映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

最近の刺青事情(上)

2010年03月01日 | 
 スウェーデン映画『ミレニアム』に関する記事についてのコメントの中で、「Oldies狂」さんは、次のように述べています。「なぜリスベットは「龍の入れ墨」をしたのでしょうか。古代の夏王朝やタイ民族になどに見られる龍信仰には、民俗学的に興味があるのですが、ウラル語族であるフィン人の影響なのでしょうか、それとも個人的な嗜好なのでしょうか。この辺は、原作小説には触れるところがないのでしょうか」。
 以下においては、「Oldies狂」さんに対する直接的な回答には到底なり得ませんが、最近の映画に見られる刺青(タトゥー)のことや、刺青に関連する本などについて、ごく簡単に触れてみたいと思います。

(1)映画『ミレニアム』では、副題が「ドラゴン・タトゥーの女」とあるくらいですから、見る前は、タトゥーがいくつも映し出されるのではと思っていたところ、実際にはごく控えめな描き方しかされていません。

 ただ、スティーグ・ラーソンの原作では、ヒロインのリスベットは、「首に長さ2センチのスズメバチのタトゥーを入れ、さらに、左の二の腕と足首のまわりにも帯状のタトゥーをして」おり、「その肩甲骨に一層大きなドラゴンのタトゥーがあ」って、それは「右の肩甲骨から臀部にかけて」「身をくねらせてい」ているとされています(注1)。

 こうした原作の描写からすると、日本版の本の表紙に使われている下記の画像は、かなり簡略化されていると言わざるを得ないでしょう。



 原作では、リスベットが、どんな理由からたくさんのタトゥーを入れているのかについて、十分な説明はされてはいませんが、それでも、足首の帯状のタトゥーについては、「ある出来事を忘れないようにするため」に、さらにもう1本タトゥーを入れてもらうべく、リスベットは、ストックホルム市内にある「入れ墨の店」に出向く、とあります(注2)。とすると、彼女は、タトゥーの数だけ人に言えない大変な思いをしたことになるのかもしれません。

 また、スズメバチのタトゥーについては、17歳のリスベットがボクシングクラブで「男どもとスパーリング」をしたときの様子について、「リスベットとのスパーリングは、スズメバチと戦っているような感じだった。それで彼女はスズメバチって呼ばれて」、「ある日首筋にスズメバチのタトゥーを入れてクラブに現れた」とプロボクサーが証言しています(注3)。

 なお、肝心のドラゴン・タトゥーについては、リスベットの治療にあたったヨナソン医師が、「なぜその入れ墨をいれたの?」と尋ねたところ、リスベットは、「このタトゥーを入れた理由は個人的なことなので、話したくありません」と答えて終わってしまっています(注4)。


(注1)『ミレニアム 1(上)』(ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳、早川書房)P.58、及び『ミレニアム 1(下)』P.211。
 なお、後者では、さらに「腰に漢字、ふくらはぎに薔薇のタトゥーがあった」と述べられています〔ドラゴン・タトゥーについては、加えて『ミレニアム2(上)』P.148において、「赤と緑と黒で描かれたドラゴンが、肩のあたりから下へ向かって長い体をくねらせ、すらりとした尾が右の尻を通って腿のところまで伸びている」と書かれています〕。
(注2)『ミレニアム 1(上)』P.349。
(注3)『ミレニアム 2(下)』P.147~P.153。
 なお、『ミレニアム 2(上)』P.33によれば、リスベットは、「ジェノヴァのクリニックに入院中」にこのスズメバチのタトゥーを消してもらっています。というのも、「このようなあからさまに目立つタトゥーをつけていては、人の記憶に残りやすく、身元の特定が容易になってしまうから」です。
(注4)『ミレニアム 3(上)』P.289。

(2)昨日取り上げた映画『50歳の恋愛白書』では、キアヌ・リーヴスの胸には、下の画像のように聖人の刺青(タトゥー)が大きく施されています。



 そう思って振り返ってみますと、最近見た映画には刺青(タトゥー)があちこちで飛び交っているのです。
 『フローズン・リバー』の主人公レイの腕にはタトゥーが見られ、そこから若い時分の様子が想像されますし、前々回取り上げた『板尾創路の脱獄王』でも、板尾創路が演じる主人公の胸には「逆さ富士」の刺青があり、映画のラストシーンでは一定の役割を果たしています(次の画像は、劇場用パンフレットに掲載されているもの)。



 チョット遡れば、たとえば『蛇にピアス』(蜷川幸雄監督、2008年)とか『Plastic City』(ユー・リクウァイ監督、2009年)など、随分と見つかります。





(3)上で取り上げました『板尾創路の脱獄王』において、主役の板尾の胸に施されている「逆さ富士」の刺青は、もしかしたら江戸時代の入墨刑につながるものかもしれません(注1)。
 また、『フローズン・リバー』の女主人公レイの腕にあったもの、『ミレニアム』のリスベットや『50歳の恋愛白書』のキアヌ・リーヴスの刺青、それにオダギリジョーのタトゥとか『蛇にピアス』で見られる刺青(注2)は、あるいはヒッピー文化とかパンク・ファッションに由来するといえるかもしれません。
 明日は、もう少し歴史的に刺青を見てみましょう。

(注1)リスベットが、自分の後見人であるビュルマン弁護士の下腹部に施した文字「私はサディストの豚、恥知らず、レイプ犯です」の刺青は、こうした刑罰としての入墨につながるのでしょうか(『ミレニアム 1(上)』P.361)?
(注2)金原ひとみの原作には、龍の刺青を持つアマという男の子が、「かっこいいでしょー?」と自慢すると書いてあります(集英社文庫P.11)。もしかしたら、『ミレニアム』のリスベットも、“かっこいい”というだけで龍の刺青をしているのかもしれません(単なる想像に過ぎませんが)。