孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国軍のロヒンギャ弾圧を黙認するスー・チー政権の限界

2016-11-29 20:56:57 | ミャンマー

(ジャカルタのミャンマー大使館前で25日、スーチー氏のポスターを掲げて抗議するデモ参加者=AP 【11月28日 朝日】)

家屋の焼き打ちやレイプなど 「民族浄化」との発言も
昨夜ミャンマー観光から戻ってきたばかりですが、旅行中の11月24日ブログ“ミャンマー  中国国境での少数民族との衝突 少数民族とも認知されないロヒンギャ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161124でも少し触れたロヒンギャ問題について国際的な波紋が広がっています。

****民族浄化」とミャンマー非難=ロヒンギャ問題で国連当局者****
英BBC放送は24日、ミャンマー政府がイスラム系少数民族ロヒンギャの「民族浄化」を目指していると国連当局者が非難したと伝えた。
 
この当局者は、ミャンマーの隣国バングラデシュでロヒンギャの難民を支援している国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)コックスバザール事務所のマッキシック所長。BBCによると、ミャンマーの部隊がロヒンギャに「集団的懲罰」を実行し、虐殺や性的暴行、略奪を行っていると批判した。
 
バングラには最近、治安部隊と武装集団の衝突で治安情勢が悪化しているミャンマー西部ラカイン州から、ロヒンギャが国境の川を渡って続々と押し寄せているが、バングラ政府は受け入れを拒んでいる。
 
マッキシック氏は「バングラ政府が国境を開くと言うのは極めて困難だ」と指摘。「そうすることで、ミャンマー政府がイスラム教徒の民族浄化という究極の目標を達成するまで残虐行為を続け、(ロヒンギャを)追い出すのを助長することになるからだ」と語った。【11月25日 時事】 
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事の発端は10月、ロヒンギャとされる武装勢力が軍や警察の施設を襲撃し、兵士ら十数人が死亡した事件ですが、これを機に国軍による大規模な掃討作戦が行われ、ロヒンギャ住民の家屋の焼き打ちやレイプなどの被害も報じられています。

****<ミャンマー軍>少数民族との衝突激化 数万人が避難****
ミャンマー西部ラカイン州で軍と少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団との戦闘が起き、軍が取り締まりを強化している。

これに伴い大量の住居が焼き払われ、レイプ事件も起きたとして国際人権団体は軍などを批判。

一方、北東部シャン州でも少数民族武装勢力との戦闘が続く。両州では数千人が国境を越えるなど数万人が避難し、国連が懸念を深めている。
 
地元メディアによると、ラカイン州では10月8日夜から9日にかけ、バングラデシュとの国境付近の警察施設などが武装集団に襲撃され、警官9人が殺された。武装集団側も7人死亡したが、武器を奪い逃走した。
 
ロイター通信などによると、その後も衝突が続き、軍が取り締まりを強化。ロヒンギャの民家が焼かれたり、女性が強姦(ごうかん)されたりする事件が相次ぎ、少なくとも86人が死亡し、約3万人が家を追われた。バングラ側へ7000人以上が避難したとみられている。
 
政府や軍は住民弾圧を否定しているが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「国軍は被害地域への立ち入りを認めず、何が起きたか政府にさえ報告していないようだ」と批判する。
 
戦闘で現地には人道支援がほとんど届かず、食料不足とみられる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)バングラ事務所の久保真治代表は「避難民の流入は今後1、2カ月続くのではないか。国際社会は支援環境を整えるよう働きかけてほしい」と話す。(後略)【11月27日 毎日】
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スー・チー氏 ‟捏造された情報で「不当」な扱いを受けていると「怒り」を表明”】
ロヒンギャ問題の背景には“ラカイン州では人口増加を続けるロヒンギャに仏教徒の住民が危機感を抱き、2012年には双方が衝突して200人以上が死亡。昨年には弾圧を逃れて密航したロヒンギャ数千人が周辺国に漂着した。”【11月27日 産経】ということがありますが、ミャンマーはロヒンギャはバングラデシュからの不法移民であるとして、ミャンマー国民とは認めていません。

仏教徒が多数を占める国民の圧倒的なロヒンギャ嫌悪のため、人権を重視すると見られていたスー・チー氏も身動きがとれない状況です。ロヒンギャに有利な対応を示すと、国民の批判は自分にはねかえってきます。単なる民主化運動の象徴ではなく、今や現実政治家となったスー・チー氏は国民からの批判を招くような行動はとれません。

スー・チー氏がアナン前国連事務総長を委員長に据えたロヒンギャ問題調査の特別諮問委員会も、ロヒンギャに肩入れしているとの住民の抗議行動を招いています。

この状況に、スー・チー国家顧問が実質的に率いる新政権によるイスラム教徒ロヒンギャへの対応をめぐり、国際社会の非難が高まっています。周辺国ではミャンマー政府に対する抗議デモが起き、欧米からは新政権の対処能力を疑う声が漏れ始めています。

国際批判に対しスー・チー氏は、‟捏造された情報で「不当」な扱いを受けていると「怒り」を表明”しているとのことです。

****ミャンマー、ロヒンギャ迫害が深刻化 バングラに避難民数千人が越境 スー・チー氏、批判に「捏造」と反発****
ミャンマー西部ラカイン州で、国軍によるイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害が深刻化している。「人権弾圧」との国際社会の声に背を向けるミャンマー新政権の実質的トップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相への批判も高まりつつある。
 
隣国バングラデシュにはロヒンギャの避難民が多数流入。バングラデシュ外務省は23日、ダッカのミャンマー大使に「数千人が越境し、さらに数千人が国境付近に集結している」として事態収拾を求めた。
 
ラカイン州では10月、ロヒンギャとされる武装勢力が軍や警察の施設を襲撃し、兵士ら十数人が死亡した。ミャンマー政府は、パキスタンなどでテロ組織から軍事訓練を受けた男が数百人の集団を率いて襲撃を実行したとして掃討作戦を実施し、「構成員ら約70人を殺害した」としている。
 
国連は、この混乱でロヒンギャ3万人が家を追われ、ロヒンギャが集中するラカイン州北部への15万人分の医薬や食料支援が40日以上滞っていると批判。

ロイター通信によると、パワー米国連大使は17日、安全保障理事会の非公開会議で「ミャンマー政府にこのまま任せるのは危険だ」とし、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の現地拠点開設を訴えた。
 
スー・チー氏はこの会議の翌日、米国や欧州連合(EU)などの外交団を呼び、捏造(ねつぞう)された情報で「不当」な扱いを受けていると「怒り」を表明した。
 
ロヒンギャは、掃討作戦と称して国軍に家屋を焼き打ちされ、婦女暴行などの被害も受けていると訴えている。

周辺諸国のミャンマー大使館前では25日、イスラム教徒が抗議デモを実施。マレーシア政府は25日、「民族浄化が疑われる事態を、あらゆる手段で是正すべきだ」とミャンマー政府に懸念を表明した。(中略)
 
スー・チー氏は9月、アナン前国連事務総長をロヒンギャ問題調査の特別諮問委員会委員長に据えたが、仏教徒団体などの反発で状況は改善していない。スー・チー氏としてはロヒンギャ問題が「政権発足から8カ月で最大の試練」(ロイター)となりそうだ。【11月27日 産経】
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ミャンマー政府は、冒頭記事にもあるUNHCR地方事務所長による「民族浄化」発言にも強く反発しています。

****<ミャンマー>政府反発 国連当局者の「民族浄化」発言に****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の避難民が隣国バングラデシュに殺到している問題で、国連当局者が英BBC放送の取材に対し、ロヒンギャの「民族浄化」が進んでいると発言し、ミャンマー政府が反発を強めている。
 
発言したのは、バングラ南東部コックスバザールにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の地方事務所長。BBCの報道によると、所長はミャンマー軍が西部ラカイン州でロヒンギャの虐殺や略奪などを続けていると非難。

「バングラ政府は国境を閉鎖しているが、開放は難しいだろう。なぜなら開放すれば、民族浄化を狙うミャンマー政府の虐殺を助長するからだ」と述べた。
 
これに対し、ミャンマー大統領報道官は25日、「国連当局者は正確な事実に基づき発言すべきだ」と反発。26日には駐ジュネーブ国連・国際機関代表部を通じてUNHCRに抗議した。ミャンマー政府によると、UNHCR側は「民族浄化」発言について「公式な立場ではない」と釈明したという。(中略)

だが、メディアなどは現地入りが認められておらず、実態は避難民の話から推測するしかないのが実情だ。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは声明で「隠すものがなければ、支援団体やジャーナリストのアクセスを認めるべきだ」と指摘している。【11月29日 毎日】
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インドネシア、マレーシアなどでもミャンマー政府批判の抗議行動
スー・チー氏は「捏造」だとしていますが、イスラム国のマレーシア、インドネシア、またイスラム教徒も南部に多いタイなどでは、ミャンマー政府の対応への抗議行動が拡大しています。

****ロヒンギャ問題、ミャンマーに批判 スーチー氏にも矛先****
・・・・「ロヒンギャの虐殺者であるアウンサンスーチーに法の裁きを」。国民の約9割がイスラム教徒のインドネシア。首都ジャカルタのミャンマー大使館前で25日、スーチー氏を非難するポスターを掲げた学生ら200人近くが抗議した。
 
イスラム教が国教のマレーシアでも同日、ロヒンギャ難民を含む約500人が首都クアラルンプールのミャンマー大使館前などに集結。抗議デモはこの日、タイのバンコクやバングラデシュのダッカでもあった。(後略)【11月28日 朝日】
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こうした煽りで、スー・チー氏のインドネシア訪問が延期にもなっています。

****スー・チー氏、インドネシア訪問延期=ロヒンギャ問題と関連か―ミャンマー****
ミャンマーの実質的トップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相がインドネシア訪問を延期したことが28日、明らかになった。AFP通信などが伝えた。
 
AFP通信によると、インドネシア訪問は11月30日から12月2日のシンガポール訪問後の予定だった。ミャンマー外務省幹部は延期の理由について、治安部隊と武装勢力の衝突が続いている西部ラカイン州と北東部シャン州の問題を挙げたという。
 
インドネシアでは先週、ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害に抗議するデモが発生。また、ミャンマー大使館などの爆破を計画した疑いで過激派組織「イスラム国」(IS)の支持者3人が逮捕される事件も起きている。【11月29日 時事】 
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国内的には掃討作戦の国軍への国民支持が高まる 黙認する文民政権「両者の方針は同じだ」】
国際的にも、周辺国からも批判を受けるミャンマーのロヒンギャ対応ですが、ミャンマー国内にあっては国軍のロヒンギャへの強硬姿勢は支持されています。軍の人気・影響力が高まっているとも指摘されています。。

****悪名高き軍がミャンマーで復活****
<スー・チー率いる文民政権誕生から1年。イスラム系少数民族ロヒンギャをテロリストとして攻撃する軍が好感されている>

あれは1年前だった。ミャンマー(ビルマ)の総選挙でアウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)が地滑り的勝利を収めると、最大都市ヤンゴン(ラングーン)の同党本部前に詰め掛けた大勢の支持者が歓喜のダンスを踊り、旗を振った。半世紀続いた過酷な軍事政権が終わり、スー・チーが実質トップに立つ文民政権が誕生した......はずだった。

しかし今、この国を統治しているのが誰なのかはっきりしない。嫌われていた軍の人気が急上昇しているのだ。

なぜか。軍が長年悪役に仕立ててきた「敵」が再び頭をもたげ始めたからだ――現実はさておき、少なくとも人々のイメージの中では。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャとの戦いを通じて、軍は政治的な力を取り戻しつつある。

ロヒンギャは昔から迫害を受けていて、隣国バングラデシュからの「不法移民」と決め付けられてきた(実際は、何世紀にもわたってミャンマー西部に居住してきたのだが)。最近は、テロ組織ISIS(自称イスラム国)などのイスラム過激派と関連付けられることも多い。いずれは、多数派の仏教徒を人口で上回るのではないかと恐れられてもいる。

ミャンマー軍は最近、ロヒンギャの組織的な武装反乱が起きていると主張している。その主な舞台とされるのが、バングラデシュと境界を接する西部のラカイン州だ。

先月、ラカイン州北部マウンドーの警察施設3カ所が、刀とピストルで武装した集団に襲撃された。警察官9人が死亡し、その後の戦闘でさらに兵士5人が死亡した。

軍の「でっち上げ」説も
政府によれば、武装集団はパキスタンでイスラム原理主義勢力タリバンの訓練を受けたロヒンギャのテロリストだという。根拠とされたのは、身柄を押さえた一部の「実行犯」から(おそらく力ずくで)引き出した証言だ(スー・チーは後にこの判断を撤回した。証言者が1人にすぎず、信頼性に欠けるというのが理由だ)。

その後の軍の動きは素早く、複数の証言によれば残虐なものだった。恣意的な逮捕、村の焼き打ち、司法手続きを経ない殺害、レイプが行われたという批判が上がっている。

それ以来、当局は「イスラムの侵略」に対して警告を発し、仏教徒の民兵勢力への武器供与を約束した。

これが12年の悲劇を再現させるのではないかという懸念が高まっている。同年、ラカイン州で仏教徒の暴徒がロヒンギャの地区を襲い、集落に火を付け、大量殺戮を行った。これにより、多くのロヒンギャが避難民と化した。このときの過激な仏教徒の行動は、地元当局がたき付けたと言われている。

先月のマウンドーの事件後、ラカイン州の仏教徒たちは軍への支持を叫んで行進し、ミャンマーの有力ジャーナリストたちはロヒンギャが軍に「非協力的」だと非難した。

兵士たちが丸腰のロヒンギャを撃つのを見たとニューヨーク・タイムズ紙に語った記者は、後にフェイスブック上で証言を撤回した(どのような圧力があったのかは分からないが)。

ラカイン州の州都シットウェ郊外の難民キャンプで暮らすロヒンギャのリーダー、ヌール・イスラムは、「ロヒンギャの反乱」自体が軍のでっち上げだと言う。「政府の狙いは民族浄化だ。(私たちを)痛めつけ、消し去ろうとしている。

軍のでっち上げを裏付ける証拠はない。しかし、非営利の人権監視団体フォーティファイ・ライツの創設者であるマシュー・スミスによれば、「軍がこの状況を利用して、自分たちに好意的な感情を高めようとしていることは間違いない」。

文民政権も軍を黙認?
襲撃事件への対応で軍の人気が高まっているのを尻目に、目立った対応をしていない文民政権はいかにも無能に見える。実質トップのスー・チー(役職は国家顧問兼外相)も、彼女の側近として大統領を務めるティン・チョーもラカイン州を訪れていない。

「ミャンマーには2つの政府が存在している。文民政権と軍事政権だ」と、国際NGO「人権のための医師団」のウィドニー・ブラウンは言う。国防省や内務省、警察、移民・人口問題省といった重要機関は、今も軍が押さえているのが現状だ。

「国境地帯では軍の影響力が強い」と、ブラウンは言う。「そこへもって反乱への不安が高まっているため、ラカイン州北部は文民政権ではなく軍のコントロール下にある」

それでも、マウンドーの事件の前は、文民主導で平和に向けた動きが前進しつつあった。文民政権は軍の強硬な抵抗に遭いながらも、ラカイン州の宗教対立に関する諮問委員会の設置にこぎ着けた。コフィ・アナン前国連事務総長を委員長とする同委員会は、同州で現地調査を実施し、来年後半に諮問を答申することになっている。

その雲行きが怪しくなってきた。「アナンを委員長に起用したのは、人権侵害に光を当てて、何らかの和解の環境を整えようという意図だったが」と、ブラウンは説明する。「委員会が影響力を持つ可能性は、もともと限られていた。あくまでも諮問機関にすぎないし、最近のラカイン州の動向により、委員会が成果を上げるチャンスが失われた恐れがある」

文民政権が軍に対して無力だという可能性以上に気掛かりなのは、文民政権が軍の行動に暗黙の了解を与えている可能性があることだ。スー・チーがロヒンギャについてどう考えているかは誰も分からないが、問題解決に動いていないとして批判されていることは間違いない。

襲撃事件の後に国営メディアは、軍による人権侵害が横行しているという「でっち上げ」の批判を厳しく非難する意見記事を掲載。民間のジャーナリストたちがテロリストと「グルになっている」と糾弾した。国営メディアを管轄する通信・情報技術省は、文民政権の影響下にある政府機関だ。

大統領府のゾー・テイ報道官はフェイスブックで、英字紙ミャンマー・タイムズの記者を名指しで批判した。軍によるレイプ疑惑を報じた女性記者だ。

その後、記者は解雇されたが(軍事政権時代からの高官である同報道官が同社に直接電話を入れたとされる)、スー・チーの指示で職にとどまることになった。

最近、同報道官は内輪の席で、ラカイン州のロヒンギャをめぐる問題について政府と軍は「協力している」と述べた。「両者の方針は同じだ」【11月29日 Newsweek】
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スー・チー氏がロヒンギャ弾圧に積極的に加担している訳でもなく、行き過ぎにはそれなりに対応はしているようですが、ただ政治家としては結果で評価されます。

国民のロヒンギャ嫌悪を逆撫ですることもできず、国軍の弾圧も阻止できない・・・当初からわかっていたことではありますが、スー・チー政権の限界を示しています。
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