孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  硬軟両面で“国民和解”の新体制づくりを進める軍事政権

2014-07-23 23:36:40 | 東南アジア

(プミポン国王に謁見するプラユットNCPO議長(陸軍司令官) 【7月23日 ANN NEWS】http://www.youtube.com/watch?v=vJe_ZTBDB0M&feature=youtube_gdata_player)

ステープ元副首相、突然の出家
タイで反タクシン派を率いて激しい街頭行動を展開(結局、その効果があって、社会混乱を鎮めるという立場で、クーデターによって反タクシン派に近い軍政が敷かれている訳ですが)していたステープ元副首相が突然に出家したそうです。

****タイ元副首相が出家…反政府デモの指導者****
タイで5月の軍事クーデター直前まで反政府デモを指揮したステープ元副首相が出家し、周囲を驚かしている。

タイ英字紙バンコク・ポストなどによると、ステープ氏は15日、出身地の南部スラタニ県の寺院で仏教僧になる儀式に臨み、16日朝、住民から食料の施しを受ける 托鉢 ( たくはつ )を行った。

仏教徒が9割以上のタイでは、一時的に出家して寺院で生活を送ることは珍しくない。ただ、妻も出家の計画を知らなかったといい、修行期間も不明だ。

ステープ氏が半年以上指揮したデモの会場では、爆発や銃撃で死傷者が出たことから、供養のために出家したとの見方がある。

また、副首相時代の2010年にタクシン元首相派のデモ隊を鎮圧した際、死傷者を出したとして、殺人罪などに問われており、裁判官の心証をよくするためとの臆測も出ている。【7月18日 読売】
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ステープ元副首相については、クーデターを主導したプラユット陸軍司令官と2010年頃から「タクシン体制の打倒」を目指し連絡を取り合っていたことも、以前報じられていました。

****タイ:反政府デモ側と軍「政権打倒で共同歩調」報道****
タイの英字紙バンコク・ポストは23日、政治混乱で反政府デモ隊を率いたステープ元副首相が、プラユット陸軍司令官と2010年からタクシン元首相の影響力を排除するために話し合っていたことを周囲に明かしたと報じた。プラユット氏率いる軍事政権は報道を否定している。

バンコク・ポストによると、ステープ氏は21日、支持者約100人を集めた夕食会を開催。民主党政権(反タクシン派)に反発するタクシン派のデモで騒乱が起きた10年以降、プラユット氏と携帯電話のメッセージで「タクシン体制の打倒」を目指し、度々連絡を取り合ってきたことを打ち明けた。

ステープ氏は「(5月20日の)戒厳令発令前にプラユット氏から『あなた方(反政府デモ隊)は疲れている。軍が役割を引き継ぐ時が来た』と言われた」とも明かしたという。軍は戒厳令発令の2日後にクーデターを実行し、タクシン派政権を崩壊させた。

発言が事実なら、クーデターは反タクシン派と軍部による“共謀”の疑いが強まるが、軍政の報道官は23日、「プラユット氏がステープ氏と個人的に連絡を取り合ったことはない」と否定した。【6月23日 毎日】
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この報道がなされたのち、6月末には、ステープ元副首相がプラユット陸軍司令官の不興を買った・・・という報道もありました。

****ステープ氏、資金集め会合中止=軍政トップの怒り買う―タイ****
タイの反タクシン元首相派指導者ステープ元副首相は、毎週末に首都バンコクで開くとしていた資金集めの夕食会を中止した。軍事政権トップのプラユット国家平和秩序評議会(NCPO)議長の怒りを買ったためとみられる。【6月28日 時事】
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反タクシン派のステープ元副首相とプラユット陸軍司令官は親しい関係にあったのでしょうが、その関係を誇示して自分の政治的立場を強めたいステープ元副首相に対し、国民融和に向けて表向きは中立性をアピールする立場にあるプラユット陸軍司令官が機嫌をそこねた・・・といったところでしょうか。

突然の出家もそうしたプラユット陸軍司令官・軍政との微妙な関係が背景にありそうですが、仏教と人々の生活が身近な東南アジアにあっては、一時的出家はごく普通のことですし、ごく短期間で還俗するのもよくあることですから、政治状況を睨んでそのうちまた戻ってくるのでしょう。

インラック前首相「わたしはタイ国民を見捨てはしない。タイに戻ってくる」】
一方、戻れるのか、あるいは、戻るの気があるのか微妙なのが、タクシン派政権を背負ってステープ元副首相と対峙していたインラック前首相です。

インラック前首相は今月20日からの欧州への出国が軍政によって許可されて現在旅行中ですが、旅行が許可された同日、国家汚職追放委員会はインラック前首相を訴追するよう検察当局に要請することを決めています。

訴追され有罪が確定ということになれば、逮捕・収監ということになりますので、このまま帰国せず亡命状態になるのでは・・・と見る向きもあります。

旅行期間は今月20日~8月10日の予定で、実兄のタクシン元首相が7月26日に65歳の誕生日を迎えるのを祝ってパリで開催される誕生パーティーに出席するものとされています。

****インラック前首相を送検へ タイ、亡命懸念も****
タイの国家汚職追放委員会は17日、前政権が進めたコメの買い上げ制度をめぐり、職務怠慢があったとして、インラック前首相を送検する方針を決めた。起訴されて有罪判決が下される可能性がある。

クーデターで全権を掌握したタイ国家平和秩序評議会(NCPO)は同日、インラック氏から要請が出ていた欧州への渡航を認めた。

送検を受け、収監を恐れたインラック氏がそのまま海外逃亡することを懸念する声も上がっている。

インラック氏の兄、タクシン元首相は、過去のクーデター後に土地取引で実刑判決を受け、事実上の海外亡命生活を送っている。

コメの買い上げ制度は、インラック前政権の目玉政策として2011年10月から始まったが、約5千億バーツ(約1兆5700億円)の財政損失を招いたとされる。

汚職追放委は今回のクーデター前、この件でインラック氏を上院へ弾劾請求することを決定。憲法裁判所が人事上の職権乱用を認める判決を下し失職した。【7月17日 産経】
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憲法裁判所や国家汚職追放委員会は、既成秩序・既得権益維持を重視する反タクシン派の牙城でもあり、かねてからタクシン派・インラック首相には厳しい姿勢で臨んでいます。

「コメの買い上げ制度」は、コメを担保にお金を農家が借りられる仕組みですが、返済しない農家が大半のため、タクシン派政権を支持する農家への「ばらまき」との批判もありました。

国家汚職追放委員会は、インラック氏が国家に損失を与えるこの制度を中止しなかったことが職務怠慢にあたるなどと判断しています。

「ばらまき」には間違いなく、政策的に適正でなかった・・・とは言えますが、どのような施策を行うかは政府の判断であり、施策に財政負担が伴うのは当然のことで、それが犯罪行為に当たるのか・・・?
その施策の適否を決めるのは国家汚職追放委員会ではなく、選挙による有権者の判断であるように思うのですが。

インラック首相は出国前の7月18日、「外国に出たままタイに戻らないのではないか」との見方が出ていることに対し、「わたしはタイ国民を見捨てはしない。タイに戻ってくる」と明言しています。【7月19日 バンコク週報より】

随分と殊勝なもの言いですが、政治対立では精神的にも相当に追い詰められていたようですので、どうでしょうか・・・。

もし、このまま帰国せず海外逃亡生活ということになれば、兄タクシン前首相と同じ運命となります。
帰国して、逮捕されても主張を貫けば、兄の操り人形から脱することもできるのでは・・・。

あくまでも、本人にその気があればの話ですが。
それと、有罪になると公民権が5年間停止され、政治の表舞台に立てなくなります。

ステープ元副首相は出家、インラック首相は海外逃亡または逮捕・・・という形で双方の指導者を排除して、政治対立の解消を目指す・・・というのは、2007年当時、政党対立で機能がマヒしたバングラデシュで、軍事暫定政権が二大政党のハシナ元首相とジア前首相を国外追放しようとし、その後逮捕拘束した事例も思い出します。

バングラデシュの軍事暫定政権は、結局二大政党の影響を排除することができず、現在はハシナ首相が政権に返り咲いています。

ソフト路線で融和をアピールするも、批判者は容赦なく拘束
タイの軍政は、前回クーデターの失敗も教訓として、硬軟両面で“国民和解”の新体制づくりに取り組んでいます。

“軟”と面としては、‟軍はコンサートや食事会を開催。ギターを弾き、アイスクリームを提供するなど、人々の友好のための雰囲気作りに躍起になっている。”【NHK】とも。
軍のコンサートで歌われるのは、プラユット陸軍司令官が作詞した曲「タイに幸せを取り戻す」です。

一方、“硬”の面としては、軍政批判を徹底して封じ込めています。

****サンドイッチも読書も「反逆分子」の印****
国民からの反発を封じ込めようと軍事政権が振りかざす驚きの拘束理由

5月のクーデターでタイ国軍が政権を掌握した後、国民に発したメッセージは明白だった。
「われわれを支持するか、さもなければ黙っていろ」だ。

今では、クーデターをあからさまに批判した者は次々と拘束され、「態度を矯正」するために軍の施設へ送り込まれる。

チャトチャレーム・チャレームスク陸軍副参謀長いわく、拘束者は「ゲストハウスのような場所」で丁寧に扱われているというが、現実には程遠いだろう。

反軍事政権派は静かで目立たない抗議方法に訴えるようにとっているが、当局はばかばかしい理由をつけて強引に拘束している。例えば……。

■不適切なTシャツ
激しいスローガンが書かれたものに限らず、Tシャツが拘束理由になるケースは多い。

かつて反体制派の集会場となった首都バンコクの環状交差点で、「平和を願う」と書いたTシャツを持っていただけで拘束された男性もいる。

先月には「私の票を尊重して!」と記したTシャツを着ていた70代の女性が逮捕された。

■サンドイッチ
当局の取り締まりをかわそうと、学生の民主化活動家たちは先月に異例のイベントを企画した。
デモ集会の代わりに、無料でサンドイッチを配って静かな「ピクニック」を行おうとしたのだ。

さすがにサンドイッチを食べただけでは逮捕できない・・・と思ったら大間違い。
事前に公表していた集合場所に現れた若者の1人が、震える手でサンドイッチを食べ始めた途端、当局に取り囲まれて逮捕された(ほかにも6人の身柄を拘束)。

拘束理由は「悪意のあるサンドイッチを所持していた」から。サンドイッチを食べること自体は罪ではないが、軍政を批判する活動のカモフラージュに用いた場合は犯罪になると、警察当局のある幹部は語っている。(中略)

■「3本指」のサイン 
アメリカの人気SF小説・映画『ハンガーゲーム』で、市民が独裁政権への反逆の印として3本指を立てるシーンは有名。

タイの反軍事政権派はこのサインを取り入れ、抗議の姿勢を示すジェスチャーとして使うようになった。

この方法なら本やサンドイッチのような「物的証拠」も残らない。
それでも警察当局はこのサインを見つけては、反逆行為として次々と拘束している。

もっとも、こうした抵抗を次々に取り締まっても、また新たな手法が出てくるだけ。このままだと「ゲストハウス」がパンクする日も近そうだ。【7月22日号 Newsweek日本版】
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****デモ参加者に初の有罪判決=反クーデターで―タイ****
タイの裁判所は3日、クーデターに抗議するデモに参加した男性(49)に対し、禁錮2月、罰金6000バーツ(約1万8800円)の有罪判決を言い渡した。

男性が罪を認めたため禁錮1月、罰金3000バーツ、執行猶予1年に減刑された。反クーデターデモをめぐって判決が出たのは初めてという。【7月3日 時事】 
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今後の政治スケジュールも明らかになっていますが、軍が主導する枠組みで新憲法を制定して、来年中に総選挙・民政移管が行われる予定です。

新憲法づくりは、タクシン派の影響力を抑制し、選挙でタクシン派が復権できないような制度をつくる方向で動くものと思われます。

****タイ軍政、暫定憲法を公布=NCPO議長が首相に優越****
タイ軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)は22日、官報を通じ暫定憲法を公布した。

これに先立ち、軍政トップのプラユットNCPO議長(陸軍司令官)がこの日、中部フアヒンのクライカンウォン宮殿でプミポン国王に謁見(えっけん)し、NCPOが提出した暫定憲法案について承認を得た。

全48条で構成される暫定憲法は、平和や国家安全保障を損なう行動を防ぐといった目的で、NCPO議長は「立法・司法・行政のいかなる行動も阻止する命令を出すことができる」と規定。事実上、プラユット氏に対し暫定首相に優越する権限を付与する内容となっている。

暫定首相は、国会の役割を担う立法議会の議決に基づいて国王が任命する。暫定首相にはこれまでプラユット氏の就任が有力視されてきたが、NCPO議長が強大な権限を保持することで、別の人物が暫定首相に就く可能性が出てきた。

暫定憲法に基づき、立法議会が8月、暫定内閣は9月に発足する見通し。また、改革の枠組みづくりや新憲法の制定に当たる国家改革評議会は10月までに設置されると見込まれている。【7月23日 時事】
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軍事クーデターでタイの市民生活に静けさが戻ったのは事実ですが、意にそぐわない勢力を排除する枠組みに力で変えてしまう試みには賛同しかねます。
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