舞台をじっとみていたある日、一瞬の姿をとらえ、「これだ」と作品の構想を固めた。「このポーズを彫りたい」という田中の願いに菊五郎は快く応じた。それからは何回となくアトリエに通う菊五郎の姿が見られた。菊五郎はこの時の田中の見つめる目を「まるで踊りの名人の目だ」と語ったという。こうして始まった「鏡獅子」の制作は、約20年の歳月を費やして完成した。ときに田中、86歳だった。 . . . 本文を読む
今年のノーベル賞は日本で生まれ育った研究者が若くして米国に移り、成果をあげるという「頭脳流出」が浮き彫りになった。物理学賞の南部陽一郎さん(米シカゴ大学名誉教授)は1952年、化学賞の下村脩さんは60年に渡米。当時の日本の研究環境は欧米に比べて恵まれていなかったためだが、現在も化学研究の場は米国中心になりがちで対策を求める声も出ている。 . . . 本文を読む
宇宙の心と一つに人間の心がなれれば、ここに初めて宇宙の本体も本質も明らかになってきて、当然の帰結として宇宙の心が「真善美」以外のなにものでもなく、そして同時に人間の心の本質もまた「真善美」以外の何ものでもないことがわかってくる。 . . . 本文を読む
先ごろ亡くなった生命科学者ライアル・ワトソンは、ミャンマーに生息する霊長類ギボンの実に優雅なデュエットを紹介している。雄が先ず独特の曲想で歌い始める。やがてそこへ雌が加わる。雌もまた独自の歌を持ち寄る。曲はみごとなまでに調和して、2匹だけに特別な歌となる。 . . . 本文を読む
各々の店の主の仕事ぶりが路上から見え、ヤットコの先に鉄の円い皿が2枚ついた10数本の器具を自在に操って胡麻(ごま)煎餅を焼く煎餅屋、1枚の革から魔法のように自家の製品を仕上げて行く靴屋や鞄屋、ハンダ鏝(ごて)やピンセットを使って機械の修理をするラジオ屋や時計屋の親父の姿が、子供心にとても偉く見えた。 . . . 本文を読む
――上司とはいったいたれか。その上司とかけあおう。と、外国人が問いつめてゆくと、ヤクニンは言を左右にして、やがて「上司」とは責任と姓名をもった単独人ではなく、たとえば「老中(ろうじゅう)会議」といった煙のような存在で、生身(なまみ)の実体がないということがわかる。しかしヤクニンはあくまでも「上司、上司」と、それが日本の神社の神の託宣であるかのようにいう。 . . . 本文を読む
『脱官僚、霞ヶ関に宣戦布告!』(脱藩官僚の会)。この会は元通産官僚、いま代議士の江田憲司氏がよびかけて結成され、元財務官僚の高橋洋一氏、元文科官僚の寺脇氏、元経産官僚の岸博幸氏ら8人が発起人となった。本書では官僚がただ己の省益を守るため手練手管を駆使している事例がいくつも紹介される。 . . . 本文を読む
音響学者バーニー・クラウスは、高性能録音機材をボルネオの熱帯雨林の奥地に持ち込んで、そこに存在する音をすべて録音した。データを持ち帰り、横軸に時間、縦軸に周波数をとって解析してみた。するとグラフには互いに重ならない、たくさんの縞模様が現れたのだ。一体どういうことだろうか。自然界では、音についてもニッチがあるという大発見だった。 . . . 本文を読む
二度と起こりえないこと
それが人生をこの上なく甘美にする
(エミリー・ディッキンソン)
That it will never come again is what makes life so sweet.
( Emily Dickinson, American poet, 1830-1886 ) . . . 本文を読む