孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オランダ  自由党・ウィルダース党首が主導するEU・イスラム移民批判

2016-11-07 23:18:09 | 欧州情勢

(自由党・ウィルダース党首 【8月26日 lainfo.es】)

EU・カナダの包括的経済・貿易協定に対し、今度はオランダから火の手
ベルギー南部ワロン地域議会の反対でとん挫したと思われたEUとカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA)については、10月22日ブログ“世界に広がる自由貿易協定反対論”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161022で取り上げたところですが、その後ミベルギー・シェル首相が抵抗する地域をなんとか説得し、10月30日、ブリュッセルで開催されたカナダEU首脳会議での調印に漕ぎついています。

この問題は、自由貿易体制・グローバル化の是非という問題と、EU内における意思決定システムの問題という二つの問題を表面化させました。

とにもかくにも調印には漕ぎつけたCETAですが、各国批准に向けて、今度はオランダから反対の火の手が上がっているようです。

****CETAの是非めぐり国民投票を、署名19万人超える オランダ****
オランダの活動家らが5日、欧州連合(EU)とカナダが締結を目指す包括的経済貿易協定(CETA)に関する国民投票の実施を求めるのに必要な数の3分の2近い、19万人以上の署名を集めたと発表した。CETAにとって新たな障害になる可能性もある。
 
7年にわたる交渉でまとめられたCETAは、直前になってベルギーの一部地域が反対したため崩壊の危機に見舞われたが、先週末にベルギーの首都ブリュッセルで調印にこぎつけた。今後はEU加盟各国が批准する必要がある。

オランダでは複数の市民団体が、CETAとEU・米国間の自由貿易協定「環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)」をオランダ政府が批准することの是非を問う国民投票の実施を求めている。

2015年10月に始まった署名運動でこれまでに19万400人の署名が集まった。30万人の署名が集まれば政府は国民投票を実施しなければならない。
 
市民団体メーア・デモクラシー(Meer Democratie 「もっと民主主義を」の意)のニースコ・ドゥッベルブーア氏はAFPに対し、「私たちの見るところ、TTIPとCETAはもっとオープンに議論して抜本的に修正する必要がある。このことを政治家たちにはっきりと示したい」と述べた。
 
ドゥッベルブーア氏は、このような協定は大口投資家や大企業の利益ばかりが優先される、植民地主義の影響を受けた時代遅れの代物だとして、交渉では気候変動や持続可能性のことについてもっと話し合うべきだと述べた。
 
メーア・デモクラシーは、環境保護団体のミリューデフェンシー(「環境防衛団」の意)、食品分野の消費者団体フードウォッチ、NPO(非営利団体)の「トランスナショナル・インスティテュート」と協力している。
 
オランダでは今年4月の国民投票でEU・ウクライナ間の連合協定への反対が多数を占めた。連合協定を批准していない国はオランダだけとなっており、マルク・ルッテ首相は妥協点を見つけるべく苦心している。

「ブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)」をめぐる英国での国民投票の数か月後に実施された4月の国民投票はオランダのEU懐疑派が主導したもので、多くの人がEUに対する打撃だと捉えている。
 
メーア・デモクラシーのドゥッベルブーア氏はAFPに自分たちは反EUの立場ではないと述べたうえで「しかし私は、欧州はもっと民主的になるべきだと心から思っている」と語った。
 
CETAに関する国民投票が行われるとしてもそれは何か月も先のことだ。30万人の署名を集められたとしても、国民投票の実施はオランダで来年3月に予定されている総選挙後になる見通しだ。【11月6日 AFP】
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自由党・ウィルダース党首「総選挙で勝ったら、EU離脱を問う国民投票を実施する」】
先日もTVで取り上げていましたが、オランダはなんとアメリカに次ぐ世界第2位の農産物輸出国だそうです。

“本来、オランダは、農業に適した条件をまるで持ち合わせていない国である。国土面積は九州程度しかなく、日本以上に農地面積が狭い。岩塩混じりの土壌ばかりである。1年中曇天が続いて日照時間が極端に短く、北海からの強風が常に吹き寄せるため気温も低い。さらに、人件費も高いのだ。これだけ悪条件が重なっているにもかかわらず、同国の農産物の輸出額は2012年時点で866億米ドル、何と米国に次ぐ世界第2位である”【10月31日 テレスコープマガジン】

この奇跡的な成果を実現しているのは、徹底した自動化、無人化、植物工場などハイテクを駆使した「スマート農業」だそうです。

CETAの内容は知りませんが、世界第2位の農産物輸出国にとって包括的経済貿易協定はおそらく都合がいいものではないでしょうか。

今回の反対論は、そうした生産者側ではなく、環境問題や食品安全を重視する消費者サイドののもののようです。

オランダとEUの関係という面では、上記記事にもあるように最近はEU懐疑論が台頭しており、そうした緊張関係を主導しているのが、極右政治家とも言われる自由党のウィルダース党首(53)です。

“自由貿易に私は賛成だし、グローバル化が悪いとはいわない。ただ、貿易協定はEUではなくて、国ごとの政府の意思で結ばれるべきです”【11月6日 朝日GLOBE】というウィルダース氏がCETAに対してどういうスタンスなのかは知りません。

知りませんが、おそらくEUの足を引っ張ることなら、国民不安を煽り自分たちの側への支持を呼び込めるものなら、喜んで賛同するのではないでしょうか。

来年3月に行われる総選挙では極右政党・自由党が第一党となるかも・・・との予測もあるようですが、ウィルダース党首は現在、外国人への差別や憎悪を扇動した罪に問われ公判中の身です。
しかし、こうした裁判沙汰も世間の注目を集めることで“追い風”になっているとも言われています。

****<オランダ>憎悪扇動、公判注目集める 反移民派党首*****
選挙運動で外国人への差別や憎悪を扇動した罪に問われたオランダの極右政党、自由党のウィルダース党首(53)の公判が10月31日、同国西部スキポールの裁判所で本格的に始まった。

オランダは来年3月に総選挙を控え、イスラム移民排斥を掲げる自由党が世論調査で1、2位を争う高い支持率を維持。欧州で反移民派の急先鋒(せんぽう)として知名度の高い政治家の公判の行方は注目を集めている。
 
オランダ刑法は、人種や宗教などを理由に公共の場で差別や憎悪をあおる表現を禁じている。ウィルダース党首は2014年の地方選挙の応援演説で「モロッコ人が増えるのと減るのとどっちがいいか」などと尋ね、聴衆が「減らす」と繰り返すと「そうなるようにしよう」と応じた。差別的発言だと市民から告訴され、オランダ検察当局が起訴した。今年3月から予備審理が行われ、今回が事実上の初公判となった。
 
ウィルダース党首は出廷せず、公判前に出した声明で「我々の国の問題について発言するのは私の権利であり、政治家としての義務だ」と反論。「法廷ではなく議会で議論すべきだ」と主張している。判決は年内にも言い渡される見通し。
 
ウィルダース党首は欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の実施も主張しており、地元メディアでは今回の公判で露出が増え、結果にかかわらず総選挙で自由党への追い風となるとの見方も出ている。【11月1日 毎日】
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「われわれは、自身の国、資金、境界、そして移民政策を管理したい」と主張する自由党・ウィルダース党首は「総選挙で勝ったら、EU離脱を問う国民投票を実施する」としています。

****オランダ極右党首「総選挙勝てば国民投票****
EU(=ヨーロッパ連合)の創設メンバーであるオランダで「反イスラム」を掲げる極右政党が支持を伸ばしている。この政党の党首がNNNの取材に対し、来年3月の総選挙で勝利した場合、EUからの離脱を問う国民投票をオランダで行う考えを明らかにした。

オランダでは極右政党の自由党が「EUから離脱すればイスラム国家からの移民を防ぐことができる」などと主張し、近年の移民問題や度重なるテロ事件を受けて支持を拡大している。オランダでは来年3月に総選挙が行われるが、最近の世論調査では自由党が第一党となる見通しも示されている。

自由党・ウィルダース党首「総選挙で勝ったら特別立法を行い、勧告的な意味合いを持つ国民投票を実施する。見通しは明るい」

オランダの法律では、国民投票は限られた条件下でしか認められておらず、結果に法的拘束力もないが、ウィルダース党首は総選挙で勝利した場合、法律を整備してEU離脱を問う国民投票を行う考えを明らかにした。【7月9日  日テレNEWS24】
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こうしたウィルダース党首をルッテ首相は強く批判しています。
“ウィルダース氏の主張は、法治国家オランダの価値観に反するものだとルッテ首相は批判。さらに、同首相はウィルダース氏を最大の政敵だと述べ、国民の恐怖心や憎しみを煽りながら、責任を逃れるという態度を強く非難した。”【9月5日 「ポートフォリオ・バザール」】

‟国民の恐怖心や憎しみを煽りながら、責任を逃れる”という政治手法に関しては、2012年の政権危機の際、連立政権の影の支持者であったウィルダース氏の自由党が政権を放棄する形で脱退たことに関し、“EU内では「緊縮政策を徹底しないかぎりギリシャ支援などしない」と強固に主張し、欧州議会の批判を封じておきながら、自国に戻ると国民に対して「EUが無理やり緊縮を押し付けている」と非難する。これがウィルダースたちの政治手法だ。基本的には金融資本の随伴者でありながら、緊縮財政の負の側面をEUに押し付け、脱ヨーロッパのナショナリズムを煽っている。”【http://ameblo.jp/hirumemuti/entry-11333158892.html】といった評価も。

【「愛国の春」?】
ウィルダース党首のEU批判・イスラム批判・移民批判の主張については、下記のようにも紹介されています。

****国家を取り戻せ」/ウィルダース(オランダ・自由党党首*****
毎日仕事に出かけ、あるいは子育てに追われる「普通の人々」の声を、古い政治は代表できなくなっています。いま世界で起きているのは「愛国の春」。人々はもはや、EUのように国家を超えた存在を欲してはいません。

オランダを含む欧州の国々では緊縮政策で年金や公的医療が削られ、ギリシャに何十億ユーロもローンを提供している。その一方で、域外からも価値観の異なる大量の移民が流れ込む。人々は国家のアイデンティティーや主権が損なわれているだけでなく、日々の安全が脅かされていると感じています。

私たちが移民に厳しいのは二つ理由があります。一つは移民があまり働かず、経済に貢献していないということ。イスラム圏などから来る移民に、オランダの納税者は毎年72億ユーロ(約8200億円)使わなければならないという調査がある。もう一つは、人々に自由を認めないイスラムは、オランダの価値観と相いれないということです。

右翼とか左翼とかは古い政治の言葉です。私の党は、移民政策や文化的には右派に見えるかもしれません。一方で、公的医療を充実させ、年金を守り、高齢者福祉を拡大すべきだという左派的な主張もあります。普通の人のための政策です。

私はポピュリストだと言われます。ネガティブな含みのある言葉ですが、もしその言葉が人々の抱える深刻な問題に耳を傾けていることを指すなら、私はそれを侮辱だとは思いません。

自由貿易に私は賛成だし、グローバル化が悪いとはいわない。ただ、貿易協定はEUではなくて、国ごとの政府の意思で結ばれるべきです。私たちは自分の国を取り戻さなければなりません。【11月6日 朝日GLOBE】
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こうした主張は、表面的には受け入れられやすいところがあります。
ただ、様々な要因の結果としての人々の不満を、EUとかイスラム移民といった特定の存在のせいにするご都合主義・単純化の面があります。

事実認識としてもどうでしょうか?イスラム移民に多額の税金が使われると言いますが、彼らのもたらしている経済効果は評価されているのでしょうか?

人々の憎悪を煽ることでは解決しない
何よりも、こうした主張の背後にある、ドロドロした憎悪・嫌悪感・差別意識といったものを受け入れがたく感じます。人間誰しも持っている面ではありますが、それを正当化するのではなく、克服する努力・工夫をすべきでしょう。

従来、少数者に寛容とも言われていたオランダ社会は、こうしたネガティブな感情が扇動されるなかで変質しています。

****オランダ」格差を縮めてもダメ****
人々の不満の矛先は、しばしばより弱い立場の人に向かう。少数者に寛容で、世界で最もリベラルな社会と言われてきたオランダでも、移民や難民への風当たりが強まっている。

運河が入り組むアムステルダム中心街の一角に、移民を支援するNPO「世界の家」がある。夕方になると移民たちが集まってくる。パソコンやオランダ語の無料講座を受けに来たのだ。正式な滞在許可を持たない人たちを対象に、医療や難民申請なども助ける。

ここで支援を受け、今はボランティアをしているアルサイン・カンジ(36)は、西アフリカのリベリアから内戦を逃れて2003年にオランダに来た。滞在許可を得てゼロからオランダ語を学び、染め物をつくる仕事も見つけた。しかし、数年前に理由もわからず滞在許可が取り消された。「完璧なオランダ語を話し、犯罪に手を染めたこともなく、完全に社会に統合されていた。それなのに、いきなり路上に放り出された」

彼はムスリムで、苦々しく思っているのが、ヘルト・ウィルダース率いる自由党の台頭だ。イスラムへの敵意を隠さず、「コーラン禁止」「モスクの閉鎖」を唱える。国内外で強く批判され、ヘイトスピーチの罪で訴追されてもいるが、各種世論調査では支持率のトップ争いを演じる。来春の総選挙で勝てば「英国のようにEU離脱を問う国民投票に持ち込みたい」(ウィルダース)と勢いづく。

限られる敗者復活の機会
「世界の家」でオランダ語を教えるパトリック・フィルモン(52)は「経済の先行きが不透明になり、人々が保守化して、外国人に厳しくなっている」と感じている。

ナチス・ドイツに占領された過去があるオランダでは、移民排斥につながる主張はタブーだった。しかし、著名コラムニストがつくった新党が、イスラム移民問題を取り上げて02年の総選挙で躍進。コラムニスト本人は選挙直前に暗殺されたが、これを機に、政府は移民に入国前のオランダ語試験を課すなど、規制を一気に強める。後を引き継ぐように、ウィルダースの自由党が躍進した。

英米や南欧では敗者復活の機会が限られていることが、ポピュリズムの台頭につながっている面がある。しかし、これらの国に比べれば格差が小さいオランダは、やや状況が違う。

オランダ政府は1990年代以降、グローバル化に対応するためとして、福祉国家の改革に乗り出した。失業給付などの条件を厳しくし、受給者には求職活動や職業訓練を求めた。

世論が移民に厳しくなった背景の一つに、「オランダ人が汗水たらして作り上げてきた福祉国家が揺らいでいるのに、移民にただ乗りされてはかなわないという感情があるのではないか」とアムステルダム大学の政治学者、トム・ファン・デル・メールは言う。

やっかいなのは、安全網を充実させ、格差を縮めるような政策が、ここでは解決策になりにくいことだ。【11月6日 朝日GLOBE】
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グローバル化が格差拡大をもたらしたという評価が、グルーバル化批判を呼んでいるということに関し、オランダと特殊性を指摘したものですが、上記の簡単な文面だけではよく理解できないところがあります。

福祉国家の揺らぎへの不安・不満が“ただ乗り”移民に集中的に向けられている・・・といった状況のようです。

“ただ乗り”かどうかはともかく、そもそも、飢餓・貧困・紛争などが広く存在する世界にあって、ある恵まれた国が“福祉国家”を維持していくうえで、“これは自分たちが汗水たらして作り上げてきたものだ。ここはお前たちが来るところではない”という議論が、どれほど正当性があるものなのか?国家の枠組みというのはそんなに絶対的なものなのか?といった疑問にもなります。

現実問題としては、“心ならずも”調整・制約は多々必要とされるでしょうが、こぶしを突き上げて“出て行け!”と叫ぶような問題ではないように考えています。
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