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寄生獣

2014年12月15日 | 邦画(14年)
 『寄生獣』を吉祥寺オデヲンで見ました。

(1)2部作の前半に過ぎないということで躊躇しましたが、まずは見てみようと思って映画館に行ってきました。

 本作(注1)の主人公・新一染谷将太)は、母親(余貴美子)の女手一つで育てられてきた高校生。
 ある日、彼の右手に寄生獣が入り込んでしまい、以来、新一とその寄生獣・ミギー(声:阿部サダヲ)とは共存関係に。



 新一に親しみを感じている同学年の村野里美橋本愛)は、そうした状況は知らないながらも、最近の彼がどこかオカシイと感じるようになります。



 そんなところに、新しく村野のクラスの担任として赴任してきた田宮良子深津絵里)に寄生獣が取り付いていることがわかり、新一は田宮と対決します。



 田宮は、新一とミギーとの関係に興味を示すも、田宮が連れてきた警官Aと男(池内万作東出昌大)は、いずれも寄生獣が取り付いていて、新一たちに敵意をいだき、現に攻撃してきます。
 ここを起点に、新一(そしてミギー)は寄生獣たちとの戦いに入っていくのですが、さてどんな展開になるのでしょうか………?

 本作は、主人公・新一と、その右手に棲みついた寄生獣・ミギーを巡るお話の前半部分。新一を演じる染谷将太がその持ち味を十分に発揮しており、またヒロインの橋本愛や深津絵里、それに今売り出し中の東出昌大なども活躍し、なかなか面白い仕上がりを見せています。次作の後半部分では、どんなに話が拡大してクライマックスになるのか、十分期待させます(注2)。

(2)とはいえ、映画の冒頭では、虫状の寄生獣が深海で育ち(注3)、ガントリークレーンが設置されている港湾の岸壁から這い上がってコンテナの中に入り込み、トラックに乗って街に行き、寝ている人間の耳の中に侵入するという経過をたどりますが、実際にはその寄生獣は大変な能力を持った知性体であり(注4)、また仲間同士緊密な連携をとっているようなのです。
 イルカが優れた知性を持っていると言われていますから、知性のことはさておくとしても、寄生獣は深海生物ということからエラ呼吸をしているに違いありません。そうなると、寄生獣は地上でどうやって呼吸をするのでしょうか?
 また、深海ではプランクトンを食べていたと思われますが、それが地上に出るとどうして人間を捕食するようになるのでしょうか(注5)?
 そもそも、なぜこの時期に来襲することになるのでしょうか?
 ここは、原作のように、宇宙から異星人が地球に突如侵入するとする方が受け入れやすいのでは、と思いました(注6)。

 上記とも関連するかもしれませんが、本作は、特殊日本での出来事になっています。
 『インターステラー』でも感じたことながら、映画製作国限定の話とするのであれば、それなりの説明があってもいいのかなと思いました(注7)。

 なお、原作との違いで言えば、本作の新一はシングルマザーに育てられていますが、原作では父親も存在するのです(注8)。
 といっても、原作を刈りこんで映画化するにあたって、これは適切なやり方ではないかと思います。

(3)本作については、下記の(4)で触れる前田有一氏が、「失敗作に終わった」として25点と極めて低い評点を付けています。
 その理由として挙げるのは、次の点。
a.「キャスティングの違和感」。
b.「この物語をお気楽なバディムービーにしてしまったこと」。
c.「読者として、(監督が)作品の胆を理解されていない悲しさを感じる」こと。

 ですが、本作の面白さに堪能したクマネズミとしては、とても前田氏の見解を受け入れるわけには行きません。

 最初のaについて、前田氏は、「具体的には染谷将太、橋本愛、阿部サダヲの3主要人物ともにまずい」と述べています。
 特に橋本愛につき、「気弱な同級生の主人公に恋をする母性豊かなヒロインにはまったく見えないところが痛い。むしろスマホでぎゃるるでもやっていそうな正反対のルックスであり、いかに人気者とはいえ村野里美役には適さないというのは万人の認めるところであろう」と誠に手厳しい書きぶりです。
 しかしながら、「「人間らしさ」と母性の関係性というものが、重要な物語の要素となっている」と前田氏が麗々しく記している点は、本作を見れば誰でもがすぐに分かる事柄に過ぎないにせよ、だからといって、どの登場人物もその「要素」を持っていなければならないということにはなりません。
 本作では、上で記したように、原作にある父親を描き出さないようにしてまで母親の存在を強調しているのですから、その上さらに村野を「母性豊かなヒロイン」などとしてしまったら、観客の方で食傷してしまうことでしょう!
 ここは「スマホでぎゃるるでもやっていそうな正反対のルックス」の橋本愛で結構であり、クマネズミは、前田氏のように、次作の完結編における彼女が「少年漫画きってのエロさ」をどう演じるか「大きな期待を持って見守っていく」ようなことはしないつもりです(注9)。

 次のbについて、前田氏は、「ひらたくいうと、新一にとってのミギーが、ちょっぴり変わったお友達、になってしまっている」と述べています。
 この点は、原作をどう読むかという点に関わることであって、前田氏のように、「ごく平凡な新一は人間らしさの象徴で、一方寄生生物であるミギーは冷酷な自然界の摂理そのもの」であり、「互いの価値観はなかなか相容れない、理解しあえない関係であるがゆえに、サバイバルの場ではきわめて強力な補完関係となっている」と読み取ることも可能でしょうが、また山崎貴監督のように、「僕は原作を読んだ時から可愛いイメージでした」と言うことも十分に可能でしょう(注10)。
 この点についてもクマネズミは、他の人間の脳に入り込んだ沢山の寄生獣が「冷酷な自然界の摂理そのもの」を体現し、人間とは「理解しあえない関係」となっているのですから、ミギーにまで同じような行動をさせたら、作品がひどく単調なものになってしまうと思って、本作における新一とミギーの関係を肯定するものです。

 それに、一方のミギーは新一の脳内に入り込むのに失敗したという中途半端な状況にあり、他方の新一も、ミギーの体の一部が体内に残ってしまったために(注11)、身体も精神も変質しているわけで、両者が「理解しあえ」るのもそんなにおかしくないと思います。

 この点に関連して、前田氏は、「新一ばかりがどんどん強く成長していき、あっというまに新一>ミギーになってしまう」と述べています。
 ですが、劇場用パンフレット掲載の「コメント」で、脚本の古沢良太氏は、「前編は、いわば新一の物語。普通の少年がパラサイト(寄生獣)と出会って変貌してゆく話です。個人的には、パラサイトと混じったこと以上に、極限の経験と悲しみを経た「狂気」と「覚悟」が彼を変えていったのだと考えています」と述べていて、そのようにストーリーが展開することによって、この前半部分はそれ自体がまとまりのある一つの作品として受け止めることができるように思われます(注12)。

 最後のcは、上記のaとbとを含んだ全体評というべき点でしょうが、ここには、映画はその原作と原則的に同一でなければならない、という前田氏の基本姿勢が伺えます。
 ですが、クマネズミは、これまでも繰り返し申し上げていますように、映画作品とその原作とは別物ではないかと考えており、こうした前田氏の姿勢には基本的に疑問を感じます。

(4)渡まち子氏は、「人間とは何者か、人類と他者との共存は可能か、などの哲学的テーマは完結編に持ち越されたが、そこに母性をからめてどのように描いていくのかが非常に気になる。完結編に大いに期待したいところだ」として70点を付けています。
 これに反して前田有一氏は、「岩明均の原作コミックを実写映画化した「寄生獣」はこの秋一番の大作として期待される話題作。だからこそ大ヒット請負人の山崎貴監督で挑んだわけだが、残念ながら失敗作に終わった」として25点しか付けていません。
 相木悟氏は、「賛否両論うず巻く人気漫画の映画化市場に、屈指のクオリティを誇る一本の登場である」と述べています。



(注1)本作の原作は、岩明均氏の漫画『寄生獣』(講談社文庫:1と2以外は未読)。
 監督は、『永遠の0』の山崎貴。

(注2)俳優陣について、最近では、染谷将太は『TOKYO TRIBE』、深津絵里は『踊る大捜査線 The Final―新たなる希望』、阿部サダヲは『謝罪の王様』、橋本愛は『渇き。』、東出昌大は『0.5ミリ』、余貴美子は『武士の献立』で、それぞれ見ました。

(注3)劇場用パンフレット掲載の監督インタビューにおいて、山崎監督は、「空からのシーンをそのまま映画で描写すると異星人と誤解されそうだと思ったんです。でも、地球から送り込まれたのかも?というコンセプトが面白かったので、それをより確実に表現するために深海生物をイメージのベースにしました」と述べています(どうして「異星人」と誤解されてはいけないのか、クマネズミにはよくわかりませんが)。

(注4)寄生獣は、様々なものに変身できる能力とか、ものすごい攻撃能力などを持っていますが、それらの能力は、深海においてどのように活用されているのでしょうか?
 そもそも、深海においてはどんなものに寄生しているのでしょうか?
 深海にいた時は使わなかったというのであれば、そうした能力は退化してしまうのではないでしょうか?

(注5)ミギーは、新一が食べるもので満足していますから、寄生獣にとって人間の捕食は必ずしも必要ではなさそうです(田宮良子の寄生獣も、人間と同じ食べ物を食べていると言っています)。
 そもそも、人間を食べてばかりいたら栄養に偏りが生じてしまい、寄生獣も宿主の人間もすぐに病気になってしまうのではないでしょうか?

(注6)原作漫画の冒頭(文庫版1のP.11)では、空から「テニスボールくらい」のものがいくつも降ってきて、それが「パクン」と割れて、中から寄生獣が這い出てきます。
 また、新一はミギーに対し「宇宙人め」と言ったりします(文庫版1のP.59)。

(注7)原作漫画では、例えば「ひき肉(ミンチ)殺人―そう呼ばせるほどずたずたに引き裂かれた肢体が“世界各地”でいくつも発見されていた」(文庫版1のP.90)というように、一応、地球規模の出来事の一つとして物語が描かれています。

(注8)劇場用パンフレット掲載の監督インタビューにおいて、山崎監督は、「裏テーマに“母親とは何か”というものもあったので、その部分を強調するためにもそういう設定(新一の父親は出さない)に変えることにしました」と述べています。

(注9)むろん、前田氏の述べているようなことが次作において見ることができるのであれば、それはそれで嬉しい限りとはいえ、そうでなくとも何の問題もないと思っています。

(注10)劇場用パンフレット掲載の監督インタビューから。
 なお、同パンフレット掲載の「コメント」で、脚本の古沢良太氏は、「ミギーはコメディキャラでもあ」り、「恐ろしいのにカワイイ、冷酷なのに可笑しい、というのがミギーの魅力ではないでしょうか」と述べています。
 それに、原作においても、例えば、喫茶店で新一が村野とデートした時、彼女が「生き物は好きだよ、ヘビはダメだけど」と言うと、右手のミギーはペニスに変身して、新一が驚き慌てることになる場面(文庫版1のP.62)が描かれたりしており、決して「理解しあえない関係」というような杓子定規なものとなっていないように思います。

(注11)寄生獣に殺された新一を蘇生させようとミギーが新一の体内に入り込んだために。

(注12)また、前田氏は、「彼が初めて戦闘参加することになる展開も早すぎていけない。そんなに簡単に、平和国家日本のヘタレ少年が、人間を殺せるわけがない。殺そうと決意できるはずがない」と述べていますが、それは今の青少年をあまりにも見くびった一方的な見解ではないか、と思います。
 前田氏によれば、「その時点での二人の関係性は圧倒的にミギー>新一」であるべきなのでしょうが、別に「新一=ミギーの関係性」だからといって、新一が人間を殺せないわけではないいのではないでしょうか?
 それに、新一が、警官のAと対峙するに際しては、その前に中華料理店の「万福」において、ミギーが寄生獣と戦うのを経験しているのですから、前田氏が「彼が初めて戦闘参加することになる展開も早すぎていけない」と言うのも当たっていないように思います。
 また、原作漫画においても、ごく最初のほうで、ミギーは「これからはお互い協力しあい生きることだ/それ以外に道はない」と(文庫版1のP.51)、本作同様に「新一=ミギーの関係性」がほのめかされているのです〔文庫版の2になると、新一は「おれはもう……ミギーのこと、敵だなんて思ってないよ」と言い出します(P.144)〕。



★★★★☆☆



象のロケット:寄生獣



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4 コメント

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Unknown (ふじき78)
2014-12-27 23:12:48
私は割と前田氏寄りですね。

橋本愛はどうでもいい。染谷将太は上手さを認めながらも原作のイメージと違う部分で戸惑ってしまった。ミギーはお茶目感が出すぎてると思う。ミギーは新一と戦友になりながらも、一部受け入れがたい別種としての倫理を常に冷酷に突きつけてくる点が魅力なのだと思う。獅子身中の虫みたいな微妙なバランス関係は是非、書いてほしかった。

作品の肝は次回まで待ってもいいかな。
Unknown (クマネズミ)
2014-12-29 06:35:12
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おそらく、原作を読んで原作に対する思い入れが沢山ある人と、そうではない人とがこの映画を見ると、それぞれ抱く見解が違ってくるのかもしれませんね。
あとから原作を読むと、監督と脚本家はなかなかうまく原作を脚色しているな、と思いました。
寄生虫 (iina)
2015-05-04 08:40:57
テレビに放送された「寄生獣」を見ましたが、奇抜な着想をSFXを使って映像化してました。
完結編も面白そうですね。

「今、寄生虫」 は、ホントは「今、帰省中」とした積りが誤変換でしたが、他にも次のような誤変換もあります。(^^ゞ
「取引先に行ってきます」 と 送ったつもりが 【鳥引き裂きに行ってきます】 と誤変換 。

Unknown (クマネズミ)
2015-05-04 20:37:44
「iina」さん、コメントをありがとうございます。
クマネズミは、誤変換をしながら気が付かないでそのままにしておくことがしょっちゅうです。今も、「ご返還」をそのままにしようとしてしまいました!

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