
(ソウルの青瓦台で11日、ワイシャツ姿でコーヒーを手にして秘書官らと散歩する韓国の文在寅大統領(左から3人目)【5月13日 朝日】)
【文在寅新大統領のイメージ戦略、「文在寅フィーバー」の背景にある既存政治と国民の間の深い溝】
韓国新大統領に就任した文在寅(ムンジェイン)氏は、朴政権時代の「不通(プルトン)」「密室政治」という政治スタイルを一新するイメージを発信することで、政権交代を印象付け、国民の支持を集めようとしているようです。
****コーヒー片手に庭を散策・・・・文政権、「朴色」一掃急ぐ****
10日就任した韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が、弾劾(だんがい)・罷免(ひめん)された朴槿恵(パククネ)前大統領の政治スタイルを矢継ぎ早に塗り替えている。朴氏への批判の受け皿として当選したことに加え、約9年ぶりの革新系への政権交代を印象づける狙いがある。
ワイシャツ姿の文大統領がコーヒーを手に、首席秘書官と肩を並べながら青瓦台の庭を散策する――。12日、韓国各紙はこんな写真を1面に掲載した。
10日に就任した文氏は、朴前政権では想像できなかった姿を打ち出し、韓国メディアを驚かせている。その一つが秘書官らとの関係を変えたことだ。
朴氏は最側近も近づけず、秘書官らとさえ意思疎通を欠く「不通(プルトン)」と呼ばれる対応を続けた。そうした「密室政治」が民間人のチェ・スンシル被告の国政介入を許す背景になったと指摘されている。
文氏は12日から、青瓦台の執務室ではなく秘書棟で仕事を始めた。大統領府は「大統領は参謀らと近い距離で常にコミュニケーションを望んでいる」と説明、秘書官らと議論しながら日常業務を行うとしている。同日昼には、史上初めて、青瓦台の技術職の公務員と一緒に昼食をとった。
さらにメディアを驚かせているのが、文氏が大統領の行動日程を公開し始めたことだ。死者・行方不明者約300人を出した旅客船セウォル号沈没事故では、朴氏の当日の行動がはっきりしない「空白の7時間」が厳しく問われた。「警護上の弱点が流出する危険性がある」(朝鮮日報)との指摘もあるが、おおむね好意的に受け止められている。(後略)【5月13日 朝日】
*****************
まだ政権がスタートしたばかりで、すべてはこれからという段階ではありますが、少なくともこのイメージ戦略は大好評で“「文在寅フィーバー」とも呼ぶべき状況になっている”とのことです。
****文在寅氏が米国大統領のように・・・韓国初の異例の姿にネットが熱狂****
2017年5月10日、就任したばかりの韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が新政府人事発表の場で見せた「韓国大統領初」の姿に注目が集まっている。韓国・聯合ニュースが伝えた。
これまでの歴代大統領は、国民への談話や新年の記者会見など政治・政策的に重要な事案については、大統領自らマスコミの前に姿を現してきたが、人事については大統領府の広報首席や報道官が伝えるのが常だった。そのためマスコミでは、文大統領が報道官など広報ラインを一番に公開するものとみられていた。
しかしこの日、司会者の案内を受けた文大統領は、首相候補の李洛淵(イ・ナクヨン)氏、国家情報院長候補の徐薫(ソ・フン)氏、大統領秘書室長に任命された任鍾ソク(イム・ジョンソク)氏とともに入場すると、スーツの内ポケットから取り出した紙を見ながら自ら今回の人選理由について説明した。
報道支援秘書官内定者として会見の司会を担当したクォン・ヒョッキ氏は会見前、「大統領が就任直後に直接人事を発表するのは初めてのこと」と述べ、「候補時に『国民との疎通を重視する』という国民との約束履行の一環」と評価した。韓国ではこのほか「文大統領自身が人事に責任を負うという意味もある」などの指摘も出ているという。
文大統領は、記者会見の最後に「これからも今日のように、国民に報告したい重要な内容は大統領が直接話すようにする」と約束した。
一方、米国オバマ元大統領も、初の大統領任期が始まる直前の2007年12月に、上院議員のヒラリー・クリントン氏を国務長官に任命するなどの人選案を直接発表したことがあり、聯合ニュースはこの点に注目している。
これを受け、韓国のネットユーザーからは5000を超えるコメントが寄せられているが、「カッコいい」「これが実話だなんて!」「投票したかいがあった」「感動そのもの。表情に誠意がみえる」「さすが盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の友達だ」「意思の疎通ができる大統領を10年ぶりに見た」「これまでの政権とは明らかに違う。これが正常なのかもしれないけど、今までわれわれは時代錯誤的で封建制の女王の統治下で暮らしてたんだね…」「そうだ。こういう姿が見たかった。新しい世界、ひとつひとつ変わっていけば全てが変わる」と文大統領への称賛コメントが目立つ。
また、前回の大統領選と比較して「こんなにしっかりした人を差し置いて、能力のない絶対不通の朴槿恵(パク・クネ)を選んでしまった。前回の大統領選はあり得ない」「自分の見る目のなさが嘆かわしい」と過去を嘆くコメントや、安哲秀(アン・チョルス)候補に1票を投じたというユーザーからは「初心を忘れずに、素晴らしい国政の遂行をお願いします。韓国をお願いします!」と願う声も上がった。【5月11日 Record China】
****************
****韓国大統領が自分で服を脱いだ!文在寅氏の一挙一動にネットが熱狂****
2017年5月10日、韓国の新大統領に文在寅(ムン・ジェイン)氏が就任して以降、韓国のニュースサイトは新政府の人事や新たな政策などの話題で持ち切りだが、ネットユーザーの間では文大統領の人柄をうかがわせる行動の一つ一つに特に大きな注目が集まり、「文在寅フィーバー」とも呼ぶべき状況になっている。
11日午後、韓国の2大ポータルサイト、ネイバーとダウムでともに閲覧数・コメント数上位を占めたニュースは、「自分の服は自分で脱ぎますよ」という文大統領のせりふを見出しにした聯合ニュースの写真記事。
この日開かれた大統領府新任秘書官らとの昼食会の席で、文大統領が背広を脱ぐのを近くの職員が手伝おうとしたところ、大統領が職員を「いや」と制し、自ら上着を脱いで椅子の背に掛ける様子が6コマの写真に収められている。
やはり同時間帯に注目を集めたのはニューシスの「青瓦台(大統領府)敷地内を散策する文在寅大統領と参謀陣」で、こちらも写真記事。昼食会を終えた大統領が、7人の新たな側近らと並び談笑しながら歩いている。ほぼ全員が上着を脱いだワイシャツ姿、テークアウト用のコーヒーカップを持ち和やかな雰囲気が伝わってくる写真だ。
そしてこの日午前にも、文大統領の気さくな一面がみえるニュース1の記事が注目された。記事によると大統領は、ソウル市内の自宅から大統領府に向かう「出勤」途中、防弾装備の施された車からわざわざ降りて、見送りに集まった20人余りの住民や支持者らの元に歩み寄り声を掛けた。この時、一緒に写真を撮りたいとの住民らの要望にも嫌な顔をせず応じ、なんと大統領府の警護室長が撮影役に回ったという。
こうした記事それぞれにネットユーザーからは2000〜6000ほどのコメントが寄せられている。中でも最多の2万を超える共感を得たのは「国の空気が澄んだような気がする。愛してます、文在寅」という熱烈なラブコール。他にも「人の品格というものは行動一つで分かるね」「こういう姿が見たかった」「これ、本当に韓国なの?」「ちょっと文句を言ってやりたいくらいカッコよすぎる」「まだ就任2日目なのに、20年に感じられるくらい幸せ」「ああ、涙が出る。実に頼もしい」など、これ以上ないほどの称賛や幸福感を訴える声が並ぶ。
また、これまでの保守政権9年と比較し、「朴槿恵(パク・クネ前大統領)とは次元が違う」「いつも独り飯を楽しんでた朴さんとは違うね」「これが当然なのに、今まで僕らはおかしなものばかり目にしてきたから…」「これまでの9年が本当に恥ずかしい」「暗く長いトンネルを抜けて光あふれる外界に出たような気持ち」といったコメントや、「きっと国民に愛される大統領になるはず」「何かやってくれそうな気がする」と今後に期待する声も目立った。【5月11日 Record China】
******************
感情的振幅が大きい国民性や、ネット世論という特殊性はあるものの、まずは上々の滑り出しのようです。
朴前大統領退陣を求めるキャンドル革命や新大統領に対する熱狂ぶりの背景には、これまでの政治に顧みられてこなかったという若者を中心とした既成政治への不満・閉塞感があります。
****就職難と貧困悪化****
若者の間では「ヘル(地獄)朝鮮」という言葉が流行するほど就職難が深刻だ。若年層(15~29歳)の失業率は昨年、2000年以降最悪となる9.8%を記録した。
一方、収入が平均の50%を下回る世帯の比率を示す「相対的貧困率」は、65歳以上の高齢者で49.6%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の12.6%を大幅に上回る。高齢者の自殺率も10万人当たり55.5人と、OECD加盟国の中で最高。文氏は選挙戦中、「改革だけが内外の危機を克服し、国民の暮らしを守れる」と訴えた。【5月10日 時事】
********************
このあたりの韓国社会の抱える問題については多くの注目すべき事柄がありますが、今日の本旨ではないのでパスします。
指摘しておきたいのは、“自分で服を脱いだ”とか、たわいもないことがらに「文在寅フィーバー」が生じるほどに、過去の政権と国民の間に深い溝があり、政治が自分たちの声を代弁していないという思いがあった・・・ということです。
慰安婦問題に関する政府レベルの日韓の合意もそのひとつでしょう。
もちろん、日本からすれば、政権が代わったからといって国家間の合意がないがしろにされるのは国際的にも認められない・・・という話になるわけですが、個人的には、国民の考えと遊離した政権との合意に固執し、その維持にエネルギーを注ぐのも、あまり生産的ではないように思えます。
単に、国民相互の理解が重要といった“きれいごと”だけでなく、北朝鮮や中国の現実的脅威・問題に長期的に対応していくうえで、法律論・形式論で押しとおして勝ち得た(実質を伴わない)合意で上滑りするような日韓関係というのは、長期的みて大きな足かせにもなるように思われます。
この話も今日の本旨ではないので、これ以上深い入りはしません。(どうせ、日本国内、特に“ネット世論”では受け入れられない話にもなりますので)
【“質問一つできない韓国の記者”は“9年間”の結果か、原因か?】
で、今日取り上げたかったのは、政権とメディアの関係です。
先述のように政権と国民の間に深い溝があった韓国にあっては、政権・政治とメディアの関係も独特のものになったようです。
そのあたりを窺わせる非常に興味深い記事がありました。
****新政権発足で韓国国民の脳裏に浮かんだ7年前の「恥ずかしい」出来事****
2017年5月11日、韓国・クキニュースによると、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権で国家情報院(国情院)長に指名された徐薫(ソ・フン)氏の会見の様子に、韓国国民が7年前のある出来事を連想し憤りを覚えているという。
徐氏は新大統領から指名を受けた10日、大統領府で行われた記者会見で「これまで多くの政府が試みるも成し遂げられなかった国情院による政治介入の根絶を実現」するには「これが最後の機会だと思う」とし、健全な国情院の実現に意欲をみせた。
しかしこれを受けた記者団からの質問は意外にも少なかったという。徐氏は「今は国情院長の候補者だが、候補者の肩書がなくなれば皆さんの前に立つ機会はないだろう」と遠回しに質問を促したがついに追加の質問は出ず、「それでも興味がないのであれば終わりにしましょうか」として会見を終えた。
この様子が報じられると、韓国のネット掲示板などには取材陣に対する批判のコメントが相次いだ。その中で一部のネットユーザーが言及したのが、2010年、ソウルで開かれたG20サミットでの米国のオバマ大統領(当時)の会見だ。
この時、中国国営放送の記者が「アジアを代表して質問したい」としたのに対し、オバマ氏は「最後の質問は(開催国の)韓国の記者に」と返答、しかし韓国の記者は誰も質問せず、せっかく与えられた機会を無にしてしまったのだ。オバマ氏はなお「韓国語での質問なら通訳が要りますね」と配慮をみせたが、やはり質問は出ず、当時国民から非難の声が上がった。
この時の「恥辱」を思い出させるかのような今回の事態に、韓国のネットユーザーは2000件を超えるコメントを寄せており、「オバマさんの時のことは、本当に世界的な国の恥だった。質問一つできない韓国の記者も、言葉に詰まった朴槿恵(パク・クネ前大統領)もね」「記者って質問するのが仕事じゃないの?それもできない人間がなぜ会見に行くの?」「韓国の記者は実に情けない。いっそ記者も海外からスカウトしよう。海外には優秀な記者がたくさんいるよ」と痛烈な批判の声が並ぶ。
また一部では、国民との疎通を重視しなかった李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵政権の9年間がこうした「質問しない・できない取材陣」をつくり出したとの指摘もあり、「やはり染み付いた習慣というものは恐ろしい」「それなりにいい記者は、朴槿恵がクビにしてきたんだね」「朴槿恵政権の間、記者たちは質疑応答のやり方を忘れてしまったようだ」といったコメントもあった。【5月11日 Record China】
**********************
“質問一つできない韓国の記者”(与えられた情報を流すだけのメディア)というのが、“国民との疎通を重視しなかった李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵政権の9年間”の結果なのか、あるいはそいう政権を許した原因なのか・・・・。
欧米に比べると、日本もシャイなところがあって、大勢の前で意見・質問を述べるというのはあまり得意ではないようにも思えますが(そういう文化的風土の背景に何があるのかという議論は重要ですが)、韓国メディアも大きな問題を抱えているようです。
政権に対して主張しないメディアは、ポピュリズム的な世論動向に対しても沈黙・追随するだけの存在となるでしょう。
【「我々は役人に大声でしつこく質問できるジャーナリストを必要としている」】
前出記事が印象に残ったのは、アメリカの例の事件が同時期あったからでもあります。
****米、高官に質問繰り返した記者逮捕 「政治活動を妨害」****
米ウェストバージニア州の州都チャールストンの州議事堂でトランプ政権のプライス厚生長官に質問を繰り返した記者が「政府の活動を意図的に妨害した」として現行犯逮捕された。人権団体は10日、「表現の自由への攻撃」との声明を出し、懸念を表明した。
地元紙によると、地元メディアのダン・ヘイマン記者(54)が9日、政権が公約に掲げてきた医療保険制度改革法(オバマケア)の代替案の具体的な中身について質問をしながら、プライス氏とトランプ大統領の側近、コンウェイ大統領顧問を追いかけた後、逮捕された。留置場に入れられ、勤務先が保釈金5千ドル(約57万円)を払った末に保釈されたという。
同記者は、質問に応じない閣僚に粘り強く答えを求めるという「自分の仕事をしただけ」と記者会見で述べた。一方、ロイター通信によると、州当局は「単に質問しようとしただけではなく、警護官を押しのけようとした」と話している。
人権擁護で有力な米自由人権協会(ACLU)は、現場が政府庁舎の廊下で、質問内容も代替案におけるドメスティックバイオレンス(DV)の扱いという公益に利するものだったと指摘した上で「(表現の自由を保障する)憲法修正第1条への容認できない攻撃」と批判した。
同協会は、トランプ氏が日常的に報道機関を攻撃していることを指摘した上で、「我々は役人に大声でしつこく質問できるジャーナリストを必要としている」と訴えた。【5月12日 朝日】
******************
「オルタナティブ・ファクト」で名を馳せたコンウェイ大統領顧問ですから、記者逮捕についても関与があったのだろうか・・・とも思ってしまいますが、ヘイマン記者によると、プライス長官の身辺警護に当たっていたシークレットサービスが、警察に指示してヘイマン記者を逮捕させたとのことです。【5月12日 CNNより】
記者の逮捕自体は別にトランプ政権の直接の意向ではないでしょうが、トランプ政権がメディアとの対立関係を醸し出していることは事実です。そうした雰囲気が生んだ事件でしょう。
「フェイクニュース」というトランプ大統領のメディア攻撃はいつもの話ですが、自分を批判するメディアがどうしても許せないようです。
****【トランプ政権】トランプ大統領、定例記者会見の中止を検討 「書面回答の配布が最善策かも」****
トランプ米大統領は12日、ツイッターで連邦捜査局(FBI)のコミー前長官の解任をめぐり批判的な報道を展開しているメディアへの不満を表明し、ホワイトハウスの定例記者会見の中止を検討していることを明らかにした。
トランプ氏は「色々なことが起きていて、私の代理人(大統領報道官)が(発表内容に)正確を期すことが不可能になっている」とした上で、「今後は記者会見を開かずに、書面回答を配布するのが最善策かもしれない」と書き込んだ。
その後、FOXニュースの番組とのインタビューで司会者から「(会見中止は)本気なんですか」と聞かれると、「代わりに自分で2週間に1回会見する。良いアイデアだと思うのだが」と述べ、実行に移す可能性を強く示唆した。
同日の記者会見で発言の真意について聞かれたスパイサー大統領報道官は「大統領は報道に幻滅している」と語り、問題はメディアの側にあると主張した。
これに対し、ホワイトハウス記者会は強く反発。「定例記者会見を廃止すれば、説明責任や透明性、米国の制度ではいかなる政治家も質問から逃れられないという事実を米国民が目にする機会が減る」とする声明を発表した。【5月13日 産経】
********************
こうした事態がロシア・中国ではなく、民主主義の“お手本”とされてきたアメリカで起きているというのが、なんとも悲しむべきことに思われます。