孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  モディ首相の中間評価とされる地方議会選挙 最大州で与党が圧勝

2017-03-12 22:03:14 | 南アジア(インド)

(ウッタルプラデシュ州議会選の投票日当日、アソハ村の投票所では、100人余りの列ができた【3月9日 朝日】
中央政府はガスコンロを無料で配布したとか)

中央政治に直結する地方議会選挙 与党が最大州で圧勝
インドでは、先月から今月にかけて5つの州で議会選挙の投票が行われ、今月11日に一斉に開票が行われました。
選挙結果は任期の折り返しを迎えたモディ首相の中間評価とされているため、与野党が激しい選挙戦を行ってきました。

結果については、モディ首相率いる与党・人民党が最大州で圧勝し、モディ政権は今後に向けて基盤を固めたと評されています。

****インド与党、最大州で圧勝****
インドで11日、五つの州の州議会選の開票が一斉にあり、モディ首相率いる中央政権与党のインド人民党は最大州ウッタルプラデシュで、前回から約7倍増の8割近い議席を獲得し、圧勝した。
 
全国29州と連邦直轄領の地方議会の勢力は間接選挙の大統領選や上院の構成に直接影響する。人民党は今回、2州で議席を減らしたが、人口約2億人の最大州で大勝したことで、今後の政権運営に追い風が吹くことになった。【3月12日 朝日】
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最大州ウッタルプラデシュ州は人口2億人を抱えますので、地方州とはいっても、日本全体よりはるかに大きな行政区です。
結果については、また後程触れます。

インド地方政治は中央政府に対する強い独自性を有しています。
州議会選挙結果は、単にそうした地方政治の方向を決定するだけでなく、間接投票で行われる上院銀選挙・大統領選挙を左右し、中央政治にも直結しています。

****中央政界の勢力図に直結****
モディ首相は、州議会選がある5州を連日回り、自党候補への投票を訴え続けた。とりわけUP州(最大州のウッタルプラデシュ州)には20回以上訪れた。州議会選は単なる地方選挙ではなく、中央政界の勢力図に直結するからだ。
 
人民党は14年の総選挙(下院)で勝利し、過半数を握ったが、上院は支配できていない。上院議員は、全国30州の州議会による間接投票で決まる。

また今年改選される大統領は、上下両院と州議会の議員の投票で選ぶが、州議会をすべて合わせると上下両院の合計に匹敵する投票権を持つ。
 
州議選が間断なく行われることで、インド政界にはいつも選挙ムードが漂う。総選挙で大敗した前中央与党の国民会議派は、UP州で社会主義党と選挙協力に踏み切るなど、各地で有力な地方政党と手を結ぶことで、活路を開こうとしている。【3月9日 朝日】
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過熱する選挙対策 バラマキ合戦も
上記のような地方議会選挙の重要性、また政権の中間評価という意味合いを踏まえて、高額紙幣無効化問題で国民から不満も出ているモディ政権は予算作成権限を活用して、貧困層をターゲットにした地方議会選挙対策を行ってきました。

****選挙にらみ地方貧困層に重点=紙幣無効化の影響緩和―インド予算案****
インド政府は1日、2019年までに1000万世帯の貧困解消を目指すことなどを盛り込んだ17年度予算案を発表した。北部ウッタルプラデシュ州などで近く行われる州議会選挙をにらみ、地方貧困層の支持拡大を狙ったとみられる。
 
ジャイトリー財務相は議会演説で「財政健全化の道を進みつつ、地方活性化とインフラ整備、貧困解消に重点配分した」と強調。昨年11月に実施した高額紙幣無効化政策で、種や苗を買えないなどの影響を受けた農家の福祉分野に対する予算配分を拡大した。さらに低〜中所得層の所得税率を従来の10%から5%に半減した。
 
また、海外からの投資の許認可を担っていた外国投資促進委員会を17年度中に廃止し、海外直接投資の規制をさらに緩和すると約束した。(後略)【2月1日 時事】
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予算を選挙対策に使うことがどうかという問題はありますが、日本を含めてどこの国の政権もやっていることですし、(バラマキと言われるような)大きな逸脱がなければ、民主主義というのは基本的にそういう政治でもあります。

しかし、インドの場合、さらに直接的な選挙対策、実質的には“買収”ではないかと思えるような対策がとられます。

多くの途上国で同様の話はありますが、インドは「世界最大の民主主義国」とも呼ばれる国です。そうした肩書からすると、選挙の実態は“これでいいのだろうか?”と思えるようなところがあります。

****興流インド)ばらまき合戦、州議選決す スマホVS.ガスコンロ 各党競う****
人口約13億人のインドで選挙の行方を左右するのは、有権者の大半を占める貧しい層だ。草の根の支持を得るため、各党は「ばらまき競争」にひた走る。「世界最大の民主主義国」という誇らしい肩書とはほど遠い現状を、州議会選の現場で見た。
 
インド北部ウッタルプラデシュ(UP)は人口約2億人を抱えるインド最大の州だ。3月11日に開票される州議会選を前に、昨年10月、州内で発行されている新聞、全86紙に州政府の全面広告が載った。
 
「貧しい人も農民も若者も、スマートフォンを手にできる」「世界最大のスマホ無料配布計画」「オンラインで申し込み開始」
 
高校1年相当以上の学歴を持つことが条件。12月末の締め切りまでに約1400万人が応募した。スマホが実際に配られるのは選挙の後。現職のアキレシュ・ヤダブ州首相が率いる州与党の社会主義党が選挙で勝たないと、スマホは手に入らないという仕掛けだ。
 
提案は都市部の有権者の心をくすぐった。州都ラクノウの大学生プリヤンシュ・ゴータムさん(21)は「票の買収なのはみえみえだけど」と言いつつ応募した。
 
格安スマホが出回っているとはいえ、安い機種でも5千円はする。同州の最低月額賃金の約4割ほどの額だ。1400万人に配れば、総額は700億円。州政府の教育予算の約1割に相当する。
 
社会主義党の選挙参謀、ラジェンドラ・チョードリ州年金担当相は「財源は選挙後の予算編成で考えればいい」と言う。事実上の票の買収ではないか、との質問には「州民に直接恩恵を届けるのが、我々の民主主義だ」と主張した。
 
州都から車で1時間半のアソハ村。ここで有権者の心をつかんでいるのはガスコンロだった。人民党のモディ首相率いる中央政府が投票の約1カ月前に無料で配った。貧困世帯が対象でガスボンベとセットだ。

中央政府はUP州だけでなく全国で配るために1400億円分の予算を組んだが、最大州での分配を選挙に合わせたのは明らかだった。
 
村の約1千世帯のうち、政府が認定する貧困ライン以下の家庭は約半数を占める。ふだん煮炊きに使うのは、乾燥させた牛ふんや薪だ。主婦のレヌ・ガネシュさん(30)は「今までは煙で目が痛くなるし、大変だった。魔法のガスコンロをくれたモディさんの党に投票する」と話す。
 
取材中に集まってきた人たちは、停電ばかりの電力供給や、診療所や学校、就職機会など「何もかも足りない」と訴える。「物をもらうより、学校や病院を良くしてもらった方がいい。でも、何年もかかる約束は守られたためしがない」
 
州議会選は、ほか4州でも同時期に行われている。各党の公約は、無料パソコン、無料ネット接続、貧困層への現金支給、農民の借金棒引き、外国に移民する人のための外国の農地購入まで。ばらまき競争の様相だ。
 
一方で、こうしたばらまきが大きな政策効果を生むこともある。UP州の隣のビハール州では2007年から州政府が、高校に通う女子に対し、自転車購入代として約4千円を配る。女子の高校進学者は16年までに5・7倍に増えた。
ビハール州の成功を見て、自転車を配り始める州が続出。女性の社会進出を高めるきっかけとなった。【3月9日 朝日】
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UP州で人民党が圧勝したというこは、社会主義党がばらまきを予定していたスマホは幻と消えた・・・ということでしょうか。スマホにガスコンロが勝ったということでしょうか。

こうした貧困層をターゲットにした“ばらまき”が、現実問題として貧困層の生活改善につながってきた側面もあるようです。

****極端な貧困、解消してきた側面も 歴史家のラマチャンドラ・グハ氏****
インドを代表する歴史家で、米フォーリン・ポリシー誌の「世界の知識人100人」に選ばれたラマチャンドラ・グハ氏に、インドの民主主義の現状について聞いた。

 ――インドは常に選挙をしている印象があります。
州レベルの選挙が次々とあることは、政権に説明責任を迫るためにも不可欠だ。ただ私は現状を「選挙だけの民主主義」と呼んでいる。選挙で勝てば、議会や国民への説明はどうでも良いという風潮で、記者会見をめったに開かないモディ政権下でその傾向が強い。

 ――なぜ政党はばらまき競争に走るのでしょう。
ばらまきは学校や病院を作るより簡単だ。残念ながら有権者にも「何ももらわないよりは、もらった方がまし」という意識がある。

 ――インドの民主主義で評価すべき点は?
選挙では、貧しい層ほど投票する。ばらまき競争につながっている面はあるが、それによって極端な貧困が解消されてきたという側面もある。【同上】
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高額紙幣無効化問題では、一般国民は政権を支持か
選挙結果の話に戻ると、最大州ウッタルプラデシュ(UP)州での政権与党圧勝は、世界の注目を集めた高額紙幣無効化に関して、混乱への不満よりは、富裕層の違法行為にメスを入れたという一般国民の評価のほうが大きかったとの指摘がなされています。

****インド地方選開票、首相与党が最大州で圧勝****
インドの北部ウッタルプラデシュ(UP)州など5州の地方議会選挙は11日、一斉開票日を迎えた。モディ首相の与党インド人民党(BJP)は、人口2億人と最大のUP州で圧勝した。昨年11月に実施した高額2紙幣の廃止が庶民の支持獲得につながった。
 
BJPは単独過半数を握る下院に加え、地方選の結果に議席数が連動する上院でも第1党の地位を固める見込み。モディ政権の経済改革に弾みがつきそうだ。
 
選挙管理委員会は11日、UP州のほか、北部パンジャブ州、北部ウッタラカンド州、南部ゴア州、北東部マニプール州の5州で2~3月に実施した州議会選を開票した。同日午後7時(日本時間午後10時半)時点までに大勢が判明し、BJPはUP州とウッタラカンド州で州議会の議席の80%前後を獲得した。議席数は改選前からそれぞれ約70%、約40%の上積みとなる。
 
「モディ首相の紙幣廃止、腐敗撲滅、貧困対策の勝利だ」。BJPのアミト・シャー総裁は11日に勝利宣言した。地方議会を持つ29州2政府直轄地のうち約半数がBJPの影響下に入る見込みだ。
 
今回の地方選は昨年11月にモディ氏が金額ベースで流通紙幣の86%を廃止した以降で初の選挙で、紙幣廃止への賛否が表れる国民投票の位置づけだった。

現金を使えず、新紙幣と交換するため銀行に長時間並ぶなど庶民は不便を強いられたが、現金で蓄財し脱税する富裕層の違法行為にメスを入れたとし、庶民が支持したようだ。
 
国会の上院議員は州議会が選び数年かけて入れ替えるため、BJPは中期的に上院で議席数を増やせる。下院で単独過半数を握るBJPは、今後、上院でも第1党の地位が固まる見通しだ。【3月11日 日経】
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“(与党・人民党は)パンジャブ州では負け、ゴア州とマニプール州ではどの政党が政権を握るか不明”【3月12日 Bloomberg】という状況で、高額紙幣無効化を“庶民が支持した”と言い切れるのかは疑問もありますが、最大州で圧勝し、上院での優勢を強めたという結果においては、モディ政権の施策が支持された形となっています。

深刻な問題が山積するインド社会
それはそうとしても、インド社会が抱える問題は極めて深刻なものがあります。
ここ数日に目についたインド関連の記事の見出しを並べるだけで、その深刻さがわかります。

****不正入学の医学生600人超、医師になれず インド最高裁が判断****
インド最高裁は13日、名門医科大学に入学するために賄賂を支払ったり試験で不正を行ったりした600人以上の学生に対し、医師になることはできないとする判断を下した。
 
この事件では、同国中部マディヤプラデシュ州で、2008~2013年に学生約630人が試験の解答のコピーを入手したり、試験で「替え玉」を使ったり、賄賂を支払ったりして一流の医科大学に入学していたことが明らかになった。
 
捜査当局は学生らに医学界から身を引くよう勧告したが、学生らは裁判所に判断を求めた。(後略)【2月14日 AFP】
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****汚染された湖が炎上 インドIT都市、環境対策に批判****
インド南部のIT都市バンガロールで16日夜、汚染された湖の水が炎上する出来事があった。湖からは翌17日も有害な煙が立ち上り続け、地元住民は当局が環境対策を怠っていると非難している。
 
火災が起きたのは、人口1100万人の同市の中心部に位置するベランダル湖。付近で燃やされていたごみの火が、湖水に混入した化学薬品に燃え移ったことが原因だったとみられる。(中略)

かつて「庭園都市」と呼ばれたバンガロールは近年、IT中心地として発展を遂げたものの、数十年間にわたりずさんな管理体制の下での成長を許した結果、インフラ整備と廃棄物回収が追いつかず、重い代償を支払っている。【2月18日 AFP】
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****養子あっせん業者の女2人、子ども17人の人身売買容疑で逮捕****
インドの西ベンガル州の警察当局は22日、少なくとも子ども17人を外国人のカップルに売り渡したとして、養子縁組のあっせんセンターを運営していた幹部の女2人を逮捕したと明らかにした。
 
捜査官らによると、生後6か月から14歳までの子どもが、欧米およびアジアのカップルに1万2000ドル(約136万円)から2万3000ドル(約260万円)で売られ、国外に連れ出されていた。(中略)

逮捕された2人は、貧しい女性や未婚ながらも妊娠した女性を見つけるために救護所を運営し、金銭の見返りに生まれた幼児を養子のため引き渡すよう説得していたという。【2月22日 AFP】
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人身売買を誘発する絶対的貧困、よく話題になる中国以上に劣悪な環境問題、横行する不正・腐敗・汚職・・・・モディ首相が取り組むべき課題が山積しています。

中国はなんだかんだ言われながらも、貧困解消でも、環境問題でも、腐敗・汚職対策でも、共産党主導の対策を進め、一定の成果は出しつつあります。もちろん根本的なところが解消された訳ではありませんし、その手法に関する批判は多々ありますが。

インドについては、あまりそうした取り組みは聞きません。
単に、インド関連の情報が日本ではあまり多くない・・・ということであればいいのですが。

「世界最大の民主主義国」としては、民主主義という政治システムの有効性を示すうえでも、頑張ってもらいたいところです。

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