孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中台統一に向けた中国側の“浸透工作” 金門島で起きた中国漁船転覆事故によって高まる緊張

2024-02-20 22:24:59 | 東アジア

(【2月20日 読売】)

【中台統一の実現にこだわる習近平国家主席】
周知のように1月13日に行われた台湾総統選では中国に距離を置く与党・民進党の頼清徳副総統が当選しましたが、同時実施された立法委員(国会議員)選では与党・民進党は過半数の議席を確保できず、政権安定のためには野党との協力が不可欠であり、特に、野党第2党の柯文哲氏率いる台湾民衆党の動向が鍵を握りそうな状況となっています。

中国は民進党の頼清徳氏を「台湾独立派」とみなし、中国に比較的融和的な国民党の勝利を実現すべく軍事的、経済的な圧力をかけていましたが、そうした試みは奏功しませんでした。

選挙直前に、国民党の馬英九前総統が海外メディアの取材に「習近平氏を信用すべき」「中国との統一は受け入れられる」と発言したことが「やはり国民党は中国とズブズブの関係か・・・」という思いを有権者に抱かせたことも国民党側の敗因の一つとされています。
(どうして、馬英九氏があの時期にあのような発言をしたのかは知りません。中国との関係についての認識に決定的なズレがあるのかも)

****不発に終わった習近平政権の介入 「中台統一」の道筋見えず****
中国の習近平政権は、台湾の総統選で勝利した民主進歩党の頼清徳氏を「台湾独立派」とみなし、軍事的、経済的な圧力を駆使して当選を阻止しようと躍起になったが不発に終わった。政権維持に成功した民進党への圧力をさらに強めるのは必至だが、習政権が掲げる中台統一への道筋は見えない。

中国で対台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室の陳斌華報道官は昨年末、民進党が「台湾を戦争の危険へと押しやっている」と主張。頼氏についても「台湾独立の活動家と自任している」と非難した。

習政権は、台湾の総統選と立法委員選について「平和と戦争、繁栄と衰退」を決めるものだと一方的に位置付けて有権者に選択を迫った。

選挙直前にも中国の気球が台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線を相次いで越えたほか、化学製品の原料など台湾で生産された12品目について関税を引き下げる優遇措置を停止。台湾世論を揺さぶる介入を続けた。

2022年の中国共産党大会で習総書記(国家主席)は、台湾について「最大の誠意と努力で平和的統一を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束しない」と強調した。

習氏は党大会を経て異例の総書記3期目続投を果たし、長期政権の成果として台湾統一の実現にこだわる。その手段には武力侵攻の選択肢も残されたままだ。

5月に行われる新総統就任式を前に民進党政権への圧力をさらに増すのは間違いない。経済面では、事実上の禁輸措置などを使って世論の分断を狙うとみられる。台湾海峡の荒れがおさまる3月以降、空母などを使い軍事的な威圧を増すことも見込まれる。

だが台湾世論の主流は中台関係の「現状維持」を望む。今回の総統選でも証明されたように、圧力だけで台湾を「統一」に向かわせるのは困難だ。頼氏の任期中である27年には共産党大会も控え、習氏が総書記4期目続投をにらんで冒険主義に走る危険性はある。【1月13日 産経】
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【中国共産党による“浸透工作” 本土に近い金門島の取り込み】
台湾では、与野党ともに(中国との距離感に濃淡はあるものの)基本的には「現状維持」を望んでいますが、中国・習近平国家主席としては中国悲願の中台統一を自分の手で成し遂げたい、そのためには軍事的手段も排除しないという姿勢であり、今後も台湾への圧力をこれまで以上に強めると推測されます。

中国はこわもての軍事圧力や経済圧力だけでなく、台湾の若者を取り込む“浸透工作”も行っています。

****中国共産党による“浸透工作”台湾の新総統を待ち受ける試練****
トラブルメーカー、独立派…。中国からそう呼ばれ、非難されてきた台湾の与党・民進党の頼清徳氏が1月の選挙で勝ち、次の総統になることが決まりました。

その台湾が今、警戒を強めているのは、中国による軍事的圧力だけではなく、教育などを通じて中国の影響力拡大を図る“浸透工作”です。

台湾の専門家は「今後ますます台湾の人の政治や社会に関する価値観をコントロールしようとする動きが活発になるだろう」と指摘します。台湾の新総統を待ち受ける中国共産党の“浸透工作””の実態とは。

台湾の学生に好待遇 入学時の成績は優遇
「中国大陸なら低い点数でもよい大学に出願できます。台湾の学生には優遇制度がありますから」
そう話すのは中国内陸部、湖南省の大学で学ぶ蕭しょう亦婷えきていさんです。蕭さんは台湾の出身で、中国の大学に進学して1年あまりになります。

もともと台湾の大学を目指していた蕭さん。中国への進学を決めたのは台湾で「学測」と呼ばれる、日本の大学入学共通テストに相当する統一試験を受けた直後。満足のいく結果が出せず、台湾の志望校に出願できないことが分かったのです。

「そんなとき、大陸の大学に出願したらいいのではないかと思いついたのです。優遇制度の目的が何であれ、私たちは実際に恩恵を受けているし、それに感謝しています。みんなこのチャンスをつかんだらいいと思います」

400校で優遇措置 台湾出身の学生は1万人?
中国に親近感を抱く台湾の若者を増やしたい習近平指導部は、こうした台湾の学生の受け入れにも力を入れています。

現在、中国国内の400を超える大学で、台湾で受けた「学測」の成績結果を提出すれば試験を免除する制度を設けています。さらに台湾出身の学生だけを対象にした奨学金制度を設けるなど、中国大陸への進学を積極的に支援しています。

実態は分かっていませんが、中国メディアは中国で学ぶ台湾の学生は1万人を超えると伝えています。ただ台湾当局は「その大半が仕事で中国に行った台湾企業関係者の家庭の子どもだ」と主張。

中国では毎年数千人が入学するとも伝えられていますが、台湾の高校から中国の大学を選んで進学する学生の数は「1けた少ない」としています。

台湾の専門家は「中国に学びに行く台湾の若者というのは当然、中国共産党からすれば、台湾に対する宣伝において重要な『モデル』になる」と指摘しています。

「あなたは台湾人か、中国人か」“踏み絵”を迫るような動きも…
ただ、一部の大学では学生に中国側の立場に従うようしむけるような動きがあることも見えてきました。

これ(省略)は中国のある大学が去年、台湾出身の学生に対して実施したとされるアンケート調査です。質問の多くが中国政府の立場に同意するか、いわば「踏み絵」を踏ませるような内容となっていました。

・自分は台湾人か、中国の台湾人か、あるいは中国人か。
・機会があれば中国共産党に入党してみたいか。
・「一国二制度」が未来の最もよい選択だと思うか。

これらの問いに「同意するかどうか」を5段階で選ぶようになっています。

本心で答えていいの? 学生は当局からの呼び出しを警戒
アンケートに答えた学生に匿名を条件に話を聞くことができました。学生は本心で答えていいものか心配になったと言います。

「お茶を飲みに呼び出されるのではないかと心配でした。それに学業に影響するかもしれないという思いもありました。学業は政治的緊張から離れて中立を保つべきです。もっと寛容なやり方で受け入れるとともに文化と学業の交流に力を入れるべきだと思います」

※「お茶を飲む」=当局に呼び出されて事情聴取を受けることを指す中国の隠語。

さらに取材を進めると、入学する台湾の学生に対し、大学出願時点の要件として、台湾と中国大陸との統一を支持することを盛り込んでいる学校もありました。(中略)

中国に”もっとも”近い離島・金門島
“浸透工作”に加えて、物理的にも中国の経済圏に取り込もうという動きも出ています。
中国大陸に近い台湾の離島・金門島は、福建省の大都市アモイから沖合わずか数キロの場所にあります。

船でわずか30分 
中国大陸からのアクセスは驚くほど便利です。アモイと金門島を結ぶ高速船は現在、1日8往復、運航されています。アモイ側の埠頭には、空港のようなターミナルビルが建設され、パスポートコントロール、税関、免税店までそろっています。

乗船券は、片道159元(およそ3200円)。中国側と台湾側それぞれの高速船で運航されています。取材に訪れたこの日は、船に乗り込むと、乗客のほとんどは台湾の人たちでした。新型コロナで停止していた船の運航は、去年1月から再開されましたが、中国大陸からの旅行者の訪問は制限されたままです。

出港して10分もすれば金門島がはっきりと見えてきました。金門島とその近くにある離島・小金門島の間におととし建設された橋の下をくぐり、わずか30分で到着。台湾側のパスポートコントロールと税関で手続きを行います。(中略)

平和と交流 望む声
島の中心地・金城には、かつて共産党との内戦に敗れて台湾に逃れた国民党の蒋介石の像がありました。

新型コロナ禍の前は中国大陸からの観光客でにぎわっていたという商店街は、週末にもかかわらず閑散としていました。土産物店や飲食店で話を聞くと、中国との交流や平和を求める声が多く聞かれました。

タクシーで橋を渡り小金門島の海岸に行くと、中国軍の上陸を阻止するための障害物が並べられていますが、間近にアモイの高層ビル群が見えます。運転手の男性は、「こんなに近いのだから、交流が制限されるのは不自然だ」と話していました。

1月13日に行われた総統選挙では、金門島の選挙区で、中国との交流拡大を訴える最大野党・国民党の侯友宜氏が6割を超える票を獲得しました。

攻勢かける中国 島のすぐそばに中国の新空港を建設
中国側は、豊富な資金力を武器に、アモイを中心とする経済圏への取り込みをはかっています。
金門島との間に長さ16キロの海底パイプラインが設置され、生活用水のほぼすべてを供給しています。さらに中国がかつて金門島に向けて宣伝放送用の巨大なスピーカーを設置していた沿岸では、いま急ピッチで埋め立てが行われ、2026年の開港をめざして、巨大空港の建設が進められています。

中国側は、新空港と金門島を橋で結び、人やモノの流れを活発化させることを呼びかけています。

頼総統を待ち受ける中国のアメとムチ
先の総統選挙では、中国の圧力に対抗する姿勢を示す与党・民進党の頼清徳氏が当選しました。台湾で総統の直接選挙が始まってから初めて3期連続で同じ政党が政権を担うことになりました。

しかし、選挙の2日後、さっそく冷や水を浴びせられる出来事がありました。台湾と外交関係のあった南太平洋の島国・ナウルが、台湾と断交し、中国と国交を結ぶと発表したのです。台湾と外交関係がある国の数は、8年前に蔡英文政権が誕生した時に22か国だったのに対して、現在は12か国と、その数を減らしています。今後も中国の外交攻勢が続くのは確実です。

選挙後に中国軍による大規模な軍事演習の発表はありませんが、軍事的な圧力も弱まることはないとみられます。

台湾の内政を見ても、議会・立法院では国民党が第1党となり、いわゆる「ねじれ」の状態です。中国側はこうした状況も利用して、台湾の人たちを取り込もうと、揺さぶりをかけ続けるものと見られます。

頼氏が総統に就任するのはことし5月。台湾統一への執念を見せる習近平指導部のアメとムチと向き合うことになりそうです。(1月12日 おはよう日本などで放送)【2月5日  NHK】
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【金門島で起きた中国漁船転覆事故の波紋】
上記記事にもある、中国本土の目の前にあり金門島で起きた中国漁船転覆事故の波紋が広がっています。

****中国海警局「法執行力を強化する」 台湾実効支配の金門島付近海域での中国漁船転覆2人死亡受け表明か****
台湾が実効支配する金門島近くの海域で、台湾当局の取締り中に中国の漁船が転覆し2人が死亡した問題をめぐって中国政府の反発が続いています。中国海警局は18日「法執行力を強化する」と発表しました。

この問題は、今月14日中国南東部・福建省に近く台湾が実効支配する金門島近くの海域で、台湾当局から越境操業の疑いで追跡されていた中国の漁船が転覆して2人が死亡、2人が台湾で身柄を拘束されているものです。

この問題について中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は17日夜、改めて談話を発表。「台湾は中国の一部だ」とした上で問題が起きた海域について「制限は存在しない」と主張しました。

また、中国海警局も18日、報道官の談話を発表。 「法執行力を強化する」とした上で問題が起きた海域で「定期的なパトロールを実施し漁民の生命と財産を守る」と強調しました。【2月18日 TBS NEWS DIG】
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台湾からすれば、「禁止水域」に無断で進入していた中国漁船の起こした事故という扱いですが、中国側の、特にネット世論の反発は大きいようです。(ネット世論というのは、そういうものですが)

****中国世論、漁船転覆に怒り=台湾は「適切な取り締まり」****
台湾の沿岸警備当局による取り締まりで14日、中国の小型漁船が転覆し、2人が死亡した。中国のインターネット上で「あまりにもひど過ぎる」と怒りの世論が広がっている。

「普通に魚を捕っていた漁船が台湾人に転覆させられた」「血をもって償え」。中国のSNS「微博(ウェイボー)」には15日、激怒する書き込みが相次いだ。中国は春節(旧正月)休暇期間中で、帰省して過ごす人たちが多く、このタイミングで起きた悲劇に感情的になる人もいる。

中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は「春節中にこうした悪質な事件が起き、台湾側を強く非難する」と表明。

これに対し、台湾で対中政策を所管する大陸委員会は取り締まりが「適切だった」とした上で、大陸から多くの漁船が台湾側海域に入り込み高値で売れる魚を捕獲し、台湾漁民の利益を損なっていたと反論した。【2月15日 時事】
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この事故への中国側の報復措置と思われる動きも。

****航行中の台湾遊覧船を中国当局が突如制止し“臨検” 台湾当局、中国側を非難****
台湾が実効支配する金門島近くを航行中の遊覧船を中国当局が突然、制止させて臨検を行いました。

台湾当局の発表によりますと、19日午後3時すぎ、乗客23人を乗せて金門島周辺を航行していた遊覧船が中国海警局の巡視艇に制止させられました。 その後、係員が乗り込み、船員らに対して臨検が行われたということです。

一般客も乗り合わせる遊覧船を中国当局が突然、制止するのは異例です。 台湾当局は「台湾の人々の感情を傷付け、パニックを引き起こした」と中国側を非難しています。(後略)【2月20日 テレ朝news】
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一方、台湾側が金門島付近で領海に侵入した中国海警局の艦船を追い払う事態も。

****台湾、中国海警局の艦船追い払う 金門島付近で緊張高まる****
台湾は20日、実効支配する金門島付近で領海に侵入した中国海警局の艦船を追い払ったと表明した。

中国は18日、金門島に近づいた中国船が台湾沿岸警備当局から逃げようとして横転し2人が死亡したことを受け、海警局が周辺海域でパトロールを開始すると発表。緊張が高まっている。

台湾の海巡署によると、中国海警局の艦船は20日午前に台湾領海に侵入。海巡署が艦船を派遣し、無線と放送を通じて中国の艦船を追い払った。同艦船は1時間後に領海の外に出たという。

海巡署は今後もレーダー・偵察・巡回を通じて金門島付近の海域の「調和と安全」を守ると表明した。(後略)【2月20日 ロイター】
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【中国当局対応は抑制的とも】
緊張が高まる台湾海峡・金門島海域ですが、事件を起こした漁船は中国にとっても違法漁船であり、中国当局の対応は抑制的とも。

****金門島沖合いでの中国人漁民死亡、中国ネット民は憤激も当局は抑制的―台湾メディア****
(中略)ただし台湾側によると、今回の事件で金門島水域に入った快速艇は、船名、船舶登録証、船籍港の登録を持たない「三無船」と呼ばれる船だった。つまり、中国大陸側の規則でも違法船だったことになる。(中略)

中国政府が実際には冷静である背後に“後ろめたさ”
しかしシンガポールの南洋理工大学ラジャトナム国際関係学部のベンジャミン・ホー教授は米タイムに対して、同事件ついての中国側の反応は比較的冷静であり、怒りの声が湧き上がってはいるが、中国大陸側が事件を拡大させる可能性は低いとの見方を示した。

シンガポール国立大学のチン−ハオ・ホワン准教授は、中国当局が穏健な反応を示した理由の一つは、快速艇の不法行為を「黙認」していたことだとする分析を示した。

ホワン教授は「越境したのが誰で、適切な登録なしに船を操ったのが誰かであるか、どちらに過ちがあったのかは明らか」と指摘し、中国大陸側は、今回の事件に厳しく対処するための合法的な根拠がないことを理解し、認めていると分析した。

ホワン教授はさらに、中国側にとって漁民が死傷することは、戦闘機や無人機が撃墜されるほどの重要案件ではなく、気にすべき優先事項ではない可能性があると指摘した。(中略)

中央通訊社は、1月の台湾総統選で民進党の頼清徳氏が当選したことで、すでに緊張していた両岸関係はさらに大きな不確実性に直面することになったと指摘。さらに、「大陸側が台湾に対してさらに好戦的な態度で臨むかどうかを判断するには時期尚早だ」と論じた上で、「中国側が今回見せた抑制の度合いは、中国当局が今後、紛争よりも外交を優先する幅広い戦略を取る可能性があることを示唆しているのかもしれない」との見方を示した。【2月19日 レコードチャイナ】
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“台湾側は20日、救助された漁船転覆事故の生存者2人を中国側に引き渡した。緊張緩和に向かうかどうかは不透明だ。”【2月20日 読売】といった指摘も。
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