特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ぬくもり

2015-01-06 16:38:01 | 遺品整理
2015謹賀新年。
昨日から仕事始めの人も多かったのだろう。
今回の年末年始は、9連休だった人も多かったみたい。
私の身近にも、そういう人はたくさんいた。
羨ましいのはもちろんだけど、反面、そんなに長い間休んでいて労働意欲は低下しないのか心配になる。
そういう人は、土日祝祭日の休みや有給休暇をはじめ、GW・盆・暮と長期休暇がとれるのは当り前のことで休暇慣れしているから、休み明けの仕事はそんなに億劫ではないのだろうか。
私の場合、例によって、相当な欝になりそう・・・イヤ、なるに決まっている。
だとすると、私に長期休暇がないことは、自分のためになっていることなのかもしれないと思える。

「欝」といえば、今のところ、前回の冬期に比べればだいぶマシ。
一年前は、あまりにキツい思いをしたものだから、その苦味はハッキリと記憶に刻まれている。
そうは言っても、やはり、今回も調子が悪いことは悪い。
布団を頭からスッポリかぶり、
「このまま朝がこなければいいのに・・・」
なんて幼稚な考えに、身体が押さえられる日もあったりして難儀している。
それでも、今冬、“動いてみる”というスタンスを得た私は、視覚を通して精神に訴えるため、スマホの裏面に“ネガティブ禁止”のステッカーを貼った。
そして、待受画面のチビ犬(生前からそのまま)ともども、自分を叱咤するツールのひとつにしている。

身体を動かすようにして二ヶ月弱。
何となくだけど効果あるように思う。
ジッとしたまま悶々していては螺旋階段を下っていくばかりのところ、身体を動かすことによって間違いなく気は紛れる。
無心になるところまではいかないけど、余計な思い煩いは鳴りを潜める
だから、この策は、できるかぎり継続していきたいと思っている。

その一環として、快晴の先日、再び鋸山に出かけた。
マイナーな山だから年始でも混まなさそうだったし、登り降りの時間が比較的短くて済むから。
そうは言っても、素人の私にとっては簡単に登ってこれる山ではない。
登山客が少ない分、登山道はたいして整備されておらず、
「これでよくケガ人がでないもんだな・・・」
と思ってしまうような難所(大袈裟だけど)も結構ある。
また、私が好きなコースは、うっそうと茂る森林(薄暗い)をぬかるんだ細い道を歩くわけで、ちょっと恐いような不気味な雰囲気もある。
したがって、心身ともに、それなりの登り応えがあるのだ。

何とか登りきり、山頂手前の平坦な道を進んでいると、反対から歩いてきた年配の男女(おそらく夫婦)が声をかけてきた。
「ちょっとすいません・・・浜金谷駅からですか?」
「そうです・・・浜金谷からきました」
「保田駅の方に行きたいんですけど、この道で合ってますか?」
「え~っと・・・保田駅はですねぇ・・・」
と言いながら、保田駅の一駅隣の浜金谷駅からきた私は、麓の案内所で手に入れたガイドマップをポケットから出し、二人の前に広げた。
そして、現在地から自分が歩いてきた道=二人が進むべき道に指を伝わせ、保田駅方面に行くルートの分岐点で指をとめ、
「このまま道なりに進んで、この分岐点で保田駅方面に折れて下さい」
と、ただマップが教えてくれただけのルートを自分の知識であるかのように伝えた。
そして、
「この先はわかってるんで、よかったらコレ差し上げますよ」
と、タダで手に入れたマップを買ったモノのように二人に差し出した。
すると、二人は、
「ご親切に・・・どうもありがとうございます!」
と、高価なモノでももらったかのように喜んで礼を言ってくれた。
一方の私も、些細な親切だったけど、春風が吹いたかのように心があたたかくなったのだった。


ある年の冬。
その日も今日の東京のように朝から曇り、そのうちに雨が降りだし、外はかなり冷え込んでいた。
約束の時間より一時間余も前に到着した私は、現場家屋が建つ敷地に車を入れ、近所迷惑になるのでエンジンを止めた。
そして、約束の時間がくるのを待つことにして、助手席に放り投げていた上着を着込んだ。
そうして数分たっただろうか、同じ敷地に建つ一軒屋から高齢の女性がでてきた。
見慣れない車がとまっているのが気になったのか、女性は玄関先で傘を広げたかと思うと、そのまま私の方へ歩み寄ってきた。
そして、私に声をかけてきた。

「○○さん(故人)とこの片付けの方?」
「そうですけど・・・△△さん(遺族)に頼まれてきたんですけど、時間があるんでここで待たせてもらってるんです」
「今日来られるのは△△さんから聞いてますので・・・寒い中、御苦労様です」
「あ!大家さんですか?」
「ええ・・・ここの大家です」
「そうですか・・・よろしくお願いします」
「ところで、△△さんは?」
「11時の約束ですから、そのうち来られると思いますけど・・・」
「11時ですか・・・まだ一時間もありますね」
「はい・・・」
「ここじゃ寒いから、うちに入って下さいよ」
「え・・・でも・・・」
人生の先輩の話を聞くのは嫌いじゃない私だけど、女性と私は初対面。
高齢とはいえ女性の家にどこの馬の骨ともわからない者が上がり込むことが不躾なことのように思えた私は、その辺にあったテキトーな書類を手に取り、
「ちょっと、書き物をしなければならないものですから・・・」
と、その心遣いだけをありがたくいただき、女性宅に上がることをやんわりと断った。

少しすると、一度は家に戻った女性が再びでてきた。
「まだ何か用があるのかな?」
と思った私は、女性の姿に視線を追った。
が、女性は私の方へは目もくれず、そのまま表の道路に消えていった。

しばらくすると、女性は、片手に傘、片手にビニール袋を持って戻ってきた。
そして、そのまま私のほうへ近づき、
「どうぞ・・・これで少しはあったまるでしょ」
と、開けた窓から温かいお茶とコーヒーを差し入れてくれた。
女性は、寒空の下、冷雨の中、わざわざ遠くのコンビニまで行き、私のためにホットドリンクを買ってきてくれたのだった。
「え!?すいません!ありがとうございます!いただきま~す!」
私は恐縮至極で、劇団役者級のハイテンションで礼を言った。
そして、一人待つ寒冷の車中で、
「いい人だなぁ・・・」
と、そのホットドリンクで身体と心をあたためたのだった。

遺族の男性は故人の弟で、約束の時刻の少し前に現れた。
接してて気持ちのいい紳士で、
「寒い中、お待たせして申し訳ありません」
と、約束の時間に遅れたわけでもないのに、私に頭を下げた。
「と、とんでもないです!・・・私の方が勝手に早くきただけですから・・・」
恐縮した私は、これまた劇団役者級のオーバーリアクションで頭を下げ返した。

我々の話し声が聞こえたのか、呼びに行く前に女性も家からでてきた。
男性と女性は既に顔見知りのようで、
「兄が長いことお世話になりまして・・・ありがとうございました」
「いえいえ・・・こちらこそ助けてもらうことばかりで・・・」
と、互いに深々とお辞儀。
そして、故人の部屋に入り、故人を偲びつつ家財処分の打ち合わせを始めた。

ケガなのか病気なのかわからないけど、故人は若い頃、不慮の出来事で障害を抱えたよう。
そして、その直後から、この借家に一人で暮し始めた。
「結婚するつもりも家を持つつもりもない」
障害がネックになったのか、故人は若いうちからそう言っていた。
そうして、生涯独身を通した。
それでも故人は、身内にも大家にも投げやりな態度をとることはなかった。
仕事もマジメに、回りの人にも親切に、慎ましいながらも平和な生活を送った。

この家屋は借家で、木造平屋の老朽家屋。
二世帯が入れる長屋造で、片側の一軒には故人が、もう一軒には高齢の女性が独居。
間取りは小さく、お世辞にも住み心地がよさそうな家には見えなかった。
が、故人は、そこに三十数年も居住。
家賃を滞らせたことはもちろん、回りに迷惑をかけるようなこともなく、それどころか、自分には責任のない共用部分の修繕や敷地の清掃・草取り、植木や花の手入れなど率先してやっていた。
時には、女手しかない大家宅や隣家の大工仕事や力仕事も買って出ていた。
しかし、そんな故人も病には勝てず。
晩年は入退院を繰り返すようになり、日に日に痩せ細り、先が長くなさそうなのは誰の目にも明らかなくらいにまで衰弱していった。
そして、寒い冬を迎え、男性家族に見守られながら静かに逝ったのだった。

小さな庭には、大小いくつもの鉢植があった。
それは、生前の故人が育て手入れしていた鉢植。
ただ、もうそれらの持ち主も手入れをする人もいなくなったわけで、
「これも処分しますか?」
と、男性に問うと、
「そうですね・・・お願いします・・・兄のモノはきれいに片付けないといけませんから・・・」
と、男性は故人に申し訳なさそうにした。
すると、それを聞いていた女性が、
「これ・・・○○さんが大事にしてたんですよね・・・そのままにしておいて下さい・・・あたたかくなったらまた花を咲かせるでしょうから・・・」
と、故人に対する優しさをみせ、悲哀の場をあたためてくれたのだった。

死ねば体温は失われる。
しかし、心温は人から人へ伝わり残っていくもの。
世間には、時折、モノ凄く冷たい風が吹くときがある。
しかし、知らず知らずのうちに、人のぬくもりに守られているときがある。
そして、知らず知らずのうちに、人にぬくもりを与えようとする本能が動くときがある。
それが、人を、そして自分をあたためる。

「ホントにいい方でした・・・ホントに・・・」
女性は、何度もそう繰り返し、溢れる涙を袖で拭った。
「そう言っていただけて・・・いい人生だったはずです・・・」
男性は、寂しげな眼をしながらも顔に笑みを浮かべた。

その後、故人が残した樹は、人と春夏のぬくもりの中できれいな花を咲かせただろう・・・
また、それは、それを愛でる女性にぬくもりを与えたことだろう・・・
そして、それを想う私にも、人のぬくもりを感じさせてくれるのである。




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