電脳筆写『 心超臨界 』

今日あなたはあなた自身
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ドクター・スース

か弱い者、劣った者、敗れた者への仁――熊谷次郎直実

2024-05-12 | 03-自己・信念・努力
電脳筆写『心超臨界』へようこそ!
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生涯学習にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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か弱い者、劣った者、敗れた者への仁は特にサムライに似つかわしいものとして、いつも奨励されていた。日本美術の愛好家は牛の背に後向きに乗っている一人の僧の画像をよく知っているにちがいない。その人の名はかつては泣く子も黙るほどの名前であった。


『武士道』
( 新渡戸稲造、三笠書房、p50 )

か弱い者、劣った者、敗れた者への仁は特にサムライに似つかわしいものとして、いつも奨励されていた。日本美術の愛好家は牛の背に後向きに乗っている一人の僧の画像をよく知っているにちがいない。その人の名はかつては泣く子も黙るほどの名前であった。

わが国の戦史で、もっとも決定的なたたかいのひとつであった須磨の激戦(1184年)のさなか、彼[熊谷次郎直実]は一人の敵に追いつき、一騎打ちを挑み、相手をそのたくましい腕でしっかりと捕えた。さてこのような場合、たたかいの儀礼として、弱い側が強い側と同じ位をもっているか、あるいは同等な能力をもっているかでなければ、一滴の血を流すことも許されない。この屈強な武者は相手の名を知ろうとしたが、相手がそれを拒んだため、その兜(かぶと)をはぎとった。

するとそこに現われたのは、色白のまだ髯も生え揃わない少年の容顔(かんばせ)であった。驚きのあまり、思わず押さえこんでいたその手を緩めたこの古強者(つわもの)は、その若武者を立たせ、父親が諭すように、この場から立ち去るように命じた。

「あな美しの若殿や、御母の許へ落ちさせたまへ、熊谷の刀は和殿(わどの)の血に染むべきものならず、敵に見咎められぬ間にとくとく逃げのびたまへ」と。

だがこの若武者は立ち去ることを拒んだ。

そればかりか熊谷に、二人の名誉のためにはこの場でおのが首を斬ってくれるように求めた。この古強者の白髪の頭上には氷の刃(やいば)がきらめいていた。それはこれまで数え切れないほどの生命の弦を断ち切っていた。だが熊谷の屈強な心はひるんだ。この瞬間、脳裡に彼の息子の姿が浮かんだからだ。その息子は同じ日、初陣を果たすべく出陣のほら貝の音にあわせて駆け出していった。

この武士の力強い腕がわなわなと震えた。そしてもう一度、このいたいけな犠牲(いけにえ)に生命を粗末にせず、逃れるように求めた。だが若武者は「ただ疾(と)く疾く頸(くび)をとれ」というばかりである。

やがて味方の軍兵が雲霞のごとく押し寄せる足音が聞こえてきた。

熊谷は大音声にさけんだ。

「今はよも遁(のが)し参らせじ、名もなき人の手に亡(うしな)われたまわんより、同じうは直実が手にかけ奉りて後の御孝養をも仕らん。一念弥陀仏、即滅無量罪」

一瞬、白刃が空中に舞い、振りおろされた時にはそ刃は若武者の血で赤く染まっていた。

戦いがおわり、この武者は凱旋した。だがもはや、彼は報償や功名に心を傾けることはなかった。熊谷は武勲に輝く軍歴をすて、法体となり僧衣を身にまとった。そして余生を念仏行脚に捧げ、西方浄土を乞い願った。

西方とは、太陽が一日の休息を求めて憩う場所であるが、仏法ではそれは極楽浄土のことであった。

この物語は作り話めいたところを含んでいる、というので史家からは非難をうけやすい。

しかしいずれにしろ、この物語は優しさ、憐憫、慈愛がサムライのもっとも血なまぐさい武勇の物語をいろどる特質であることを示している。「窮鳥懐に入る時は、猟師もこれを撃たず」という古い諺がある。
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