孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マレーシア  強まるイスラム重視の風潮 “改革者”としての期待に反したアンワル首相

2024-02-19 23:33:24 | 東南アジア

(【2018年10月17日 日経】)

【強まるイスラム重視の流れ】
イスラム教を国教とするマレーシアは多民族・多宗教国家です

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マレー系のマレーシア人はほぼ100%イスラム教徒です。 そのためマレーシアの国教はイスラム教とされていますが、マレーシア全体の人口の約25%を占める中国系は仏教、約7%を占めるインド系はヒンズー教を信仰していることが多く、多民族国家であるマレーシアは信教の自由も認められている国です。【White Bear Family】
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ただ、インドネシアでもそうですが、近年イスラム教重視を求めるマレー系住民の声が強まっています。

そういう状況にあるなかで、最高裁は、マレー系住民が多数を占める北部クランタン州で制定された同性愛などを禁止したイスラム法を違憲無効としました。

****マレーシア最高裁、イスラム法の一部に無効判断 同性愛禁止など*****
マレーシア連邦裁判所(最高裁)は9日、北部クランタン州で制定された一部のイスラム法を違憲とする判断を示した。他州の同様のイスラム法にも影響を与える可能性がある。

マレーシアの法制度はイスラム教徒に適用されるイスラム法と世俗法が並存する二重構造で、イスラム法は州議会が、世俗法はマレーシア議会が制定する。

同性愛や近親相姦、賭博、セクシャルハラスメント、礼拝所の冒涜(ぼうとく)などを犯罪と見なすクランタン州の16の条項について、連邦裁判は「無効」との判断を示した。これらの問題はマレーシア議会の専管事項で、同州には法律を制定する権限はないと指摘した。

連邦裁には約1000人が裁判に抗議するために集まり、厳しい警備が敷かれた。

モハド宗教相は判決後に声明を発表し、イスラム法制度は憲法の下で保護されており、政府はイスラム教徒を対象としたシャリア法廷を強化する措置を取ると表明した。【2月9日 ロイター】
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今回判決はイスラム重視の流れに一石を投じたものではありますが、裏を返せば、本来の権限を超えて市民生活を規制しようとするイスラム重視の流れが強まっている現実を示してもいます。

そして、クランタン州のシャリーア法(イスラム法)拡大に異議を唱え訴訟を起こした女性(イスラム教徒)は、保守的なイスラム教徒からの殺害の脅迫、「痛烈なキャンペーン」を受けており、更に、議論の高まり、イスラム保守派の怒りを利用してイスラム重視の流れに乗ろうとする政治家も存在します。

****クランタン州のシャリーア拡大に異議を唱えたマレーシアのイスラム教徒****
香港の英字新聞「SCMP(South China Morning Post/サウス・チャイナ・モーニング・ポスト/南华早报/南華早報)」のハディ・アズミは2024年02月12日に、クランタン州のシャリーア法拡大に異議を唱えたマレーシアのイスラム教徒は、殺害の脅迫、「痛烈なキャンペーン」を激しく非難していると報告した。

テンク・ヤスミン・ナスターシャとその母親は、クランタン州のシャリア法の拡大をめぐり法的異議を申し立てた後、「イスラム教の神聖性に対する脅威」として告発された。

アナリストらによると、活発な国民議論を巻き起こし、一部の野党政治家が分裂を「煽る」きっかけとなったこの訴訟で、連邦裁判所は彼らに有利な判決を下した。

クランタン州でシャリーア法の拡大に異議を申し立て、成功したマレーシア人のイスラム教徒女性2人が、判決を理解していない「痛烈なキャンペーン」で殺害の脅迫を受け、信仰を疑問視されたことを受けて、月曜日、批判者たちに反撃した。

母親の弁護士ニック・エリン・ズリナ・ニック・アブドゥル・ラシッドとともにクランタン州議会に対して法的異議申し立てを行ったテンク・ヤスミン・ナスターシャは、「X」への投稿で「私たちの国におけるイスラム教の神聖さのために。」と述べた。

2024年02月09日金曜日、連邦裁判所はニック・エリンとヤスミンに有利な判決を下し、イスラム主義者が支配するクランタン州の州議会は確かに連邦管轄権を踏み越え、州のシャリーア法典の18の法規定のうち16条を削除したと述べた。

この判決の根拠は、信仰の問題ではなく、マレーシア連邦政府とその13の州の間の権力分立に関するものであった。

しかし、この事件は全国で活発な公的議論を巻き起こしており、イスラム主義者政治家が注目の宗教問題で選挙で有利になるとの匂いを嗅ぎつける一方で、イスラム教徒多数派を含む反対派は国を巻き込んだ文化戦争から身を引こうとしている。(後略)【2月13日 DigitalCreator note】
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イスラム重視の流れは、映画製作などの表現の自由を制約するものともなっています。

****レーシア映画界、海外受賞に水差す国内検閲強化****
マレーシア映画は2023年、カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で受賞し、製作陣にとって輝かしい年となった。しかし、国内では映画検閲が強化され、製作者が殺害予告を受けるなど、せっかくの世界的成功によって広がった希望が消えかねない状況だ。

イスラム教徒が多数を占めるマレーシアでは、宗教的、文化的、道徳的価値観を侵害したり、攻撃的と見なされたりするコンテンツを制限する動きが日常化している。

だが、映画「メンテガ・テルバン(Mentega Terbang)」によって「宗教的感情を傷つけた」として今年1月、映画製作者2人が刑事訴追されたのは異例の出来事だった。

映画人は、こうした動きが創造的な表現を抑圧し、投資を阻み、海外での受賞効果を損なうのではないかと恐れている。

昨年はマレー語の映画「タイガー・ストライプス」がカンヌ国際映画祭の批評家週間グランプリを受賞したほか、米アカデミー賞ではマレーシア出身のミシェル・ヨーさんが主演女優賞を受賞した。

メンテガ・テルバンの製作者として刑事訴追された1人、カイリ・アンワル氏は「今は好機だ。(中略)世界中の人々がマレーシアの映画製作者に注目している。今、その好奇心に答えなければ機を逸し、取り戻すのはかなり難しいだろう」と語った。

メンテガ・テルバンは、10代のイスラム教徒の少女が悲しみと向き合いながら、他のさまざまな宗教の扉をたたいていく姿を描いた映画で、2021年に配信サービス「Viu」で公開された。マレーシアでは、オンラインプラットフォームは映画検閲の対象外となっている。

しかし、Viuは23年2月、この映画の配信を停止した。イスラムの教えに反すると見なされたシーンを巡り、一部のイスラム教団体が怒りの声を上げたからだ。

地元メディアによると、映画検閲委員会を監督する内務省は昨年8月、「公共の利益に反する」として、この映画の上映と宣伝を全面的に禁止した。

この映画製作に携わったカイリ氏などの関係者は当時、殺害予告まで受けたと報じられている。

映画監督のバドルル・ヒシャム・イスマイル氏は「映画製作者は制約のある環境だけでなく、身の安全や法的な問題にも対処しなければならなくなった」と指摘。「恐怖の風潮が生まれるのは間違いない」と懸念を口にした。

マレーシアは22年11月、進歩的で改革派と見られていたアンワル首相率いる連立政権が誕生し、政策改革や表現の自由拡大が期待されていた。だが、実際にはイスラム保守主義が広がっている。

最近の選挙では、超保守的な野党がマレー系イスラム教徒の間で人気を博しており、アンワル首相はイスラム教徒としての信仰を証明する必要に迫られていると、専門家は言う。(後略)【2月11日 ロイター】
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【22年総選挙の真の勝者はイスラム政党PAS】
長年権力闘争によって政治迫害を受け、長期の投獄も経験した“進歩的で改革派と見られていた”アンワル氏が率いる政治勢力は2022年11月の総選挙で最大議席を獲得しましたが、単独過半数には至らず政治混乱もありましたが、結局第三勢力と組む形で“念願の”政権を獲得しました。

****マレーシア次期首相にアンワル元副首相が就任へ****
マレーシア王室は(22年11月)24日、国王がアンワル元副首相を次期首相に任命することに同意したと発表しました。

19日に投開票が行われた連邦議会の下院選挙では、アンワル元副首相が率いる野党の「希望連盟」が最大の82議席を獲得。ムヒディン前首相をトップとする与党「国民同盟」を上回りましたが、首相就任に必要な過半数の信任を集められず、首相が不在の状態が続いていました。

首相の任命権をもつアブドラ国王が仲裁に乗り出して連立内閣を提案していましたが、24日、第三勢力の「国民戦線」が「希望連盟」との連立を決めたことでアンワル氏が過半数を確保し、任命に至りました。

このあと、日本時間の午後6時から行われる宣誓式を経て正式に首相に就任し、組閣に着手することになります。【2022年11月24日 TBS NEWS DIG】
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アンワル首相自身はマレー系ですが、過去のマハティール元首相との権力闘争で与党から追放され、政治的容疑で投獄されるというアウトサイダー的な立場にあります。また自身の迫害の経験を踏まえて既存社会の改革を目指すアンワル氏の率いる政治勢力には華人中心の政党も含まれており、これに忌避感を示すマレー系政治家も多く存在します。

現在のイスラム重視の流れは、22年総選挙ですでに明示されていました。

22年11月総選挙でアンワル氏の政治勢力「希望連盟」(PH)が最大議席を獲得した・・・とは言うものの、単独政党で見ると最大議席を獲得したのはイスラム主義政党の「全マレーシア・イスラム党」(PAS)でした。

****保育園を運営、イスラム法導入を訴える真の「勝者」──マレーシア総選挙****
<総選挙ではいずれの政党連合も過半数を獲得できなかったが、結局、ベテラン野党指導者のアンワルが新首相に。だが注目は、欧米の「常識」に反するマレー系中心のイスラム政党PASだ>

マレーシアの新首相は、多民族的で進歩的な政党連合、希望連盟(PH)を率いるベテラン野党指導者のアンワル・イブラヒム元副首相か、マレー系とイスラム教徒中心の保守的な国民同盟(PN)のリーダーで、首相経験者のムヒディン・ヤシンか──。

11月19日、マレーシアで行われた第15回総選挙では、いずれの政党連合も過半数を獲得できず、政局は行き詰まりに。政権樹立に向けた交渉の結果、24日にアブドゥラ国王の任命を受けて首相に就任したのはアンワルだった。

だが真の「勝者」は、PNの一角である国内最大のイスラム政党、全マレーシア・イスラム党(PAS)だ。
下院222議席のうち、PASの獲得議席は単独政党として最大の49議席。2018年の前回総選挙での18議席から2倍以上増やした。

「万年与党」衰退の裏で
従来、PASの支持は主に、マレー系住民が多いマレー半島部の北部4州に限られていた。
シャリーア(イスラム法)導入を唱え、マレーシア人を「マレー系イスラム教徒」と定義するPASが中央政界で一大勢力に台頭するなか、マレーシア政治の未来に与える影響は未知数だ。

同国では、長らく与党の座にあった統一マレー国民組織(UMNO)を中心とする国民戦線(BN)体制が劇的に崩壊している。2018年総選挙では、BNがPHに敗北。マラヤ連邦として独立した1957年以来、UMNOは初めて下野した。

それでも今回の総選挙前、昨年8月に首相を辞任したムヒディンの後を継いだUMNO出身のイスマイルサブリ首相(当時)ら指導層は強気だった。州議会選挙でBNが圧倒的な勝利を続けていたからだ。

だがふたを開けてみれば、UMNOとBNはもはや勢力図から消えたのも同然だ。BNの獲得議席はわずか30議席で、2018年総選挙(79議席)と比べても大幅に数を減らした。

PASが伸張した主な理由は、UMNOをはじめ、マレー系主要政党にはびこる汚職や内紛と無縁なイメージをつくり上げたことにある。

UMNOは、マレーシアの政府系ファンド1MDBをめぐる不正疑惑から完全には立ち直っていない。
2018年、UMNO党首のナジブ・ラザク首相(当時)は1MDBから巨額を不正に受け取ったと報じられるなか、総選挙で敗北。今年8月に有罪判決が確定し、収監された。

一方、数十件に上る汚職容疑で起訴されていたUMNOの現党首、アフマド・ザヒド・ハミディは9月に無罪判決を受けたばかりだ。

重要なのは、PASが多くの点で、単なる政党を超えた存在になっていることだ。幼稚園・保育施設ネットワークを運営し、草の根レベルで政治的存在感を徐々に築き上げてきた。

欧米での「常識」に反するようだが、同党はマレー半島の地方部で、女性や若者の支持を獲得している。
そのおかげか、選挙権年齢の18歳以上への引き下げや自動的な有権者登録が実現してから初の総選挙となった今回、初めて投票する人が記録的に増えたことで、PASは大きな恩恵を受けた。

特に地方の場合、若年層有権者がより進歩的で多元的な政党に投票するとは限らないと、総選挙の結果は改めて告げている。

民族暴動の悪夢が蘇る
PASの成功が示唆するのは、マレー人ナショナリズムの担い手だったUMNOがおそらく末期的衰退に陥った一方で、UMNO体制を支えたマレー人至上主義自体は衰えていないという事実だ。

実際、PAS支持の拡大は、マレー系住民のアイデンティティーをイスラム教と結び付ける姿勢の広がりを意味している。

その躍進の影響を推し量るのは困難だ。アンワル首相の下で誕生する見込みの大連立政権には、PASが加わるPNも合流するとみられる。議席数を背景に、PASは主要閣僚ポストを要求し、排他的なマレー系中心主義を推し進めるかもしれない。

たとえ政権に参加しなくても、今や同党が中央政界のカギを握る存在であり、マレー系有権者の票をさらに取り込む可能性があるのは明らかだ。

より長期的には、政治的イスラム教の復活が持続するのか、多民族国家というマレーシアの現実がもたらす限界に直面するのか、見極めるのは難しい。

だが少なくとも、独立以降のマレーシアに付きまとう民族間の分断は、深まることになりそうだ。

警戒すべき兆候は既に表れている。総選挙後の数日間、マレーシアでは反中国系運動がオンラインで吹き荒れた。
市民社会組織がつくる団体によれば、TikTok(ティックトック)への投稿を中心にしたバッシングは「資金力豊富で、組織化された」もの。PHの一角である中国系の民主行動党(DAP)への敵意をあおり、PN政権樹立を呼び掛けていたという。

なかでも不吉なのは、1969年5月13日に首都クアラルンプールで起きた民族暴動への言及だ。マレー人と中国系住民が衝突し、死者200人近くを出したこの惨事は民族間の亀裂を深める契機になった。

「5.13事件に触れた投稿は深刻化する社会的緊張に付け込み、恐怖を生み出している」と、市民社会組織側は危惧する。「人種や宗教をめぐって既に分断化した社会を分裂させ、あからさまな暴力を扇動するものもある」【2022年11月28日 Newsweek】
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【政権維持に埋没し“改革者”としての成果を示せていないアンワル首相】
イスラム主義政党を含む勢力との連立という不安定な形でスタートした政治事情のせいか、“進歩的で改革派と見られ”、東南アジア民主主義の成長の観点からも期待されたアンワル氏ですが、これまでのところ政治成果を出すには至らず、政権維持に埋没しているように見えます。

****自己矛盾続けるマレーシア・アンワル首相 〝希望の星〟でも政治改革は達成できないのか****
Economist誌1月6日号のコラム‘Anwar Ibrahim, Malaysia’s prime minister, is wasting his opportunity’は、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相について、長年求め続けてきた首相の座に就いたが、折角の機会を無駄にしている、と批判している。要旨は次の通り。  

アンワル首相は就任して1年余りになるが、彼の権力への道を象徴する2つのテーマは、第一にどのグループの人々を代表するのか、第二に権力を用いて何をするのか、である。  

アンワルは、その経歴のほとんどの期間において、「改革」を唱えてきた。彼は、マレーシアの制度を近代化し、より民主的で政治的干渉を受けにくいものにすると主張してきた。  

カネと政治の卑劣な関係を断ち切ると誓い、公平でより生産的な経済を約束した。多民族国家を目指し、都市部の中国系・インド系の少数民族やリベラルなマレー系から支持されている。  

しかし、アンワルは移り気で、その政策にいまだ本格的に取り組んでいない。その代わり内輪の支持固めで成果を挙げている。今や連立与党は議会のほぼ3分の2の議席を占めている。しかし、連立基盤を更に拡大しようとするアンワルの試みは、政策面での不愉快な妥協に追い込まれている。  

連立政権には統一マレー国民組織(UMNO)も参加している。同党は、2018年に政権から追放されるまで、独立後のこの国の政治を一貫して掌握していた。アンワル自身もこの政権の転覆の一端を担いだ。

しかしUMNOの党首であるザヒド・ハミディは背任、汚職、資金洗浄などの数十件の容疑で起訴されていたが(昨年9月に高等裁判所が唐突に不起訴処分)、アンワル政権の副首相の地位に就いている。  

アンワルの支持者を落胆させているのは、彼がUMNOを支援していることだけではない。裁判所は依然として政治的介入を受け易い環境にあり、余りにも多くの権力が首相官邸に集中している。闇金融に関する法律の制定は進んでいない。  

二極化した社会全体に寛容を行き渡らせるようなことは、ほとんど何もしてこなかった。むしろマレー人の排外主義と宗教性に益々迎合している。   

次の選挙でアンワル率いる「希望の同盟」が単独過半数を確保すれば本格的な改革が始まるのかもしれないが、選挙は 2027年まで予定されていない。アンワルの明らかな改革放棄には代償が伴う。  

マレーシアの選挙民は政治に対する幻滅を次第に強めている。長年改革を約束してきたその推進者は、今ではむしろ改革への邪魔者のように映っている。(後略)【2月9日 WEDGE】
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