくれた。

それから、私は現場アパートを訪問。
算段は、午前中は室内で荷造梱包をし、午後から荷造梱包をしながら搬出するというもの。
意図してかどうかわからなかったが、この日もまた女性は不在。
母親によると、「捨ててほしくないものを伝えて外出した」とのこと。
そして、母親も、意見もせずそれを許したよう。
私は、「酷なようだけど、自分のしでかしたことの尻拭いを母親がしている姿を女性に少しでもみせた方がいいのではないだろうか・・・」と内心で不満に思った。
反面、これまでの経緯から女性と顔を合わせるのは気マズイため、ホッとしたのも事実だった。

室内の様子は前日と少し変わっていた。
前日はゴミ野が広がっているだけだったのだが、部屋の奥にはビニール袋の山ができていた。
そして、よく見ると、トイレが片付いていた。
前のトイレには、雑誌・衣類・トイレットペーパーの芯etc・・・
そして、使用済みの生理用品も山積みされていたはず・・・
しかし、それがなくなっていた。
娘の恥を隠そうとする親心がそうさせたのか、私に気をつかってくれたのか、母親が自分で片付けたよう。
“母親が女性(娘)にやらせた”とは到底思えず、ここでもまた、内心に不満めいた感情が湧いてきた。
ただ、経緯がどうあれ、それをやらずに済んで私が助かったのも事実。
女性や母親に不満を抱くのはお門違いであることを自分に言いきかせ、作業に集中するよう努めた。

「必要なものと不要なものを指示しておいていただければ、あとはこちらでやりますから」
「終わったら電話しますので、貴重品だけ持って喫茶店かどこかで時間をつぶしていてください」
私はそう言って母親にも外出を促した。
汗と脂と汚れにまみれて大変そうに作業をする姿をみせたくなかったし、娘が原因のそんな作業を見たところで気持ちが浮くはずもなかったから。
たが、母親は動こうとせず。
何とも気持ちが落ち着かないようで、まだ部屋にいるほうが気分的には楽みたいだった。

危険に晒されたり作業の邪魔になったりしなければ、どこにいようが母親の自由。
また、依頼した仕事がキチンと遂行されるかどうか検分する権利もある。
無理矢理追い出すわけにもいかず、結局、私は、母親の前で荷造作業を開始。
慣れた作業につき、テンポよくゴミの袋をつくっていった。
すると、母親は、市販のマスクとゴム手袋を着けて、私と同じようにゴミをビニール袋に詰めはじめた。
それに気づいた私は、「私がやりますから・・・」と言葉で制止・・・
が、私の言うことを聞くつもりがあれば、はじめからそんなことをするわけもなく・・・
結局、そんな母親を横目に気にしながら、作業を進めるほかなかった。

ゴミの中には、女性が追いかけていた夢の欠片がいくつもあった。
若者は、往々にして、華やかな(華やかそうに見える)世界に憧れるもの。
華やかさには縁がない私でも、その気持ちはわからなくはない。
“チャレンジしないで後悔するより、チャレンジして後悔したほうがいい”という考え方も理解できる。
ただ、ゴミと化した夢の欠片は、何かを警告しているかのようで、そこには妙な虚しさがあった。

「育て方を間違っちゃったかなぁ・・・」
「ちゃんと育てたつもりなんだけどなぁ・・・」
母親は、髪を振り乱し、汗を流し、ホコリにまみれ、ハァハァと息を荒くしながらひたすらゴミを袋に梱包。
そして、時折、手を休めては、自分にいい訳をするように愚痴をこぼし、大きな溜息をついた。
すると、私の脳裏には、
「俺が、親の期待に反して汚仕事に就いていることに、お袋も同じような愚痴をこぼしてるかもなぁ・・・」
といった思いが過ぎり、苦笑いとともに小さな溜息がもれた。

「今の仕事はアルバイトだし、本人がやりたがっていた仕事でもないので・・・」
「仕事をやめさせて、近いうちに実家に戻そうと思います・・・」
「娘にとって、その方がいいのかどうか迷うところですけど・・・」
母親は、元気なくそう言った。
その内面では、ゴミが片付いた安堵感を娘の将来に対する不安感が押しのけているようだった。
返すべき言葉を用意できなかった私は、泣きそうになる母親を前に、「YES」とも「NO」ともつかない深刻な表情を浮かべてそれを返事のかわりにした。

大家や近隣の協力、そして母親の手伝いもあり、夕方を待たず、すべてのゴミは部屋からなくなった。
大型家電など必要最低限のものだけ残し、あとは思い切って捨てられた。
ただ、その後には、相応の汚損が残留。
浴室、キッチンシンク、トイレ等の水回りを中心に、かなりの汚れが付着残留していることが露になり、それがまた母親を落胆させた。

幸い、ほとんどの部分はクリーニングできれいにできるレベル。
しかし、残念ながら、床は例外。
フローリングの一部には、湿気とカビにやられた腐食痕が結構な大きさで発生していた。
私は、原状に戻すにはクリーニングではなく床材の張替えが必要であることを伝えた。
母親は、更に落胆。
“焼け石に水”とわかっていながらも、そこを雑巾で拭いた・・・
夫に相談するかどうかの迷いを拭い消そうとするかのように・・・

請け負った作業が終わり、私と母親は、代金の支払いについて契約書類を交換。
ただ、これらは便宜上の紙キレ。
費用と手間を考えると、裁判沙汰なんて非現実的。
結局のところ、“信用”に頼るしかなく、イザとなったら泣き寝入るしかない。
私は、母親の親心を回想し、「代金はキチンと払ってくれるだろうな」と楽観した。
そしてまた、「代金が回収できなかったとしても、請け負ったことを後悔するのはよそう」と、自分にカッコつけながら現場を後にしたのだった。



憲法22条「職業選択の自由」は、単なる制度的保障。
当然、就業の自由を保障するものでも、職業の選択肢を用意してくれるものでもない。
自己責任の上で、自分で考え、自分で迷い、自分で選ぶしかない。
職業は一生を左右するため、夢と現実のバランスを保ちながら賢く選ぶべき。
ただ、この時勢は、派遣労働者・非常勤労働者が増え、失業者やニートも減らず、学生や若者でさえも就職難に陥っている。
個人に仕事を選ぶ余裕はなく、社会もそんな余裕をゆるさなくなっている。

「迷わず進め!」
夢を追う人に意見するには迷いがある。
夢をつかめるのは、ハイレベルのセンスと能力と持ったごく一部の人。
凡人の場合、夢をつかむケースより夢をつかめないケースの方が圧倒的に多いような気がするから。
しかし、夢は追わないとつかめない。
チャレンジ精神は、生みだすものであって殺すものではない。
だから迷う。
夢を指向するには、自分の能力と忍耐力を冷静に見極め、実現度を測る必要があると思う。
浅慮の次に待っているのは後悔だと思うから。

「迷うくらいなら辞めるな!」
転職を考えている人には迷わずそう言う。
それでステップアップできるのは、ハイレベルのキャリアと能力を持ったごく一部の人。
凡人の場合、ステップアップするケースよりステップダウンするケースの方が圧倒的に多いような気がするから。
しかし、人生の変化には仕事が大きく作用するもの事実。
転職によって人生を好転させる人が少なからずいることも事実。
だから迷う。
とにかく、転職指向のベースとなっているものが“現実からの逃避願望”なのか、それとも“向上心をもったチャレンジ”なのか、それを冷静に見極める必要があると思う。
逃避の次に待っているは後悔だと思うから。


「この仕事に迷いはない」
そう言えばカッコいい。
が、「仕事に迷えない」というのが私の現実。
私は、迷いたくても迷えない現実に包囲されている。
クドいくらいに言っているけど、私は、この仕事を本意でやっているのではない。
金のため、生活のため、責任を果たすため仕方なくやっているわけ。
そこに選択の余地はない。
この歳・この能力・この経歴では、同等の賃金を稼げる仕事は他に見つかりっこないはず。
また、この感性が活かせ、この無能力さが通用し、この経歴が役に立つ仕事は他にないはず。
だから、迷えない。迷っている場合ではない。

それでも・・・それでも、迷ってしまう・・・
やはり、この仕事に覚悟を決めるのは一生かかっても無理か・・・
こうして名言ぶった迷言が湧いてくるのもそのためか・・・
私は、迷いなく生きたがる自分と迷わずに生きられない自分との狭間で、新たな迷いに遭遇しながら、また、新たな答に迷いながら、それを文字にしているのである。
迷える人生の苦悩を分かち合うために、迷える人生の面白さを分け合うために。



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迷 ~中編~

2012-04-29 09:53:59 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
私は、イヤな思い出をグズグズと引きずりやすい。
忘れたほうがいいことはなかなか忘れられず、忘れてはいけないことは簡単に忘れてしまうタイプ。
女性宅から引き上げてから数日は、何となくそのことが気になっていた。
が、結局のところ、ベースは冷酷・冷淡。
その出来事は日ごとに私の脳表から消え、そのうち、脳裏からも消えていった。

それから、何日か経った後、私の携帯が鳴った。
ディスプレイには見慣れない番号。
“折り返し着信”の表示もなし。
それは、狭い人間関係の中で生きている私にとっては珍しいこと。
「もしもし???」と、私はよそ行きの声で電話をとった

電話の向こうは、中年の女性の声。
女性は、はじめに名を名乗ったのだがピンとこず。
「娘のアパートのことなんですが・・・先日、見に行ってもらったそうで・・・ゴミを片付けたいのですが・・・」
説明を受けると、頭の???は一つ一つ消えていった。
相手は、私が片付けを断ったゴミ部屋の女性の母親だった。

結局、あれからほどなくして、大家と管理会社は、あらかじめその理由と日時を示したうえで強制的に立ち入ることを通告。
そして、予定通り、女性の部屋を強制開錠し、社会通念がひっくり返るような光景は公に。
大家も担当者も唖然としただろう。
唖然と通り越して愕然としたかもしれない。
または、再三の内見依頼を断られて末のことだったので、強い憤りを覚えたかもしれない。
どちらにしろ、その後、一騒動起こったことは想像に難くなかった。

賃貸借契約の連帯保証人となっていた母親のもとに電話が入ったのは当日のうち。
電話にでた母親は“寝耳に水”。
管理会社の担当者が何を言っているのか、すぐに理解できなかった。
しかし、担当者のハイテンションぶりから、大事が起こっていることを感知。
すぐさま、娘に電話をかけて事の真相を問いただした。

母親は、ゴミ部屋というものを具体的にイメージできず。
想像できるのは、整理整頓や掃除がキチンとされてなく、ひどく散らかっている程度の部屋。
そこで、娘に室内の写真を撮らせてメールを送らせた。
ただ、幸か不幸か、写真は写真。
部分的な写真からは、断片的な情報しか得られず。
ネズミ・ゴキブリの存在はもちろん、ニオイも伝わらず。
娘と部屋がマズイ状態にあることはわかりつつも、事の深刻さを理解するには情報が足りなかった。

女性の実家は遠い地方の街にあり、簡単に行き来できる距離にはなかった。
そうは言っても、管理会社が発する言葉は重いものばかり。
母親は現地確認の必要に迫られ、急遽、上京。
そして、娘のアパートを訪問。
と同時に、部屋の惨状を目の当たりにし、驚き、悲しみにうなだれたのだった。

一通りの話を聞いた私は、再度、女性の部屋に出向くことに。
ただ、母親は遠方から急遽来たため、何日も居ることができず。
「できるだけ早く来てほしい」とのことで、結果、その日のうちに行動を起こすことに。
私は、作業予定に追加が発生したことを会社に報告しながら、女性と再び顔を合わせることに気マズさを覚えて浅い溜息をついた。


現場に着いたのは当日の夕刻。
陽は前より更にながくなっており、外は真昼のように明るかった。
私は、アパート正面の路上に車をとめ、母親の携帯に電話。
目の前に到着したことを伝え、玄関に向かって足を進めた。

少し間をおいて、玄関ドアは開いた。
そして、中からは、一人の女性がでてきた。
歳の頃は60代か、年齢以上に疲れた表情を浮かべていた。
玄関の奥に見える室内は、相変わらず外とは対照的に薄暗。
また、前回同様、ゴミ部屋独特の異臭が鼻を突いてきた。

肝心の女性は不在の様子。
意図して外出していたのか、所用で出かけていたのかわからなかったが、女性と会いたくなかった私にとって、それは幸いだった。
女性も私と会いたいわけはなかったし、顔を合わせたところでお互い気マズイ思いをするだけだったはずだから。
女性がいないことがわかると、私が抱えていた後ろめたさは影を潜めた。

「お世話になります・・・」
「まったく、恥ずかしいかぎりで・・・」
管理会社や大家から苦情を言われたて気持ちが萎えていたのだろうか、母親は私にまで低姿勢。
気マズそうに、悲しそうに、また詫びるように頭を下げた。

「かかる費用は娘から聞きました」
「その金額でかまわないので、早急に片付けてもらえませんか?」
ゴミは、自分の手に負えるレベルをとっくに越えている。
また、他人にも迷惑をかけてしまっている以上、一刻の猶予もゆるされない状況だった。

「片付けるのに何日くらいかかりますか?」
「こっちには何日もいられないもので・・・」
急いで片付けなければならない理由は内外にあった。
ゴミを撤去するだけなら何日もかからないことを伝えると、母親は安堵の表情を浮かべた。

「代金の分割払いはできますか?」
「ちょっと事情があるもので・・・」
母親もまた分割払いを希望。
これには、私も意表を突かれ困惑。
前回と同じく腕を組んで表情を硬くしたが、とりあえず、事情をきくことに。
かなりプライベートな領域にまで立ち入るかもしれないことを先に詫び、女性の話に耳を傾けた。


それは、10年余前のこと・・・
女性(娘)には、夢(就きたい職業)があった。
そこで、上京を希望。
しかし、両親にとって娘の夢は非現実的。
とりわけ、父親は強く反対。
都会での一人暮らしや女性の将来を案じてのことだった。

しかし、女性は夢を諦めず。
粘り強く両親の説得にあたった。
それでも、父親は反対の意思を変えず。
ただ、母親は若い娘の可能性を無下にすることに不憫さを覚え、結局、折れることに。
賃貸借契約の連帯保証人になったり夫に内緒で経済支援をしたりと、陰で女性を応援した。

当の女性は、アルバイトや派遣など、不安定な職を転々としながら夢を追いかけていた。
その力の源には若さがあった。
しかし、夢と現実は重なりにくいのが世の常。
夢に近づくことなく、年月ばかりが経過。
夢は遠ざかるばかりで、そのうちに視界から消失。
その後は、現実に追われるだけの生活に。
定職にも就かず、「(実家に)戻ってきなさい」という母親の声も聞き流し、惰性の生活を続けた。

分割払いを希望してきた理由は、“夫(女性の父親)に知られないため”。
夫の反対を圧して娘の上京を認め、また、その生活を支援してきた経緯があり、今回のことが知れてしまうのはかなりマズイ様子。
夫が娘に激怒するのは必至で、母親は、それによって娘が余計におかしくなることを怖れていた。
ついては、代金を日常の家計費に隠し込む必要がある。
そのための分割払い希望だった。


母親には、素人にありがちな認識不足があった。
ゴミ部屋の場合、ゴミを片付ければ問題が解決すると思っている人が大半。
しかし、現実として、それで済む例は少ない。
内装建材に腐食汚損が生じていることが多い・・・つまり、原状回復には内装改修工事がともなうことが多いのだ。
そうなると、かかる費用は倍増する。
仮にそうなった場合、夫に秘密にしておくのは無理なことなのではないかと思われた。

ただ、想定される部屋の内装汚損具合はビミョーだった。
経験のもとづいて考察しても、内装が傷んでいてもおかしくないレベルながら、傷んでいない可能性も充分に考えられるレベル。
正確なところは、ゴミを撤去したうえでないと判断不可。
したがって、私には、内装工事の必要性まで言及することに迷いが生じた。
無責任に不安をあおるようなことを言ってはならないし・・・
かといって、想定されるリスクを事前に伝えることは大切なことだし・・・
結局、
「内装改修工事が必要になるケースもある」
「本件がそれに当てはまるかどうかはビミョーなところ」
と、中途半端な推測を伝えた。
それを聞くと、母親はかなり動揺。
やはり、内装改修工事の必要になることなんて微塵も想定していなかった様子。
「その場合、どういう工事が必要になるんですか?」
「どのくらいの費用がかかるんですか?」
と、しきりに訊いてきた。
私は、“余計なこと言っちゃったかな?”と思いつつ
「内装は痛んでいない可能性もありますから・・・」
「現段階ではハッキリしたことは言えません・・・」
と、曖昧な返答をし、向けていた視線を母親から外した。

ゴミの片付けだけで済めば隠し通せる・・・
しかし、内装改修工事にまで発展すれば隠し通せない・・・
母親は、夫に相談するかどうか迷いはじめた。
が、私は、「隠さないほうがいいのでは?」とアドバイス。
「代金を一括で払ってもらいたい」という心理が働いたのも事実だけど、理由はそれだけではなかった。
本件は女性の将来を左右する転機になるかもしれず、“家族皆で連帯するほうがプラスに作用しやすいのではないか”といった考えを抱いたからだった。


前回、条件はほとんど同じなのに女性を信用する気になれなかったのだが、ここでは、母親を信用する気持ちが湧いてきた。
迷いの中で苦悩する姿に真剣さが感じられたから。
子を思う母の姿に無条件の愛が見えたから。
結果、私は、この依頼を引き受けることに。
判断を保留して会社に持ち帰ることなく、その場で請け負うことを決めた。

そして、
「問題はゴミですけど、本当に問題なのは、ゴミを溜めてしまう心の部分だと思います」
「叱るのは後にして、まずは、娘さんの話をよく聞いてあげたほうがいいと思いますよ」
私は、分割払いを承諾したことを笠に知った風なことを言って、女性の部屋を後にした。
「人としては間違った判断ではない」と自信を持ちながら・・・
「仕事としては間違った判断かも・・・」と自信を失いながら・・・

つづく




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