『しあわせの隠れ場所』を渋谷東急で見ました。
この映画に主演したサンドラ・ブロックがアカデミー賞主演女優賞に輝いたということもありますが、おすぎの「この春、一番のスポーツ映画でしょう」という言葉に押されて映画館に行ってきました。
(1)この間見たイーストウッド監督の『インクビタス』はラグビーにまつわる話でしたが、こちらはアメフトです。
ですが、邦題はどういう意味なのでしょう?この映画は、「しあわせ」が「隠れ」潜んでいる「場所」を明らかにしているのでしょうか 〔とはいえ、原題の『The Blind Side』では、アメフトの知識のない大部分の日本人にとっては、もっと理解できないでしょう!〕?
ただ、なんでもかんでも“しあわせ(幸福)”といったフレーズをつければ、日本で大入り間違いないというわけでもないでしょうに!
加えて、好悪がはっきり別れるサンドラ・ブロックが主演とあっては、いくら彼女がアカデミー賞主演女優賞を獲得したからと言って、大入りになるとは限らないと思われますが。
そんな詰らないことはさて置くとして、映画の方は至極真面目な映画で、昨年観た『私の中のあなた』におけるキャメロン・ディアスと双璧をなすサンドラ・ブロックの演技だと思いました。ただ、あちらでは問題の子供は死んでしまう悲劇ですが、こちらは、問題の子供が成長して大成功を収める物語だという点で、受ける印象が全然違うものとなります。
すなわち、黒人のマイケル・オアーが、アメフトのプロ選手として成功するに至るまでに、サンドラ・ブロックが扮する大金持ちの女性リー・アンが果たした役割を、随分と肯定的に描き出していて、見終わると実にスカッとした気分になります。
とはいえ、問題点がないわけではないと思います。
・リー・アンの行為は、結果としては、各地のレースで優勝して賞金を稼ぐサラブレッドを見出した馬主とそれほど違わないではないか〔なお、マイケル・オアーが上流家庭の子弟の通う高校に入学するのを認めた学校側の判断が重要なのでは。リー・アンが彼を見出すのも、その学校に通っているときなのですから〕。
・リー・アンに見出された金の卵のマイケル・オアーは、荒んだ生活を送る母親とともに貧民街に住んでいたにもかかわらず、品行方正で高潔なのですが、どうしてそんな子供が出来上がったのかの説明が欠けているのでは(尤も、誰であってもそんな事を説明できはしないのですが!)。
・右利きのQBの左サイドは死角とされ、そこを守るOT(オフェンシング・タックル)の役割が非常に大きいとされていますが〔マイケル・オアーのポジションです〕、アメフトの知識のない者には、なかなかその点がよく飲み込めません。
しかしながら、この映画では、サンドラ・ブロックの熱演と、マイケル・オアー役のクイントン・アーロンの落ち着いた中に闘志をたぎらしている演技とが見ものとなっており、さらにリー・アンの夫に扮しているティム・マッグロウが醸し出す優しい雰囲気とか、マイケルの弟分になるS・Jに扮する子役のジェイ・ヘッドの絶妙な演技によって、あまりそうした揚げ足取り的なことは言わないで、素直にこの映画を受け止めようという気になります。
(2)この映画は、『インクビタス』同様に「スポーツ映画」です。
そして、これらの映画で強調されるのは、“実際にあった本当の話”なのだという点です。
ですが、「本当の話」、「実話」とはどういうことでしょうか?
むろん、実際の人物が画面に登場するニュース映画やドキュメンタリー映画ではなく、劇映画であって、役者(それもハリウッド・スター)が演技するのですから、映画で描き出される光景がそのままあったことでないのは、言うまでもないでしょう。
とすると、物語の骨組みが実際にあったとおりであり、細部はリアルなものではないということでしょうか?しかし、何が骨組で、何が細部なのでしょうか?
私は、「この話は実際にあった話である」とか「この話は実話に基づいている」とかのテロップが映画で流れると、途端に嫌な感じになってしまいます。そうでもしなければ、映画で描いている物語からリアルさがなくなってしまい、感動が得られなくなってしまう、と自信無げに宣言しているような感じを受けてしまうからですが。
(3)評論家もマズマズ好意的のようです。
渡まち子氏は、「白人女性が不幸な境遇の黒人少年を助けたこの実話、一言で言うならば“いい話”だ」が、「この映画が単なるいい話に終わらないのは、リー・アンというサザン・ベル(米国南部の上流社会の女性で勝気な美人を指す言葉)の暴走気味の愛情に、アメリカ人が愛する母親像が確かにあるからだろう」として65点をつけています。
福本次郎氏も、「マナーと謙虚さを教えた良識ある大人がいたからこそマイケルは裕福な白人社会から拒絶されなかった」のであり、「もう少し彼らとの関係を語ってほしかった」ものの、「マイケルと彼を“発見”し育てたリーのサクセスストーリーだけにスポットを当てることで、とてもさわやかな印象を残す」として60点を与えています。
★★★☆☆
象のロケット:しあわせの隠れ場所
この映画に主演したサンドラ・ブロックがアカデミー賞主演女優賞に輝いたということもありますが、おすぎの「この春、一番のスポーツ映画でしょう」という言葉に押されて映画館に行ってきました。
(1)この間見たイーストウッド監督の『インクビタス』はラグビーにまつわる話でしたが、こちらはアメフトです。
ですが、邦題はどういう意味なのでしょう?この映画は、「しあわせ」が「隠れ」潜んでいる「場所」を明らかにしているのでしょうか 〔とはいえ、原題の『The Blind Side』では、アメフトの知識のない大部分の日本人にとっては、もっと理解できないでしょう!〕?
ただ、なんでもかんでも“しあわせ(幸福)”といったフレーズをつければ、日本で大入り間違いないというわけでもないでしょうに!
加えて、好悪がはっきり別れるサンドラ・ブロックが主演とあっては、いくら彼女がアカデミー賞主演女優賞を獲得したからと言って、大入りになるとは限らないと思われますが。
そんな詰らないことはさて置くとして、映画の方は至極真面目な映画で、昨年観た『私の中のあなた』におけるキャメロン・ディアスと双璧をなすサンドラ・ブロックの演技だと思いました。ただ、あちらでは問題の子供は死んでしまう悲劇ですが、こちらは、問題の子供が成長して大成功を収める物語だという点で、受ける印象が全然違うものとなります。
すなわち、黒人のマイケル・オアーが、アメフトのプロ選手として成功するに至るまでに、サンドラ・ブロックが扮する大金持ちの女性リー・アンが果たした役割を、随分と肯定的に描き出していて、見終わると実にスカッとした気分になります。
とはいえ、問題点がないわけではないと思います。
・リー・アンの行為は、結果としては、各地のレースで優勝して賞金を稼ぐサラブレッドを見出した馬主とそれほど違わないではないか〔なお、マイケル・オアーが上流家庭の子弟の通う高校に入学するのを認めた学校側の判断が重要なのでは。リー・アンが彼を見出すのも、その学校に通っているときなのですから〕。
・リー・アンに見出された金の卵のマイケル・オアーは、荒んだ生活を送る母親とともに貧民街に住んでいたにもかかわらず、品行方正で高潔なのですが、どうしてそんな子供が出来上がったのかの説明が欠けているのでは(尤も、誰であってもそんな事を説明できはしないのですが!)。
・右利きのQBの左サイドは死角とされ、そこを守るOT(オフェンシング・タックル)の役割が非常に大きいとされていますが〔マイケル・オアーのポジションです〕、アメフトの知識のない者には、なかなかその点がよく飲み込めません。
しかしながら、この映画では、サンドラ・ブロックの熱演と、マイケル・オアー役のクイントン・アーロンの落ち着いた中に闘志をたぎらしている演技とが見ものとなっており、さらにリー・アンの夫に扮しているティム・マッグロウが醸し出す優しい雰囲気とか、マイケルの弟分になるS・Jに扮する子役のジェイ・ヘッドの絶妙な演技によって、あまりそうした揚げ足取り的なことは言わないで、素直にこの映画を受け止めようという気になります。
(2)この映画は、『インクビタス』同様に「スポーツ映画」です。
そして、これらの映画で強調されるのは、“実際にあった本当の話”なのだという点です。
ですが、「本当の話」、「実話」とはどういうことでしょうか?
むろん、実際の人物が画面に登場するニュース映画やドキュメンタリー映画ではなく、劇映画であって、役者(それもハリウッド・スター)が演技するのですから、映画で描き出される光景がそのままあったことでないのは、言うまでもないでしょう。
とすると、物語の骨組みが実際にあったとおりであり、細部はリアルなものではないということでしょうか?しかし、何が骨組で、何が細部なのでしょうか?
私は、「この話は実際にあった話である」とか「この話は実話に基づいている」とかのテロップが映画で流れると、途端に嫌な感じになってしまいます。そうでもしなければ、映画で描いている物語からリアルさがなくなってしまい、感動が得られなくなってしまう、と自信無げに宣言しているような感じを受けてしまうからですが。
(3)評論家もマズマズ好意的のようです。
渡まち子氏は、「白人女性が不幸な境遇の黒人少年を助けたこの実話、一言で言うならば“いい話”だ」が、「この映画が単なるいい話に終わらないのは、リー・アンというサザン・ベル(米国南部の上流社会の女性で勝気な美人を指す言葉)の暴走気味の愛情に、アメリカ人が愛する母親像が確かにあるからだろう」として65点をつけています。
福本次郎氏も、「マナーと謙虚さを教えた良識ある大人がいたからこそマイケルは裕福な白人社会から拒絶されなかった」のであり、「もう少し彼らとの関係を語ってほしかった」ものの、「マイケルと彼を“発見”し育てたリーのサクセスストーリーだけにスポットを当てることで、とてもさわやかな印象を残す」として60点を与えています。
★★★☆☆
象のロケット:しあわせの隠れ場所