孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャを少数民族としては認めないスー・チー政権 襲撃事件で解決は一層困難に

2016-11-01 21:54:44 | ミャンマー

(ロヒンギャの不満を煽る過激派指導者 【10月19日 NHK「変質する対立・ロヒンギャ問題は今」】)

アメリカも経済制裁解除、スー・チー訪日で日本の支援も期待
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が今日来日する予定となっています。

****スーチー氏 1日に来日 安倍首相と経済支援など協議****
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問兼外相が11月1~5日に日本を訪問する。スーチー氏の来日は2013年4月以来で、今年3月末にミャンマーで新政権が発足してからは初めて。

2日に安倍晋三首相と会談する予定だ。スーチー氏にはチョーウィン計画・財務相も同行。ミャンマー側は、日本からの経済支援や投資の拡大に向けた協議を中心にしたい考えとみられる。(中略)

ミャンマーは5000万人超の人口を抱え、高い経済成長も期待され各国から注目を集める。だが、電力などインフラ整備の遅れや、資金などに関する企業情報が開示されないなどの問題も指摘されている。
 
新政権発足から半年が過ぎたが、スーチー氏は最近、首都ネピドーで開催された会議で、経済発展に遅れが出ていることを認める発言もしている。
 
スーチー氏は安倍首相との会談などを通じて、日本側に人材育成への協力など経済面のほか、少数民族地域の安定に向けた支援も呼びかけるとみられる。【10月31日 毎日】
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大きな(あるいは、大き過ぎる)期待を担って新生ミャンマーを率いるスー・チー氏ですが、難しい課題が山積しています。

国民生活の改善、少数民族との和解、国軍との関係、国内少数派イスラム教徒の問題・・・・

今回訪日の主な目的は、日本からの投資・支援によって、経済成長の加速で国民生活を改善し、国民に「変革」の成果を目に見える形で提示できるようにすることでしょう。

そのことは、程度の問題はありますが、一定に実現可能な課題でしょう。
9月中旬にはスー・チー氏が訪米し、オバマ大統領とも会談、アメリカも経済制裁解除で新政権を後押しする形となっています。

****米、ミャンマー制裁をほぼ解除 民主化の進展受け****
米政府は7日、ミャンマーの軍事政権時代に始めた経済制裁をほぼ全面的に解除した。オバマ大統領は9月にミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問が訪米した際、制裁を解除する意向を示していた。
 
米政府はクリントン政権時代の1997年、ミャンマーの軍事政権による人権抑圧に対抗する措置として経済制裁を始めたが、昨年の総選挙でスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が勝利し、新政権が発足して民主化が進んだことから解除に踏み切った。軍や旧軍政に近い個人や企業との商取引の禁止や、宝石類の輸入禁止などが解除される。
 
ただ、米財務省は、ミャンマーの麻薬取引や資金洗浄などへの対応について「進展はしているが、懸念が完全に改善されていない」として、一部の対象者への制裁は継続する。【10月8日 朝日】
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ロヒンギャをめぐる厳しい対立 アナン前国連事務総長の仲介にも激しい反発
一方で、進展があまり見込めないのが、国際社会も注目している西部ラカイン州に多く暮らすイスラム教徒「ロヒンギャ」の問題です。

国民のおよそ9割が仏教徒のミャンマーにあって、 少数派であるイスラム教徒のうち、およそ80万人を占めると見られているのが、ロヒンギャと名乗る人たちです。 彼らは、政府から市民権も与えられていません。

ロヒンギャの人たちは、約200人の犠牲者を出した4年前の衝突のあと、ロヒンギャというだけでキャンプに押し込められ、抑圧された厳しい生活を強いられています。

国内での差別や抑圧から逃れようと、去年(2015年)、数千人が密航して周辺国に漂着。こうした状況が何も改善されていないと、国際的な批判、ロヒンギャの不満が高まっています。

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キャンプに暮らす、ゾー・エインさんです。 毎日の食事にも苦労していると言います。

ゾー・エインさん 「外に働きに行くことも出来ません。 我々は難民になってしまいました。 家も財産もすべて燃やされ、何も残っていません。」

うつうつとした生活の中、願いはロヒンギャとして市民権が認められることです。
ゾー・エインさん 「全員がバングラデシュから来たのではありません。ロヒンギャに(市民権を)認めるべきです。」【10月19日 NHK】
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一方、仏教徒側にはロヒンギャに対する激しい憎悪があります。

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仏教徒の住民は、ロヒンギャの人たちを「不法移民のバングラデシュ人だ」と主張。“市民権を与えてはならない”と、衝突のたび、憎悪を募らせてきました。

仏教徒の住民  「奴らは人間じゃない。仏教徒の首をはね、家に火をつけて回った。この村だけで10人以上殺されたんだ。」【同上】
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人権を重視すると見られていたスー・チー氏も、国内多数派の仏教徒の激しい反発に配慮してか、ロヒンギャ問題には消極的姿勢で沈黙を守り、ロヒンギャの状況改善を求める人々からは失望を買っていました。

そうしたなかで、今年9月にアナン前国連事務総長をトップとする諮問委員会を設立し、9月5日にはヤンゴンで初会合が開かれました。

スー・チー氏がいよいよ問題解決に動き出した・・・・とも見られていましたが、アナン氏が現地仏教徒の激しい反発にあっています。

****ミャンマー入りの前国連事務総長、仏教徒らから罵声浴びる****
ミャンマー西部ラカイン州で6日、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ人数万人に避難を強いた宗教紛争の現状を調査に訪れた前国連(UN)事務総長のコフィ・アナン氏に対して、強硬派の仏教徒ら数百人が罵声やブーイングを浴びせた。
 
アナン氏は、ミャンマー新政権を事実上率いるアウン・サン・スー・チー氏に委任され、深刻な分裂および貧困にあえぐ同州の傷を癒やす方法を探るために現地入りした。
 
バングラデシュとの国境に位置するラカイン州では2012年以降、仏教徒のラカイン人とイスラム教徒のロヒンギャ人の間で激しい衝突が相次いでいる。これまでに殺害された100人以上の大半はイスラム教徒。また数万人のロヒンギャ人には国籍を与えられないまま、医療など基本的サービスを欠く荒れ果てた避難民キャンプで生活している。
 
今年3月に国民民主連盟(NLD)による政権が発足して以来、爆弾となりかねないロヒンギャ問題にしっかりと踏み込まず、人権団体から批判を浴びているスー・チー氏は先月、アナン氏を問題解決のための諮問委員会の委員長に起用していた。
 
しかし6日朝、ラカイン州の州都シットウェの空港に降り立ったアナン氏に対し、地元の仏教徒らは敵意をあらわにし、「偏見をもつ外国人がラカイン州のことに介入をするな」などと書かれたプラカードを掲げるとともに、「コフィ率いる委員会はいらない」などとの罵声やブーイングを浴びせた。

AFPの取材に対して仏教徒らは、アナン氏がラカイン州を離れる7日にも抗議をすると述べた。【9月6日 AFP】
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閉塞状態のなかで容易に浸透する過激思想
改善の希望が見えず、キャンプに押し込まれた状態の苦しい生活が続くロヒンギャは、イスラム過激思想が広まる格好の場ともなります。

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ロヒンギャ過激派指導者  「スー・チー氏が率いる政権が出来て数か月がたったが、現状は何も変わらない。あらゆる悪行が、スー・チー氏の率いる『民主的な』政権のもとで行われているのだ。」【10月19日 NHK】
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こうした中で今月9日から12日にかけて、武器を手にしたロヒンギャとみられる群衆が警察や軍部隊を襲撃し、警官・兵士が死亡する事件が続発しました。

****スーチー氏、和平に暗雲 ロヒンギャ武装集団か 衝突続発****
ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊とイスラム教徒ロヒンギャとみられる武装集団との衝突が相次いでいる。北部カチン州でも少数民族武装勢力への政府軍の攻撃が激化。アウンサンスーチー国家顧問が最優先に掲げるロヒンギャ問題の解決や国内和平実現に暗雲が垂れこめ始めた。
 
国営紙などによると、バングラデシュとの国境に近いラカイン州マウンドー近郊の村で11日、拳銃や刃物を持ったロヒンギャとみられる約300人の群衆が軍部隊に襲いかかり、兵士4人が死亡、1人が負傷。10日には、別の村で軍部隊が約20人の武装集団と銃撃戦となり、4人を射殺した。
 
地元記者によると、武装集団と軍との衝突は12日も起きた。同州では仏教徒の少数民族ラカインが多数派だが、マウンドー一帯はラカインと対立するロヒンギャが大半を占めている。
 
9日未明にマウンドーの国境警察の地区本部ら3カ所がロヒンギャとみられる武装集団に襲撃され、警官9人が死亡、銃51丁が奪われた事件がきっかけとなった。

同州では2012年にラカインとロヒンギャの住民同士が衝突し、約200人が死亡した。ロヒンギャを中心に今も約12万人が避難民キャンプで暮らすが、その後は、今回のような事件は起きていなかった。
 
地元メディアなどでは、動機として当局が無届けのモスク(イスラム礼拝所)の調査を始めたことへの反発の可能性などが指摘されている。

12日には銃を持った男たちの前で、1人の男がロヒンギャの言語で「戦いは始まった。我々に加われ」と呼びかける動画がインターネットに流れていることが明らかになった。
 ミ
ャンマーでロヒンギャはバングラデシュからの不法移民とみなされ、大半が国籍を持てないなど差別されてきた。今年発足した新政権を率いるスーチー氏は、コフィ・アナン前国連事務総長をトップとする諮問委員会を設置するなど問題解決に動き出していた。
 
だが、今回の衝突は仏教徒が多数を占める国民の反ロヒンギャ感情を高めかねない。スーチー氏は12日に首都ネピドーでの記者会見で「(調査中の)現時点では何も言えない。法に基づき対処していく」と述べるにとどまった。(後略)【10月13日 朝日】
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この一連の襲撃については、襲撃グループの指導者がパキスタンの反政府武装勢力タリバンから軍事訓練を受け、バングラデシュ側で資金などを受け取っていたとミャンマー政府は見ています。【10月19日 NHKより】

一方、かねてより西部ラカイン州では、多数派仏教徒住民との衝突だけでなく、衝突を防止する立場にある治安部隊によるロヒンギャ弾圧が行われていると言われています。

****治安部隊が性的暴行か=ロヒンギャ数十人被害情報―ミャンマー*****
ミャンマーの治安部隊が西部ラカイン州で、イスラム系少数民族ロヒンギャの女性数十人に対し、レイプなど性的暴行を加えた疑惑が浮上している。

ラカイン州では、武装集団が9日、警察施設を襲撃する事件が発生して以来、治安部隊が掃討作戦を展開中。
 
人権団体「アラカン・プロジェクト」のクリス・レワ氏によると、19日にラカイン州の村で約30人の女性がレイプされたほか、別の村でも複数の女性が被害に遭ったとの情報がある。ロイター通信も28日、兵士からレイプされたと訴えるロヒンギャ女性8人の証言を伝えた。
 
これに対し、大統領府高官は取材に「情報源が信頼できない」と反論。高官によると、現地の軍司令官も性的暴行を否定している。【10月28日 時事】 
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【「ラカイン州のイスラム教徒」 見えない政権側の解決に向けた姿勢
9日から12日にかけての襲撃事件に関するスー・チー氏の「(調査中の)現時点では何も言えない。法に基づき対処していく」という関与を避けるような発言、治安部隊によるレイプ事件に関する大統領府高官の「情報源が信頼できない」との否定発言・・・スー・チー氏及びミャンマー政府がロヒンギャの状況改善に動く兆しがないことを窺わせます。

スー・チー国家顧問兼外相の来日を前に産経新聞との応じた、スー・チー氏側近のペ・ミン情報相はロヒンギャ問題について「西部ラカイン州で10月に警察本部などが襲撃されたが、これは民族紛争ではなく、イスラム教徒でロヒンギャを自称する集団による計画的な武装攻撃だ。国軍が制圧しているが、衝突は続くかもしれない」【10月31日 産経】と語っています。

“民族紛争ではない”ということは、ロヒンギャを“少数民族”、ミャンマー国民としては認めないという政権の立場を示しています。ロヒンギャは不法入国者であり、テロリストだとする立場です。

****スー・チー氏 どう対応****
田中
「それに対してスー・チー氏ですが、国際的な協力を仰いで解決に乗り出したとのことですが、スー・チー氏自身の立ち位置がいまひとつ見えてこないように感じます。スー・チー氏はこの問題にどう対処しようとしているのでしょうか?」

「人権を重視するというスー・チー氏の基本的な立場は変わりませんが、スー・チー氏は『ロヒンギャ』という名称を使うことは避け、最近は『ラカイン州のイスラム教徒』と呼んでいます。

少数民族と公式に認めれば、ミャンマーでは特別な地位が与えられることになるためで、ここに大多数を占める仏教徒側への配慮がうかがえます。

ラカイン州を訪れてみると、多数派の仏教徒の生活も非常に厳しいものがあり、それがロヒンギャの人たちへの反発につながっていることに気づきます。

アナン氏の中立な諮問委員会の力を借りて、政治的な解決方法を模索する一方、地道に経済振興に取り組み、不満の火種を取り除いていくしかないと思います。」【10月19日 NHK】
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当分の間は進展が見込めない状況ですが、閉塞状態が続く中でロヒンギャ側の暴発が再発することも十分予測され、それはまた多数派仏教徒側の憎悪を強化し、問題解決を一層困難なものにすることが懸念されます。

スー・チー氏が置かれている現実政治を考えれば、彼女がロヒンギャ問題で新たな姿勢を見せられないこと、早急な解決を期待することは“大きすぎる期待”であることはよくわかります。

ただ、何十万人もの人々の日々の生活、更には生命がかった問題でもあり、改善に向けて動かせるとしたら彼女の指導力しかないのも事実です。
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