孤帆の遠影碧空に尽き

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シリア和平会議「ジュネーブ2」 危ぶまれる開催

2013-10-23 21:35:30 | 中東情勢

(シリア北部の都市アレッポで、空爆で負傷した娘を連れて病院へ駆け込む女性(2012年8月24日撮影)。【10月22日 AFP】)

シリア内戦終結に向けてジュネーブで開く国際和平会議(ジュネーブ2)については、11月に開催される方向で調整が行われています。

政権側も反体制派も和平への意欲は乏しいのが実情
****シリア和平会議は11月23日開催へ、日程や参加者でなお調整も****
アラブ連盟のアラビ事務局長は20日、シリア内戦終結に向けてジュネーブで開く国際和平会議について、11月23日に開催される予定だと明らかにした。

アラビ事務局長はカイロで国連とアラブ連盟合同のシリア特別代表ブラヒミ氏と会談。その後の共同会見で、和平会議の日程が来月23日に決まり、開催に向けた調整が行われていると述べた。
一方、ブラヒミ氏は同じ会見で「日程は公式に決まっていない」と述べた。

米ロが開催を呼び掛けるシリア和平会議をめぐっては、一枚岩ではない反体制派がどのような形で参加するのかや、アサド政権を支持するイランが招待されるかなど、不透明な部分も残っている。【10月21日 ロイター】
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しかし、内部統一がとれておらず、また、「アサド大統領の退陣」を条件とする反体制派の参加は難しい情勢ともなっています。
アサド政権側も、「無条件で参加する」としていた時期に比べ、会議への意欲を低下させています。

****シリア:和平会議開催困難に 政権側も反体制派も意欲なし****
シリア和平に向けた国際会議の開催が危ぶまれている。11月23日にもジュネーブで開く案が浮上しているが、反体制派代表と目される主要組織「シリア国民連合」は「アサド大統領の退陣」を会議参加の条件とする姿勢を固持しており、実現の見通しは立たない。内戦は一進一退の攻防が続いており、政権側も反体制派も和平への意欲は乏しいのが実情だ。

「アサド政権と交渉すれば、未来への前進を望んでいるシリア国民は失望する」。国民連合トップのジャルバ議長は22日、訪問先のロンドンで記者会見し、ジュネーブ会議への不参加方針を改めて示した。

国民連合は11月初旬に開く総会で最終決定するが、最大派閥のシリア国民評議会が「会議に参加するなら国民連合を離脱する」と表明するなど不参加方針が覆る可能性は低い。

米英やサウジアラビアなど反体制派を支援する11カ国は22日に外相会議を開き、「シリアの唯一正統な代表」と承認している国民連合に国際会議への参加を促すことで一致。ケリー米国務長官は会議後「最終的に話し合いしか解決方法がないのは明らかだ」と述べ、国民連合の説得に意欲を示した。

だが、国民連合内には、戦況が停滞する現状で会議に出席しても反体制派に有利な合意は得られないとの見方が強い。また、在外の活動家が中心の国民連合はシリア国内の基盤が弱く、反体制派の一角を占めるイスラム過激派とも対立している。政権と妥協する姿勢を見せれば、求心力がさらに低下するとの危機感がある。

一方、従来は「無条件で参加する」としていた政権側の姿勢も変化した。アサド大統領は今月「武装組織とは交渉しない」と述べ、国民連合とは交渉しない方針を示唆。さらに「シリア人を代表しているとは言えない」と国民連合を批判した。【10月23日 毎日】
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なお、アサド政権側は“アサド大統領の処遇については協議しない”という姿勢を明らかにしています。

****シリア和平会議ではアサド大統領の処遇は協議しない-和解相 ****
10月21日(ブルームバーグ):シリアのハイダル国民和解問題担当相は、内戦の終結を目的とした国際和平会議ではアサド大統領の処遇については協議しないと明らかにした。

ハイダル氏はダマスカスから電話取材に応じ、米国とロシアが開催を支持するこの和平会議ではまず、挙国一致内閣についての合意を目指すと説明。成立後に、同内閣がアサド大統領の処遇を含む2年半の内戦の政治的解決に向けたプログラムを策定すると述べた。【10月22日 ブルームバーグニュース】
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また、アサド大統領は「(会議の)環境が整っていない」との消極姿勢を見せています。

****国際会議「環境整わず」=来年以降続投へ意欲―シリア大統領****
シリアのアサド大統領は21日、レバノンのテレビ局アルマヤディンのインタビューで、11月中の開催が検討されているスイス・ジュネーブでのシリア内戦収拾に向けた第2回国際会議について「環境が整っていない」と述べた。AFP通信などが伝えた。大統領が否定的な姿勢を示したことで、開催は一層不透明な状況になった。

大統領は「会議の日程は設定されていない。参加しようとする勢力は、シリア国民を代表しているのか」と指摘し、反体制派の正統性に疑問を投げ掛けた。また、2014年に予定される大統領選で3選を目指す意欲を示した。【10月22日 時事】 
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【「さまざまな勢力間の憎悪がひどくなっている」】
欧米諸国が「シリアの唯一正統な代表」と認める反体制派・「シリア国民連合」ですが、前出記事にあるようにイスラム過激派が反体制派内で勢力を強めるなかにあって、“政権と妥協する姿勢を見せれば、求心力がさらに低下するとの危機感”から「ジュネーブ2」への参加には否定的です。

しかし、会議をボイコットしたとしても、その先の展望は開けていません。

****シリア国民連合:暫定統治、見通し立たず 発足1年***
シリア反体制派の主要組織「シリア国民連合」が11月に発足から1年を迎える。欧米や日本から「シリアの唯一正統な代表」と承認されているが、化学兵器を巡る国際協議では蚊帳の外に置かれた。

組織力を証明するため、反体制派支配地域で暫定統治を始める計画だが、国際テロ組織アルカイダとの対立もあり、実現の見通しは立たない。反体制派内部でも「アサド政権後」の受け皿になれるか疑問視する声が出ている。

「アルカイダ系組織を統制するのは可能だ。暫定政府は市民の生命や財産を守る」。在カイロの国民連合幹部、カセム・ハティブ氏は毎日新聞の取材に、暫定統治開始に自信を見せた。国民連合は9月14日、東部デリゾール出身の歯科医、アハマド・トーメ氏を暫定首相に選出。閣僚を選出し、北部や東部の反体制派支配地域で暫定統治を始める意向だ。

しかし、トーメ氏の政治手腕は未知数だ。3月に選出された前任の暫定首相は閣僚を決められないまま辞任に追い込まれている。

また、反体制派支配地域では7月以降、国民連合傘下の自由シリア軍とアルカイダ系の強硬派組織「イラク・レバント・イスラム国」との交戦が各地で起きている。自由シリア軍幹部のアブ・ハムザ氏は「アルカイダの影響力は誇張されて伝えられている。治安は掌握できる」と主張するが、トルコ国境の北部アジズでは9月中旬以降、断続的に戦闘が続いている。

国民連合は政教分離を志向する。一方、アルカイダ系はイスラム教に基づく新国家建設を目指しており、統治のあり方を巡って双方の対立がさらに激化する可能性もある。

米欧諸国との関係もぎくしゃくしている。米仏は政権側が化学兵器を使用したとして軍事攻撃する構えを見せ、国民連合も期待感を示した。だが、米露合意で米欧は攻撃を撤回。「政権に逃げ道を与えるだけだ」との国民連合の非難は無視された。

一方、米欧側にも国民連合への不信感は根強い。自由シリア軍は各地域に独立した部隊が存在し、指揮系統が一本化されていない。
国民連合傘下の自由シリア軍とアルカイダ系組織は地域によって共闘したり、対立して戦火を交えたりしている。

9月下旬には自由シリア軍の一部が部隊を離れ、アルカイダ系組織と連携すると表明した。国民連合は高性能な兵器の提供を求めているが、アルカイダへの流出を懸念する米欧は慎重だ。【10月20日 毎日】
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自由シリア軍自体が多くの独立部隊の集合体であり、“組織傘下の自由シリア軍について「イドリス司令官でさえ、自由シリア軍とされるグループの4割しか制御していない」(リア反体制派「シリア国民評議会」元メンバーでシリア人ジャーナリストのランダ・カシス氏)”【10月20日 毎日】という状況です。

更に、その自由シリア軍とヌスラ戦線やイラク・レバント・イスラム国など国際テロ組織アルカイダ系のグループとの衝突、あるいは、イスラム過激派と少数民族クルド人の武装組織の衝突などが内紛・分裂が進んでおり、“今月だけで約80の反体制派戦闘部隊が、統一組織「シリア国民連合」を代表として認めないと表明”【10月19日 産経】と、「シリア国民連合」が反体制派を代表して交渉にあたるという状況にはありません。

イスラム過激派が勢力を強めるにつれて、反体制派による民間人殺害なども報じられるようになっています。

****シリア反政府勢力は今は内紛まみれ****
内戦が続くシリアの西部ラタキア県で、反政府勢力が民間人を殺害-そんな報告書を人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が出した。

8月、反政府勢力がラタキアで軍事攻勢をかけた際、女性や子供を含むイスラム教アラウィ派の住民190人を殺害。人質になった200人以上は今も解放されていない。

「報告書の内容はすべて偽り」と、反政府組織である自由シリア軍の兵士は言う。現地は政府の支配地域でジャーナリストが入れず、正確な情報をつかむのは不可能だと彼は付け加えた。

アサド政権への反乱として始まった内戦だが、今や反体制派内の派閥争いが激化している。
イスラム過激派が過去1年ほどで存在感を強め、反政府勢力の支配地域の大部分を掌握。HRWによれば、ラタキア攻撃に関わったのはアルカイダ系のアルヌスラ戦線など5つの組織だ。

反政府勢力を支持して活動していたある人物は、革命の変質を身をもって感じている。彼は仲問たちから脅迫され、シリアからトルコに逃れた。「さまざまな勢力間の憎悪がひどくなっている。シリアが平和を取り戻すには多大な努力と長い年月が必要だろう」【10月29日号 Newsweek日本版】
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悲惨な被害が増え続けるだけの現状
こうしたなか、反体制派か政府軍かは示されていませんが、狙撃手がゲームとして妊婦を標的に狙撃する・・・といったおぞましい状況も報じられています。

****シリアで妊婦を標的とする狙撃横行か、英医師が証言****
内戦が続くシリアで、妊婦を標的にした狙撃が横行している可能性があると、同国でボランティアに携わった英国の外科医が19日、語った。

英チェルシー・ウェストミンスター病院の血管外科医を務め、トニー・ブレア元首相などの治療を行った経験もあるデビッド・ノット医師は、過去20年間、ボスニアやリビア、コンゴ民主共和国(旧ザイール)などの紛争地帯で緊急手術医のボランティアを続けてきた。

シリアの病院で5週間にわたるボランティア活動に従事後、帰国したノット氏は、英紙タイムズのインタビューに応じ、シリアで治療した銃創から、退屈した狙撃手らが遊び半分で妊婦を標的にしている恐れがあると語った。

「ある日は股間を撃たれ、また別の日は左胸を撃たれていた。朝一番に来た患者から、その日1日にどのような患者が来るかほとんど察知できるほどだった。あれは(狙撃手たちの)ゲームだったのだ」

1日に6人以上の妊婦を治療した日もあった。また別の日には、銃創患者が2人連続で妊婦だった。そして2人ともが胎児を失った。「女性たちは全員、子宮を撃ち抜かれていた。そこが彼らの狙いだったのだろう」とノット氏。

「普通、民間人は交戦に巻き込まれるものだ。こんなこと(民間人を標的とした狙撃)を目撃したのは初めてだ。あれは故意だった」【10月22日 AFP】
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こうした状況を停止するための道筋として期待された「ジュネーブ2」ですが、その開催すら危ぶまれています。
これまで“反体制派支援”ということでやってきた欧米ですが、イスラム過激派が勢力を拡大し、内戦による被害だけが増え続ける現状からして、内戦終結に向けて軌道修正が必要に思われます。

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