『県庁おもてなし課』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。
(1)少々ボーッと見ることができる映画がいいのではと思って映画館に入ってみました。
本作の舞台は、高知県。
観光促進を旗印に、県庁の観光部に「おもてなし課」が設置され、若手の県庁職員・掛水(錦戸亮)がその課に配属されます。
といっても、課員は、課長(甲本雅裕)の他に3人ほど。
ですが、掛水は張り切って、高知出身の人気作家の吉門(高良健吾)に電話し、「観光特使」に就いてもらいます。
ところが、1ヵ月ほどして吉門から電話がかかってきて、これまで何の連絡もないのはどうしたことかと掛水は責められます。
その挙句、真剣に観光促進に取り組むのであれば、民間感覚を導入すべく、若い女性をスタッフに加えることが必要であり、さらには昔議論された『パンダ誘致論』を調べてみたらいい、と吉門に言われてしまいます。
それで、「おもてなし課」にアルバイトとして明神多紀(堀北真希)が入り、また元県職員の清遠(船越英一郎)の意見を聞くことになります。
果たして高知県の観光は促進されるのでしょうか、そして掛水と多紀との関係は、……?
まさにご当地映画そのものであり、高知県として売り出し中の風物がいろいろ映画の中で紹介され(注1)、それらを背景にして、2組のラブ・ストーリーが展開されるというわけです(注2)。
ただ、これまで見た典型的なご当地物といえる『津軽百年食堂』とか『恋谷橋』と違っているのは、それらのように大きな祭りとかイベントで全体を盛り上げるといったお手軽な道に逃げないで、すべてが未来へ向かっての進行形で終わっているという点でしょうか(注3)。
本作の主演の錦戸亮は、どこかで見た顔だなと思っていたらDVDで見た『ちょんまげぷりん』でした。その際はかつらを被っていたために、今回なかなか本人だと気付きませんでした。
また、この映画に出演している堀北真希、高良健吾、船越英一郎は、『白夜行』で一緒に出演していたなと途中で思い出し、興味深く見ることができました。
(2)本作の原作者の有川浩氏について、クマネズミは、てっきり男性作家だと(名前は、“ヒロ”ではなく“ヒロシ”だと)ばかり思っていたところ、高知出身の女性であり、本作だけでなく、『阪急電車』とか『図書館戦争』といった映画の原作を書いていますし(注4)、売れ方からすると『告白』の湊かなえ氏(有川氏とほぼ同年輩:注5)に似ているようながら、サスペンス作家ではなく、やはりライトノベル作家なのでしょう。
その角川文庫版を、ざっと読んでみたところ、映画版は、原作をかなり忠実になぞっているようながら(注6)、原作の持つ一つの要素が、2つのラブ・ストーリーの陰に隠れがちになってしまっているような印象を受けます。
というのも、原作では、観光促進に関するヒントがかなりたくさん散りばめられているのです。
例えば、「馬路村」について、「交通の便が悪いのは大前提。そのうえで、それでもここに来たら楽しいと思わせることに力を尽くしている。それが村の隅々まで溢れている遊び心であり、馬路村の特色を押し出したメニューだ」、「不便な環境を逆手に取って不便を楽しむという機軸を打ち出している」(P.376)とか、「観光スポットの有機的な結合については情報の集積と発信を最重要とする」、「目標の優先順位は、情報-施設-交通と並べられている」(P.387)と述べられています。
映画の中でこうした点が描かれていないわけではないものの(注7)、もっと本腰を入れて紹介などしたならば、本作も、通常のご当地物をかなり超えたレベルになったのではと惜しまれるところです。
(3)渡まち子氏は、「お役所という不自由な場所では厳しい現実も多いはずだが、故郷、仕事、家族を愛する気持ちを前面に出した楽観的なストーリーで、優しい気持ちになれる物語だ。映画の舞台は高知県だが、それぞれの故郷にあてはめれば、自分の街をきっと好きになる」として60点を付けています。
(注1)例えば、「仁淀川に架かる沈下橋」、「馬路村」、「高知市の日曜市」など。
(注2)掛水と多紀、それに吉門と清遠の娘・佐和(関めぐみ)。
(注3)「高知県レジャーランド構想」は、まだホンの入口でしょうし、掛水と多紀との関係も掛水が「多紀ちゃん!」と呼んだ段階ですし。ただ、吉門と佐和との関係は決着がついたようではありますが。
(注4)TBSTVのドラマ『空飛ぶ広報室』の原作者でもあるところ、同ドラマは、最初の方をちょっと見たものの、航空自衛隊のPR臭さが嫌で止めてしまいました(むろん、自衛隊に反対するわけではありませんが)。
(注5)湊かなえ氏については、他にTVドラマの『贖罪』(WOWOW)と『夜行観覧者』(TBS)を見ました。
(注6)例えば、映画の冒頭は、原作の冒頭と同じように、県職員時代の清遠が「パンダ誘致計画」を県庁内で説いて回る場面です(もちろん、映画の方では、ヴィジュアル効果を狙って講演会という形式を使っていますが)。
(注7)パラグライダーを体験できる「吾川スカイパーク」の帰り道で、清遠に意見を求められた多紀が、「施設は、今のままではちょっと。まるで男たちの山小屋みたい。特にトイレが酷い。1度来た女性は2度と来ない」と言いますが、こんなところは、原作の「トイレ偏差値」を巡る議論に対応していると思われます(P.274)。
★★★☆☆
象のロケット:県庁おもてなし課
(1)少々ボーッと見ることができる映画がいいのではと思って映画館に入ってみました。
本作の舞台は、高知県。
観光促進を旗印に、県庁の観光部に「おもてなし課」が設置され、若手の県庁職員・掛水(錦戸亮)がその課に配属されます。
といっても、課員は、課長(甲本雅裕)の他に3人ほど。
ですが、掛水は張り切って、高知出身の人気作家の吉門(高良健吾)に電話し、「観光特使」に就いてもらいます。
ところが、1ヵ月ほどして吉門から電話がかかってきて、これまで何の連絡もないのはどうしたことかと掛水は責められます。
その挙句、真剣に観光促進に取り組むのであれば、民間感覚を導入すべく、若い女性をスタッフに加えることが必要であり、さらには昔議論された『パンダ誘致論』を調べてみたらいい、と吉門に言われてしまいます。
それで、「おもてなし課」にアルバイトとして明神多紀(堀北真希)が入り、また元県職員の清遠(船越英一郎)の意見を聞くことになります。
果たして高知県の観光は促進されるのでしょうか、そして掛水と多紀との関係は、……?
まさにご当地映画そのものであり、高知県として売り出し中の風物がいろいろ映画の中で紹介され(注1)、それらを背景にして、2組のラブ・ストーリーが展開されるというわけです(注2)。
ただ、これまで見た典型的なご当地物といえる『津軽百年食堂』とか『恋谷橋』と違っているのは、それらのように大きな祭りとかイベントで全体を盛り上げるといったお手軽な道に逃げないで、すべてが未来へ向かっての進行形で終わっているという点でしょうか(注3)。
本作の主演の錦戸亮は、どこかで見た顔だなと思っていたらDVDで見た『ちょんまげぷりん』でした。その際はかつらを被っていたために、今回なかなか本人だと気付きませんでした。
また、この映画に出演している堀北真希、高良健吾、船越英一郎は、『白夜行』で一緒に出演していたなと途中で思い出し、興味深く見ることができました。
(2)本作の原作者の有川浩氏について、クマネズミは、てっきり男性作家だと(名前は、“ヒロ”ではなく“ヒロシ”だと)ばかり思っていたところ、高知出身の女性であり、本作だけでなく、『阪急電車』とか『図書館戦争』といった映画の原作を書いていますし(注4)、売れ方からすると『告白』の湊かなえ氏(有川氏とほぼ同年輩:注5)に似ているようながら、サスペンス作家ではなく、やはりライトノベル作家なのでしょう。
その角川文庫版を、ざっと読んでみたところ、映画版は、原作をかなり忠実になぞっているようながら(注6)、原作の持つ一つの要素が、2つのラブ・ストーリーの陰に隠れがちになってしまっているような印象を受けます。
というのも、原作では、観光促進に関するヒントがかなりたくさん散りばめられているのです。
例えば、「馬路村」について、「交通の便が悪いのは大前提。そのうえで、それでもここに来たら楽しいと思わせることに力を尽くしている。それが村の隅々まで溢れている遊び心であり、馬路村の特色を押し出したメニューだ」、「不便な環境を逆手に取って不便を楽しむという機軸を打ち出している」(P.376)とか、「観光スポットの有機的な結合については情報の集積と発信を最重要とする」、「目標の優先順位は、情報-施設-交通と並べられている」(P.387)と述べられています。
映画の中でこうした点が描かれていないわけではないものの(注7)、もっと本腰を入れて紹介などしたならば、本作も、通常のご当地物をかなり超えたレベルになったのではと惜しまれるところです。
(3)渡まち子氏は、「お役所という不自由な場所では厳しい現実も多いはずだが、故郷、仕事、家族を愛する気持ちを前面に出した楽観的なストーリーで、優しい気持ちになれる物語だ。映画の舞台は高知県だが、それぞれの故郷にあてはめれば、自分の街をきっと好きになる」として60点を付けています。
(注1)例えば、「仁淀川に架かる沈下橋」、「馬路村」、「高知市の日曜市」など。
(注2)掛水と多紀、それに吉門と清遠の娘・佐和(関めぐみ)。
(注3)「高知県レジャーランド構想」は、まだホンの入口でしょうし、掛水と多紀との関係も掛水が「多紀ちゃん!」と呼んだ段階ですし。ただ、吉門と佐和との関係は決着がついたようではありますが。
(注4)TBSTVのドラマ『空飛ぶ広報室』の原作者でもあるところ、同ドラマは、最初の方をちょっと見たものの、航空自衛隊のPR臭さが嫌で止めてしまいました(むろん、自衛隊に反対するわけではありませんが)。
(注5)湊かなえ氏については、他にTVドラマの『贖罪』(WOWOW)と『夜行観覧者』(TBS)を見ました。
(注6)例えば、映画の冒頭は、原作の冒頭と同じように、県職員時代の清遠が「パンダ誘致計画」を県庁内で説いて回る場面です(もちろん、映画の方では、ヴィジュアル効果を狙って講演会という形式を使っていますが)。
(注7)パラグライダーを体験できる「吾川スカイパーク」の帰り道で、清遠に意見を求められた多紀が、「施設は、今のままではちょっと。まるで男たちの山小屋みたい。特にトイレが酷い。1度来た女性は2度と来ない」と言いますが、こんなところは、原作の「トイレ偏差値」を巡る議論に対応していると思われます(P.274)。
★★★☆☆
象のロケット:県庁おもてなし課