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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ピース オブ ケイク

2015年09月22日 | 邦画(15年)
 『ピース オブ ケイク』を渋谷のシネマライズで見てきました。

(1)『深夜食堂』で頑張っていた多部未華子が主演の作品だということで、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、主人公の志乃多部未華子)が、がらんとした部屋の中に置かれている鉢植えの幸福の木を見つめていて、そのナレーション「ちょこちょこ適当に買っては枯らす」が入ります。

 次いで、志乃が、会社の同僚の正樹柄本佑)と付き合っている頃のシーン。
 正樹によってホテルに呼びだされた志乃に対して、正樹が「遅いじゃないか、化粧してる余裕あるのに。もっと必死になれよ」と詰ります。
 志乃が「必死だよ。どうすればいいの?」と応じると、正樹は「自分で考えろよ」と突き放ち、志乃の頬を叩きます。

 さらに次の場面は、志乃が新しく引っ越してきたアパートの部屋(注2)。志乃の友人のナナコ木村文乃)が、引越しの手伝いをしていて、タンスの前で「志乃!服、適当に詰めちゃうよ」等と言っています。

 そこに、会社の同僚のミツ小澤亮太)が、「2号同士でちょうどいいじゃん」と志乃に言い寄っている場面が挿入されます(注3)。

 それから、正樹が、「よりによってあんな男と俺を二股かけやがって」と怒って、志乃と無理やりセックスしようとするシーンが。

 次いで、再び、志乃が新しく引っ越してきたアパートの部屋。



 トイレから出てきた志乃の友人の天ちゃん松坂桃李)が「トイレが綺麗!」というので、志乃とナナコが覗くと、砂利が敷き詰められていて石まで置かれています。
 志乃は、「緊張してオシッコが出ないかも」と言いながら、引越しに集まってくれた友人たちに感謝します。

 夜になって志乃が一人で縁側にいると、幻想の正樹が現れます。その正樹が「男なら誰でもいい女だ、君は」と言うのに対して、志乃が「違う、正樹に好かれたいとチャント頑張ったのに」と答えたりしていると、ふいに隣の部屋に住んでいる男(京志郎綾野剛)が出てきて、「どうも」と言ったので、慌てて志乃は、「今日、隣に引っ越してきました」と答えます。



 そして、「その時、風が吹いた」との志乃のナレーション。
 さあ、志乃と京志郎との関係はどうなるのでしょうか、………?

 本作は、今時の女の子の恋愛事情を垣間見ることができる感じがし、主人公を演じる多部未華子が大層魅力的に撮られており、下北沢とか三鷹駅周辺などよく知っている場所が何箇所も映し出されていたりもして、ご都合主義的な点が散見されたりするとはいえ、まずまずおもしろく映画を見ました(注4)。

(2)本作における多部未華子は、正樹とミツと同時に付き合っていたりするような女(注5)、さらにはあの口うるさい正樹の言うことになんとか付いていこうとするあまり主体性のない女、といった志乃の持つゆるい感じのイメージからすれば(注6)、まだまだ硬い真っ直ぐな感じがしてしまうところです。でも、逆にそうだからこそ、ビデオショップの店員から劇団の衣装係に転身出来たのでしょうし、またラストの展開にたどり着けもしたのでしょうから、まあかまわないでしょう。



 彼女の相手役の綾野剛は、このところ実に様々な作品に出演していながらも、それぞれの役柄を的確につかんだ演技を見せてくれます。本作においても、余りパッとしない仕事に就いていながらも、一世一代の笑顔を志乃に見せてその心を一瞬でつかんでしまうという難しい役を誠に上手く演じています。



 さらに、この映画において注目すべきは、なんといってもオカマの天ちゃんを演じている松坂桃李でしょう。
 なにしろ、『マエストロ!』ではオーケストラのコンサートマスター役、『日本のいちばん長い日』では血気盛んな青年将校役をそれぞれ見事に演じていると思ったら(注7)、本作ではオカマ役なのですから驚きます!それに、天ちゃんは、単なるオカマではなく、登場人物をつなぐ重要な役割をも果たしているのですが(注8)、松坂桃李が演じることによって説得力が出ているように思われます。

 こういった俳優たちが、クマネズミがよく知る場所に立ち現れるのですから、否も応もなく画面に見入ってしまいます。
 例えば、京志郎が志乃に「今度、温泉に行こうか?」と誘って、志乃が「男の人と温泉に行くのは初めてかも」などと話すのは、JR中央・総武線の三鷹駅の南口下の小さな広場です(注9)。
 そして、二人が実際に行くのが熱海(注10)。つい最近見たばかりの『ロマンス』で映し出されるロマンスカーに京志郎と志乃が乗っているのには驚きました(注11)!

 とはいえ、正樹と別れた志乃が、心機一転勤めることにしたビデオショップの店長が、志乃のアパートの隣の部屋に住んでいるとは!
 でも、恋愛というのは、こうした偶然の重なりなのかもしれませんが。

(3)渡まち子氏は、「ダメ人間の恋愛応援歌のような映画だが、旬な役者の好演でもっている」として55点をつけています。



(注1)監督は田口トモロヲ
 脚本は、『もらとりあむタマ子』の向井康介
 原作は、ジョージ朝倉著『ピース オブ ケイク』(祥伝社:未読)。

(注2)志乃は、正樹と別れると同時に別のアパートに引っ越すことにしたようです。

(注3)ミツには彼女がいて、また志乃にも正樹がいることから、「2号同士」とミツは言うのでしょう。

(注4)出演者の内、最近では、多部未華子は『深夜食堂』、綾野剛は『新宿スワン』、松坂桃李は『日本のいちばん長い日』、木村文乃は『くちびるに歌を』、菅田将暉は『そこのみにて光輝く』、柄本佑は『武士の献立』で、それぞれ見ました。

(注5)さらには、京志郎と別れた後、同じビデオショップ店でバイトをしている川谷菅田将暉)とすぐに関係を持ったりするような適当な女でもあります。

(注6)尤も、志乃は、ひとたび「風が吹いた」となると、京志郎に女(あかり光宗薫)がいても「大好き」と突っ走ってしまい、しばらくして京志郎がその女と離れられないことがわかると、スパっと別れてしまう女でもあります。

(注7)『日本のいちばん長い日』の畑中少佐については、1967年版における黒沢年男の狂気をはらんだ演技が印象的ですが、2015年版における松坂桃李の演技もなかなかのものがありました。

(注8)天ちゃんは、京志郎が店長で志乃が働くビデオショップでバイトをしながら、志乃が衣装係をすることになる劇団の団員でもあるのです。

(注9)この広場の下が暗渠になっていて玉川上水が流れています。クマネズミが玉川上水緑道をジョギングする際の折り返し点ともいえる場所(そこから井の頭公園まで玉川上水に沿って御殿山通りが通っています)ですから、映画を見ていてすぐに分かりました。

(注10)熱海のロケ場所については、このサイトの記事が参考になります。
 なお、二人が宿泊したところは、映画の中で「ニューさがみや」の表示がありました。

(注11)尤も、小田急ロマンスカーに乗って行く温泉としては湯河原とか箱根の温泉の方であり、熱海に行くなら常識的には新幹線を使うのでしょうが(あるいは、小田原で東海道線に乗り換えたのでしょうか)。
 それに、熱海で若い二人が行く場所として熱海城とか秘宝館というのは、どうもいただけない感じがします。
 さらに言えば、そもそも若い二人が熱海に行くという設定がよくわからないところです。
 原作漫画に目を通していないので、単なる想像に過ぎませんが、クマネズミは、原作ではこのようなエピソードは描かれていないのではと思っています〔このインタビュー記事において、田口監督が、「Asagaya/Loft Aを舞台のひとつとしてご利用いただいたのはなぜなんですか」との問いに対して、「それは向井(康介)君です。出したかったんじゃないのかな。熱海の秘宝館もそうだし、名指しのリクエストがあったので、ここがいいと思って書いたんだなと感じて、変更する必要もないし、イメージ通りで何も抵抗することはなかったです(笑)」と答えているところからすると、脚本の向井氏のアイデアではないかと推測されます〕。
 とはいえ、別に、原作漫画で描かれていようといまいと、志乃が男湯にまで入り込んで携帯電話の件で京志郎を激しく詰るのは、出色のシーンではないかと思ったところです。



★★★☆☆☆



象のロケット:ピース オブ ケイク


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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2015-12-11 22:32:22
> 『深夜食堂』で頑張っていた多部未華子が主演の作品だということで、映画館に行ってきました。

説得力のある理由だ。
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Unknown (クマネズミ)
2015-12-12 05:42:16
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
本作と 『深夜食堂』の多部未華子を支持します!
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