特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

人生ゲーム

2008-11-28 17:06:58 | Weblog
生老病死・・・
その摂理はいつの世も変わらず、現代においても亡くなる人の多くは高齢者。
老人・成人に比べると絶対数が少ないうえに、遺体処置の必要性が低いからだろう、死体業に従事する私においても、子供の遺体に遭遇することは少ない。
それでも、忘れた頃にポツリポツリと処置依頼が舞い込んでくる。

とある斎場にて。
亡くなったのは、10才にも満たない女児。
長い入院を経てのことだった。

両親は、蒼白い顔をして眠る我が子を呆然と見つめていた。
また、その周りを取り囲む多くの親類縁者は苦悶の表情を浮かべ、場は重苦しい雰囲気に包まれていた。
その深い悲哀は私の精神にまで及び、仕事でなかったらいられないいくらいの圧迫感があった。

そんな中、大人達に促されて、一人の女児が遺体の前に進み出てきた。
その女児は、故人と同年代の従姉妹らしく、生前は姉妹のように仲良くしていたよう。
遺体に近寄り、小声で別れの言葉を掛けた。
その表情は何かに怯えたように固く、人が死ぬことを必死に理解しようとして緊張しているのが私にはよくわかった。

「来てくれてありがとうね」
「○○(娘=故人)も喜んでるよ」
「○○ちゃん(女児)はいいね・・・」
「○○ちゃんは、元気でシッカリ生きるんだよ!」
叶わなかった願いを女児に託すように、母親は女児を愛おしそうに見つめながらしみじみと語った。
我が子は死に、子の従姉妹は生きており・・・それを理不尽に思っていないことは女児に対する穏やかさが表していたけど、それだけに、母の強さと悲しさが一層辛いものであることが感じられた。


子供用の中型棺は、故人の身の丈には小さかった。
窮屈そうに見えると悲しみが増すので、足首を曲げて頭が内壁に当たらないよう注意。
二度と見ることができない全身の姿に皆の視線が集中する中、故人は棺に納められた。

副葬品は、洋服・ぬいぐるみ・勉強道具・お菓子etc・・・
遺族の想いを乗せ、故人が好きだったものが多く用意された。
とりわけ、ゲームは大のお気に入りだったらしく、何種類かのポータブルゲーム機とそのソフトが入れられた。

長い闘病生活の中で、故人にとってゲームが大きな楽しみになっていたことは想像に難くなく・・・
これを棺に入れることは火葬場的にマズいことだったが、遺族の心情を痛いほどに感じていた私は、ただ黙って見ているほかなく・・・
出棺前に、それだけ抜き取ってもらう段取りをつけて、事を治めることにした。

「生きてれば、楽しいことがたくさんあっただろうに・・・」
棺の蓋に突っ伏して泣きく母親に、誰も声を掛けることはできず・・・
呻くような声が響くだけだった。


この故人が、生前、ゲームを楽しんでいたのと同じように、私が子供の頃にもゲームはあった。
ただ、それは、インターネットはもちろん、並の家にはPCさえない時代のこと。
今のコンピューターゲームの祖先である〝テレビゲーム〟〝ゲームウォッチ〟が出てきてはいたもののまだまた普及品ではなく、主流はやはりアナログゲーム。
オセロ・野球盤・サッカー盤etc・・・
サッカー選手の色をホッケー選手に変えただけのホッケーゲームもあり、この鈍臭い人間味がなかなか楽しいものだった。

中でも、一番のお気に入りだったのが人生ゲーム。
買ってもらった日の夜からハマりにハマり、家族を巻き添えにして連日連夜それに興じたことを今でもよく憶えている。
今になって考えると、何がそんなに面白かったのだろうか、我ながらちょっと不思議だ。

ルーレットに従って進んでいくと、目の前には色んな局面が出現。
小さなゲーム盤の中に凝縮された人生があり、悲喜交々の場面がある。
進学・就職・結婚・昇進・宝くじ当選・ギャンブル勝利etc幸せなことばかりでなく、事故・病気・火事・倒産・失業etc苦しいこともある。
順風満帆、何もかもうまくいくときもあれば、踏んだり蹴ったり、何もかもがうまくいかないときもある。
そんな刺激が非常に楽しく、それがこのゲームの醍醐味であった。

知っている人も多いと思うが、これは、ゴールへ到達する速さを競うゲームではない。
その勝負は、手に残る資産の大きさによって決せられる(ように記憶している)。
ただ、これは、一応の勝敗を分けるために設けられた基準。
その面白さや楽しさは、ゲームの勝利者にならなくても充分に味わえる。


「与えられた一生は、ゲームのように楽しめばいいんじゃないだろうか・・・」
のっぺりした心境になったとき、ふと、そんな風に思うことがある。
空想よってイヤなことから目を背けるのではなく、妄想によって現実から逃れるのでもなく、直面するもの全てを受け入れつつ自分の中に無責任な自分をつくってみる。
そして、第三者的に、他人事のように自分が抱える問題を見つめてみるのだ。

「お前は、本当の苦労を知らないから、そんな能天気なことが言えるんだよ!」
「本当の辛酸を舐めたことがないから、そんな軽々しいことが吐けるんだよ!」
そんな批判があるかもしれない。
しかし、幸も不幸も自分の心が感じることで、人が決める・人が決められることではない。

また、遊興快楽ばかりが幸とは限らない。
艱難辛苦が幸をもたらすこともある。
社会的地位のある金持ちが幸せとは限らないし、社会の底辺に埋もれる貧しき者が不幸せとは限らない。

人には一人一人、それぞれに与えられた道がある。
どんなに仲のいい夫婦でも・親子でも・親友でも一人一人別々の道がある。
だから、自分の道が標準だと思ってはならない。
人の道を、自分の道を基準に優劣してはならないのだ。

人生は、一人一人が違う道だから面白い。
山もあれば谷もあるから強くなれる。
晴れの日もあれば雨の日もあるから実に満たされる。
のっぺりした人生は楽かもしれないけど、退屈でつまらない。

「そういうお前は、今、幸せか?」
「万事がうまくいってるのか?」
「後悔や不安はないのか?」
そんな疑問があるかもしれない。
実際、後悔も不安もある。しかも、大きな。
「この人生、やり直せたらどんなにいいだろう」
今までに、何度そう思ったことか。
そして、これから何度思うことだろう。
しかし、人生は、どんなに悔やんでも振り出しには戻れない。
ただ、それと幸・不幸は別の話だ。

「幸せ?それとも不幸せ?」
そう尋かれたら、
「幸せだよ」
と、迷わず答えるだろう。
苦しくて辛くて悲しいことも多いけど、自分を不幸だなんて思っていない。
何故なら、生まれてきたこと・生きていること・自分が自分であることは、何億円の宝クジに当たることよりも総理大臣になることよりも奇跡的なことだから。
そして、今こうして生きているわけだから。

本来、生きるということは楽しいはず。
仮に、生きていることが、面白くも楽しくもないとしたら、わがまま病・贅沢病にかかっている心が節制に入っているだけ。
もしくは、疲れた心が静かなところに入って休んでいるだけ。
心配することはない。不安に負けることはない。
心が息を吹き返すのは、もう間近。
人生って、そういうものだから。


「生きてれば、楽しいことがたくさんあっただろうに・・・」
暗闇の中から母親がつぶやいたその一言は、人生の真を突き、心に大切なものを刻んでくれたのだった。





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LIMITED

2008-11-22 15:05:56 | Weblog
「酒が美味いのは健康な証拠(?)」
また少しずつ晩酌を復活させつつある私。
日を置きながらチビチビとやっている。
そして、今年もまた〝にごり酒〟の季節がやってきた。
私がこれをこよなく愛しているのは、今までに書いてきた通り。
今、取り立てて飲みたくなってるわけでもないのだが、飲みたくなったときに備えて買い置きしておくことに。
よく行く酒屋の内、日本酒に強い一つに出掛けてみることにした。

一口に「酒」と言っても、その種類は膨大。
日本酒・焼酎・ビールetc・・・国産酒だけでも大した量。
ウイスキー・ワイン・ブランデーetc・・・輸入酒まで含めるともう大変。
一つの店では、到底揃えきれるものではない。
したがって、店は商品を厳選する必要がでてくる。
そして、そこに店主の商才と酒屋の特色が表れる。

この時に行った酒屋は、日本酒に力を入れている店。
洋酒に興味のない私には、お誂え向きの店。
私には高嶺の花である高級酒もあるけど、安価で味のいいものもふんだんに取り揃えられている。
そして、それに付いてくる店主のウンチクが、結構いい味を出しているのだ。

「おっ!?〝どふろく〟ですか?好きな人は好きなんですよねぇ」」
お互い、名前は知らなくても顔見知り。
店主は、にごり酒を持って店内を歩く私に近寄ってきて、早速声をかけてきた。

この店主。
趣味が講じて酒屋になったのか、酒屋になるために生まれてきたのか、はたまたそれも商才なのか、前記の通りやたらとウンチクが多い。
初めて会ったときは、「酔ってんのか?」と思ったくらいで、どんな客を相手にも構わず語り始める。

「〝にごり〟もいいけど、とっておきのがあるんですよぉ!」
店主は、いつものごとく話をスタート。
時間も興味もあった私は、それに聞き入った。

〝とっておきの酒〟とは、〝にごり〟ではなく清酒。
それは、日本酒好きなら誰でも知っているような有名酒。
ラベルばかりが光って味が伴わない有名酒がたくさんある中で、この銘柄はその類ではないことは私も知っていた。
しかし、その中でのグレードは並。
私の中では、わざわざ買ってまで飲む品ではなかった。

それが、〝とっておきの逸品〟になった経緯とは・・・
知名度も高く、そこそこに人気もあったその酒を、この店も長年に渡って常備。
ただ、売場スペースの問題があり、陳列できる数には限りがある。
店頭に出しきれないものは、バックルームの冷蔵庫に保管していた。
そんな日常業務の中、何本かが他の商品に混ざり冷蔵庫の隅に隠れてしまった。
そして、それは誰にも気づかれることなく、二年の年月を冬眠したのだった。

ある日、冷蔵庫を整理していた店主は、偶然にそれを発見。
記憶を掘り起こしてみても、そうなった経緯は思い出せず。
ラベルと製造年月を頼りに、その中の一本を試飲してみた。

「いや~!この味がスゴくてねぇ!ビックリしましたよ!」
「深いコクにトロッとした甘みが加わって、新酒のときにはない味わいがでてたんですよ!」
その表現のうまいことと言ったら、年季の入った落語家のよう。
その顔を見ていると、口に生唾がでてきた。

私の場合、晩酌のレギュラーは、缶チューハイ・缶ビール。
寒い時季になると、ビールと〝にごり酒〟がとって代わる。
清酒も好きなのだが、いいものは値が張るので、自分で買うことはほとんどない。
たまの頂きものをチビチビとやるくらい。
しかし、店主の話を聞いていくうちに、私の購買意欲はどんどんと刺激されていった。

「これを店に出すかどうか迷っててね・・・ま、出したらすぐに売れちゃうな!」
「〝にごり〟が好きな人の口には、間違いなく合うだろうなぁ!」
「これは、なかなか手に入れられないよ!」
店主は、自信ありげに断言。
その言葉は、商魂よりも親切心からくるもの聞こえてきて、私の気持ちは一気に傾いた。

「置いといたって腐るもんじゃないしな」
飲んでみないわけにはいかなくなった私は、秘蔵の一本を所望。
財布の中身をはたき、に結局、ごり酒と合わせて二本の一升瓶をブラ下げて帰ったのだった。


〝今だけ!ここだけ!貴方だけ!〟
人は、こんな文句に弱い。
何事も〝限定〟されると心を動かされるもの。
ありきたりの品物でも、〝限定品〟を名乗られると希少価値があるように錯覚してしまう。
それが、ありきたりの物ではなく、真に限りがあるものだとしたら、その価値は測りようがないくらい高い。

これは、人生・命についても言えること。
悠久の時の中では、人の一生なんて一瞬。
それはまるで、大砂漠に輝く一粒のダイヤモンド。
大海原に煌めく一滴の飛沫。
大宇宙に光る一筋の塵。
それほどに小さく儚ない。
その中にある、たくさんの泣き笑い。
その一瞬一瞬すべてが希少品。
その時しか、今しか手に入れられない逸品なのである。

時間だけでなく、一人一人も究極の限定品。
その顔一つとってみても、同じ顔を持っている者はいない。
地球上には、何百億もの人間がいるのに、同じ顔は一つもない。
顔に限らず全てがそう。
この地球上に、自分はたった一人。
自分に価値を見いだせず、虚無感に苛まれているとしても、誰にも測れない価値がある。
自分で測ってはいけない価値がある。


困っている人を助けるためではなく・社会貢献のためでもなく、金のため・生活のためにやっているこの仕事。
自分のためであっても、楽しいことより辛いことの方が多い。
正直言うと、この暗い場所から・冷たい風から逃れたくてたまらなくなるときも多い。
だけど、私のような弱い人間が、明るくて暖かいところに長居するのはマズいこと。
そんな所にいると、すぐに腐ってしまうはずだから。


今の今の今!本当に大切なものは何か?
家族か?健康か?金か?名誉か?仕事か?友か?自分か?
今の今の今!生きていること・生かされていることには意味がある。
生きていて体験することに、無意味なことなんてない。

酒が、暗くて冷たいところでその味に磨きをかけるように、私もその中でだからこそ生きられる・自分が磨かれている。
そして更に、生きること・生きていることを実感できているのだと思う。

いつも、知った風なことばかり書いているこの私。
この社会では負け犬かもしれないが、それでもまだ噛みつく力は残っている。
噛みつかなければならない相手は、世間でも他人でもはなく自分。
自分の死生観・人生観。

〝これだ!〟〝これでいい!〟
そう思える答はないかもしれない。
しかし、〝向上心〟なんて上等なものでも〝チャレンジ精神〟なんて熱いものでもなく、とにかく、何かを問い続け・何かと戦い続けていないと身を保てない自分がいる。


〝特殊清掃ブログ「戦う男たち」〟
二月に予告した通り、晩秋に身を委ねつつ、間もなく終焉。

美酒を口に転がしながら、
「最後は、どう締めようかなぁ」
と考えている私である。





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接触不良

2008-11-16 08:44:11 | Weblog
深まる秋に、冬の足音が聞こえる今日この頃・・・
気の早いところでは、もうXmasの飾りつけがされている。

三度目の秋を迎えている本ブログ。
この時季に冬の悲哀を伝えるのは、恒例になっている?
進歩のない弱音と愚痴を吐き続けている私・・・
外身が歳をとるばかりで、中身が成長していない証拠だろう。

六月からの体調不良は何とか克服したものの、落ちていく気分に比例して、胃腸もパワーダウン。
もともと脂っこいものが苦手な私は、ここのところは特に食べたくなくなっている。
脂ギトギトの肉類はもちろん、フライ・天プラ等の揚物も御免。
無理に食べると胃がムカムカ、ヒドいと吐き気までもよおしてくる。

そんなデリケートな?私は、今までに過食症・拒食症に陥ったことがある。
この相反する症状を、ここ数年の間にも経験。
最大に肥え太った時と最小に痩せ細った時の体重差は、30kgに迫る。
食べたいものを食べたいだけ食べ、飲みたいものを飲みたいだけ飲み・・・
そうかと思ったら、食べること・飲むことそのものがバカバカしく虚しいことのように思えて飲み食いしなくなる・・・
その浮き沈みは、ちょっと度を越しているかもしれない。
ま、ここ二年くらいは落ち着いているので、何とかこのままいきたいところだ。


若い女性から電話が入った。
問題を抱えているのは別の誰かであるかのように口調はハキハキ。
その明るさから、死人がらみの案件でないことは、最初の時点で感じとれた。

「どういったご依頼でしすか?」
「部屋に汚物を溜めてしまって・・・」
「〝汚物〟・・・ですかぁ・・・」
「はぃ・・・その片づけをお願いしたいんです・・・」
「汚物というのは、具体的には何ですか?」
私は、女性と話しながら、同時に汚物の正体を想像。
頭だけが、どんどんと先走っていった。

死人が関係しない汚物で、まず思いつくのが糞尿。
しかし、それは女性の印象と直結せず。
次に思いついたのは、ペット関係。
キチンと世話ができないのに飼ってしまい、部屋をとんでもなく臭く汚くしてしまっていることがあるからだ。
その次に思い浮かんだのは、腐った食べ物。
若い女性でも片づけられない人は珍しくなく、私はその可能性も考えた。
そして、妙な期待感?をもって女性の返事に耳をそば立てた。

「・・・嘔吐物なんです・・・」
「オートブツ?・・・」
「はぃ・・・」
「???・・・〝口から吐いた嘔吐物〟ですか?」
「はぃ・・・」
「ご自分がですか?」
「はぃ・・・」
それを聞いた私は、女性が抱えている問題がすぐにわかった。
そして、遠回りしてばかりだとお互いに余計な気を使うだけなので、率直に尋いてみることにした。

「ひょっとして、摂食障害ってヤツですか?」
「御存知ですか!?そうなんですよぉ!」
「なるほど・・・それで、ですかぁ・・・」
「失礼な言い方かもしれませんけど、こういうの慣れてらっしゃるかなぁって思いまして・・・」
「はぁ・・・」
〝汚物処理のエキスパート(?)〟
女性は、私をそう分析。
褒められているのか、変に思われているのか・・・頼られていることを素直に喜べない自分に、他人事のような滑稽さを覚えた。
また、女性の方もヤケに明るく、他人事のように喜々としていた。

「ただ、ちょっと・・・」
「???」
「家族には内緒で・・・」
「え!?お一人じゃないんですか!?」
「はい・・・実家で・・・両親と一緒なんです・・・」
「ご両親はこのことを知らないんですか!?」
「はい!私には関心ないみたいですから!」
女性は、実家で両親と同居。
親は、女性が自室に嘔吐物に溜めていることを知らないようで、女性もまた、そのことを両親に知られたくないとのことだった。

女性には、私が立ち入ることができない事情があるようだったが、とにもかくにも、現場に立ち入らないと先に進めない。
私は、女性の指定した日時に合わせて、現場に行くことにした。


現場は、少し小さめの一戸建。
同じ仕様の家が軒を連ねており、その密集具合と道幅の狭さから、一昔前に建売分譲された建物であることが伺えた。
私は、そんな風景に団欒に満ちた家族の暮らしを思い浮かべながら、インターフォンに手を伸ばした。

玄関から顔を覗かせた女性は、愛想笑いを浮かべながら手招き。
その愛嬌につられ、人見知りしやすい私の顔にも思わず笑みがこぼれた。
しかし、家族だけではなく、近所の目にも触れないようにしなければならないことを知らされていたので、挨拶もそこそこに玄関に滑り込んだ。

「どうぞ・・・部屋は二階なんですけど・・・」
「失礼しま~す」
玄関を入った時点では、女性にも家にも特異な雰囲気は感じず。
私は、出されたスリッパを履いて、二階への階段を上がった。

「こんな感じで・・・」
「・・・」
ドアを開けると、独特の悪臭。
私は、女性に気づかれないように一瞬だけ顔をしかめた。

部屋の隅には、いくつものビニール袋が山積み。
嘔吐物は、ビニール袋に入れられて〝保存〟されていた。
そして、ビニールに透けて見える中身は、黄土色・オレンジ色・ピンク色・・・奇妙な暖色系に変化し、ビニール袋を風船のように膨張させていた。

「かなりありますねぇ・・・」
「一ヶ月分くらいかな?」
「一ヶ月・・・」
「それまでの分は?」
「以前は、トイレに流してまして・・・」
「何でこれはそうしなかったんですか?」
「・・・」
この一月の間に何があったのか・・・一瞬にして曇った女性の顔に、私が失言を吐いたことは明白。
ただ、無闇に取り繕うと藪蛇になるだけのような気がしたので、それ以上余計なことを尋くのはやめて、話題を変えることによって場をしのぐことにした。

「さてさて、どうやって片づけるか・・・」
「・・・」
「ん゛ー・・・」
「できそうですか?」
「・・・」
不安そうに尋く女性に対し、私は、すぐに返事ができず・・・
一つ一つの袋はそれなりの重さがあり、運んでいる途中で破れでもしたら目も当てられない。
また、両親の留守は事前に把握できても、近所の目ばかりは避けようがない。
結局、トイレに流すほかに適当な処理法を思いつかなかった。


作業には、両親が外出して女性が一人になる日時を設定。
私は、普段の特掃とは異なる緊張感をもってその日を迎えた。

まず、悪臭がこもるのを防ぐため、家の窓という窓を全開。
そして、汚物を垂れこぼした場合に備えて、部屋からトイレにかけての床にビニールシートを敷き詰めた。
それから、汚物の入ったビニール袋を慎重に持ち上げて、破損部分や液漏れがないかをチェック。
問題がないことを確認してからトイレへ運び、カッターで切れ目をいれてボトボトボト・・・
便器に向かって流し込んだ。
そんな単調な作業を、何度も繰り返し、半分の量を処理したところで初日はタイムリミットを迎えた。

〝嘔吐物〟・・・平たく言えば〝ゲロ〟・・・しかも、腐って発酵した・・・
慎重に注いでも、ピチピチ跳ね返ってきたりして極めて不衛生。
見た目も相当で、気持ち悪くないわけはなく。
私の方こそ何度も吐きそうになり、いっそのこと、正体不明の方が楽かもしれなかった。

それから数日後、二日目の作業を実施。
既に要領を得ていた私は、スムーズに作業を進行。
前回と同じくらいの量だったが、前回の半分くらいの時間で処理でき、すべての作業は完了した。

「うぁ~!ホントにきれいになった!ありがとうございました!」
片づいた部屋に女性は喜んでくれ、その笑顔に私の労働も報われた。
ただ、〝もう吐き戻しはやめる〟という言葉はでてこず、そんな女性の心情に深い闇を感じたのだった。


娘が摂食障害をもっていること、嘔吐物を部屋に溜め込んでしまっていたこと、その根本原因が何であるかなんてことは、両親は本当に気づいていないのか・・・
女性が放つSOS信号を、両親は感じていないのか・・・
〝人間関係が希薄になっている〟と言われるようになってから久しいが、それは他人との関係だけではなく家族同士の関係にまで及んでいるのだろう。
血のつながった家族と言えども、以心伝心を過信して言葉を交わすことを疎かにしていると、気づかないうちに気持ちは離れていく。

子供が何を考えているか知ろうとしない親。
優しさと甘さ・厳しさと冷たさ・寛容と放任の違いがわからない親。
子育ての責任を他人(学校)に押しつける親。
子供にビビり、子供にナメられる親。
そして、親に対して心を閉ざす子供。

女性が本当に吐きたいのは、その胸の内・・・
本当に受けるべきは、自らの苦味ではなく親の苦言・・・
本当に問題なのは、女性の摂食不良ではなく、家族の接触不良のような気がしてならない私だった。




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八つ当たり

2008-11-10 10:01:30 | Weblog
〝八つ当たり〟
腹を立てて、関係のない人にまで当たりちらすこと。
誰の内にも潜む、理にかなわない心。

「物や人に八つ当たりなんかしたことない!」
と言い切れる人はいるだろうか。
全くいないわけではなさそうだけど、大方の人は、したこともあればされたこともあるだろう。
その原因は、不満・不安・苛立ち・腹立ちetc・・・

本ブログでは、穏和で寛容、忍耐強い(自分にとって都合のいい?)一面を前面に出しているけど、実のところ、それらは強調できるレベルにはない。
ちょっとしたことにイラつき、些細なことに腹を立てる。
そして、それを何かに・誰かに当たる・・・
後になって振り返ってみると、自分でもバカバカしく思えることがほとんどなのに、何かにつけてついつい当たってしまう。
そして、そんな八つ当たりが新たな八つ当たりを生む・・・


「大変!大変!!」
ある日の午後、不動産会社の担当者から、突然の電話が入った。
管理しているアパートで腐乱死体が発見されたらさく、担当者は、ハイテンション。
かなり慌てた様子だった。

「すぐに来て!」
「すぐにはちょっと・・・」
「なんで!?」
「入っている予定を済ませてからでないと、いけないもので・・・」
「知るかよぉ!そんなのオタクの都合だろ!?」
「・・・」
「何とかなんないの!?」
「無理なものは無理です!」
「チッ・・・」
「・・・」
「しょうがねぇなぁ!じゃ、できるだけ急いで来てよ!」
自分の立場をどう勘違いしているのか、担当者は横柄な態度。
その態度にカチン!ときた私は、電話を終えてからも、しばらくムカムカ。
現場に行ったとき、どんな態度で接してやろうか、頭の中にグルグルと邪心が渦巻いた。

現場となったのは、郊外ののどかな地域に建つありふれたアパート。
そこで、ありふれないことが起こっていた。

「急なお願いに対応していただいて、ありがとうございます」
夕闇の中で待ち合わせた担当者は、低姿勢で礼儀正しく挨拶。
最初、電話で話した人とは別人だと思ったが、やはり同一人物のようだった。

「い、いえいえ・・・こちらこそすぐに来れなくてスイマセンでした」
現場への移動中に十分なウォーミングアップを行い、いつでもファイティングポーズがとれるようにしていた私は拍子抜け。
抱えていたムカムカのやり場に困りながら、挨拶を返した。

「いやぁ~・・・まいりましたよぉ!」
担当者は、〝話したいことが山ほどある!〟と言った顔。
強い口調で、話の口火をきった。

亡くなったのは30代前半の女性。
遺体があったのは浴室。
死後、結構な日数が経っており、かなり凄惨な状態で発見。
駆けつけた家族にも判別できないくらいに腐敗が進んでいた。

残された人にとって・・・特に他人にとっては人が死んだことよりも、その後始末の方が問題。
管理会社が悪いわけではないのに、担当者は、近隣住民とアパートオーナーから口撃を受けていた。
そして、そんな窮状の中での電話だったので、ついつい私にキツく当たってしまい・・・
当初は不快に思っていた私も、その話を聞いて担当者を気の毒に思った。

「近隣住民や大家さんからの苦情だけでも手一杯なのに、遺族が協力してくれなくて弱ってるんですよ」
「どういうことですか?」
「遺族は遺族で、強い被害者意識を持ってて・・・」
「(賃貸借契約の)保証人は?」
「亡くなった本人の父親です」
「なのに?」
「えぇ・・・」
「へぇ~・・・」
「〝家族に責任はないだろ!〟ってな具合に、逆ギレ状態で・・・」
「だからと言って、御社や大家さんに責任はないですよね?」
「そぉですよぉ・・・まったく!」
遺族の反応は、担当者の予想範囲を逸脱。
身内として責任を感じ、積極的に事態の収拾を図るものと思っていたのに、実際、そんな動きは皆目なし。
担当者は、そんな遺族に不満を募らせ、そして、その不満は憤りに変わりつつあった。


「とりあえず、見てきますよ」
私は、担当者を外に置いて、部屋を見てくることに。
担当者も、はなから一緒に行くつもりはなかったようで、鞄から鍵を取り出して当り前のように私に渡した。

「結構、キてるなぁ・・・」
玄関に近寄ると、腐乱臭がプンプン。
下には、警察が残していった腐敗液の足形があった。

「・・・」
玄関を入ったすぐ右手が問題の浴室。
扉は壊されており、腐敗液の帯が玄関へと延びていた。

「こりゃ、パンチがきいてるな!」
二・三歩進み、恐る恐る浴室を覗くと、そこにあったのは覚悟していた光景。
乱れる呼吸に溜息がついてきた。

「硫化水素・・・自殺か・・・」
傍らの洗面台には、腐敗液にまみれた二本のボトル。
内側から施された目貼りと考え合わせると、故人が何をしたのか、言われなくても想像できた。

「こりゃ、ほとんど溶けてたな・・・」
警察の見立ては、死後一ヶ月。
有害ガスが外に漏れないようにするためか、中は目貼りがされた状態。
結果的に、それが腐乱臭の漏洩を妨げて、遺体の発見を遅らせる原因にもなっていた。

「ヒドいな!こりゃ」
故人は、浴槽の中にいたらしく、中には大量の腐敗液が滞留。
その画の凄まじさは筆舌に尽くし難く、気持ちがしなってきた。
そして、あまり長く眺めると気持ちが折れそうだったので、適当なところで切り上げた。


「見てきましたけで・・・かなりヒドいことになってますね」
「やっぱ、そうですかぁ・・・」
「私に着いたニオイがわかります?」
「わ、わかります」
「あと・・・自然死ではなさそうですね」
「わ、わかります?」
「わかります・・・使った物がありましたので・・・」
「・・・隠しておくつもりはなかったんですが、言いそびれてしまって・・・申し訳ないです」
「いえいえ、大丈夫です・・・作業には関係のないことですから」
自殺の事実が明るみに出ると、それを知っていて言わなかった担当者はバツが悪そうにした。
しかし、実務には影響のないことなので、私は、気にしながらも気にしないことにした。

「どちらにしろ、遺族の了承がないと、部屋に手をつけるわけにはいかないんじゃないですか?」
「???」
「こんな部屋でも、家財生活用品の所有権や住居侵入の問題もありますので」
「そうか・・・それがあるのか・・・」
「えぇ・・・後で問題にされたら厄介ですよ」
「ん゛ー・・・困ったなぁ・・・」
非常事態であっても、腐乱死体現場の処理は、火事や災害現場のように私人の行為が公と権利と同等に保護されるものでなはい。
あくまで、責任義務者・責任権者は、法定相続人・保証人である遺族なのだ。
そして、その了承がないと、手出しはできない。

私は、遺族に電話してその辺の確認をとることを進言。
担当者は、あまり遺族と話したくなさそうであったけど、事の必要性を理解して携帯を取り出した。
担当者が最初の挨拶をしてからすぐ、私が電話をかわった。
電話の向こうの遺族は、やはり憮然とした態度。
私に対しても、敵意に近い感情を抱いているような印象を受けた。
そんな相手には、感情的にならない方がいい。
私は、〝御愁傷様です〟なんて余計な芝居は省いて、話を事務的に進めた。

話の中から出てきた遺族の言い分はこうだった。
「他人に勝手なことをされては困る!」
「(一人で静かに死んだのだから)誰にも迷惑なんかかかっていない!」
「家財道具は自分達で片づけるし、掃除も家族の手でやる!」
その理屈には閉口したものの、遺族がそう言うからには、それを差し置いて私が出しゃばる権利はない。
ただ一つ、誰にも迷惑がかかっていないなんてことはなく、その対処だけは早急に必要であることだけは強調して伝えた。
しかし、遺族は、〝そんなこと、アンタに言われる筋合いはない!〟とでも言いたげに返事をはぐらかし、話は平行線をたどるばかりだった・・・


何日か後。
私と担当者と遺族は、現場で顔を合わせることに。
〝百聞は一見にしかず〟・・・〝問題解決の鍵を握る遺族が現場を知らずしては何も片づかない〟という判断で、そうしたのだった。

現れた遺族は三人、故人の両親と兄。
初めて訪問する緊張もあってか、電話のときのような尖った雰囲気はなく、逆に、人の死に気力を奪われたような弱々しさを感じるくらいだった。

警察からある程度のことを聞かされていたのだろう、三人は、市販の簡易マスクとビニール手袋を用意。
それを身につけ、自分達だけで部屋へ向かった。
それから、待つこと数分、遺族は意外に早く戻ってきた。
その顔を引きつらせ、その目に涙を潤ませながら。
そして、
「すみません・・・お願いします・・・」
と、声を震わせながら頭を下げてきた。

故人の痕に対する恐ろしさと驚きと、そこからくる悲しみと悔しさと憤りは図り知れず・・・
しかし、その気持ちをぶつけたい相手は、既にこの世にはなく・・・
残された遺族は、抱えきれない苦悩を誰にぶつけることができるだろう・・・
それとも、一生を、その苦悩と共に生きていかなければならないのだろうか・・・

人に当たることも人に当たられることも、気分のいいものではない。
しかし、それによって、心に溜まった有毒ガスが抜けるのかもしれない。
少なくとも、自分の命に当たったって何も解決しない・・・どころか、人の人生を蝕むだけ。
そのエネルギーは、死ぬ方に当てるのではなく生きる方に当てるべきだ。

「生きてることは、空しいことか?・・・」
答を出せない自分の弱さと過酷な作業・残された人々の悲哀に説明のつかない苛立ちを覚えた私は、浴槽に溜まった汚物に当たり散らしたい気分に苛まれたのだった。




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脱皮

2008-11-04 07:43:10 | Weblog
カサカサカサ・・・
風に舞う落ち葉のような音を立てながら、ウジ殻は吹き寄せらる・・・
腐乱死体現場では、そんな光景も珍しくない。

〝ウジ殻〟・・・
正式な名称があるのかもしれないけど、それはハエの蛹(サナギ)殻のこと。
色は、赤茶から黒まで様々。
形状は、米粒を大きくしたような楕円形。
それが、小豆をぶちまけたように部屋中に散乱。
現場によっては、足の踏み場もないくらいにそれが床を占拠しているところもある。

そうなると、それを踏まないで歩を進めるのは無理。
ブチブチと、嫌でも踏みつぶしてしまう。
中には、無事に羽化して殻だけになったものもあれば、羽化に失敗して中身が残っているものもあり・・・
中身(蛹)があるヤツを踏んでしまうと、中からはドロッとした練乳に似た粘体がでてきてビミョー。
そんな具合に、同じ環境にいても、羽化できるものもいればできないものもいるわけで、〝こんなに多くのウジ・ハエと関わって生きてる者はそうはいまい〟と自負?している私でも、その辺の理由はわからない。

外部環境は同じなわけだから、ひょっとして中にいる本人?の生きようとする力が関係しているのかも・・・
ただ、自分の殻を破るか破らないかだけの違いなのに、その行く末には大きな差がでる。
これは、人の生き方にも共通することかもしれない・・・


「ゴミを溜めちゃいまして・・・」
ある日の真夜中、オドオドした口調の男性から電話が入った。
時間帯のせいか話題のせいか、男性は全く元気なく、私は話のペースを男性に譲ることに。
「火災報知器の定期点検がくることになりまして・・・」
「それまでに何とかしないと、マズいんです・・・」
「ゴミが見つかったら追い出されるに決まってますから・・・」
私は、一つ一つの話をジックリ聞いて、その中から男性の要望を汲み取ろうと試みた。
しかし、男性は何かに迷っている感じで明確な要望を示さず。
結局、私が現場調査に行くまでの話にはならず、中途半端なまま電話は終わった。

後の日の早朝、再び同じ男性から電話。
話の内容は前回より具体的になったものの、相変わらず口は濁し気味。
性質なのか事情なのか、言いたいことがハッキリと言えないらしく、その様子からはその深い苦悩が伺い知れた。
私ができることと言えばフォローを交えながら念入りに話を聞くくらいのことで、この時もまた現地調査を予定するには至らなかった。

更に後の日、男性から三度目の電話。
初めての相手でもなく、また男性の醸し出す雰囲気が他人事のように思えなかった私は、短気を起こすことなく男性の話しに耳を傾けた。
そして、三度目にしてやっと現地調査を実施する運びとなった。


訪れた男性宅は、一般的な1Rマンション。
男性はマンションの入口に立っており、車で到着した私に男性の方から声をかけてきた。
初対面でありながらも、それまでに随分と電話で話していた私達は挨拶も簡単に済ませて部屋に向かった。

エレベーターの中の男性は、明らかに緊張した様子。
口調もどもり気味で、視線も空を浮遊。
暑くもないのに、不自然な汗をかいていた。
一方の私は、煮詰まりそうな雰囲気を中和するために、あえて明るい雰囲気を醸すことに努めた。

自室前に着いた男性は、まるで泥棒にでも入るかのように、キョロキョロと周囲に他の人の視線を警戒。
それがないことを確認すると、素早く開錠し玄関ドアを開けた。
すると、いきなりのゴミ山が出現。
顔を驚嘆させると男性はネガティブに気にしそうだったので、私は、作り笑顔でゴミ山に対峙した。

「自分で何とかしようとやってみたんですが・・・」
「はぃ・・・」
「一向に片づかなくて・・・」
「仕方ないですね・・・」
「期日までに間に合いますか?」
「大丈夫ですよ・・・これくらいなら半日あれば片づきますよ」
「ホントですか!?」
「ええ、約束できますよ」
男性の肩には、間近に迫る期日が重くのし掛かっているようだった。
そして、そのプレッシャーを撥ね除けることを諦めているようでもあった。
だから、男性は私の応えを聞いて、伏し目がちだった目を上げて驚いた。

「何ヶ月溜めました?」
「一年・・・半くらいです」
「そんなに長くないですね・・・」
「ちょっと、病気になってしまって・・・それからなんです」
男性は病名を言わなかったが、私には、それが何であるかわかった。
しかし、せっかく明るくなりかけた雰囲気がブチ壊しになる恐れがあったので、それには触れないでおいた。

「いくらぐらいかかりそうですか?」
「この状態だと、結構な金額になると思いますよ」
「そうですか・・・」
「ん゛ー・・・○万円くらいにはなりますねぇ・・・」
「・・・」
「何か事情がおありですか?」
「えぇ・・・」
私に〝類〟を感じて親しみを持ってくれたのか、〝正直に話した方がいい〟と判断したのか、男性はプライベートな事情を打ち明けてきた。

男性は30代前半。
田舎から出てきて都内の大学を卒業し、名の知れた企業に就職。
実際のサラリーマン生活は思い描いていたものとは違っていたけど、ほぼ順風満帆だった。
しかし、一年・二年と過ぎるうちに、同僚は仲間からライバルへ。
そして、同僚とのマイナス差は上司からのパワーハラスメントの格好のターゲットとなった。
そんな仕事に、精神が蝕まれ・・・
そのうちに会社を休むことが多くなり、職場からは無言の退職勧奨が発せられるように。
そのうち、会社に自分の居場所はなくなり、退職となった。

原因となった仕事から解放されても、病状は回復せず。
それどころか、医師から入院を勧められるほどに悪化。
更に、そんな苦境に追い討ちをかけるように、新たな苦悩が襲いかかってきた。
忘れかけた劣等感をえぐり出す就職難、溜まっていく一方の失望感とゴミ・・・
年を増してきた親に心配もかけられないし、相談に乗ってくれる友人もなく・・・
先の見えない苦悶の日々が、しばらく続いたのだった。

「今はもういいんですか?」
「まだ通院しながら薬を飲んでます・・・」
「そうなんですかぁ・・・」
「特に、人ゴミがダメで・・・」
「わかりますよ・・・どちらかと言うと、私もそうですから」
「〝人ゴミはダメでも、ただのゴミは平気なのか?〟って言われちゃいそうですけどね・・・」
「・・・」
私は、男性のジョークに笑うべきかどうか迷って硬直・・・
結局、迷っているうちに笑う機会を逃してしまった。
しかし、冗談を言えるほどリラックスした男性に安心した私は、変な気を遣うことをやめることにした。

「で、仕事の方は?」
「何とか再就職できまして・・・」
「そうですか」
「はぃ・・・今の仕事は何とか続けらそうです・・・」
「それはよかった」
「ただ・・・」
「???」
「今、お金がないんです・・・」
「はぁ・・・」
本人の努力もあったのだろう、しばらくの忍耐の後、男性は再就職。
前職に比べて給料は安いものの、自分のスキルを活かせる仕事に巡り会えた。
ただ、無職の間の生活費や病気の治療費で、持っていた蓄えは消え・・・
伴って、当方の作業費分の蓄えもなく・・・
クレジットカードも使えない男性は、わずかな頭金を置いて、残りはお金ができ次第の後払いを希望してきた。

私は、色々と話しながら男性の人柄を観察。
かなり不器用そうではあったが、その分、実直さが垣間見えた。
男性は、やむを得ない場合はキャッシングも考えているようだったが、〝巷の金貸し〟にいいイメージのない私は、男性にそこまでのことをさせる必要はないと判断。
身分証の写しと勤務先の名刺・実家の住所と連絡先を教えてもらうことを条件に、男性が希望する代金の支払方法を承諾することにした。


人は、自分の殻を内から破っていける能動タイプの人と、外からの刺激に反応して殻を破る受動タイプの人がいると思う。
かく言う私は後者のタイプだが、どちらにしろ、古い自分を脱ぐことは、何かのきっかけがないとなかなかできることではない。
脱がせてくれる何かがないと、自分の意志と力だけでは難しいのだ。

自分の殻に閉じこもって生きていけるなら、そんな楽なことはない。
私だって、それで生活が成り立つのなら一人静かに自分の殻に閉じこもっていたい。
関わりたくないときは誰とも関わらず、好きな時に苦にならない相手とだけ関わる・・・そんな生活をしてみたい。
だけど、それは無理な話。
そして、結果としてはそれでいいのだろう。


作業の日。
費用を少しでも安くするために、男性も作業に参加。
私達は、汗と脂とホコリにまみれ、手も足も汚しながら黙々と労働。
私は、〝生きるって、こういうことなんだよ〟と、労をもって示した。
そして、自分にしかわからない勇気と決断をもって片づけた部屋に立つ男性の笑顔は、〝生きるって、こういうことか〟と言っているように見えて、私に一仕事を終えた達成感と人の成長を味わわせてくれたのだった。




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