映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

板尾創路の脱獄王

2010年02月24日 | 邦画(10年)
 『板尾創路の脱獄王』を渋谷のシアターNで見ました。

 最近、俳優や芸能人がメガホンをとることが増えているところ、中ではこの作品がよくできているという評判を聞きこんだので、見てみようということになりました。

(1)実際に見てみると、以前TV番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』でよく見かけた板尾創路らしい作りになっているのでは、と思いました。決してまともに物語が進行しないのです。
 例えば、まず、『脱獄王』という題名をつけているからには、牢獄からの脱出の仕方がいくつかは詳細に描き出されるのだろうと思っていましたら、取り外せる前歯の中に小さなネジ回しが仕掛けられていて、それを使って手錠を外せるとか、体のあちこちの関節を外せるので頭さえ通ればどんなところも通り抜けることができる、などといった断片的なことが示されるだけで、脱獄の一部始終が映し出されることはありません。
 また、厳重に閉じ込められている牢屋の中で、時と所を無視した歌を突然板尾が歌い出します(劇場用パンフレットによれば、歌ったのは中村雅俊の「ふれあい」で、あくまでも板尾の直感によっているとのこと)。
 それに、最初に出てくるタイトルクレジットが、途中でも繰り返し映し出されたりします。
 
 そうした作りにすることに何かしらの意味が込められているのであればとにかく、とてもそうは思えませんから、真面目に筋を追っている観客はズッコケてしまいます。

 その最たるものは、ラストのシーンでしょう。
 板尾が何度も脱獄を試みながらも、脱走後いつも同じ行動を繰り返すために、結局はすぐに見つかって牢獄に連れ戻されてしまいます。それが何度も何度も試みられるものですから、板尾が無意識的に脱獄を行ってしまう性癖を生まれながらに持っているのかもしれないと、観客は思うようになってきます。
 そうしたところ、ラスト近くになって、板尾が脱獄を繰り返す真の意味が明らかになります。なるほどこれは感動的な作りになっているな、と映画全体を見直そうとした途端に、ラストのラストで更にもう一つ大きなズッコケが披露されるのです。

 こうなると、この映画をまともに論評しても始まりません。監督と観客の化し合いと言ってもいいかもしれません。監督が、ヒョッと流れを外して“どうだ”と言ってきたら、観客は“ウム、そうきたか”とかわしつつ受け止める必要があるでしょう。監督がそうすることに、一々意味など見ようとせず、そのボケ方が意想外かどうか、面白いかどうか、だけを見ていけばいいのではないでしょうか?
 そうしたことからすれば、監獄を中心にして描かれているために、全般的にシリアスなトーンが覆いかぶさってはいるものの、コメディ映画そのものでしょう(注)。
 昨年公開された品川ヒロシ監督の『ドロップ』は、なかなか良くできていましたが、すこぶる真面目な映画でした。喜劇人としての自分のポジションをよく踏まえているという点では、この作品の方が頭一つ分先に行っているのではないかと思いました。

 なお、この映画の主役は板尾自身が演じていますが(セリフはほとんどありません)、先の『空気人形』といいこの作品といい、俳優として非常にいい味を出しています。

(注)例えば、福本次郎氏は、下記の(3)で触れる評論で、「刑務所という司法制度を愚弄するかのような鈴木の行為は、国家に対する挑戦状。舞台は昭和初期、まさに日本が軍国主義に向かう過程で、民衆が鈴木を「脱獄王」と英雄視する場面が権力への強烈な風刺となって効いている」と述べています。確かにそう見えなくもありませんが、いまさらこうした大上段に振りかぶった左翼的な見方を持ち出す必要もなく、持ち上げ過ぎと言うべきでしょう。

(2)まことに唐突ながら、板尾が演じる主人公が最後に閉じ込められる監獄島は、特に島に向かって板尾の乗せられた船が進んでいく様子は、どことなくアルノルト・ベックリーンの「死の島」の光景に似ているのではないか、とフッと思いました。



 ベックリーンの「死の島」は、全部で5つのヴァージョンがあるとされ、上記の絵は1880年の当初のものです(バーゼル美術館蔵)。
 『ベックリーン≪死の島≫』(三元社、1998年)を書いたフランツ・ツェルガーによれば、この絵については、画家が自身を英雄視し、島を自分の埋葬地としている、とする解釈が成立するようで、そうであれば、板尾が監獄島に向かうシーンと僅かながらオーバーラップするのではといえるかもしれません。

(3)評論家諸氏も、マアマアの評点を付けているようです。
 山口拓朗氏は、「ジャンルレスなうえに、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、その境界線が確信犯的にぼかされている本作は、よくも悪くも板尾監督らしさを凝縮した、人を食ったような作品だ」として55点を、
 渡まち子氏は、「鈴木が、どんなに殴られ拷問されても脱獄を繰り返す理由は、なかなか感動的だ」が、「キャストに芸人仲間の友情出演が多すぎるので、せっかくのミステリアスな香りを削いでしまっているのが惜しい」などとして50点を、
 福本次郎氏は、「終盤まで小気味よいテンポで展開してきたのに、このラストシーンには一気に脱力してしまった。それが板尾創路の狙いなのかもしれないが。。。」として50点を、
それぞれ与えています。
 渡氏がこの映画に「ミステリアスな香り」を嗅ぎ取ってしまったのはチョットどんなものかなと思いますし、福本氏が「脱力」してしまったのは困ったことですが、マアこれらの論評は当たらずとも遠からずではないかと思います。


★★★☆☆


象のロケット:板尾創路の脱獄王
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2 コメント

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Unknown (春日)
2014-10-11 15:52:00
無 用 な る 拘 束 は が し 逃 げ る こ と な ぜ か 分 か ら ぬ 胸 逆 さ 富 士
Unknown (クマネズミ)
2014-10-11 21:11:14
「春日」さん、意味深な短歌のコメントをありがとうございます。
なお、2010年3月1日付けの拙エントリの(2)において、該当する「逆さ富士」の画像を掲載してありますので、お手数ながらそちらも御覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/barriosmangre/e/f40be3405c2955790ccf832ad1d6b8f0

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