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スキャナー 記憶のカケラをよむ男

2016年06月06日 | 邦画(16年)
 『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』を渋谷TOEIで見ました。

(1)『のぼうの城』で好演した野村萬斎の主演作ということで、大変遅ればせながら(注1)映画館に行ってきました。

 本作(注2)の冒頭は、天井に取り付けられた大型の扇風機がゆっくりと回る部屋。そこに置かれたベッドで寝ていた少女が、起き上がって窓の傍に行き、外の広い庭でボール遊びをしている4人の子供達を見ます。
 そのボールが窓の傍まで転がってきて、ボールを拾いに来た少女と、窓の内側でそれを見ている少女とが目を見合わせます。

 場面は変わって、亜美杉咲花)が、先生の雪絵木村文乃)を傍においてピアノを練習していますが、途中で弾くのを止めてしまいます。



 亜美が「あと1ヶ月もない。もう弾きたくない」と言うと、雪絵は亜美の爪をヤスリで磨きながら、「あなたには才能がある」と言うのですが、亜美は「何でやらなくてはいけないの?自分の夢をあたしに押し付けないで」と叫んで、その場から立ち去ってしまいます。

 ピアノを練習していた場所の外に出た雪絵は、自転車に乗って帰りますが、途中で何かを見付けたのか、自転車を止めて様子を見に行きます。
 そこには白いワンピースを着た女がうずくまっています。
 雪絵が「大丈夫ですか」と言って近づくと、その女は立ち上がり雪絵をナイフで脅します。

 次の場面は、商店街の演芸会のシーン。
 女が「人生いろいろ」を歌った後に舞台に登場した丸山宮迫博之)は、観客をしらけさせるばかりのしゃべりを続けるため、演芸会世話役によって舞台から引きずり降ろされてしまいますが、楽屋で待ち受けていたのは、借金取り立て人。
 ほうほうの体で逃げ出した丸山は、所属の芸能プロダクションに戻ります。ところが、そこでも社長(高畑淳子)から「契約解除」を通告されてしまいます。

 そこに現れたのが亜美。「マイティーズの力を借りたい」と言うのです。
 マイティーズは、丸山と、今ではマンション管理人となっている仙石野村萬斎)とが昔結成していたお笑いコンビ。さあ、亜美は、この二人にどのような頼みごとをするのでしょうか、………?

 本作は、残留思念を読み取ることができる超能力を持った主人公らが殺人事件に巻き込まれてそれを解決するというサスペンス物。主演の野村萬斎と相手役の宮迫博之はもう少し肩の力を抜けばという感じながら、物語の展開に意外性があり、まずまずの出来栄えでしょう。ただ、スキャニングするのが「思念」なのか「記憶」なのか、などといったあたりが曖昧になってしまっているのではないか、とも思いました。

(2)本作では、『のぼうの城』で殿様役だった野村萬斎が、専門家の宮迫博之とコンビを組んで漫才をやるという思いがけない設定になっていて、それはある程度成功しているように思います。
 ただ、野村萬斎が扮する仙石は、スキャニングという超能力によって人間の裏側を見てしまい、人間嫌いになって漫才をやめてマンション管理人となっているとされていますが、その際の例示はあまり大したもののように思えないところです。



 例えば、あるカップルの女性の婚約指輪をスキャンするのですが、「夜景が美しいレストランでのプロポーズで、「一生僕と一緒にいてください。“ゆみこ”さん」と男性が言います」と仙石がスキャンした内容を言うと、その女性は「“ゆみこ”はこの人の前の彼女!」と怒り出してしまいます。男性の方も「お前ら訴えてやるからな!」と憤激します。
 ただ、こんなことくらいで、人の醜さを見てしまったと舞台から降りてしまうのは、ちょっと軟すぎる感じです。
 とはいえ、本作は娯楽作品ですし、また仙石は11歳の時に養父母の会話をスキャンして知り(注3)、それにショックを受けて家を飛び出してしまったほど敏感な感受性を持っていますから、むしろ当然なのかもかもしれません。

 ですが、仙石がスキャンして読み取る過去の出来事とは一体何なのでしょうか?
 なるほど、公式サイトの「作品情報」の冒頭では、「スキャニング=思念を読み取る特殊能力」とされ、「思念とは?」のところには、「物や場所に残った人間の記憶、感情が一体となった波動の塊」とされています(注4)。
 でも、「記憶」というのは、常識的には、脳の中に蓄積されているものではないでしょうか(注5)?
 仙石が、人の頭に手を置いて、脳内に蓄積されている記憶をスキャンできるというのであれば、随分と理解しやすいものとなるでしょう(注6)。
 でも、その記憶が脳の外に出て、記憶の素材となる物体などに付着しているというのは、どういうことでしょうか?
 もしかしたら、ある物体の周辺で人間が動き回ったら、それぞれが発している物質波が変化し、あるいはその変化が物体とか人間に付着して残存するということもあるのかもしれません。
 でも、それは記憶と呼べないのではないでしょうか?あくまでも人間の脳内に蓄積されたものが記憶ではないでしょうか?だから、仙石は、「人間の記憶は嘘をつく、自分の都合のいいように書き換える」と言うのではないでしょうか(注7)?
 本作の場合、まるで、カップルの女性が指にはめていた婚約指輪とか、養父母が座っていた居間のソファーが動物のように脳を持っていて、そこに記憶されている映像を仙石がスキャンして読み取っているような感じを受けます。

 とはいえ、こういうことには余り拘泥せずに(注8)、素直に設定を受け入れて映画を楽しむべきなのでしょう。
 そうして見た時には、野村萬里と宮迫博之は、どちらもがんばっているとはいえ、やや動きがぎこちないところも見え、警視庁刑事役の安田章大とか雪絵役の木村文乃が自然な感じで良かったように思いました。

 それにしても、仙石はラストで、管理人をしているマンションの屋上に出て、「僕の方こそありがとう。人間は美しいね」と呟きますが、悪魔と契約していたファウストならまだしも、こうした殺人事件を解決したくらいで言うには少し大袈裟なのでは、と思ったところです。

(3)渡まち子氏は、「現代劇初挑戦となる狂言師の野村萬斎と、俳優としてのキャリアも順調な雨上がり決死隊の宮迫博之という、凸凹コンビの組み合わせが、それだけで笑いを誘う」などとして50点をつけています。
 前田有一氏は、「まとめとして、脚本の良さを完全に生かし切っていない映画ではあるが、ストーリーという屋台骨がしっかりしているので十分に楽しめる出来。高校生や女性客など、それほどのハイクオリティを求めない客層が、テレビドラマレベルより面白いミステリを求めるならばいいチョイスとなる」として70点をつけています。



(注1)主要館での上映は6月3日で終わりました。

(注2)監督は金子修介
 脚本は、『寄生獣』などの古沢良太(本作は、同氏のオリジナル脚本)。

 なお、出演者の内、最近では、野村萬斎は『のぼうの城』、宮迫博之は『純喫茶磯辺』〔この拙エントリの(2)で触れています〕、安田章大は『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、杉咲花は『トイレのピエタ』、木村文乃は『ピース オブ ケイク』、警視庁捜査一課主任の野田役の風間杜夫は『青天の霹靂』、高畑淳子は『駆込み女と駆出し男』で、それぞれ見ました。

(注3)それまでの記憶を持たない仙石は、11歳の時に養子としてある家に引き取られますが、養父は政治家で、その養父が「あの子を養子にしたのは、票を増やすため」と養母に言っているのを、スキャニングで知ってしまいます。

(注4)続けて、「この世界のあらゆるもの―個体、液体、気体、エネルギーはすべて粒子で出来ており、その粒子は情報を持って自在に飛び交っている。人の想いもまたエネルギーであり、強いエネルギーは物体や大気中に残り続ける。その粒子と自分の粒子の波長を合わせれば、情報を写し取ることが可能となる」と述べられています。

 なお、「思念」とは、常識的には「常に心に深く思っていること」とされ(例えば、この記事)、「思念」=「記憶、感情」という本作の定義には少々違和感を覚えます。
 また、「残留思念」は、Wikipediaでは、「人間が強く何かを思ったとき、その場所に残留するとされる思考、感情などの思念を指す」とされていて、「記憶」への言及はありません。

(注5)尤も、フランスの哲学者・ベルクソンは、『物質と記憶』において、「脳は記憶の保存場所ではない。記憶は脳から独立して存在する」という有名なテーゼを提起したそうです。としても、脳と記憶とが無関係ということではないでしょう。

(注6)尤も、仙石のスキャンは、生きているものに対しては効かないとされていますが!
 ただ、ラストの方で、仙石が横たわっている犯人の上に手をかざすと、兄妹が楽しく遊んでいる映像が映し出されますが、これは犯人が死ぬ前にスキャンされたものではないでしょうか(その後に犯人は死にますから)?
 なお、仙石がスキャンしたものは、仙石の頭の中で再現されるだけであって、それを他人が見ることは出来ないように思われます(マルティーズの漫才でも、スキャンした内容を仙石が口で観客に報告するようにしています)。
 そう言えば、ラストの方で、ボールを仙石がスキャンすると、霞高原の合宿所の庭での光景が映像で示されますが、この映像は犯人に見えているのでしょうか?でも、犯人はスキャンする能力を持たないでしょうから、見えていないはずです。としたら、仙石が話す真相が嘘ではないという証拠が何もないことになってしまいますが(犯人は、自分の記憶が書き換えられているのではなく、仙石が嘘をでっち上げているだけだとあくまでも主張するのではないでしょうか)?

(注7)それに、脳外の物体に付着している「記憶」を、仙石のような特殊能力を持たない一般人はどうやって“書き換える”のでしょうか?

(注8)こうした問題は、実際のところは取り扱いが難しく、いくら議論しても明快な結論に達しないでしょうから。



★★★☆☆☆



象のロケット:スキャナー 記憶のカケラをよむ男

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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2016-06-06 22:39:45
凄く大雑把な事を言ってしまえば、「何でもあり」でOKだと思う。例えば人間の感情が動くという事に関して、脳内で物質的な何かの科学変化が起こっている。その変化を読み取って自分の物として再構築できるなら全ての人間の全ての感情は後から読み取り可能だ。それは現在の科学では読み取れないし、再構築もできないから「オカルト」になってしまうが、もしも世界や時間を全て1立法ミリ、1/1000秒単位で全てコレクションでき、その差異を全て掌握できるなら世界の記憶や記録で知りえない事はない。この世界が「物事には因果関係が全て成立しうる」という前提が成り立つならば、であるが。

なので主人公が喋ってる能力を説明するセリフすら信用しなくていい。でも、主人公が「全て分かる」事に制約がない。そういうドラマなんだろう。

支離滅裂だろうか?
Unknown (クマネズミ)
2016-06-07 06:12:24
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「世界や時間を全て1立法ミリ、1/1000秒単位で全てコレクションでき、その差異を全て掌握できる」とすれば、「世界の記憶や記録で知りえない事はない」のだから、「主人公が「全て分かる」事に制約がない」ということになるでしょう。そして、本作がそのような前提で制作されているのであれば、クマネズミのようにぐちゃぐちゃ言うことには何の意味もないことでしょう。
でも、そんな前提で本作のドラマが制作されているのであれば、主人公の仙石は「神様」だということにならないでしょうか?
確かに、彼が「神様」ならば、何が分かるとしても問題ありません。
ですが、そういうドラマを見ても少しも面白くないのではないでしょうか?主人公が「神様」で「「全て分かる」事に制約がない」のであれば、最初から全てお見通しなのですから、起伏のある物語にならないのではと思われます。
本作はSFサスペンスであって、セリフで説明されるように、主人公に様々な制約が課されているからこそ(物体に残存している思念を手を通じてスキャンする、しかし生体はスキャンできないなど)、そしてその制約にある程度整合性が読み取れるのであれば(クマネズミは、外部の物体で「記憶」をスキャンするという点に疑問を感じましたが)、サスペンス溢れる物語になるのではないでしょうか?

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