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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・モディ首相  「仮面」を脱いで、最大州首相にヒンズー至上主義「極右扇動者」を起用

2017-05-11 22:25:02 | 南アジア(インド)

(政権与党によりインド最大州の首相に任命された過激なヒンズー至上主義者・極右の扇動者として知られるヨギ・アディティヤナート氏  画像は“flickr”より By Santosh Raj Goswami )

モディ首相の公約にもかかわらず、汚染で死にゆくガンジス川
****印裁判所がガンジス川に法的権利認める 「命ある存在」、川が提訴可能に****
ヒンズー教の信仰の対象となっているインドのガンジス川とその支流のヤムナ川について、印北部ウッタラカンド州の裁判所が、「命ある存在」であり、人間と同様に法的権利を有するとの判断を示した。ロイター通信などが伝えた。
 
川の保護を訴えた裁判で今年3月20日、裁判所は、2つの川は「法的に保護され、傷つけられず、係争の当事者になる権利を持つ」とした。政府のガンジス川浄化事業責任者など3人を川の代理人と認定した。川は代理人を通じて裁判所に提訴することもできる。
 
ガンジス川は、現地名を「ガンガ」といい、ヒンズー教の女神の名前でもある。川沿いには最大の聖地バラナシがあり、川には多くの巡礼者が沐浴(もくよく)に訪れる。近年、産業・生活排水などにより、水質汚染が進み、日本はインドの浄化事業に協力している。【5月8日 産経】
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“(ガンジス川は)「命ある存在」であり、人間と同様に法的権利を有する”・・・・どういう意味でしょうか?

よくわかりませんが、もしガンジス川に命あるなら、汚染の進行に対して断末魔の悲鳴をあげていることは間違いないでしょう。

“行動力が自慢のナレンドラ・モディ首相は一昨年の就任後、「私には実績がある」として、向こう五年間で三十億ドルをかけて、国家事業として取り組むことを宣言した。さらに「二〇二〇年までに、ガンジス川に流れ込む水の処理率を一〇〇%にする」という目標を掲げた。”【2016年11月号 「選択」】

冒頭記事にもあるように、モディ首相は訪日時に日本側に協力を要請し、インドを重要な戦略パートナーと位置づける安倍首相は円借款による協力を約束しています。

しかし、モディ政権下においても汚染は進行し、“その後はインドの干ばつが加わり、全土で水不足が深刻化。ガンジス川は汚物がますます増えたばかりか、水不足にも悩まされるようになり、特に下流のバングラデシュでは、海水面が上昇してベンガル湾の島や沿岸地方が急速に水没するという事態になっている。”【2016年11月号 「選択」】というのが現状です。

モディ首相黙認で拡散するヒンズー至上主義
このあたりの話は、2016年11月18日ブログ“インド 行動力自慢のモディ首相による突然の高額紙幣使用停止  深刻な大気汚染と水質汚染”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161118でも取り上げたところですが、ガンジス川の汚染問題には、ヒンズー至上主義の宗教問題も絡んでいます。

****汚染で死にゆく「ガンジス川****
・・・・この結果、ガンジス川は飲料用としてはもとより、水浴や洗濯にさえ適さない。インドの「エコノミック・タイムズ」紙は、「川というよりは、汚水路といったほうが適切」と評し、ヒンドゥー教徒が行う聖地ヴァラナシでの沐浴は「もはや生命に危険」とする。
 
事態を複雑にするのは、浄化作業の司令塔であるはずの、ウマ・バルティー水資源相。長い正式な職名には、「ガンジス川再生」も付き、モディ政権の浄化にかける意欲を示している。

この人物は強硬なヒンドゥー教至上主義者で、若い頃から実力行使をいとわなかった女闘士。一九九二年にアヨーディヤで起こったイスラム教寺院の破壊事件にも加わった。この事件以外にも、イスラム教徒への暴力事件で複数の起訴、逮捕状が出ている。

「ガンジス川再生相」としては、「汚染業者の取り締まり」を掲げ、流域の製革業者に高額の「浄化税」を命じた。皮なめしは大量に水を使う仕事で、ガンジス川流域にも古くから製革業が根付いていた。
 
ところが、現在の製革業者はほとんどがイスラム教徒。彼らは「川の浄化は名目で、本当の目的はイスラム教徒迫害だ」と強く反発し、支払いをボイコットするなど中央政府との対決姿勢を強めている。
 
何でも政治問題化、宗教問題化するのは、現代インドの宿命。とはいえ、ガンジス川が死にゆくことは、地球環境にとって大打撃で、もはやインド一国の問題を超えている。一日十二億リットルと推計される汚水は、人類にとって大きな脅威。早急な国際的取り組みが必要だろう。【2016年11月号 「選択」】
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モディ首相については、就任当初から、インフラ整備促進などによる経済成長が期待される一方で、首相の過去の経歴が示すようにヒンズー至上主義の側面が色濃く、イスラム教徒との対立も懸念されてきました。

そのモディ首相の(黙認の)もとで、インド社会ではヒンズー至上主義的な動きが広まっています。

****<インド>ヒンズー教「自警団」、イスラム教徒に暴行相次ぐ****
牛を神聖視するヒンズー教徒が人口の約8割を占めるインドで、牛を守るヒンズー教徒の「自警団」がイスラム教徒を暴行する事件が相次いでいる。

ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党・インド人民党が各地で牛保護政策を進める中、一部のヒンズー教徒が過激化しているとみられ、イスラム教徒からは分断を懸念する声も上がっている。

 ◇牛保護名目 2年間で10人
「いきなりバイクの集団に囲まれた。『殺せ』と叫んでいた」。イスラム教徒のラフィークさん(24)は今月1日、西部ラジャスタン州で乳牛をトラックで運搬中、「自警団」を名乗るヒンズー教徒の約50人に囲まれ暴行を受けた。仲間の男性(55)は暴行が原因で死亡。ラフィークさんも鼻の骨を折るけがをした。
 
首都ニューデリー近郊では2015年、牛を食べたと疑われたイスラム教徒の男性が集団暴行を受け死亡している。今年も各地の高速道路で牛を運ぶトラックの襲撃事件などが相次ぎ、地元メディアによると、過去2年間で少なくともイスラム教徒10人が牛を巡り殺害されたという。
 
イスラム教団体幹部は「『愛国者』を名乗る集団がイスラム教徒を標的にしているが、政府は沈黙している」と憤る。最高裁は今月7日、中央政府と6州にこうした「自警団」の活動を禁じるよう命じたが、奏功するかは不明だ。
 
インドでは14年のモディ政権誕生以来、牛の保護政策が強まっている。西部グジャラート州議会は3月、牛の解体に対する罰則を終身刑に引き上げる改正法案を可決。3月に人民党政権が誕生した北部ウッタルプラデシュ州も場の取り締まりを強化した。【4月17日 毎日】
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イスラム教徒3800万人が暮らす最大州首相に悪名高いヒンズー至上主義者を起用
3月12日ブログ“インド モディ首相の中間評価とされる地方議会選挙 最大州で与党が圧勝”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170312で取り上げたように、3月に行われた地方選挙で首相率いる与党「インド人民党(BJP)」が勝利したことで自信を深めたのか、懸念されていたヒンズー至上主義の側面がますます露骨になっているようです。

****インドでも「極右勢力」が大躍進 宗教弾圧で分断される「十三億人****
「ヒンドゥー・ラシュトラ(ヒンドゥー教国家)建設を!」
 
モディ政権誕生から三年、こうした言葉を繰り返し耳にするようになった。「原油価格下落による安定した経済成長」という運がいいだけのモディ政権に対して、過大評価をそろそろ改める頃かもしれない。

ヒンドゥー至上主義による「偏狭で頑迷な政策」は拡大し、党内の極右勢力が力を強め、今やインドの人口比九九・三八%の地域で牛のが禁止となり、厳罰化が進んでいる。政官民を問わず極右勢力が暴走し、他宗教への弾圧の標的はイスラム教徒だけではなく、キリスト教徒への迫害も増加して今や欧米も懸念している。

最大州の首相に「極右の扇動者」
「ヒンドゥー至上主義者強硬派が州首相に」
三月下旬、現地各紙でこんな見出しが躍った。

世界最大の自治体であり、人口二億人を抱える大票田ウッタル・プラデシュ(UP)州議会選挙で、世論調査を覆して中央政府与党インド人民党(BJP)が四分の三以上の議席を獲得して圧勝。左派政党が強かった同州での右派圧勝は確かに驚きだが、驚愕すべきは選挙後の人事だ。BJPが州首相として指名したのが「極右の扇動者」として知られるヨギ・アディティヤナート氏だったからである。

「BJPではなく、(与党支持母体の)民族奉仕団(RSS)の意向が働いた」とメディアは当初騒いだが、そうではない。アミット・シャーBJP総裁とモディ首相の意向である。

極右のRSSでさえも御することが難しいほどアディティヤナート氏は独断的で攻撃的だが、BJPは諸々の問題はあれど同氏の「大衆を導き組織化する能力の高さと実績」を買ったとみられる。

同氏は度々、党を「ヒンドゥー至上主義を希釈化している」と批判し、選挙で反旗を翻して党公認候補を落選させてきた。党も同氏の実力を認めざるを得ない状況となったわけだ。

二〇一九年総選挙に向けて最大のカギを握る同州で、与党が極右政権を誕生させたことは、歯止めが利かなくなってきていることの表れだ。
 
さて、このアディティヤナート氏とは何者か。一九七二年生まれの同氏は、九二年のアヨーディヤ事件(ヒンドゥー至上主義の暴徒たちがイスラム教聖地のモスクを破壊し、インド各地に広がった宗教暴動)に関わった後、ヒンドゥー教僧侶に弟子入り。九八年に二十六歳で下院議員に初当選し、以降四期連続で再選している。
 
二〇〇二年に極右の青年組織ヒンドゥー・ユバ・バヒニを創設してUP州各地で問題を起こしてきた。〇七年には暴動を扇動した罪で十五日間服役した経験もあり、他に殺人未遂、武器所持、墓地荒し、脅迫など数々の余罪がある。
 
問題発言は数知れず。「マザー・テレサはインドをキリスト教化し、国を分裂させる陰謀家だった」「もし、奴ら(イスラム教徒)が一人のヒンドゥー教徒を殺せば、我々は百人を殺す」。さらには「浄化大運動」と題して、クリスチャンをヒンドゥー教へ力づくで改宗させて「インドとUP州をヒンドゥー教国家にするまでやめない」という。

こんな人物が「二億人のトップ」に指名されたのだから穏やかではない。ヒンドゥー至上主義の暴走は、日本人には気づきにくいが、在インドの欧米人は肌感覚で脅威に気が付いている。

「どんどん閉鎖、撤退しているようだ」
インドで活動する海外NGO関係者らの間で動揺が広がっている。「NGO大国」とも呼ばれる同国では、かつて三万三千ほどあったNGOのうち、モディ政権になってから二万が外国援助資金規正法への違反を理由にライセンス更新を拒否され、一万三千ほどにまで激減しているという。
 
インドの外国援助資金規正法は中道左派の国民会議派政権時代の一〇年に成立したものだが、モディ政権はこれを拡大解釈し「ヒンドゥー教保護」を目的に濫用している状態にある。(中略)

欧米が批判する「反改宗法」
同時に、五千万人以上とも言われるキリスト教徒への弾圧事件も増加している。例えばインド最大のメガチャーチは、一週間の礼拝者が十五万人を超え、米国最大のレイクウッド教会(四万三千人)の三倍以上だ。古くからキリスト教徒が多数派を占める南部ケララ州に加えて、最近は北東部の小さな州でもクリスチャンが急増し多数派を占めるようになっている。
 
こうした中、既得権が脅かされるヒンドゥー至上主義者たちは、なりふり構わぬ弾圧を行っている。昨年、聖職者への暴行や教会への焼き打ちなど、四百四十三件のキリスト教徒への暴力事件が発生した。

今年は最初の二カ月で百六十三件と倍増ペースだが、これも氷山の一角で、多くの場合は事件化されることさえない。米キリスト教迫害監視団体オープンドアーズによれば、インドには六千四百万人のキリスト教徒のうち三千九百万人は迫害を経験していると推計している。
 
警察を利用した謀略も増えている。例えば四月、UP州のある村の教会で「強制的に改宗を促している」との罪で牧師が警察に連行された。背後で嘘の密告により警察を動かした組織こそ、アディティヤナート氏の極右青年組織だ。今や極右組織が政官民に入り込み、キリスト教徒を犯罪者に仕立て上げるのが主流になりつつある。
 
BJPは二〇一四年の総選挙前、政権交代後に「(インド全土での)反改宗法」を制定する旨を公約に掲げた。同法は「強制的、詐欺的、あるいは誘惑して、改宗させることを禁ずる」法律だ。迫害者が悪用しやすいのは、前述の不当逮捕を見てのとおりだ。
 
すでに州法としてはグジャラート州を筆頭に少なくとも五州で施行されており、これらの州では取り締まりの名の下に私刑が横行している。

与党は未だ上院で多数派を占めていないが、選挙で過半数を占めれば厳罰化を含めた「反改宗法」の制定に動き出す公算が大きい。そうなれば非ヒンドゥー教徒は深刻な危機に直面するだろう。

モディ氏が州首相時代に成立させた「反改宗法」は欧米から激しい批判を浴びた。今回は代わりの「汚れ役」としてアディティヤナート氏を起用したともいえる。極右化が進む土着宗教政権は、持ち前の偏狭ぶりを隠そうともしなくなってきた。【2017年5月号 「選択」】
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仮面」を脱ぐ権力者 宗教対立激化の懸念
上記記事はキリスト教徒弾圧を取り上げていますが、(もちろんそれも大問題ですが)さらに大きな問題は、インドが抱える最大の問題であるヒンズー対イスラムの対立に火をつけかねないことです。

****モディが「仮面」を脱ぐとき****
首相再選を意識してポピュリスムとナショナリズムに傾倒か 宗教対立をあおる人事に不安と失望が渦巻く

ナショナリストの指導者はリベラルの希望を打ち砕くものだ。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領。

いずれも政権に就いた当初はポピュリスム的な政策と経済改革の均衡を取ると約束し、リベラル路線へのシフトさえにおわせたが、そんなポーズは長くは続かなかった。
 
インドのナレンドラ・モディ首相も似たような流れをたどっている。2~3月に行われた5州の地方議会選挙で、ヒンドゥー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)は、国内最大の州ウッタルプラデシュで圧勝。

人口2億人以上を擁する同州には約3800万人のイスラム教徒が暮らすが、モディが同州首相に選んだのは、イスラム教徒への差別発言を繰り返す扇動的な活動家でヒンドゥー教僧侶のヨギ・アディティナートだ。
 
この人選にリベラル派はもちろん、インドの世俗的民主主義の健全性とイスラム教徒の将来を懸念する人々も失望を隠さない。(中略)

14年5月の首相就任以来、モディは改革の旗手を名乗ってきた。これに対しリベラル派は、長年RSSの活動家だった彼の誠実さに疑念を抱いている。

それでも今までは、宗教対立をあおるような政策は基本的に回避して、それなりの経済成長を実現させてきた。しかし、アディティナートの起用により、モディがヒンドゥ土至上主義のナショナリズムを積極的に推し進めるのではないかという不安が再燃している。(中略)

多数派を占めるヒンドゥー教徒を優遇する姿勢を打ち出すほうが、19年の総選挙で再び勝てる可能性は高い、とモディは考えているのではないだろうか。
 
モディ政権は昨年11月に突然、2種類の高額紙幣の廃止を発表して議論を呼んだ。経済効果は疑問視されているが、今回の州首相任命は、そうしたポピュリズムヘの傾倒をさらに推し進めたとも取れる。
 
モディがリベラルな指導者だったことは一度もないし、そう装ったこともない。だが再選を意識するあまり、他国の保守的なナショナリストを手本にする恐れはある。
 
トルコのエルドアン大統領は国の統一と改革を約束して権力を握った後、強硬路線で権力を守っている。今のところ、モディはもう少し穏健的だ。

しかし、今回の件が何かを示唆しているとしたら、穏健さは一瞬で消える場合もあるということだ。【5月16日号 Newsweek日本語版】
*******************

“今までは、宗教対立をあおるような政策は基本的に回避して・・・”という評価はどうでしょうか?
自身では煽らなくても、現実に宗教対立を煽る行動をとっている下部組織を黙認し、そのことがそうした下部組織の行動を推し進めることにもなっています。

今回のウッタル・プラデシュ州首相への「極右の扇動者」起用は、ヒンズー至上主義への階段を更に一段上がったように見えます。
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ロシア  欧米からの批判が強まるチェチェンの同性愛者弾圧 同性愛者の居場所を奪う「同性愛宣伝禁止法」

2017-05-10 21:53:35 | ロシア

((2013年6月11日 モスクワ by Reuters 【2014年2月11日 「My temple」】)

チェチェンの同性愛者弾圧
ロシア・プーチン大統領は人権問題で欧米から批判を浴びることも少なくありませんが、そのロシアのなかにあってもイスラム教徒が多く、これまでロシア中央政府との衝突・テロが繰り返されてきた北カフカスのチェチェン共和国は、カディロフ首長が強権的な“力による支配”を貫徹することで“安定”を達成している地域で、さしものプーチン大統領もなかなか手を出せない特殊な地域でもあります。

そのチェチェンにおける同性愛者弾圧が国際的な問題となっています。

****同性愛者には「うそか死しかない」 チェチェン逃れた男性ら語る*****
イリヤさん(20)は憔悴しきっていた。軍服を着た男たちに殴られ、拷問されたロシア・チェチェン共和国から逃げ出したが、今も生命の危険を感じている。それもすべて、彼がゲイだからだ。「チェチェンでは、うそをつくか、死ぬかしか選択肢はない」
 
今は首都モスクワの端にある小さな家に、やはりチェチェンから逃れてきた他の5人と一緒に隠れ住んでいる。彼らは北カフカス地方のイスラム地域に位置するチェチェンで、同性愛者の男性を狙った残忍な迫害を当局が繰り広げていると語る。
 
AFPの取材に応じた男性らは全員、本名を明かすことを拒んだ。誰かに素性が知れ、見つけ出されることを恐れているからだ。「僕がゲイだということを親戚の誰かが知ったら、一瞬もためらわずに僕を殺すだろう」と、ノルチョさん(28)は述べた。「そうしなければ、家族の名誉を守らなかったといって、自分の方が殺されてしまう」
 
ロシア社会には一般的に同性愛への嫌悪感があるが、特に保守的なチェチェンでは同性愛はタブーとされ、死によって罰するべき不道徳とみなす家族が多く、問題は極めて深刻だ。
 
チェチェンを過去10年にわたり強権的な手法で統治してきたラムザン・カディロフ首長に対する批判的な姿勢で知られるロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータは3月下旬、チェチェンで男性同性愛者たちが一斉に検挙されているという衝撃的なニュースを伝えた。
 
この報道によると、チェチェン当局は同性愛者の男性100人以上を拘束し、家族に対し「汚名をすすぐ」ために彼らを殺せと呼び掛けたという。少なくとも2人が親族によって殺され、さらに1人が拷問の末に死亡したとされる。
 
ウラジーミル・プーチン大統領の熱烈な信奉者とされるカディロフ首長の統制下にあるチェチェンの治安当局は、首長の対抗勢力を襲撃したり拉致したりしているとして長らく人権団体などから非難されてきただけに、この疑惑は深刻に受け止められている。
 
この報道についての談話を求められたカディロフ首長の報道官は、チェチェンにはゲイの男性は「存在しない」ため、そのような懲罰的措置はあり得ないと断言した。
 
カディロフ首長自身も19日、「チェチェンに関する挑発的な記事が逮捕とやらについて報じている」と述べ、同性愛者男性らの一斉検挙を否定。さらに「口にすることでさえ恥ずかしい。逮捕だの殺人だのが起きていると報じられ、(犠牲者の一人の)名前まで載っている。だが、その人物は生きており、元気で自宅にいる」と反論した。(後略)【4月22日 AFP】
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欧米からの批判にプーチン大統領も調査支援表明するが・・・
“チェチェンにはゲイの男性は「存在しない」ため、そのような懲罰的措置はあり得ない”というのも、ふざけた言い様です。

このようなチェチェンの状況に、同性愛者の権利に敏感なアメリカでは批判が高まっています。

****チェチェン当局によるLGBT迫害疑惑、米政界が当局に調査求める****
ロシア・チェチェン共和国の当局が同性愛者の男性らを迫害し、拷問や殺害を行っていると報じられ、米国の国連大使や議員らが17日、チェチェン当局に対し調査を実施するよう求めた。
 
ニッキー・ヘイリー米国連大使は声明で、「チェチェンで性的指向によって拉致、拷問、殺人が行われていると報じられ、引き続き懸念している」と述べ、「事実なら、この人権侵害は看過できない」と表明した。
 
ヘイリー大使はさらに、「チェチェン当局は直ちにこうした疑惑を調査し、関与した者に責任を負わせ、今後、虐待が起きないよう措置を講じるべきだ」と主張した。
 
米民主・共和両党の議員からもチェチェン当局に対する非難の声が上がっている。民主党の上院外交委員会メンバーのベン・カーディン議員は、今回の疑惑を伝えたロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータの報道に言及し、「同性愛者の男性をはじめ数百人のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人々がチェンチェンの治安部隊によって身柄を拘束されて拷問を受け、少なくとも3人が死亡した」と指摘。さらに、「(チェチェンの)ラムザン・カディロフ首長がLGBTの人々に恐怖を与える状況をつくっている」と非難した。
 
チェチェンでは1990年代以降2度の独立紛争があったが、カディロフ首長の独裁的な体制下でおおむね平静を保っている。【4月18日 AFP】
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こうした報道・批判に対するこれまでのロシア政府の対応は「これらの告発は幽霊のようなもの」という極めて否定的・後ろ向きなものでした。

****チェチェンでの同性愛者虐待報道を否定、ロシア政府****
ロシア・チェチェン共和国で同性愛者らが虐待を受けていると報じられている問題で、ロシア政府は20日、事実関係は確認されておらず、メディアに対する「幽霊告発(実体のない告発)」こそ警察の捜査を受けるべきだと指摘した。
 
これに先立つ19日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が同共和国のラムザン・カディロフ首長と会談。カディロフ氏は、同性愛者の男性らがチェチェンで身柄を拘束されたほか、名誉殺人を実行するよう促された家族がいるとの報道を「挑発的な記事」だと批判した。
 
また、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に対し、「現時点でこの情報が確認されたとの報告はない」と説明した。
 
同報道官は、報道各社が被害者を取材しているとの記者らの指摘に「法律違反があれば、市民は警察に行って届け出るというのが常識だ」と述べ、「(被害者は)どこにいる? 誰もいない……この人たちは誰なんだ? どこに住んでいる?」と反論。その上で「これらの告発は幽霊のようなもので、実在の人間と全く関わりがない」とし、「彼らは何を恐れているのか。保護下に置かれることが怖いのか?」と批判した。
 
なお、ロシア検察当局は17日、この事案について調査を行っていると表明した。(後略)【4月21日 AFP】
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しかし、欧米側はこのようなロシア政府の対応に納得せず、ドイツ・メルケル首相はプーチン大統領との会談で調査・保護を要請し、プーチン大統領もこれに応える形で調査を支援することを表明しています。

****チェチェン同性愛者迫害疑惑、ロ大統領が調査支援 独首相が要請****
ロシア・北カフカス地方のチェチェン共和国で男性同性愛者が迫害を受けていると報じられた問題で、同国のウラジーミル・プーチン大統領は5日、疑惑の正式な調査を後押しすると表明した。

プーチン氏は今週の独ロ首脳会談で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相からこの疑惑への対応を要請されていた。
 
会談後初めて同問題に言及したプーチン氏は、検事総長と内相と対し、同国のタチアナ・モスカルコワ人権オンブズマン(行政観察員)が担当する調査の補助を個人的に依頼する意向を表明。

モスカルコワ氏に対し、「同僚らが対応し、あなたを補助することを願う」と述べた。モスカルコワ氏は国内の人権侵害の調査を担っているが、プーチン氏に忠実な既存勢力の一部と広く見られている。
 
メルケル首相は2日にプーチン氏と開いた共同記者会見で、チェチェンの同性愛者をめぐる「非常に悪い報道」に言及し、プーチン氏に「彼の影響力を用いて、少数派の人権を保障する」よう要請したと述べていた。
 
プーチン大統領は、テレビ放映されたモスカルコワ氏との会話で、同疑惑について、北カフカスで「非伝統的な指向を持つ人々」(同性愛者を指すえん曲表現)に起きていることについての「うわさ」と表現した。
 
当局に対する批判的な姿勢で知られるロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータは3月、同性愛がタブー視されるチェチェンの当局が男性同性愛者たちを拘束して拷問を加えていると報道。
 
同紙によると、チェチェン当局は計100人以上の男性同性愛者を拘束した他、親族に対して同性愛者の殺害を呼び掛けており、これまでに少なくとも2人が親族に殺害され、1人が拷問により死亡。この報道は国際的スキャンダルを引き起こした。【5月6日 AFP】
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伝統的価値観に回帰するロシアの「同性愛宣伝禁止法」】
こうした「うわさ」に対するプーチン大統領の調査支援表明がどれだけの実効性をもつのかは、はなはだ疑問です。

それは一つには、相手が前述のようなロシアにおいて特殊な立場にあるカディロフ首長であるためですが、もう一つには、同性愛に関しては、ロシア自体が非常に否定的な対応をとっている国であるためでもあります。

2014年2月7日に行われたソチオリンピック開会式に日本の安倍首相は何事もなく参加しましたが、世界中の多くの国の首脳は開会式をボイコットしました。それは、2013年6月にロシアで制定された「同性愛宣伝禁止法」への抗議の意思表示でした。

****プーチン大統領「ただし子供には近づくな」発言に欧米から反発 日本の対応は****
同性愛者に関するロシアのプーチン大統領の発言をめぐって、各国首脳がソチオリンピックの開会式出席を見送る中、安倍首相はロシア訪問の方向で調整している。どのような背景があるのだろうか。

■「同性愛者も安心していい。ただし……」
ロシアの「同性愛宣伝禁止法」とは、同性愛など「非伝統的な性的関係」を未成年者に知らしめる行為を禁止した法律で、2013年6月に制定された。

この法律は制定以来、同性愛者の権利を侵害していると欧米諸国から批難を浴びてきた。同時に、オリンピック開催中の同性愛者の待遇も不安視されてきた。

これに対してプーチン大統領は、1月17日に開かれたオリンピック運営ボランティアとの会合の中で、「我々の法律は、同性愛や小児性愛を未成年に向けて宣伝するプロパガンダを禁止しているのであり、同性愛者や小児性愛者を逮捕したり懲罰を与えたりしているのではない。そこを強調したい」と述べ、批難を退けた。イギリス紙のガーディアンが伝えた。

続けてプーチン大統領は、「ソチオリンピックではあらゆる差別は排除される。同性愛者も安心してリラックスしていい」と述べた上で、「ただし、子供たちには近づかないでほしい」と話した。

■欧米諸国からは批難の声
この発言に対して、欧米からは「同性愛と小児性愛を一緒くたにしている」という指摘や「まるで同性愛者が子供たちを獲物にしているかのような発言」という批判が見られる。

さらにアメリカのCNNは、ネットの掲示板を利用して同性愛者を誘拐しては暴行を加えるなどの活動を行っているグループについて報じ、2013年の法律制定以降、ロシアでこれらの動きが活発になっていると指摘。「同性愛者も安心していい」というプーチン大統領の発言の信憑性に疑問を投げかけた。

■欧米諸国の首脳が不参加を表明 日本は?
こういったロシアの同性愛者に対する政策に反発し、アメリカのオバマ大統領やイギリスのキャメロン首相をはじめとする欧米の首脳たちが、2月7日に開催される開会式への不参加を表明している。

一方、安倍晋三首相は、開会式出席の方向で調整している。北方領土問題解決のためにはプーチン大統領との関係強化が必要との考えだ。会談が実現すれば、2012年の就任以来5度目の首脳会談となる。【2014年01月18日 伊吹早織氏 The Huffington Post】
********************

安倍首相がソチ五輪開会式に参加したのは、上記のような北方領土問題解決云々もありますが、基本的に同性愛者の人権に関する意識が日本と欧米では異なることが大きいでしょう。

当時ロシアはG8に入っていましたが、G8の中で性的少数者の権利を保障する法律が一切存在しないのはロシアと日本であるとのことです。

****ソチ五輪の何がヤバいか(前編)―ロシアと同性愛禁止法とナチスドイツ****
●ロシアで成立した同性愛禁止法 
2013年初夏、ロシア議会において反対者ゼロで一つの法律が成立しました。日本のメディアでは「同性愛宣伝禁止法」と呼ばれています。

その内容は、「未成年者に対して非伝統的な性的関係を助長するような情報を宣伝することを禁止する」というものです。漠然としていて具体的にどういった行為が禁止されるのかよくわからないという意味では、最近日本で成立した特定秘密保護法と少し似ているかもしれません。

具体的には、公の場で同性愛を異性愛同様に価値あるものとして語ったり、魅力的に描いたりすることが禁止されるため、性的少数者をテーマにしたパレード・映画・ポスター・雑誌・書籍・映画・健康相談などが処罰対象になり得るとされています。

公の場で自分のセクシュアリティをカミングアウトすることさえ処罰される可能性があり、同性愛を「普通」や「生まれつき」と語ることができなくなります。結局のところこの「同性愛の宣伝」を禁止する法律は、わかりやすく言えば同性愛者の居場所を社会からなくす「同性愛禁止法」なのです。

ここ半年ちょっとの間でのこの法律によって実際に処罰された有名なケースをいくつか紹介しておきます。

ケース1:18年間勤務していた中学校を同性愛者であるという理由で解雇された教師のインタビュー記事を新聞に掲載した編集者。

ケース2:自分の性的な指向についての悩みをもつ子供たちの相談を受け付けるwebサイトの製作者。

ケース3:「同性愛は生まれつき」と書かれた紙を持って外を歩いた人。

ケース4:一人で街角でこの法律に抗議した14歳の女の子。

ケース5:性的少数者に関するドキュメンタリー映像の製作者。

プーチン大統領がこのような法律を成立させた背景には、同性愛者を嫌悪するロシア正教会や保守層の支持を取り付けたいという狙いがあります。

難しい言い方をするなら、プーチンは旧ソ連の社会主義イデオロギー亡き後のイデオロギー的空白を、国家主義と反米主義(反旧西側諸国主義)によって満たそうとしています。

そして世界的な同性愛者権利擁護の流れを、旧西側諸国の道徳的退廃の象徴として描き、ロシアの伝統的価値観を侵略する敵とみなして攻撃することで、ロシア国内の不満の矛先が政府に向かないようにそらしていると言えます。

●多発する性的少数者へのヘイトクライム
しかしながらロシアに住む性的少数者にとって深刻な問題なのは、同性愛禁止法によって処罰されるリスク自体というよりもむしろ、このような法律によってますます加速する「性的少数者は社会に存在すべきではない」という空気の増大です。

例えば全ロシア世論調査センターによると、同性婚への反対は2005年には59%だったのが2013年には86%に増加しています。

そして何より、性的少数者に直接的な暴力が向けられる、残酷な事件がロシアでは多発しています。(中略)
 
国家がこのような多発するヘイトクライムを、止めようとするどころかますます扇動しているのが今のロシアなのです。ヘイトクライムの被害を警察に相談しても、「同性愛者であるなら暴力を受けても仕方がない」などと返答される例が後を絶ちません。

そしてテレビをつければ人気俳優やテレビのアナウンサーらが、「同性愛者を生きたままオーブンに放り込め。」「同性愛者を埋めろ。」「同性愛宣伝禁止法では不十分だ。ホモ禁止法を作れ。」という旨の発言を平気で行っています。こういった発言に対して、海外から批判の声がでることはあっても、ロシア国内からはほとんどありません。

また先日、ソチの市長であるパホーモフは「私の街には同性愛者は1人もいない」と公の場で語りました。しかしソチは人口34万人の街であり、統計的に言えば少なく見積もっても1万人は性的少数者がいると考えるのが自然です。実際にはゲイクラブもあります。

しかしこの市長ひとりが例外的な考え方をしているのではなく、最近のロシア国内でのアンケート調査によると、ほとんど全ての者が「同性愛者の知り合いは一人もいない」と回答しています。

言うまでもなくそのことは、ロシアの性的少数者が社会の偏見と弾圧によって閉じ込められていることを意味しています。こんな国でいったい誰が、自分は性的少数者であると友達や家族に気軽に伝えることができるでしょうか。(後略)【2014年2月11日 「My temple」 http://yasuj.tumblr.com/post/76255767009/%E3%82%BD%E3%83%81%E4%BA%94%E8%BC%AA%E3%81%AE%E4%BD%95%E3%81%8C%E3%83%A4%E3%83%90%E3%81%84%E3%81%8B%E5%89%8D%E7%B7%A8%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%A8%E5%90%8C%E6%80%A7%E6%84%9B%E7%A6%81%E6%AD%A2%E6%B3%95%E3%81%A8%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84
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最近では、ゲイのキャラクターが登場するディズニーの実写版『美女と野獣』が“16禁”に指定されたことも話題にもなりました。
そんなお国柄のロシアですから、プーチン大統領は欧米からの批判よりは、カディロフ首長の拘束・拷問・殺害の方にシンパシーを感じるのではないでしょうか。
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フランス  “壁”に阻まれたルペン氏、一定に“成果”も 極右・ポピュリズムの台頭阻止に向けて

2017-05-09 22:09:28 | 欧州情勢

(大統領の決選投票に敗れ、敗北宣言する国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首=7日 「新たな政治勢力の結成に向け、われわれの運動を変化させる必要がある。愛国者は加わってほしい」と再起を誓っています。【5月8日 iZa】)

ルペン氏、“壁”を超えることはできず、欧州に安堵感
欧州極右・ポピュリズムの台頭を阻止できるか、EUの基本枠組みを維持できるかという課題については、3月中旬のオランダ総選挙でウィルダース氏率いる極右政党・自由党の第1党浮上が阻止されたのに続き、最大の山場と目されていたフランス大統領選挙でマリーヌ・ルペン氏の挑戦が大差で退けられたことで、欧州・EU指導者にも、市場関係者にもとりあえずは安堵感が広がっています。

****仏大統領選】極右候補敗退で欧州に安堵感 なお続く「大衆迎合」の潮流****
欧州ではフランス大統領選決選投票で極右、国民戦線のルペン候補が敗北し、一斉に安堵(あんど)が広がった。反欧州連合(EU)などを掲げる大衆迎合主義(ポピュリズム)勢力の一段の伸長を阻止する最大の正念場を乗り切ったためだ。ただ、大衆迎合の潮流が途絶えたわけでなく、その根本への対処が急がれる。
 
「フランス国民が欧州の将来を選んでくれ、うれしい」(EUのユンケル欧州委員長)。7日、マクロン前経済相の当選が確実になると、欧州の首脳らは待ち構えていたようにツイッター上などで相次ぎ喜びを表明した。ドイツのメルケル首相はマクロン氏と電話し、選挙結果は「欧州への支持表明だ」と今後の協力に向けた期待を伝えた。
 
英国のEU離脱やトランプ米政権発足の影響で大衆迎合勢力の拡大が懸念される欧州にとり、極右の第一党奪取を防いだ3月のオランダ総選挙に続く「対ポピュリズム」での連勝。ルペン氏が勝てば、EU崩壊も現実味を帯びかねなかっただけに歓喜はひとしおだ。
 
だが試練は続く。9月のドイツ総選挙では一時の勢いは低下したが、右派「ドイツのための選択肢」が国政初進出をうかがう。来春までに総選挙を迎えるイタリアではユーロ圏離脱を問う新興勢力「五つ星運動」が支持率首位を走る。
 
大衆迎合の勢いがピークを越えたといえるわけでもない。欧州を対象にした米研究者の調査では、右派の大衆迎合勢力の各種選挙の得票率は1960年代から近年は倍増し、左派は約5倍に増加。じわりと続く成長の途上といわれる。
 
その力は政権を奪取しないまでも、政治を揺さぶるほどに至った。6月に総選挙を行う英国の独立党は低迷するが、EU離脱の目的を達成。他国でも既存勢力による政治秩序が崩れた。
 
大衆迎合勢力に流れるのは失業などで社会に不満を抱く層であり、その対処は「欧州の課題の核心」(ユンケル氏)。マクロン氏勝利は欧州にとって「悪夢を当面逃れた」(フィッシャー独元外相)に過ぎず、気を緩めるゆとりはない。【5月8日 産経】
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ルペン氏は、党首の座を一時的に離れるなど「差別的な極右」イメージの払しょくに努め、“地方の町や農村部を重点的に訪れ、「衰退する地域の実情や、庶民の不安や不満を理解しているのは自分だ」とアピール”【5月8日 NHK】し、グローバリズムの波から取り残された人々の不満の受け皿になることを目指しました。

また、決選投票に向けて、第1回投票で落選した保守派候補のニコラ・デュポンエニャン国民議会(下院)議員を首相に任命すると発表、国民戦線との連携がタブーとされてきたフランス政界にあって、一定に風穴を開ける動きも見せました。

ただ、父娘二代にわたる“極右政党指導者”のイメージはいかんともしがたいものがあり、反ルペンの壁を崩すには至りませんでした。

また政策的にも、ルペン氏のEU・ユーロに対する姿勢には揺らぎが見られ、親EU・ユーロの立場を強調するマクロン氏を追い詰めることができませんでした。

“ルペン氏はフランスの国益を最優先するの立場から、EUからの離脱の是非を問う国民投票を実施し、自国の通貨を復活させるなどの公約を掲げてきましたが、統一通貨のユーロからの離脱については懸念する声が強かったことから、決選投票を前に「離脱を急がない」と主張を和らげました。”【5月8日 NHK】

これまでにない“成果”も
そうした壁に阻まれ、乗り越えることができなかったルペン氏ですが、極右勢力としてはこれまでにない成果を勝ち得たこともまた事実です。

****極右「国民戦線」が主要政党として存在感 目標の40%には届かず****
フランス大統領選の決選投票の結果を受け、極右「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏は7日、支持者を前に敗北を認めた上で、「新しい政治勢力として、党を生まれ変わらせる」と述べた。政界で異端視されてきた同党は今回の選挙で、主要野党の一角に台頭した。
 
国民投票の決選投票での得票は、33.94%(開票率99.99%)。ルペン氏陣営は「40%の得票」を目標としていたが達しなかった。
 
2002年の大統領では、国民戦線の初代党首でルペン氏の父、ジャンマリ・ルペン氏が決選投票に進んだが第1回投票から票を上積みできずに惨敗した。
 
マリーヌ氏は第1回投票の得票(21.30%)から上積みできた上、保守系政党の党首を首相候補として発表し、他党との連携の可能性も示した。7日の演説では選挙戦を「愛国主義者とグローバル化支持者」の対決だったと振り返った。【5月8日 産経】
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****敗北ルペン氏「歴史的な成果」 決選投票は300万票増*****
国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏は7日夜、敗北したにもかかわらず、支持者に「歴史的、圧倒的な成果だ」と話した。決選投票では得票数が第1回投票より300万票増えた。FNのブリオワ臨時党首は「この結果は決して失敗ではない」と胸を張る。
 
FNは、今回の選挙で政界の構図が変わったとする。政権を争ってきた2大政党が初めてそろって決選投票に進めなかった。幹部らは「ルペン氏は大統領にはなれなかったが、確実に野党の代表になった」(地域圏議会議員のフィリップ・バルドン氏)と強調する。
 
だが決選投票は、FNの限界も見せつけた。大統領選でも、小選挙区制の総選挙でも、他の政党がFN包囲網をつくる。「過半数の壁」を崩せない。
 
FNを含め、欧州で「自国第一主義」を掲げる政党の躍進が始まったのは、緊縮財政への批判が噴き出した2014年の欧州議会選からだ。

昨年のオーストリア大統領選も、フランスと同様に2大政党が決選投票に残れず、右翼・自由党が当選まであと一歩だった。【5月8日 朝日】
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****ルペン氏敗北もフランスに根付いた「極端な保守主義****
フランスの次の大統領を決める決選投票では完敗したものの、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線(FN)」は、今後の政治的展望にさらなる足跡を残し、主流派への歩みを確実にした。
 
7日の選挙では、移民排斥や反EUなどの公約を掲げたルペン氏の得票率が過去最高の34%に上り、得票数では1060万近い票を獲得した。
 
これは、保守派のジャック・シラク氏が圧倒的な勝利を収めた2002年仏大統領選の決選投票で、ルペン氏の父親であるジャンマリ・ルペン氏が獲得した得票数のほぼ2倍だ。
 
10%前後の水準でとどまっている失業率やイスラム過激派による一連の大規模襲撃事件、主要政党を巻き込んだ数々のスキャンダルといった問題に直面するこの時代にあって、FNが掲げるフランス第一主義は多くの地域で支持されていることがこの選挙で明らかになった。
 
移民の入国制限や安全のための取り締まり強化、そして保護主義の推進といった考えは、経済が低迷する地方でより受け入れられた。
 
父の後を継いで2011年にFN党首となったルペン氏は、党のイメージを一新することに取り組んだ。その努力は報われ、いくつもの地方選で成功を収めた。そして7日の決選投票では、歴史的な得票につながった。
 
この結果について、歴史家のニコラ・ルブール氏は左派日刊紙リベラシオンに「ありのままに評価されなければならない。フランス社会における極右支持が普通になったということだ」と書いている。
 
同時に、FNが掲げる移民に対しての強硬路線やフランスのアイデンティティーを守るといった考え方は、主要政党の政策の中にもみられるようになった。
 
ルペン氏は決選投票を前に、他の政治家と初めて同盟を結んだ。相手は、第1回投票で落選したニコラ・デュポンエニャン氏。大統領に選ばれた際には、右派でEU懐疑派の同氏を首相に据えると約束した。
 
この同盟は、FNがもはやフランスの主流に近い政党の中で「のけ者」扱いされなくなったことを意味する。
 
ルペン氏は決選投票で敗れた後、6月の議会選へ向けてFNの「抜本的改革」が必要だと述べた。彼女の側近の一人は、党名を変更する可能性にまで触れている。
 
目標は議席数を大幅に拡大すること。現在、FN所属の国会議員は2人しかいない。【5月9日 AFP】
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国民戦線の体質は変わったのか? 党内には軋轢も
もっとも、マリーヌ・ルペン氏が父親を切り捨てる形で進めてきた改革・ソフト化は、党内に軋みも生んでいます。

****それでもルペンは強い****
ルペンと国民戦線にとって今に至るまでの道のりは長く、その過程で党内の亀裂も生まれた。

2011年に党首の座に就いて以来、ルペンは古臭い極右の党というイメージを振り捨てるため、国民戦線のイメージ刷新に精力的に取り組んだ。

党内から反ユダヤ主義的な発言を締め出し、反移民の訴えと同じくらい声を大にして、大きな政府による経済政策を推進すると強調した。

だがすべての党員がルペンの手法を支持したわけではない。日曜のルペンの得票率は、2002年大統領選の決選投票で父親のジャンマリ・ルペンが獲得した17.8%の得票率の2倍には僅かに届かなかった。

国民戦線は今後、ルペンの路線の正しさを証明できるほど、今回の得票率が高い数字か否かを見極める必要がある。

党内でルペンに異を唱える代表格が、姪のマリオン・マンシャル・ルペンだ。彼女は敬虔なカトリック教徒で、政府主導の経済政策よりも保守的な価値観により重点を置く。

日曜に仏テレビ局「フランス2」の番組に出演したマリオンは、大統領選から「教訓を学んだ」と述べ、党が唱えるユーロ離脱の実現可能性について、有権者を説得しきれなかった点を敗因の一つに挙げた。

彼女は今後、党の現行路線に対して一層批判を強める可能性がある。【5月8日 Newsweek】
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上記の“党内の亀裂”にもダブりますが、ソフト化を進めるマリーヌ・ルペン氏と言われていますが、党幹部には父親類似の考えの者が残存し、党の体質はそんなに変わっていないという国民戦線への警戒感もあります。

父親との対決に続いて、姪との対立となると、マリーヌ・ルペン氏も大変です。
しかし、父親・娘・姪など、指導者が一族に偏っていることも、国民戦線がルペン一族の“個人商店”であり、真の国民政党として脱皮しきれていないことを示すようにも思えます。

マリーヌ・ルペン氏は今回選挙の“成果”を足掛かりにして、来月の議会選挙での更なる飛躍を目指す構えです。

****ルペン氏、来月の仏議会選に照準 党刷新へ****
7日の仏大統領選挙決選投票での敗北が確実な情勢となった極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏は、党を刷新する方針を示した。来月の議会選挙に照準を定め、有権者は同じ選択を迫られると述べた。

ルペン氏は、支持者らへの演説で、「FNは歴史的な好機に向けて大々的に変革し、フランス市民の期待に応えなければならない」としたうえで「新たな政治勢力を構築するためにわれわれの活動の大転換に着手することを提案する」と述べた。

FNの初代党首で父のジャン・マリー・ルペン氏は7日、RTLラジオに対し、娘の選挙活動について、ユーロ圏や欧州連合(EU)からの離脱を訴えたことが裏目に出たとの見方を示し「われわれは、現実の問題、高齢化や移民の問題について有権者に話しかけなければならない」と語った。

フィリポ副党首は、党名を国民戦線から変更する見通しを示した。【5月8日 ロイター】
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難しい立場のマクロン次期大統領 失敗すれば“次”は・・・・
自由主義・グローバリズムを重視するマクロン次期大統領に対しては、ルペン氏を支持する右派だけでなく、第1回投票で急進左派のメランション氏を支持した左派の若者らの間でも強い反発があることは周知のところです。

“前週、ベルテルスマン財団が行った調査では、フランス有権者の分裂ぶりが明らかになった。調査では、約20%が極右ないし極左と回答し、中道と回答した割合は36%だった。EUの平均(極右ないし極左が7%、中道は62%)と比べて極端な思想に偏っている。”【5月8日 ロイター】

こうした国民分断が進む中で、“マクロン氏が対峙する現実は、歴代の大統領よりもはるかに厳しい。国民にグローバリゼーションやEUへの支持を促す政治課題に失敗すれば、5年後の大統領選挙でルペン氏を再び撃退するのが難しくなるだろう。”【同上】と、マクロン次期大統領は難しいかじ取りを要求されています。

マクロン次期大統領にとっての“好材料”は、景気が回復局面に入り、雇用が順調に創出されていること、労組において、強硬姿勢の労働総同盟(CGT)に代わり、穏健な仏民主労働同盟(CFDT)が民間セクターで最大勢力となったことが挙げられています。

****<仏大統領選>「負け組」の声を聴け****
フランス国民は、欧州連合(EU)の統合推進を訴えて仏史上最年少の大統領となるエマニュエル・マクロン前経済相(39)に未来を託した。国際社会も胸をなで下ろしている。

だが、選挙の主役は反EUが旗印の極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補(48)だった。英国のEU離脱決定(昨年6月)やトランプ米大統領の選出(同11月)で噴出したポピュリズム(大衆迎合主義)の高まりにブレーキがかかったと安心するのは早計だろう。
 
選挙には既視感がつきまとった。マリーヌ氏の父ジャンマリ・ルペン氏が決選投票に進んだ2002年大統領選の記憶がよみがえったからだ。第1回投票で敗退した左派陣営やアルジェリア系移民2世の元サッカー仏代表のジネディーヌ・ジダン氏がルペン氏の当選阻止を呼びかけたのも同じだった。
 
当時と異なるのはEUへの風当たりの強さだ。ギリシャを震源地とする09年以来のユーロ危機でEU側は加盟国に「痛み」を伴う緊縮財政を求め、各国民の反感を買った。

中東・アフリカの難民流入でも加盟国は足並みが乱れ、結束にひびが入った。

「両危機を予見できたはずなのに防げなかった」(EU特派員)欧州政治指導者の責任は重い。
 
人、物、資本、サービスの移動が自由なEUはグローバル(地球規模)化の先駆けだ。恩恵を受ける富裕層の「勝ち組」と、しわ寄せを食う中間・労働者層の「負け組」の間で社会の分断が深まった。

既成主要政党が溝を埋める有効な政策を打ち出せない中、「EU=悪玉」と断じ、負け組の不満を吸収して勢力を伸ばしてきたのが国民戦線だ。
 
「欧州は一日にしてならず」。67年前のきょう(1950年5月9日)、欧州統合の父、ロベール・シューマン仏外相(当時)はEUの母体となる共同体の創設を提唱する「シューマン宣言」を発表し、粘り強い取り組みを呼びかけた。
 
今秋にはドイツで総選挙が実施される。欧州統合をけん引してきた仏独は負け組の声に耳を傾け、英国の抜けるEUを立て直すことができるのか。「EUの根本的改革」を約束するマクロン氏の胆力が試される。【5月8日 毎日】
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欧州極右・ポピュリズムには失速感も この時期の対応が重要
「負け組」というのは嫌な言葉ですが、グローバリズムの波に乗れず、生活が苦しくなる人々の不満は、外国・移民労働者をその原因とみなすポピュリズムに煽られて排外主義・保護主義へと突き進みます。

最近、各国の極右・ポピュリズムにはひと頃の高揚感から失速への変化も見られます。

オランダの自由党の支持率は最盛期の25%から現在は13%に低下しています。

ドイツのAfDも15%から7~10%に支持率を減らし、路線をめぐり党内は内紛状態にもあり、政権を脅かす力はありません。【支持率は5月1日朝日より】

イギリス独立党(UKIP)は、4日行われた地方選挙では146議席から1議席へと壊滅状態で、自身が原動力ともなったEU離脱の実現で、逆にその存在価値を失ったかのようにも見えます。

もちろん、極右・ポピュリズム勢力の脅威は現在も続いていますし、フランスの状況に見るように、対応を誤れば次回では・・・という情勢でもあります。

“一息つける”状況にもなったこの時期の取り組みが、今後に向けて重要になります。
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南スーダン 自衛隊は今月末までには撤収完了するも、深刻化する現地の混乱・危機

2017-05-08 21:35:51 | スーダン

(南スーダンのワウに国連が設置した文民保護地区 (PoC)の避難民たち(2016年8月2日撮影)【4月11日 AFP】

制約が浮き彫りになった日本のPKO活動
日本政府はことし3月、「一定の区切りがついた」などとして南スーダンのPKO活動に派遣していた陸上自衛隊の撤収を決め、先月帰国した第1陣に続き、5月6日には第2陣115人が帰国しました。今月末までには全員が撤収する予定です。

現地の復興に向けたインフラ整備で大きな功績を残し、これまでのところ全員が無事帰還できることは素晴らしいことではありますが、現地の混乱が収まり、復興も軌道に乗った・・・からではなく、混乱が激しくなったために帰国するという日本PKOの在り方を含めて、今後への課題も大きなものがあります。

****南スーダンPKO、第2陣きょう帰国 最大の実績、注目されず 新たな派遣先、選定難航****
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊部隊の第2陣約110人が6日、帰国する。5月末までに全員が撤収する予定。

5年以上の活動を通じ、インフラ整備で過去最大の実績を残すなど国家建設に貢献した。キール大統領から特別な賛辞が贈られたが、国内では日報の隠蔽問題などに焦点が当てられ、その成果は注目されていない。PKO5原則に基づく制約も置き去りにされたままだ。(中略)

 ◆制約浮き彫り
安全保障関連法に基づき昨年11月から、「駆け付け警護」と宿営地の「共同防護」が新たな任務として付与された。(中略)

しかし、活動地域を限定したこともあり、駆け付け警護は現在まで実施していない。現地住民の保護のため監視や巡回を行う「安全確保業務」も可能になったが、任務付与は見送られた。

これとは対照的に、PKOに参加している中国軍部隊は3月、南スーダン南部で戦闘に巻き込まれそうになった国連職員ら7人をホテルから救出している。
 
治安維持の面では陸自部隊の活動が見劣りすることは否めない。自衛隊は停戦合意の維持などを柱とするPKO参加5原則に縛られているためだ。武力衝突が発生すれば、国会で「5原則違反」の批判にさらされるため、政府は積極的な活動に二の足を踏む。
 
陸自部隊が南スーダンから完全撤収すれば、日本が部隊派遣するPKOはゼロになる。政府高官は「ゼロの期間は極力短くしたい」と語るが、新たな派遣先の選定は難航している。地中海のキプロス平和維持隊など活動環境が安定したPKOは多くの国が希望し、空きがないのだ。
 
陸自部隊第1陣が帰国した4月19日、政府高官は自身に言い聞かせるように、こう語った。「無理に新たな派遣先を見つける必要はない。日本は日本らしい貢献をすればいい」【5月6日 産経】
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拡大する現地の混乱 国際的な住民保護の必要性は増している
現地。南スーダンからは、政府軍による住民殺害、NGO職員の被害、PKO拠点への攻撃など、混乱を伝える報道が続いています。

****<南スーダン>政府軍虐殺か、住民16人死亡****
内戦状態が続く南スーダン北西部のワウで10日、地元住民が襲撃され、少なくとも16人が死亡した。AP通信などは住民の証言として、政府軍が民兵集団と民家を一軒ずつ捜索、出身民族を理由に銃撃したり、家を焼き払ったりしたと伝えた。
 
9日に反政府勢力の待ち伏せ攻撃で政府軍兵士が死亡したことに対する報復だったとみられる。
 
国連南スーダン派遣団(UNMISS)は10日の声明で「病院で民間人16人の遺体を確認した」と明らかにした。住民3000人以上が教会や国連施設に避難したという。
 
南スーダンの内戦を巡っては、国連の専門家が何度も「ジェノサイド(民族大虐殺)の危機にある」と警告。住民らは、政府軍を主導し民兵集団もつくる最大民族ディンカ人による他民族の虐殺や襲撃が繰り返されていると証言していた。【4月11日 毎日】
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****<南スーダン>戦闘拡大 NGO職員など人道支援者にも被害****
国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊が17日に撤収を始める南スーダン各地で、政府軍と反政府勢力の間の戦闘が拡大している。援助関係者に対する襲撃も多発するなど、戦況のさらなる悪化が懸念されている。
 
国連人道問題調整事務所(OCHA)は15日、内戦激化を受けて、東部ジョングレイ州で活動していた人道支援関係者60人が一時退避を余儀なくされたと明らかにした。北西部ワウで14日に世界食糧計画(WFP)の契約スタッフ3人が殺害されるなど、支援活動は「ますます危険かつ困難になっている」と警告している。
 
南スーダンでは、一部地域で飢饉(ききん)が起きるなどかつてない規模で食糧不足が広がっているが、主に政府軍や大統領直属の民兵集団によるとされる援助関係者に対する襲撃や妨害が後を絶たない。
 
この1カ月あまりでも、3月中旬に中部イロル付近で国際移住機関(IOM)の車列が銃撃を受けて5人が死傷したほか、同下旬にも首都ジュバからジョングレイ州へ移動中のNGO職員6人が何者かに殺害された。国連によると、2013年末に内戦が始まって以降、殺害された援助関係者は82人に上る。
 
国連の専門家などからも、政府軍や民兵が特定の民族を標的とした襲撃を行っているほか、反政府勢力の支配地域への食料供給を妨害し「意図的に飢餓状態を作り出している」との批判が出ている。
 
国連南スーダン派遣団(UNMISS)も15日、声明を発表。西部ラガや上ナイル地方でも新たな戦闘が発生しているとして、政府軍と反政府勢力の双方に自制を呼びかけた。【4月17日 毎日】
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****南スーダンのPKO拠点、攻撃受ける 国連部隊が反撃***
国連南スーダン派遣団は4日、南スーダン北部の国連平和維持活動(PKO)の拠点が何者かによって攻撃を受け、国連部隊が反撃したと発表した。
 
現場は同国北部リアーのPKO拠点。3日夜、小型の武器による攻撃を受け、ガーナの国連部隊が反撃したという。同国では政府軍と反政府勢力による戦闘が続いているが、どちらの勢力が攻撃を仕掛けてきたかは不明。攻撃による死傷者は出ていないという。【5月5日 朝日】
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日本政府や国内世論は、自衛隊がこうした混乱に巻き込まれることがなかったことを喜んでいるかと思いますが、政府軍による住民殺害など、国際的な介入によって住民の生命・財産を守ることがこれまで以上に必要とされている時期でもあります。

****住民保護は担えず****
現地情勢に詳しい栗本英世・大阪大大学院教授(文化人類学)の話 

与えられた条件の中で自衛隊は最善を尽くしたと思う。しかし道路補修などは自衛隊でなくてもできる。内戦の激化で最も期待された住民保護の役割は担えなかった。
 
国会での議論も、PKO5原則など内向きのものばかり。日本が南スーダンの人々にどんな貢献ができるかの議論が必要だった。
 
現地は今、和平合意の実施や国民和解の実現、飢えに苦しむ人々への援助をめぐって重要な局面を迎えている。このタイミングでの撤収は決して歓迎されることはない。「一定の区切りがついた」という日本政府の説明は、とても現地の人々を納得させることはできないだろう。【4月20日 朝日】
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戦闘激化と並行して飢餓進行、難民増大の問題も深刻化
激しさを増す戦闘・混乱、政府機能のマヒのなかで、600万人の命が危険にさらされる可能性があるとも指摘される飢饉が進行しています。

****南スーダン、「人災」による飢饉で600万人の生命が危機に ****
南アフリカの慈善団体は5日、飢饉(ききん)に見舞われている南スーダンやその周辺国で、年末までに計600万人の命が危険にさらされる可能性があると警告した。

一方で国際社会は、最悪の事態を防ぐために必要とされる44億ドル(約4940億円)の支援金の調達に苦慮している。
 
慈善団体「ストップ・ハンガー・ナウ・南アフリカ」の代表、サイラ・カーン氏は、国際社会が南スーダンに支離滅裂な対応をしているため、数百万人の命が脅かされていると警鐘を鳴らした。
 
カーン氏は「非常に暗たんたる状況だ。多くの非政府組織(NGO)や各国政府には、何をする必要があるかという点について多くの混乱がみられる」と指摘。「その地域は困難に直面しており、われわれが何もしなければ、飢餓によって年末までに600万人を死なせることになる」と述べている。
 
今年2月、南スーダンと国連(UN)は、同国北部のユニティー州を中心とする複数の地域で飢饉が発生していると公式に宣言。国連の担当者らは、避けることもできた「人災だ」と述べていた。
 
2011年にスーダンからの独立を勝ち取った南スーダンは、サルバ・キール(Salva Kiir)大統領とリヤク・マシャール(Riek Machar)前副大統領による権力争いが2013年12月、内戦にまで発展。これまでの死者は数万人に上り、350万人が避難を余儀なくされた。【5月5日 AFP】
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350万人とも言われる避難民・難民への対応も急務と言うか、限界に近づいています。
隣国ウガンダにはすでに83万人が流入しており、数か月足らずで世界最大の難民キャンプが出現するような状況で、現地社会との摩擦も大きくなっています。

****南スーダンからの難民受け入れ、危険水域に ウガンダ****
ウガンダ・ユンベにある難民キャンプで大勢の南スーダン難民が食料の配給を待っている──。そばで客待ちしているバイクタクシー運転手のサディク・アゴトレさんは彼らが客になることはめったにないと不満を漏らす。
 
アゴトレさんは「商売はよくないね。この人たちには金がない」と語り、わずか8か月で低木などが生い茂る森から27万人以上が暮らす世界最大の難民キャンプ「ビディビディ(Bidibidi)」へと様変わりした広大な土地を見やった。
 
ウガンダはこれまで、難民を温かく歓迎していると称賛されてきた。しかし隣国の南スーダンの内戦により1日2000人以上の難民が同国に流入しているなか、地元コミュニティーや支援団体はその重圧に押しつぶされそうになっている。
 
人口50万人のユンベでは、地元で展開されている人道活動が仕事に還元されずにいるため、住民の多くはいらいらを募らせている。しかも、もともとそこまで豊富ではない資源が、この影響でさらに手に入りにくくなっており、状況はより厳しいものになっている。
 
ユンベで小売店を営むナシャール・ドブレ―さんは「これ(難民危機)のせいでここはだいぶ変わった。ストレスの度合が増えた。仕事のストレスがものすごく増えた。食料価格は上がる一方だ。彼らは木を切るから地元の環境にだって良くない」と語る。
 
ビディビディ難民キャンプは昨年8月、南スーダンのサルバ・キール大統領派とリヤク・マシャール前副大統領派の間で結ばれていた停戦協定が崩壊し、2013年に勃発した内戦状態に戻ったことによって生じた難民の大量流入に対処するために設置された。
 
ビディビディはほんの数か月足らずで、主にソマリア難民を受け入れているケニアのダダーブ(Dadaab)難民キャンプを追い越し、世界最大の難民キャンプとなった。
 
しかしこの広さ250平方キロメートルのビディビディでさえ、南スーダン難民を部分的にしか収容できてない。これまでに南スーダンからウガンダに流入した難民は計83万人。国連(UN)の予測によると、今年半ばには100万人を超えるとみられている。
 
国連世界食糧計画(WFP)のウガンダ副代表を務めるシェリル・ハリソン(Cheryl Harrison)氏は、月に1万5000トンの食料を配送するロジスティクスの困難さを指摘している。

■「今はとても不安定な状態」
WFPは南スーダンの和平協定崩壊前、ウガンダに滞在する難民への食料支援として月600万ドル(約6億7700万円)を投じていたが、今では1600万ドル(約18億円)以上にまで膨れ上がっている。WFPの今後半年間の予算は5000万ドル(約56億4000万円)足りない状況だ。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官は先月、この状況について「限界にある」と述べた。
 
現地資源の利用をめぐっては、難民と地元住民との間で対立も起きている。最近では、難民の流入はなんの利益も生まないと主張する住民らが、掘削孔へのアクセスを数時間封鎖するという出来事も起きた。
 
地元当局のジェイコブ・バテミエット氏は「建材、木材、燃料などの天然資源の問題は最悪の状況だ。流入した27万2000人の影響は大きい。ここでの失業率はとても高い」とキャンプの状況を説明した。
 
あるNGOのスタッフによると2月には、地元当局の職員9人が支援物資を横領して解雇されたことに不満を持つ100人が、ビディビディ難民キャンプ襲撃を予告するプラカードを掲げてデモを行ったという。
 
ウガンダは長らく、世界で最も進歩的な難民政策を取っている国として称賛されてきた。政府は難民に勤労と国内移動の自由を認めてきたし、北部のコミュニティーでは定住用の土地も提供してきた。
 
難民らは小さな土地を譲り受けて小屋を建て、農作業用の土地開墾に従事することになっている。しかし、ビディビディではまだ行われていない。
 
ビディビディ難民キャンプの責任者、バリャムウェシガ氏は、自分たちの食べるものを生産できない人々が増えていることの危険性を強調し、「(食べものを生産できなくなれば)難民たちは仕方なく盗む。盗みは暴力を呼ぶ。そうなれば難民と受け入れ側のコミュニティーが享受している共存は崩壊してしまうだろう」「今はとても不安定な状態にある」と語った。【5月8日 AFP】
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とりあえずは“日本ができること”を
一方、イギリスは南スーダンPKOへ兵士400名(医療・工兵部隊)を派遣することを発表しています。

****英国軍400人、国連南スーダン派遣団に初参加****
英国軍は2日、兵士約400人を南スーダンで平和維持活動(PKO)を行っている国連(UN)部隊に数週間以内に派遣することを明らかにした。同軍の国外配備としては最大規模となる。
 
2011年に発足し、現在1万3000人規模のUNMISSに初めて参加する英国軍は、医療部隊と工兵部隊から編成される。英国軍の南スーダンへの派遣は、デービッド・キャメロン前政権時代に決定していた。(中略)

配備先は、南スーダン北部ベンティウとマラカルで避難を強いられた民間人を収容している国連のキャンプ。

ここで道路や排水溝の整備、治安維持などを支援する。また、80人近い医療要員がベンティウの病院に配属され、民間人に加え同地域で活動している国連PKO要員1800人の治療に当たる。【5月3日 AFP】
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自衛隊の撤収で南スーダンの危機は終わった訳ではなく、むしろ危機は拡大しています。

PKO5原則など、日本のPKO活動の在り方については、今後に向けた議論が必要ですが、国内で飢餓が進行し、国内・隣国に避難民・難民があふれる状況で、さしたりの“日本ができること”に早急に取り組むこと必要です。
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オーストラリア・ニュージーランド 「自国第一」の流れでビザ・永住権取得の厳格化

2017-05-07 23:13:06 | 難民・移民

(首脳会談前に握手するトランプ米大統領(左)とオーストラリアのターンブル首相【5月5日 AFP】
“騒動”もあった両者には「自国第一」を掲げる共通傾向も)

ICCに捜査要求が出たオーストラリアの難民政策
トランプ米大統領は1月にオーストラリアのターンブル首相と電話会談した際、オバマ政権時代に両国間で合意された難民引き受けに関して暴言を発し、一方的に切ったと報じられ大きな話題にもなりました。

合意内容は難民認定を求めオーストラリアへ密航後、国外の施設に収容された人々について、一部をアメリカへ移住させる一時的措置ですが、ターンブル首相が電話会談で、トランプ政権もこの合意を守ることを確認しようとしたところ、トランプ大統領は「これまでで最悪の取引だ」とこき下ろし、1時間を予定していた電話は25分で切り上げられたと報じられています。

ただ、豹変するのはトランプ大統領の得意とするところで、この件についても「大きく誇張」された「偽ニュース」とすることで、両者の“手打ち”が行われています。「米豪の間に鉄の絆が築かれた」(トランプ大統領)とも。
“鉄の絆”というより“鉄の神経”のようにも。

****トランプ大統領、豪首相との関係修復をアピール NYで首脳会談****
ドナルド・トランプ米大統領とオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は4日、ニューヨークで首脳会談を行った。今年1月の電話会談では、難民の受け入れ問題で対立が表面化していたが、トランプ氏は「すべて解決した」と述べ、関係修復をアピールした。
 
トランプ氏は、大統領就任直後に行われたターンブル首相との電話会談で怒りをあわらにしたと伝えられてるが、同氏は、これはメディアが「大きく誇張」して報道した「偽ニュース」だったと述べた。
 
1月の電話会談をめぐっては、バラク・オバマ前政権で米国が合意していたオーストラリアからの難民受け入れについて、トランプ氏が不満を述べて怒りをあらわにし、予定を大幅に切り上げて会談を打ち切ったと報じられていた。
 
イントレピッド海上航空宇宙博物館でターンブル首相と初めての首脳会談に臨んだトランプ氏は「われわれは素晴らしい電話会談を行った。君たちがそれを誇張したんだ。大きな誇張だった。われわれは赤ん坊ではない」と述べ、いつものメディア攻撃を展開した。
 
またトランプ氏は「われわれはすごくうまくやっている。素晴らしい関係だ。私はオーストラリアを愛している。いままでもずっとそうだった」と述べた。
 
一方、ターンブル首相は「難民に関する問題は水に流し、前に進もう」と述べた。
 
トランプ大統領とターンブル首相は、第2次世界大戦中に米国とオーストラリアが旧日本軍と戦った「珊瑚海海戦(Battle of the Coral Sea)」から75年となるのに合わせて、ニューヨークにある退役した空母「イントレピッド」を使った同博物館に、いずれもタキシード姿で現れた。
 
アジア太平洋での緊張が高まる中、今回の米豪首脳会談には第2次世界大戦から続く両国の長い同盟関係を演出する狙いがある。【5月5日 AFP】
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オーストラリアが自国で受け入れを拒否した難民をアメリカに押し付けようという内容ですから、難民嫌いのトランプ大統領が“キレる”のも、当然とも言えます。

オーストラリアの難民政策の評判は芳しくありません。

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オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民の上陸を船が領海に入る手前で阻止している。海上で捕まえて、そのまま南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアのマヌス島にある収容所に移送しているのだ。領海手前ならまだ入国前、難民条約で規定された保護の責任は負わなくてもいい、という論法だ。

海外の収容所は表向きは民営だが、実質的にはオーストラリア政府は管理している。施設の維持費を負担し、運営方針を定め、民間業者と契約して運営させている。

人権団体は収容所ではびこる深刻な暴力と虐待を何度も訴えてきた。だがその非人道的な状態を作り出すことこそが、オーストラリア政府の狙いだという。【2月24日 Newsweek】
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そのため、イギリスの人権弁護士らがオーストラリアの難民政策について今年2月、国際刑事裁判所(ICC)に捜査を要求、もし訴追されれば先進国が人道犯罪で国際的に裁かれる最初の例になるかもしれない・・・という話は、2月27日ブログ“オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170227で取り上げました。(その後どうなったのかは、情報がありません)

【「移民の国」で強まる「オーストラリア第一主義」 一方で、外国人労働に依存する経済構造も
オーストラリアは約2300万人の人口のうち、実に4分の1が海外生まれという「移民の国」で、かつての白豪主義を捨て1970年からは多文化主義を目指してきました。

しかし最近では、アメリカや欧州同様に外国人労働力によって雇用が奪われているという反移民・反外国人感情の高まりが見られ、ターンブル首相も「オーストラリア第一主義」を掲げて、移民政策の厳格化に動いています。

「トランプ現象の影響によって、政府が、『オーストラリア人第一主義』というのを公然と掲げること、それに対する抵抗感が薄まったのかなという印象を持ちました。」(青山学院大学 教授 飯笹佐代子氏)【5月1日 NHK】ということで、トランプ大統領とターンブル首相が“鉄の絆”で結ばれることにも一定の背景があるようです。

もっとも、産業界にとっては国際競争力のために優秀な人材の確保が不可欠で、また地方の農業とか建設の現場などでも移民なしでやっていけないということで、『オーストラリア人第一』と掲げながらも、移民に頼らざるをえない現状もありますので(このあたりもアメリカと同じです)、“優秀”で、オスートラリア社会との摩擦を生まない“価値観を共有する”移民に絞って受け入れていこうという選別主義でもあります。

これまでのオーストラリアのビザ制度・永住権(市民権)取得制度については、ブログ「俺的GC観光マップ」【http://gcwalkerjp.com/archives/49899053.html】以下のように説明されています。

****ワーホリ→就職→永住までの一般的な道****
彼らは、ワーホリ(ワーキングホリデービザ)や学生ビザの期間内で自身をスポンサーしてくれる雇用主・就職先を探して回り、運よく見つけたら、そこでワークビザ457を取得し2年以上働きます

そして今までは、そのビザが切れるタイミングまでにIELTSっていう英語のテストで5とか6とか取って、自分が熟練就労移民者としての永住権申請に可能な総合ポイントに達していれば、移民コンサルタントや弁護士を通して手続きを開始し、日本の無犯罪証明発行手続きと健康証明を行い、数カ月待てば晴れて永住ビザを取得する事が出来ました

こうしてオーストラリアに居住している外国出身者を日本人を含め永住権とか、パーマネントとか、PR(パーマネント レジデンシー)とか言います

その後は、雇用期間満期を迎えるか、それを待たずに雇用主と円満の内に退職すれば、その後はこの国で縛りなしで自由に就職をして、オーストラリア人と大して変わらぬ政府からの恩恵のもと生活ができます(中略)

今までは、このビジネス・ビザ(サブクラス457)からの永住権への道は最短4年ぐらいでした

例:ワーホリ(1年)→申請(半年)→就労ビザ期間(2年)→永住権申請(半年)→永住ビザ発行

そうです たったの2年間、ビジネスビザで働くだけで永住権が取れる国、オーストラリアだったんです

他の国とくらべたら超簡単です だからまあ、この方法で永住権を取ろうと働いている外国人が、現在でも豪州に9万5千人居ます  ブログ「俺的GC観光マップ」【http://gcwalkerjp.com/archives/49899053.html】より
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ターンブル首相は上記のビジネス・ビザ(サブクラス457)を利用して2年の就労ビザの後に移民化できる制度を廃止して、新しいTSSビザ Temporary Skills Shortage (TSS) visaを創設。

新しいTSSビザには、「2年:永住権に繋がらない職種を含むShort-term Skilled Occupation List (STSOL)」と「4年:永住権に繋がる可能性ありMedium and Long-term Strategic Skills List (MLTSSL)」があり、永住権取得が認められる職種が限定される形になります。

例えば「コック」では2年のSTSOLしか認められず、永住権につなげるためには「シェフ」として4年のMLTSSLが必要になります。

オーストラリアでは、法律上の最低賃金がシェフ(料理人)とコック(調理人)で異なり、シェフとして雇うと会社の人件費が高くつくということで、現在はコックでビザ取得している人の割合の方が多いそうです。【前出「俺的GC観光マップ」より】

なお、永住権につながる職種については、日本での就職経験(在職証明書)のみで手が届きそうな職種はシェフだけで、他の職種は会計士とか技師とか医者とか看護師とか免許取得が必要な専門職に限定されるとか。

同時に、永住権取得には、必要な居住年数が延長され、「堪能な英語力」、更には「オーストラリア的な価値観」も必要とされます。

****オーストラリア、外国人向け就労ビザを厳格化へ=首相****
オーストラリアのターンブル首相は18日、外国人に人気の「457」一時就労ビザ(査証)を廃止し、より高度な英語力や労働スキルを必要とするビザに置き換える方針を明らかにした。

ターンブル氏は、「オーストラリアの仕事とオーストラリアの価値に焦点を当てた政策変更」になると、フェイスブックに掲載された声明で述べた。

457ビザは、スキルのある労働力不足を補うことを目的としたもので、同ビザの所有者には家族の呼び寄せも許可されていたが、安価な外国人労働者を輸入しようとする雇用主らに悪用されているとの批判も高まっていた。

「457ビザを終わらせる。それは、信頼性を失くした」と、ターンブル氏は首都キャンベラで行われた記者会見で述べた。

現在、約9万5000人の外国人労働者が457ビザを利用している。新しいビザは滞在期間が2年に限定されるほか、対象となる職業も現在の200以上から減る見通し。【4月18日 ロイター】
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****オーストラリアの市民権取得難しく「堪能な英語力」必要に****
アメリカのマイク・ペンス副大統領の訪問を今週末に控えたオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は、移民制度の大幅な変更を発表した。

まず、オーストラリアの市民権を取得するために必要な居住期間を1年から4年に延長。試験では、新たに「堪能な英語力」が必要になるほか「オーストラリア的な価値観」を持っているかどうかを確認するため、子供を学校に行かせているか、就労はしているか、などの質問を追加する。

「単純な公民的な試験だけで良いのか。審査の厳格化は、この国の多文化主義と価値観を強化するためのものだ」と、ターンブルは言った。

ターンブルも、母方の祖父母はイングランドからの移民だ。(中略)

近年はヨーロッパやアメリカでも反移民感情が高まりつつあり、オーストラリアも例外ではない。反移民を掲げるワンネーション党のような極右政党や、超保守的なオーストラリア保守党が人気を集めている。(後略)【4月21日 Newsweek】
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なお、オーストラリアで働く外国人若者らの“入口”となっている、ワーキングホリデー ビザ (サブクラス 417)については以前、重税が課されることが検討されましたが、関係者の反対で緩和されています。

この件は、外国人若年労働力に依存しているオーストラリア経済の実態を反映しています。

****出稼ぎ日本人」も無縁じゃない豪州のひずみ 増税をめぐる混乱の陰でグレーな雇用が横行 ****
「出稼ぎワーホリ」政策に異変?
これに猛反発したのがオーストラリアの農業や観光業界関係者だった。
 
「ワーキングホリデー制度」は、表向き「各々の国・地域が、青少年に文化や一般的な生活様式を理解する機会を提供するため、一定期間の休暇を過ごす活動とその間の滞在費を補うための就労を相互に認める制度」と規定されている。
 
ところが、実際は地方の産業や農業などの働き手不足を補う頼みの綱となっている。特に農業では、野菜や果物の収穫の繁忙期には、ワーホリの若者たちがいなければ成り立たないほど、貴重な労働力として頼っているのが現状だ。労働力全体の約4分の1をワーホリ滞在者に依存しているとするデータもある。
 
ワーホリ税の増税は、オーストラリアのワーホリ滞在者がカナダやニュージーランドなどに流れてしまう懸念を生じさせた。これが関係者からの猛抗議につながったワケだ。(中略)

その後、議会で迷走を続けたワーホリ税をめぐる議論は昨年暮れ、最終的に税率は当初の32.5%から15%に落ち着いた。
 
だが、15%の増税が施行されて以降、すでにオーストラリアを渡航先に選択するワーホリ希望の若者たちの数は減り始めていると、オーストラリア各紙は次々に報じている。

そもそも、オーストラリア政府がワーホリ税の増税に踏み切ったのは財政再建とともに、若年層の失業者保護などの狙いもあったのだが、関係者からの反対で、ワーホリ滞在者に頼ったいびつな産業構造が浮き彫りになる事態となった。(後略)【4月8日 東洋経済オンライン】
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上記の話は、課税を避けて記録が残らないよう、給料が現金手渡しで支給される雇用形態「キャッシュジョブ(またはキャッシュ・ハンド・ジョブ)」の横行という実態につながるのですが、その話は今回はパスします。

移住先として人気のニュージーランドでも永住権取得は厳格化の方向
一方、隣国ニュージーランドはオーストラリアよりもビザ取得が容易で、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている・・・というニュージーランドでも変化がみられるそうです。

****トランプを嫌い、米国からニュージーランドへ大量脱出****
日本人に大人気のニュージーランド移住
日本人永住者の中でも、ニュージーランドは、米国をトップとしてランクインする上位10位中、前年比で最高の約10%増を記録。

アジアで人気のシンガポール(約2400人、前年比約7%増)やマレーシア(約1500人、同約5%増)をはるかに超える「約9700人」を数え、知る人ぞ知る「日本人の大人気永住先」である。
 
しかし、ここ最近、異変が起きている。
米国人の米国離れが加速化し、米国人のニュージーランドへの移住が急増。英語を母国語とし、資金力も潤沢な米国人富裕層の流入で、不動産や家賃の高騰、さらに日本人など非英語圏移住希望者や現地の同出身者に対する雇用環境が厳しくなるとの予測から、移住先を他国に変更したり、日本へ帰国する動きが出てきている。
 
ニュージーランド内務省によると、米国のトランプ政権誕生後のここ100日間の米国人のニュージーランドでの市民権申請数が、前年同期比の約70%増と記録的な拡大となっている。
 
さらに就労ビザ申請も約20%増で、ニュージーランド政府の移民関連公式サイトは、米大統領選後、米国からのアクセスが約10倍増の4000件を超える記録だという。
 
もともとニュージーランドは英語圏からの移住先で大人気の国。(中略)
それではなぜ、外国人はニュージーランドへの移住を目指すのか?
 
それは永住権など各種ビザが他国より取りやすく、特に隣国のオーストラリアでの移住を目指す場合は、それより先にニュージーランドで取得する傾向にある。
 
オーストラリアは経済も堅調で、人口も多く、給与もニュージーランドよりはるかに高く、物価はニュージーランドより安いが、永住権どころか数年の労働ビザ取得もかなり困難だ。
 
しかし、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、「急がば回れ」、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている。
 
さらに、ニュージーランドは、オーストラリア、英国、カナダなどと違い、一度、永住権を取得すると更新は一切不要で、居住の滞在日数要件もない。

原発がなく、贈与税・相続税もない
取得後、長年ニュージーランドを離れていても、永住権が失効しないことから、世界でも有数の「永遠の永住権国家」として移住先の人気国だ。
 
また、原発がない豊かな自然が売りで、贈与税や相続税課税もなく、「租税回避」の楽園として英国や米国、さらには日本、中国などからの富裕層に注目され始めている。
 
隣国のオーストラリアへの移民の半数はニュージーランド人だが、そのニュージーランド人の7人に1人が外国出身者と言われるゆえんだ。
 
日本人の中にも、そのため、ニュージーランドを「トランジット(中継地点)移住」の移住先として目指す人が多いが、ここに来て新たな障壁が浮上している。
 
ニュージーランド政府は、4月19日、移民法の改正を発表し、永住権取得の資格条件の大幅変更を決定(8月14日施行)。これにより、外国人の永住権取得は、厳格化されることとなり、永住権を見込む日本人の多くが大きなショックを受けている。(後略)【5月2日 JB Press】
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“ニュージーランドでは、10年間居住すれば、65歳から満額年金を受理することが可能で、ニュージーランド生まれの国民と同じ待遇だ。
高齢者移民急増は、年金支出の拡大要因で、国民から懸念や批判が続出している。こういった状況から、今までとは違い、外国人の永住権取得は今後、さらに難しくなるだろうということだ。”【同上】とも。

世界中で「自国第一」の流れが進んでいます。一見、国民にとってはもっともな主張のようにも見えますが、各国がそうした内向き姿勢を強める結果がどうなるのか? そこらは十分に検討する必要がありますが、また別機会に。
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北朝鮮問題  アメリカの後押しによる中国の圧力は強まってはいるものの、今後については不透明

2017-05-06 22:50:59 | 東アジア

(5日付の労働新聞は、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、韓国の延坪(ヨンピョン)島を2010年に砲撃した部隊を視察し、新たな攻撃計画を承認したと報じています。【5月5日 Yahoo!ニュース】 それにしても不健康そうな金委員長です。)

強まる中国の対北朝鮮圧力
北朝鮮問題に関してはメディアで連日報じられているところで、特段付け加えるような話もないし、誰も(おそらくトランプ大統領も金正恩委員長も)この先の展開がよめない状況ですから、話のしようもないところではありますが、スルーしっぱなしもいかかがなものか・・・ということで、最近の報道を取りまとめてみました。

****米国人の2人に1人、地図上で北朝鮮を見つけられない****
2017年5月2日、米国の調査会社ラスムッセン・レポートの最新の調査で、米国人の2人に1人が、地図上で北朝鮮を見つけることができないと考えていることが分かった。露通信社スプートニクの中国語ニュースサイトが伝えた。

調査は米国の成人1000人を対象に、4月27日から30日まで行われた。それによると、地図上で北朝鮮を見つけることができると考えている人は全米の31%に過ぎず、見つけられない人は50%に上った。「確信を持てない」と回答した人も19%いた。

北朝鮮の核・ミサイル開発により、朝鮮半島情勢はこの数カ月、緊迫の度合いを増している。米国では、北朝鮮に対する軍事攻撃も排除しないとする声がある一方で、経済制裁による圧力強化に集中すべきだとの意見もある。【5月4日 Record China】
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米軍兵士にも5万人前後の死者(いろんな数字があるようですが)を出した朝鮮戦争もすでに過去の話で、全体としてはアメリカ人の国際認識はこんなものでしょう。日本を見つけることができる者がどれだけいるかも怪しいところです。

その程度の認識の国が、朝鮮半島だけでなく、日本を含む東アジア全域に多大な影響を及ぼしかねない動きの中心にあるというのも考えてみると奇妙ではありますが、国際政治と言うのはこんなものでしょう。

そのアメリカ・トランプ政権との経済問題も絡めての(中国が協力するなら、貿易面で譲歩するといった)“取引”によってか、あるいは、“(アメリカ・北朝鮮双方に対する)何をしでかすかわからない”不安に駆られてか、中国もこれまでにない北朝鮮への圧力をかけているようです。

****北朝鮮の3月石炭輸出ゼロ 中国による輸入停止で****
国連安全保障理事会の下に設置されている北朝鮮制裁委員会(1718委員会)のウェブサイトによると、5日時点で、3月に北朝鮮から石炭を輸入したと報告した国はない。中国が2月に北朝鮮からの石炭輸入を停止した後、北朝鮮は石炭を輸出できなくなったとみられる。

安保理は昨年11月、北朝鮮の5回目核実験を受け北朝鮮の石炭輸出に上限を設ける制裁決議を採択した。同決議は、国連加盟国が北朝鮮から輸入した石炭の量と金額を毎月末日から30日以内に北朝鮮制裁委に届け出るよう定めている。

1月と2月には中国と推定される1カ国がそれぞれ144万トンと123万トンの石炭輸入を報告していた。

中国は2月18日、安保理制裁決議に基づく措置として、同月19日から年末まで北朝鮮からの石炭輸入を停止すると発表した。その後に北朝鮮から到着した石炭は送り返したとされる。

一方、北朝鮮制裁委は北朝鮮の石炭輸出が上限を超えないよう、一定水準に到達すると警報を出すことになっている。現在までの輸出量は上限の35.7%程度だ。【5月5日 ソウル聯合ニュース】
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石炭輸入よりはるかに大きな効果があるのは、石油輸出停止(断油)で、すでに供給制限が行われているのか、ピョンヤンのガソリン価格が上がっているとの報道もありますが、北朝鮮が備蓄に努め市場供給を絞っている可能性も。

ティラーソン米国務長官は4月27日、「中国が北朝鮮に対し、『再び核実験を行えば独自制裁を科す』と警告したと、アメリカ側に伝達した」と語っており、その「独自制裁」の最たるものが“断油”になります。

ただ、先の大戦で日本がアメリカの“断油”によって戦争へとなだれ込んだように、致命的な“断油”は政権崩壊あるいは戦争への暴発もありうる措置ですので、金正恩がどうなっても構わないが緩衝地帯としての北朝鮮は残したい、またアメリカとの直接対決とか大量の難民流入といった事態も避けたい中国としては極めて慎重にならざるを得ないでしょう。

“断油”よりは穏やかですが、大きな効果が期待できるのが金融的な締め上げです。

****中国、すべての金融機関に対北朝鮮取引の停止を指示か****
2017年5月5日、中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官は定例記者会見で、中国政府が国内のすべての金融機関に対し、北朝鮮との取引を停止するよう指示したと韓国メディアが報じたことについて事実確認を求められ、「具体的な状況を把握していない」と回答した。新浪が伝えた。

韓国メディアは、中国の外交消息筋の話として、最近まで北朝鮮への送金が可能であった銀行の従業員が「すべての対北朝鮮外貨業務を中断するよう指示が下りてきた」と話しているとし、「中国の5大銀行はすでに対北朝鮮業務を中断した状態で、さらに中小金融機関まで中断措置が拡大しているものと解釈される」などと伝えていた。

耿報道官は「中国は一貫して安保理の北朝鮮制裁決議を全面的かつ正確、真剣、厳格に履行している」とした上で、韓国メディアの報道については「具体的な状況を把握していない」と述べた。【5月6日 Record China】
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こうした中国の北朝鮮への圧力を“促す”というか“迫る”というか、「今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない」と、アメリカ議会下院は対北朝鮮制裁強化法案を可決しています。

***北朝鮮への制裁強化法案 米下院が可決****
アメリカ議会下院は、北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、北朝鮮と取り引きのある外国人や外国企業を対象に、制裁を科すことができる法案を可決し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押ししています。

アメリカ議会下院は4日、北朝鮮に対する制裁を一段と強化する法案を賛成多数で可決しました。

法案は北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、外国人や外国企業が北朝鮮の労働者を雇用して不当に働かせたり、北朝鮮から大量に農産物や天然資源などを輸入したりした場合に、アメリカ政府が制裁を科すことができるとしています。

法案を提出した議会下院のロイス外交委員長は、採決に先立ち2日に演説し、「法案は北朝鮮の核・ミサイル開発計画をやめさせ、国連の制裁決議を順守させるものだ。中国を含めすべての国が制裁に取り組む必要がある」と述べ、北朝鮮と取り引きの多い中国などをけん制しました。

さらに「北朝鮮を支援する中国などの外国の銀行や企業には、今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない。それがトランプ新政権の取り組みの重点でもある」と強調し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押しする姿勢を示しました。

法案は今後、議会上院で審議される予定で、トランプ政権としては北朝鮮の後ろ盾となっている中国に対して、中国企業への制裁もちらつかせながら協力を引き出したい狙いです。【5月5日 NHK】
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話が横道にそれますが、この制裁法案採択は“賛成419票、反対1票”でしたが、圧倒的“流れ”に逆らった反対者1名の考え・信念も聞いてみたい気がします。

それはともかく、“対北の金融制裁は、2005年にマカオにある銀行、バンコ・デルタ・アジアが、北の資金洗浄に使われているとして締め上げたことがある。今回、トランプ政権が北と取引のある中国の金融機関に、この「二次的制裁」を発動すれば、北朝鮮の口座を持つ中国金融界が大混乱に陥る。”【5月3日 産経】ということで、中国としても独自対応を余儀なくされているとも思えます。

当然ながら、アメリカの脅し・威嚇に追随・乗っかるような中国の対応に対し、北朝鮮側は強く反発しています。

****北朝鮮、異例の中国名指し批判 米中協調に不快感****
北朝鮮が中国を名指しで批判した。国営メディアの朝鮮中央通信が伝えた。肩書のない個人名の論評を3日付で発表する形をとった。

北朝鮮が中国を直接批判することは極めて異例。論評は、北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、中国が米国と歩調を合わせることに強い不快感を示した。
 
中国共産党機関紙「人民日報」と系列の国際情報紙「環球時報」の記事が北朝鮮の核開発を批判したことについて、論評は「不当な口実で朝中関係を丸ごと壊そうとしていることに怒りを禁じ得ない」と非難。「中国は無謀な妄動がもたらす重大な結果について熟考すべきだ」と指摘した。
 
さらに「米国の侵略と脅威から祖国と人民を死守するために核を保有した。その自衛的使命は今後も変わらない」と主張。「朝中友好がいくら大切でも、生命も同然の核と引き換えにしてまで哀願する我々ではない」と強調した。【5月4日 朝日】
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「親善の伝統を抹殺しようとする許しがたい妄動だ」とも言及していますが、“まるで慣用句のように中朝は「血の絆」で結ばれているという大前提で報道されている”ことについて、“朝鮮戦争が始まった1950年に、中朝国境沿いの吉林省延吉市という朝鮮民族の自治州にいて、灯火管制の下で生きてきた”遠藤誉氏は、“中国は朝鮮戦争勃発時点から、北朝鮮とは「本当は」仲が悪く、「血の絆」などでは、一切、結ばれていない”と強調しています。【4月25日 遠藤誉氏 “中朝同盟は「血の絆」ではない――日本の根本的勘違い” Newsweek】

また、文化大革命期における中国における北朝鮮の存在は、「敵国」さながらのものとなり、毛沢東を崇拝する紅衛兵たちが、金日成(キムイルソン)を走資派あるいは逃亡派として血祭りに上げ始めた・・・といった歴史もあるようです。【5月1日 遠藤誉氏 “中国は北にどこまで経済制裁をするか?” Newsweek】

北朝鮮の金正日なども中国を非常に嫌っていたというのはよく言われていましたが、中朝両国の関係は互いの利害によるものであり、利害次第ではいかようにもなるものでしょう。

ただ、建前にすぎないにしても、その建前を崩すためには、それ相応のものが必要にもなります。

中国側にも、すべて中国に押し付けられても困るという思いがあります。
「中国の努力だけでは北朝鮮の核問題は根本的に解決できない。なぜなら、その根源は米朝の対立にあるからだ」「米政府は中国政府に過度の期待を抱くべきではない。中国政府は米国の役割を代わりに担うことはできない。米政府は自らの努力を少しも欠いてはならないという基本的なロジックは変えられない」【5月2日 環球時報】

進む対北朝鮮包囲網
アメリカは、中国だけでなく、北朝鮮との関係が深いASEAN諸国への働き掛けも強め、北朝鮮「包囲網」の構築を進めています。

****米、北朝鮮「包囲網」構築へ ASEANに制裁促す****
トランプ米政権は4日、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との外相会議と、オーストラリアのターンブル首相との首脳会談を相次いで開いた。オバマ前政権が進めたアジア・太平洋地域を重視する政策を継承するとともに、「最重要課題」とする北朝鮮問題で「北朝鮮包囲網」を構築したい考えだ。
 
ティラーソン米国務長官は4日、ワシントンでASEAN加盟10カ国の外相らと会議を開催。終了後、米国務省のマーフィー次官補代理は記者団に「ASEAN各国には北朝鮮の収入源を断ち、外交関係を見直すよう求めた」と述べた。ティラーソン氏は会議で、北朝鮮の外交官が外交特権を利用し、核・ミサイル開発の資金や材料を違法に得ていると指摘したという。
 
米側が神経をとがらせているのは、ASEAN諸国には北朝鮮と政治的、経済的なつながりが深い国が少なくないからだ。北朝鮮にとってタイは第4位、フィリピンは第5位の輸出相手国。シンガポールでは北朝鮮のダミー企業が取引をし、制裁の「抜け穴」となっているとの指摘が出ていた。
 
このため、各国に外交関係の凍結や制限を促しつつ、国連安全保障理事会の制裁決議の履行を徹底させることで、北朝鮮を追い込みたい思惑がある。(中略)

ただ、北朝鮮との外交関係の見直しについて、ASEAN加盟国の政府関係者は「国によってスタンスは違う」と話す。米国の働きかけがどこまで奏功するかは不透明だ。
 
また、トランプ大統領は4日、ニューヨークでターンブル豪首相と会談し、北朝鮮を含む安全保障問題を協議、同盟関係を再確認した。【5月6日 朝日】
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ロシアも、極東ウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先経済特区の間に新設される定期航路として、8日に予定されていた貨客船「万景峰号」の第1便の就航を今月後半以降に延期しており、アメリカの対北朝鮮圧力に一定に配慮したものとみられています。

この先の一手は不透明
このように、中国を主軸とする圧力・包囲網の形成は進んではいますが、この先どうするのか?ということについては不透明です。

リビア・カダフィ政権の教訓から、北朝鮮も国の命運がかかっている核開発を断念することはありえないとも言われています。

やれ先制攻撃とか斬首作戦、あるいは体制転覆と言っても、現実論としては難しいものがあります。

さりとて、現在のような状況が長引けば、その弊害も大きくなります。
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中国に対北圧力を依存する手法は、合理的ではあるが、長引けばオバマ前政権の「戦略的忍耐」と称した対北政策と変わらず、同盟国の不信を買うだろう。不信のタネはすでにある。台湾の扱いのほかに、中国に対する「為替操作国」の指定を取りやめ、南シナ海で中国の圧力下にある東南アジアの沿岸国を不安にさせている。【5月3日 湯浅博氏 産経】
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トランプ大統領が言及した「金正恩朝鮮労働党委員長と状況次第で会談する」という話も、今のところ可能性は小さいと指摘されています。

****最高指導者就任から5年でも外交経験「ゼロ」 金正恩氏がトランプ氏と会談する日は来るのか****
トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と状況次第で会談する考えを示した。金委員長は最高指導者就任から5年を超えたが、首脳外交の経験はゼロといわれる。父や祖父もなし得なかった米朝首脳会談の可能性はあるのか。

(中略)北朝鮮外交に詳しい龍谷大の李相哲教授は「先代も成し遂げられなかったことで権威付けになる。対米関係を好転できれば、日本や韓国との交渉も必要ないと考えており、のどから手が出るほど実現したいはずだ」と指摘する。
 
ただ、可能性は「ゼロに近い」ともみる。まず場所だ。安全が保証されないとして訪米は拒否するだろうし、トランプ氏が訪朝すれば「米国が屈した」と宣伝に使われるのがオチだ。中露などが会談場所だけを提供する望みも薄い。
 
最大の壁は、米国が北朝鮮の非核化目標を対話の前提にしている点だ。金委員長は、核・ミサイル開発を政権維持の柱に据えており、2012年2月に米国とウラン濃縮やミサイル実験の凍結に合意しながら半月後には、「衛星打ち上げ」と称して長距離弾道ミサイルの発射を通告し、ほごにした“前歴”がある。
 
「トランプ氏も無理を承知で、全ての選択肢がテーブルにあるとのポーズを示しただけではないか」と李教授は推測する。【5月2日 産経】
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ではどうするのか?

首脳会談は難しくても、それを“模した”ものなら可能かも。

ただ内容は、曖昧で時間稼ぎ的な合意で当面の危機を回避するが、核開発という長期的な火種は残る・・・といった類で終わるようなことも考えられます。(トランプ大統領が批判するイランとの核合意みたいなものでしょうか)

もっとも、圧力が強まれば不測の事態、想定外の行動が飛び出す可能性も大きくなりますので、この先のことは何とも・・・・。
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パレスチナ問題 型破りなトランプ米大統領の登場で、自治政府・イスラエル双方に交錯する期待と不安

2017-05-05 23:16:44 | パレスチナ

(5月3日に会談したトランプ米大統領とアッバス議長 【5月5日 時事】)

【「2国家共存」を否定したわけではなく、判断を留保したトランプ米大統領
オバマ米前政権時代の2014年4月にイスラエルによる入植活動が壁となりパレスチナ和平交渉が頓挫して以来、イスラエルによる入植活動拡大によって「1国家化」がなし崩し的に進行するという現実の一方で、パレスチナ自治政府及びアメリカを含む国際社会がパレスチナ問題解決の基本的枠組みとしてきた「2国家共存」は殆ど顧みられることはありませんでした。

そうした状況にあって、周知のように、トランプ米大統領は2月15日、「二国家でも一国家でも、当事者同士が満足であれば私はどちらでもいい」と発言、「2国家共存」という基本的枠組みを親イスラエルの立場から放棄するのか・・・とも懸念され、大きな話題ともなりました。

国際的“大反響”もあってか、2月23日には、パレスチナ国家を樹立しイスラエルとの共生を目指す「2国家共存」が好ましいと、その発言を修正しています。ただ、2国家共存を目指すかどうかはイスラエルとパレスチナに委ねるとの考えも示しています。

****中東和平交渉は後退するのか──トランプ発言が意味するもの****
<親イスラエルとみられているトランプ大統領のもと、イスラエル・パレスチナ紛争はイスラエルに有利な方向に向けて、本当に動き出すのか。これまでの流れを踏まえ、考える>

「二国家でも一国家でも、当事者同士が満足であれば私はどちらでもいい」――2月15日の共同記者会見で発表されたネタニヤフ首相の初訪米でのトランプ発言は、予想外の展開として大きな注目を集めた。これまでの歴代アメリカ政権が支持してきた、パレスチナとイスラエルの二国家共存、すなわち二国家解決が、今後は交渉の前提とはされないとの立場が示されたからだ。

他の政策におけるトランプ大統領自身の強硬姿勢とあいまって、この発言はオバマ政権時代からの転換姿勢を示し、中東和平の後退につながるのでは、との懸念が示されている。

親イスラエルとみられているトランプ大統領のもと、イスラエル・パレスチナ紛争はイスラエルに有利な方向に向けて、本当に動き出すのか。これまでの流れを踏まえ、考えてみたい。

規定路線としての「二国家解決」
アメリカのみならず、国際社会もまた二国家解決を中東和平交渉の原則とみなしてきた。

会見の後、国連のグテーレス事務総長は、訪問先のカイロで会見し「パレスチナ人とイスラエル人の状況には二国家解決しかなく、他に代替案はない」と述べた。

エジプトのスィースィー大統領とヨルダンのアブドゥッラー国王もまた、二国家解決が望ましいとの立場を改めて表明している。これらは外交の規定路線が、今後は踏襲されない可能性に対する懸念とみることができるだろう。

だがその心配は、まだ杞憂ともいえるかもしれない。トランプ大統領の発言をよく確認すると、二国家解決を支持するとも支持しないとも、どちらの立場も明確には示されていないからだ。

積極的に二国家解決を否定したとはいえず、入植地問題と同様、判断は留保されたとみるのが妥当だろう。アメリカの中東政策が大きく変化した、とはまだ判断できない。(中略)

重要なのは、この二国家解決を前提とした枠組み自体が、パレスチナ政治の中でファタハ政権の正統性の裏づけとなっているという点だ。

二国家という前提は、イスラエルに対する和平交渉の相手方をパレスチナ側に必要とした。
任期がとうに切れ、ファタハ内部でも支持を失っているアッバース大統領がまだその地位を維持できるのは、オスロ合意でその役割を引き受けたファタハの代表として、国際社会とイスラエルが彼をまだ必要としているからに他ならない。

イスラエルとの対話を拒否するハマースでは、交渉の相手方とならないからだ。

「二国家解決」を否定する動き
しかし現実は、理想とされた二国家解決とは別の方向にすでに進行してしまっている。

パレスチナ自治区の一部を構成するヨルダン川西岸地区内には131箇所の入植地、97箇所の非合法アウトポストが存在し、入植者人口は38万人を超える。これに係争地である東エルサレムの入植者人口を合わせると60万人近いユダヤ人が、イスラエル国家の領土と称してパレスチナ自治区内に住んでいることになる。

イスラエル側が行政権、警察権をともに握る自治区内のC地区は、ヨルダン川西岸地区の59%を占める。出稼ぎや物流を含め、パレスチナ自治区の経済はイスラエル経済に完全に依存した状態にある。

こうした状態を指してPLO事務局長のサーエブ・エリーカートは、1月末のCNNのインタビューで、占領によりパレスチナでは既に「一国家の現実」が存在していると指摘していた。これはパレスチナ側にすでに広く流布した共通認識といえるだろう。

昨年12月にパレスチナ政策研究所(PSR)らが実施した合同世論調査で、二国家解決を支持するパレスチナ人の割合は44%と、既に半数を切っている。

イスラエル側でも、二国家解決を否定する声が強まっている。こちらはむしろ、政策的に積極的な意味で、パレスチナ国家の樹立を拒否する立場からだ。渡米前、ネタニヤフ首相は直前まで、トランプ大統領との会談での協議内容について閣内での議論を続けた。

なかでも右派政党「ユダヤの家」党首ナフタリ・ベネットは強固に「二国家」に反対し、会談で「パレスチナ国家」に言及しないことを求めた。彼は同じ党のアイェレト・シャケッド法相とともに、トランプ当選後は二国家解決路線を終わらせる好機だと捉え、ネタニヤフ首相に対パレスチナ政策の再考を求めてきた。

それまで強硬派とみられてきたアヴィグドール・リーバーマン国防相ですら条件付で二国家解決の受入を表明し始めていたのとは対照的な動きだ。

今回のトランプ・ネタニヤフ会談は、こうしたベネットをはじめとするイスラエル国内右派にとっては意味の大きな展開だったといえよう。

だが今後の具体的な方向性は、まだ示されてはいない。二国家解決というタガが外され、今後の交渉の道筋がオープンエンドになったと捉えるとしても、その将来像は不透明なままだ。

その不安が、今回のトランプ発言に対して敏感な反応を、諸方面で巻き起こしたとみることもできるだろう。【3月9日 錦田愛子氏 Newsweek】
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改めて「2国家共存」を求める中東諸国
パレスチナ自治政府や中東関係国に大きな不安をもたらしたトランプ発言ですが、結果的には、シリアやISの問題もあって世界の関心が薄れていたパレスチナ問題及びその解決策としての「2国家共存」という枠組みに対する国際社会の関心を改めて呼び覚ましたという側面もあるように思えます。

イスラエルにとっても、おいしいところだけつまみ食いするような現状ではなく、本格的に「1国家」ということでパレスチナ全土をイスラエルに吸収すると、イスラエル領内のパレスチナ人が増加し、イスラエルは「ユダヤ人国家」であるとするイスラエルの基本的立場を危うくするという矛盾に直面することになります。

保守強硬派とも評されるネタニヤフ首相自身が、なんだかんだ言いつつも、「2国家共存」を前提にした和平交渉に携わってきたのは、そうしたイスラエル側の事情があるからにほかなりません。
(2月23日ブログ“イスラエルに「2国家共存」以外の道があるのか? トランプ大統領の「こだわらない」発言の背景”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170223

中東社会は、トランプ発言を受けて、改めて「2国家共存」を目指す考えを表明しています。パレスチナ問題解決への本気度は疑問ですが。

****アラブ連盟、パレスチナ国家樹立を新たに呼び掛け****
アラブ連盟は29日、ヨルダンの死海沿岸で首脳会議を開き、中東和平の実現に向け、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を目指す考えを再確認した。

会議後に共同声明を発表し、「2国家共存」を前提とした和平協議の再開を呼び掛け、イスラエルにアラブの占領地から撤退し、パレスチナ難民問題の解決を求めた2002年の「和平」提案を新たにした。(後略)【3月30日 ロイター】
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ハマス:対イスラエル軟化の新方針
これまでの「2国家共存」を前提とした和平交渉が進まなかった背景には、ユダヤ人入植活動をやめないイスラエルの交渉への消極姿勢(イスラエルにとっては、交渉が本格化するより、和平合意がないなかで都合のいいように現状を蚕食していくという状態が一番望ましいのでしょう)のほか、パレスチナ側には、ファタハが主導する交渉の当事者たるパレスチナ自治政府と、「ユダヤ人殲滅」を掲げてイスラエルの存在を認めない強硬派ハマス(ガザ地区を実効支配)の対立という足並みの乱れがありました。

ハマスはこれまで、イスラエル領を含む「全パレスチナ」の解放を掲げてきました。

イスラエルの圧倒的軍事力の前では、ハマスの主張は現実とはかけ離れたものではありますが、パレスチナ人側にとっての“あるべき論”として一定の支持があり、パレスチナ自治政府・ファタハ批判の根底をなしていました。

5月1日、その強硬派ハマスの指導者マシャル氏がカタールで、イスラエルとの対決姿勢を軟化させ、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を初めて認めるという、新たな指針を発表しました。

****ハマスが「国境」新指針 対外関係改善狙いか****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは1日、新たな指針を発表し、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を初めて認めた。ただし、イスラエルを国家としては承認していない。

新指針は、「ユダヤ人殲滅(せんめつ)」を掲げる1988年の「ハマス憲章」以来のもの。ハマスが闘う相手はユダヤ人ではなく、「占領を続けるシオニストの侵略者」だとしている。ハマスはこれによって、柔軟姿勢をアピールする考えだとみられている。

ハマスのスポークスマン、ファウジ・バルフム氏は、「指針は外の世界とつながる機会を提供する」と述べた。「世界への我々のメッセージは、ハマスは過激でなく、現実的で開明的な運動だということ。我々はユダヤ人を憎んでいない。我々が闘っているのは我々の土地を占領し、我々の人民を殺す者たちだ」。

イスラエルをはじめ、米国や欧州連合(EU)、英国など主要国は、ハマス全体もしくは軍事部門をテロ集団と認定している。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のデイビッド・キーズ報道官は、ハマスが「世界をだまそうとしているが成功しない」と語った。「彼らはテロ目的のトンネルを掘り、数多くのミサイルをイスラエル市民に向けて打ち込んでいる。これが本当のハマスだ」。

「ハマス憲章」とは対照的に新指針では、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」を親組織として書いていない。エジプト政府はムスリム同胞団をテロ組織と見なしており、活動を禁止している。

アナリストらは、ハマスが対外関係の改善を狙って新指針を打ち出したと指摘。エジプトだけでなく、同じくムスリム同胞団の活動を禁止する湾岸諸国との関係も良くしようとしているとの見方を示した。

ガザ地区と隣り合うイスラエルとエジプトは、同地区からの戦闘員の流入を止める目的で過去10年にわたって境界線を閉鎖している。

このためガザの経済活動は大きな打撃を受けており、約190万人の住民の生活は困窮している。
今年に入りハマスのナンバー2、イスマイル・ハニヤ氏がエジプトの首都カイロを訪問し、両者の関係は改善し始めている。【5月2日 BBC】
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紛争については、ユダヤ人全体に対する宗教戦争ではなく、パレスチナを占領するユダヤ人との戦いだと規定しています。

ハマスが実効支配するガザ地区は、イスラエルに包囲され、エジプトとの境界も閉鎖され、“天井のない監獄”とも言われ状況で住民生活は困窮しています。

そうした不満が膨らむ中で、いつまでも実現不可能な目標を掲げているだけでは住民支持が得られない・・・・ということで、エジプトなど関係国の関係改善を図り、国際的孤立から抜け出そうという意図でしょうか。

ただ、おそらくハマス内部には、こうした方針転換を快く思わない強硬派も多数存在することが推測されます。

ハマスは新指針が1988年の「ハマス憲章」に取って代わるものではないとしています。この点については、ハマス内部の強硬派の支持を得るためという見方もあるようです。

ハマスと同じようにイスラエルとの対決姿勢をとってきた(実際、イスラエルと戦火を交えています)レバノンのヒズボラは、今回のハマス新方針を厳しく批判しています。

ハマスと対立する形で自治政府を主導してきたファタハは、更に辛辣です。
ファタハの報道官は「ハマスの新方針は、1988年にファタハがとった政策と同じである。ファタハの政策に対し、ハマスは30年間わたり我々ファタハを裏切り者と攻め続け、謝罪を要求してきた。したがって今、ハマスはファタハに謝罪すべきである。」といった趣旨の発言をしています。【5月2日 「THE TIMES OF ISRAEL」より】

ハマスとファタハの関係がこれで改善するのか、和平交渉に向けて足並みがそろうのか・・・よくわかりません。

「世界をだまそうとしている」というイスラエル側の反応は上記記事のとおり。
これまで和平交渉の枠外にあったハマスが、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を認めるということで、何らかの形で交渉に関与してくることはイスラエルにとっては望ましい話ではないでしょう。

ハマス新方針の公表時期については、“ハマスとライバル関係にあり、ヨルダン川西岸に拠点を置く主要組織ファタハを率いるアッバス・パレスチナ自治政府議長は3日、ワシントンでトランプ米大統領と会談する予定。トランプ氏はイスラエルとパレスチナの和平交渉再開の仲介に意欲を示し、今月中にもイスラエルを訪問する予定と報じられている。ハマスの新政策はこの会談を意識した可能性もある。”【5月2日 朝日】とも指摘されています。

トランプ米大統領「仲介者に喜んでなる」 当事者に交錯する期待と不安
アッバス・パレスチナ自治政府議長は、「トランプ米大統領の支援を受けて、イスラエルのネタニヤフ首相とワシントンでいつでも会談する用意がある」との意向を明らかにして、トランプ政権の仲介による中東和平の実現に期待を示していました。【3月29日 朝日より】

5月3日、そのアッバス・パレスチナ自治政府議長とトランプ米大統領の会談が行われました。

****<トランプ大統領>中東和平仲介に意欲 アッバス議長と会談****
トランプ米大統領とパレスチナ自治政府のアッバス議長は3日、ホワイトハウスで初会談した。

その後、発表した共同声明で、トランプ氏はイスラエル、パレスチナの和平交渉の「仲介者に喜んでなる」と強調。交渉は「最も困難」と言われてきたが「それが間違いだと証明できるかやってみよう」と語り、中東和平交渉の仲介に意欲を示した。

アッバス氏は、トランプ氏の「素晴らしい交渉能力のもと、実現できると信じる」と話し、交渉再開に強い期待を示した。
 
一方、両首脳は具体的な交渉日程や方式には言及しなかった。
 
トランプ氏は今月25日にブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席する。イスラエルメディアは、トランプ氏がこの前後のイスラエル訪問を検討していると報じた。実現すれば、2014年春に頓挫した和平交渉の再開につながる可能性もある。
 
イスラエルのネタニヤフ首相は4日「トランプ大統領と和平前進の最善策を協議するのを楽しみにしている」と語った。
 
声明でトランプ氏は、アッバス氏が、1993年にイスラエルとの間で交わされたパレスチナ国家樹立を目指す「パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)」で重要な役割を果たしたと称賛。「最後の最も重要な和平合意」に署名できるよう支援したいと語った。
 
トランプ氏は、中東和平の実現は過激派組織「イスラム国」(IS)などとの「テロとの戦い」にも資すると指摘した。米国は過激派対策などで、ヨルダンやサウジアラビアなど中東和平推進を求めるアラブ諸国との連携が欠かせない。パレスチナも諜報(ちょうほう)活動などで協力しており、トランプ氏は「中東対テロ包囲網」の拡大にも期待感を示した。
 
一方、暴力を扇動するようなパレスチナ指導者の言葉は「和平に反する」として自制を求めた。イスラエルの意向を反映した形だ。
 
アッバス氏は、和平への要件を改めて主張した。具体的には、パレスチナ国家建設によるイスラエルとの2国家共存▽国境線は67年の第3次中東戦争でイスラエルが占領・併合を拡大する前の境界が基準▽首都は東エルサレム−−などを要請した。【5月4日 毎日】
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親イスラエルとされるトランプ政権に対し、パレスチナ自治政府側も入念に下準備・根回しをしての会談でした。

“互いを称賛しつつ、笑顔にはぎこちなさも漂った。テロ対策でアラブ諸国との連携を強化したいが、和平仲介の失敗は避けたいトランプ政権。交渉を再開したいアッバス氏。両者の予想外の接近に焦るイスラエル。それぞれの期待と不安が交錯している。”【5月4日 朝日】

“3月10日、就任から2カ月近くを経てようやくトランプ氏から初めて電話をもらったアッバス氏は、通話中に「3度も(ホワイトハウスに)招かれた」と感激した様子で側近に語ったという。”“アッバス氏は「あなたとなら、希望を持てる」と声明の一部を英語で伝えるなど称賛の言葉を並べた”【同上】

“3月30日に開催した安全保障閣僚会議で入植地拡大の自主規制方針をまとめた。ネタニヤフ氏は席上、トランプ政権は「非常に友好的で、彼の(入植地抑制を求める)要望は考慮しなくてはならない」と強調。イスラエルが米国の和平仲介努力の「妨げ」になっているかのように見られないようにしなければならないと語ったという。オバマ前政権時代には見られなかった抑制的な対応だ。”【同上】

和平交渉に向けての具体策は何も示されてはいませんが、パレスチナ問題にさほどの関心を持っているとも思われていなかった型破りなトランプ大統領の登場で、パレスチナ・イスラエル双方に奇妙なほどに“期待と不安が交錯している”状況です。
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アメリカ・トランプ政権内部の力関係 独裁者好み・国連嫌いの大統領 注目度が上がるヘイリー国連大使

2017-05-04 21:25:19 | アメリカ

(4月24日、ヘイリー国連大使(左手前)の企画で行われた、米ホワイトハウスの公式晩餐会室でのトランプ大統領と各国国連大使らとの昼食会 写真中央は中国の劉結一国連大使 画像は【4月26日 WSJ】)

よく言われる“バノン氏対「五人衆」”】
アメリカ・トランプ政権のホワイトハウス内部の“主導権争い”に関して、差別主義とも批判される一方、「アメリカ第一」の孤立主義のトランプ原則には忠実とも言えるバノン首席戦略官兼上級顧問と、かつては民主党支持者だった現実主義的とも評される(裏を返せば、バノン氏のような確固たる世界観はもっていないとも言えます)大統領の娘婿クシュナー上級顧問の力関係の変化などが、よく取り沙汰されます。(実際のところはよくわかりませんが)

シリア攻撃や北朝鮮への対応なども、かつてのトランプ氏の言動からは変化が見られ、上記のような力関係の影響も指摘されます。

そのあたりの記事は山ほどありますが、とりあえず一つだけ。

****トランプ政権】政権内で現実主義と孤立主義せめぎ合い 「五人衆」影響力が増大もバノン氏に復権兆し****
トランプ米大統領が北朝鮮の核・ミサイル開発への対処やシリア攻撃によって孤立主義的な政策を転換した背景に現実主義を取る「五人衆」が政権内で影響力を増大させていることがある。

逆に中東・アフリカからの入国一時禁止措置を主導したバノン首席戦略官兼上級顧問の影は薄まっているようにみえるが、権力闘争はなお続いている。
 
「五人衆」はティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ロス商務長官、大統領の娘婿クシュナー上級顧問。米紙ウォールストリート・ジャーナルのジェラルド・F・セイブ氏は「ビッグ・ファイブ」と呼ぶ。
 
4月にはシリア攻撃を支持するクシュナー氏と、孤立主義の立場からシリア内戦への関与に消極的なバノン氏が対立。ニューヨーク・タイムズ紙によると、バノン氏がクシュナー氏を「おまえは民主党員だ」と罵倒したとされる。
 
結局、トランプ氏はクシュナー氏の意見を採用し、バノン氏は4月5日、NSCの閣僚級委員会の常任メンバーから外された。北朝鮮問題でも、トランプ政権は中国の影響力を重視し、バノン氏やナバロ国家通商会議(NTC)委員長の対中強硬論を抑えた。
 
バノン氏の更迭論も報じられたが、復権の兆しもある。北朝鮮問題で同盟重視を続けていたトランプ氏は米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備の費用を韓国に負担させると発言。ホワイトハウスに通商政策と製造業政策を担当する部署を新設する大統領令に署名し、保護主義的なナバロ氏をトップに充てる。
 
2018年中間選挙や20年大統領選をにらみ、バノン氏らに代表される自らの支持基盤を意識した「原点回帰」の動きとみられる。【5月2日 産経】
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【「大統領は全体主義の外国指導者に、憧れでもあるのか?」】
「五人衆」の影響力がいかほどのものかはわかりませんが、トランプ大統領の政治指導者に関する“好み”は、従来の欧米的価値観とも言うべきものからすれば、かなり偏ったものにも見えます。

****<米国>トランプ大統領は独裁者好き? 独自外交に警戒****
トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と条件が整えば直接会談する用意があると言及した。北朝鮮情勢が緊迫する中での発言だけに、ホワイトハウスのスパイサー報道官はすぐに「現状は明らかに適切な状況ではない」と否定した。

しかし、トランプ氏は各国の独裁的なリーダーに対してこれまでも好意的発言を繰り返しており、国際社会を無視した独自外交を本気でやろうとしているのではと米メディアは警戒している。
 
トランプ氏の発言は、1日のブルームバーグ通信のインタビュー。「政治家の大半はこんなことを言わないだろうが、正しい条件の下であれば彼に会う用意がある」と語った。
 
トランプ氏は先月27日にはロイター通信に北朝鮮との「大きな軍事衝突」が起こる可能性について発言したばかり。しかし、インタビューでは適切な条件の下で直接会談できれば「光栄」とまで表現した。
 
実はトランプ氏、国際的な批判を浴びるリーダーにいち早くラブコールを送り、風当たりを和らげる役割を率先して果たしている。
 
先月17日には、大統領権限を強化する憲法改正の国民投票で勝利したものの、反体制派への弾圧や不正選挙が指摘されているトルコのエルドアン大統領に、電話で祝意を伝えた。

同29日には、裁判手続きを無視した過激な麻薬撲滅作戦で国際的に非難されているフィリピンのドゥテルテ大統領との電話協議で意気投合し、訪米を招請した。
 
トランプ氏は昨年の大統領選期間中からロシアのプーチン大統領への親近感を隠さず、イラクのフセイン元大統領のテロリスト撲滅の姿勢を評価したこともあった。
 
トランプ氏の発言を巡り、ホワイトハウスの記者会見では「大統領は全体主義の外国指導者に、憧れでもあるのか」と真意をただす質問も飛んだ。
 
一方、発言を真正面から受け止めたのは、米朝対話をトランプ氏に促している中国。外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は2日の定例会見で「関係国が接触と対話を再開できるよう中国も努力していく」と歓迎する意向を表明。

「米国側から出ている、対話を通じて平和的に核問題を解決したいとの希望に留意している」と期待感をにじませた。【5月2日 毎日】
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記事見出しには“独裁者好き?”と用心深く“?”をつけてありますが、たぶん必要ないでしょう。トランプ大統領が好感を示す指導者は軒並み国際的には強権的・独裁的姿勢が問題視されてきた人物であり、トランプ大統領がそうした政治姿勢に強い共感を有していることは明らかでしょう。

上記のような指導者だけでなく、フランスのルペン氏のような“極右”と評される人物にも強い好感をしめしています。一方で、国連に関しては拠出金削減をかねてより主張しているように、きわめて否定的な対応です。

大統領も共有するバノン氏の世界観
****国粋の枢軸」危うい共鳴****
世界が混迷の時代に入ろうとしている。「米国第一主義」を突き進むトランプ米政権が、平和と成長を支えてきた国際的な協調体制を壊そうとしているからだ。
 
それに欧州の右翼政党が共鳴する。別々に行動しているようにみえる米政権と欧州の極右勢力が寄り添い、「国粋の枢軸」という危ない糸で結ばれつつある。
 
「入国制限どころではない、もっと大きな衝撃が世界に走るだろう」。米政権に通じた複数の外交ブレーンはこう明かす。
 
米政権はいま、国連やその傘下機関への拠出金削減を検討しているという。根っこにあるのは国連への激しい嫌悪感だ。政権中枢からはこんな声が聞かれる。
 
国連では、小国も米国と同じ1票を得て、自己主張を強めている。こんな機関を温存しても、何ら米国の利益にならない――。
 
米国の負担率は全体の約22%で、最大だ。これが減れば、国連は予算の融通に困るだけでなく、権威も揺らぐ。トランプ政権からみれば、一石二鳥というわけだ。
 
トランプ大統領はイスラム諸国などからの入国制限を強行している。それでも「米国第一主義」が内政にとどまっているうちはまだいい。今後は対外政策でも、同じ路線に突き進もうとしている。

その目標は、多国間協調のための外交や通商の枠組みを弱め、米国の国益を優先しやすい秩序につくり変えることだ。
 
そんな野心を本気で実現しようとしているのが、バノン首席戦略官・上級顧問である。大統領の最側近であり、影響力は圧倒的だ。(中略)

では、彼が実現しようとしている世界とは何か。知人の話などによると、次のようなものだ。
 
戦後の世界は、西洋文明の盟主である米国と西欧諸国が仕切ってきた。ところが、グローバル化で国際資本に市場が食い荒らされ、米欧の社会が荒廃した。イスラム文化圏などからの移民の流入でテロの脅威がふくらみ、伝統的な価値観も薄まっている。この流れを止め、米・西欧主導の世界を再建しなければならない……。
 
つまり、グローバル化の流れをせき止め、薄まった米国と西欧諸国のアイデンティティーを取り戻そうというわけだ。そのためには国連や国際機関の弱体化も辞さない。革命にも近い発想だ。
 
トランプ氏もおおむね、バノン氏のこうした思想を共有している。だからこそ、メキシコとの「壁」にこだわり、北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)にも敵意を燃やす。理由はなにも、米国内の失業や貿易赤字だけではないのだ。
 
トランプ政権はいま、世界にも同じ「革命」を輸出しようとしている。当面の目標は欧州連合(EU)の統合を壊すことだ。西欧国家群の土台が統合で食いつぶされているという危機感がある。
 
「英国のEU離脱はとても良かった。あとは(フランスの極右政党・国民戦線の)ルペン党首が今春の大統領選に勝ち、ドイツのメルケル首相が9月の総選挙に負ければ、すばらしい」。英国のEU離脱を主導したジョンソン外相が1月に訪米した際、バノン氏はひそかにこう励ましたという。(後略)【3月10日 秋田浩之氏 日経】
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その後、バノン氏の政治的立場は先述のとおりで、トランプ大統領のRUやNATOに関する発言も現実主義的修正も見られますが、基本的にはトランプ氏自身にバノン氏的発想・世界観があるのは間違いないでしょう。

国務省は機能マヒ状態
思い付き的で、首尾一貫しないことも多いトランプ大統領の言動ですが、外交政策でトランプ大統領を支えるべき立場にあるアメリカ国務省はいまだ機能マヒ状態にあると言われています。

****ホワイトハウスの力学の変化****
・・・・こうしたアメリカの対外政策の変化の背景には、ホワイトハウスにおける政策決定の力学の変化があると思われる。

その大きな変化を引き起こしたのは、バノン大統領首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)中核メンバーから外れたことと、代わってトランプ大統領の娘婿のクシュナー大統領上級顧問とマクマスター国家安全保障担当大統領補佐官が、政策決定の実権を握ったことに起因すると考えている。

この力学の変化により、トランプ政権の対外政策は軍事的対応の方に優先順位がつき、外交交渉による問題解決の役割が小さくなったように見える。

その大きな要因として、国務省の高官ポストが(これは国務省に限らないが)ほとんど埋まっていない上、各国の大使もオバマ政権で任命された大使は一斉に辞任させられたにもかかわらず、新たな大使がほとんど任命されていないなど、国務省が機能不全に陥っているという状況がある。

また、国務省は意思決定過程から外され、職員の士気は下がっており、具体的な仕事もないため、食堂でコーヒーばかり飲んでいると『アトランティック』紙の記事でも報じられている。

その上、エクソン・モービルのCEOであった、外交経験や政治経験の無いティラーソン国務長官は国務省の職員との関係が全くうまくいっておらず、保守的なメディアからの攻撃を受けると簡単に職員の配置転換や辞職を求めるなど、マネージメントが崩壊しているという状況になっている、と『ポリティコ』紙も報じている。

そのため、トランプ政権においては外交交渉よりも軍事的圧力によって問題を解決するという選択肢が優先されるような状況にあるのだ。【5月4日 鈴木一人氏 JB Press】
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ヘイリー国連大使:アメリカ外交を他国にも理解出来るような言葉に変えようという努力
大統領の言動はしばしば“意味不明”であり、ティラーソン国務長官はメディアとうまくいっていない、国務省は機能マヒ・・・ということで、その発言の注目度が高まっているのが、皮肉にもトランプ政権が敵視する国連におけるニッキー・ヘイリー国連大使の言動です。

彼女については、“元サウスカロライナ州知事で、政治的野心に満ちた・・・・”“オープンな場で積極的に発言し、メリハリのあるコメントで知られ、また州知事としての行政経験やメディアとのコミュニケーションにも慣れている・・・・”“元々選挙期間中はトランプ大統領を支持しなかったにもかかわらず、その気っ風の良さを買われ、政権発足早々国連大使に指名されたという異例の扱いを受けた・・・・”などと、前出【5月4日 JB Pres】で評されています。

****トランプ大統領の意思を「忖度」する米国連大使****
「拠出金削減」という大方針
・・・・ヘイリー国連大使はこうした状況の中で、トランプ外交の唯一の窓口と見られているわけだが、政治経験のあるヘイリー大使といえども、国務省のサポートや外交政策全体の流れの中で訓令(インストラクション)を受けて調整する必要がある。

ところが先に述べたように、国務省が正常に機能していないため、ヘイリー大使は適切なサポートや訓令を受けることが出来ていないとみられる。

その結果、ヘイリー大使は大統領の意向を「忖度」せざるを得ない状況にある。彼女が明示的に受けている訓令は、第1に国連拠出金を削減すること、第2に、イスラエルに対する批判や非難に対しては徹底的に戦い、いくつかの国連のフォーラムからの脱退も含めた強い対応をする、というトランプ政権の大方針しかない。

たとえば、安保理の下にあるコンゴ民主共和国制裁のモニタリングを行う、専門家パネルのメンバーが2名殺害された事件が起こった際、ヘイリー大使は、「国連が展開しているPKOの縮小を進めなければ、米国の拠出金を減らす」と脅迫めいた発言を行った。

その根拠として、コンゴ民主共和国のカビラ政権が腐敗しており、PKOを派遣する価値がないことを挙げたが、専門家パネルのメンバーが殺害されたにもかかわらずPKOを縮小するのは、ひとえに拠出金削減という大方針があるからである。そのため、あらゆる機会を捉えて拠出金を減らすための理屈を探しているのだ。(中略)

ホワイトハウスと食い違う大使の発言
しかし、それ以外のイシューについては、おそらく明示的な訓令を受けておらず、相当程度ヘイリー大使が判断をする裁量を持っていると考えられる。

たとえば、シリアのアサド政権が化学兵器を使用する前、ティラーソン国務長官がシリア問題に関して、アサド政権の退陣を最優先課題としないと発言したが(この発言が化学兵器の使用を容認したと受け取られた可能性もある)、ヘイリー大使は当初、ティラーソン長官と平仄を合わせていたのに対し、その後、テレビ出演して、「アサドが政権に就いたままのシリアの将来はない」と発言を修正した。

ところがティラーソン国務長官は発言を明示的には変更せず、世界中が呆気にとられている間に化学兵器が使用され、トランプ大統領はアサド政権が支配する空軍施設をミサイル攻撃する判断をした。結果的にはヘイリー大使の発言が大統領の判断と一致した形になったのである。

ヘイリー大使は、シリアに対するミサイル攻撃後、安保理の場で「さらなる攻撃の用意がある」と発言し、自身が主張するアサド政権の退陣、すなわちレジームチェンジを実現することがアメリカの目的であると表明していた。

だが、マクマスター安保担当大統領補佐官は、「レジームチェンジを望んでいるが、それは米国のシリア政策の目的ではない」と明言し、ここでも議論が食い違っている。

結果的にシリアへのミサイル攻撃以降は、トランプ政権の問題関心は北朝鮮に移り、アサド政権を打倒するための戦闘のエスカレーションも見られない。(中略)

ヘイリー大使はトランプ外交を動かしているのか?
このように明示的な訓令を受けないまま、国連の場でどんどん発言するヘイリー大使を評して、ティラーソン国務長官と同等の力を持ち、今やトランプ政権の外交を引っ張る存在である、との記事が『ウォール・ストリート・ジャーナル』に掲載された。

シリアやイラン、ロシアに関するヘイリー大使の発言が、ティラーソン国務長官やホワイトハウスよりも先で、それに引っ張られて発言の修正や後追いをせざるを得ない状況にある。実際、ホワイトハウスから発せられるメッセージが混乱しているだけに、多くの外交官はヘイリー大使の発言に注目せざるを得ない状況にある、という内容だ。

果たしてヘイリー大使の発言は、トランプ外交を動かしていると言えるのだろうか。

これまで見ている限りでは、ヘイリー大使が限られた情報や訓令の中からトランプ大統領の思考や発想を読み取り、状況に応じてその発言を修正し、なんとかアメリカ外交を他国にも理解出来るような言葉に変えようという努力の跡が見られる。

つまり、ヘイリー大使はトランプ大統領の思考を「忖度」しながら国連外交のみならず、トランプ外交全体を俯瞰しつつ発言しなければならないと自認しているように見えるのである。

故に、自らの発言がしばしばホワイトハウスによって修正されたり、全く異なる形で表現されたりすると、その後適宜修正せざるを得なくなるという状態に陥る。(中略)

ヘイリー国連大使は目下、議長国としての権限を持つ4月の間に、安保理加盟国15カ国の大使をつれてホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領や主要な議員と面会することを企画している。(中略)

こうした政治的野心を持ち、トランプ大統領へのアピールを欠かさないヘイリー国連大使だが、その活動が結果として、国連に対してネガティブなイメージしか持たず、国連の役割を小さくしようと試みてきたトランプ大統領の意識を変化させ、国連の役割の重要性を再認識させる結果となっているとの記事が『フォーリン・ポリシー』誌に掲載されている。

これはある種の怪我の功名ではあるが、残念ながら、トランプ大統領の大方針である拠出金の削減を変更するまでには至っていない。【5月4日 鈴木一人氏 JB Press】
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ヘイリー国連大使への注目度は高まってはいますが、“国連本部のあるニューヨークはワシントンDCから離れているため、ホワイトハウスの中で起きている様々な権力闘争や人間関係に関与出来ているわけでもない”【同上】ヘイリー氏の政治的影響力は今のところそんなに大きなものではないでしょう。

それより、“ヘイリー大使が限られた情報や訓令の中からトランプ大統領の思考や発想を読み取り、状況に応じてその発言を修正し、なんとかアメリカ外交を他国にも理解出来るような言葉に変えようという努力の跡が見られる”というアメリカ外交の現状は困ります。
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タイ  新国王と軍政の関係、タクシン前首相支持勢力の動向など緊張も孕みつつ進む葬儀準備

2017-05-03 22:40:41 | 東南アジア

(建設が続くプミポン前国王の巨大火葬施設。奥はタイ王宮=バンコクの王宮前広場で2017年4月26日【4月27日 毎日】)

国王権限強化 「民主主義象徴」プレートが「国王への忠誠」へ
タイのプミポン前国王の葬儀は、10月26日に執り行われることが正式に発表されています。

****10月の前国王火葬、正式発表=タイ政府****
タイ政府は25日、昨年10月に死去したプミポン前国王の火葬を10月26日に執り行うと正式に発表した。一連の葬儀は同月25〜29日に営まれる。
 
前国王の遺体は、首都バンコクの王宮前広場に建設中の火葬場で荼毘(だび)に付される。政府報道官によると、火葬当日の26日は休日となる。【4月25日 時事】 
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今日、タイの王制・政治体制に関するニュースが2件報じられています。

1件目は、政府管轄下にあった王室関係機関を国王直轄とする新法が、内容を明らかにしないまま非公開審議で制定されたというもの。

****タイ国王の権限強化=王室機関を直轄に*****
昨年12月に即位したタイのワチラロンコン国王(64)の権限を強化する新法が、3日までに施行された。これまで政府などの管轄下にあった王室関係機関が国王の直轄下に置かれた。
 
国王直轄となったのは、王室事務局や国王秘書官長室、近衛局など王室の事務や警護を担当する5機関。

新法は4月20日の立法議会(暫定議会)で可決されたが、軍事政権の要請で審議は非公開で行われ、新法の内容についても「詳細は言えない」(立法議会議長)として公にされず、1日の官報でようやく公表された。
 
地元メディアによると、これらの機関が国王直轄となるのは「1932年の絶対王制終結以来初めて」という。【5月3日 時事】
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2件目は、「タイの民主主義誕生の象徴」とされていたプレートが、国王への忠誠を説く内容の別のプレートにすり替わっていたことに関する公開討論会が軍政の命令で中止となったという件。

*****軍政命令で討論会中止=消えた革命プレートめぐり―タイ****
タイで1932年の立憲革命を記念したプレートが消えた問題をめぐり、タイ外国特派員協会(FCCT)が3日に首都バンコクで開催する予定だった公開討論会が軍事政権当局の命令で中止に追い込まれた。
 
FCCTによると、地元警察がFCCTに送った書簡で、討論会は「国家安全保障にとって脅威」であり、「不実な個人により混乱を引き起こすのに利用される可能性がある」として取りやめるよう要求した。
 
立憲革命でタイは絶対王制から立憲君主制に移行。記念プレートはバンコクの革命ゆかりの場所に80年以上前に設置された。

民主派の間で「タイの民主主義誕生の象徴」と位置付けられてきたが、国王への忠誠を説く内容の別のプレートにすり替わっていたことが4月に発覚。消えたプレートは行方不明のままとなっている。【5月3日 時事】 
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内容を明らかにしないまま非公開審議が行われたとか、公開討論会を軍政当局が阻止したとかは、軍政の非公開性・強権的体質を示すもので、それはそれで問題ですが、今日はそのあたりの話はパスします。

今日取り上げたいのは、軍政が今後どのような統治システムを目指しているのか?という点です。

2件のニュースから受ける単純な印象としては、“国王直轄化”とか、“国王への忠誠”とか、従来の民主主義を一定に制約して、新国王の権限・権威を高めていこう、その国王の権威を軍部が利用する形で支配体制を強化しよう・・・という方向にも見えます。

確かに“大筋”としては、農民・貧困層からの支持を背景としたタクシン前首相の政治で揺らいだ、国王を頂点とする伝統的な支配体制の強化を軍部が目指していることは、常に指摘されるところでもあります。

新国王と軍政の間の“すきま風”】
ただ、“国王の権威を軍部が利用する形”と言ったとき問題となるのが、4月10日ブログ“タイ 新憲法公布で民政復帰に向けて踏み出すも、権力内部では対立が激化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170410でも取り上げた、新国王と軍部の間には緊張関係があるのでは・・・という話です。

もともと新国王と軍部はそりが合わなかったこと、軍内部に軍政を主導する主流派と新国王に近い勢力とで権力闘争的な関係があること、新国王はタクシン前首相とは非常に近い関係にあったことなどから、新国王、その周辺の軍勢力、タクシン前首相が結びつく形で、軍政主流派との間で不穏な出来事も起こりうる・・・とも指摘されているとのことでした。

そのような新国王と軍政の間の“すきま風”について、以下のようにも。

****タイ新国王、軍政と「すきま風」 新憲法案に異例の修正要請 *****
2014年5月に起きたクーデターから軍事政権が続いているタイで、新たな恒久憲法が公布・施行された。昨年末に即位したワチラロンコン国王が新憲法案に署名した。
これにより、タイでは来年中にも総選挙が実施され、民政復帰に向けた動きが加速する。

一方で、現政権を担う軍は自らの基盤固めを着実なものとし、選挙後も実質的な支配を継続していく考えだ。これをめぐって新国王と軍政との間では、「すきま風」も聞かれるようになっている。

民主化が後退
(中略)2017年憲法は、民主化の後退がより鮮明となった。選挙で議員が選ばれるのは下院のみとなり、上院議員については軍が任命に関与できる仕組みだ。首相選出についても、近年の憲法で踏襲されてきた下院議員の要件が撤廃され、1980年代まで頻繁に続いた軍人ら非議員による首相就任が可能となった。

さらに注目されるのは、民政復帰後5年間を「移行期間」とし、実質的に軍の支配下で政権が運営されることだ。これにより、14年5月のクーデターから最低でも通算10年間は事実上の軍政が続くことが確実となった。(中略)
 
プラユット軍事政権は、いまなお60%を超える高い支持率を維持するが、1970年代や90年代にあった反軍運動の過去をひと時も忘れてはいない。民政復帰後の権力基盤確保に躍起なのもそのためだ。

具体策の一つを、政府機関への軍人の積極的な配置に見ることができる。内閣は35人の定員の4割近い13人を軍人と系列の警察官僚が占め、省庁への影響力を強めている。最大で19人(議長を含む)の王室を支える枢密院も、史上初めて軍出身者が過半を超え、永続的な政治への関与を確実とした。
 
もう一つが、今回施行された新憲法だ。軍政は当初、首相と上下両院の議長、陸海空軍と警察トップで構成する「改革と和解委員会」を内閣、国会、裁判所の三権の上部に置く構想を描いた。2015年8月に策定した第一次憲法草案に盛り込み、成立を目指す考えだった。

だが、立憲政治をないがしろにしかねないと国内外で強い批判が起こった結果、断念。草案の承認権を持つ国家改革評議会に働きかけ、一次案を自ら否決に導いたという経緯がある。代わって採られた措置が、憲法裁と独立機関に強い権限を持たせて間接的に支配する方法だ。

さらに、歴代憲法に盛り込まれてきた「本憲法に適用する条文がない場合は、国王を元首とする民主主義の統治慣習によって判断しなければならない」とする条文にも、軍の関与を組み込もうと画策した。

最終判断権を憲法裁長官らに持たせるとする規定を新たに設け、人事権を持つ軍が差配できる余地を拡大しようとしたのだった。
 
ところが、署名直前になってこの規定にワチラロンコン国王が待ったをかけた。立憲主義国家における憲法制定作業に国王が関与を求めることは極めて異例なことだ。国王はこのタブーに挑みながらも、軍の影響力拡大に歯止めを掛ける必要があると考えたとみられている。
 
こうして最終的に条文から削除されたのが軍関与の追加規定だった。同条文は憲法上の努力義務と読むのがタイの憲法学では通説であり、最終判断権そのものが意味をなさない。このほか、いくつかの条文でも修正が行われた。
 
新憲法の作成過程で起こった国王による異例の修正要請は、タイのメディアの間では「新国王と軍政の間で吹いたすきま風」と受け止められている。
 
偉大な父、プミポン前国王を継ぎ、山積する難題に立ち向かう新国王と、国王の軍隊として一糸乱れぬ存在のタイ王国軍。新憲法の作成過程で生じた思わぬ「すきま風」が凪(なぎ)に変わるのをタイの国民は静かに待っている。【4月14日 小堀晋一氏 Sankei Biz】
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「本憲法に適用する条文がない場合は・・・」という条項をめぐる修正については、上記のように軍政側が軍が差配できる余地を拡大しようとしたのを新国王側が阻止したという話なのか、もう少し踏み込んで、従来同様にあいまいな表現に据え置くことで新国王側が政治危機に介入する余地を取り戻したというように新国王側のイニシアチブを強調するのか、その解釈には若干のニュアンスの差もあります。

いずれにしても、国王要請による直前修正という事態は、新国王と軍政の間の「すきま風」を感じさせる一件でした。

そういう「すきま風」というか、前回ブログで指摘したような対立・緊張関係があるなかで、国王権限・権威を高めるようなことが軍政にとってどれだけのメリットがあるのか?・・・釈然としない部分もあります。

新国王と軍政の関係は、一部で指摘されているほどの緊張はなく、お互いに“ウイン・ウイン”の関係で利害調整がついている・・・のでしょうか?ワチラロンコン国王なら、それも十分ありうる・・・とは思えますが。

【「首相暗殺計」?】
一方、新国王とは関係が深いとされるタクシン前首相及びその支持者の動きについては、「首相暗殺計画」というショッキングな報道もなされています。

****タイ激震 首相暗殺計画発覚****
■首相暗殺計画発覚
タイのワチラロンコン新国王の下、政権基盤の安定と長期化をもくろむ軍政のトップであるプラユット首相の「暗殺計画」がこのほどタイで発覚、軍政への反発が一部国民の間では「暗殺まで計画していた」として軍政はこれを問題視し、捜査当局に徹底解明を指示した。

さらにその後の捜査の結果、暗殺計画に関わった人物がタクシン・チナワット元首相支持派であることから、タクシン元首相あるいはその妹のインラック・チナワット元首相など軍政と対立する勢力が関与した疑いも払しょくできないとして、捜査当局に慎重に政治的背景の調査を命じた。

タイ国家警察と国軍は3月18日、反軍政の運動家自宅から大量の武器弾薬を発見、これを押収した。警察が捜索したのはタイ中部パトゥンタニ県にあるウッティポン・コチャタマクン(コティー)氏の2階建ての自宅。

事前の情報提供に基づき自宅を家宅捜索した結果、スコープ付きのライフル銃、手榴弾、数千発の弾薬などが発見されこれを押収するとともに同氏の自宅にいた留守番役と称し「武器の存在を知らなかった」とする男性ら9人を武器の不法所持容疑で逮捕した。

警察はコティー氏がタクシン元首相を支持する赤シャツ組織の主要メンバーで「反軍政民主化組織」の指導者として活動、反軍政のラジオ局を運営するなどの活動歴を把握、これまでのインターネットへの書き込みなどから軍政に対する蜂起とプラユット首相の暗殺を準備していた疑いがあると指摘した。

その上で今回の暗殺計画の背後には軍政への批判を強めるタクシン元首相、さらにその妹のインラック元首相らの関与の可能性についてマスコミを通じて指摘した。

タクシン元首相は在職中(2001年〜2006年)の不正問題で有罪判決を受けて現在海外逃亡中。インラック元首相(2011年〜2014年首相在職)も人事問題への不当介入などで首相を解任され、係争中の裁判を抱えた上に公民権が停止されタイ国内に滞在している。

■タクシン元首相反論、複雑な権力構造
こうした軍政の動きに対しタクシン元首相は海外からネットへの書き込みで「プラユット首相ら軍政は自らの延命工作のために(暗殺事件を)でっちあげ、事件の背後に私がいると決めつけているだけだ」と軍政を厳しく批判した。

現在のタイの政治権力構造は、ワチラロンコン新国王と軍政の間で民政復帰のプロセスや国王の権限問題で「静かな対立状態」(地元紙記者)にあるとされ、早期の民政復帰実現を求めるタクシン派と時間をかけて民政復帰を進めたいとする軍政が対立関係にあるという。

問題はワチラロンコン国王とタクシン元首相が親しい関係にあり「反軍政で密かに連携を取っているのではないか」との情報があることで、軍政としても「絶対的存在」である国王の支持を取り付けながらも民政復帰に時間をかけることで軍政を「延命」させる道を模索している。

プラユット首相の軍政は民政復帰のプロセスの中で「軍部による政治介入を防ぐ法的な整備が必要でそれに時間がかかっている」と説明している。

しかし、「軍部による政治介入」つまりクーデターは現軍政が政権を掌握する際に用いた手段であり、タイではたびたび繰り返されてきたいわば軍による「伝家の宝刀」。

それを軍政自身が封じ込める法整備をしたところで「ほとんど意味がなく、軍はいつかまたクーデターで政治介入するだろう」というのが国民の共通理解となっており、軍政の思惑への理解はほとんど得られていないのが実態という。

■真相解明どこまで進む?
今回の「軍政トップの暗殺計画」については活動家の自宅から発見、押収された武器類が新品同様だったことから軍政による「でっちあげ」の可能性がタイの一部メディアからは指摘されていた。

しかし警察は「単に武器などの保管状態が良好だったのが(新品同様の)理由である。マスコミ注視の中で行った捜索であり、でっちあげは不可能」と疑惑を完全に否定している。

その一方で地元紙「ネーション」は4月10日、インラック元首相が中央行政裁判所に請求していた「在職当時の米質入制度に関する不正でインラック元首相に出されていた357億バーツの損害賠償命令の差し止め」が却下されたことを伝えた。インラック元首相の法廷闘争は厳しい局面を迎えつつある。

軍政が依然として北東部ウドンタニ県などの農村地帯での影響力が強いタクシン、インラック両元首相とその支持勢力を窮地に追い込みたいのは事実で、コティー氏自身は2014年5月に自宅から逃走しており、身柄拘束には至っていないこともあり、「暗殺計画」の真相解明はタイ国王を巻き込んで複雑化するタイの権力闘争の中でどこまで進むかタイ国民も注目している。【4月16日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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タクシン前首相を支持する勢力の中には、“有事”に備えて武器を蓄えている過激な勢力がある・・・というのは、以前から指摘されていた話です。

今回事件が、「首相暗殺計画」と言えるような具体的計画を持ったものなのか、上記のような過激勢力を摘発して「首相暗殺計画」があったと強引に判断したのか、はたまた「でっちあげ」なのか・・・上記記事だけでは判然としません。

前回ブログで紹介したように、新国王のタクシン前首相への恩赦を前提に、タクシン前首相がタイに“凱旋”するという、軍政側には容認できない事態も想定されており、そうした状況を背景にした“事件”のようにも思われます。

個人的な些末なことで恐縮ですが、7月末にタイ・バンコク経由でイランへの旅行を予定しています。
乗継時間が長いので、バンコク市内に久しぶりに出てみようか・・・とも考えています。

バンコクが混乱するにしても、その旅行時期は避けてほしい・・・というのは私の身勝手な希望です。
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アフガニスタン 春期攻勢のタリバン アメリカの増派は? ロシア・イラン・中国の関与は?

2017-05-02 22:52:44 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン・カブールにあるプリソフタ橋の下に集う麻薬中毒者ら=2016年10月(共同)
“アフガンはアヘンやヘロインの材料となる植物ケシの世界最大の産地。麻薬の多くは国外に流れていくが、国内消費量も増加。長引く戦乱のほか、麻薬のまん延も国をむしばんでいる。”【1月16日 共同】)

現状をコントロールできていないアフガニスタン政府
最近のアフガニスタンに関する主なニュースとしては、アメリカ・トランプ政権による北朝鮮に向けたデモンストレーションを兼ねた、イスラム国(IS)を対象にした4月13日の大規模爆風爆弾(MOAB)投下と、4月21日に北部マザリシャリフ近郊の陸軍基地がタリバンに襲撃され兵士150人ほどが死亡した事件があります。

大規模爆風爆弾(MOAB)の方については、アフガニスタン軍の報道担当者はISの死者が司令官4人を含む94人に上ったと明らかにしています。

ISは2015年、アフガニスタンとパキスタンに「支部」を設立したと宣言。以来、タリバンと互いに影響し張り合う形で数々のテロを実行しており、3月8日には首都カブールにある軍病院で、男が自爆し、白衣を着た男3人が病院内に侵入して銃を乱射、30人以上が殺害され、50人以上が負傷するという襲撃事件を起こしています。

アフガニスタンにおけるISは、アルカイダとつながるタリバンとの抗争もあって勢力を弱めているとも言われていましたが、この軍病院襲撃について“ISISがアフガニスタンで急速に足場を固めつつある大きな証拠かもしれない”【3月16日 Newsweek】ともの評価もあります。

一方、4月21日のタリバンによる陸軍基地襲撃では、責任をとって国防相と陸軍参謀長が辞任しています。
ISの病院襲撃にしても、タリバンの陸軍基地襲撃にしても、アフガニスタン政府が現状をコントロールできていないことを示す証拠ともなっています。

****アフガン国防相と陸軍参謀長が辞任、100人超死傷のタリバン襲撃受け****
アフガニスタン大統領府は24日、同国のアブドラ・ハビビ国防相とカダム・シャー・シャヒーム陸軍参謀長が辞任したことを明らかにした。
 
大統領府は声明で「アシュラフ・ガニ大統領が国防相と陸軍参謀長の辞任を受け入れた」と述べた。
 
アフガニスタンでは21日、北部マザリシャリフ近郊にある軍事基地が旧支配勢力タリバンの襲撃を受け、100人以上の兵士が死傷したため、国民から怒りの声が上がり、国防相と陸軍参謀長の辞任要求が高まっていた。
 
襲撃事件の正確な死傷者は明らかになっておらず、当局は兵士100人以上が死傷したと発表しているものの、内訳について公表していない。その一方、一部の地元当局者らは死者数だけでも最大130人としている。【4月24日 AFP】 
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米軍は増派要求 「アメリカ第一」のトランプ大統領は?】
アメリカ報告書によれば、昨年11月時点でアフガニスタン政府が支配・影響下に置いているのは全407地域の57.2%に当たる233地域にとどまっているとされています。(アフガニスタン側は否定していますが)

こうした状況で、米軍幹部はアフガニスタンへの増派の必要性を指摘しています。

****アフガン駐留米軍の増強必要、こう着状態打開目指す=米軍司令官****
米中央軍のボーテル司令官は9日に開かれた上院軍事委員会の公聴会で、アフガニスタン情勢のこう着状態を打開するために新たな戦略を策定していると明らかにし、アフガニスタン駐留米軍の増強が必要との見方を示した。

ボーテル氏は「助言・支援の任務をより効果的に行うには、増派が必要になる」と述べた。ただ、新戦略は策定中だとし、必要とされる増派の規模は明らかにしなかった。

アフガニスタン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官は先月、反政府武装勢力タリバンとの戦いが長引くなか、国際部隊を数千人増強する必要があると指摘していた。

トランプ大統領はこれまでのところ、アフガニスタン駐留米軍の規模を現行の8400人から増加することを認めるかどうかについて、立場を明確にしていない。【3月10日 ロイター】
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「アメリカ第一」を掲げるトランプ大統領としては、いろんないきさつからシリア空爆とか、北朝鮮問題への対応などを迫られてはいますが、基本的にはアメリカの利害に直結しない紛争に関与したくない・・・というのが本音でしょう。アフガニスタンについても、増派は本来の意向とは異なります。

春期攻勢で強まるタリバンの圧力 ロシア・イランのタリバン支援の動きも
しかし、アメリカが今まで以上に支えないとアフガニスタン情勢はジリ貧の感もあります。

アフガニスタンでは“恒例の”タリバン春期攻勢が始まっています。

****アフガンに“第2のシリア”の恐れ、タリバンが春期攻勢を宣言****
内戦の泥沼化の様相が深まる中、アフガニスタンの反政府組織タリバンはこのほど政府軍、駐留米軍に対して「春期攻勢」の開始を宣言、戦闘が一段と激化しそうな雲行きだ。

トランプ米政権は増派も含め、アフガン政策を見直し中だが、ロシアやイランの影もちらつき、同国が”第2のシリア”になる恐れも強まってきた。

政府軍死者が2倍に
冬の間、雪に閉ざされるアフガニスタンでは例年、春の到来とともに戦闘の季節が明ける。今年もタリバンが4月28日の声明で、春季攻勢の開始を宣言した。

この宣言の直前の21日、タリバンの武装グループが北部マザリシャリフ近郊の治安部隊司令部を襲撃、礼拝中の新兵ら140人以上を殺害した。
 
一度の襲撃で起きた死傷者では最大の被害者数となり、この責任を取ってハビビ国防相とシャヒム陸軍参謀長が辞任、国軍幹部らも更迭された。

襲撃は、負傷した兵士を運んで来たように装った計画的なもので、実行したのはタリバンの“最凶”組織「ハッカニ・グループ」の選抜隊と見られている。
 
こうした襲撃や交戦などでアフガニスタン軍の死者は毎年拡大する一方で、2016年は一昨年の2倍以上の6700人が犠牲になった。民間人の死傷者も1万1418人と急増した。

タリバンは現在、国土の50%以上を支配、アフガニスタンは米軍の支援と国際的な援助でなんとか国家の体裁を維持しているのが現実だ。
 
アフガンに駐留していた米軍中心の国際治安部隊は最大14万人に上ったが、2015年までに一部米軍を残して大半が撤退した。現在は約8500人の米軍が残留し、政府軍の訓練、助言などとともに、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに対するテロとの戦いを続けている。
 
米軍はアルカイダの潜伏するパキスタン国境との部族地域に対する無人機空爆作戦を続行する一方で、ISの拠点のある東部ナンガルハル州での掃討作戦を強化。

4月中旬には、「すべての爆弾の母」と呼ばれる通常兵器では最大の大型爆風爆弾を投下し、ISの地下トンネル網を破壊した。しかしその直後の作戦では、米兵2人が死亡するなど被害も出ている。
 
トランプ政権の本音は1日も早いアフガニスタンからの軍撤退だろう。しかし今、米軍が手を引けば、同国がタリバンに取って代わられる可能性が強い。現状のままでも、タリバンが一段と勢力を拡大、ISもテロを活発化させて内戦が泥沼化、“第2のシリア”に陥りかねない。
 
特にISは拠点のあるナンガルハル州から活動範囲を拡大し、3月には首都カブールの国軍病院で自爆テロを実施、49人を殺害した。ISは最盛期の勢力からは弱まっているものの、依然1000人以上の戦闘員がいると見られている。
 
こうした状況の中で、トランプ政権は早急なアフガン政策の見直しを迫られており、4月には、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官らが相次いで同国を訪問、ガニ大統領らと会談した。

イラン、ロシアの影
とりわけトランプ政権は隣国のイランとロシアがタリバンを支援しているのではないか、との懸念を深めている。

イランとロシアはこれまで、米軍がアフガニスタンから撤退するよう要求してきたが、アフガン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官はこのほど米上院での証言で、両国が米国の取り組みを切り崩そうと図り、タリバン支援で連絡を取り合っている、と非難した。
 
同司令官によると、ロシアはタリバンを公式に正当な組織と認め始めており、イランはタリバンに直接的な支援を行っているという。イラン、ロシアともこの司令官の発言をねつ造と一蹴しているが、両国がタリバンを支援する理由は大いにある。
 
それは両国ともISに対する「防波堤」の役割をタリバンに担わせたいと願っているからだ。スンニ派のISにとってシーア派のイランは不信心者の最大の敵だ。イラクやシリアでは、イラン配下のイラクのシーア派民兵がISと戦っている。アフガニスタンでISが勢力を拡大することは隣国イランの安全保障が脅かされることを意味する。
 
シリアのアサド政権(シーア派系アラウイ派)を支援するため軍事介入し、国内のイスラム過激派対策に悩むロシアにとってもアフガンでのISの勢力拡大は阻止したいところ。ISがシリアでのロシアの空爆への報復を誓っていることもロシアの警戒心を高めている。
 
ロシアのプーチン政権はすでに、イラン、中国、パキスタンなどとアフガニスタンの和平交渉を主導する意欲を見せ、中東で強めている影響力をアフガンにまで広げようと図っている。
 
しかしアフガンの治安回復のため、これまで2400人もの将兵の血を流してきた米国にしてみれば、ロシアの動きは容認し難い。ロシアの動きをけん制するためにも、早急にアフガン政策を策定できるかどうか、トランプ政権の戦略が問われている。【5月2日 WEDGE】
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イラン・ロシアの動きはともかく、タリバン支援云々という話であれば、一番の責任はアメリカの同盟国でもあるパキスタンにほかなりません。

現在のパキスタン国軍・ISI(軍統合情報局)がタリバンにどういう関与をしているかはよく知りませんが、少なくともこれまでの経緯で言えば、パキスタンのタリバン支援(聖域の提供、武器・資金援助)がなければ、アフガニスタンの今の状況はなかったと言えます。

アメリカは、タリバンへの関与でイラン・ロシアに物言うなら、その前にパキスタンに対し明確な対応を迫るべきでしょう。それができないところに、アフガニスタンの混乱が収まらない原因があります。

ロシア主導の「和平協議の場」】
ロシアについては、アメリカに代わってタリバンとの和平を含む議論で主導権を握る狙いがあるとも。

*****<ロシア>タリバンとアフガン「和平協議の場」創設提案****
アフガニスタンの安定化を話し合うロシア主催の政府高官会議が14日、モスクワで開かれた。ロシアとアフガニスタン、中国、インド、パキスタン、イラン、中央アジア5カ国の計11カ国の外務次官や政府代表が参加。

旧支配勢力タリバンが支配地域を広める中、ロシアが米国に代わってタリバンとの和平を含む議論で主導権を握る狙いがある。
 
露外務省によると、ロシアはこの日の会議で、タリバンとアフガン政府の「和平協議の場」を創設するよう提案し、各国から賛意を得た。
 
ロシアは旧ソ連時代のアフガン侵攻(1979〜89年)以降、アフガンへの影響力を失ったが、近年は日本とも協力して警察官の養成事業を実施するなど関係強化に努めてきた。タリバンとの接触も深めている模様だ。
 
米国はこうしたロシア側の動きを警戒している。アフガン政府とタリバンの和平は米国が過去に繰り返し仲介を試みたが不発に終わった。

ロイター通信によると、マティス米国防長官は3月31日の記者会見で「ロシアが対タリバンの活動を活発化させており、懸念している」と述べた。
 
ラブロフ露外相は12日のティラーソン米国務長官との会談で、今回の会議に米代表が出席するよう打診したが米側は拒否した。【4月15日 毎日】
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和平が実現すらならアメリカ主導でも、ロシア主導でもかまわないのですが、アフガニスタン侵攻の苦い経験があるロシアがアフガニスタンの長期的国家再建に本腰を入れて深入りするようにも思えません。

せいぜいが、アメリカの向こうを張って・・・とか、ロシアの利害のために・・・といったレベルでしょう。

ウイグル問題から中国も関与を強める
アフガニスタンでのISの動きを封じ込め、自国への影響が及ばないようにしたい・・・というのは、中国も同じです。

****アフガンへの進出を図る中国****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月3日付け社説が、中国が最近アフガニスタン領土に軍隊を派遣したことが注目されたが、米国が期待するような、アフガニスタン情勢安定化に資するものではない、と、述べています。要旨、次の通り。
 
中国は最近アフガニスタン領に初めて軍隊を派遣したが、アフガニスタン領といっても、新彊ウィグル地区に接するワハン回廊(タジキスタンとパキスタンの間に細長く伸びるアフガニスタン領)である。

中国は最近新彊ウィグル地区でのウィグル人と思われる過激派の活動の活発化を懸念している。中国政府はウィグル独立派がパキスタンとアフガニスタンの支援を受け、アフガニスタン領で攻撃を準備し、同領内から攻撃していると憂慮している。

そこで中国は遅まきながら新彊ウィグル地区に接するアフガニスタン領内に、治安維持のため出兵を決めたと思われる。
 
たとえトランプ大統領がアフガニスタン安定の負担の一部を中国軍が負ってほしいと願ったとしても、失望させられるだろう。中国の目的は中国に対するテロ攻撃の脅威を無くすことに限定されているのである。(後略)【4月6日 WEDGE】
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なお、アメリカメディアが国連薬物犯罪事務所(UNODC)関係者の話として、アフガニスタンでアヘン生産が増加したのは中国産の遺伝子組み換えのケシの種が使われていることに起因するなどと報じた件については、中国側は「中国はケシ製品をアフガニスタンに輸出したことも、いわゆる『遺伝子組み換えのケシ』を植えたこともない」と完全否定しています。【4月26日 Record Chinaより】

女性の地位など、アフガニスタン住民の視点に立った和平協議を
先ほど“アフガニスタンの長期的国家再建”と書きましたが、重要なポイントのひとつが女性の地位確立です。

****離婚という新たなエンパワーメント、アフガン女性たちの挑戦****
家父長制が根強く、家庭内虐待が日常茶飯事のアフガニスタンで離婚はまれだが、ヘロイン依存症の夫からの暴力行為に耐えかねたナディアさんは夫を捨てた──。これは、多くのアフガニスタン女性には思いもよらない行動だ。
 
この国では今、新たな形でのエンパワーメントとして離婚に踏み切り、自立性を取り戻そうとする女性の数が増加している。このような現象がみられるのは初めてだ。
 
イスラム法でも離婚は許されているが、それでも最悪なパターンと考えられており、夫と別れる女性を許さない文化が形成されている同国では虐待そのものよりもさらに大きなタブーとされている。
 
ナディアさんは2年間、婚姻関係にあった男性について、「彼は薬物とアルコールの依存症だった。これ以上、一緒には暮らせない」と、全身を覆うブルカの奥で静かに涙を流した。部族の長老らは仲裁を試み、よりを戻すようナディアさんをなだめた。だが、ナディアさんは一族の中で離婚を求めた最初の女性となった。
 
ナディアさんは現在、国連開発計画(UNDP)プロジェクトの一環で2014年に創設された「リーガル・エイド・グラント・ファシリティ(LAGF)」の支援を通じて法的に離別する方法を模索している。「神は女性に権利を与えた。離婚はその一つ」とナディアさんは語る。
 
ナディアさんの夫は家を出て行き、その後の所在は不明となっているという。
 
全国的な統計は入手困難だが、アフガニスタン全土でLAGFが手掛けた離婚件数は過去3年間で12%増となり、離婚は増加傾向にある。
 
女性を蔑視する旧支配勢力タリバンが2001年に権力の座を追われて以来、アフガニスタンでは女性の権利を求める動きが活発化しているが、離婚問題は男女平等という目標がいかに実現困難であるかを示す象徴ともなっている。
 
離婚は男性にとっては比較的容易で、多くの場合は、離婚すると男性が妻に口頭で伝えるだけで処理される。だが、女性の場合は裁判を起こす必要があり、しかも夫との離別を要求する際には虐待やネグレクト(扶養の放棄)など具体的な申し立てを行わなければならない。

また、弁護士を雇うのは財力がある個人にとっても難しい。離婚訴訟で女性の弁護人が殺害の脅迫を受けることも珍しくないからだ。(後略)【5月2日 AFP】
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こうした問題は。政治の問題である以前に、社会・文化の問題ですが、女性の外出すら認めないような従来のタリバン支配のもとでは話にもなりません。

現在のタリバンの考えが多少は変わったとしても、タリバン単独支配下では多くは望めないでしょう。

和平協議を受けてのタリバンの政治参加で女性の地位が確保されるなら、それはそれで・・・というところですが、単に大国・周辺国のパワーバランスではなく、アフガニスタン住民の視点に立った協議を進めてくれるなら、ロシアだろうが、イランだろうがかまいません。
そんな意思のある国は・・・・どうでしょうか?
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