私は、わりと過去の思い出を大切にする。
言い方を変えると〝未練たらしく引きづる〟。
時々、自分の歩いてきた道程を振り返っては、色々な出来事を思い出す。
「あんなこともあった」「こんなこともあった」と、懐かしんだり悔やんだり。
そんな回想でマズイのは、
「あの頃はよかったなぁ」
といったパターン(私の得意技)。
過去を輝かせると、そこから遠ざかる一方の現在から未来が暗くなるばかり。
すると、おのずと気分が暗くなる。
だから、そんな回想パターンはイカンのだ。
中年の女性から、遺品処理の依頼が入った。
依頼の内容は、
「独り暮らしをしていた母親が亡くなったので、家財・生活用品を処分したい」
とのことだった。
女性の落ち着いた物腰と、緊急事態ではなさそうな話しぶりから、
「特掃の出番はなさそうだな」
と判断し、死因・死亡日・亡くなった場所も尋ねなかった。
そして、いつもの通り、まずは見積検分に出掛けることにして女性と訪問日時を約束した。
出向いた現場は、どこの街にもよく見掛ける老朽マンション。
約束の訪問時刻からはかなり早く現場に到着した私は、しばらく外で時間を潰した。
車の中で待っていてもよかったのだけど、頭上には気持ちのいい青空が広がり、
「外で黄昏れてるのも悪くないな」
と思ったのだ。
「〝遺品整理〟と言われて来たけど、どんな現場だろうな」
「また一人の人間が死んだんだな・・・」
等と、結論のでないことばかりをボーッと考えながら、外の風に吹かれていた。
約束の時間が近づくにつれ、私は携帯の示す時間が気になり始めた。
それでも、急がなければならない理由がある訳でもなかったので、ピッタリ約束時刻まで待つことにした。
それから待つことしばし、約束の時間がきた。
それでも、依頼者は現れず。
私の方が遅れて来たと思われては不本意なので、私は玄関前から依頼者の携帯を鳴らしてみた。
依頼者は、すぐに電話にでた。
そして、
「もう現場にいます」
と言う。
「ん?」
と思いながら、私は辺りをキョロキョロ見回したが、それらしき人の姿は見当たらず。
「おかしいなぁ」
と思っていたら、間髪入れずに玄関から依頼者が出てきた。
私が訪問するお宅は特殊な家が多く人が中にいることは少ないので、ついつい外での待ち合わせを想定してしまっていたのだった。
〝家に人がいるのは当り前〟〝家に入るのに靴を脱ぐのは当り前〟だよね。
依頼者に招かれて入ったその部屋は、どことなく冷暗な感じがしたものの、その時もまだ誰かが暮らしているような様相に保たれていた。
「この部屋を空っぽに片付けていただきたいんですけど」
中にはかなりの量の家財・生活用品があり、
「この量だと、費用は結構かかると思いますよ」
と応えながら、私は見積検分を始めた。
きれいに収納されている荷物も、出してみると結構な量になり、処分する荷物の量を見誤ると赤字仕事になる危険がある。
私は、押入やタンス・棚の中から風呂・トイレ・ベランダに至るまで家財・生活用品を注意深く観察した。
この部屋に暮らしていたのは高齢の女性(依頼者の母親)で、夫(依頼者の父親)を亡くしてからは独居。
依頼者が自分達との同居を勧めても、気丈に独り暮らしを続けていたらしい。
「両親は若い頃から、〝子供には迷惑をかけない〟と言ってまして・・・母もその意志を変えずに頑張って暮らしてたんです」
女性は、自分の両親の生き方を誇らしく話しながらも、切なさは否めないようだった。
「ところで、亡くなられたのはいつですか?」
「昨年の今頃・・・調度一年前です」
「え!?一年前ですか?」
意外な返事に、私はちょっと驚いた。
私は、てっきり、葬儀を終えて一段落ついたくらい(1~2週間)だと思っていたのだ。
「なかなか片付けられなくて・・・」
「まだ、母は死んでいないような気がしてしまっていて・・・」
「この部屋を片付けてしまうと、両親を完全に亡くしてしまいそうで・・・」
こんな時は、女性の話を黙って聞くのが礼儀だと認識している私だが、気になる点があったので、丁寧に質問をしてみた。
「気持ちに引っ掛かっているのは霊的なことですか?それとも、過去の想い出ですか?」
沈黙の後、女性は応えた。
「〝霊〟か・・・私はその類は半信半疑なんですよね・・・」
「〝想い出〟ね・・・そう、捨てられないのは想い出です」
女性は、両親が生きてきた過去と両親と共に過ごした想い出を、重く抱えているみたいだった。
「目に見えるモノを捨てることと想い出を整理することとは、次元の違うことだと思いますよ」
「脳裏に残る想い出があるかぎり、ご両親はいなくならないんじゃないでしょうか」
「この空間を片付けるか片付けないかを悩んだことも、時が経てば想い出になるだけですし」
後日、女性はこの部屋を片付けることを決断した。
そして、泣いたり笑ったりしながら作業を共にしたのであった。
全ては、やがて過ぎ去る。
過ぎ行く時間を噛み締めながら、今を精一杯生きるのみ。
今が、未来に光をもたらす想い出になるように。
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特殊清掃プロセンター
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。
言い方を変えると〝未練たらしく引きづる〟。
時々、自分の歩いてきた道程を振り返っては、色々な出来事を思い出す。
「あんなこともあった」「こんなこともあった」と、懐かしんだり悔やんだり。
そんな回想でマズイのは、
「あの頃はよかったなぁ」
といったパターン(私の得意技)。
過去を輝かせると、そこから遠ざかる一方の現在から未来が暗くなるばかり。
すると、おのずと気分が暗くなる。
だから、そんな回想パターンはイカンのだ。
中年の女性から、遺品処理の依頼が入った。
依頼の内容は、
「独り暮らしをしていた母親が亡くなったので、家財・生活用品を処分したい」
とのことだった。
女性の落ち着いた物腰と、緊急事態ではなさそうな話しぶりから、
「特掃の出番はなさそうだな」
と判断し、死因・死亡日・亡くなった場所も尋ねなかった。
そして、いつもの通り、まずは見積検分に出掛けることにして女性と訪問日時を約束した。
出向いた現場は、どこの街にもよく見掛ける老朽マンション。
約束の訪問時刻からはかなり早く現場に到着した私は、しばらく外で時間を潰した。
車の中で待っていてもよかったのだけど、頭上には気持ちのいい青空が広がり、
「外で黄昏れてるのも悪くないな」
と思ったのだ。
「〝遺品整理〟と言われて来たけど、どんな現場だろうな」
「また一人の人間が死んだんだな・・・」
等と、結論のでないことばかりをボーッと考えながら、外の風に吹かれていた。
約束の時間が近づくにつれ、私は携帯の示す時間が気になり始めた。
それでも、急がなければならない理由がある訳でもなかったので、ピッタリ約束時刻まで待つことにした。
それから待つことしばし、約束の時間がきた。
それでも、依頼者は現れず。
私の方が遅れて来たと思われては不本意なので、私は玄関前から依頼者の携帯を鳴らしてみた。
依頼者は、すぐに電話にでた。
そして、
「もう現場にいます」
と言う。
「ん?」
と思いながら、私は辺りをキョロキョロ見回したが、それらしき人の姿は見当たらず。
「おかしいなぁ」
と思っていたら、間髪入れずに玄関から依頼者が出てきた。
私が訪問するお宅は特殊な家が多く人が中にいることは少ないので、ついつい外での待ち合わせを想定してしまっていたのだった。
〝家に人がいるのは当り前〟〝家に入るのに靴を脱ぐのは当り前〟だよね。
依頼者に招かれて入ったその部屋は、どことなく冷暗な感じがしたものの、その時もまだ誰かが暮らしているような様相に保たれていた。
「この部屋を空っぽに片付けていただきたいんですけど」
中にはかなりの量の家財・生活用品があり、
「この量だと、費用は結構かかると思いますよ」
と応えながら、私は見積検分を始めた。
きれいに収納されている荷物も、出してみると結構な量になり、処分する荷物の量を見誤ると赤字仕事になる危険がある。
私は、押入やタンス・棚の中から風呂・トイレ・ベランダに至るまで家財・生活用品を注意深く観察した。
この部屋に暮らしていたのは高齢の女性(依頼者の母親)で、夫(依頼者の父親)を亡くしてからは独居。
依頼者が自分達との同居を勧めても、気丈に独り暮らしを続けていたらしい。
「両親は若い頃から、〝子供には迷惑をかけない〟と言ってまして・・・母もその意志を変えずに頑張って暮らしてたんです」
女性は、自分の両親の生き方を誇らしく話しながらも、切なさは否めないようだった。
「ところで、亡くなられたのはいつですか?」
「昨年の今頃・・・調度一年前です」
「え!?一年前ですか?」
意外な返事に、私はちょっと驚いた。
私は、てっきり、葬儀を終えて一段落ついたくらい(1~2週間)だと思っていたのだ。
「なかなか片付けられなくて・・・」
「まだ、母は死んでいないような気がしてしまっていて・・・」
「この部屋を片付けてしまうと、両親を完全に亡くしてしまいそうで・・・」
こんな時は、女性の話を黙って聞くのが礼儀だと認識している私だが、気になる点があったので、丁寧に質問をしてみた。
「気持ちに引っ掛かっているのは霊的なことですか?それとも、過去の想い出ですか?」
沈黙の後、女性は応えた。
「〝霊〟か・・・私はその類は半信半疑なんですよね・・・」
「〝想い出〟ね・・・そう、捨てられないのは想い出です」
女性は、両親が生きてきた過去と両親と共に過ごした想い出を、重く抱えているみたいだった。
「目に見えるモノを捨てることと想い出を整理することとは、次元の違うことだと思いますよ」
「脳裏に残る想い出があるかぎり、ご両親はいなくならないんじゃないでしょうか」
「この空間を片付けるか片付けないかを悩んだことも、時が経てば想い出になるだけですし」
後日、女性はこの部屋を片付けることを決断した。
そして、泣いたり笑ったりしながら作業を共にしたのであった。
全ては、やがて過ぎ去る。
過ぎ行く時間を噛み締めながら、今を精一杯生きるのみ。
今が、未来に光をもたらす想い出になるように。
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