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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・モディ首相  「仮面」を脱いで、最大州首相にヒンズー至上主義「極右扇動者」を起用

2017-05-11 22:25:02 | 南アジア(インド)

(政権与党によりインド最大州の首相に任命された過激なヒンズー至上主義者・極右の扇動者として知られるヨギ・アディティヤナート氏  画像は“flickr”より By Santosh Raj Goswami )

モディ首相の公約にもかかわらず、汚染で死にゆくガンジス川
****印裁判所がガンジス川に法的権利認める 「命ある存在」、川が提訴可能に****
ヒンズー教の信仰の対象となっているインドのガンジス川とその支流のヤムナ川について、印北部ウッタラカンド州の裁判所が、「命ある存在」であり、人間と同様に法的権利を有するとの判断を示した。ロイター通信などが伝えた。
 
川の保護を訴えた裁判で今年3月20日、裁判所は、2つの川は「法的に保護され、傷つけられず、係争の当事者になる権利を持つ」とした。政府のガンジス川浄化事業責任者など3人を川の代理人と認定した。川は代理人を通じて裁判所に提訴することもできる。
 
ガンジス川は、現地名を「ガンガ」といい、ヒンズー教の女神の名前でもある。川沿いには最大の聖地バラナシがあり、川には多くの巡礼者が沐浴(もくよく)に訪れる。近年、産業・生活排水などにより、水質汚染が進み、日本はインドの浄化事業に協力している。【5月8日 産経】
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“(ガンジス川は)「命ある存在」であり、人間と同様に法的権利を有する”・・・・どういう意味でしょうか?

よくわかりませんが、もしガンジス川に命あるなら、汚染の進行に対して断末魔の悲鳴をあげていることは間違いないでしょう。

“行動力が自慢のナレンドラ・モディ首相は一昨年の就任後、「私には実績がある」として、向こう五年間で三十億ドルをかけて、国家事業として取り組むことを宣言した。さらに「二〇二〇年までに、ガンジス川に流れ込む水の処理率を一〇〇%にする」という目標を掲げた。”【2016年11月号 「選択」】

冒頭記事にもあるように、モディ首相は訪日時に日本側に協力を要請し、インドを重要な戦略パートナーと位置づける安倍首相は円借款による協力を約束しています。

しかし、モディ政権下においても汚染は進行し、“その後はインドの干ばつが加わり、全土で水不足が深刻化。ガンジス川は汚物がますます増えたばかりか、水不足にも悩まされるようになり、特に下流のバングラデシュでは、海水面が上昇してベンガル湾の島や沿岸地方が急速に水没するという事態になっている。”【2016年11月号 「選択」】というのが現状です。

モディ首相黙認で拡散するヒンズー至上主義
このあたりの話は、2016年11月18日ブログ“インド 行動力自慢のモディ首相による突然の高額紙幣使用停止  深刻な大気汚染と水質汚染”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161118でも取り上げたところですが、ガンジス川の汚染問題には、ヒンズー至上主義の宗教問題も絡んでいます。

****汚染で死にゆく「ガンジス川****
・・・・この結果、ガンジス川は飲料用としてはもとより、水浴や洗濯にさえ適さない。インドの「エコノミック・タイムズ」紙は、「川というよりは、汚水路といったほうが適切」と評し、ヒンドゥー教徒が行う聖地ヴァラナシでの沐浴は「もはや生命に危険」とする。
 
事態を複雑にするのは、浄化作業の司令塔であるはずの、ウマ・バルティー水資源相。長い正式な職名には、「ガンジス川再生」も付き、モディ政権の浄化にかける意欲を示している。

この人物は強硬なヒンドゥー教至上主義者で、若い頃から実力行使をいとわなかった女闘士。一九九二年にアヨーディヤで起こったイスラム教寺院の破壊事件にも加わった。この事件以外にも、イスラム教徒への暴力事件で複数の起訴、逮捕状が出ている。

「ガンジス川再生相」としては、「汚染業者の取り締まり」を掲げ、流域の製革業者に高額の「浄化税」を命じた。皮なめしは大量に水を使う仕事で、ガンジス川流域にも古くから製革業が根付いていた。
 
ところが、現在の製革業者はほとんどがイスラム教徒。彼らは「川の浄化は名目で、本当の目的はイスラム教徒迫害だ」と強く反発し、支払いをボイコットするなど中央政府との対決姿勢を強めている。
 
何でも政治問題化、宗教問題化するのは、現代インドの宿命。とはいえ、ガンジス川が死にゆくことは、地球環境にとって大打撃で、もはやインド一国の問題を超えている。一日十二億リットルと推計される汚水は、人類にとって大きな脅威。早急な国際的取り組みが必要だろう。【2016年11月号 「選択」】
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モディ首相については、就任当初から、インフラ整備促進などによる経済成長が期待される一方で、首相の過去の経歴が示すようにヒンズー至上主義の側面が色濃く、イスラム教徒との対立も懸念されてきました。

そのモディ首相の(黙認の)もとで、インド社会ではヒンズー至上主義的な動きが広まっています。

****<インド>ヒンズー教「自警団」、イスラム教徒に暴行相次ぐ****
牛を神聖視するヒンズー教徒が人口の約8割を占めるインドで、牛を守るヒンズー教徒の「自警団」がイスラム教徒を暴行する事件が相次いでいる。

ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党・インド人民党が各地で牛保護政策を進める中、一部のヒンズー教徒が過激化しているとみられ、イスラム教徒からは分断を懸念する声も上がっている。

 ◇牛保護名目 2年間で10人
「いきなりバイクの集団に囲まれた。『殺せ』と叫んでいた」。イスラム教徒のラフィークさん(24)は今月1日、西部ラジャスタン州で乳牛をトラックで運搬中、「自警団」を名乗るヒンズー教徒の約50人に囲まれ暴行を受けた。仲間の男性(55)は暴行が原因で死亡。ラフィークさんも鼻の骨を折るけがをした。
 
首都ニューデリー近郊では2015年、牛を食べたと疑われたイスラム教徒の男性が集団暴行を受け死亡している。今年も各地の高速道路で牛を運ぶトラックの襲撃事件などが相次ぎ、地元メディアによると、過去2年間で少なくともイスラム教徒10人が牛を巡り殺害されたという。
 
イスラム教団体幹部は「『愛国者』を名乗る集団がイスラム教徒を標的にしているが、政府は沈黙している」と憤る。最高裁は今月7日、中央政府と6州にこうした「自警団」の活動を禁じるよう命じたが、奏功するかは不明だ。
 
インドでは14年のモディ政権誕生以来、牛の保護政策が強まっている。西部グジャラート州議会は3月、牛の解体に対する罰則を終身刑に引き上げる改正法案を可決。3月に人民党政権が誕生した北部ウッタルプラデシュ州も場の取り締まりを強化した。【4月17日 毎日】
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イスラム教徒3800万人が暮らす最大州首相に悪名高いヒンズー至上主義者を起用
3月12日ブログ“インド モディ首相の中間評価とされる地方議会選挙 最大州で与党が圧勝”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170312で取り上げたように、3月に行われた地方選挙で首相率いる与党「インド人民党(BJP)」が勝利したことで自信を深めたのか、懸念されていたヒンズー至上主義の側面がますます露骨になっているようです。

****インドでも「極右勢力」が大躍進 宗教弾圧で分断される「十三億人****
「ヒンドゥー・ラシュトラ(ヒンドゥー教国家)建設を!」
 
モディ政権誕生から三年、こうした言葉を繰り返し耳にするようになった。「原油価格下落による安定した経済成長」という運がいいだけのモディ政権に対して、過大評価をそろそろ改める頃かもしれない。

ヒンドゥー至上主義による「偏狭で頑迷な政策」は拡大し、党内の極右勢力が力を強め、今やインドの人口比九九・三八%の地域で牛のが禁止となり、厳罰化が進んでいる。政官民を問わず極右勢力が暴走し、他宗教への弾圧の標的はイスラム教徒だけではなく、キリスト教徒への迫害も増加して今や欧米も懸念している。

最大州の首相に「極右の扇動者」
「ヒンドゥー至上主義者強硬派が州首相に」
三月下旬、現地各紙でこんな見出しが躍った。

世界最大の自治体であり、人口二億人を抱える大票田ウッタル・プラデシュ(UP)州議会選挙で、世論調査を覆して中央政府与党インド人民党(BJP)が四分の三以上の議席を獲得して圧勝。左派政党が強かった同州での右派圧勝は確かに驚きだが、驚愕すべきは選挙後の人事だ。BJPが州首相として指名したのが「極右の扇動者」として知られるヨギ・アディティヤナート氏だったからである。

「BJPではなく、(与党支持母体の)民族奉仕団(RSS)の意向が働いた」とメディアは当初騒いだが、そうではない。アミット・シャーBJP総裁とモディ首相の意向である。

極右のRSSでさえも御することが難しいほどアディティヤナート氏は独断的で攻撃的だが、BJPは諸々の問題はあれど同氏の「大衆を導き組織化する能力の高さと実績」を買ったとみられる。

同氏は度々、党を「ヒンドゥー至上主義を希釈化している」と批判し、選挙で反旗を翻して党公認候補を落選させてきた。党も同氏の実力を認めざるを得ない状況となったわけだ。

二〇一九年総選挙に向けて最大のカギを握る同州で、与党が極右政権を誕生させたことは、歯止めが利かなくなってきていることの表れだ。
 
さて、このアディティヤナート氏とは何者か。一九七二年生まれの同氏は、九二年のアヨーディヤ事件(ヒンドゥー至上主義の暴徒たちがイスラム教聖地のモスクを破壊し、インド各地に広がった宗教暴動)に関わった後、ヒンドゥー教僧侶に弟子入り。九八年に二十六歳で下院議員に初当選し、以降四期連続で再選している。
 
二〇〇二年に極右の青年組織ヒンドゥー・ユバ・バヒニを創設してUP州各地で問題を起こしてきた。〇七年には暴動を扇動した罪で十五日間服役した経験もあり、他に殺人未遂、武器所持、墓地荒し、脅迫など数々の余罪がある。
 
問題発言は数知れず。「マザー・テレサはインドをキリスト教化し、国を分裂させる陰謀家だった」「もし、奴ら(イスラム教徒)が一人のヒンドゥー教徒を殺せば、我々は百人を殺す」。さらには「浄化大運動」と題して、クリスチャンをヒンドゥー教へ力づくで改宗させて「インドとUP州をヒンドゥー教国家にするまでやめない」という。

こんな人物が「二億人のトップ」に指名されたのだから穏やかではない。ヒンドゥー至上主義の暴走は、日本人には気づきにくいが、在インドの欧米人は肌感覚で脅威に気が付いている。

「どんどん閉鎖、撤退しているようだ」
インドで活動する海外NGO関係者らの間で動揺が広がっている。「NGO大国」とも呼ばれる同国では、かつて三万三千ほどあったNGOのうち、モディ政権になってから二万が外国援助資金規正法への違反を理由にライセンス更新を拒否され、一万三千ほどにまで激減しているという。
 
インドの外国援助資金規正法は中道左派の国民会議派政権時代の一〇年に成立したものだが、モディ政権はこれを拡大解釈し「ヒンドゥー教保護」を目的に濫用している状態にある。(中略)

欧米が批判する「反改宗法」
同時に、五千万人以上とも言われるキリスト教徒への弾圧事件も増加している。例えばインド最大のメガチャーチは、一週間の礼拝者が十五万人を超え、米国最大のレイクウッド教会(四万三千人)の三倍以上だ。古くからキリスト教徒が多数派を占める南部ケララ州に加えて、最近は北東部の小さな州でもクリスチャンが急増し多数派を占めるようになっている。
 
こうした中、既得権が脅かされるヒンドゥー至上主義者たちは、なりふり構わぬ弾圧を行っている。昨年、聖職者への暴行や教会への焼き打ちなど、四百四十三件のキリスト教徒への暴力事件が発生した。

今年は最初の二カ月で百六十三件と倍増ペースだが、これも氷山の一角で、多くの場合は事件化されることさえない。米キリスト教迫害監視団体オープンドアーズによれば、インドには六千四百万人のキリスト教徒のうち三千九百万人は迫害を経験していると推計している。
 
警察を利用した謀略も増えている。例えば四月、UP州のある村の教会で「強制的に改宗を促している」との罪で牧師が警察に連行された。背後で嘘の密告により警察を動かした組織こそ、アディティヤナート氏の極右青年組織だ。今や極右組織が政官民に入り込み、キリスト教徒を犯罪者に仕立て上げるのが主流になりつつある。
 
BJPは二〇一四年の総選挙前、政権交代後に「(インド全土での)反改宗法」を制定する旨を公約に掲げた。同法は「強制的、詐欺的、あるいは誘惑して、改宗させることを禁ずる」法律だ。迫害者が悪用しやすいのは、前述の不当逮捕を見てのとおりだ。
 
すでに州法としてはグジャラート州を筆頭に少なくとも五州で施行されており、これらの州では取り締まりの名の下に私刑が横行している。

与党は未だ上院で多数派を占めていないが、選挙で過半数を占めれば厳罰化を含めた「反改宗法」の制定に動き出す公算が大きい。そうなれば非ヒンドゥー教徒は深刻な危機に直面するだろう。

モディ氏が州首相時代に成立させた「反改宗法」は欧米から激しい批判を浴びた。今回は代わりの「汚れ役」としてアディティヤナート氏を起用したともいえる。極右化が進む土着宗教政権は、持ち前の偏狭ぶりを隠そうともしなくなってきた。【2017年5月号 「選択」】
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仮面」を脱ぐ権力者 宗教対立激化の懸念
上記記事はキリスト教徒弾圧を取り上げていますが、(もちろんそれも大問題ですが)さらに大きな問題は、インドが抱える最大の問題であるヒンズー対イスラムの対立に火をつけかねないことです。

****モディが「仮面」を脱ぐとき****
首相再選を意識してポピュリスムとナショナリズムに傾倒か 宗教対立をあおる人事に不安と失望が渦巻く

ナショナリストの指導者はリベラルの希望を打ち砕くものだ。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領。

いずれも政権に就いた当初はポピュリスム的な政策と経済改革の均衡を取ると約束し、リベラル路線へのシフトさえにおわせたが、そんなポーズは長くは続かなかった。
 
インドのナレンドラ・モディ首相も似たような流れをたどっている。2~3月に行われた5州の地方議会選挙で、ヒンドゥー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)は、国内最大の州ウッタルプラデシュで圧勝。

人口2億人以上を擁する同州には約3800万人のイスラム教徒が暮らすが、モディが同州首相に選んだのは、イスラム教徒への差別発言を繰り返す扇動的な活動家でヒンドゥー教僧侶のヨギ・アディティナートだ。
 
この人選にリベラル派はもちろん、インドの世俗的民主主義の健全性とイスラム教徒の将来を懸念する人々も失望を隠さない。(中略)

14年5月の首相就任以来、モディは改革の旗手を名乗ってきた。これに対しリベラル派は、長年RSSの活動家だった彼の誠実さに疑念を抱いている。

それでも今までは、宗教対立をあおるような政策は基本的に回避して、それなりの経済成長を実現させてきた。しかし、アディティナートの起用により、モディがヒンドゥ土至上主義のナショナリズムを積極的に推し進めるのではないかという不安が再燃している。(中略)

多数派を占めるヒンドゥー教徒を優遇する姿勢を打ち出すほうが、19年の総選挙で再び勝てる可能性は高い、とモディは考えているのではないだろうか。
 
モディ政権は昨年11月に突然、2種類の高額紙幣の廃止を発表して議論を呼んだ。経済効果は疑問視されているが、今回の州首相任命は、そうしたポピュリズムヘの傾倒をさらに推し進めたとも取れる。
 
モディがリベラルな指導者だったことは一度もないし、そう装ったこともない。だが再選を意識するあまり、他国の保守的なナショナリストを手本にする恐れはある。
 
トルコのエルドアン大統領は国の統一と改革を約束して権力を握った後、強硬路線で権力を守っている。今のところ、モディはもう少し穏健的だ。

しかし、今回の件が何かを示唆しているとしたら、穏健さは一瞬で消える場合もあるということだ。【5月16日号 Newsweek日本語版】
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“今までは、宗教対立をあおるような政策は基本的に回避して・・・”という評価はどうでしょうか?
自身では煽らなくても、現実に宗教対立を煽る行動をとっている下部組織を黙認し、そのことがそうした下部組織の行動を推し進めることにもなっています。

今回のウッタル・プラデシュ州首相への「極右の扇動者」起用は、ヒンズー至上主義への階段を更に一段上がったように見えます。
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