孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国に残る旧日本軍化学兵器

2013-10-22 21:14:30 | 東アジア

(黒龍江省寧安市における日本による旧日本軍遺棄化学兵器の発掘・回収作業(2004年) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/naruhodo/photo/photo3.html)

日本のOPCW参加は、国際社会での地位と自衛隊の正当性を高めたい安倍政権の戦略に合致する
シリアではノーベル平和賞が決定した化学兵器禁止機関(OPCW)による化学兵器廃棄作業が行われていますが、中国に残る旧日本軍の化学兵器処理で実績がある日本にも出番があるのではという話があり、日本政府も前向きに検討していると報じられていました。

****シリア化学兵器廃棄で日本が活躍****
自衛隊の化学兵器のスペシャリストを派遣すれば日本も見直される

日本の安倍政権は、シリアのアサド大統領が保有する化学兵器の廃棄に協力するため、自衛隊派遣を検討していると伝えられている。

安倍は先週、ニューヨークで国連の潘基文(バン・キムン)事務総長と会談し、シリアの化学兵器廃棄に協力することをあらためて約束した。翌日には国連総会で演説し、対シリア難民対策として6000万ドルの追加支援を表明。これで日本の対シリア人道支援は、総額1億5500万ドルとなる。

化学兵器について、日本は浅からぬ関係がある。95年にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が起き、多くの死傷者が出た。その経験からも、97年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)では批准を積極的に訴えてきた。

化学兵器禁止機関(OPCW)の査察局には既に10年以上前から自衛官を派遣しているし、第二次大戦後に旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理も進めている。

しかも日本は欧米諸国と違い、中東に植民地を持った歴史がない。OPCW代表団に日本人が加われば、欧米の要求に屈したとみられたくないアサド政権にとっても好都合だろう。

日本のOPCW参加は、国際社会での地位を高め、自衛隊の正当性を高めたい安倍政権の戦略に合致するという見方もある。
「(自衛隊の)こうした活動は、日本で進む『軍事の正常化』と過去の軍国主義を区別する役割を果たす」と、アメリカの民間情報会社ストラフォーは指摘する。「特にアジア太平洋地域への配慮としては有益だ」【10月 8日号 Newsweek】
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“岸田文雄外相は28日、「化学兵器が二度と使用されないよう関係国・機関の努力を支持し、可能な限りの協力を行っていく」との談話を発表、人的貢献も含む具体策の検討に入った。”
“外務省は「機材提供や人員派遣も選択肢」(幹部)として、化学兵器を爆破処理する機材の提供や、政府・民間の人員派遣も視野に入れる。”【9月29日 時事】とも報じられています。

シリアの化学兵器の状況、処理方針については以下のように報じられています。日本が関与できる余地があるのかどうかは分かりません。

****シリア化学兵器:無力化後に国外へ OPCW加盟国検討****
シリア化学兵器の査察と廃棄の監視を担当する化学兵器禁止機関(OPCW)加盟国の間で、化学兵器を当面使えないよう化学組成を変え「無力化」して国外に搬出する案が浮上していることが19日分かった。加盟国の高官が毎日新聞の取材に明らかにした。

国外搬出については、来年半ばまでのシリア化学兵器全廃にロシアと合意した米国のケリー国務長官が17日、米公共放送NPRに対し、「できるだけ早く船で撤去し一つの場所に集積すべきだ」と述べていた。
ケリー長官は撤去手法や運搬先、その後の処理には言及しなかったが、より安全な形での搬出を可能にする無力化を念頭に置いた発言だったと見られる。

シリアは約1000トンの化学兵器の全量を、混ぜなければ毒ガスが発生しない安定した液体「前駆物質」の形で保管している。OPCWの決定機関・執行理事会加盟国の軍縮担当高官によると、当面は前駆物質を使用不能にして無力化し、船で国外に撤去する案を検討中だという。

無力化すれば、相対的に事故やテロの標的になる危険も少なく、運搬は容易になる。こうした物質の処理には大量の水が必要なため、水資源の豊富なノルウェーやアルバニアが搬送先候補にあがっているという。

ただ、OPCW担当者は「シリアの政府が国内で処理すべきだ」とも発言。国外撤去は搬送費用のめどもたっておらず、実現にはなお曲折がありそうだ。【10月20日 毎日】
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【「時間の壁」が立ちはだかり難航する中国での旧日本軍遺棄化学兵器処理
日本が化学兵器処理によってシリア問題の進展に資することができるのであれば、非情に結構な話です。
ただ、この話のもとになっている中国における化学兵器処理について、進展が遅いとの化学兵器禁止機関(OPCW)からの指摘があります。

****OPCW:中国に残る旧日本軍化学兵器「処理を最優先に****
ノーベル平和賞を受賞する化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)が、日本が中国で行っている遺棄化学兵器の処理現場を先月訪問し、3日付の報告書で作業の「遅れ」を指摘、処理をOPCWの「最優先事項」と位置付け、日本に「できるだけ早い」処理により、化学兵器禁止条約を順守するよう求めたことがわかった。

日本は9月10日付のOPCWへの報告書で遺棄兵器が多様な場所で見つかり「腐食も激しく危険」と「困難さ」を強調してOPCWに理解を求めた。

OPCWはウズンジュ事務局長や決定機関・執行理事会の主要国など16人の調査団を中国北部吉林省ハルバ嶺に派遣。日中の担当官から事情を聴き、現地視察を行った。

日本は化学兵器禁止条約で定めた2012年4月の廃棄期限が守れずOPCWから特別に延長を許されている。OPCWは現地調査で処理の実情を確認することが必要と判断した。

報告書によるとハルバ嶺では30万〜40万発の化学兵器が埋まっている一方、発掘回収作業は昨年から始まったばかりで、一部を発見したに過ぎない。
中国側からはOPCWに遺棄兵器による市民や環境への「脅威」と作業の遅れへの「懸念」が伝えられた。

日本側は先月の報告書などで、旧日本軍の化学兵器の情報が不足し特定が難しいほか、山岳地帯や川底、地中、都市部など多様な場所から他の爆弾とともに見つかり、作業が危険で、北部では冬場に作業を中断する必要があるなど「困難」さを強調。

ハルバ嶺では22年を廃棄終了のめどとしているが実現できるか不明。OPCWはハルバ嶺での廃棄開始が早期処理完了に「決定的」と位置付けた。

ウズンジュ事務局長は毎日新聞に「廃棄がより大規模、迅速になるよう望む」と期待を示した。【10月22日 毎日】
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シリアもいいけど、まず中国での本来の作業をしっかりやれよ・・・といった含みでしょうか。
しかし現実問題として、時間の経過とともに情報が少なくなる中、作業は非常に難しいようです。

****遺棄化学兵器:戦後68年…40万発?処理に情報不足****
ノーベル平和賞を受賞する化学兵器禁止機関(OPCW)が現地視察団の報告書で日本に中国での遺棄化学兵器の迅速な処理を求めたが、背景には腐食や変形などによる作業の難しさのほか、化学兵器の埋蔵場所について資料が不足している事情もある。

日本政府はこれまで1200億円以上を投入しているが、戦後68年が経過し、適切な情報を得るのが年々、困難となる「時間の壁」が立ちはだかっている。

日本政府がOPCWの決定機関・執行理事会に今年7月と今月、中国での遺棄化学兵器の現状を伝えた報告書によると、今年は北東部の吉林省ハルバ嶺や、中部・武漢、南部の広州までの広い範囲で9カ所、計199発の遺棄化学兵器を回収・確認した。確認中のものを含めると254発になる。

この問題は、1990年に中国側が日本政府に解決を要請したのがきっかけ。97年に発効した化学兵器禁止条約に基づき、日本政府が廃棄を行い、中国政府が協力することになった。

中国側のOPCWへの説明によると、これまで全国の17省90カ所で発見されている。2022年を廃棄終了のめどとしているが、廃棄作業は大量に残り、実現可能性は不透明だ。

中国南部では10年に始まった南京での廃棄を終え、武漢での廃棄準備が始まった。北部では石家荘での廃棄作業が開始。9月現在で4万9682発のうち、3万7064発を処理。16年終了を目指す。

しかし、これとは別にハルバ嶺では30万〜40万発が埋まっていると推定される。発掘・回収は12年末から始まったばかりだ。地域によって回収のスピードにばらつきがあり、日本政府関係者は「(埋蔵場所について)現地住民の記憶頼みの面もある」と難しさを強調する。OPCWは日中の協力を評価した上で、「多くの課題が残されている」と指摘した。【10月22日 毎日】
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中国における旧日本軍の化学兵器処理問題については、異論もあります。

****遺棄の事実についての論争****
中国に残る埋没化学兵器は日本軍によって遺棄されたのではなく、終戦時の武装解除に伴い中国軍やソ連軍に引き渡され、その後に中国側によって埋没されたものではないかとの指摘がある。

これについて日本政府は、旧日本軍の化学兵器であると判明したものについては、中国側が残置に同意していた明確な根拠がない限り、条約上の処理義務を負うものとの政府参考人による国会答弁を行っている。

2005年時点では、手投式催涙弾の引渡記録が発見された例はあるものの、そのほかの明確な根拠史料はないとしている。

その後、中国本土とは日本側の指揮系統が異なる台湾での化学兵器引渡に関しては、「あか剤」「みどり剤」の発煙筒を第10方面軍隷下の日本陸軍部隊が中国国民党軍に引き継ぎした際の記録が確認された。

しかし、中国本土に関しては、シベリア史料館(山形県)所蔵の文献調査などが進められているものの、史料の1/3の分析が終わった段階では化学兵器の引渡記録は全く発見されていない。

また、日本軍の保有していた化学兵器以外に、中国製やソ連製の化学兵器も含まれているのではないかとの指摘もある。

日本政府によれば、発掘後に仕分けを行って旧日本軍の化学兵器と確認されたもののみを処理事業対象として回収しているという。

広東省広州市黄埔区で2006年11月-2007年2月に行われた発掘作業では461発の砲弾が発見されたうち、旧日本軍の化学兵器と確認できた砲弾など73発と不明のもの24発が事業対象として回収され、残りは中国側に引き渡された。

ハルバ嶺での2008年度試掘調査では、661発の砲弾が発掘されたうち641発が化学砲弾だった。【ウィキペディア】
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また、処理事業に投じられた資金の流れに不透明な部分があることも指摘されています。

いろいろ議論の余地はあるところでしょうが、旧日本軍が相当量の化学兵器を残したというのも事実でしょうから、将来的な関係改善に役立つ方向で出来る限りの対応をすることが賢明なように思えます。

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