孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  強権支配批判もあるシシ大統領 3選立候補で長期政権継続

2023-10-08 23:18:32 | 中東情勢

(エジプトの国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の会場で2022年11月10日、エジプト政府の人権弾圧を非難するデモがあった。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどが呼びかけた。【2022年11月10日 共同】)

【対イスラエル 政権と国民感情で乖離も】
昨日ブログで取り上げたパレスチナ・ハマスのイスラエル攻撃とイスラエルのガザ報復は今も進行中ですが、エジプトでの下記事件がそのことと関連があるのかどうかはまだ不明です。

****イスラエル人観光客を殺害か エジプト北部で警官発砲****
エジプトのメディアなどは8日、北部アレクサンドリアでエジプトの警察官が発砲し、イスラエル人観光客2人とエジプト人1人を殺害したと伝えた。パレスチナ自治区ガザ情勢との関連は不明。

報道によると、現場は観光地で、警察官は無差別に発砲した。負傷者も出た。警察官は拘束されたとの情報もある。

ガザを実効支配し、イスラエルへの大規模攻撃を始めたイスラム組織ハマスの司令官は7日、アラブ世界に団結を呼びかけ、パレスチナ人に武器を手にするよう求めていた。【10月8日 共同】
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エジプトはイスラエルのパレスチナ占領に反対し、過去4回もイスラエルと中東戦争を戦いましたが、第4次中東戦争(緒戦で勝利したアラブ側に対してイスラエル軍が巻き返し、約20日後に停戦)後の1979年に、他のアラブ諸国の強い反対を押し切ってイスラエルと平和条約を締結、1982年にシナイ半島(1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領)はエジプトに返還されました。

これにより、エジプトはイスラエルを正式に承認した最初のアラブ国家となりました。現在でも、強権支配と評されるシシ大統領のもとでイスラエルとは安定した関係を続けています。

国益・安全保障などの観点を重視したエジプト・サダト大統領(当時)の選択でしたが、一般の国民の間では「パレスチナ人を見捨てて、イスラエルと手を組んだ」との不満も根強くあります。

****許せない・野望変わらず…半世紀経ても、イスラエルへ「憎悪と不信」渦巻くエジプト国民****
エジプトを中心としたアラブ諸国とイスラエルが戦火を交え、石油ショックを招いた第4次中東戦争開戦から6日で50年となった。半世紀を経て和平の動きは広がるが、アラブ諸国が連帯するパレスチナとイスラエルとの衝突は絶えず、エジプト国民らの間には、今も憎しみや不信が渦巻く。

エジプト・シナイ半島西岸の街トール。海辺近くに朽ちた建物群があった。戦争当時、イスラエル軍幹部らが使った住居跡だ。近くに住むアフマド・フセインさん(36)は「イスラエル人の観光客が時々訪れるが、我々の土地を奪ってきたイスラエルを許すことはできない」と話した。

第4次中東戦争は、1967年の戦争でイスラエルに占領されたシナイ半島やシリア南西のゴラン高原奪還のため、エジプトとシリアの奇襲で始まり、アラブ側は緒戦で初めて勝利した。79年にエジプトがアラブで初めてイスラエルと平和条約を結ぶ契機となり、半島はエジプトに返還された。

トールはイスラエル軍が半島占領時、拠点の一つだった。エジプト軍に協力し、拠点を探るスパイ活動で約3年間拘束された遊牧民ムハンマド・スレイマンさん(80)は「今もパレスチナの同胞は苦しんでいる。この解決がなければ、本当の和平はない」と強調した。

前線に赴いた元兵士やその遺族らの憎しみも深い。
北部マンスーラに住む元兵士サイード・ビデールさん(77)は、戦地の地雷で爆死した同僚の姿が今も脳裏に焼き付いている。「イスラエルがアラブの土地を奪おうとする野望は変わらず、信用できない」

妊娠2か月の時、夫シャハダさん(当時28歳)が戦死した主婦ワギヤ・マフムードさん(67)は「ずっと死を受け入れられなかった。憎しみは消えない」と言う。

この戦争以降、アラブ諸国とイスラエルの全面衝突はなく、エジプトとイスラエルは軍事や経済面で協力を深める。元エジプト軍幹部は「強固な2国関係はエジプトに平和と繁栄をもたらした」と語る。アラブ圏では2020年にアラブ首長国連邦(UAE)などがイスラエルと国交を正常化し、和平の動きが広がる。

だが、アラブとイスラエルの関係に詳しいエジプトの外交評論家マフムード・モヒ氏は「各国がパレスチナ解放という『アラブの大義』より自らの利益を優先している。現状は『冷たい平和』で国民の意識と大きくずれており、真の平和にはほど遠い」と指摘する。(後略)【10月8日 読売】
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【長期政権を目論むシシ大統領 強権支配体質への批判も】
「アラブの春」でムバラク独裁政権が倒れたエジプトでは、イスラム化を急ぐモルシ大統領のもとでの混乱を経て、軍部出身のシシ大統領の強権支配が続いています。憲法改正で3選を可能にし、更に長期政権継続の構えです。

****エジプト大統領が立候補表明 12月の大統領選****
エジプトのシーシー大統領(68)は2日、12月に実施される大統領選に立候補すると表明した。大統領府の公式サイトによると、同日の会合で演説し、「エジプトと国民の利益のために努力を続けることを約束する」と述べた。シーシー氏は、出身母体の軍を中心に強い支持基盤があり、当選が確実視される。

首都カイロでは最近、シーシー氏をあしらった大型看板が各地に設置され、出馬を求める支持者の動きが広がっていた。ただ、政権は反体制派やメディアの統制を続けているほか、経済低迷で国民の不満が高まっている。

シーシー氏は2014年の大統領選で当選し、18年に再選を果たして現在2期目。19年に任期を4年から6年に延長する憲法改正案が承認された。改正憲法は現職に限り3選を認めている。
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シシ政権は、「アラブの春」とモルス大統領時代の混乱を嫌った国民が安定を選択した結果でしたが、反対者を弾圧するその強権的な政治手法には批判もあります。

****[社説]アラブ民主化の逆行を止めよ****
エジプトで当時軍トップだったシシ大統領の主導による事実上のクーデターから10年となる。デモや報道の自由は制限されたまま、憲法改正で任期を延長するなどシシ氏の統治は一段と強権に傾く。アラブ民主化の時計がこれ以上逆行するのを止める必要がある。

エジプトは人口がアラブ最大の1億人を超え、スエズ運河という国際物流の要衝を抱える国だ。中東民主化運動「アラブの春」で独裁体制が崩壊した後、初の民主的な選挙で成立したモルシ政権は社会を強引にイスラム化させようとして大混乱を招いた。

このため多くの国民が軍によるモルシ政権の放逐を支持した。国際社会も民主化への一時的なプロセスとして政変を黙認したのは確かである。

しかし、シシ政権の強権統治はこの10年で副作用が大きくなったといわざるをえない。
テロ対策と称して批判勢力を締め付け、本来は穏健だった組織を過激化させた。新都市建設などで軍関係組織を重用し、官僚主義や縁故経済が民間のビジネスを圧迫している。国際通貨基金(IMF)が求める国営事業の民営化も軍関係者が反対して進まない。

「アラブの春」の唯一の成功例といわれたチュニジアも強権に舞い戻った。サイード大統領は強引な憲法改正で自身に権力を集中させ、政敵の弾圧や移民の排斥を進めている。

民主化や人権改善を求めてきた米国の影響力は低下が鮮明だ。アラブ指導者は「民主主義抜きの経済発展」に自信を深めている。しかし、過去の指導者のように、強権による安定がやがて国民の不満の爆発につながった失敗を繰り返すべきではない。

国際社会は民主化と経済の多角化を粘り強く求めていくべきだ。4月にエジプトを訪問した岸田文雄首相は「戦略的パートナーシップ」への関係格上げで合意した。新大学の設立など科学・教育分野で2国間の協力が進んでおり、長期的な経済発展や市民社会の育成につながると期待したい。【6月26日 日経】
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【新首都は「監視社会」?】
シシ大統領は新首都建設を進めていますが、ここでも強権支配を反映した「監視社会」が・・・・。

****エジプト新首都、市民「見守る」監視カメラ網に懸念****
砂漠の中に出現しつつある「新行政首都」では、街灯の柱がWiFiのアクセスポイントを兼ね、カードキーを使ってビルに入る。いずれは650万人に達する住民の最初の一団を見守るのは、6000台以上の監視カメラだ。

この街の住民は、モバイルアプリ1つあれば、公共料金の支払いや公共サービスへのアクセス、当局への苦情申し立てができる。

こうした機能は日々の生活をより簡単に、より安全にしてくれると考える人々もいる。だがデジタル人権の専門家は、シシ大統領が政権を握ってからの10年間、反対派に対する弾圧や言論の自由の制限が広がっており、監視能力は基本的人権への脅威になると指摘する。

「都市全体に監視カメラを設置すれば、当局は公共空間を統制し、抗議行動や平和的な集会の権利を行使したいと考える市民を抑圧する前例のない能力を手にすることになる」と、デジタル人権擁護団体「アクセス・ナウ」のポリシー担当マネジャー、マルワ・ファタフタ氏は語る。

「市民のための空間への大掛かりな攻撃が続くエジプトのような国では、監視能力の強化は非常に危険だ」と同氏。
こうした懸念について政府広報官にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

アブダビからチュニジアに至るまで、この種の「スマートシティー」計画では、人工知能(AI)やセンサー、顔認識、機械学習といった先進的なテクノロジーを統合することにより、犯罪対策と効率向上、ガバナンス改善を図るとしている。

だが、こうしたプロジェクトは個人データの大量収集と処理に立脚しており、通常はユーザーによる認識や同意を欠いているため、監視の拡大につながると人権擁護団体は主張する。

さらにファタフタ氏は、政権が権威主義的であれば、こうした危険がさらに高まると指摘。「エジプト政府は、この新行政首都では住民の生活の質が高まると喧伝(けんでん)している。だが現実には、彼らが建設しているのは『監視都市』だ」とトムソン・ロイター財団に語った。

<名目は犯罪対策>
この新行政首都はエジプト国内10数カ所で進められている新しいスマートシティー計画の1つで、その規模は700平方キロメートル。政府省庁や金融機関、各国大使館などが立地し、監視システムは米国企業ハネウェルが開発したものである。(中略)

「エジプト市民には、プライバシーの権利と言論の自由、結社の自由がある。だが、政権はジャーナリストや政敵にとって都合の悪い監視情報を利用して、彼らを投獄し、拷問を加えている」と(英国開発学研究所(ロンドン)の研究員でデジタル人権を専門とする)ロバーツ氏は言う。

当局者は、監視テクノロジーは犯罪の摘発と治安改善を狙ったものであり、データは国内法と国際基準により保護されると述べている。

<行き過ぎた監視>
近年、アフリカ各地では監視テクノロジーが急速に拡大しているが、そうしたシステムを提供しているのは米国や中国、欧州諸国に拠点を置く企業であることが調査により明らかになっている。

アフリカ・デジタル人権ネットワークによれば、ケニアや南アフリカなど、メディアや司法が比較的自由な国では、市民社会が政府の責任を問うことができ、監視体制の改革もある程度は実現しているという。(中略)

だが、エジプトやスーダンではメディアや司法がもっぱら政府による統制を受けており、監視体制へのチェックが行われていない、とロバーツ氏は言う。同氏は最近、アフリカ諸国における監視ツールの利用について2本の報告書を執筆した。

軍司令官出身のシシ大統領が就任して以来、エジプトでは繰り返し人権侵害が問題視されてきた。昨年エジプトで開催された国連気候サミットの参加者からは、公式モバイルアプリを通じた監視を受けたという抗議があった。

「政権は市民に対して大規模な監視を行い、日常的にプライバシー権を侵害していることが分かった。しかも、それによって刑事責任を問われることはない」とロバーツ氏は語る。
「仮に権利侵害が判明したとしても、過剰な監視について訴追される、あるいは失職することはない」

<当然視する声も>
カイロの東方約45キロに位置する新行政首都では、政府当局者や住民の入居が始まっている。もっとも、カイロ住民の多くは、この新都市に住めるような生活の余裕はないと話している。

ソフトウエア技術者のアフメド・イブラヒムさんは、新行政首都の高層住宅地区でマンションを購入した。監視システムについては気にしておらず、単なる新たなハイテク機能にすぎないと考えている。
「違反行為を監視して犯罪を根絶するために街中に監視カメラを設置することに、何の問題があるのか」とイブラヒムさんは言う。「私は政府を信頼している。このシステムのおかげで、我々住民にとって生活ははるかに楽になるだろう」

だが、監視システムに懸念を抱く住民もいる。
「こうしたシステムは世界中の多くの場所で稼働している。しかしエジプトのように抑圧の問題がある国では、懸念の的になる」と語るのは、まもなく一家で新行政首都に転居する予定のヘバ・アフメドさん(33)。
「誰だって、監視され私生活をさらされるのは嫌なものだ」とアフメドさんは話した。【1月8日 ロイター】
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【アメリカも人権弾圧に不満示す】
シシ政権の人権弾圧に対してアメリカ・バイデン政権も不満を示しています。

****米の対外軍事支援、エジプト向けを台湾に割り当てへ****
米政府がエジプト向けの対外軍事資金供与(FMF)の一部を、台湾を含むその他のパートナー国・地域に割り当てる計画であることが分かった。米政府当局者らが明らかにした。エジプトで人権問題などへの対処で進展が見られないことが理由だという。

当局者らによれば、バイデン政権は政治犯の釈放を条件としたエジプト向けの8500万ドル(約125億円)の援助を差し止めると議会に通知した。また人権問題への対応でエジプト政府にペナルティーを課すべきだとする民主党議員らの声が高まる中、同国に条件付き拠出されている2億3500万ドルも追加で差し止めるよう求めている議員もいるという。

米政府は中国との緊張が高まる中、台湾との軍事的パートナーシップの強化を模索しており、今回の8500万ドルのうち5500万ドルを台湾に割り当てる予定。また複数の米政府当局者らによれば、レバノンにも3000万ドルが割り当てられる。

クリス・マーフィー上院議員(民主、コネティカット州)は声明で、「バイデン政権が過去2年間にわたり、これら人権侵害を理由にエジプトへの軍事援助の一部を保留していたことは、称賛に値する」とし、「十分な進展がなかったことに関しては、疑問の余地がない」と続けた。(後略)【9月14日 WSJ】
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もちろん、アメリカも単に人権弾圧批判だけでなく、いろんな面でのエジプトに対する不満があっての今回措置でしょう。また、アメリカの「脱中東」「対中国重視」の一環のようにも。

こうした批判にシシ政権も多少は配慮したのか・・・

****エジプト、著名活動家に恩赦 大統領、人権批判意識か****
エジプトのシシ大統領は19日、著名な活動家アフマド・ドゥーマ氏を含む多数の受刑者に恩赦を与えた。政府が発表した。強権的なシシ政権下では多くの活動家が拘束されており、恩赦は人権抑圧に対する国際的な批判を意識した対応とみられる。

アラブメディアによると、ドゥーマ氏は2011年の民主化運動「アラブの春」で当時のムバラク政権を崩壊に追い込んだ大規模デモを率いたリーダーの一人。当局の許可を受けずに抗議活動を実施したとして13年に逮捕され、19年には禁錮15年の有罪判決を受けていた。【8月19日 共同】
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【独自外交を進めるシシ大統領】
なお、シシ大統領はイラン・トルコとの関係改善やBRICS加盟など独自の外交路線を進めています。

****イラン、エジプトと和解か 「歓迎する」と最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は29日、エジプトとの関係修復について「歓迎する。問題ない」と述べた。28日からイランを公式訪問したオマーンのハイサム国王との会談で述べた。国営イラン通信などが伝えた。

イランが、対立してきたサウジアラビアと外交関係正常化で合意したのに続き、エジプトとも和解する可能性が出てきた。(中略)モルシ政権が崩壊し14年にシシ大統領が就任して以降、両国は再び対立してきた。【5月29日 共同】
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****エジプトとトルコが10年ぶり大使任命 外交関係正常化へ歩み****
エジプトとトルコの外務省は4日、それぞれ相手国に駐在する大使を任命したと発表した。両国は2013年にエジプトで軍主導のシシ政権が発足した際、トルコが前政権側を支援していたことから関係が悪化し、互いに大使を召還していたが、10年ぶりに外交関係が正常化する見通しだ。(後略)【7月5日 毎日】
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