エキストラといえば、もうひとつ、思い出深い体験があります。
NHKの連続朝ドラ「じょっぱり」という昭和初期のドラマにエキストラ出演したときの話です。
主演は片平なぎさ。
今では「2時間サスペンスの女王」となった片平なぎささんですが、当時はお嬢様タレント、って感じでした。
撮影は場所を忘れましたが、渋谷のNHKではなく、ちょっと辺鄙なところにあるスタジオでした。
そこで、昭和初期のお嬢様が通う学校の話でしたから、私たちは着くなり、着物に袴に髪はひとつに長く結わえてあるようなカツラをかぶせられました。
カツラっていったって、エキストラのものは小道具さんの部屋にあるた~くさんのものを適当にかぶせられるだけです。
サイズが合ってる、合ってないもへったくれもありません。
私がかぶせられたのは少し私の頭にたいしては小さめで、「まぁ、これでいけなくもないか・・」という程度のものでしたが、時間が経つとジンジンと頭蓋骨がしびれてくるような感じでだんだん頭痛がしてきました。
その格好だけはさせられたものの、撮影は難航しているのかいっこうにお呼びがかかりません。
そうこうするうちに午前中で終わるはずだった撮影はとっくにお昼もすぎ、スタッフの人が、
「はい、それではいったん休憩~! なぎが休憩に入りま~す!」
と大声で言うのが聞こえました。
そう、片平なぎささんは「なぎ、なぎ」とスタッフの人に呼ばれ、それはそれは大切にされていました。主演女優で1年間という長丁場おつきあいする仕事仲間なんですから当然でしょうね。
休憩に入ります、っていわれたって、そもそもお昼までと聞いていた撮影ですからお弁当なんてもってきていませんし、スタジオは辺鄙なところで外へ出たってなんにもレストランなんてありそうもありません。
第一、昭和初期のこんな格好で表になんて出られるわけがありません。時代錯誤のちょっと頭のおかしい人だと思われてしまいます。
私たちエキストラは、ひたすらすきっぱらと頭痛をこらえて「待つのみ」でした。
このときも撮影というのはひたすら「待つ」ことなのだ、と痛感したことです。
つい先日、トム・ハンクスが何かのインタビューで、俳優とは?と聞かれ、
「ひたすら待つことだよ。」と答えたそうですが、この意味には撮影の合間合間に待つという意味だけでなく、もっと深い意味もあったようです。
つまり、俳優とはどこかの会社に所属して毎日同じ場所に出勤すればいいというわけではなく、仕事の依頼がくるまでひたすら自宅で待機、という生活。
いつ、どこから仕事の依頼が舞い込むかもわからずにひたすらそれでも待つ、それが俳優だと。
トム・ハンクスほどの大俳優でもそう思うくらいなんですから、出演回数がほとんどないような大部屋俳優の人はどれくらい待っていることでしょう。
さて、ようやく、撮影が再開され、エキストラの出番もやってきました。
シーン設定は、田舎から出てきてひょんな人の好意からとてもお金がかかるお嬢様学校に通わせてもらえることになった「なぎ」が、朝、教室に入っていくとクラスのほかの生徒から冷たい目で見られる、というものです。
「なぎ」は貧しい出ということをみんな知っていて、でもとても勉強ができたので妬みを買い、今でいういじめに会っていたわけです。
「なぎ」ががらがらと教室の扉をあける。
それまできゃっきゃっと楽しそうに談笑していたクラスメイトのさざめきがピタッとおさまり、いっせいにみんなヘビのような冷たい目で「なぎ」を見る。
「ストーーっプ!!」
監督の声。
「だめだめぇ!! みんな、もっと楽しそうにしゃべって、一気に空気変わるんだよぉ。冷たい目でなぎをみるんだよ。わかったぁ? はい、もう1回。」
「ストーーっプ!!」の繰り返し。
わたしたち、エキストラのできが悪いのか、何度も何度もやり直しになりました。
ついに最後には監督はこういいました。
「いいか、てめえら! おまえらは、なぎがうらやましいんだよ。なぎ、可愛いだろ? あんな可愛くなりたいなってうらやましくてしょうがないんだよ。自分のなかで嫉妬の感情をてっぺんまで上り詰めてなぎを見ろ!!」
ひえ~
正直、私は「片平なぎさ」さんのことをうらやましい、とは思っていませんでした。そりゃ、可愛いけれど、わたしがうらやましいな、あんな顔好きだな、というタイプの顔とは違っていましたし・・
でも!
そのとき、すきっぱらで頭痛も極限に達していた私は、確かに「あなただけはおなかいっぱい食べて、満ち足りた顔をしてるわね。わたしゃ、食べてないんだよ! あなたは自分特注のかつらでそりゃいつまでかぶってても快適でしょうよ。わたしはもうスリーパーホールドくわされっぱなし状態で落ちそうなんだよ!」というのは事実でしたので、「すきっぱら」と「頭痛」において、本気で片平なぎささんに憎しみさえ抱くことができるほどでした。
で、自分のなかで思いっきりその感情を高めたら・・
「はい、オッケー。」が出ました。
ふぅ~、やれやれ。
しかし、このとき演技とはいえ、自分のなかの妬みという感情を煽られるというのは厭なものだな、と思いました。
まったくないものや経験したことのないことで自分の感情づくりをすることはできませんから、自分の実体験から演技のための表情を導き出すわけです。
ということは、過去の妬みの経験をもう一度リアルにほじくりかえすわけで・・
それがいい気持ちがするわけがありません。
このとき「俳優さんってのは大変だぁ。いくらもらっても自分の感情をミキサーでぐじゃぐじゃにされるような毎日では合わんわな。」と思いました。
先日、新聞にある研究チームが脳のしくみをひとつ解明できた、という記事が載っていました。
それは、大学生にパソコン上のゲームを見せ、どんなシーンで脳のどんな部分が活性したかを見る、というものです。
ゲームとはある大学生には友人AとBがいて、友人Aはとても優秀な成績で一流企業に就職が決まり、友人Bは並み、という話。
そして、どんなときに脳がいちばん活性化したかというと、優秀な友人Aが勤めた会社が不況により倒産してしまって一気に奈落の底につきおとされる、というところで、一様に活性化したそうです。
「人の不幸は蜜の味」・・・
イヤですね。
一流企業に就職が決まった、というところで「いいなぁ~」と妬みの気持ちが生まれ、いちばん活性化するのではなく、何の罪もなく、自分が頑張ったから良い成績をあげ、良い企業に就職できた友人が突き落とされるところで「しめしめ、そうこなくっちゃ」と誰もが実は思っている、っていうのはどうなのよ!?
自分もそう思うんだろうか・・
少なくとも友人の成功や頑張っているっていう話は大好きで、心から応援できてる、って思ってた。
でもそれって、回りまわってひいてはどこかで自分のためにもなるだろうというあわよくば、という気持ちがさせていただけのことで本当に友人のためを思って喜んであげていたんだろうか・・ なんてことも思っちゃいました。
でも少なくとも大学生のときの「なぎ」に対する妬みの演技では、「すきっぱら」と「頭痛」の2重苦で本当に「なぎ」を憎みそうになりましたもん。
私にとっては、「空腹」と「肉体の苦痛」という、人間の一次欲求レベルをつつけばすぐにそんな感情がわいちゃう単純な人間ってことですかね。
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