特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

Run away

2007-06-28 08:14:40 | Weblog
「俺って、何でこんなにつまらない人生を過ごしてるんだろう・・・一度きりしかない人生なのに・・・あ~ぁ、この現実から逃れられたら楽だろうなぁ・・・」
気分が低滞しているときや、心身が疲れているときは、ついついそんなことを考える。

私は、自分で自慢できるくらいのネガティブ男。
社交性も乏しく内向的な私は、友達も少ない。
気を使うばかりで、実社会に通用するコミュニケーション能力が低いのだろう。

まぁ、そもそも、プラス思考で何事にも積極的に取り組めるような男だったら、こんな仕事はやってないだろうね。
そういう意味では、天職なのかもしれない?
天職だとしたら、転職なんてとても無理だね。


「急いで来て!」
と呼ばれた現場は、一階と二階に二世帯ずつ、計四世帯が入るの小さなアパートだった。
きれいな外観から、築年数の浅いアパートであることが分かった。

現場には、ソワソワと何人かの人だかりができており、その中に電話を入れてきた依頼者・中年男性がいた。

その男性は、このアパートのオーナー。
そして、一緒にいたのは不動産会社の担当者と近隣住民。
肝心の遺族は警察に行き、そこには居合わせなかった。

「困ったなぁ・・・困ったなぁ・・・」
男性は、いきなり降りかかってきた災難に困惑していた。
一方、不動産会社の担当者は、〝私には、どうにもできませんよ〟〝あとは大家さんと御遺族で直接やって下さいな〟と言わんばかりに、完全に逃げ腰。
近隣住民は、〝なんてこった!〟〝早く何とかしろ!〟と、当然の権利であるがのような怒りの表情。

更には、現場となった部屋の下の住人は、
「気持ち悪くて住めない!」
と悲鳴を上げて、手荷物を抱えて出て行ったとのこと。
その状況から、残りの二世帯が出ていくのも時間の問題であることは明らかだった。

男性は、挨拶もそこそこに、
「アレなんです!アレ!」
と二階の共有廊下を指差した。

「!」
視線の先には、茶色の液体が滴り落ちていた。
コーヒー?コーラ?醤油?→そんな訳ない!
それは、言うまでもなく人間の腐敗液だった。

「とにかく、見て下さい!」
急かす男性に押されるように、むき出しの外階段を二階へ上がった。

「あ~ぁ・・・こりゃヒドイなぁ」
ある部屋の玄関ドアの隙間から茶黒い腐敗液が流れだし、共有廊下を横切っていた。
そして、それが下の階まで垂れ落ちていた。

「鍵は開いてますから、部屋の中も見て下さい!」
下から男性が声を上げた。

「この状況じゃ、中の状態もだいたい想像つくな」
私は、手袋とマスクを再確認し、腐敗液を踏まないように気をつけながら玄関ドアを開けた。

「こりゃまたヒドイなぁ!」
玄関は、赤茶黒の腐敗液の海。
足の踏場もないくらいだった。

「とにかく、このままじゃマズイですから、何とかして下さい!」
怒るように依頼してきた男性は、この騒ぎを治める術を持たず、まさにパニック寸前の状態。

一方、私は、すぐに作業取り掛かることは可能だったのだが、特掃するにあたっての責任権者と費用負担者が明確になっていなかったため、なかなか次のアクションは起こせないでいた。

「一刻も早くやってくれ!」
と言う男性の事情はよく分かったけど、代金がもらえなくては仕事にならない。
私側の事情を男性に話し、何とか理解してもらった。
そして、遺族が警察から戻って来るのを待つことになった。

故人は若い男性で、玄関での自殺だった。
自分を取り巻く現実から逃れたかったのだろうか・・・まぁ、真意は本人にしか分からないことか。

「玄関先で死ねば誰かが早めに気づいてくれる」
とでも思っていたのか、しかし、その見通しは甘かった。
現実は、〝死後間もなく〟どころか、液状化するまで誰にも気づかれなかった訳だから。

自然死と自殺、通常遺体と腐乱死体では、忌み嫌われるレベルが違うことは容易に想像できるだろう。
この現場では、「自殺+腐乱」で、回りの人達にかなりのインパクトを与えていた。

身寄り(遺族)は、田舎で暮らす母親一人きり。
息子の自殺と腐乱を聞いて、大きなショックを受けたに違いない。
その悲しみを考えると、気の毒に思えた。

神妙な顔付きで立ち話をする私達に、事情を知らない一般の通行人は、
「何事?」
といった怪訝な視線を投げてきた。

そんな気マズイ時間を過ごすことしばし、いつまで待っても故人の母親は戻って来なかった。
それだけではなく、いつの間にか連絡もとれなくなっていた。

時間が経てば経つほど、その場の雰囲気は煮詰まっていき・・・シビレをきらした男性は、母親が出向いていたはずの警察署に問い合わせてみた。

「もう、とっくに帰った」
警察からは驚きの返答。
これには、一同唖然。

「ま、まさか、バックレ?」
私達の間に、イヤ~な空気が流れた。


それから何日か過ぎ、自分の仕事の事後確認のため、大家の男性に連絡をとってみた。

あの日に済ませた特掃の跡には問題がなかったことは何よりだったけど、残念なことに、残っていた二世帯の住人もアパートを出て行ったらしかった。
そして、起こったコトがコトだけに新たな入居者が現れる見込みもなく、近所でも有名な無人アパートになってしまっていた。

それで、例の母親といえば、
「賃貸契約や身元保証の保証人にもなってないし、相続も放棄するので、あとのことは関知しない」
と一方的に告げてきたとのこと。

男性は、
「親子揃って現実逃避とは!」
「世間をナメるにもほどがある!」
「こんな〝ロクでなし〟がコノ世に存在してるなんて信じられない!」
そう吠えた後、
「逃げたいのは私の方ですよぉ!」
と泣きだしそうに落胆した。

自分を取り巻く現実から逃げたくなる気持ちは、よ~く分かる。
私も、頻繁に経験することだから。

しかし、人が生きていくうえでは、逃げていいこと逃げてはいけないことがあるのではないかと思う。
その判断は難しいけど、その分別を真剣に考えることが、自分を誠な人間に成長させる一歩になるような気がしている私である。






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奥歯の痛み

2007-06-25 09:07:16 | Weblog
歯の一番奥を〝親知らず〟って言うけど、なんで「親知らず」って言うんだろう。
何らかの意味・語源があるんだろうな。

20台後半の頃、左上奥の〝親知らず〟が急に痛みだした。
斜めに生えていたその歯は、長年、モノを噛む役には立っていない歯だった。
その内部が、知らず知らずのうちに虫歯になっていて、ある日突然に歯が崩壊(ビックリ!)、激痛が走った。

私は、駆け込むように歯科医院へ行った。

私は、子供の頃から大の歯医者嫌い。
いい歳をしていても、歯医者に行くと緊張して(恐くて)心臓がバクバクする。

「いらない〝親知らず〟だから、治療せずに抜きましょう」
医師は、事もなげにそう言った。
「抜歯」の一言に、バクバクしていた私の心臓は凍りついた。

「ぬ!?、抜くんですか!?」(え゛ーっ!)
「そう、明日来れますか?」
「あ!?明日!?」(そんな、いきなり!?)
「痛むから早い方がいいでしょ」
「え・・・ええ、まぁ・・・」(心の準備が・・・)

乳歯を抜いた経験はあったものの、永久歯を抜いた経験のなかった私は、「永久歯は、もともと抜けないようにできている」「痛いうえに、何日も顔が腫れ上がる」といった世間情報を鵜呑みにしていた。
歯痛と恐怖心のせいで、その日は眠れない夜を過ごした私だった。

翌日、足をガクガクさせながら歯科医院へ。
診察台に横たわった私の身体は、死人のように硬直。
反して、心臓だけは飛び出そうなくらいにドキドキ。

医師や医院スタッフにも、私がかなりビビッているのが分かったらしく、
「緊張しなくてもいいですよ」
「深呼吸してみて下さい」
と優しく声を掛けてくれた(苦笑しながら)。

少しすると、麻酔注射が視界の中に入ってきた。
私は、覚悟を決めて、口を開けながら目を閉じた・・・。
「あがー!!!」


誰しも、人に言いにくいことを言わなければならない局面に遭遇した経験をもっているだろう。
特に、それが人を困らせたり悲しませるようなことだったら、尚更言いにくいものだ。
それでも、この社会で生きていくためには、言いにくいことでも言わなければならないときがある。

現場に行って、初めて、そこが死体発生現場であることを知るケースは意外と多い。
第一報は電話で受けるのだが、そのときには現場で人が死んでいたことを言わない依頼者が少なくないのだ。

死人発生の有無で仕事は大きく変わるので、そこのところは肝心なポイントなのだが、多分、依頼者も何て言っていいのか分からないまま言いそびれるのだろう。
また、人間が持つ〝死〟に対する嫌悪感がそうさせているとも言えるだろう。

そうは言っても、
「そこで人が死んでますか?」
なんて質問もストレート過ぎるしデリカシーもなさ過ぎる。
それこそ、言いにくい・・・イヤ、言えない。
とにかく、現場に行けば分かることなので、依頼者の言いたくなさそうなことには触れないで見積検分に出向くのである。

「管理している部屋が臭いんで、消臭をお願いしたい」
不動産会社からお呼びが かかった。
担当者の、奥歯にモノが挟まったような話し方が気になったが、
「まずは現場を見なきゃな」
と出掛けた。

現場は1Rマンションの一室。
指示されたキーボックスから鍵を取り出し、玄関を開けた。

入居者はしばらく前に退去したらしく、既に空部屋状態。
内装リフォームも済んでおり、中はとてもきれい。
そんな部屋は、見た目には何の問題もなかった。
ただ、汚い所に慣れ過ぎている?私は、きれいな現場に少々の違和感を覚えた。

「きれいじゃーん」
私は靴を脱ぎ、鼻で小刻みに息を吸いながら玄関を上がった。

「さてさて、どんなニオイかなぁ・・・ん!?、こ、このニオイは・・・」
キッチンと部屋を隔てる扉を開けた途端、私の鼻はわずかながら例のニオイを感じた。

「これは、あのニオイ・・・イカンなぁ・・・」
私としては、例のニオイとして確信が持てたのだが、〝確かにそうだ〟という証拠がない。
モノがモノだけに、間違ってたらマズイ。
私は、念入りにそのニオイを嗅いで観察した。
そして、ニオイの原因がわずかでも残っていないかどうか、目を懲らして鼻を鳴らして探してみた。
(人間の腐乱痕と腐乱臭を素で探せる自分が、何とも不憫であり可笑しくもあった。)

しかし、内装工事・清掃が済んでいる部屋では、肉眼で確認できるような所見が見つかるはずもなかった。

「んー、どうしよう・・・不動産屋はニオイの元を知ってるのだろうか」
「知らなかったら、何て言おう」
私は、玄関を出たところでしばらく考えた。

普通だったら、腐乱死体現場を管理不動産会社に気づかれることなく始末することは不可能に近い。
しかし、私の経験上だけでも、それをやってのけた人(遺族)が何人かいる。
惜しいところまでいったのに完遂できなかったケースばかりだけど。

この現場も、その可能性があった。

ニオイの原因として考えられるのは、部屋の角隅に汚染が浸みていることと新品クロスの下に汚染が残っていること。
ただ、内装工事が済んでしまっていては、どうにも確認できない。

「不動産屋は、ニオイの原因については何も言ってなかったよなぁ」
私は、悩みながら不動産会社へ電話した。
そして、奥歯にモノが挟まったような話し方になりながら、真相を探った。
しかし、いくら話していてもラチがあかず、私は、あくまで私見であることを念押しした上で観察結果を率直に伝えた。

「この部屋で人が死んでいた可能性があると思うんですが・・・」
「えっ!?わかります!?」

やはり、不動産会社は、この部屋が腐乱死体現場であったことを把握していた。
その上で、不動産会社は、〝ニオイの元がバレるかどうか〟を確認したかったみたいだった。
そんな事情があったから、最初の電話の歯切れも悪かったのだ。

幸か不幸か、私は誰よりも腐乱死体のニオイが分かる男。
そのニオイが分からないわけはなかった。

「内装を全部剥がして、特殊清掃からやり直さないとダメですね」
「え゛ーっ!?」
この部屋は内装工事を早まってしまったパターン。
不動産会社は、大きく落胆した。

奥歯にモノを挟んだままの生き方をしてると、そのうち痛みがでてきそう。

〝心の親知らず〟
思い切って抜いてみたら、人生が楽になるかもしれない。





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兄妹

2007-06-22 07:20:36 | Weblog
「〝兄弟(姉妹)〟は〝他人〟の始まり」
という言葉がある。
もともと〝兄弟(姉妹)〟とは、親子とは違って他人同然になりやすい関係なのだろう。

子供のうちは寝食をともにし、身近で親しい存在であった兄弟姉妹でも、成長するにしたがってそれぞれの人間関係ができ、大人になって家族を持ったりすると次第に疎遠になってくる。
交流と言えば、正月の年賀状交換くらい。
それさえも単なる社交辞令。
お互いの在所を知っているだけで、何年も音信不通になっているような兄弟(姉妹)関係も少なくないのではないだろうか。


「バカ兄貴が!」
依頼者である中年女性は、不満と憤りを露に、そう吐き捨てた。

「どれだけ私に迷惑をかければ気が済むのよ」
「挙げ句の果てにこんな死に方して!」
女性は、私の存在を無視して激高した。
私は、そんな女性にどんな応対をしたらいいのか分からず、静かに放っておくことにした。
そして、そんな女性を横目に、私は部屋にある家財・生活用品の量と種類を観察した。

現場は、老朽アパートの一室。
故人は、部屋で亡くなっていたのだが、発見が早くてたいした汚染めニオイも残っていなかった。
寝ていた布団に、多少のシミが着いていたくらいで、特段の腐敗汚物もなし。
〝特掃〟と言うよりも、〝遺品(不用品)撤去処分〟の感が強かった。

「何かとっておかれるモノはありますか?」
「イエ、兄のものは何も欲しくありませんから」
「じゃ、ここにあるものは全部処分しちゃっていいんですね?」
「ええ、全部捨てちゃって下さい!」

女性の怒りはおさまることはなく、
「全てゴミ!」
と、まるで亡くなった故人までもが不要ゴミであったかのように冷たく言う女性だった。

女性が故人(女性の兄)を嫌い憎んでいるのは明白で、故人と女性との間には、相当の確執があったであろうことが伺えた。

それぞれの人・それぞれの家族には、それぞれの事情があって当然。
ただ、そんな事情のどうこうは、私の仕事には関係のないこと。
興味がない訳でもなかったけど、私は余計なことは尋かなかった。
しかし、女性はたまった欝憤を誰かに吐かないと気が済まないようで、私が尋ねもしないことを、一方的に話し始めた。

故人は、若い頃から放蕩者。
定職を持たないわりには多くの趣味を持ち、お金がいくらあっても足りない生活。
当り前のように借金をし、おのずとその額も膨張。
そのため、両親は何度となく借金を肩代わり。
両親と妹には、故人が原因の苦労は絶えることがなかった。
故人は、その都度謝っては悔い改める素振りをみせた。
しかし、口ではいいことを言いながらも実際の生活は変わらず、同じことの繰り返し。
そして、両親の逝去を機に、女性は故人との縁を切った。

「こんな人のために、なんで私がお金を払わなければならないのよ・・・」
内訳を説明しながら見積金額を提示する私に、血のつながった兄妹であることを怨むかのように女性はボヤいた。

「なるべく安くしたつもりですが、うちも仕事でやってるものですから・・・」
「そりゃそうよねぇ・・・」
女性は諦めた様子で、見積金額に理解を示してくれた。

作業の日。
汚染現場ではなかったことが幸いして、仕事は思いの外スムーズに片付いていった。

荷物の撤去も終盤にさしかかった頃、部屋の中には古い仏壇が残った。
それもゴミとして処分していいはずのモノだったので、他の廃棄物と同じように運び出そうとしたところ、
「ちょっと待って下さい」
突然、女性が仏壇の運び山しを止めた。

「一応、中を見てみます」
何か思うところがあったのだろうか、女性はそう言って仏壇の扉を開けた。
そして、黙って中を見つめた。

「どうかしましたか?何かありましたか?」
女性は、私の質問に返事をせず、神妙な面持ちで仏壇の中から一つの写真立てを取り出した。

「家族写真です・・・私達が子供の頃の・・・」
故人は、位牌や本尊のない仏壇に昔の家族写真を掲げていた。
位牌・本尊・遺影の代わりのつもりだったのだろうか。
そこには、故人・女性兄妹二人の姿もあった。

神妙に写真を見つめていた女性の顔は次第に柔和になり、
「懐かしいなぁ・・・この二人が私達の両親で、この子供が私達兄妹です」
と、私にも写真を見せてくれた。

ホコリを被ったモノクロ写真には、時代を感じさせる家族が写っていた。
ただ、その笑顔は死んでいなかった。

「こんな時もあったんですよ・・・まるで昨日のことのよう・・・夢のようです」
と、泣き笑う女性に、
「この写真も捨てますか?」
と、尋いてみた。

「この部屋の始末が済んだら、もうお兄さんに迷惑を掛けられることもないでしょうから、あとはこの写真と楽しかった思い出だけを持っていかれたらどうですか?」
「そう・・・そうですね・・・」

故人が家族写真をずっと大切にしていたことを知り、女性は救われたのだろうか、作業を終えた時の女性の表情は随分と晴れやかだった。

「たまっていたものが片付いて、何だか気持ちがスッキリしました」
そう言って、私を見送ってくれた。

女性の笑顔をおすそ分けしてもらい、私も笑顔で現場を離れた。
女性が、故人と和解できる日がくることを願いながら。

それには、残った家族写真が、きっと役に立つに違いなかった。





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明暗

2007-06-19 08:29:34 | Weblog
いや~、暑くなってきた!
私のような日陰者でも、夏はやはり暑い。

暗くて寒い冬は精神的にツラいけど、夏は肉体的にキツい季節。
〝どっちがいいか?〟と言うと・・・やっぱ夏かな。
今の私にとっては、夏は明で冬は暗。

学生の頃から夏は苦手で、どちらかと言うと冬の方が好きだった。
しかし、ここ数年来でそれが逆転してきている。
年齢に逆らって、精神は若返っているのだろうか?

暑くなると、当然に大量の汗をかく。
夏の現場では、汗が水をかぶったように身体の表面を流れ、流れた汗は、あちらこちらに滴り落ちる。
時には、目からも。

元人間の上に自分の汗が落ちるとき、生死の明暗が浮き彫りになる。
腐敗汚物は死の証、汗は生の証。

失った水分は、速やかに補給しなければならない。
でないと、体調を悪くしてしまい仕事にならなくなる。
隊長が体調を崩して、他人様が倒れた所を片付けながら自分が倒れてしまっては、笑い話にもならないからね。

夏の現場では飲物は欠かせない。
その調達は、コンビニではなく自販機が便利。
コソコソと肩身の狭い思いをして買物をするのもイヤだし、臭くて汚い男に入ってこられたらコンビニの方も迷惑だろうから。

その点、自販機はいい。
風通しのいいところに立っているし、変な顔もしてこない。
お金さえ払えば、客を差別することもない。

普段、私が口に入れる飲物と言えば、水・お茶が圧倒的に多い。
そして、朝の牛乳と夜の酒も。
しかし、お茶や酒は利尿作用が強いから、水分補給目的では飲用できない。
それでも、私がお茶を飲用するようになったのには理由がある。

その話は、私が20代後半だった頃に遡る。

その頃、胃にポリープが見つかったことがあった。
ちなみに、自覚症状はまるでなかった(自覚症状があると危ないらしい)。

「精密検査が必要」
と病院から連絡を受けたときは、素人ながら、胃癌を疑ってビビってしまった。

「癌だったらどおしよぉ・・・」
しのごの考えてても仕方ないので、とりあえず精密検査を受けた。

内視鏡を胃に入れ、ポリープの一部を採取(結構、苦しかった)。
それを培養・検査して悪性か良性かを検査。
ポリープが、〝良性or悪性〟で、私の運命は大きく変わることが予想されたので、検査結果を待つ間の数日はかなりブルーな日々を過ごした私だった。

「悪性だったらヤバイな・・・癌・・・若いと進行も早いみたいだし・・・」
その頃は既に死体業に従事していた私は、悪性腫瘍(癌)で亡くなる老若男女をたくさんみてきた。
だから、悪い結果がでた場合、自分がどうなっていくかがリアルに想像できた。
そして、その歳でも、ある程度の死生観を養っていた私は、自分の力ではどうしようもできない〝定め〟を受け入れようと苦悩した。

それにしても、人間って勝手なものだ。
「死にたい・生きていたくない」
と思うときもあれば、
「死にたくたい・生きていたい」
と思うときもある。

「俺は20代・・・まだ死にたくないな」
その時の私の心境は、後者〝死にたくない〟だった。

検査結果がでる日、足に力が入らないようなフワフワした気分で病院に向かった。
そして、担当の医師との面談を待った。
待たされている間のドキドキ感は、今になっても何とも言い表しようがない。

明暗を分ける検査結果は・・・
「悪性ではない」
というものだった。

「助かったぁ!」
それだけ聞いて、まずはホッと胸を撫で降ろした。
しかし、ハッキリと〝良性〟と言われなかったところにも理由があった。
どちらにしろ、そのポリープは早期に切除した方がよさそうな代物らしかったのだ。
それでも、悪性腫瘍ではなかったことに安堵する私だった。
病院からの帰り道、足取りが軽かったことは言うまでもない。

それからしばらく、胃癌について敏感になった私は、
「お茶を飲むと胃癌になりにくい」
といった情報を入手。
それからというもの、お茶を飲む習慣が身についた私なのである。

幸か不幸か、私の胃ポリープは悪性腫瘍ではなかった。
でも、それは自分の力ではどうすることもできなかったこと。
世の中には、突然の悪性腫瘍に蝕まれる人もいる。
いきなり、余命宣告を言い渡される人もいる。

人生の明暗は、自分の力ではどうすることもできないことがほとんど。
それでも、〝少しでも明るい方へ行きたい〟ともがくことに、生きている証の一つを見る。

自分の無力さを痛感しつつ、明るい気持ちで暗い仕事をしようと格闘する私である。
腐敗汚物と自分の精神を削りながら。





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親父と家族(後編)

2007-06-16 06:51:37 | Weblog
昔、私が学生だった頃、何も見通せない自分の将来を漠然と考えながら、父親と話していたときのこと。

「自分の人生にとって大切なものは何?」
と父親に尋ねてみた。
すると、少し間を置き、
「家族・・・やっぱり家族だな」
父親は、静かにそう応えて頷いた。

もっと派手なきれい事を期待していた私は、なんだか肩スカシを食らったようで拍子抜けした。
そして、更に、
「しょぼーっ!全然楽しくなさそうじゃん・・・俺は、そんな生き方はまっぴら御免だ!」
と思ったものだった。


現場の話を続けよう。
男性は、亡き息子の腐乱痕を指差しながら、故人がどういう体勢で亡くなっていたのか私に説明し始めた。
そして、
「こんな風に死んでたんだよ」
と言いながら腐敗痕上に腰をおろし、自分の身体を遺体痕に重ねようとした。

「ちょ、ちょ、ちょっとそれはやめた方がいいですよ!」
私は、驚いて男性を制止。
無意識のうちに男性の腕をつかんでいた。

息子の死に様を誰かに分かってほしかったのか、真剣に説明する男性の心情を思うと痛々しかった。
ただ、男性が説明するまでもなく、腐敗液の形状は故人の痕を如実に表していた。

「私もこの仕事は長いですから、現場を見ればだいたいのことは分かりますから」
「あ、そぉ・・・分かればいいけど・・・」
男性と私は、汚染箇所から身を引いた。

それから、作業内容と費用を明示すると、
「じゃ、それでヨロシクたのむよ」
と、男性は作業を依頼してきた。

ウジ・ハエ・近隣住民のことを考えると、特掃作業は早い方がいい。
家財・生活用品の撤去は後日へ後回しし、まずは汚染箇所の処理をやることになった。

外で装備を整える私に近寄って来て、男性は言った。
「俺にも手袋かしてよ」
「え?」
「一緒にやるから」
「え!?」
「俺も一緒にやるよ」
「イヤイヤ、私がやりますから外で待ってて下さい」
「そういう訳にはいかねぇよ!これでも息子の父親なんだからよ」
「私はこの仕事に慣れてますし、一人で大丈夫ですから」
「俺にはもう、息子にしてやれることはないんだから、やらせてよ」
「でも・・・お金をもらううえに手伝ってもらっちゃ、申し訳ないですよ」
「気にしなくていいよ、俺は人の嫌がる仕事が好きだし・・・な?アンタもそうだろ?」
「はぁ・・・」

助っ人の申し出を拒もうとする私に、男性は、
「特掃を手伝う!」
と言って譲らなかった。
私は、恐縮しながら男性に手袋とマスクを渡し、二人で汚部屋に入った。

「アンタ、歳はいくつ?」
「○○歳です」
「え?息子と同じくらいじゃねーか」
「そうですか・・・」
「長いの?この仕事、大変だろ?」
「○○年になります」
「ふぇ~!偉いなぁ!」
「偉くなんかないですよ」
「息子はその歳で死んじまって・・・ま、これも息子の運命、俺がこうなってるのも俺の運命なんだよ」
「そうかもしれませんね・・・」

故人は、子供の頃から気の優しい性格。
常に控え目で、同級生からもイジメられやすいキャラクター。
強い男に育てようと頑張ってはみたけど、結局、故人の性質は変わらなかった。
社会人になった故人は、まあまあの企業に就職。
色々なストレスを抱えながらも、何とかやっていた。
しかし、生き馬の目を抜くような社会の競争と、常に心理戦状態の人間関係に疲れ果て、晩年はこのアパートでほとんど引きこもり生活をしていたらしかった。
そして、体調を崩して孤独死・腐乱。

「他人は、いい時にはいい顔をして寄ってくるけど、悪くなるとすぐに冷たく離れていくものさ」
「でも、家族は違う・・・家族は、いい時も悪いときも一緒」
「自分一人じゃ頑張れないことも、家族がいると頑張れるんだよ」
「俺には、家族が一番大事なんだ」

男性が熱く語るそんな話を聞きながら、作業を手を動かし続けた。

他人の腐敗汚物を片付けたことは数知れない私だけど、身内のそれをやった経験はない。
だから、身内の腐敗汚物を片付ける人の気持ちを正確に理解することはできない。
ただ、素人が人間の腐乱痕を片付けることは並大抵のことではないはず。
それでも、イヤな顔ひとつせずイソイソと作業する男性に感心・感謝しながら、親父の強さとたくましさを見た。
そしてまた、ぶっきらぼうなキャラクターだけど、男性が家族に持つ想いが深くて大きいことを知って、何だかホットな気分になる私だった。

二人でやった特掃作業はスムーズに終了。
「これで一段落つきましたね」
「そうだね、ありがとう」
「こちらこそ」
「コレ、少ないけど冷たいものでも買ってよ」
「スイマセン、気をつかってもらっちゃって」
「アンタ、息子みたいな死に方しちゃダメだよ」
「・・・はい」
「幸と不幸は紙一重、人生はいい時もあれば悪い時もある・・・頑張んなよ」
そう言って、男性は私のポケットに千円札をねじ込んでくれた。
黒く陽に焼けた満面の笑みに潤む目が印象的だった。

外は暑いくらいの陽気。
ひと仕事を終えて汗と脂にまみれた私は、子供の頃の夏、
「アイスでも買え」
と100円玉を握らせてくれた父親のことを思い出していた。






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親父と家族(前編)

2007-06-13 08:48:37 | Weblog
人生を生き抜くことって、決して楽なことじゃない。
苦労や困難なことも多く、疲れてしまうこともしばしば。
疲れているのは私だけではなく、世の中、ほとんどの人が何らかの〝疲れ〟を抱えているのではないだろうか。

人生の幸せを追い求めることに、社会を生き残ることに、食べて生活していくことに、肉体や精神が疲労する。
それでも、何とか生きている。
何とか生きるしかないのである。

生きるエネルギーの源は何だろう。
それは、人それぞれ違うのだろう。


その男性と始めて会ったのは、特掃現場の見積に出向いた時のことだった。

当初、電話での話し方はかなりぶっきらぼうで、私の印象はあまりいいものではなかった。
〝いいものではない〟というより、〝悪い〟とハッキリ言った方が正確かもしれない。

「あまり変な態度をとられたら、こっちから断ってやろう」
そう思いながら、依頼者と見積の日時を打ち合わせた。

現場は古いアパートの一室。
例によって、現場には私の方が先に着いた。
異臭の漂う玄関前に佇むことしばし、しばらくすると依頼者の男性がやってきた。

「多分アノ人だな・・・話しにくい相手じゃなきゃいいけど」
そう思いながら、近づいて来る初老の男性に会釈をした。

「どうも、ご苦労さん」
親しげに片手を上げて挨拶する男性。
私の方が年下のせいか、業者だからか、はたまた男性のもともとの性質なのか、初対面からタメ口で、ぶっきらぼうな喋り方は電話と同じだった。
しかし、どことなく憎めないキャラクター。
陽に焼けた顔に浮かべる人なつっこそうな笑顔が、私が男性に持っていた先入観を変化させた。

「わざわざ見に来てもらって悪いね」
「いえいえ、現場を見ないと仕事になりませんから」
「とにかく、中に入ってみてよ」

とても特掃現場の絡みとは思えないくらいにハツラツと話す男性に、なかなか温度をつかめない私だった。

「臭いし汚ねぇし、まいっちゃうな!」
そう言いながら男性は、玄関の鍵を開けてズカズカと中に上がり込んで行った。
口・鼻も塞がずに堂々と入っていく姿に、私は、親父のたくましさを感じた。

「土足のままでいいですか?」
いつもはそう確認する私なのだが、男性が土足のまま入ったので私も無言でそのまま上がり込んだ。

後から入って、玄関ドアを閉めようとする私に男性は、
「閉めなくていいよ!臭いから」
と注意。

「近所迷惑になりませんかね?」
そう言いそうになった私だったけど、マスクを着けてない男性の意見を尊重することにして黙っていた。

中に入ると、いきなり強烈な悪臭パンチ。
想定済みのこととは言え、防戦に徹するしかない。
次はハエ。
窓の明かりを遮断するくらいの無数のハエが、ワンワンと羽音を唸らせていた。

「あ!ちょっと・・・」
制止しようとする私の声と同時に、男性は窓を開け放した。
すると、〝待ってました!〟とばかりに、無数のハエが外へ弾け飛んで行った。
無数のハエが、遠くの空に散り散りになって消えていく様は、ある種、壮観な光景でもあった。

「あ~ぁ・・・(どっかの家の食卓に行かなきゃいいけどなぁ)」
私は、諦めの溜め息を吐いた。

本来なら、窓を開けることよりハエの始末の方が先。
死体から出たハエを外へ逃がすのは、ちょっとした罪悪感があるんで。
だから、できるだけ部屋の中で抹殺する。
ちなみに、愛用の殺虫剤(非市販品)は効き目バツグンで、飛んでいるハエも撃墜できる逸品なのである。

「このままじゃ臭くていけねーや!」
そう言いながら男性は、台所や風呂・トイレの小窓まで屋内にある全ての窓を開け始めた。
すると、途端に部屋の空気が入れ換わり、部屋の悪臭濃度は下がった。
ただ、近所迷惑もそっちのけの男性に、小さな苦笑いと大きな戸惑いを覚える私だった。

故人は、普段から不衛生な暮らしをしていたようで、狭い部屋は、お世辞にも〝きれい〟と言えるものではなかった。
どちらかと言うと〝汚い〟・・・イヤ、かなり汚い状態。

腐乱痕は、床の布団から壁にかけて付着。
残された頭髪の位置と腐敗液のかたちから、故人が最期にどういう体勢で亡くなったのか、すぐに分かった。

男性は、部屋を見渡しながら、
「死んだのは俺の息子なんだけどね」
「ヒドイ有様でしょ?」
と、まるで他人事のようにコメント。
男性があまりに淡々と喋るもので、ついつい私も
「ホント、酷いですねぇ」
と応えてしまうような始末だった。

それから男性は、
「ここで死んでたんだよ」
と、汚染箇所を指さしながら信じられない行動にでた。

「ちょ、ちょ、ちょっと、それはやめた方が・・・」

つづく




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トイレへGO!

2007-06-10 08:21:52 | Weblog
私は晩酌をする人間なので、夜中に尿意をもよおすことが多い。

トイレへGO!
せっかく寝ているところを尿意で起こされるのは辛い。
ただでさえ、不眠症なのに・・・。
だったら、酒を飲まなきゃいいんだけどね。
自業自得。

私は若い頃、どんなにトイレに行きたくても丑三時(深夜2:00頃~4:00頃)には起きなかった。
時計を見て、その時間帯だと我慢していたのだ。

何故かって?
「丑三時は、幽霊がでやすい時間帯」
って聞いたことがあって、私はその類が大の苦手だから。
〝足がない〟とされるそれらのモノと、会いたくなかったんだよね。
でも、よく考えると、幽霊なんてトイレだけにでるもんじゃないはず。
そう考えると、自分の恐怖心がバカバカしく思える。

そんな私は、
「そんなんで、よくその仕事をしてるな」
とバカにされることもあるけど、私にとって幽霊と死体は別物なんだよね。

ちなみに、今は丑三時も気にしない。
丑三時だって平気でトイレに起きている。


肝臓を悪くした経験のある私は、深酒をすると決まって翌朝腹をくだす。
(汚い話で申し訳ない。汚い話はもう慣れてる?)
しかも、一度のトイレでは済まないこともある。
外出した後にもよおしてくるとツラさも倍増。
電車に乗っているときは、〝途中下車の旅・トイレ編〟となる。

トイレへGO!
しかし、朝の通勤時間帯はどこの駅で降りてもトイレは満員。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでやっとたどり着いたトイレが満員だったときの絶望感は例えようがない。
それでも、もう場所(駅)を変える力は残っていない。
ただ、トイレの行列に加わってジッとしているほかないのである。
わずかに残る忍耐力を、尻の穴筋に集中して。

しかし、並んでいる人のほとんどは緊急事態のはずなのに、誰もが平静を装っているところが人間臭くておもしろい。
そういう私も、平気そうな顔をして並ぶ一人。
そんな所で格好つけたって仕方ないのにね。


「ん!?ギョッ!!」
私は、開けたばかりの玄関ドアをバタン!と閉めた。
そして、ドアノブを握ったまま俯いて硬直。
ショートした思考回路を直すのに、少しの時間がかかったのだ。

「俺が見たアレは何?」
「人の頭じゃなかったか?」
「そんなはずは・・・とりあえず、もう一回見てみるか・・・」
私は、ゆっくりドアを開け、片目を閉じて視線を上げた。

「オ゛ーッ!」
最初よりは長くもったけど、それでも強い拒絶感を覚えて再びドアを閉めた。

「やっぱり頭だ!」
急に心細くなってきた私は、一旦、玄関から離れた。
そして、深呼吸しながら空を仰いだ。

「遺体は警察がさげているはずだし・・・拾えないところは残して行ったのか・・・でも、さすがに頭は置いてかないよなぁ・・・肝心なところだし・・・」
私は、自分が見たものについて、何らかの結論が欲しくて、グルグルと考えた。

「どちらにしたって、中に入るしかないよなぁ」
私は、重くなった足を引きづって再び玄関の前に立った。

「よっしゃ!次は中まで入ってやるぞ!」
それが、腹に力の入っていない空元気であることは自分でも分かったけど、とりあえず自分に勢いをつけてみた。
そして、再々度、玄関ドアを開けた。

玄関から延びる廊下の脇にドアがあり、そのドアは開け放たれていた。
そして、その床には腐敗汚物が広がり、そこに人の頭らしきモノがあった。
遠目からも黒々とした頭髪が確認できた。

「どう見ても頭だよなぁ・・・どうしよぉ・・・」
「当然、顔面も腐乱してるだろうなぁ・・・」
「目が開いて睨まれたら気絶するかもな・・・」
私は、非現実的な妄想に襲われ、背筋には悪寒が走った。

「これじゃ仕事になんないよ・・・違うことを考えよ!違うことを!」
私は、玄関に立ちすくんだまま脳のリセットを試みた。
しかし、そう簡単にはリセットできないのが特掃現場。
しばらく悶々と戦った。

「失礼しま~す」
しばらくして、何とか気分を取り直した私は、中へ足を進めた。
そして、〝頭〟に近づいていった。

トイレへGO!
「うへぇー、そういうことかよぉ」
故人が倒れていたのは廊下脇のトイレ。
そして、〝頭〟に見えたモノは、故人の頭皮・頭髪だった。
それが、シッカリした状態で床に立体していた。
警察は、中(顔・頭蓋骨etc)だけ抜いて持って行ったのだった。

「ついでにコレも持って行ってくれよぉ・・・俺は液モノだけで充分だからよぉ」
言葉は悪いけど、そこはとてもヒドイ状態。
液も脂も粘土もタップリでウジ・ハエの天下。

特掃現場の中でも、トイレは難易度が高い。
ただてさえ狭いうえに、中央には便器が座っている。
作業のやりにくさは相当なものだ。
自分の手を道具にするしかなく、身体も汚れまくる。
作業の手順と内容をシュミレーションすると、おのずと気分は暗くなった。

「これをやんなきゃいけないのか・・・」
特掃除なんて、もともと明るい気分でやる仕事ではないけど、この時は一段と気分が重くなった。

子供の頃、楽しいイベントが控えていると、それが楽しみで楽しみで夜もろくに眠れなかった経験はないだろうか。
この現場の場合も似たようなパターン。
過酷な作業が控えていると、不安で不安で夜もろくに眠れない。

私にとって、トイレは安らぎの場所とは限らない。
時には、戦場(仕事場)になる。
それでも、どんな時でも、トイレへGO!するしかない私なのである。






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死なん指南

2007-06-07 20:09:41 | Weblog
本blogの読者書き込み欄は、公開Verと非公開Verがある。
こんな形態になった事情は一年前のblog記事に遡ってもらえれば分かるけど、このスタイルにしてからは特に荒れることもなく平穏に維持できているみたいなので何よりである。

たった一年前のことなのに、コメント欄が荒れていた頃が懐かしく思える。
一年経って、更新頻度も落とし、中身もだいぶ様変わり。
とても、同一人物(私)が書いているとは思えない?
時は、確実に過ぎている。
私も少しは成長している?

一部の書き込みについて、所感を記そう。


「なんでそんなに頑張れるの?」
以前にも書いたけど、私の〝頑張り〟は、追い詰められた局面で結果的・瞬間的に発揮される消極的な力。
時々、頑張ることが必要な時があるだけで、総じて私は〝頑張って生きている〟わけではない。

どちらかと言うと、頑張ることはあまり好きじゃないかも。
〝頑張って生きる〟ことより、〝どうやったら頑張らないで済むか〟ばかりを志向しているような気がする。
困難に立ち向かうより困難から逃げようとすることの方が多い。
それでも、実際は、逃げ切れないことが多いけど。

私は、不安神経症的な性質で神経質、マイナス思考の傾向が強く極度の不眠症でもある。
心身共に疲れやすくて、口から出るのは、笑い声より溜め息の方が多い。

こんな私が頑張れることと言ったら、ごく限られた一時的なことだけ。
私の努力や忍耐力には持久力が欠けているのだ。

「特掃隊長=強い男」
なんて印象(誤解)を招いているかもしれないけど、私は、自分でも情けなくなる(呆れる)くらいに弱い人間。
弱いから、この仕事をやってるわけ。

ま、私もだだの人間。
それが、たまたま風変わりな仕事をしているだけのこと。


「特殊清掃の仕事をしたい!」
んー。
このところ、こんな人が増えている。
その動機は様々だと思うけど、仮に本blogがきっかけになったとしたら、やめた方がいい。絶対に!

偉そうな言い方になるけど、そんな人に対しては、
「何にも分かってないなぁ」
と思ってしまう。
現実を分かってたら、「やってみたい」なんて気は起きないはず。
逃げられるものなら、私だって逃げたいんだから。

blogで表しているのは、死体業のほんの一面・一部でしかない。
とても、文字だけで伝えきれるものではないし、理解できるものでもない。
また、メディア情報・フィクションや想像力だけで体感できるものでもない。

「ドラマチックな現場で、死生観を養える」
「人生の意味と命の尊厳を体感できる」
等と思っていたら大間違。
現実は、過酷な肉体労働であり汚れ仕事なのである。
ひたすら単調な作業の繰り返しで、思考力を殺して自分を機械にすることが求められることもある。

本blogの真髄は私個人の頭(心)の中の出来事なのである。
同じ特掃作業をしていても、他の人間と共有できるものではない(共有できたとしても、それは一部)。

何が言いたいかって?
「死体業をやらなくたって、人生を大切に生きることはできる」
「どんな仕事をしていても、人生の意義・意味を考えることはできる」
と言うこと。

「特殊清掃は、根性・忍耐・努力等ではない類の〝何か〟が心にないとできない仕事」
だと、私は思っている。


「死ぬのはやめた!」
そんな書き込みは素直に嬉しい・・・。
イヤ、〝嬉しい〟と言うより〝助かったぁ〟と言った方が正確かもしれない。
特に、〝死にたい〟書き込みんできた人と同一の人が〝死ぬのはやめた〟を伝えてきたときは、身体が脱力する。
そして、溜め息にも似た安堵の息をつく。

〝死にたい〟旨の書き込みには戸惑う。
「俺のなすべきことは何?」
と、答のない自問に気落ちする。

だからと言って、「書き込むな」とか「書き込んでほしくない」等とは思っているわけではない。
書き込むことによって、心の腐敗ガスが抜けたり、生きている時間が少しでも長くなるのなら、遠慮なく書き込めばいい。

だだ、その悩みを受けて立つ力は私にはない。
できることと言えば、共有することくらい。
私も、〝生きたい〟希望の影にある、〝死んでもいい〟短絡感を消しきれずにいる人間の一人だから。

どんなに苦悩したって、この世は無の無・空の空。
終わってしまえば何も残らない。
だったら、何だって受け入れてやろうよ。

人生の長さと終わりを、自分で決めたらイカンよ。

以上





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他人のニオイ

2007-06-04 09:46:02 | Weblog
私も〝オヤジ臭〟がする年齢になってきた。
ただ、人工的な(化粧品の)ニオイは好きではないので、香水系のものはつけない。
たまにつけるのは、業務用の消臭芳香剤くらい。

これからの季節はオヤジ臭に汗臭さがプラスされて、更によくないニオイになる。
更に更に!特掃作業では、例のニオイを全身に纏うわけで、それによって誰もが忌み嫌うウ○コ男が完成されるのである。

特掃現場で圧倒的に多いのは孤独死の現場。
しかも、周囲に悪臭が漏れ出すまで、誰にも気づかれないケース。

「人間関係が希薄になっている」
と言われるようになってから久しい。
都会の集合住宅に密集して暮らしていたって、〝隣は何をする人ぞ〟状態。
隣人の名前も顔も知らないまま生活することに、何の抵抗もない。
他人とは一定の距離を保ち、リスクのない範囲で他人に興味を持つ。
そんな現状を否定・批難するつもりはない。
どちらかと言うと、私だってそんな人間関係を心地よく思っている一人だから。

特掃の依頼が入った。
場所は、都内でも有数の繁華街。
実際に行ってみたら、迷路のような路地に無数の店が犇めき合っている。
そして、現場建物の前も多くの人が行き交っていた。
その風体が、明らかに街の雰囲気に合わなかった私は、街の人々からの冷めた視線を感じた。

現場の部屋は、古い雑居ビルの一室。
玄関ドアの前に立つと、明らかに死体腐乱臭がした。
それだけではなく、扉の隙間から数匹のウジも這いでていた。

「こりゃ、かなりイッてそうだな」
私は、兜の緒を締めるごとく、マスクのバンドを締めた。

予想通り、中はヒドイ状態。
台所の壁と床にはベットリて腐敗粘土・腐敗液・腐敗脂・・・(その凄まじさは、とても文字では表しきれない)。
その中には、丸々と肥えたウジがウヨウヨ。

「うはぁ~、やっぱかなりイッちゃってるよぉ」
私は、興奮しながらも悲しく呟いた。

「それにしても、よくもこんなになるまで放っておかれたな」
この現場を警察に通報したのは、定期清掃に来た管理会社の人間。
「異臭+ウジ=仰天」
だったとのこと。
何日も前から異臭が漏れだしていたはずなのに、通報したのは近隣住民ではなかったのだ。

実は、このパターンは結構多い。
異臭を感じない訳ではないけど、他人と関わり合いになるのがイヤなのだろう。
ましてや、何らかのトラブルを予感させるような案件では。
プラス、もともと「異臭=死体腐乱臭」といった概念を持ち合わせていないことも一因としてあるかも。
まぁ、一般の人が死体腐乱臭を嗅ぎ分けられないのは当然のことだ。

「ものスゴク臭いんだけど、何のニオイか分からない」
それが、死体腐乱臭。
そして、腹と脳をやっつけてしまうのが死体腐乱臭。

腐敗系汚物の除去・清掃は、何度やってもキツい。
技術的には慣れても、人間的には慣れない。
特に、最初の着手時がキツい!
余計なことを考えず、自分を機械にして手をつける。
それでも、作業を進めていくにつれ、故人に対して親しみ?情?みたいな感情が湧いてくるから不思議だ。
ちょっと間違うと変態チックなこの感覚は、誰にも分かり得ないだろう。

全くの余談。
本blogをケータイで作成していることは何度となく過述した。
車の中で、片手にオニギリ・片手にケータイを持っていることも多い。
特掃現場を思い浮かべながらも、平気で飯が食える自分に、
「現場もイッちゃってるけど、俺もイッちゃってるかもな」
と苦笑。
ま、私の場合は、〝特掃現場があるから飯が食える〟とも言える。
あ~ぁ、悲しむべき汚仕事だね。

自分のニオイって、自分てはなかなか感知しづらいもの。
しかし、ウ○コ男になると違う。
自分が強烈にクサイことがハッキリ分かる。

時として、ウ○コ男は人間忌避剤と化す。
他人を寄せつけないほどの香りを放つ。
人間嫌いの私には、ちょうどよくもあり寂しくもある。

クサイのは、他人のニオイばかりじゃないよね。






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失礼!

2007-06-01 06:36:03 | Weblog
平々凡々と生活する中で、知らず知らずのうちに人に失礼なことをしていることってないだろうか。
私は、たまにそういうことをやらかしてしまう。

特殊清掃撤去の依頼が入った。
私は、依頼者と決めた日、いつものように約束の時間より早く現場付近に到着した。

「確か、この辺のはずだよなぁ・・・」
地域によっては、同じ番地の家が複数あるところや、一軒だけ飛び地しているところ、何桁もある番地で分かりにくいところがある。
この現場は、同じ番地が複数ある地域だった。

目的のエリアに入った私は、路上に車を停め、歩いて目的の家を探すことにした。
キョロキョロと辺りを見渡しながら、グルグルと町内を歩きまわった。

「ん!この家だな・・・」
表札・番地はでていなかったものの、〝いかにも特掃現場〟といった佇まい。
「この家に間違いなさそうだな」
そう判断した私は、家の前で依頼者を待つことにした。

〝いかにも特掃現場〟風の住まいってどんな家を指すのかと言うと・・・
失礼な発言になってはいけないので、ここでは伏せておこう。

しばらくの時間が経過。
約束の時間が近づいてもも依頼者は現れず。
「まぁ、次の予定もないし、ゆっくり待つとするか」
長閑な晴天も心地よく、私は気長に依頼者を待つことにした。

やることもなく手持ち無沙汰になってきた私は、門扉のインターフォンに手を伸ばした。
そして、誰もでるはずのないインターフォンを押してみた。
〝ピンポ~ン〟
家の中から、インターフォンが鳴る音が聞こえてきた。

ちなみに、私は、現場宅のインターフォンを押すことが多い。
誰もいないと分かっているのに。
〝誰かいないか〟を念のために確認する意味と、〝誰か〟いた場合の、〝どっかに行ってて〟の合図の意味もある。

やはり、家の中からは何の応答もなかった。
が、私は何を思ったか、もう一度インターフォンを押してみた。

「ハイ・・・」
中から返事がきた。
ドキーッ!!
私の心臓は破裂しそうなくらいに動悸した。
そして、絶句。
なんと、中に人がいたのだ。

私が仰天したところ、間髪入れずに携帯が鳴った。
「今、現場にいるんですけど・・・」
依頼者からの電話だった。
どうも、私は現場の家を間違っていたみたいだった。

そうこうしていると家の中から人がでてきた。
私は、依頼者に、〝もう近くにいる〟旨を伝えて電話を切り、出てきた家人に応対。

「何の用ですか?」
「○○さん宅ではないですか?」
「違いますけど」
「アレ?おかしいなぁ」
「この辺は同番地の家が何軒もありますから、よく間違われるんですよ」
「そうですかぁ、失礼しました」
分かり切った問答をして、私は、そそくさと退散。

間違えた家の主は、私が何の家と間違ったかを知るはずもなかったけど、もし知ってしまったらスゴク嫌な気持ちがしただろう。
よりによって、腐乱死体現場に間違われたのだから。

私は、正規の現場に急行した。
依頼者は、玄関前の道路に立ち、私の姿を見つけて深々と頭を下げてきた。

「遅れてスイマセン、家を間違えちゃって」
「この辺の番地は紛らわしいですからね」

依頼者は、私が遅れて来たことなど気にも留めてないようだった。
約束の時間を守ることも礼儀の一つなので、かなり気マズかった私は依頼者のおおらかさに助けられた。

「どうぞ」
依頼者は玄関の鍵を開けてから、私の後ろに回った。
「一人で入ってきて」
依頼者の動きはそれを示唆していたので、
「中に入らないのですか?」
なんて野暮な質問はせず、私は黙ってマスクを装着した。

玄関から奥は昼間なのに薄暗く、まずは電灯をつけて明かりを確保。
それから、奥へと進んだ。
ニオイの確認のため、一時的にマスクを外してみたら、人間腐乱臭とは違った異臭が立ち込めていた。

「このニオイは・・・」
私は、誘われるように台所に向かった。
案の定、冷蔵庫扉の隙間から黒い液体が漏れだし、それが異臭を放っていた。

「うぁ~!こりゃヒドイなぁ!」
私は、思わず声を上げた。
冷蔵庫の扉を開けてみたい好奇心と、開けたくない防衛本能とを戦わせながらしばらく冷蔵庫と対峙。

「おっと、こんなことしてる場合じゃない。腐乱部屋、腐乱部屋。」
私は、大事なことを思い出したかのように、故人が亡くなっていた部屋に向かった。
部屋の汚染度はライト級で、特に驚く程でもなかった。

家の中を一通り見分し終えて、依頼者の待つ玄関前に戻った。

「そんなにヒドイですか?」
「え?」
「〝ヒドイ!〟って声が聞こえたものですから」
「あ、あれは冷蔵庫!冷蔵庫がヒドイ状態になっていただけです」
「冷蔵庫ですか・・・」
「食べ物が入ったままの状態で、誰かが電気ブレーカーを落としていったみたいなんです」
「・・・」
「まったく、片付ける方の身にもなってほしいですよ・・・ね!?」
「・・・」
依頼者は、何故か気マズそうな顔をして黙り込んだ。

作業の日。
現場には依頼者は来ず、その代理人(親戚)が来た。
そこで、電気ブレーカーを落としたのは依頼者本人であることが発覚。
「漏電で火事にでもなったら大変だから」
と、警察からアドバイスされたとのことだった。

「失礼しました」
そう呟きながら、冷蔵庫の撤去に汗を流すしかない私だった。





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