孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

歴史的な韓国・北朝鮮の南北首脳会談 その先に「統一」はあるのか?

2018-04-27 22:02:43 | 東アジア

(韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長のポスターを掲げる統一を支持する学生ら。ソウルで26日撮影 【4月26日 ロイター】)

【「統一」については、今回はそれほど時間がさかれることはない
今日の最大の話題は、言うまでもなく韓国・北朝鮮の南北首脳会談です。

あくまでも“本番”は米朝首脳会談であり、南北の首脳会談はそこへ向けて融和ムードを高めていくのが役割という位置づけですから、難題をつきつめることは避け、非核化や平和協定への期待感をたかめればその目的を果たせますので、ある意味“成功”は約束された会談とも言えます。

逆に言えば、「非核化に向けた踏み込んだ発言がなかった」等は当然のことでもあります。

そうした性格の会談であるにしても、南北首脳が手を携えて境界線をまたぐシーンは印象的であり、両者が屋外で長時間話し込む姿もまた同様です。

なんだかんだ言われながらも、金正恩朝鮮労働党委員長はうまくソフトイメージを発信するのに成功しています。

また、文在寅大統領についても、平昌五輪の南北統一チームの頃、日本国内では「左翼の性(さが)で、北にすりよっている」と評判はよくありませんでしたが、アメリカによる北朝鮮攻撃がささやかれるような厳しい状況にあって、「新しい歴史が始まる」【CNN】というこの現実を生み出した功績は大きいと認めざるを得ないでしょう。

安倍首相に記者団から「日本が蚊帳の外に置かれるのでは・・・」との質問が投げかけられるような状況ともなっています。

上記のような会談をとりまく情勢を受けて、今回会談では「非核化」や「平和協定」が主なテーマとなり、従来の2回の南北首脳会談で語られた「南北統一」はあまり前面に出てきていません。

経済力に格段の差がある現状にあって、韓国の国内、特に若い世代では、韓国に経済的負担をもたらす「統一」への思いは薄れている・・・というのは再三指摘されるところです。

****分断が固定化 韓国、若い世代の関心薄れて****
・・・・ソウル大統一平和研究院が毎年実施している「統一意識調査」でも、北朝鮮との統一に関して「現状のままがいい」と答えた割合は、07年の11.8%から17年には24.7%に急増した。特に30代以下は3割以上が現状維持を希望した。
 
「南北統一のための定期的な会談は必要だと思うか」との質問にも、「思わない」と答えた人は31.8%で、07年の25.3%より増加した。【4月25日 毎日】
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ただ、やはり「統一」を願う人々も多くいるのも事実でしょう。(上記のような数字も、会談“成功”が大きく扱われる社会雰囲気で大きく変化することも予想されます)

****大阪のコリアンタウン、統一に期待と警戒****
「実現できたら」「言うことがころころ変わる」

韓国と北朝鮮による南北首脳会談について、在日韓国・朝鮮人が多く暮らす大阪市生野、東成両区のコリアンタウンでは朝鮮半島の統一に向けた進展を望む声が上がる一方、金正恩朝鮮労働党委員長への不信感を口にする声も漏れた。
 
「会談でどんな話が出るのか楽しみ」と関心を寄せるのは、飲食店で働く50代の女性。同市西区で韓国料理店を営む在日4世の男性(34)も「自分たちは一つの民族だという思いがあるので、朝鮮半島の統一が実現できたらうれしいというのが正直な気持ちだ」と語った上で、「過去の会談でも関係改善に向けた進展はみられなかった。南北統一に向けた進展を期待している人もいるが、冷静にみている人も多いのでは」と分析した。
 
一方、否定的に見る人も。キムチ店を営む女性(66)は「言うことがころころ変わり、どこまで本気なのか分からない」と金委員長への不信感をあらわにし、「もちろん南北統一は実現すればよいが、可能性は低いのでは」と指摘。非核化についても、「北朝鮮が核を廃棄すれば交渉力は弱くなる。手放すことはないのではないか」と話していた。【4月27日 産経WEST】
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文在寅大統領の心中には「統一」に向けた強い思いが
これまでの経歴や信条からして、文在寅大統領の心中に「統一」に向けた強い思いがあるのも間違いないでしょう。
今後の米朝会談成功でトランプ大統領に“花を持たせて”、その後の「統一」へ向けたシナリオを描いている・・・といった見方も。

****アメリカの「裏方」をアピールする南北朝鮮の本心は?****
<トランプに花を持たせようと躍起になる文在寅と金正恩が描く統一へのシナリオ>

4月27日、韓国と北朝鮮は史上3度目の南北首脳会談を開く。過去2回と異なるのは、今回はメインイベントである米朝首脳会談の事前会談という位置付けであること。つまり前座だ。

これは文在寅(ムン・ジェイン)政権も認識している。韓国大統領府は米朝会談に向け「南北会談でしっかり地ならし」すると裏方ぶりをアピール。韓国メディアも南北会談を米朝会談への「仲介」と表現している。

北朝鮮問題の最終章が米朝の雪解けであることを考えれば、韓国が脇役に回るのは自然だ。しかし文の手法を見ると、米朝会談こそ脇役であり、南北朝鮮がそれを踏み台にして主役にのし上がる裏のシナリオを描いているように見える。

米朝会談を控えて世界の関心が北朝鮮の非核化に集まるなか、文が本当に狙っているのは何か。それは、非核化の先にある南北統一だろう。それこそが最大の関心事と思わせる行動が、南北両政権には見え隠れする。

文にとって南北統一は付け焼き刃の政策ではない。07年の第2回南北首脳会談で締結された10.4宣言の冒頭には「民族同士の精神にのっとり、統一問題を自主的に解決していく」とある。

当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権でこの宣言作りを主導したのが盧の秘書だった文だ。文はこの時、南北会談推進委員長も務めていた。

南北統一実現のためには、朝鮮半島問題に強く干渉するアメリカの影響力を排除することが不可欠。そこで南北は手始めに、米朝会談の成果をトランプ米政権の手柄にしようと躍起だ。

(中略)「平和協定」「非核化」が米朝会談で実際に発表されれば、トランプ政権は歴史に名を残すだろう。

南北双方が「時間稼ぎ」
北朝鮮は4月20日、北部の核実験場の廃棄と核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止を決めた。ただし、「平和協定」「非核化」の文言が米朝会談で発表されたとしても、現実の非核化や和平の実現には相当な時間がかかるという見方が大勢だ。

それでも、初の米朝会談実現とその成功に浮かれたトランプが朝鮮半島から気をそらしてあれこれ言わなくなれば、南北は自らの統一へ向けたシナリオを進めやすくなる。

非核化に時間がかかるとなれば、国連の制裁解除も段階的なものになる。となれば、北は韓国に援助を求めるだろう。

韓国は国連の制裁とは別に独自の制裁を北朝鮮に科している。なかでも制裁前の水準のコメ支援が再開されれば、平壌首都圏の軍や党幹部の胃袋を安定的に満たすことができるとみられている。

一方、韓国にとっても制裁で禁じている開城工業団地の操業が再開すれば、統一に向けた国内の不安を緩和できる。韓国の若者世代では統一した際の韓国の経済負担を嫌う声が強いが、北朝鮮経済に自力を付ける機会を与えればこうした不満を緩和できる。

北朝鮮の態度の軟化は金の時間稼ぎだとする指摘は多いが、時間が欲しいのは文も同じだ。その間に南北間の経済活動が活発になれば、統一の青写真は単なる青写真でなくなる。

トランプを目先の栄誉に浴させておけば統一戦略で主導権を握れる――。南北が目指すのは、「脇役」の下剋上かもしれない。【4月26日 前川祐補氏 Newsweek】
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“トランプに花を持たせて”云々の表現はともかく、南北関係が安定すれば、その先にあるのは・・・という思いが文在寅大統領の心中にあるのは当然でしょう。

実際には、問題の多くは統一を求めることから生じている」】
しかし、「統一」が非常に困難な課題であるだけでなく、仮に実現すれば韓国にとって大きな負担をもたらすものであることも言うまでもないところです。

「統一は結局、喫緊の短期目標の多くを達成困難にする」との指摘も。

****統一は「かなわぬ夢」か、南北朝鮮がドイツになれない訳****
南北統一は解決策なのか、あるいはそれこそが問題なのか──。北朝鮮と韓国の最近の緊張緩和によって、1950年代から分断している南北の統一に新たな可能性が浮上している。

統一という言葉は、東西ドイツを隔てるベルリンの壁が崩壊して家族が再会し、軍が武装解除したときのことを思い起こさせる。

韓国と北朝鮮は平和的な統一を繰り返し訴え、韓国で開催された平昌冬季五輪では統一旗を掲げて共に入場行進を行った。また最近にK─POP歌手らの一行が北朝鮮を訪問した際、彼らは北朝鮮人と手をつなぎ、「われらの願いは統一」を歌った。

だが70年にわたり緊張状態が続く朝鮮半島において、「統一」の理念ははますます複雑さを増し、非現実的だと考えられるようになった。両国の格差がかつてないほど広がる中、少なくとも韓国ではそのように捉えられていると、専門家や当局者は言う。

韓国はテクノロジーが発達し、民主主義の下で活気に満ちた主要経済大国となった。一方、北朝鮮は金一族の支配下にあり、個人の自由がほとんどない、貧しく孤立した国である。(中略)

27日の南北首脳会談では、平和と核武装解除が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の最優先事項になると、大統領府の文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は説明。統一は2000年と2007年の過去2回の首脳会談において主な議題だったが、今回はそれほど時間がさかれることはないとの見通しを示した。

「平和が実現しなければ、統一もない」と、同補佐官はロイターに語った。

過去には、北朝鮮の独裁政権が崩壊し、韓国に吸収されるという前提に基づいた統一計画を描く韓国の指導者もいた。

しかしリベラルな文政権はそうしたアプローチを和らげ、最終的に統一へとつながるであろう和解と平和的共存を強調していると、現旧当局者は語る。

<3つのノー>
韓国では、統一を支持する世論も低下している。韓国政府系シンクタンク・韓国統一研究院(KINU)の調査によると、2014年には70%近くが統一が必要と回答したのに対し、現在は58%に低下している。1969年に政府が実施した別の調査では、90%が統一を支持すると答えていた。

統一した場合、韓国が被る経済的損失は大きすぎると、首都ソウルの男性会社員(35)は言う。
「統一には大反対。同じ民族だからという理由だけで統一すべきとは思わない。現在の緊張状態から開放されて暮らしたいだけだ」

敵対意識を緩和するには、「政府は、中国や日本のような平等な隣国として北朝鮮を認識すべきだ」とこの男性は語った。

統一にかかる費用は最大5兆ドル(約550兆円)と試算されており、そのほとんどが韓国の肩にのしかかることになる。

昨年7月にベルリンで行ったスピーチの中で、文大統領は「朝鮮半島平和構想」について説明。北朝鮮の崩壊を望まない、吸収による統一を追求しない、人為的な方法による統一を追求しない、ことを明らかにした。
「求めているのは平和だけだ」と、同大統領は語った。

<最重要課題>
両国とも、統一についてそれぞれの憲法で明記しており、北朝鮮は「国家の最重要課題」と表現している。
韓国統一省のように、北朝鮮にも「祖国平和統一委員会」がある。(中略)

「統一は結局、非核化であろうと人権問題であろうと、あるいは、単に南北間で安定したコミュニケーションを築くことであろうと、喫緊の短期目標の多くを達成困難にする」と、韓国シンクタンク「峨山(アサン)政策研究所」のベン・フォーニー研究員は語った。

<つまづき>
両国は、開城(ケソン)工業団地のような小規模の協力でさえ、問題にぶつかってきた。(中略)最近では、両国は離散家族の連絡事業再開で合意には至らなかった。

不信感は根強い。朝鮮半島を支配するための長期計画の一環として、北朝鮮の指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は核兵器を開発したと、一部の韓国人と米国人は信じ続けている。一方の北朝鮮は、韓国の駐留米軍について、金氏の転覆を狙った侵略部隊だと懸念している。

1990年に東西ドイツが統一したとき、朝鮮半島のモデルになることを期待する向きもあった。
だが、東西ドイツの場合は内戦を経験しておらず、東ドイツは北朝鮮と比べて国民に対する統制がはるかに弱かったと、元韓国統一省の当局者は2016年のリポートで指摘した。

最も大きな障害は、金正恩氏自身かもしれない。平和的な統一に必要な妥協を受け入れる動機が、同氏にはほとんどないと専門家は言う。韓国も、同氏に実権を許すような取り決めに合意する可能性は低い。

北朝鮮を独立国として、また米同盟国である韓国との間の緩衝地帯として維持することに、中国も既得権を有している。

長期的に見れば、完全な統一を強硬に求めることを放棄すれば、両国は関係を修復できる可能性があると、朝鮮半島情勢について複数の著書があるマイケル・ブリーン氏は指摘する。

「矛盾しているようだが、統一はある種、ロマンチックで、健全で、民族主義的な夢として考えられている」と同氏は言う。「だが実際には、問題の多くはそこから生じている」【4月26日 ロイター】
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脱北者が差別・排斥される韓国社会にあって「統一」とは?】
「統一」(どんな形でおこなわれるかが問題ですが)を北朝鮮・中国が受け入れる余地があるか、仮に実現したら膨大な負担が韓国にのしかかる・・・といった問題のほかに、韓国国民に北朝鮮国民を受け入れる寛容さがあるのか・・・という疑問も。

****脱北者を待ち受ける韓国での新たな抑圧と偏見の壁****
北朝鮮のエリート士官だったチュ・スンヒョンさんは、自分が地雷原や監視塔を避けながら非武装地帯を渡って韓国に亡命したときは、これから希望に満ちた新生活が始まるのだと信じて疑わなかった。だが現実は、予想以上に複雑なものだった。
 
チュさんはこれまで、単純労働の仕事を得るため数え切れないほどの面接に臨んだが、強いなまりが出た途端に断られてきた。ようやく仕事に就いたレストランでは、給与を韓国人の半分しかもらえなかったこともある。

韓国人は「北の同胞」を「貧しく、文明を知らない野蛮人」と見なし、社会から排斥しているとチュさんは話す。(中略)

朝鮮戦争の休戦協定が結ばれてから、北朝鮮の貧困と抑圧から逃れるために危険を冒して韓国に亡命した人々は3万人を超える。そんな彼らを、自由を切望する人間の象徴とする見方も多い。
 
統一という目標は、大韓民国憲法に明文化されており、韓国は大々的な宣伝活動を展開して脱北者を歓迎した。1970年代や1980年代には、「英雄」として全国的に有名になった脱北者もいる。
 
しかし1990年代に北朝鮮で数十万人が死亡する飢饉(ききん)が発生すると、韓国にはそれまで数える程度だった脱北者が雪崩を打って押し寄せるようになり、歓迎ムードはぷつりとやんだ。
 
国民感情は悪化し、今では多くの脱北者がまともな仕事を見つけることや友達をつくることの難しさを嘆く。彼らの知識や技能の大半は韓国では時代遅れか不適切と見なされ、白い目で見られたり、うさんくさく思われたりすることもしょっちゅうだ。

■「脱北者の『汚名』をすすぐことはできないのかもしれない」
脱北者の失業率は韓国全体の割合の2倍近い7%に上り、その一方で、月収は全国平均の約半分程度。

ある研究では、脱北者の約20%が詐欺や窃盗、その他の犯罪の餌食になっていることが明らかにされ、定着を支援する目的で国から支給された約1万9000ドル(約200万円)の助成金を失う人も多いことが指摘されている。

(中略)だが韓国社会が強いる抑圧は、チュさんにとっては衝撃的だった。
「私が突然、身を置かれたのは、適者生存のルールに支配された超競争社会だった」とチュさんは書きつづっている。「この現実は、私が一人で軍事境界線を越えたあの凍える夜よりも冷たかった」「私は、脱北者という『汚名』をすすぐことは決してできないのかもしれないと悟った」

(中略)脱北者を「関わりを持ちたくない相手」と見なす人々もおり、ある男性は、子どもを通わせていた学校で韓国人の保護者たちから、うちの子と付き合わせるなと公然と抗議する声が上がったことから、他国への移住を余儀なくされた。
 
(中略)「(亡命した)兵士の多くは、韓国に来たことを後悔していると話す」とチュさんはAFPに明かした。

■北朝鮮に戻った脱北者のその後は分からない
しかしチュさん自身は、そうは思っていない。10代や20代の若い脱北者は「とてつもなく大きな希望」を抱き、年長の脱北者たちよりもはるかに早く韓国社会に溶け込むことに成功しているようだとチュさんは言い添えた。

(中略)「私は、韓国社会を地獄だと思ったことは一度もありません」とチュさん。「でも命の危険を冒して韓国にやって来たのに、社会的な差別や偏見のせいで自殺したり外国に移住したりする人たちを見ると、胸が痛みます」と続けた。【4月26日 AFP】
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ドイツでも東西間に経済格差があり、国民感情のうえで微妙な問題があることはよく指摘されますが、韓国の場合、脱北者に対する(“微妙”ではない)「露骨」な差別があります。

こうした状況で、「統一」がなされても、新たな、かつ、深刻な問題を生み出すことになるでしょう。



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