孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマーに行ってきます。

2016-11-19 21:19:33 | 身辺雑記・その他

(パアンの聖地チャウ・カラットの幻想的な風景【http://www.pitt.jp/tour/cplan.php?tour_code=MYC-08】)

今日からミャンマー旅行です。
今日は、朝一番に鹿児島から関空へ移動、北京経由のAir Chinaでヤンゴンに入ります。到着は深夜の予定です。

ミャンマーは周遊コース、古都マンダレー、首都ヤンゴンに続いて4回目になります。
ガイドブック的な代表観光地はほぼ回ったので、今回は“最近人気が出ている”とも言われている、東部のモウラミャイン(モン州の州都)とパアン(カイン州の州都)。

当初はロヒンギャで問題となっている西部のラカイン州も考えたのですが(もちろん観光で)、交通の便がよくないこともあって、東部にしました。

最近のラカイン州の不穏な情勢を見ると、変更してよかったかも。

パアン、モウラミャインは冒頭写真のような風景に惹かれてではありますが、写真のような幻想的な光景には実際はなかなかお目にかかれないことは承知しています。

まったりとすごしたい・・・といつも思うのですが、貧乏性のため、あちこち駆け回ります。今回も・・・

(鹿児島空港にて)





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台湾  突出して親日的な台湾でも、日本の原発事故被災地からの食品輸入再開は政治問題化

2016-11-19 20:56:07 | 東アジア

(映画「湾生回家」ポスター 引き揚げの風景でしょうか)

台湾で生まれ育った「湾生」 外省人も戦争が生んだ異邦人
「湾生」(わんせい)という言葉、今まで知りませんでした。
日本統治下の台湾で生まれ育った日本人のこととかで、そういうことであれば、私の母も「湾生」です。

祖父が教員として台湾に赴任していたため、台湾で生まれ、二十歳頃まで台湾で過ごし、日本へ引き揚げてきました。

そうした「湾生」の台湾への思いを描いたドキュメンタリー映画「湾生回家(わんせいかいか)」が公開されています。昨年の台湾での公開では、若者を中心に異例の大ヒットとなったそうです。

****台湾生まれの日本人「湾生」を知っていますか****
<ドキュメンタリー映画『湾生回家』の黄銘正監督に聞く、戦後日本に引き揚げた台湾出身の日本人「湾生」に共感する台湾の人々の心情>

1895〜1945年の50年間、日本が台湾を統治していたことはよく知られている。では、その間に台湾で生まれ育った「湾生(わんせい)」と呼ばれる日本人についてはどうだろうか。

当時、公務員や駐在員、軍人のほか、開墾のために移民として多くの日本人が台湾に渡った。日本の敗戦後、日本本土へ帰還したのは約50万人。うち20万人が、台湾で生まれ育った湾生だとされる。

湾生にとっての故郷は台湾であり、わずかな荷物だけを持って未知の国・日本へと連れ戻されたときの混乱と苦労は計り知れないものがあっただろう。そんな彼らの台湾への思いを丁寧にすくい上げたのがドキュメンタリー映画「湾生回家(わんせいかいか)」だ(日本公開中)。

40人近い取材対象者の中から6人の湾生の声を中心に構成しているが、単なる老人たちの郷愁の物語ではない。彼らの人生はもちろん、日台の歴史と関係について改めて知ることも多い。

昨年公開された台湾では、若者を中心に異例の大ヒットとなったという。

監督は台湾人の黄銘正(ホアン・ミンチェン)。プロデューサーと同郷だったことから監督として声を掛けられ、「そのときに初めて湾生という言葉を知った」という黄に話を聞いた。

*******
――「湾生」という言葉を知らなかったそうだが、なぜ題材として追ってみようと思った?

以前から日本は親しみやすい国だと思っていたし、日本人に対してもそういう感情があった。台湾の中には今も日本文化の跡がたくさん残っていて、生活の中にも生きている。建築もそうだし、食べ物もそうだ。例えば台湾のオーレン(黒輪)は、日本のおでんからきている。台南地方では日本料理がとても好まれる。

私の祖父母は日本語を話す世代で、2人が内緒話をするときは日本語でしゃべっていたのを覚えている。一方で、私たちの世代は歴史をちゃんと教えてもらっていなくて、台湾にはなぜこんなに日本文化が残っていて日本語を話す人がたくさんいるのか、よく理解できていなかった。

この映画を撮ることは、自分自身の「なぜ」という謎を解くという意味もあった。

――台湾で若い観客が多かったのは、あなたのそうした思いと通じるものがあったからだろうか。

確かにそれはあったと思う。今の台湾の若者と日本の接点といえばマンガやアニメがほとんど。ゲームで日本語を覚えたりしているが、かつて日本が台湾にどんな影響を与えたかは本当には理解していない。だから僕と同じような好奇心があったと思う。

――台湾では日本に対する国民感情がいいと言われる。占領したことには変わりないが......。

50年間の日本による統治があり、台湾の人たちはその後も日本に対して懐かしい思い、親日的な思いを抱いていた。政治的、歴史的に言えば台湾人は被害者で、日本人は加害者なので不思議なことでもあるが。その背景には日本が引き揚げた後にやってきた中国の国民党が非常に高圧的な政治をしいたことがある。それと比較して日本の方が良かったということだろう。(中略)

――映画の中では「異邦人」というキーワードが出てくる。アイデンティティーについては台湾の人々も問題意識があるのだろうか?

台湾の歴史の背景というのは非常に複雑で、オランダ、スペイン、日本の植民地になり、さまざまな文化が混ざり合っている。(中略)
 
一方で、自分がいったい何者なのか分からない、「異邦人」のような状態も生まれ得る。日本の植民地時代は「日本人」とされていて、49年に国民党が台湾に来ると「中国人」になったように。

台湾にはもう1つの異邦人もいる。それは中国大陸から蒋介石とともに台湾に渡ってきた外省の人々で、彼らは大陸に二度と帰れなくなってしまった。彼らもまた湾生と同じように、戦争が生んだ異邦人だろう。【11月15日 Newsweek】
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“湾生にとっての故郷は台湾であり”・・・・私の母の場合は、台湾生まれ、台湾育ちとは言っても、日本統治下の日本人社会で日本人として生活していた訳で、“台湾”という土地や現地の方々への特別な思いはないようです。あくまでも東京や鹿児島など内地と同列のようです。

母は女学校時代に弓道に専心しており、東京で開催された当時の国体に台湾代表として参加したほどで、台湾当時の記憶というと、そうした弓道の練習に明け暮れた毎日の思い出のようです。思いは人それぞれです。型にはまった思い込みは禁物です。

ただ、所持品も殆ど許されず、すべてを置いての引き揚げは大変だったようです。

突出した日本への親近感
台湾が現在極めて親日的であることに関しては、日本人としても不思議に感じるほどです。

****加速する台湾人の「日本好き」、まるで「日本だけに好感を持っているようだ」=中国****
2011年に発生した東日本大震災の際、台湾は非常に多額の義援金を日本に送ってくれた。4月の熊本地震の時もすぐさま支援の提供を申し出ており、台湾の対日感情の良さをよく示していると言える。

実際、最近台湾で行われた対日感情に関する調査によると、台湾人の「日本好き」は今なお強く、しかも加速しているように見えるという。中国メディアの華夏経邦網はこのほど、その調査結果について分析する記事を掲載した。

これは、日本の対台湾窓口である交流協会が台湾で行った対日感情に関する調査で、台湾の56%の人が、最も好きな国として日本を選び、過去最高の数字を記録したという。

同調査は2008年から始まっており、最も好きな国として日本を選んだ人は1回目の調査から順に38%、52%、41%、43%であり、今回は56%となったという。記事は、今回の数字は高いものの、右肩上がりではないことを指摘した。

しかし、台湾の他国への好感度と比べるとその差は明白だ。2位の中国はわずか6%、3位の米国が5%、4位のシンガポールは2%と、非常に低く、まるで「台湾人は日本だけに好感を持っているようだ」と感想を述べた。

とはいえ、台湾人が皆同じように日本を好きだとは決めつけてはいけないとも指摘している。年代別の調査によると、対日感情には「温度差」があるのだという。

日本では、日本式の教育を受けた高齢者に日本好きの傾向があると認識する人もいるが、むしろ好感度が高いのは、日本文化の影響や日本への旅行で日本が大好きになった若者の世代であり、若者の世代の対日感情が台湾の日本への好感度の高さにつながっていると説明した。

今後、日本と台湾との関係はさらに緊密になることが期待される。台湾が今後親しくするべき国について、日本が最も多く選ばれたという調査もある。

また、日本人の台湾に対する感情も良好だ。日本と台湾の加速する「相思相愛」ぶりが見て取れるが、世界には台湾以上に対日感情の良い国や地域はなく、台湾はやはり日本が大切にするべきパートナーと言えそうだ。【8月17日 Searchina】
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一方で、中国と台湾の「一つの中国」「92年コンセンサス」をめぐる確執は再三取り上げているところで、独自路線を強める民進党・蔡英文政権に対し圧力を強めています。最近では、国際刑事警察機構(ICPO)年次総会からの締め出しなども話題になりました。

中国が台湾に迫るほどに、台湾は中国から離れる、結果、日本への親近感も強まる・・・・というのが、今のところの状況です。

****台湾人、どうしてそんなに日本人が好きなのか それはわれわれが敵意を抱かせているからだ=中国****
台湾で民進党の蔡英文政権が発足して以降、台湾と中国大陸とのいわゆる「両岸関係」はぎくしゃくした状態が続く。この状況に伴って、台湾と日本との交流がより盛んになっており、大陸側は絶えず蔡政権をけん制する言論を発し続けている。

 
中国メディア・台海網は18日、「台湾人はどうして日本が好きなのか」とする記事を掲載した。(中略)かくも多くの台湾人が日本に好意的な姿勢を持っている背景について「皇民史観に帰結するのは不正確。今この状況にあるのは、やはり現実的な要因があるのだ」とした。

そのうえで、「現実的な要因」として、まず日本と台湾の間では利害関係の衝突が少ない点を挙げた。(中略)次に、台湾の「脱中国化」ムードも関係していると説明。民進党にしろ現地メディアにしろ、さらに学術界までもが非中国的な歴史観の構築に努めている状況であると批判した。

さらに、礼儀正しさ、清潔さなどを含めた日本のソフトパワーの強さについても言及。この点は香港や大陸も影響を受けているが、地理的に近い台湾が受ける影響はより大きいと論じた。

記事は、蔡政権が日米の力を借りて大陸とのパワーバランスを保とうとしている一方、日本はもともと自国の利益に基づいて行動しており、決して大陸との関係を捨ててまで台湾の肩を持つようなことはないと指摘。

日台間の心理的な距離は、かなりの部分で中台社会の心理的な距離と連動しているとし、大陸が現在やるべきことは「可能な限り両岸の敵対的なムードを和らげ、台湾人に敵意や圧迫感を抱かせ続けないことだ」と伝えている。(後略)【11月19日 Searchina】
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「可能な限り両岸の敵対的なムードを和らげ、台湾人に敵意や圧迫感を抱かせ続けないことだ」・・・現実には逆行していますが。香港でも同様です。

中台間の「血のつながった骨肉の兄弟」】
もっとも、「自分は中国人」と考える台湾人の割合が増加したとの調査もあるようです。

****自分は中国人」台湾で増加=中国政府「血のつながった骨肉の兄弟****
2016年11月16日、中国政府で対台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光(マー・シアオグアン)報道官は定例記者会見で、台湾で行われた民族アイデンティティー調査で「自分は中国人」と考えている人が増えたことについて、「両岸(中国と台湾)同胞は血のつながった骨肉の兄弟だ」と述べた。環球網が伝えた。

台湾のシンクタンク「台湾競争力フォーラム」がこのほど発表した調査結果によると、「自分は中国人」と考える台湾人は今年上半期の46.8%から52%にまで上昇した。また、86%の人が「自分は中華民族」と考えていることも分かった。(後略)【11月17日 Record china】
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“血のつながった骨肉の兄弟”というのは、やはり日台関係にはない重要なファクターです。

日本の原発事故被災地からの食品輸入再開をめぐる混乱 台北市長「私は日本人を信じている」】
上記のように台湾・日本の緊密な関係にあって、例外的に“揉めている”のが、日本の原発事故被災地からの食品輸入再開をめぐる問題。

台湾当局が日本の被災地の食品の輸入再開を進めていることに対して各方面から疑問の声が上がっており、特に、野党・国民党サイドが政権批判につなげるべく、批判を主導しています。

****日本からの食品輸入めぐり台湾が混乱、賛成派市民はどのくらい****
2016年11月15日、台湾で日本の原発事故被災地からの食品輸入再開をめぐる混乱が続く中、国民党は「市民の7割が再開に反対」とする意識調査の結果を発表した。環球時報が16日付で伝えた。

調査は国民党の立法院議員らが調査会社に委託して実施したもので、蔡英文(ツァイ・インウェン)政権が進める被災地5県からの食品輸入再開に対し、74.6%の人が「反対」と答えた。「賛成」は17.7%。

63.7%が「安全に疑問が残るのであれば輸入すべきではない」との考えを示し、「国際基準に合致しているのであれば輸入してもよい」という人は29.5%だった。

また、38.6%が「民進党が政権を握って以来、食品の安全検査基準が緩くなった」と回答しており、国民党は民進党に対して民意に背かないようにとの訴えを行っている。

台湾行政院は12日から14日にかけて輸入再開に関する公聴会を10カ所で開くことを決めたが、各地で混乱が見られた。13日に台中市の病院で開かれた公聴会は反対派がスピーチ台を占拠するなどして中断される事態に追い込まれている。【11月16日 Record china】
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こうした動きに対し、台北市の柯文哲市長は、「私は日本人を信じている」と述べたそうです。

****私は日本人を信じている」=被災地食品の輸入解禁で台北市長が発言****
2016年11月14日、台湾・東森新聞によると、台湾当局が日本の被災地の食品の輸入再開を進めていることに対して各方面から疑問の声が上がっていることについて、台北市の柯文哲(カー・ウェンジャー)市長は、「私は日本人を信じている」と述べた。

台湾で12〜14日に開かれた公聴会で、「蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が決定すれば(日本の被災地の食品を)食べるのか」と問われた柯市長は、このように回答した上で、「日本人が他国に輸出できるのであれば(問題ない)。彼らは自らを追い込むようなことはしない」と強調した。

戴錫欽(ダイ・シーチン)市議が、「日本の被災地からの輸入品を一つ一つ、あるいは細かく検査できず、ただ誠意に頼って解禁するのであれば、そのリスクは誰が負うのか?」とただすと、柯市長は「台湾には問題のある食品も多い」と回答。戴市議は「そんなロジックが通用するのか」と批判した。

柯市長は、自身は医学の専門家(外科医)であり、当局がどのような検査を行うのかを見た上で判断するとし、もし当局の基準が食品の安全を確保できないものであった場合には、市民の健康を第一に考えて対応するとしている。【11月15日 Record china】
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なんともありがたい信頼です。
ただ、国民党の抗議行動は続いています。

****台湾最大野党、日本からの「核汚染食品の輸入解禁に猛反対****
台湾・台北(Taipei)の議会で18日、最大野党の国民党(KMT)の議員らが日本からの「核汚染食品の輸入解禁に猛反対」と書かれたプラカードを掲げる行動を取った。
国民党は政府に対しこの件についての公聴会を再開し、林全行政院長(首相)が議会に報告するよう要求した。【11月19日 AFP】
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原発事故に敏感な国民感情
原発再稼働を進める日本に対し、台湾では福島第一原発事故を重く受け止め、「原発ゼロ」を進めています。
そうした原発事故・放射線障害に関する敏感な国民感情も背景にあってのことのようです。

****台湾が原発全廃へ 福島第一事故受け、25年までに停止****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権が2025年に「原発ゼロ」にすることを決め、行政院(内閣)は、再生エネルギー事業への民間参画を促す電気事業法の改正案を閣議決定した。

太陽光と風力発電を中心に再生エネの割合を20%まで高めることを目指す。東日本大震災後の反原発の民意を受けたもので、改正案は近く立法院(国会)で審議に入り、年内の可決を目指す。
 
世界的にはドイツが2022年までの原発全廃を決めるなど、欧州を中心に脱原発の動きがある。一方、増える電力需要に応えるため中国やインドが原発を増設させており、アジアでは台湾の取り組みは珍しい。(中略)
 
台湾では原発が発電容量の14・1%(15年)を占め、現在は第一~第三原発で計3基が稼働中。だが、東京電力福島第一原発の事故で台湾でも反原発の世論が高まり、原発ゼロを公約に5月に総統に就任した蔡氏が政策のかじを切った。稼働中の全原発は25年までに40年の稼働期間満了となる。同法改正案では25年までに全原発を停止すると明記し、期間延長の道を閉ざす。(中略)

政権は原発に代わる電力源として再生エネルギーに力を入れる。太陽光と風力発電を再生エネの柱とし、発電容量の割合を現在の4%から25年には20%に拡大することを目指す。(中略)

再生エネは天候などに左右されるため、同時に節電や蓄電にも取り組む。ただ、太陽光発電は10年で24倍にする計画で、政権の思い描く通りに進むのかどうか疑問視する声もある。電力関係者の間からは「実現のハードルは非常に高い」との指摘も出ている。【10月22日 朝日】
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明日から9日ほどミャンマー観光にでかけます。そのため、ブログ更新ができない日もあります。
あしたは移動日で、まず無理でしょう。
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インド  行動力自慢のモディ首相による突然の高額紙幣使用停止  深刻な大気汚染と水質汚染

2016-11-18 22:19:13 | 南アジア(インド)

(インド東部のコルカタで、500ルピー札と1000ルピー札の預け入れや交換を求めて銀行の外に並ぶ人々(2016年11月10日撮影)【11月13日 AFP】)

政府「みなさんなら国家のためにやり遂げることができる」 国民「もう与党には投票しない」】
多くの途上国も同様でしょうが、インドも政府が把握していない資産や所得、いわゆる“ブラックマネー”が膨大な規模で存在しています。

国民は政府を信用しておらず、納税意識も低く、一方、政府は税収不足で十分な施策もできない・・・大規模な地下経済、ブラックマネーの存在は、途上国が途上国である所以でもあります。

モディ首相は、9月までの4か月間に、これまでの秘匿に対する恩赦を与えることで自発的な申告を促していました。

****インド人の隠し所得は総額1兆円、政府の恩赦で申告相次ぐ****
インドで、ナレンドラ・モディ首相のもと、政府がブラックマネーを撲滅する目的で実施した「税金恩赦(タックス・アムネスティ)」にもとづく国民たちからの申告で、隠し所得の総額が100億ドル(約1兆130億円)近くに上ることが分かった。
 
アルン・ジャイトリー財務相は1日、ニューデリーでの記者会見で、9月30日に終了した4か月間の恩赦期間中に、それまで明かしていなかった資産や所得があるとの申告が6万4275件あり、その総額は6525億ルピー(約9930億円)に上ると明らかにし、「これほど多くの人々が申告したということは、大勢の人たちが税法を順守したいと望んでいることを示している」と述べた。

集計作業が完了すれば、この数字は上方修正される可能性もあると語り、追加の歳入は公共福祉政策に役立つだろうと付け加えた。
 
インドの納税者数は驚くほど少ない。確定申告をする人は全人口13億の2.5%程度だ。主な要因は、組織化されていない産業分野に雇用されている膨大な数の人たちに、現金で報酬が支払われているためだとされてる。【10月2日 AFP】
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この「税金恩赦」による隠し所得探しとどのように連動しているかは知りませんが、モディ政権が今月、突然の高額紙幣の廃止決定という荒療治に出ていること、それによりインド国内で大混乱が起きていることは周知のところです。

****インド首相「高額紙幣、4時間後に無効」 混乱は必至****
インドのモディ首相は8日夜、テレビ演説し、高額紙幣の1千ルピー(約1600円)札と500ルピー(約800円)札を演説の約4時間後から無効にすると突然、発表した。
偽造紙幣や汚職、資金洗浄などの根絶が目的。

旧紙幣は10日以降、銀行などでいったん預金した後で、新紙幣で引き出せるとしているが、混乱は避けられそうにない。
 
新紙幣は2千ルピー札と500ルピー札の2種類。旧紙幣での預け入れは「1週間に2万ルピー(約3万2千円)まで」などと上限が設けられている。地元テレビは、発表の直後から、使用不能になる高額紙幣を現金自動出入機(ATM)で預金してしまおうと、銀行に人々が殺到する様子を伝えている。
 
政府系の病院や鉄道、ガソリンスタンドなどでは例外的に引き続き旧紙幣を使えるとしているが、ニューデリー市内のスタンドは高額紙幣の受け取りを拒否し始めた。
 
モディ氏は偽造紙幣がテロの資金源になり、インフレの原因になっているとして、「一時的に困難はあるが、みなさんなら国家のためにやり遂げることができる」と忍耐を求めた。
 
ただ、中央銀行の当局者は記者会見で「最初の15〜20日は混乱が予想される。とにかく新紙幣を刷り続ける」と、準備が整っていないことを暗に認めている。【11月9日 朝日】
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行動力が自慢のモディ首相の剛腕ぶりはさすがですが、「みなさんなら国家のためにやり遂げることができる」・・・・こんなときだけ持ち上げられても困ります。

“4時間後から無効”になると言われればパニックにもなりますが、銀行での交換は1回4000ルピー、旧紙幣での預け入れは「1週間に2万ルピー(約3万2千円)まで」ということでは、対応も難しいものがあります。当然、銀行は長蛇の列です。

準備が整っておらず「とにかく新紙幣を刷り続ける」とのことですが、新紙幣との交換期間は12月30日までとされています。

“紙幣不足を防ぐため、銀行の交換は1回4000ルピー(4500ルピーとの報道も)、預金の引き出しは1週間2万ルピーに制限。このため手持ちの現金が足りなくなる人が続出し、混乱に乗じて旧紙幣を安く買う闇業者も出始めた。また南部テランガナ州では土地を売って得た現金540万ルピーが無価値になると思い込み、女性(55)が自殺した。”【11月12日 毎日】

インドを観光旅行した際に、南部のトリヴァンドラムの銀行で両替を行ったことがありますが、あまりの非効率ぶり(途中で停電の“おまけ”付き)に、非常に困惑・憤慨した記憶があります。
(今回措置で、私が持っている前回旅行の使い残し紙幣1000ルピー、500ルピー札各1枚も無効となりました。残念)

非効率な銀行職員ではなく、ATMが相手してくれればまだ救われますが、それも難しい状況のようです。

****高額紙幣を廃止のインド、ATM調整には数週間 財務相****
・・・・国内のATMの多くは11日に停止し、サービスを継続していたATMも大勢の人々が利用したため、たちまち現金がなくなった。
 
ジャイトリー財務相は技術的な問題を理由に、ATMが新デザインの500ルピー札と新2000ルピー(約3200円)札を取り扱えるようになるのは数週間後だと説明。首都ニューデリーで記者団に対し、「技術的に調整に約2~3週間かかる。中央制御を切り替え、約20万台の機器を個別に変更する必要がある」と述べ、「新紙幣はサイズが違うので、機器の調整は時間をかけて行われている」と付け加えた。(中略)
 
銀行での長蛇の列と人々の混乱は、政府がなぜ問題を早期に解決しなかったのかと疑問を持つ人々の怒りを招いている。【11月13日 AFP】
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抜き打ちで行うところにブラックマネー対策の意味もあるのでしょうが、これでは市民生活がまわらなくなります。
さすがに、一部で緩和措置がとられたようですが、一般の人々の交換上限は更に引き下げられ、しばらく混乱は続きそうです。

****高額紙幣廃止で混乱のインド、結婚式控えた世帯と農家に特例措置****
高額紙幣の廃止で国民の不満が高まっているインドで17日、政府は、農業従事者と結婚式を控えている世帯に限り、銀行からの現金引き出し額の上限を引き上げるという新たな措置を発表した。
 
先週、流通していた現金の85%を占めていた紙幣を廃止するという衝撃の発表が行われて以来、銀行前には旧紙幣を新紙幣に交換しようという人々が長蛇の列を作っている。

12億人の人口を抱える同国では結婚式シーズンが近づいており、結婚式の予定にも混乱が生じている。(中略)
 
一方、高額紙幣の廃止は農業にも影響を及ぼしている。農家は冬季の種まきシーズンが近づいているにもかかわらず、種や肥料の購入がままならないと訴えている。(中略)
 
同時に、上記に当てはまらない国民にとってはさらなる打撃となる方針も示された。ダス氏(財務次官)は、個人の旧紙幣から新紙幣への交換上限を、これまでの4500ルピー(約7200円)から2000ルピー(約3200円)に引き下げると発表。これは、より多くの人が少なくともいくらかの現金を持てるようにという配慮だと説明している。【11月17日 AFP】
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「銀行口座がないので預金もできない。もう与党には投票しない」(1万ルピーのへそくりを抱える主婦)【11月12日 毎日】という怒りで、政権支持率にも影響しそうです。

なけなしの資金をタンス預金していた庶民はパニック状態ですが、大富豪は少しも困っていないようです。

****娘の結婚式に82億円 高額紙幣廃止で混乱のインド大富豪****
高額紙幣の廃止決定に揺れるインドで16日、鉱山王ガリ・ジャナルダン・レディ氏が、王宮を貸し切り、ブラジルからダンサーを招くなど、7500万ドル(約82億円)をかけて娘の結婚を祝った。
 
インド南部にあるチューダー様式を模したバンガロール宮殿には最大5万人の招待客らが、同日ヒンズー教の儀式で結婚したレディ氏の娘を祝うために集まったとみられている。
 
地元メディアは、政府が脱税対策として高額紙幣の流通を停止した影響で、多くの国民が食料などを買うための現金を求めて困窮している状況下でのレディ氏の浪費を非難した。
 
一方あるレディ氏の関係者は、この浪費について、一人娘の結婚式をみんなの記憶に残してもらいたかったからだと、同氏を擁護した。【11月17日 AFP】
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【「外はまるでガス室だ」「1日にタバコを2箱以上吸うのに等しい」】
毎年、この時期になると中国大都市の深刻な大気汚染が話題になりますが、インドの汚染は中国以上です。

****まるでガス室」インド・デリー首都圏の大気汚染****
インド・デリー首都圏のアルビンド・ケジリワル首相は5日、近年最悪規模の大気汚染に見舞われている同首都圏で1800校が休校したことを受け、「まるでガス室」と述べた。
 
首都ニューデリーはこのところ厚いスモッグに覆われており、この危機を打開すべく地元当局と中央政府が協議している。
 
ケジリワル首相は「この15~20日で汚染はいっそう深刻化しており、外はまるでガス室だ」「現在の汚染の主要因は近隣州での刈り株の焼却だ」と述べた。
 
ニューデリーの大気環境は、ディーゼルエンジンや石炭火力発電所、産業排出物などが大気汚染をもたらす急激な都市化の結果、年を追うごとに悪化している。【11月6日 AFP】
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“ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ニューデリーの大気汚染はここ17年で最悪の規模で、人体に及ぼす影響は1日にタバコを2箱以上吸うのに等しい”【11月11日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

首都ニューデリーで5日、小学校約1800校が休校を命じられた措置は、10月30日の夜にヒンズー教の光の祝祭「ディワリ」が行われ、これを祝うために数百万発の爆竹に火が付けられ、街がスモッグに覆われたことによるものともされています。【11月5日 AFP】より(そんなに何日も影響が残るものなのでしょうか?)

基本的には“ニューデリーの大気環境は、ディーゼルエンジンや石炭火力発電所、産業排出物などが大気汚染をもたらす急激な都市化の結果、年々、着実に悪化している。他にも同市の大気汚染の原因として、大気粉じん、郊外の農場での刈り株の焼却、都市貧困層が冬に暖を取ったり料理をしたりするときのたき火などが挙げられている。”【11月5日 AFP】という環境悪化がベースにあります。

こちらも、紙幣切り替え並みの断固たる措置が必要なようですが、経済成長重視との兼ね合いでどうでしょうか・・・・。

過剰な火葬、不法投棄、水泥棒、役人の汚職、イスラムとの対立・・・・多くの要因が絡んで「地獄の風景」も
汚染されているのは大気だけでなく、“聖なる河”ガンジスの水質汚染も深刻です。モディ首相はガンジス川浄化を公約していましたが・・・・。

****汚染で死にゆく「ガンジス川****
地球環境にとっての大きな脅威に
インドの大河ガンジス川が瀕死の状態に陥った。深刻な水質汚染に加えて、近年は極度の水不足に陥り、河口のあるバングラデシュでは、海水面上昇が大きな懸念材料だ。

モディ首相は「ガンジス川浄化計画」を打ち出し、日本政府も協力を約束しているが、大河をめぐる各種利権に「水マフィア」が群がり、川を救う作業をいよいよ難しくしている。

汚水の七割が未処理のまま流入
ガンジス川はヒンドゥー教徒にとって「聖なるガンジス」であり、聖地ヴァラナシ(ベナレス)は年中、巡礼者や観光客でにぎわう。「ガンジスで死ぬ」ことは、ヒンドゥー教徒にとって特別な意味を持つとされている。
 
このため、ガンジスは太古から、「死の川」だった。ヴァラナシはもちろん、川沿いの各地に火葬場、葬儀屋がひしめき、「死」はこの川の一大産業だ。
 
ところが昨年一月、ヴァラナシから約四百キロ上流のウナオという村で、異様な事件が起こった。百を超える人間の遺体が、この村の川に漂流してきたりして、たまったのだ。そこに多数のハゲタカ、カラス、野良犬が群がって、「地獄の風景」(地元テレビ)を現出したのである。死臭のすさまじさは、近隣集落に及んだ。
 
地元の人は原因がよくわかっていた。「火葬の費用を出せない人のため、特殊な業者が引き受けて、川に遺棄していた」(同)からで、ここ数年の水不足によって、遺体が流れず、たまってしまったのだ。
このおぞましい事件で、ガンジス川汚染問題は世界中が改めて知るところとなった。
 
インド政府が把握しているだけで、ガンジス川に流れ込む各種の汚水は、三〇%しか処理されていない。七割が未処理だ。
 
糞便性大腸菌は政府の基準の四百四十倍。これに産業廃棄物の大規模な不法投棄が各地で行われるため、川の汚さは並大抵ではない。国連や各種環境団体は、「世界で最も汚染された川の一つ」としているが、ある邦人研究者は「単純比較はできないが、支流のヤムナ川と併せて、世界一汚いだろう」という。(中略)
  
歴代政権はもちろん、汚染の深刻さを知っていた。一九九〇年代のナラシマ・ラオ首相は各地に浄水施設を建設し、二〇〇〇年代後半にはマンモハン・シン首相が対策に取り組んだ。二〇〇九年には、「ガンジス川流域局」が設置されたものの、汚染は拡大し続けた。
 
行動力が自慢のナレンドラ・モディ首相は一昨年の就任後、「私には実績がある」として、向こう五年間で三十億ドルをかけて、国家事業として取り組むことを宣言した。さらに「二〇二〇年までに、ガンジス川に流れ込む水の処理率を一〇〇%にする」という目標を掲げた。
 
実績とは、グジャラート州首相時代に、州最大の都市アーマダバードを流れるサバルマティ川を「浄化した」ことだが、実際には州都の川沿いに木を植えて遊歩道を作った程度で、水質は「浄化した」とはいいがたい水準が続いている。
 
モディ首相は一昨年の訪日時に、日本側に協力を要請した。インドを重要な戦略パートナーと位置づける安倍晋三首相は円借款による協力を約束した。
 
だが、その後はインドの干ばつが加わり、全土で水不足が深刻化(本誌、今年六月号)。ガンジス川は汚物がますます増えたばかりか、水不足にも悩まされるようになり、特に下流のバングラデシュでは、海水面が上昇してベンガル湾の島や沿岸地方が急速に水没するという事態になっている。

浄化を妨げる「水マフィア」
ガンジス川の汚染と水不足を加速させるのは、流域の各地に巣食う「水マフィア」「投棄マフィア」の存在だ。
 
首都デリーに住むジャーナリスト、アマン・セティ氏は、水不足の中で河川や井戸から違法に取水する「水泥棒」の実態を調べた。

彼らは深夜に、トラック二十台ほどの車列で取水場にやってきて、十五分足らずの間に一万リットルほど吸い込んで、闇市場に回すという。「タンクに水を満載すれば、九十ドルくらいになる。デリーの労働者の平均月収は百六十五ドルだから、一カ月働けば相当なもうけだ」と指摘する。
 
水需要はタイトになる一方で、最近はデリーに外国企業が多数進出していることもあり、水の市場はもはや「闇」とさえ言えないほど、公然化している。
 
遺体処理業者が川に投棄することは前述したが、産業廃棄物、生活ゴミの投棄も各地で日常化している。「業者は多額の賄賂で地方官僚を抱き込んでいて、取り締まりを逃れている。

中央政府がどれだけ『浄化』といっても、この『システム』を除去しない限り、きれいな川を取り戻すのは不可能だ」と、インド人記者は指摘する。火葬された人間の灰も、あまりに多量なため、汚染原因の一つになっている。
 
この結果、ガンジス川は飲料用としてはもとより、水浴や洗濯にさえ適さない。インドの「エコノミック・タイムズ」紙は、「川というよりは、汚水路といったほうが適切」と評し、ヒンドゥー教徒が行う聖地ヴァラナシでの沐浴は「もはや生命に危険」とする。
 
事態を複雑にするのは、浄化作業の司令塔であるはずの、ウマ・バルティー水資源相。長い正式な職名には、「ガンジス川再生」も付き、モディ政権の浄化にかける意欲を示している。

この人物は強硬なヒンドゥー教至上主義者で、若い頃から実力行使をいとわなかった女闘士。一九九二年にアヨーディヤで起こったイスラム教寺院の破壊事件にも加わった。この事件以外にも、イスラム教徒への暴力事件で複数の起訴、逮捕状が出ている。

「ガンジス川再生相」としては、「汚染業者の取り締まり」を掲げ、流域の製革業者に高額の「浄化税」を命じた。皮なめしは大量に水を使う仕事で、ガンジス川流域にも古くから製革業が根付いていた。
 
ところが、現在の製革業者はほとんどがイスラム教徒。彼らは「川の浄化は名目で、本当の目的はイスラム教徒迫害だ」と強く反発し、支払いをボイコットするなど中央政府との対決姿勢を強めている。
 
何でも政治問題化、宗教問題化するのは、現代インドの宿命。とはいえ、ガンジス川が死にゆくことは、地球環境にとって大打撃で、もはやインド一国の問題を超えている。一日十二億リットルと推計される汚水は、人類にとって大きな脅威。早急な国際的取り組みが必要だろう。【11月号 選択】
******************

トイレ問題などと同様に、断固たる意志と息の長い取り組みが必要ですが、地方役人の汚職、更には、記事最後にあるような宗教問題が絡むと難しいものが出てきます。まあ、これもインドのインドたる所以でしょうか。
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安倍首相・トランプ次期大統領、明日会談 「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」安倍首相

2016-11-17 22:08:58 | アメリカ

(外遊に出発する安倍晋三首相と昭恵夫人=17日、羽田空港(荻窪佳撮影)【11月17日 産経】)

外交デビューの相手に安倍首相を選んだ背景は・・・・
安倍首相がトランプ次期大統領との会談のため渡米しています。

世界で最も影響力のあるポストに就くトランプ次期大統領にとっては、初めての政治指導者との会談、“外交デビュー”であり、選挙中の過激な発言や大きくぶれる発言で、その真意がよくわからないとされていること、更には選挙勝利後は“現実路線”に修正しつつあるとの見方もあって、トランプ次期大統領がどういう発言をするか世界的にも結構注目されているとか。

****安倍首相 トランプ次期大統領とあす会談へ****
安倍総理大臣はアメリカのトランプ次期大統領との初めての会談に臨むため、ニューヨークに向かっています。強固な日米同盟の維持を目指す安倍総理大臣に、日本を含む同盟国との関係見直しにも言及してきたトランプ氏がどう対応するか、注目されています。

安倍総理大臣は17日午前11時すぎ、政府専用機で羽田空港を出発し、ニューヨークに向かっています。ニューヨークでは17日(日本時間18日)、トランプ次期大統領と初めて会談する予定で、安倍総理大臣は羽田空港で「日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であり、信頼があってはじめて同盟には血が通う。トランプ次期大統領とは、まさに信頼関係を構築していきたい」と述べ、強固な同盟関係の維持を目指す考えを示しました。

大統領選挙のあと、トランプ氏が外国の首脳と直接会談するのは初めてで、上級アドバイザーを務めるキングストン前下院議員は、NHKのインタビューに対し、「トランプ氏が、安倍総理大臣と最初に会談することは、日本との歴史的で重要な関係を示すものだ」と話しています。

一方でトランプ氏は、日本を含むアメリカの同盟国との関係の見直しにも言及し、日本に駐留するアメリカ軍の経費負担の増額などを主張してきました。それだけに安倍総理大臣にトランプ氏がどう対応するか、注目されていて、海外のメディアも「今回の会談はトランプ氏の今後のアジア戦略を知る手がかりとなる」などと伝えています。

トランプ氏 日本をめぐる発言
トランプ氏は選挙中のテレビ討論会などで、日本を名指しして批判するなどして、その発言が波紋を広げていました。特に、「防衛のための公平な費用を負担しなければアメリカが日本を守ることはできない」と繰り返し主張して、在日アメリカ軍の駐留経費の負担を増やすべきだという持論を展開し、ときには日本がすべての経費を負担すべきという考えも示しました。

また、トランプ氏はアメリカのメディアのインタビューで、北朝鮮に対抗するため、日本などが核兵器を保有することを容認する発言をしましたが、その後、立場を変え、事実上、みずからの発言を撤回したものと見られています。

一方、経済政策をめぐっては、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、アメリカから雇用を奪うとして強く批判し、協定から離脱する方針を掲げています。

さらに、日本が輸出や投資の促進のため円の為替レートをドルに対して不正に低く抑えていると述べたほか、「大量の日本車がアメリカに流れ込んでいる」として、日本から輸入する自動車への関税を大幅に引き上げるといった主張を展開したこともあります。

一方で、トランプ氏は安倍総理大臣について、「日本には安倍総理大臣がいる。彼は非常に切れ者だ」と述べて、評価する姿勢を示していました。

トランプ氏 日米同盟をめぐる発言
トランプ氏は選挙中、日米同盟について「日本は対価を払っていない」などとして、在日アメリカ軍に関係する経費などをめぐり、さらなる負担を求めるなどと訴えてきたほか、アメリカの同盟国との関係の全体的な見直しも主張してきました。

この主張について、トランプ氏の複数の政策顧問はこれまでのNHKの取材に対し、アメリカ軍が防衛を担う同盟国との間で分かち合う負担が公平かどうか、検証していくことを意味すると説明しています。そのうえで、日米間の負担が不公平だというトランプ氏の主張にはGDPに占める防衛費の割合がアメリカの3%余りに対し日本はおよそ1%となっていることも影響していると指摘しています。

ただ日本が現在支払っている年間5500億円余りの在日アメリカ軍の関係経費の増額を日本側に求めるかどうかは「検証の結果による」などとして明言を避けています。

一方で、側近の1人とされるフリン元国防情報局長官はことし7月、NHKのインタビューで、日本について、「極めて重要なパートナーで強固な関係を持ち続ける」と述べるなど複数の政策顧問がトランプ氏の政権も日米同盟を重視していく考えを明らかにしています。

また、選挙後、トランプ氏と意見を交わしたオバマ大統領は、トランプ氏が同盟関係の維持に強い関心を表したとしていて、トランプ氏が日本との同盟関係をめぐりどのような姿勢を示すのかが注目されています。【11月17日 NHK】
********************

トランプ次期大統領が、上記にもあるようなTPP問題や在日米軍の関係経費増額等の問題、あるいは対中国戦略・アジア戦略に関してどこまで踏み込んだ発言をするかは知る由もありませんが、おそらく基本線は“日米同盟の重要性を双方が確認し合う”という結果になり、安倍首相としても“日本の外交・安全保障の基軸は今後も維持される”という成果を携えての帰国となるのでしょう。(長期的なアメリカの対アジア戦略がどうなるのかは別として)

トランプ氏の「日本嫌いは本音」であり、安保・経済ともに極めて「厳しい」ものになる(グレン・フクシマ元米通商代表部日本担当部長)【11月12日 Record china】という見方もありますが、少なくとも外交デビューでそれをあらわにすることはないでしょう。

外交デビューの相手が日本の安倍首相となった経緯は全く知りません。
日米関係は日本の外交・安全保障の基軸ですから、安倍首相の素早い果敢な決断でしょうか。

それを受けたトランプ氏側については、「トランプ氏が、安倍総理大臣と最初に会談することは、日本との歴史的で重要な関係を示すものだ」とのことですが、多分、「安倍首相なら選挙中の移民やイスラム教徒、あるいは女性に関する発言を問題視することもなかろう」という判断もあってのことでしょう。

同じ“同盟国”にあっても、メルケル首相やオランド大統領ではそうはいきません。
また、メイ首相のように厄介な問題も抱えていません。ネタニヤフ首相のように国際的に物議を醸すこともありません。“安パイ”と見られた・・・とも言えます。

【「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」安倍首相
この両者は“気が合う”のでは・・・との見方があります。私もそのように感じます。

****<安倍首相>与党幹部「トランプ氏と案外気が合うかも****
 ◇17日にニューヨークで行う予定の直接会談の行方に注目
 
安倍晋三首相が17日にニューヨークで行う予定のトランプ次期大統領との直接会談の行方が注目されている。外交手腕が未知数のトランプ氏との関係構築が焦点だが、首相自身は以前に「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」と周囲に漏らしており、与党幹部は「2人は案外気が合うかもしれない」との見方を示す。
 
安倍首相は14日の参院TPP特別委員会で、トランプ氏との会談について「日米同盟、経済関係の重要性について話したい」と意欲を示した。
 
10日の2人の電話協議では、首相の祝意にトランプ氏が「首相の業績を高く評価している」と応じた。17日の会談設定もこの電話協議で決まっており、政府関係者は「2人は非常にうまくいっている」と話す。
 
安倍首相はロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領らと親しく、政府・与党には「トランプ氏も首相と相性がいいタイプではないか」との観測がある。【11月14日 毎日】
********************

「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」・・・・これをどう評価すべきか。
“気が合う”ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領は、欧米的には“強権支配者”と批判されることが多い政治家です。

そして今回のトランプ次期大統領。
「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」のは、多分にその政治姿勢に共通するものがあるからなのでしょう。

今後は、祖父の岸信介元首相とアイゼンハワー大統領の関係にならって、“ゴルフ外交”でトランプ氏と信頼関係を構築していく手筈とか。

****安倍首相、「ゴルフ外交」でトランプ氏懐柔 互いの「趣味」で信頼関係を構築へ****
次期米国大統領であるドナルド・トランプ氏が、米紙ニューヨーク・タイムズに激怒した。同紙が「(日本などに)核兵器を持つべきだと勧めた」と紹介したことを全面否定したのだ。

報道への抗議とともに、「暴言王」からの方向修正を図っているとみられ、17日の安倍晋三首相との会談が注目される。(中略)トランプ氏によるツイッターへの書き込みは、これへの抗議とともに、大統領就任を前に「現実路線」に転換する意図もあるとみられる。
 
トランプ氏の真意を探るためにも、安倍首相と17日、ニューヨークで行なうトップ会談が世界の注目を集めそうだ。
 
安倍首相も14日、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の承認案などを審議する参院特別委員会で、「貿易や安全保障を含め、さまざまな課題について率直に意見交換したい。突っ込んだ話をしながら信頼関係を作りたい」と語った。
 
日米関係者も動き出した。安倍首相とトランプ氏の距離を縮めるため、将来の「ゴルフ外交」について調整を始めたという。安倍首相とトランプ氏はともにゴルフが趣味であり、双方とも実現に向けて前向きだという。
 
『トランプの真実』(実業之日本社)によると、トランプ氏はゴルフについて、以下のように語っている。
「ゴルフはビジネスのためのスポーツだ。私はランチを食べながらでは絶対にまとまらなかった取引をゴルフのコースでまとめたことがある」「ゴルフのコースには仲間意識がある。お互いのことをよく知り、パートナーになる」

日米外交史を振り返ると、両国トップはさまざまな方法で人間関係を深め、信頼関係を構築している。
安倍首相の祖父、岸信介氏は首相時代の1957年に訪米した際、ドワイト・アイゼンハワー大統領とゴルフを楽しみ、一気に親密さを増した。この人間関係が、60年の日米安全保障条約改定につながった。(中略)

安倍−トランプ会談が注目されるが、安倍首相は以前から、ロシアのプーチン大統領や、トルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領など、こわもてで鳴らす各国首脳らと人間関係を築くのが、不思議とうまかった。
 
官邸周辺は「各国首脳は当然、国益を背負って外交をしている。だが、最終的には人間と人間の信頼関係を築けるかどうかだ。安倍首相が、プーチン氏やエルドアン氏らと個人的関係を深められたのは、一緒にいて笑顔になれる、安倍首相の柔和な人間性というしかない」と語る。
 
安倍首相は「ゴルフ外交」で、トランプ氏と打ち解けられるのか。
実は、安倍首相とトランプ氏のラウンドは、岸、アイゼンハワー両氏が絆(きずな)を強めた、ワシントン郊外のバーニング・ツリー・カントリークラブが候補に挙がっているという。
 
政治評論家の浅川博忠氏は「岸、アイゼンハワー両氏のゴルフ外交は、日米安保改定と、その後の安定した日米関係の礎となった。安倍首相は祖父の岸氏を尊敬しており、回顧録などを読んで、その形跡も参考にしたのではないか。安倍、トランプ両氏のゴルフ外交も、今後の日米関係を深化させる、いい機会になってほしい」と語っている。【11月16日 夕刊フジ】
***************

何度も繰り返すように、日米関係は日本の外交・安全保障の基軸ですから、日米首脳の信頼関係が強化されることは日本にとって極めて重要なことです。

それはそうとして、ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領、そしてトランプ次期大統領・・・こうした政治家と“気が合う”のが“安倍首相の柔和な人間性”の問題なのか、本来問題とすべきことを指摘しないこと、安倍首相自身も大したことと考えていないことによるものなのか・・・個人的には、非常に気になります。

【「将来への不安が立ちこめている」日本の「新常態」】
もともと日本外交は非常に実利的な面があります。

よく、中国が相手国の非民主的強権支配や非人道的施策を問題とせず、内政不干渉を名目にカネをばらまいている・・・との評価がありますが、日本もかつてもミャンマー・軍事政権やスリランカへの対応、タイ軍事政権への対応などにおいては、かなり中国の実利主義に近いものがあります。

私個人は、安倍首相の「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」政治資質は嫌いです。
ただ、それは安倍首相の問題というよりは、彼をして首相ならしめ、絶大な支持を続けている日本国民の判断です。

自民党は議会内で圧倒的な多数を形成し、内閣支持率は5割前後を維持しており、国民は安倍首相を強く支持しています。彼の政治資質を嫌う私のような見方は少数派です。

更に言えば、そうした流れは今後更に強まりそうです。

*****深い分断、きしむ民主主義****
・・・米大統領選をテーマに新潟県立大学が9月、日本の首都圏で500人を対象に実施した。
もし可能なら「どちらの候補に投票しますか」という問いに、6割強が「クリントン」と答え「トランプ」は1割弱。

だが、15歳から29歳までの男性では、支持はどちらも4割弱で拮抗(きっこう)した。
 
同大学の猪口孝学長は「将来への不安が立ちこめているのだろう」と見る。「これを『新常態』として直視しなければ」(後略)【11月13日 朝日】
******************

普遍的価値観と見られていたものが欺瞞的なポリティカル・コレクトネスとして蔑視され、自国の国益という形でむき出しの本音・感情が当然のこととして語られる・・・悲しい「新常態」に思えるのですが。

なお、“気が合う”かどうかは別にしても、トランプ氏は“ビジネスマン”であり、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席は“ビジネスパートナー”として関係が強化されるでしょう。

今回の安倍首相との会談で日米関係の重要性が確認されるにしても、そうしたアメリカとロシア・中国の関係が強化されるなかで日本がどういう立ち位置で臨むか・・・という問題が今後次第にあきらかになってくるのではないでしょうか。
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コロンビア  政府とFARCは修正案で合意 今後の正式承認は不透明 FARCの裏金問題

2016-11-16 22:55:31 | ラテンアメリカ

(新たな和平合意について説明を行うため会談したサントス大統領(右)と反対派指導者ウリベ前大統領(左)【11月14日 「音の谷ラテンアメリカニュース」http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/9413202.html】)

FARCの所有資産を被害者の保障にあてるなどの修正案で合意
半世紀続く内戦の終結を目指す南米コロンビア政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)の和平合意は、事前の予測に反して(最近、こういうことが多いようですが・・・)国民投票で否決されましたが、サントス大統領のノーベル平和賞受賞という後押しもあって、新たな修正案で合意が得られました。

****コロンビア政府と左翼ゲリラ、和平合意の修正案に署名*****
半世紀続く内戦の終結を目指す南米コロンビア政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)は12日、10月の国民投票で否決された和平合意について、内容を部分的に変更することで一致し、新たな修正案に署名した。
 
サントス大統領は「今こそ分断ではなく和解する時だ」と国民に支持を求めたが、反発が強かったFARCの政治参加の項目は維持されており、反対派の納得が得られるかは不透明だ。
 
政府とFARCは9月下旬、和平の最終合意文書に署名。だが、10月2日の国民投票では、FARCの政治参加や元戦闘員の刑の減免を認めた内容への批判から小差で反対が賛成を上回り、キューバの首都ハバナで修正協議が続いていた。
 
修正案は、罪を犯したFARC元戦闘員らが裁判所の指定地域内で移動を制限されることや、FARCの所有資産を被害者の保障にあてることなどを規定。FARCが政党に生まれ変わった場合に得られる支援額の減少も盛り込まれた。
 
一方、FARC幹部の政治参加を認めた項目は当初のまま維持された。サントス氏は演説で「和平合意の目的はゲリラが武器を放棄し合法的に政治参加することだ」と理解を求めた。和平合意の反対キャンペーンを繰り広げてきたウリベ前大統領は、内容を検討するまで修正案を決定事項としないよう求めた。
 
修正案の是非が再び国民投票で問われるかは現時点では不透明だ。今回は議会の承認だけで済ませる可能性も指摘されている。
 
サントス氏は和平交渉を主導した努力が評価され、今年のノーベル平和賞の受賞が決定。12月10日に授賞式が行われる。(サンパウロ=田村剛)
*******************

FARCは100億ドル以上の裏金を保有?】
修正案の主な内容は、FARCの所有資産の活用にあるようです。
この問題は以前から指摘されていたものでもあります。

****コロンビア和平を左右する裏金問題****
ゲリラ組織の不正蓄財や支援者の摘発でアメリカも協力することが可能だ

半世紀以上続く内戦を終わらせるためにコロンビア政府と左翼ゲリラ組織、コロンビア革命軍(FARC)が署名した和平合意。その是非を問う国民投票が先月初旬に行われたが、僅差で否決された。
 
しかし両者とも和平努力を続けることを表明し、フアン・マヌエル・サントス大統領は停戦期限を年末まで延長することを明らかにしている。
 
否決の主因とみられるのは、ゲリラが内戦中の犯罪を認めれば減刑されることや、FARCが政党に衣替えして議会の議席を無条件に与えられることなどへの国民の不満だ。
 
だが1つ見逃されている点がある。FARCが外国の銀行に100億ドル以上の資金を蓄えている問題だ。FARCがこれらの不正な資金を使い、ベネズエラのウゴーチャベス前大統領の戦術をまねるのではないかという声もある。

カネで支持を買い、既存の組織を買収し、国民が気付いたときには、イデオロギーで凝り固まった独裁主義勢力によって反対意見は握りっぶされ、富の再分配が強引に推し進められている・・・という事態になるのを恐れているのだ。
 
「そんなことは起こらない」と、ベネズエラでも言われていたことを忘れてはならない。
FARCの国外資金は、国民投票前に既に議論になっていた。

9月にニユーヨークで講演したサントスは、コロンビアは麻薬カルテルの資金を没収してきた実績があるとし、FARCの違法資金も没収して内戦犠牲者への賠償に充てると警告した。
 
FARC側も和平合意が可決されたら国外資金の額を公表すると言っていたが、目先だけとみる評論家が多かった。

国外協力者への制裁を 
FARCと新たな和平合意を形成して有権者の支持を取り付けるには、コロンビア政府(とアメリカ)は今すぐ、FARCの国外資金の特定と没収に着手する必要がある。
 
これらは麻薬の密売や人身売買などで得た血塗られたカネだ。FARCが保有する正当な理由はない。没収した資金は内戦犠牲者の賠償だけではなく、FARCの兵士たちの社会復帰にも使ったらいいだろう。それらに税金を充てるよりも間違いなく正しいやり方だ。
 
アメリカのオバマ政権はFARCの不正蓄財への協力者を追跡し、制裁を加えるといったことで協力できる。それにはFARCの協力者であり、エルサルバドルの与党ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)の幹部でもあるホセ・ルイス・メリノについて再び調べる必要がある。(中略)
 
これらが示すように、メリノを調査するという方向性は正しい。しかし、これは単にメリノ一人がどうこうしたという問題ではない。メリノは、FARCによる国外でのマネーロングリングの重要な歯車の1つにすぎないからだ。
 
コロンビアが真の和平を実現するために、現時点でアメリカができる最大の貢献は、国外で不正の手引きをしたり協力したりしている人物をたたくことだ。
 
まずは、メリノに制裁を加え、FARCの巨大な金融帝国に蓄えられた隠し財産を没収することから始めればいい。【11月8日号 Newsweek日本版】
**********************

これまでも、サントス大統領はFARCの違法資金を没収して内戦犠牲者への賠償に充てるとしていましたし、FARC側も和平合意が可決されたら国外資金の額を公表すると言っていたとのことですので、今回修正案はそのあたりを正式な合意という形で明確にしたということのようです。

この問題に関しては、上記以上のことは全く知りませんが、“FARCが外国の銀行に100億ドル以上の資金を蓄えている”という金額はどうでしょうか?

“100億ドル”というと1兆円を超す大変な金額です。
こうした話は誇張される傾向にありますし、ここ数年勢力が衰えていたFARCがそんな金額を本当に保有しているのでしょうか?

まあ、一桁少ない金額であったにしても、それが被害者救済や、FARCメンバーの社会復帰に要する費用に充てられるのであれば結構な話かと思います。

合意案の正式承認を急ぐサントス大統領 今後の道筋は不透明
ただ、今回のコロンビア政府とFARCの間の合意が正式に承認されるのかは未だ不透明です。

“前回のように国民投票を経ず、議会での承認にかけられる見通しが強い。”【11月14日 毎日】という線で落ち着くなら、承認される見通しが強まります。

ただ、“和平合意への反対運動の旗振り役だった前大統領のウリベ上院議員は12日、サントス大統領と面会し「新和平案の内容は確定されたものではない」と述べた。今後、内容を巡って議会が紛糾する可能性がある。”【同上】とも。

ウリベ前大統領の「新和平案の内容は確定されたものではない」という発言は、“新たな和平合意について反対派と紛争犠牲者たちは分析するための時間が必要であり、また今回の合意が決定的な物ではなく変更可能である必要があると要請しています。”【11月14日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】という趣旨のようです。

「大統領は今年のクリスマスまでに和平交渉を終結させたい決意だ」(駐日大使)【11月3日 Record china】との発言もありましたが、“12月10日の授賞式までに新和平案を承認させたいのが政府側の思惑だ”【同上】とのことです。

ノーベル平和賞という晴れ舞台を前に、授賞式までになんとかしたいという思いは十分にわかります。
ただ、急ぎすぎて反対派を硬化させることがないように留意してもらいたいところです。

この重要な段階にあって、サントス大統領の健康問題も表面化しています。

****コロンビア大統領、前立せんがん再発の疑いで今週検査渡米****
コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領(65)は15日、前立せんがんの再発が疑われるため今週米国で検査を受けると明らかにした。

大統領は記者団に、定期健診で前立腺特異抗原(PSA)のレベルが上がっていたことから、できるだけ早く詳しい検査のため渡米するよう主治医に勧告されたと述べた。PSAは前立腺内に存在するたんぱく質で、前立せんがん患者はしばしばそのレベルが上がる。検査は、ボルティモアのジョンズ・ホプキンス病院で行われる。

大統領は「このことに自身も家族も驚いている。明日出発して17日に検査を受け、18日に帰国する」と述べ、検査結果はできるだけ早く国民に知らせると付け加えた。

大統領は2010年に就任。4年前に国内で前立腺の腫瘍摘出手術を受け、成功している。【11月16日 ロイター】
******************

大事なく、合意案の正式承認に向けた取り組みに支障がでることがなければいいのですが。

FARC内部にも和平合意に反対する勢力もありますので、合意承認がスムーズに進まないと、そうした勢力による妨害行為も懸念されます。

****和平プロセスに反対するFarc分離派による徴兵と恐喝行為をオンブズマンが警告 コロンビア バウペス県*****
 コロンビア南西部でFarc分離派が住民たちに行っている敵対行為を防ぐための措置を早急に実行するようオンブズマンが金曜日に当局に要請しています。

現在コロンビア革命軍(Farc)主流派は半世紀以上に及ぶコロンビア国内紛争終結に向けコロンビア政府と再交渉を行っていますが、Farcの一部は和平プロセスに反対し武装闘争継続を主張しています。
 
「オンブズマン組織の早期警戒システムは、バウペスのFarc分離派による強制徴兵・恐喝と脅迫・対人地雷の設置など住民に対する危険性を警告しています。」とオンブズマン組織は声明を通じて表明しています。(中略)

7月の初め、グアビアレ県とバウペス県バウペス県を拠点とするFarc第1戦線は、Farc主流派からの分離と武装闘争の継続を宣言しています。
 
しかし紛争専門家たちは、Farc第1戦線の分離と戦闘継続宣言は政治的理由ではなく、経済的理由が主であると分析しています。
 
和平プロセスに基づく武装解除に応じないゲリラは、Farcから除名するとFarc指導部は発表しています。【11月12日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】
****************

第2の左翼ゲリラ組織ELNとの交渉は中断
なお、今年にお入ってからFARCによる誘拐は起きていないようです。ただし、1970年以降でみると、FARCによって誘拐された者は8991人にのぼっているようです。このような膨大な犠牲者の存在が、先の和平合意否決をもたらしています。

****今年最初の7カ月間で121人が誘拐された コロンビア****
コロンビアでは今年最初の7カ月間に121人が誘拐されており、そのうちのほとんどが一般犯罪者によるものであったと誘拐問題を扱うNGO団体パイス リブレが発表しています。
 
「ほとんどが一般犯罪者によるものです。」と25年前から誘拐・恐喝・強制失踪と戦うNGO団体代表のマリア コンスエロ ハウレグイはAFPの取材で語っています。
 
1980年以降誘拐を資金源としていた「共産主義ゲリラ組織FarcとELNによる誘拐は減少しています。」と代表は付け加えています。
 
7月31日現在、109人が一般犯罪者もしくはグループに、11人がELNに、1人が準軍組織を母体とする犯罪組織によって誘拐されています。
 
過去45年間コロンビアで発生する誘拐事件の中心的存在であったコロンビア革命軍(Farc)による誘拐事件は1件も発生していません。Farcはフアン マヌエル サントス大統領政権と和平合意を結んでいます。
 
昨年1年間では210人が誘拐されており、内161人が一般犯罪者に、22人がELNに、15人がFarcに、11人は準軍麻薬組織によって誘拐されているとパイス リブレは報告しています。
 
コロンビア第2の共産主義ゲリラ組織国民解放軍(ELN)は、先週からエクアドルの首都キト市でコロンビア政府と和平交渉を開始する予定でしたが、人質としている元国会議員の解放されなかったために延期されています。
パイス リブレによれば、ELNは少なくとも3人の人質を拘束しています。
 
1970年以降コロンビアでは3万2733人が誘拐され、そのうちの8991人がFarc、7368人が一般犯罪者、7107人がELNによって誘拐され、5280人が犯人不明となっています。【11月3日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】
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FARCに次ぐ武装組織である「民族解放軍(ELN)」との交渉は延期されています。

****第2のゲリラとの交渉延期=「人質解放」の条件満たさず―コロンビア****
コロンビア政府は27日、同国第2の左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)と同日に予定されていた和平交渉入りを延期すると発表した。ELNが拘束中の人質を解放していないためで、政府は人質の無事解放が確認され次第、交渉を始める方針。
 
ELNは「数日中に交渉を開始したい」と声明を出しており、既に人質の解放作業に入っているとみられる。
 
和平交渉入りは3月に合意されていたが、サントス大統領が「人質が解放されるまで交渉は始めない」と主張したため、停滞。政府とELNは今月10日になって仲介国エクアドルで27日に交渉を開始すると表明していた。【10月28日 時事】
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半年前からELNに拘束されている元国会議員が未だ解放されていないことで、サントス大統領は交渉を中断しており、ELNによるテロ活動も続いています。ELNは服役中の幹部2名の恩赦を求めているようです。
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米トランプ大統領の「内向き」姿勢で迷走する自由貿易協定交渉 強まる中国主導の枠組みへの注目

2016-11-15 21:56:33 | 国際情勢

(グローバル化による格差拡大を示すとされる「象グラフ」 詳細は本文参照 【11月6日  朝日グローブ】)

欧州はアメリカとの交渉を凍結
アメリカ・トランプ政権誕生で、世界の政治・経済秩序が大きく変わる可能性が多くの事柄・地域で指摘されていますが、そのひとつが「内向き」保護貿易主義的なトランプ政権の世界経済の枠組みとなる自由貿易協定に及ぼす影響です。

まだ就任もしていませんし、トランプ新大統領の意向もはっきりしませんが、少なくともTPPなどの自由貿易協定に消極的なこれまでの発言から、欧州でも日本などの環太平洋でも、枠組み作りの動きは中断・迷走、あるいは変更を余儀なくされています。
(自由貿易協定には民主党より共和党が積極的であることから、実際にトランプ政権が始動した際に、議会・共和党との関係でどういう動きとなるかは不透明です)

欧州はカナダとのとの包括的経済・貿易協定(CETA)でもベルギーの南部ワロン地域の反対で揺れ動きましたが、本丸であるアメリカとの「環大西洋貿易投資協定(TTIP)」については、もともと独仏の国内の反発が強く、来年1月までのオバマ政権下での合意を断念していましたが、トランプ政権誕生を受けて、交渉凍結に至っています。

****EU 米との自由貿易交渉を凍結で一致****
EU=ヨーロッパ連合の各国は、アメリカのトランプ次期大統領が自由貿易協定からの離脱を表明していることを受けて、EUとアメリカが世界最大の自由貿易圏の構築をめざして進めてきた協定の交渉を凍結せざるをえないとの意見で一致しました。

EU各国は11日、ベルギーのブリュッセルで貿易相会議を開き、EUが各国と進めている貿易交渉の進捗(しんちょく)について話し合いました。

この中で、各国はアメリカのトランプ次期大統領がTPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱を表明するなど、保護主義的な通商政策を掲げていることを受け、EUがアメリカと進めてきた自由貿易交渉についても、交渉を当面、凍結せざるをえないとの意見で一致しました。

会議後の記者会見で、EUの通商政策を担当するマルムストローム委員は「次期政権の出方を待つしかない。EUとアメリカの自由貿易交渉はかなり長い期間、凍結せざるを得ず、再開できたとしても、その先の展開を見極める必要がある」と述べて、交渉の見通しがつかないことへの懸念をにじませました。

一方、日本とEUが年内の大筋合意を目指しているEPA=経済連携協定についてマルムストローム委員は、交渉は進展しているとしながらも、農産物の関税や政府調達などの分野で隔たりが残っているとして、年内合意の目標については「期限ありきではない」と述べ、粘り強く交渉する姿勢を示しました。【11月12日 NHK】
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グローバル化のもたらした格差・失業などへの批判
カナダとのCETAにせよ、アメリカとのTTIPにせよ、トランプ政権の消極姿勢も含めて各国で強まる自由貿易協定への抵抗は、グローバル化がもたらしたとされる格差拡大への批判があります。

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背景にあるのは、世界的な反グローバル化の流れだ。英国民がEU離脱を選んだのは、経済のグローバル化による貧富の格差拡大も一因とみられている。

自由貿易市場が広がれば、安価な商品や安い労働力が貿易圏内を移動し、その動きをさらに加速させるとの懸念が強い。ワロン地域も60年代には炭鉱業で栄えたが、現在はグローバル化の恩恵を被ることなく、高失業率に苦しんでいる。
 
各国で自国の利益を守る保護主義の風潮が強まっていることを受けて、EUは首脳会議の総括文書で自由市場の利点を強調する一方で、「市民の懸念には配慮する」との文言を加えた。【10月23日 朝日】
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グローバル化による格差拡大を示したものとされるのが冒頭の“象グラフ”です。

****グローバル化の象」と私たち****
グローバル化が世界に何をもたらしたのか、これほど雄弁に語るグラフを私はほかに知らない。

世界で最も収入の多い人から少ない人までをずらりと横軸に並べ、リーマン・ショックが起きた2008年までの20年間でどれだけ所得が増えたかを示したものだ。鼻を高く上げた象のような形に見えることから、「グローバル化の象グラフ」と呼ばれている。

最も豊かな1%、つまり先進国の富裕層と、所得が上から30~60%の人々、すなわち中国など新興国の多くの人々は6割以上も所得が増えた。一方、象の鼻の曲がったあたりにいる上位10~20%の人たち、先進国の中間層や低所得層は、ほぼ収入が増えなかった。

「象グラフ」をつくった元世界銀行エコノミストのブランコ・ミラノビッチは「新興国の雇用が増えたことで世界は以前より豊かに、そして平等になった。ただ、先進国の普通の働き手の利益にはつながらなかったかもしれない」と話す。いまグローバル化への反発を強めているのは、まさにこの層だ。

もっとも、先進国であっても、グローバル化のおかげで消費者は多様な商品を安く買えるようになった。力のある人や企業が活躍できるチャンスも広がった。経済全体では利益の方が大きいというのが、経済学の常識的な見方だろう。

ただ、消費者としての利益は薄く広く行き渡って実感しにくいのに対し、仮に一部であっても雇用が損なわれれば、人々の生活基盤そのものが揺らぐ。「働き手の痛み」がなにより注目されるのはそのためだ。

この特集では、グローバル化に異議を申し立て始めた中間層や低所得層の人たちをめぐる動きに焦点を当てる。

市場に従属する国家
そもそも戦後、欧米や日本で中間層が膨らんだのは、経済が成長したからだけではない。労働組合や労働者保護といった仕組みが整い、福祉国家が所得や教育機会の再分配を進めたためだ。中間層の拡大に伴い、民主主義も成熟していく。

しかし、石油危機を機に先進国は低成長に陥る。1980年代、英サッチャー・米レーガン政権による自由化路線が世界に広まり、ヒト・モノ・カネが自由に行き来するグローバル化が本格的に始まった。冷戦後には旧共産圏がその中に組み入れられ、01年の中国のWTO加盟で流れが極まった。

1990~2000年代には米クリントン、英ブレア、独シュレーダーといった中道左派の流れをくむ政権が各国で生まれた。ここでも、志向されたのはグローバル化を前提にした福祉国家の改革だった。労組は力を失い、中間層が縮み続けた。日本でも、「構造改革」を掲げた小泉政権期に限らず、非正規雇用が増え、格差は広がり続けた。

独マックス・プランク研究所の社会学者、ヴォルフガング・シュトレークは「根源的な問題は先進国の低成長で、それをやり過ごす中で自由化とグローバル化が進められた。国家が市場に従属するようになり、格差を和らげるような政策はとりづらくなった」と語る。

大きくなりすぎた格差は、消費する力の低下などの形で経済をむしばみ、社会の安定を損ない、そして民主主義を揺るがしている。【11月6日  朝日グローブ】
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【「ほどほどのグローバル化」】
経済全体では利益の方が大きいとしても、「働き手の痛み」や“格差拡大”などで「トランプ現象」のように民主主義を揺るがしかねない弊害も目に付くグローバル化にどう対応していくのか・・・いろいろ意見のあるところですが、今日は「賢いグローバル化」「ほどほどのグローバル化」を主張するハーバード大のダニ・ロドリック教授の指摘だけ紹介しておきます。

****ほどほどのグローバル化」模索を ダニ・ロドリック 米ハーバード大学教授****
グローバル化をめぐって噴き出す困難にどう向き合うべきか、大きく二つの立場がありえます。一つは、グローバル化が不十分なので問題が起きているという考え方です。この場合、人々の不満は、無知や誤解に基づいているとし、これまで以上に国境を低くしてグローバル化を加速させることが解決策となります。

もう一つは、私たちがグローバル化による弊害を見過ごしてきたという立場で、私はこちらに立ちます。単に経済的な恩恵が自分にまで及んでいない、と人々が感じているだけではありません。自分の声がまったく反映されない、自治も主権もない世界に私たちはいる、という感覚が広がっているのです。

それが既存の中道左右政党の信頼低下と「反エリート」運動に結びつき、極端な保護主義を唱えるポピュリストや急進勢力につけ込む隙を与えました。国境の壁を極限まで低くする「超グローバル化」はむしろ、開かれた経済を維持するには逆効果なのです。

私は超グローバル化と民主主義、国家主権の三つすべてを同時には達成できないと考え、「グローバル経済のトリレンマ」と名付けました。この数十年間は超グローバル化が推し進められ、国家の機能を軽視する風潮が強まりました。

しかし、所有権や貨幣制度を守る仕組みなど、国家権力による制度の裏付けがなければ市場はうまく機能しません。
所得を再分配し、安全網を整える機能も大事です。世界規模の政府がない以上、市場の超グローバル化で様々な問題が生じるのは避けられません。

欧州の経験が教訓になります。単一市場を目指すEUは、ある意味「超グローバル化」を具現化した存在です。しかし、民主主義も同じように国の枠を超えられなければ、市場は長持ちしません。その結果がブレグジットです。一定の歴史や文化を共有する欧州の域内ですら、超グローバル化は難しいのです。

自分の声が反映される仕組みを取り戻すには、「超グローバル化」を、より緩やかな形に抑えこむ必要があります。これを私は「賢いグローバル化」「ほどほどのグローバル化」と呼んでいます。

これは自国の殻に閉じこもる保護主義や、一部の人を排除するような愛国主義とは異なります。資本の無制限な移動や自由貿易協定で政策の手足を最初から縛ってしまうのではなく、各国が自分の国に合った形で、たとえば格差拡大などの問題に対して財政や規制で対処する余地を残しておくことが必要です。「窓は開けるが、蚊帳は張っておく」ということです。世界は、単一の市場と見なすには多様で大きすぎるのです。【11月6日  朝日グローブ】
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日米主導のTPP迷走で、中国主導のRCEPへの注目が高まる
日米など12カ国で合意した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については、中核となるアメリカ・トランプ政権の離脱発言で、こちらも迷走状態です。

メディアによると、オバマ政権はトランプ次期大統領などの反対を踏まえ、来年1月までの残りの任期中に議会の承認を得るのを断念したとのことで、TPPの発効は難しい情勢となっています。

****TPPは「米国のため」=悔しさにじませる―オバマ大統領****
オバマ米大統領は14日、環太平洋連携協定(TPP)について「今のところうまくいっていないが、米国の労働者、企業のためになると議論してきた」と語り、来年1月までの任期中の議会承認が絶望的な状況になったことに悔しさをにじませた。次期大統領に就く共和党のトランプ氏はTPP離脱を訴え、早期の発効は極めて困難になっている。
 
オバマ氏は記者会見で、世論調査では「多くの米国民は(自由)貿易を支持している」と強調。ただ、大統領選での複雑な論争が「人々に工場の閉鎖や雇用の海外流出を思い起こさせてしまった」と述べ、自由貿易批判がトランプ氏の勝利を招いたとの見方を示した。【11月15日 時事】 
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こうした情勢で、“アメリカ抜き”の暫定発効、アメリカに代えて中国・ロシアを含めた枠組みの提唱(ペルーのクチンスキ大統領)など、いろいろな対応が検討されています。

****TPP、米抜き発効目指す動き トランプ次期大統領に対応、リマAPECで協議も****
米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利し、見通しが厳しくなった環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、米国抜きの発効を目指す動きが出てきた。中国を加えるべきとの声も出ており、日米による通商・安全保障面などでの“中国包囲網”が崩れる可能性もある。

参加国首脳は、19日からペルーの首都リマで始まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、対応を協議する。
 
メキシコのグアハルド経済相は10日、トランプ氏が掲げる北米自由貿易協定(NAFTA)見直しに懸念を表明。さらに、TPPが頓挫するならば、発効に米国の批准が事実上必要となる現在の条項について、「各国と変更を協議する必要がある」と語った。
 
また、TPP参加12カ国中、日本も含めメキシコやニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、ベトナム、マレーシアの7カ国が年内に協定を批准するとの見通しも示した。
 
一方、ペルーのクチンスキ大統領も11日、「米国抜きの(TPPに)似通った協定に置き換えることもできる」とし、中露2カ国も含まれるべきだと語った。
 
オーストラリアのビショップ外相は、各国は米新政権にTPP批准を働きかけるべきだと説く一方、TPPが発効しなければ、「生じた空白は(日中韓印など16カ国が交渉中の)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)で埋められることになる」と述べ、地域の通商体制再編で、米国外しの流れが強まると牽制した。
 
TPPは関税削減だけでなく、知的財産保護や政府調達などの公正なルールも定めた次元の高い協定。専門家は「経済関係強化と自国の効率性や生産性向上に向け、11カ国はまず米国抜きで再交渉し、TPPを暫定発効してもいいかもしれない」と指摘している。【11月14日 産経】
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日米主導のTPP迷走で、中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への注目が高まっています。

****米国、中国主導の自由貿易協定への支持を検討すべき=中国国営紙****
中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは15日付の社説で、米国のトランプ次期政権は中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への支持を検討すべきとの見解を示した。

同紙は「中国政府は当然ながら、排他的で経済的に非効率かつ政治的対立をあおる環太平洋連携協定(TPP)が実現する可能性が日増しに低下していることに安心している」とした上で、「米次期政権は、より開かれた、包括的なRCEPが米国の利益の追求する上ではるかに効率的な枠組みになることを認識すべき」と指摘した。

米国はRCEPに参加していない。
一方、米国のオバマ現大統領が推進してきたTPPに中国は参加していない。米国は中国よりも先にアジアの貿易協定を定め、アジアで経済的主導権を握ることを目指していた。

しかし、先週の大統領選で勝利したトランプ氏はTPPから脱退すると表明しているほか、来年1月までのオバマ大統領の任期中に議会で承認される可能性はほとんどなくなった。

RCEP参加国には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に加え、中国、日本、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドが含まれるが、現段階ではTPPほど高度な貿易自由化は可能となっていない。【11月15日 ロイター】
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マレーシアのムスタパ貿易産業相は「現在の不透明な国際経済情勢を受け、RCEP参加国はこの貿易協定の妥結に向けて引き続き緊密に連携していくとの決意を強固にした」と述べ、今後RCEPの交渉妥結に注力する方針を明らかにしています。【11月15日 ロイターより】

中国主導の枠組みへの流れが強まる情勢で、安倍首相はこうした現状を認めつつも、警戒感を示しています。

****首相「東アジア経済連携、知的財産保護などに懸念****
環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案を審議する参院特別委員会は15日午前、安倍晋三首相が出席して集中審議を開いた。

首相はTPPの発効手続きが進まない場合は「(日中韓印などの)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足が移っていくことは間違いない」と指摘。同時に「RCEPは米国が入っていない。最大の国内総生産(GDP)は中国になる」と警戒感を表明した。
 
首相は「TPPでは知的財産がルールにのっとってしっかり守られるが、果たしてRCEPではどうなるのか」と語った。その上で「TPPが一つのモデルにならなければならない」と訴え、RCEPよりTPPの発効を重視する姿勢を示した。
 
首相は「TPPの目的や意義について世界に発信する。米国にも発信していく。今の保護主義の流れを変えていく」と強調。米国を含むTPP加盟国に承認を働き掛けていくと説明した。【11月15日 日経】
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“米国を含むTPP加盟国に承認を働き掛けていく”とは言っても、(今後どうするのかは不透明ながらも)肝心のアメリカ次期政権が後ろを向いている状況ではいかんともしがたいものがあります。
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欧州  NATOとロシアの対立 一部東欧にはロシア回帰も これから続く欧州の枠組みを決める選挙

2016-11-14 22:11:53 | 欧州情勢

(黄土色が冷戦終結後のNATO加盟国 ロシア・プーチン大統領が苛立つのもわかります。)

NATOの“ロシアの脅威”に対し、ロシアは“欧米に騙された”】
日本や東・東南アジア諸国が中国との関係に神経を使うように、欧州諸国にとってはロシアとの関係が非常に重要な問題となります。

なかでも、バルト3国やポーランドのように歴史的にロシアとの確執が強い国々では、ウクライナで見られたような“ロシアの脅威”が現実の問題として強く意識されています。

****東欧4か国にNATO多国籍部隊…露は強く反発****
ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)の国防相理事会は27日、バルト3国とポーランドに来年から配備するNATO部隊について、計15か国が参加する多国籍部隊とすることを決めた。
 
当初、米国、英国、ドイツとカナダの4か国が主導する計画だったが、ロシアの脅威に対抗し、フランスやイタリアなど新たに11か国が参加することになった。
 
ストルテンベルグ事務総長は閉会後の記者会見で「同盟国への攻撃は、NATO全体への攻撃とみなす」と述べ、改めてロシアをけん制した。
 
NATOは7月の首脳会議で東欧4か国に4000人規模となる4大隊の配備を決定したが、ロシアは強く反発している。
 
理事会は、難民問題を巡り、NATO艦船が地中海で不法移民の監視活動に従事することなども決めた。【10月28日 読売】
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ただ、“ロシアの脅威”云々はロシア側・プーチン大統領から言わせれば全く逆の話で、冷戦終了時の合意を無視したNATOの東方拡大によってロシアが脅かされており、ロシアの行動はその脅威・約束違反に対応しているだけだ・・・という話にもなります。

確かに、冷戦終了時と現在の状況を見比べれば、ロシア包囲網とも思えるようなEU・NATOの東方拡大が現実化しており、プーチン大統領の苛立ちも根拠がない訳ではありません。(もちろん、クリミアやウクライナ東部のような軍事的手段によるものと、各国の判断によるNATO加盟は異質なものではありますが)

****ゴルバチョフも「だまされた」 NATO東方拡大で元ソ連大統領がプーチンを援護する“ロシア人の心象風景*****
ウクライナ情勢をめぐり国際社会で孤立するロシアのプーチン大統領(62)を強く支持する人物がいる。元ソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏(83)だ。プーチン氏に対し、ロシアを崩壊の危機からから救ったと称賛するゴルバチョフ氏は、プーチン氏同様に北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を「欧米の約束破り」と断ずる。(中略)

「われわれ(ソ連と欧米)は東西ドイツ統合にあたり、旧東ドイツをNATOの勢力圏に入れないことで合意したが、NATOが90年代、東方に拡大を始めたときに、その精神は失われた」。ゴルバチョフ氏は、旧共産主義国家やソ連圏へのNATO加盟の広がりをそう批判する。

東西ドイツ統一時に、ソ連の国家保安委員会(KGB)の一員としてドイツに駐在していたプーチン氏はNATO拡大について、「われわれはだまされた」と繰り返し主張。

ウクライナのクリミア半島併合は、ロシアの艦隊が駐留する同地へのNATO軍の進出を防ぐためだったと言明するなど、NATOこそがウクライナ問題の要因だとする姿勢を崩さない。
 
「欧米はNATOを東方に拡大させない約束をした」との主張をめぐっては、当時欧米側からロシアに対し、正式な書面での確約はなかったとの見方が有力になっている。

ただ、米誌フォーリン・アフェアーズによると、当時のベーカー米国務長官と西ドイツのコール首相がNATOが勢力圏を広げないことを示唆しつつ、ゴルバチョフ氏に東西ドイツ統一を承認するよう求めていた事実が指摘されている。(後略)【2014年12月12日 産経】
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NATOのバルト3国やポーランドへの部隊配備についても、ロシアは強く反発しています。

****ロシアが東欧の飛び地カリーニングラードに核ミサイル配備****
NATOにとって極めて憂慮すべき事態だ。ロシアは10月初め、リトアニアとポーランドの間のロシアの飛び地カリーニングラードに、核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデル」を配備した。

カリーニングラードはバルチック艦隊の母港で、大規模な軍事施設が集中している。

NATOはロシアへの抑止力強化を念頭に、17年以降にポーランドとバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)で多国籍軍部隊を展開し、東欧でのミサイル防衛(MD)を強化することを表明していた。ロシアはNATOの決定を安全保障上の脅威とみなし、対抗してイスカンデルを持ち出してきた、というのが大方の見方だ。

ワルシャワも射程内
射程距離が500キロのイスカンデルは、ポーランドの首都ワルシャワ、リトアニアの首都ビリニュス、ラトビアの首都リガまで届く。改良で最大射程が700キロに延びた新型になると、ドイツの首都ベルリンも射程に収める。

NATOがさらに懸念するのは、イスカンデルは通常弾頭の他に、射程が500キロ以下の核ミサイルや核弾頭などの「戦術核」を搭載できる点だ。イスカンデルの配備は1987年に米ソが署名した「中距離核戦力全廃条約」違反の恐れがあるが、ロシアは気に留める素振りもない。

実際に核弾頭が搭載されているかどうかは明らかになっていないが、ロシアは過去にもMD防衛システムを配備する周辺国に対して核攻撃の可能性をちらつかせて脅した経緯があり、今回もまた脅しである可能性は払拭できない。

ロシア政府は、イスカンデル配備は一時的なもので軍事演習の一環と説明した。確かに似たようなことは以前もあったが、今回は配備の規模が大きい。NATO加盟国は、ロシアがいよいよカリーニングラードに核兵器を実戦配備するのではないかと警戒を強めている。

エストニアのリホ・テラス国防軍司令官は、ロシアの動きについて「(ロシアが)バルト海沿岸での支配力を強化し、軍備を増強する」計画の一環だとみる。

これは根拠のない空論ではない。カリーニングラードは長年バルト海の東岸でロシアが進めるA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略の要衝として機能しており、イスカンデルには大規模な軍事部隊や軍事基地、都市などに命中する精度がある。

NATO加盟国はイスカンデル配備を激しく批判した。だがNATOがミサイル発射の脅威にどう対抗するのかは不明だ。仮に新たな抑止策が可能になっても、NATOとロシアの対立が一層高まることは避けられそうにない。【11月7日 Newsweek】
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東欧・旧ソ連諸国にはロシア回帰も “トランプ現象”の側面も
こうしたNATO対ロシアのせめぎあいの一方で、東欧諸国や旧ソ連諸国にあってはロシアとの関係が強く、EUを通した西側への接近に対する“揺り戻し”とも思えるようなロシアとの関係修復の動きも見られます。

東欧ブルガリアの大統領選挙では、親ロシアの中道左派野党・社会党が推すルーメン・ラデフ前空軍司令官(53)が当選を確実にしています。

****敗戦濃厚で首相が辞任表明 ブルガリア大統領選****
ブルガリアで13日、大統領選の決選投票が行われた。野党社会党が推す元空軍司令官ルメン・ラデフ氏(53)が複数の出口調査で支持率58%を獲得。与党が推すツェツカ・ツァチェワ議会議長(58)を大きくリードし、当選が濃厚になった。ボリソフ首相は公式結果の発表を待たず辞任を表明した。
 
ブルガリアでは大統領に政治の実権はないが、中道右派の与党「欧州発展のためのブルガリア市民」(GERB)を率いるボリソフ氏が首相辞任に追い込まれたことで、政治の不安定化が避けられなくなった。
 
ラデフ氏は欧州統合を支持するものの、経済の結びつきが強く、エネルギーを依存するロシアともバランスのとれた関係が必要と主張。EUの対ロシア経済政策にも批判的で、親欧米路線で同国との関係を冷却化させたボリソフ政権を批判した。
 
ブルガリアは2007年に欧州連合(EU)に加盟したが、経済停滞が続く。
 
6日の第1回投票では人気のテレビ番組司会者の署名運動で選挙改革をめぐる国民投票が実現した。投票率も50%を超え、圧倒的多数が改革に賛成。投票総数が直前の総選挙以上という成立条件にわずかに届かなかったが、政治への不満の強さを見せつけた。

大統領選ではボリソフ氏が与党候補が敗れた場合の辞任を事前に公言しており、政権に不満を持つ層の投票意欲に火をつけた可能性もある。【11月14日 朝日】
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また、旧ソ連のモルドバでも、親EU路線を進めてきた現政権に対し、ロシアとの関係改善を訴える社会党のイーゴリ・ドドン氏(41)が勝利しています。

****モルドバ大統領選、親ロ派ドドン氏勝利 内閣は親欧路線****
旧ソ連のモルドバで13日、大統領選(任期4年)の決選投票があり、ロシアとの関係改善を訴える社会党のイーゴリ・ドドン氏(41)が小差で勝利した。フィリプ首相が率いる内閣は親欧州連合(EU)路線を進めており、国内の緊張が高まる可能性がある。
 
ドドン氏は勝利演説で「EUとの統合を求める人、ロシアと接近したい人、すべての人のための大統領になる」と述べた。一方でロシアメディアに対して、大統領就任後、親欧派が多数を占める議会の解散を検討する考えを示した。
 
中央選挙管理委員会によると、開票率99・8%の段階で、ドドン氏は52・4%を得た。親欧派「行動と連帯」のマイア・サンドゥ氏(44)は47・6%だった。
 
欧州最貧国と言われるモルドバは、2014年にEUとの間で連合協定を結ぶなど、欧州への統合を進めてきた。しかし昨年、国内の主力銀行3行から10億ドル(約1050億円)が消える事件が起き、反政府運動が激化。最高裁の決定で、20年ぶりに直接投票による大統領選が行われた。
 
ドドン氏は反政府運動に加わり、EUとの連合協定の見直しやロシアとの経済協力の推進を主張。ロシアがウクライナから一方的に併合したクリミア半島について「事実上、ロシアに帰属している」と述べるなど、政治的にもプーチン政権に近い立場だ。
 
モルドバ国内にあって政府の統治を受け入れずに独立を主張、ロシア軍が駐留している「沿ドニエストル共和国」の問題についてドドン氏は、モルドバを連邦国家とし、沿ドニエストルに大きな自治権を与える考えを語っている。
 
モルドバでは議会と内閣が政策決定で大きな力を持つが、直接選挙が行われたことで、大統領の影響力も強まると見られる。【11月14日 朝日】
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“モルドバでは議会と内閣が政策決定で大きな力を持つ”ということで、直ちにロシア回帰路線への転向や、沿ドニエストル問題での動きがある訳ではないようです。

経済停滞が続き、選挙改革が求められているブルガリア、欧州最貧国から抜け出せず、資金消失疑惑で揺れるモルドバ・・・いずれも単にロシアとの関係を改善する云々だけではなく、国民の“既成政治への怒り”が噴き出す「トランプ現象」とも思われます。

年末から来年にかけて注目の選挙が続く欧州 枠組み変更の可能性も
欧州では、既成政治の枠組みが大きく変更される可能性もある選挙がこれから続きます。

オーストリアでは12月4日の“やり直し選挙”で、「南部の国境に壁を作って移民を入れない。人々の安全を守るのが、大統領の仕事だ!」と主張する極右政党のノルベルト・ホーファー氏が大統領を狙います。かなり有力視されています。オーストリアの大統領には儀礼的な役割しかありませんが、「流れ」という意味で注目さます。

イタリアでは同じ12月4日、レンツィ首相が自身の進退を懸けて、上院改革などの憲法改正に関する国民投票に臨みますが、世論調査では否決されるとの見方が多いとか。そうなると、2017年にも前倒し選挙が実施されると予想され、EUに懐疑的な最大野党「五つ星運動」がどこまで伸びるかが注目されます。

フランスでは来年4~5月に大統領選挙が行われます。注目は、ここでも極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏。
ルペン氏は来年4月の大統領選の第1回投票に勝利するものの、5月の決選投票で敗れるとみられていましたが・・・・「トランプ勝利」の再現もあるのではと、にわかにざわつき始めています。

****仏極右ルペン国民戦線党首、「トランプ氏」のような勝利望む****
フランス極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は13日、英BBC放送の番組に出演し、米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利はエリート層に対する人民の勝利だと語った。その上で、フランス国民も来年、こうした動きに続いて、自身を大統領に選んでくれることを望むと述べた。

BBCの「アンドリュー・マー・ショウ」のインタビューに答えた。トランプ氏の勝利により、自身が勝利する可能性が高まったかとの質問に対し、ルペン氏は「トランプ氏は、かつて不可能とされていたこと可能にした」と称賛。「フランスでも、国民に帰すべきものをエリート層が分け合っているような状況を、国民が覆すことを望む」と、述べた。

世論調査によると、ルペン党首は来年4月の大統領選の第1回投票に勝利するものの、5月の決選投票で敗れるとみられている。【11月14日 ロイター】
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EUに批判的なルペン氏がもし勝利することになれば、EUはここで終焉です。なお、ルペン氏の「国民戦線」はロシアから資金提供を受ける関係です。

フランスでルペン氏の攻勢を退けても、EUの中核ドイツで8~10月に総選挙が予定されています。
難民問題で国民の不満が高まるメルケル首相が踏みとどまれるか、昨年の一部の州議会選挙で躍進した排外的新興政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて連邦議会で議席を獲得して躍進するのか・・・非常に注目されます。

一連の選挙結果次第で、欧州の枠組みも、ロシアとの関係も大きく変動する可能性があります。
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インドネシア  華人ジャカルタ知事の発言にイスラム強硬派が大規模抗議デモ 宗教的価値観の差

2016-11-13 22:51:17 | 東南アジア

(インドネシア・アチェ州バンダアチェで、恋人とハグやキスをしていたなどとして公開むち打ち刑を受けるイスラム教徒の若い女性(2016年10月17日撮影)【10月18日 AFP】)

イスラム主義・宗教的不寛容の拡大
下記のトランスジェンダー(性別越境者)の人々による美人コンテストの話題、注目されたたのは開催地がインドネシアということです。

****トランスジェンダーのミスコン、強硬派恐れひそかに開催 インドネシア*****
イスラム教徒が多数を占めるインドネシアで11日夜、トランスジェンダー(性別越境者)の人々による美人コンテストが、人目につかないよう非公開に近い形で行われ、きらびやかなドレスに身を包んだ参加者たちに観客が声援を送った。(中略)
 
首都ジャカルタで行われたコンテストの開催についてはほとんど公表されず、招待されたメディア関係者もごくわずかで、イスラム過激派の怒りを買うことを恐れた主催者側は、声援を送る観客に対してコンテストの写真をソーシャルメディアでシェアしないよう注意していた。
 
世界最多のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアでは、近年、強硬派が急速に台頭し、女性問題に焦点を当てた行事を中止させたり、教会の閉鎖や地域での活動停止を狙って少数派のキリスト教徒を攻撃したりしている。【11月12日 AFP】
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インドネシアやマレーシアなど、従来穏健で世俗的ともされていた東南アジアのイスラム世界で、近年イスラム原理主義的の台頭、宗教的不寛容の拡大が見られることは、このブログでも取り上げてきました。
(2016年1月14日ブログ“インドネシア ジャカルタ中心部で爆破テロ イスラム原理主義台頭の土壌も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160114など)

下記は1月14日ブログでも紹介した記事です。

****インドネシア、宗派対立激化 原理主義台頭 薄れる寛容性****
2002年のバリ島爆弾テロから来月で10年となるインドネシアでは、テロの頻発に加え、多数派のイスラム教スンニ派住民による少数派住民への襲撃が相次いでいる。

政府は、世界最大のイスラム教徒を抱える穏健な世俗国家で、宗教の多様性に比較的寛容なこの国に、「原理主義と不寛容」が急速に台頭していると危機感を強めている。
 
「事件は遺憾だ。宗教に対する寛容性における汚点だ」。ユドヨノ大統領が苦渋の表情で言及した「事件」とは、東ジャワ州マドゥラ島中部のサンパン県で8月26日、暴徒化した500人のスンニ派住民が、少数派のシーア派住民を襲撃した出来事を指す。シーア派住民の2人が死亡、数十人が重軽傷を負い、35軒の家屋が放火されたのだ。
 
事の発端は、シーア派の生徒数十人が、スンニ派住民に登校を妨害され、小競り合いとなったこと。だが、根は深そうだ。シーア派団体は、イスラム団体を統括するイスラム指導者会議(MUI)が1月に、シーア派を「異端」とするファトワ(宗教裁定)を出し、これがシーア派への差別を助長させ襲撃の要因になった、と非難している。
 
ユドヨノ大統領は、あるシーア派指導者の兄と、その弟のスンニ派指導者との「兄弟対立」に起因しているという見解を示した。
 
だが、標的はシーア派にとどまらない。西ジャワ州ボゴールでは7月、アハマディア派が襲われた。
 
インドネシアの人口(約2億4千万人)の88%を占めるイスラム教徒のうち、スンニ派は99%と圧倒的で、シーア派は100万~300万人、アハマディア派は50万人ともされる。
 
ある専門家は「宗教上の寛容性が低下している要因として、宗教の多様性と寛容性を脅威だとみなして拒絶し、正統性を認めない原理主義の高まりにあると指摘できる」と説明する。
 
一方、テロの企ては枚挙にいとまがない。ミャンマー西部ラカイン州における仏教徒とイスラム教徒との衝突事件にからみ、インドネシア国内の仏教徒を標的にテロを計画した容疑者が逮捕された。
 
ジャカルタの議会を狙ったテロも発覚し、中ジャワ州ソロを拠点とする若いテロリストが逮捕されている。
 
こうした動向は、「民主主義の進展に対する反動としての原理主義の台頭」(専門家)という側面が指摘されている。政府は、原理主義の台頭を押さえ込む包括的な対策に乗り出した。【2012年9月13日 産経】
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異例の華人ジャカルタ知事
この記事が書かれた2012年9月には、“宗教的不寛容の拡大”に抗するような“異例”の選挙が注目されました。
現大統領のジョコ・ウィドド氏が首都ジャカルタ特別州の知事選挙に立候補したのですが、その相棒となる副知事候補が少数派の華人(中国系)バスキ・チャハヤ・プルナマ氏でした。

当時は、知事候補ジョコ・ウィドド氏よりは、華人副知事候補プルナマ氏の方が話題になりました。ジョコ氏も随分と大胆な人選をしたものです。さすがに、大統領になる人は凡人とは発想が違うようです。

****政治嫌い」華人、卒業? ジャカルタ副知事候補に****
20日に決選投票があるインドネシアの首都ジャカルタ特別州の知事選で、副知事候補として少数派の華人(中国系)が立候補した。「経済を牛耳るが、政治嫌い」とされてきた華人の異例の挑戦に注目が集まっている。
 
今月初め、ジャカルタ中心部のスタジアムとその周辺を、そろいのチェック柄のシャツを着た約1万人が埋め尽くした。決選投票に臨む正副候補者の支持者らだ。人気歌手らの歌が終わり、2人の候補者がステージに現れると、観衆の興奮は最高潮に達した。
 
「アホック、アホック」の大歓声に手を振ったのは副知事候補、バスキ・チャハヤ・プルナマ氏(46)。「アホック」は、独自の方言を持つ漢民族系のグループ「客家(ハッカ)」をルーツとするバスキ氏の愛称だ。
 
正副知事候補がペアを組む同選挙で、インドネシアの多数派民族マレー系出身の新顔知事候補、ジョコ・ウィドド氏(51)が相棒に選んだ。実業家から政界に転身したバスキ氏は、東ブリトゥン県知事時代に汚職撲滅を掲げて人気を集め、国会議員にもなった。
 
華人は総人口の3%程度といわれる。財閥のほとんどを占める経済力を持ちながら、1965年、共産党のクーデター計画を華人が支持したとして政治的迫害を受けて以来、政治との関わりを避ける傾向が強かった。
 
調査機関のコンパス調査開発によると、現在、国会議員560人のうち、華人は15人。市長など地方の正副首長も数人いるとはいえ、人口1千万人を超す首都に初の華人系副知事が誕生する政治的意味は大きい。

7月の第1回投票では、「圧倒的有利」とされた再選を目指す現職知事のペアに10ポイント近い差をつけて1位になり、国中を驚かせた。
 
バスキ氏は、イスラム教徒が9割近くを占める同国で少数派のキリスト教徒でもある。「非イスラム教徒は勝てない」という固定概念が破られるのか。もし勝利した場合、多数派住民がすんなり受け入れるのか。全土が注目する。
 
現職知事の陣営や支持者は「異教徒の華人に首都を乗っ取られていいのか」とネガティブキャンペーンを展開した。バスキ氏は「私は華人である前にインドネシア人だ。金持ちとして2千人に寄付するより、良い政治で1千万人を救いたい」と話している。【2012年9月 朝日】
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ウィドド・プルナマのコンビは2012年9月20日の決選投票で、「異教徒の華人に首都を乗っ取られていいのか」というネガティブ・キャンペーンを展開した現職候補を破り当選。

その後、周知のように知事だったウィドド氏が大統領に就任したことで、2014年11月からプルナマ氏が首都ジャカルタ特別州知事となっています。

【「コーラン、イスラム教徒を侮辱した」として大規模抗議デモ、辞任要求
このようにプルナマ氏は原理主義が台頭するインドネシア社会にあって異例の華人・キリスト教徒知事でしたが、当然ながら、選挙戦でも見られたようなイスラム社会との緊張関係があったと思われます。

その緊張関係が、来年2月の再選を目指すプルナマ知事の“挑戦的”な発言で、一気に大きな問題となりました。

****反イスラム発言」で大規模デモ=首都知事に抗議―インドネシア****
インドネシアの首都ジャカルタで4日、プルナマ知事が反イスラム的な発言を行ったことへの大規模なデモが行われ、警察当局によると15万人が参加した。
 
プルナマ知事は中華系キリスト教徒。来年2月の知事選に関し、今年9月、キリスト教徒を仲間にしてはならないとするコーラン(イスラム教の聖典)の一節を挙げ、「私に投票して地獄に落ちると思うなら、する必要はない」と発言。知事はその後謝罪したものの、イスラムを冒涜(ぼうとく)したとして強硬派団体がデモを呼び掛けていた。
 
ジャカルタ州庁舎や大統領府前では、金曜礼拝が終わった午後から「知事は監獄に行け」などと書かれたプラカードを掲げた参加者が集結し、シュプレヒコールを上げた。【11月4日 時事】 
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騒動のきっかけは「ユダヤ教徒とキリスト教徒を仲間としてはならない」とするイスラム教の聖典「コーラン」の一節(第5章第51節)に触れて「コーランの一節に惑わされているから、あなたたちは私に投票できない」と述べた。これが「コーラン、イスラム教徒を侮辱した」として強い批判と反発を招いたもののようです。

コーランの記載は事実であり、「反イスラム発言」というほどのものかどうかはともかく、異なる宗教・民族が共存する社会にあっては、敢えて言う必要もない挑発的で不用意な発言ではあるでしょう。彼自身が多くのイスラム教徒の支持もあって現在の地位にあるのですから、敢えてそこを刺激する必要もないように思われます。

2012年の副知事立候以来、イスラム社会と緊張関係にあって、これまでも多くの批判にさらされてきたことから、“売り言葉に買い言葉”的に出た発言とも思われます。

イスラム強硬派は、今回発言だけでなく、プルナマ知事がこれまで進めてきた多くの施策に関し批判を並べています。

例えば、土地整備の一環としてモスクを潰したこと、多くの役人や学校校長などをムスリムからキリスト教徒に変更したとされること、「売春宿など性産業を否定するヤツは偽善者だ」とか「酔っ払わなければビール飲んでもいい(ビール飲んで死んだヤツは居ないだろ)」といった世俗的・現実的な発言、ミスワールド開催地候補に賛成したこと等々・・・このあたりは、山本啓二氏のサイト「インドネシアITナビ」の“宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるか”https://www.indonesia-japan.com/demo/に詳しく書かれています。

インドネシア在住の山本氏は以下のようにも述べています。

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宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるかは人によって異なりますので、特定の強硬派集団が形成されてしまうのは止むを得ないことだと思いますが、その一方で現在でもDKI(Daerah Khusus Ibu Kota ジャカルタ首都特別州)の40%以上のイスラム教徒がAhok氏を支持しています。

イスラム的価値観に少しでも抵触する事案に対しては一切妥協の余地なしの一部強硬派によるデモばかりがメディアを賑わせるため、インドネシア全体がイスラム原理主義っぽく見られることが非常に残念であり、実際には価値観の違いを理解し政治と宗教を切り離して考えることができるムスリムが大半であることが、なかなか海外には伝わりにくいと思います。

事実としてスハルト大統領退陣後の民主化以降、インドネシアではイスラム政党が第1党になったことが1度もなく、多様性の中の統一を国是とするインドネシアのイスラム社会では、世界最大のイスラム人口を抱えながらも、政治と宗教のバランスが絶妙に保たれていることが判ります。
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4日行われた大規模デモでは、参加者と治安部隊が衝突して250人が負傷した【11月8日 BLOGOS】とも、1人が死亡した【11月5日 読売】とも報じられています。

かつての盟友プルナマ氏が矢面に立つ危機に、ジョコ大統領は6日から予定していたオーストラリア訪問を延期しています。

知事・大統領追い落としのための政治的動きとの見方も
今回“騒動”については、ジョコ大統領からも“黒幕”がいる政治的動きだとの指摘もあるようです。

****知事選絡みのジャカルタ騒乱 インドネシアのタブーSARAとは*****
(中略)
■社会の安全弁でもある禁忌「SARA」 
「多様性の中の統一」を国是とする多民族、多文化、多言語のインドネシア社会を理解する一つのキーワードに「SARA(サラ)」というものがある。これは「suku(民族)」「agama(宗教)」「ras(人種)」「antargolongan(階層)」の頭文字をとった言葉で、この4つが絡む問題は特に神経を使う必要があるのだ。

今回のバスキ知事辞任要求はこのSARAのうち、宗教と人種、さらに階層もが絡む実にセンシティブで微妙な問題であるとされる。SARAはインドネシアでは「触れてはならないタブー」「踏み込むことを躊躇する禁忌」と考えられているのだ。

それだけにこの一線を越えると「容赦ない反発と批判、そして攻撃」が待っているのだ。多民族、多宗教、多人種、複雑な社会階層と出身地ヒエラルキーなどを内包する国家がその統一を維持するための「必要な安全弁」としての機能がこのSARAにはあるともいえる。(中略)

バスキ知事は再選を目指して来年2月15日投開票の知事選に出馬しており、激しい選挙戦を展開している時期であったが、イスラム強硬派組織の「イスラム擁護戦線(FPI)」が知事の辞任を求めて大規模な集会とデモを計画。

圧倒的多数を占めるイスラム教徒の聖典に言及したバスキ知事の発言は、SARAによるところのプロテスタントで中国系華人、スマトラ島の地方都市出身であることが相乗効果となって「知事辞任要求」「逮捕要求」へと一気に拡大してこの日の大規模デモへとつながったのだった。

■無視できない圧倒的多数のイスラム
FPI(イスラム強硬派組織の「イスラム擁護戦線」)によるデモ呼びかけに対し、ジョコウィ大統領やユスフ・カラ副大統領は「デモはあくまで平穏に行うように」と呼びかけ、国家警察もFPIの代表を事情聴取するなど政府や治安当局は事態の沈静化に懸命に動いた。

インターネット上ではバスキ知事の発言とSARAを関連付けてデモや集会を扇動したり、知事を中傷誹謗したりする書き込みが急増。事態を重視した通信情報省が11のウェブサイトへのアクセスを強制的に遮断する措置を講じた。

なぜここまで「コーラン侮辱発言」が大きく発展してしまったのかを考えると、インドネシアが直面する課題が浮かび上がってくる。

イスラム教を国教とするイスラム教国ではなく、キリスト教や仏教など他の宗教も認める世俗国家であるインドネシアだが、国民の約88%というマジョリティー以上、圧倒的多数を占めるイスラム教徒の力は社会のあらゆる分野でやはり相当のウェイトを占めているのが現実だ。

少女への暴行事件をきっかけに未成年の性犯罪に死刑や科学的去勢を含む厳罰化が国会で議論され、公の場での禁煙や禁酒が再び議論の対象になるなど、インドネシア社会を取り巻くモラル、規範の見直しの動きがこのところ顕著な傾向を示している。

こうした流れの根底にあるのがイスラム教の教えであり、インドネシア社会の「モラル見直し」が図らずも「イスラム教のモラル実現」と密接に関連していることとが無視できない現実として横たわっているのだ。 

■デモの背後に政治的黒幕?
SARAに触れる問題というだけでも複雑な背景なのに、今回のデモについてジョコウィ大統領が「デモの背後に政治勢力がいる」と指摘したように、政治的背景の存在が今回のバスキ知事を巡る騒動の火にさらに油を注ぐ結果を招いている。

今回のデモに至るバスキ知事批判の一連の流れを背後で画策している黒幕として名前が挙がっているのがユドヨノ前大統領だ。(中略)

その理由はいたって単純明快で知事選にはユドヨノ前大統領の長男で元軍人であるアグス・ハリムルティ・ユドヨノ氏が民主党など4党に擁立されて立候補しているのだ。

名指しされた形のユドヨノ前大統領はデモの2日前の同月2日にわざわざ会見して自らが黒幕とする見方に「誤った情報だ。特定の勢力を黒幕に仕立てるべきではない」と反論した。

バスキ知事を批判する勢力はインドネシア国民が等しく反発するSARAを持ち出すことで政治色を覆い隠し、知事選での巻き返しを突破口に現政権批判につなげようとしている、とみられている。

デモの背後にそうした深刻な動きを感知したからこそジョコウィ大統領は5日から予定されていたオーストラリア訪問を急きょ延期して、副大統領を通じて指示したバスキ知事への2週間以内の捜査終了を見守る姿勢を示すなど事態の対応に取り組んでいる。

バスキ知事に対する国家警察の事情聴取が7日に行われ、9時間近い事情聴取を終えたバスキ知事は「全て明らかになったと思う」と報道陣に話し、捜査終結への期待をみせた。捜査当局は今後、問題となったバスキ知事の発言を編集してネットにアップし一連の騒動の発端となった大学講師など関係者の事情聴取を進める。

大統領の指示で2週間以内に結論を出すとみられる捜査結果次第では「知事の即時辞任」や「知事逮捕」を要求する強硬派が再び大規模な街頭デモを組織する可能性もあり、ジャカルタは再び緊張状態に包まれる懸念がでている。【11月8日 大塚智彦氏 BLOGOS】
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この騒動、第2ラウンドがありそうです。

改めて“宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるか”】
なお、“宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるか”という問題に関しては、アチェ州の女性むち打ち刑の話題なども、非イスラム教徒側に問われます。アチェ州ではインドネシアで唯一、シャリア(イスラム法)が適用されています。

****公開むち打ち刑で女性泣き叫ぶ、異性交際で処罰 インドネシア****
インドネシア・アチェ(Aceh)州の州都バンダアチェ(Banda Aceh)のモスクで17日、恋人とハグやキスをしていたなどとして未婚男女13人に対する公開むち打ち刑が行われた。
 
6組の未婚の男女が体を触ったり、ハグやキスをしたりしたとして有罪とされていた。このほかに男性1人が、姦通につながりかねない隠れた場所で女性と一緒にいたという、6組の男女よりは軽い罪で有罪とされていた。
 
刑を執行された男女の年齢は21~30歳で、うち1人の女性は執行時に泣き叫んだ。妊娠していることが判明した22歳の女性は出産までむち打ち刑の執行を延期された。(後略)【10月18日 AFP】
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この公開むち打ち刑の動画はhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161020-00010001-afpbbnewsv-intにありますが、“宗教の違いによる価値観の差をどこまで許容できるか”は、なかなか難しい問題です。
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中央アフリカ  「アフリカの憲兵」フランス軍の撤退完了 “見捨てられた”との懸念も

2016-11-12 21:24:47 | アフリカ

(中央アフリカに駐留していたフランス軍=2014年7月、南西部ボダ(AFP=時事)【11月2日 時事】)

【「忘れられた人道危機」】
文字通り広大なアフリカ大陸のど真ん中に位置する中央アフリカでは、2013年からイスラム武装武装勢力「セレカ」と政府軍の戦闘、セレカの首都制圧・大統領失脚、フランス軍の介入、キリスト教系女性大統領の誕生、キリスト教民兵「反バラカ」による報復・・・といった内戦による混乱が続き、「忘れられた人道危機」とも言われていました。

一応、2014年7月に、戦闘を続けていたイスラム教徒とキリスト教徒の双方武装勢力が停戦に合意した形にはなっています。

イスラム教徒とキリスト教徒の対立という側面で語られることが多い中央アフリカの紛争ですが、どこの紛争でもそうですが、宗教の問題だけでなく、民族の問題、格差の問題、政府の統治能力の問題などが複合的に絡んだ事態を悪化させています。

****中央アフリカの戦闘は宗教紛争か、深層に民族対立 悪政 嫉妬*****
中央アフリカで起きた血みどろの紛争は、アフリカ大陸各地で宗教間の対立が起きていることを反映して、イスラム教徒とキリスト教徒の戦いだと捉えられがちだ。

しかし専門家たちは、この紛争の真の原因は、民族や階級間の闘争、そして腐敗した政治のせいだと分析する。チャドやスーダンから移住してきて成功を収めたイスラム教徒の貿易商たちへの嫉妬、パワーポリティクス、さらには中央アフリカが奴隷貿易の主要な中継地点だった頃から続く緊張が、すべて絡み合って現在の紛争につながっていると専門家たちは指摘する。

中央アフリカ福音教会連盟のニコラ・ゲレコヤム・ガングー(Nicolas Guerekoyame Gangou)代表は、「彼らは若者を操って殺人をさせている。失った権力を取り戻したいからだ」と言う。「キリスト教徒とイスラム教徒はずっと一緒に暮らしてきた。だが戦争をあおるような政治家たちの発言から、紛争が起きる前から私たち宗教指導者たちは戦争の足音を感じていた。背後で糸を引き、宗教対立のように見せかけているのは政治家たちだ」

今回の紛争は2013年3月、主にイスラム教徒からなる武装勢力連合「セレカ」が首都バンギを制圧し、フランソワ・ボジゼ大統領(当時)を失脚させたことが始まりだ。これに対し、キリスト教徒を中心としたボジゼ氏支持派の「反バラカ」と呼ばれる民兵組織が台頭し、イスラム教徒に復讐。以降、双方が虐殺、レイプ、略奪と血みどろの報復合戦を繰り広げた。

セレカはおおむね中央アフリカの北部と東部の出身者と、隣国のスーダンとチャドからやって来た主にイスラム教徒の戦闘員から構成されている。一方の反バラカは、主にボジゼ氏の出身部族で、中央アフリカの中部と南部出身のムバヤ(Mbaya)人から構成されている。

しかしセレカ、反バラカのいずれも、お守りや魔除けを使うなど精霊信仰が強く、専門家たちはお互いの憎悪は宗教ではなくもっと何か深いものに根差していると考えている。

■「宗教的対立」だけではない
セレカの元幹部で現在は大統領顧問になっているアブドゥレイエ・ヒセーヌ氏は、この紛争を宗教間対立という表現だけで片付けるのは「まったくの間違いだ」と語る。「モスクを破壊しているのは、本当のキリスト教徒ではないし、教会を攻撃しているのも本当のムスリムではない。彼らは平和の敵にカネを渡された個人だ」

ボジゼ政権で大臣を務め、現在は反体制勢力のメンバーになったジョゼフ・ベンドゥンガ氏は、紛争は「悪いガバナンス、民主主義の軽視、腐敗、人権侵害」のせいで発生したと語る。

専門家たちは、人口のほぼ50%をイスラム教徒が占めている隣国チャドも、中央アフリカの紛争の原因を作ったとして非難している。チャド政府は2003年、フランスや周辺国の支持を得て中央アフリカのクーデターを支援し、ボジゼ氏を大統領の座に就けた。だが10年後には、そのボジゼ氏を失脚させたセレカを支援しているとして、チャドは非難されている。

中央アフリカにはダイヤモンドや金など天然資源があるが、長年の失政によって国の発展は遅れたままだ。そんななか、主にチャドやスーダンからのイスラム教徒の貿易商たちがダイヤモンド採掘の拠点や陸運業を支配し、中央アフリカの他の国民よりも豊かな暮らしをしてきた。

彼らの成功は、首都バンギに最後に残ったイスラム教徒の居住区「PK-5」を見れば明らかだ。この商業地域にイスラム教徒たちは大きな店を所有しているが、小作農たちはここの通りでキャッサバやサツマイモを売るためにやってくる。

現地人とのこのような社会経済的な格差は、西アフリカではレバノン系住民との間で、東アフリカではインド系住民との間で見られる。このような格差が生み出した嫉妬心が、社会の秩序が失われた時に暴力という形で噴出するのだ。【2014年7月29日】
***************

イスラム教徒の中の富裕層はごく一部で、大多数はキリスト教徒同様の貧困者でしょうから、上記の“格差”分析がどこまで適切なのかはわかりません。

【「アフリカの憲兵」フランスの軍事介入
フランス・オランド政権は、やはり2013年1月に旧植民地マリの混乱に軍事介入しており、その華々しい成果と住民歓迎の余勢をかって旧植民地・中央アフリカにも‟果敢に”介入した・・・というイメージもあります。
また、「世界の警察官」に乗り気でないアメリカは、アフリカはフランスに任せた・・・という感も。

フランスがアフリカに介入するのは、「人道上の配慮」の他、現地に有する利権維持という側面が多々ありますが、「アフリカの憲兵」としてのいろいろな思惑もあるようです。

****中央アフリカにフランスが軍事介入した3つの理由****
12月6日、フランスが国連安全保障理事会に提出していた、中央アフリカ共和国に部隊を派遣する提案が決議され、フランス軍1200名の他、アフリカ各国の軍隊から3600名を派遣することが決まりました。

フランスはかつてフランス領だった国を中心に安全保障協力を続けており、今年に入っての部隊派遣は1月のマリに続き2回目です。その名の通り、アフリカ中央部に位置する小国で、なぜフランスは軍事介入に踏み切ったのでしょうか。(中略)

フランスは「アフリカの憲兵」
フランスが部隊を派遣する背景には、人道的なもの以外に、大きく三つの理由があげられます。第一に、旧植民地はフランスにとって、重要な支持基盤であることです。治安の回復は、「アフリカの憲兵」としての存在感にとって不可欠です。
 
第二に、戦闘が拡大することの予防です。最近のアフリカではイスラム過激派の活動が活発で、一国の内乱は周辺国に容易に飛び火しがち。状況がより悪化させないようにすることが、介入の決定に繋がったといえます。
 
第三に、経済的、人的な結びつきです。中央アフリカからみてフランスは最大の貿易相手国で、ウラン鉱山の開発などがフランス企業によって進められています。在留フランス人も多く、フランス軍は3月の段階でこれを保護するために400人規模の部隊を既に派遣していました。

軍事介入で安定するのか
もっとも、ボジゼ氏の亡命までは、財政的な理由や国内世論への配慮もあり、フランスのオランド大統領は部隊派遣に消極的な姿勢をみせていました。しかし、上記三つの理由に加えて、やはり部隊を派遣するチャドなど周辺国の装備が必ずしも充分でないこともあり、今回の派遣に至ったのです。
 
散発的な戦闘があったものの、フランス軍はバンギなど各地の治安を回復させ、セレカの武装解除にも着手。また、フランスの国連大使は2014年後半までに選挙を実施することが望ましいと述べており、今後ジョトディア政権との交渉が加速するとみられます。
 
しかし、中央アフリカでは選挙が実施されても、貧困や汚職を背景に、その度に武装勢力が現れてきました。これに鑑みれば、軍事介入で一時的に治安が回復したとしても、その前途は多難と言わざるを得ないでしょう。【2013年12月17日 国際政治学者・六辻彰二氏 THE PAGE】
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収まらない混乱 不祥事が絶えない国連PKO
“軍事介入で一時的に治安が回復したとしても、その前途は多難と言わざるを得ないでしょう”という予測のように、停戦合意でいったんは小康状態になったようにも思われたのですが、最近再び混乱・衝突の話を聞きます。

****中央アフリカ、民兵組織が民間人を襲撃 30人死亡****
中央アフリカ中部のカガバンドロで12日、イスラム教徒を中心とする民兵組織が民間人を襲撃し、30人が死亡、57人が負傷した。 国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)が13日発表した。
 
かつて武装勢力連合「セレカ」だった組織の1人が他の3人と共に地元ラジオ局から発電機を盗もうとして殺害されたことをきっかけに襲撃が起きた。民兵は国連(UN)やNGOの施設の構内で略奪も行った。平和維持軍が急行して民兵12人を殺害した。
 
世界の貧困国の一つ、中央アフリカでは2013年3月、イスラム教徒を主とするセレカによって、キリスト教徒のフランソワ・ボジゼ大統領が失脚させられて以降、宗教間の対立が激化し、1万2000人規模の国連平和維持軍が派遣されている。武装勢力は首都バンギからは駆逐されてきたが、地方部では今も事件を起こしている。
 
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、現地の情勢のため12万人への食糧支援、また7万人以上の国内避難民支援に支障が出ている。【10月15日 AFP】
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昨年末には、イスラム教徒主体の武装勢力が北部カガ・バンドロを拠点とする自治政府樹立を一方的に宣言、分離独立を目指す意向を明らかにしており、中央暫定政府は国際社会の介入による独立阻止を訴えていました。

フランス軍とともに現地の安定化にあたる国連PKOにも不祥事が相次いでいます。南スーダンの“PKO失敗”と同様に、国連PKOの在り方が問われています。

****中央アフリカPKO 性的不祥事、派遣国を公表・・・・国連****
国連は1月29日、中央アフリカの国連平和維持活動(PKO)部隊による未成年者への性的不祥事が新たに6件発覚し、バングラデシュ、コンゴ民主共和国、モロッコ、ニジェール、セネガルから派遣された要員が関わっていたことを明らかにした。

<国連>PKO要員また少女暴行の疑い
中央アフリカではPKO要員による現地住民への性的不祥事が相次いでいるが、問題を起こした要員の派遣国が公表されたのは初めて。国連は5カ国のうちコンゴ民主共和国について、派遣前の教育が不十分として、全要員を送り返すことを決定している。

今回のケースを含め、2015年に中央アフリカで起きた性的不祥事は22件に上る。世界各地で展開中の16のPKO全体では、計69件(前年比18件増)が確認されている。潘基文(バン・キムン)事務総長は近く、要員の派遣国名を含む報告書を発表する。
 
派遣国名の公表や要員の送還は、事務総長が昨年9月に発表した再発防止策の一環。29日に記者会見した国連のバンバリー事務次長補は「被害者支援、責任の追及、再発防止に全力を挙げている」と述べた。
 
一方、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は29日、中央アフリカで14年に7〜16歳の少女や少年計6人がフランス軍や欧州連合(EU)部隊の性的虐待などに遭っていたことを明らかにした。7歳の少女は水やクッキーと引き換えに、フランスの要員が求める性行為に応じていたという。【2016年2月1日 毎日】
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【「ミッション完了」で仏軍撤退 “早すぎる”“見捨てられた”の声も
こうした状況で、フランスは10月末で軍の撤退を完了させました。
フランスのルドリアン国防相は「ミッション成功による撤退だ」と説明しています。

このフランス軍撤退には“早すぎる”“見捨てられた”との懸念・批判もあります。

****仏軍、完全撤退=「早過ぎる」と懸念も-中央アフリカ****
フランスは10月31日付で、治安維持のため2013年から中央アフリカに派遣していた軍の撤退を公式に完了した。

ただ、前日の30日には、首都バンギのイスラム教徒地区「PK5」で武装勢力同士の衝突により約10人が死亡、中部でも衝突で警官6人を含む計25人が犠牲になったばかり。中央アフリカの政治家らからは「撤退は早過ぎる」と治安悪化を懸念する声が上がっている。

ルドリアン仏国防相は中央アフリカの議会で演説し「両国の軍事関係が終わるという意味ではない。仏軍の活動は目には見えないものになるが、今後も活発であり続ける」と強調。「軍事作戦の遂行を誇りに思う」と自賛した。
 
今後は平和維持活動(PKO)の「国連中央アフリカ多元統合安定化派遣団(MINUSCA)」が単独で治安維持活動を継続する。【11月2日 時事】
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****フランス軍に見捨てられた中央アフリカ****
中央アフリカで暴力が激化しているにもかかわらず、旧宗主国のフランスは先週、治安維持のために派遣していた軍の撤退を完了した。フランスのルドリアン国防相は「ミッション成功による撤退だ」と説明。

だが武装組織による衝突で先月だけで約65入の犠牲者が出るなど、治安は悪化しているのが現実だ。
 
中央アフリカのメカスア国会議長は仏軍の撤退について「懸念材料だ」と表現。武装勢力を「挑発」して、さらなる暴力を招きかねないと語った。(中略)

フランスは13年に軍を派遣。国連も平和維持活動(PKO)部隊を駐留させているが、国連軍には不祥事が絶えない。14年にはPKO要員による未成年者へのレイプ容疑が発覚している。
 
フランスのパルス首相は「見捨てるわけではない」と言うが、中央アフリカの人々はまさに見捨てられた気分だろう。【11年15日号 Newsweek日本版】
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フランス・オランド政権としては、介入当初の成果があがる時期はフランス国内での政権支持率向上に一定に効果がありますが、国民の関心もなくなった今は現地駐留はお荷物になるだけ、泥沼に引きずり込まれたらかなわない・・・という話かも。

【「欧州へ行く飛行機代もなく、内陸国で海も渡れない」】
「忘れられた人道危機」で“難民にもなれない人々”の苦境を訴える声も。

****注目されない惨状知って」=少年兵解放に尽力―中央アフリカ勤務のユニセフ職員****
ダイヤモンドなど豊富な地下資源に恵まれながら、1960年の独立以来クーデターが頻発し慢性的に政情不安を抱える中央アフリカ。

武装勢力に徴用された少年兵の解放に尽力した国連児童基金(ユニセフ)中央アフリカ事務所の小川亮子・子どもの保護専門官(36)が東京都内で時事通信のインタビューに応じ、「シリアのように派手な空爆などがないために注目されない惨状を知ってほしい」と訴えた。
 
2014年2月から首都バンギで勤務。ユニセフによると、国民の38万人が国内避難を余儀なくされ、さらに46万人がカメルーンや南スーダンなどの周辺国で難民生活を送っている。「周辺国も安全とは言い難い。貧困にあえぐ国民は欧州へ行く飛行機代もなく、内陸国で海も渡れない」と話す。
 
国内では、イスラム教徒主体の反政府勢力「セレカ」とキリスト教徒主体の民兵組織「アンチ・バラカ」との間で報復合戦が続き、民間人に多数の死傷者が出ている。「単純な宗教対立ではない。地下資源を狙う諸外国がそれぞれの武装勢力を陰で支援していることが、泥沼化に拍車を掛けている」とみている。
 
今年4月まで、6000〜1万人いるとされる少年兵の解放プロジェクトに携わった。子どもたちへの聞き取りで「恐怖心を克服するために薬物を投与されたり、敵の血を飲めば死なないと信じ込まされたりする」という惨状を目の当たりにした。両親を目の前で殺され復讐(ふくしゅう)を誓って自ら志願して組織に入るケースが一番多いという。家族全員を殺害され家を失い、村を襲った武装勢力に入るしか生きるすべのなかった子どももいた。
 
昨年5月、バンギでユニセフが主導した和平フォーラムでは、武装勢力10団体との間で少年兵の解放で合意。その後行われた式典では、300人以上の少年兵が解放された。「困窮しているのに身寄りのない子どもを受け入れてくれる里親家族がいたことに感動した」と話す。
 
今年3月、トゥアデラ元首相が大統領に就任した。国民の受け止めは「期待と不安の入り交じった様子」だという。小川さんは「資源を狙う外国に搾取されないよう安定した政権をつくらなければ、惨状に終わりはない」と強調した。【10月1日 時事】
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「忘れられた人道危機」が「見捨てられた人道危機」にならなければいいのですが。
軍事介入で一定の成果を出すのは比較的容易ですが、永続的な安定政権を確立するのは非常に困難なミッションです。

本来は国連が中核となってあたるべきところですが、現在の国連にその機能・能力がないのは周知のところです。では、どうすれば・・・。
アフガニスタンなども、早晩“見捨てられる”運命でしょうか。
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中国  「あんたのせいで転んだ」を防ぐ新条例「いい人法」 厳しい教育現状

2016-11-11 22:28:20 | 中国

(今回は取り上げませんでしたが、中国では、親が出稼ぎで都市部へと移動し、農村部に残されたいわゆる「留守児童」の数が902万人に上っていることが報告されています。【11月11日 AFP】)

トランプ大統領について少しだけ
トランプ大統領絡みの鬱陶しい話ばかりです。
シリア・イラクの話、アジアの情勢、ロシア・中国の動向、世界経済の話、温暖化の今後・・・・どんな話も、「で、トランプ大統領のもとでどうなるのか?」という話に行きつきます。

それだけ影響力が大きいということであり、そんな重要なポストに・・・・と言っても仕方ない話で、鬱陶しくなるだけです。

それでも、ひとつ、ふたつだけ触れておくと、選挙後はオバマ大統領との引き継ぎ会見にしても、日本への対応にしても、良識的な対応をとっているようです。それを評価して、「まともな大統領になるのでは・・・」という期待もあるようですが、“じゃ、選挙戦でのあの発言は何だったのか?有権者の気を引くためなら何を言ってもいいのか?それでまともな選挙が成立するのか?”という民主主義の根幹とも言える選挙の在り方の話にもなります。

また、大方の予測がはずれたことについて、「これまでの政治・経済の枠組みから疎外されていると感じている人々の既成政治の怒りの強さを読み間違えた」云々の釈明がありますが、そうした“怒り”があることはさんざん言われていたことで、問題はそうした“怒り”があるべき方向を向いているのか?必ずしも正しいとは言い難いものがあるとしたら、そうした“怒り”で現実政治が動かされることが許されるのか?ということではないでしょうか?

いずれも“民主主義の劣化”(“民主主義の行き着く先”と言うべきか)が懸念される問題です。

選挙後のトランプ氏の発言等で評価できるのは、彼が経済活性化のためにもインフラ投資に力点を置いていきたい抱負を持っていることです。アメリカはインフラの更新投資がなされておらず、そのことが鉄道事故頻発などにもつながっています。
トランプ版「ニューディール」は結構なことではないでしょうか。民主党大統領なら共和党議会が財政赤字を拡大する予算を絶対に認めませんが、「蜜月関係」の大統領・議会の間なら、なんとかなるのかも。

【「いい人法」が必要な中国社会の現状
鬱陶しい話はそのくらいにして、まったく関係ない暇ネタで。

中国では、道で倒れているお年寄りを助け起こしたりすると、感謝されるどころか「あんたのせいで怪我した」と逆に治療費支払を求められる・・・といった事例が多いようです。

もちろん、みんながみんなという訳ではありませんが、ここ半月ほどでも、下記のようなあきれるニュースが。
(ニュースになるということは、中国の人々も“あきれたことだ”と思っているからで、決して普通のことと考えている訳ではない証拠でしょう)

****転倒した高齢女性が「ぶつけられた」と訴え、ドライブレコーダーには****
2016年10月26日、揚子晩報によると、江蘇省南京市で、転倒した高齢の女性を助け起こした男性が責任を問われる事件があった。

中国では、路上で倒れた人を助け起こすと“犯人”扱いされ、治療費や賠償金を請求される事件が社会問題になっている。目撃者がいない場合はそのまま加害者にされてしまうこともあるが、街中の防犯カメラやドライブレコーダーが普及してきたことで真相が明らかになるケースも増えてきている。

25日午前、南京市六合区で自動車を運転していた劉(リウ)さんは、道路が非常に混雑していたため、前の車が進むのを待っていた。すると突然、自転車に乗った高齢女性が劉さんの車の前方で転倒。驚いた劉さんはすぐに車を降りて、女性を助け起こした。

ところが、女性は「ずっと私の後ろについてきて何なのよ!」と激怒。わけがわからない劉さんは「違いますよ、ついて行っていません」と反論するも、「言い訳するな。お前だ。お前がぶつけなきゃ転ぶわけないだろう!言っておくけど、人をひいた責任はとってもらうぞ!」とまくしたてたという。

劉さんの通報で駆け付けた警察が調べると、劉さんの車には追突したような痕跡はなく、女性に状況を聞くと「忘れた」と言い放った。さらに、劉さんの後ろにいた車のドライバーが「女性が自分で転んだかどうかはわからないけど、彼の車はぶつかっていないと思う」と証言。

ドライブレコーダーを確認すると、事故発生当時、劉さんの車は止まっていたことがわかった。映像を一緒に見ていた女性は発言を一変させ、「自分で転んだみたいだ」と認めた。警察は女性に口頭で注意したという。

ネットユーザーからは「詐欺未遂は立派な犯罪じゃないのか。口頭注意だけなんておかしい」「道徳論だけではだめだ。健全な社会は道徳と共に法による制限が必要だ」など、罰則強化を求める声が相次いでいる。【10月28日 Record china】
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****あんたのせいで転んだ」=中国のおばちゃん、恩人の少女に金要****
2016年11月7日、澎湃新聞によると、中国広東省で先ごろ、道に倒れた中年女性を助け起こした12歳くらいの少女が相手から金をゆすられるという騒動が起きた。

この騒動が起きたのは同省湛江市に属する廉江市の大通り。当時、少女も女性も自転車に乗っており、すれ違った女性が道の上で倒れていることに気が付いた少女は女性を助け起こした上、路上に散らばった女性の荷物を拾い集めた。

しかし、女性は礼を言うどころか少女の体をつかんで「あんたのせいで転倒した」と金を要求。

この様子を近くの喫茶店から目撃した男性は女性に対して「自分で勝手に転んだのを見た。この子は関係ない」と反論し、ぼう然とする少女に現場から離れるよう指示、女性には他の通行人からも「助けてくれた子どもにこんな言いがかりをつけるとは」「良心はあるのか」など非難の声が上がった。

中国ではこの少女のように、倒れた人を助け起こしてトラブルに巻き込まれるケースが多発しており、困っている人に手を差し伸べることをためらう人も多いようだ。

今回の騒動に中国のネット上には「厳罰を科すべき」「目撃者がいたから助かったが、もし誰も見ていなかったらどうする」「子どもに人助けの尊さを教えられない」などの意見が寄せられている。【11月8日 Record china】
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まったく唖然とするような話ですが、こうした事例があることもあって、多くの人がトラブルに巻き込まれるのを嫌い“困っている人に手を差し伸べることをためらう人も多いようだ”という社会現象ともなっているようです。

中国共産党も「これは良くない!」と憂慮しているようです。さすがです。
そこでスタートしたのが「いい人法」です。

****中国上海でスタートした新条例「いい人法」、その内容とは****
公共の場で誰かが急に倒れても、「トラブルに巻き込まれたくない」という思いから、誰も手を差し伸べないというケースが近年増加している。そのためこのような「集団的沈黙」をどのように打ち破るかが、社会各界が注目するトピックとなっている。

このような現状のなか、上海では1日から、「上海市救急医療サービス条例」(以下「条例」とする)が正式に施行された。

別名「いい人法」と称される同条例は、緊急事態における救護行為を法律で保護し、患者に損害が出た場合もその法的責任を追及しないことを明確に定め、緊急事態に遭遇した際にはすすんで救護の手を差し伸べるよう一般市民に呼び掛けている。中国新聞網が伝えた。

上海市医療救急センターの朱勤忠センター長は取材に対して、「上海が率先して行ったこの条例の制定は社会に対し、救急活動を行う際の免責範囲を明確に規定することで、助けの手を差し伸べる人の懸念をなくした」と歓迎する見方を示した。(後略)【11月3日 Record china】
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「いい人」というか、「いいこと」に関するトラブルとしては、こんな話も。

****地下鉄で席を譲ろうとした女性に相手がビンタ、その理由とは?―中国****
2016年11月9日、揚子晩報によると、中国江蘇省南京市の地下鉄車内で先日、席を譲ろうとした女性が相手の女性客にビンタされるというトラブルがあった。

被害者の余さんによると、混み合う車内で座席に座っていた余さんの側にやって来たのは子どもを連れた1人の女性だ。近くにいたお年寄りが女性に席を譲ろうとしたところ、女性は「若い乗客(余さん)だって自分に席を譲らないのだから結構です。このまま立っています」と一言。この言葉に不快感を覚えた余さんが「子どもがいるんだからタクシーに乗ればいいのに」と漏らしたことで双方は言い争いになった。

そして、一緒にいた友人からスマートフォンに送られてきた「この女性、おなかが大きいから妊娠しているのかも」というメッセージを見た余さんが思わず「もう口論は終わり。妊娠しているみたいだし、どうぞ座って下さい」と発言したことで女性がさらに激怒、「誰が妊娠してるって?。人を侮辱するにもほどがある」と最後はもみ合いとなり、余さんは相手からビンタされる事態となった。

余さんから通報を受けた警察は2人に最寄り駅で下車するよう指示。相手の女性は「“妊娠”という言葉は自分に対する皮肉だと思った」と説明しており、最終的には余さんに謝罪した。【11月10日 Record china】
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日本的感覚からすると、中国では自分の権利(と本人が考えているもの)に関する主張が強すぎるような・・・・そんな感じがします。

一気に結論にワープしますが、中国では“驚異的経済成長を実現し、軍事的にも強国となったのに、それにふさわしい敬意を諸外国から得られていない”という不満があります。

おそらく、先進国としての“敬意”は、経済力や軍事力ではなく、「いい人法」のような法律が必要のない社会が実現したとき、一部都市部だけでなく、全国の公共の場できちんと“列をつくって待つ”ことができるようになったときに、現実のものとなるのでしょう。

中国教育事情
中国関連の“暇ネタ”ついでに、最近目にした教育や若者に関する記事をいくつか。(高齢者問題はさんざん言われていますので)

****宿題に追われる中国の小中学生、夜11時を過ぎても終わらず―中国****
広東省深セン市のある名門小学校に通う4年生の児童を持つというある保護者は、最近、微信(Wechat)のモーメンツで、「夜11時を過ぎても子供が宿題をしている。母親として、子供の代わりに『宿題が多すぎる』と嘆願したい」と書き込み、大きな話題となっている。華西都市報が伝えた。

四川省成都市の梁さんも先日、同様に微信(Wechat)のモーメンツで「子供の宿題が多すぎる」と書き込み、多くの保護者が「今の小学生は大変すぎる」と共感を覚えている。

今月20日に、中国青少年研究センターが発表した「『00後(2000年代生まれ)』の発展状況研究」の調査によると、「00後」の7割以上の宿題の量が基準を超えており、塾で勉強する時間が「90後(90年代生まれ)」の2倍、過半数が睡眠不足となっている。(中略)

勉強の負担について、著名な教育専門家・紀大海氏は、「学生には負担も必要」とし、その理由について、「負担は、学生が責任感を持ったり、粘り強く何かを行ったり、ストレスに対処したりする基本的な能力を身に付けるのに役立つ」と説明。「避けなければならないのは過度の負担」と指摘している。(後略)

では、どのように負担を適度にとどめれば良いのだろう?このことについて、紀氏は、「人によって異なるが、最低限しなければならないのは、学生が十分な睡眠時間や運動する時間を取れるようにしたうえで、宿題の量や塾に通う時間などを決めること」とアドバイスしている。【Record china】
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中国の人が日本で生活すると、宿題が少ないことに驚くようです。

宿題の量はともかく、もうひとつ中国人が日本の教育現場に関して驚くのは、子供たちが教室の掃除や給食の配膳を自分たちで行っていることです。この点は、単に教育の問題にとどまらず、前述したような“敬意”を受けられる社会をつくっていくうえで、非常に重要なポイントだろうと思います。

****中国の「教育格差残酷物語****
先日、中国南部の深川先市を訪れたときのこと。現地の不動産情報を見ていて、面白いことに気付いた。中心部にある住宅地の不動産価格が、道を1本隔てただけで大きく違う。安い場所は1平方メートル3万~4万元(45万~60万円)だが、高い場所だと12万元(180万円)にもなる。
 
聞けば、値段の高い住宅地には深川市民が憧れる名門公立小学校があるのだという。中国では、名門小学校のある学区の不動産を「学区房」と呼ぶ。教員の異動は行われないため学校間の「格差」が固定されやすく、公立学校ごとに教師の質やカリキュラム、施設が大きく異なる。
 
待ち受ける厳しい受験競争を勝ち抜くため、親は何としてもレベルの高い小学校に入れたい。いい小学校にはもともと党幹部の子弟らエリートが集まっていて、生徒の質も高い。越境入学は不可なので、こぞっていい小学校のある学区への転入を目指す。その結果、「学区房」の値段は跳ね上がる・・・・。
 
教師への賄賂も横行していて、ただでさえ高い住宅ローンに苦しむ親の負担になっている。北京市のある区では、区長より教育委員会トップのほうが偉いとされる。カネと権力を一手に握っているからだ。
 
哀れなのは、このレースに加われない貧しい人々だ。名門小学校に入学できれば、エリートサークルに加わることができ、将来が開ける。カネの力で自分の子供を名門校に入れることもできる。しかしカネがなければ、永遠に「果実」の分け前にあずかることはできない。
 
もちろん名門小学校に入ったからといって、幸せになれるとも限らない。一発勝負の大学統一入学試験の翌日には、親の期待に応えられなかったと絶望して自殺する受験生のニュースが中国のソーシャルメディアをにぎわせる。親にとっても、手塩にかけたわが子が自殺されたらたまらない。
 
中国人親子が感じるプレッシャーは実に大きなもの。せめて公教育への投資をもっと増やせば学校間の格差は減るが、中国政府は遠く離れたアフリカや東南アジアにせっせとインフラ投資している。自国民の教育格差解消のほうが、他国の高速鉄道よりずっと大事なはずだが。【11月1日号 ラージャオ(「亡命」中国人漫画家)、李小牧(作家・歌舞伎町案内人) Newsweek日本版】
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“いい小学校にはもともと党幹部の子弟らエリートが集まっていて、生徒の質も高い”・・・・これらエリートも学区への転入をしたのでしょうか?それとも別方法で入学できたのでしょうか?

なお、私学に関しては“中国は義務教育期間の1年生から9年生を対象とする営利目的の私立学校の運営を禁じた。教育に対する政府の統制強化の動きで、急成長を遂げる一方で、あまり規制がされていなかった教育分野の勢いを抑える可能性がある。”【11月8日 ロイター】とも。

無料の公立に対し、高額な費用を要する私学が拡大することで、不平等感がひろがることを防ぐ格差是正の側面もありますが、“教育に対する政府の統制強化は、2012年に習近平が国家主席となって以降、情報、ニュースやインターネットなどの領域で引き締めが図られてきた流れに沿う動きだ。政府は大学における「西洋的な価値観」の広がりを阻止する運動も展開してきた。”【同上】とのことです。

ただ、法律1本で「私学禁止」となるところが、いかにも中国です。

こうした教育プレッシャーをくぐりぬけて大学を卒業しても、若者へのプレッシャーは大きなものがあるとか。(プレッシャーがあるのは、日本でも同じですが)

****GDPで日本を抜いたのに!中国の若い世代が生活上で強いストレスを抱える理由****
中国の国内総生産(GDP)が世界第2位であることは周知の事実だが、その一方で中国には「蟻族」、「鼠族」と呼ばれる若者たちが数多く存在する。

蟻族とは大学を卒業し、社会的には「高学歴」と認識されるものの、その学歴に見合った仕事を得ることができない若者たちを指す言葉であり、「鼠族」とは不動産価格の高騰のあおりを受け、太陽の当たらない地下室や防空壕など狭い空間で暮らさざるを得ない人びとを指す言葉だ。

中国経済は大きく発展したはずなのに、「蟻族」、「鼠族」のような若者が社会に存在するのだろうか。中国メディアの今日頭条はこのほど、「GDPで日本を抜いても、若い世代の中国人たちの生活上における圧力は強いまま」だと指摘する記事を掲載した。

記事は、中国のマクロ経済指標は確かに成長を続けているとしながらも、中国の若い世代の「生きるうえでの圧力は年々強まっている」と指摘し、「給与は確かに上がっているが、なぜ中国人は年々貧しくなっていると感じるのか」と疑問を投げかけた。

続けて、中国では確かに給与も上昇しているが、それ以上に物価が上昇していることを指摘したうえで、特に価格上昇が顕著なのは不動産であり、もはや中国の大都市では、親の助けなしに不動産を購入するのは難しいと不満を吐露した。

また、中国の若者たちの頭を悩ませる問題の1つは「高齢化社会」だと指摘し、世界で高齢者の数が1億人を超えているのは中国だけであり、その数はインドネシアの総人口に匹敵すると指摘している。

一人っ子政策を実施してきた中国では、1人の子どもが親の面倒を見なければならない。中国では退職後の高齢者が再就職して働くことはまずないため、若い世代は親を養ううえでの金銭的な負担を抱えることになる。記事が指摘しているとおり、現代の中国の若者たちは非常に大きなストレスを抱えている。【10月30日 Searchina】
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この手の話をしだすときりがないので、ここまで。
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