「俺って、何でこんなにつまらない人生を過ごしてるんだろう・・・一度きりしかない人生なのに・・・あ~ぁ、この現実から逃れられたら楽だろうなぁ・・・」
気分が低滞しているときや、心身が疲れているときは、ついついそんなことを考える。
私は、自分で自慢できるくらいのネガティブ男。
社交性も乏しく内向的な私は、友達も少ない。
気を使うばかりで、実社会に通用するコミュニケーション能力が低いのだろう。
まぁ、そもそも、プラス思考で何事にも積極的に取り組めるような男だったら、こんな仕事はやってないだろうね。
そういう意味では、天職なのかもしれない?
天職だとしたら、転職なんてとても無理だね。
「急いで来て!」
と呼ばれた現場は、一階と二階に二世帯ずつ、計四世帯が入るの小さなアパートだった。
きれいな外観から、築年数の浅いアパートであることが分かった。
現場には、ソワソワと何人かの人だかりができており、その中に電話を入れてきた依頼者・中年男性がいた。
その男性は、このアパートのオーナー。
そして、一緒にいたのは不動産会社の担当者と近隣住民。
肝心の遺族は警察に行き、そこには居合わせなかった。
「困ったなぁ・・・困ったなぁ・・・」
男性は、いきなり降りかかってきた災難に困惑していた。
一方、不動産会社の担当者は、〝私には、どうにもできませんよ〟〝あとは大家さんと御遺族で直接やって下さいな〟と言わんばかりに、完全に逃げ腰。
近隣住民は、〝なんてこった!〟〝早く何とかしろ!〟と、当然の権利であるがのような怒りの表情。
更には、現場となった部屋の下の住人は、
「気持ち悪くて住めない!」
と悲鳴を上げて、手荷物を抱えて出て行ったとのこと。
その状況から、残りの二世帯が出ていくのも時間の問題であることは明らかだった。
男性は、挨拶もそこそこに、
「アレなんです!アレ!」
と二階の共有廊下を指差した。
「!」
視線の先には、茶色の液体が滴り落ちていた。
コーヒー?コーラ?醤油?→そんな訳ない!
それは、言うまでもなく人間の腐敗液だった。
「とにかく、見て下さい!」
急かす男性に押されるように、むき出しの外階段を二階へ上がった。
「あ~ぁ・・・こりゃヒドイなぁ」
ある部屋の玄関ドアの隙間から茶黒い腐敗液が流れだし、共有廊下を横切っていた。
そして、それが下の階まで垂れ落ちていた。
「鍵は開いてますから、部屋の中も見て下さい!」
下から男性が声を上げた。
「この状況じゃ、中の状態もだいたい想像つくな」
私は、手袋とマスクを再確認し、腐敗液を踏まないように気をつけながら玄関ドアを開けた。
「こりゃまたヒドイなぁ!」
玄関は、赤茶黒の腐敗液の海。
足の踏場もないくらいだった。
「とにかく、このままじゃマズイですから、何とかして下さい!」
怒るように依頼してきた男性は、この騒ぎを治める術を持たず、まさにパニック寸前の状態。
一方、私は、すぐに作業取り掛かることは可能だったのだが、特掃するにあたっての責任権者と費用負担者が明確になっていなかったため、なかなか次のアクションは起こせないでいた。
「一刻も早くやってくれ!」
と言う男性の事情はよく分かったけど、代金がもらえなくては仕事にならない。
私側の事情を男性に話し、何とか理解してもらった。
そして、遺族が警察から戻って来るのを待つことになった。
故人は若い男性で、玄関での自殺だった。
自分を取り巻く現実から逃れたかったのだろうか・・・まぁ、真意は本人にしか分からないことか。
「玄関先で死ねば誰かが早めに気づいてくれる」
とでも思っていたのか、しかし、その見通しは甘かった。
現実は、〝死後間もなく〟どころか、液状化するまで誰にも気づかれなかった訳だから。
自然死と自殺、通常遺体と腐乱死体では、忌み嫌われるレベルが違うことは容易に想像できるだろう。
この現場では、「自殺+腐乱」で、回りの人達にかなりのインパクトを与えていた。
身寄り(遺族)は、田舎で暮らす母親一人きり。
息子の自殺と腐乱を聞いて、大きなショックを受けたに違いない。
その悲しみを考えると、気の毒に思えた。
神妙な顔付きで立ち話をする私達に、事情を知らない一般の通行人は、
「何事?」
といった怪訝な視線を投げてきた。
そんな気マズイ時間を過ごすことしばし、いつまで待っても故人の母親は戻って来なかった。
それだけではなく、いつの間にか連絡もとれなくなっていた。
時間が経てば経つほど、その場の雰囲気は煮詰まっていき・・・シビレをきらした男性は、母親が出向いていたはずの警察署に問い合わせてみた。
「もう、とっくに帰った」
警察からは驚きの返答。
これには、一同唖然。
「ま、まさか、バックレ?」
私達の間に、イヤ~な空気が流れた。
それから何日か過ぎ、自分の仕事の事後確認のため、大家の男性に連絡をとってみた。
あの日に済ませた特掃の跡には問題がなかったことは何よりだったけど、残念なことに、残っていた二世帯の住人もアパートを出て行ったらしかった。
そして、起こったコトがコトだけに新たな入居者が現れる見込みもなく、近所でも有名な無人アパートになってしまっていた。
それで、例の母親といえば、
「賃貸契約や身元保証の保証人にもなってないし、相続も放棄するので、あとのことは関知しない」
と一方的に告げてきたとのこと。
男性は、
「親子揃って現実逃避とは!」
「世間をナメるにもほどがある!」
「こんな〝ロクでなし〟がコノ世に存在してるなんて信じられない!」
そう吠えた後、
「逃げたいのは私の方ですよぉ!」
と泣きだしそうに落胆した。
自分を取り巻く現実から逃げたくなる気持ちは、よ~く分かる。
私も、頻繁に経験することだから。
しかし、人が生きていくうえでは、逃げていいこと逃げてはいけないことがあるのではないかと思う。
その判断は難しいけど、その分別を真剣に考えることが、自分を誠な人間に成長させる一歩になるような気がしている私である。
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特殊清掃プロセンター
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。
気分が低滞しているときや、心身が疲れているときは、ついついそんなことを考える。
私は、自分で自慢できるくらいのネガティブ男。
社交性も乏しく内向的な私は、友達も少ない。
気を使うばかりで、実社会に通用するコミュニケーション能力が低いのだろう。
まぁ、そもそも、プラス思考で何事にも積極的に取り組めるような男だったら、こんな仕事はやってないだろうね。
そういう意味では、天職なのかもしれない?
天職だとしたら、転職なんてとても無理だね。
「急いで来て!」
と呼ばれた現場は、一階と二階に二世帯ずつ、計四世帯が入るの小さなアパートだった。
きれいな外観から、築年数の浅いアパートであることが分かった。
現場には、ソワソワと何人かの人だかりができており、その中に電話を入れてきた依頼者・中年男性がいた。
その男性は、このアパートのオーナー。
そして、一緒にいたのは不動産会社の担当者と近隣住民。
肝心の遺族は警察に行き、そこには居合わせなかった。
「困ったなぁ・・・困ったなぁ・・・」
男性は、いきなり降りかかってきた災難に困惑していた。
一方、不動産会社の担当者は、〝私には、どうにもできませんよ〟〝あとは大家さんと御遺族で直接やって下さいな〟と言わんばかりに、完全に逃げ腰。
近隣住民は、〝なんてこった!〟〝早く何とかしろ!〟と、当然の権利であるがのような怒りの表情。
更には、現場となった部屋の下の住人は、
「気持ち悪くて住めない!」
と悲鳴を上げて、手荷物を抱えて出て行ったとのこと。
その状況から、残りの二世帯が出ていくのも時間の問題であることは明らかだった。
男性は、挨拶もそこそこに、
「アレなんです!アレ!」
と二階の共有廊下を指差した。
「!」
視線の先には、茶色の液体が滴り落ちていた。
コーヒー?コーラ?醤油?→そんな訳ない!
それは、言うまでもなく人間の腐敗液だった。
「とにかく、見て下さい!」
急かす男性に押されるように、むき出しの外階段を二階へ上がった。
「あ~ぁ・・・こりゃヒドイなぁ」
ある部屋の玄関ドアの隙間から茶黒い腐敗液が流れだし、共有廊下を横切っていた。
そして、それが下の階まで垂れ落ちていた。
「鍵は開いてますから、部屋の中も見て下さい!」
下から男性が声を上げた。
「この状況じゃ、中の状態もだいたい想像つくな」
私は、手袋とマスクを再確認し、腐敗液を踏まないように気をつけながら玄関ドアを開けた。
「こりゃまたヒドイなぁ!」
玄関は、赤茶黒の腐敗液の海。
足の踏場もないくらいだった。
「とにかく、このままじゃマズイですから、何とかして下さい!」
怒るように依頼してきた男性は、この騒ぎを治める術を持たず、まさにパニック寸前の状態。
一方、私は、すぐに作業取り掛かることは可能だったのだが、特掃するにあたっての責任権者と費用負担者が明確になっていなかったため、なかなか次のアクションは起こせないでいた。
「一刻も早くやってくれ!」
と言う男性の事情はよく分かったけど、代金がもらえなくては仕事にならない。
私側の事情を男性に話し、何とか理解してもらった。
そして、遺族が警察から戻って来るのを待つことになった。
故人は若い男性で、玄関での自殺だった。
自分を取り巻く現実から逃れたかったのだろうか・・・まぁ、真意は本人にしか分からないことか。
「玄関先で死ねば誰かが早めに気づいてくれる」
とでも思っていたのか、しかし、その見通しは甘かった。
現実は、〝死後間もなく〟どころか、液状化するまで誰にも気づかれなかった訳だから。
自然死と自殺、通常遺体と腐乱死体では、忌み嫌われるレベルが違うことは容易に想像できるだろう。
この現場では、「自殺+腐乱」で、回りの人達にかなりのインパクトを与えていた。
身寄り(遺族)は、田舎で暮らす母親一人きり。
息子の自殺と腐乱を聞いて、大きなショックを受けたに違いない。
その悲しみを考えると、気の毒に思えた。
神妙な顔付きで立ち話をする私達に、事情を知らない一般の通行人は、
「何事?」
といった怪訝な視線を投げてきた。
そんな気マズイ時間を過ごすことしばし、いつまで待っても故人の母親は戻って来なかった。
それだけではなく、いつの間にか連絡もとれなくなっていた。
時間が経てば経つほど、その場の雰囲気は煮詰まっていき・・・シビレをきらした男性は、母親が出向いていたはずの警察署に問い合わせてみた。
「もう、とっくに帰った」
警察からは驚きの返答。
これには、一同唖然。
「ま、まさか、バックレ?」
私達の間に、イヤ~な空気が流れた。
それから何日か過ぎ、自分の仕事の事後確認のため、大家の男性に連絡をとってみた。
あの日に済ませた特掃の跡には問題がなかったことは何よりだったけど、残念なことに、残っていた二世帯の住人もアパートを出て行ったらしかった。
そして、起こったコトがコトだけに新たな入居者が現れる見込みもなく、近所でも有名な無人アパートになってしまっていた。
それで、例の母親といえば、
「賃貸契約や身元保証の保証人にもなってないし、相続も放棄するので、あとのことは関知しない」
と一方的に告げてきたとのこと。
男性は、
「親子揃って現実逃避とは!」
「世間をナメるにもほどがある!」
「こんな〝ロクでなし〟がコノ世に存在してるなんて信じられない!」
そう吠えた後、
「逃げたいのは私の方ですよぉ!」
と泣きだしそうに落胆した。
自分を取り巻く現実から逃げたくなる気持ちは、よ~く分かる。
私も、頻繁に経験することだから。
しかし、人が生きていくうえでは、逃げていいこと逃げてはいけないことがあるのではないかと思う。
その判断は難しいけど、その分別を真剣に考えることが、自分を誠な人間に成長させる一歩になるような気がしている私である。
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