孤帆の遠影碧空に尽き

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イエメン沖紅海南部でのフーシ派の船舶攻撃 米主導で多国籍部隊 日本は不参加 フーシ派の狙いは?

2023-12-19 23:38:01 | 中東情勢

(【12月19日 毎日】)

【フーシ派による紅海南部での船舶への攻撃が続く】
パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとハマスの戦闘に連動して、イエメンの親イラン反政府勢力フーシ派によるイスラエルへの対抗措置とする紅海南部を航行する船舶への攻撃が続いています。

****商船への攻撃やまず=イエメン沖、海上運送に懸念―親イラン勢力、「ガザ」口実に力誇示****
イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海南部のイエメン沖で商船への攻撃を続けている。

イスラム組織ハマスとの戦闘で、パレスチナ自治区ガザに侵攻するイスラエルへの対抗措置との位置付けで、イスラエルに関連する船を標的にしていると主張。事態沈静化は見通せず、海上運送への影響が懸念されている。
フーシ派は11月19日、日本郵船運航の船舶を拿捕(だほ)した。フーシ派が公開した映像では、ヘリコプターから甲板に降り立った戦闘員が瞬く間に船を制圧。戦闘員は「イスラエルに死を」と叫んだ。

報道によると、船はイエメン西部の港湾都市ホデイダから約60キロの集落サリーフの沖合に停泊したまま。乗組員の安否は不明だ。船ではガザへの連帯を示すイベントが行われ、見物客が訪れる「観光地」になっているという。

米中央軍によると、11月26日にもタンカーが一時拿捕された。今月15日には、フーシ派が発射したドローンとミサイルがリベリア船籍の船2隻に直撃し、火災が発生。攻撃の対象とされた船の中には、イスラエルとの関連が見られないものも含まれているという。(後略)【12月18日 時事】
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18日にも・・・“反政府勢力・フーシ派は18日、イスラエルに関係する石油タンカーと貨物船の合わせて2隻に対し攻撃を行ったとSNSを通じて発表しました。

この攻撃についてアメリカ中央軍も発表を行い、紅海南部でケイマン諸島船籍の石油タンカーが、フーシ派の支配地域から発射された無人機と弾道ミサイルによる攻撃を受けたということです。

また、別の貨物船からも水中で爆発があったと報告があったということですが、いずれの船舶でもけが人は確認されていないとしています。

ハマスとの連帯を掲げるフーシ派は、ガザ地区に十分な支援物資が行き届くまで、紅海を航行中の船舶に対する攻撃を続けると主張しています。”【12月19日 NHK】

【海上交通の要衝で高まる懸念 海運大手では回避行動も】
イエメン沖・紅海は海上交通の要衝で、安全な航行への懸念が高まっています。
“紅海は世界の海上貿易量の約1割が通過する主要航路。コンテナ船のほか、米エネルギー省によると、原油の12%、天然ガスの8%が運ばれている。”【12月19日 毎日】

“エジプトのスエズ運河管理当局は17日、先月以降で55隻が紅海ルートを取りやめたと述べた。”【同上】

イギリスの石油大手「BP」は紅海を経由する輸送を停止すると発表しました。また、デンマークの海運大手マースクは、紅海南部とアデン湾を航行予定の船舶について、アフリカ南端の喜望峰を回るルートに変更すると発表しました。

このように、フーシ派の攻撃を受けて紅海を避ける海運会社が相次いでいて世界的な物流に影響が出る可能性があります。喜望峰回りになると時間もコストも増大します。

****紅海海上貿易に混乱、フーシ派の攻撃でエネルギー供給に影響****
イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海での船舶への攻撃が激化していることを受け、海上貿易に混乱が生じている。世界的な海運大手などがスエズ運河の航行を避け、喜望峰を回る迂回(うかい)ルートを取っているためだ。

フーシ派は18日、紅海での貨物船への無人機(ドローン)攻撃を開始したと発表。業界アナリストによると、コンテナ船大手のスイスMSCを含む複数の海運大手が喜望峰を経由する航行を開始し、コスト増と遅延が発生、今後数週間で一段の悪化が見込まれるという。

ABNアムロのアナリスト、アルバート・ヤン・スワート氏はロイターに対し、船舶を迂回させた海運会社を合わせると「世界のコンテナ船市場の約半分を占める」と指摘。「紅海を避けることは航行期間が長期化するためコストアップにつながる」と述べた。

英エネルギー大手BPも紅海経由の輸送を全て一時的に停止。フーシ派による攻撃はこれまで主に貨物輸送に影響を及ぼしてきたが、エネルギー輸送にまで波及する懸念が台頭し、18日は原油価格が上昇した。

フーシ派の攻撃によって、企業はイスラエルとの関係見直しも余儀なくされている。台湾の長栄海運(エバーグリーン・マリン)は18日、イスラエル貨物の受け入れ一時停止を決定したと発表した。「船舶と乗組員の安全のため」という。

フーシ派による攻撃を受け、米国およびその同盟国は紅海での航行の安全を確保するタスクフォースの設置を巡り協議。これに対し、イランはそのような行動は間違っていると警告している。

<国際貿易への深刻な脅威>
INGのシニアエコノミスト、リコ・ルーマン氏は、迂回することによりコンテナ船の航行期間は少なくとも1週間は延びると言及。通常、上海からロッテルダムまでスエズ運河経由で27日を要する。

ルーマン氏は「少なくとも12月下旬の遅れにつながり、1月、そしておそらく2月にも次の運航の遅れにつながるだろう」と指摘する。

一方、情報会社フレイトスのツビ・シュライバー最高経営責任者(CEO)は、航行が長期化すれば運賃も上昇する可能性が高いが、現時点では海運会社は余剰の運航能力を活用する方法を模索していると指摘。「新型コロナウイルス禍で経験した水準まで運賃が高騰する可能性は低い」とした。

国際海運会議所(ICS)は15日、先月から始まったフーシ派の攻撃は「国際貿易に対する極めて深刻な脅威」であり、同地域の海軍に対し、攻撃を阻止するために全力を尽くすよう求めた。【12月19日 ロイター】
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特に影響が懸念されるのが原油ですが、今日の段階では、“北海ブレント先物が前日比1.40ドル(1.8%)高の1バレル=77.95ドル、米WTI先物は1.04ドル(1.5%)高の72.47ドルとなった。”【12月19日 ロイター】とのこと。

****紅海の原油輸送混乱、価格に大きく影響せず=ゴールドマン****
ゴールドマン・サックスは18日付のリポートで、紅海における石油や天然ガス輸送の混乱がエネルギー価格に大きく影響することはないとの見方を示した。(中略)

ゴールドマンは日量700万バレル相当の原油輸送が長期的に影響を受けた場合、原油のスポット価格は1バレル当たり3─4ドル程度上昇するとの見方を示した。【12月19日 ロイター】
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このあたりは、今後の展開次第でしょう。今夜のNHKTVニュースでは、このような状態が来年春まで続くと石油価格に影響が出てくるといった関係者の発言が報じられていました。

【米主導の多国籍部隊】
このままフーシ派の海上輸送妨害を放置することもできませんので、アメリカは紅海南部や南方のアデン湾で海洋安全保障を担う多国籍部隊を立ち上げると発表しています。

****紅海の安全確保で10カ国の多国籍部隊創設へ フーシ派の商船攻撃で****
米国のオースティン国防長官は18日、紅海でイエメンの親イラン武装組織「フーシ派」による商船への攻撃が相次いでいる問題で、紅海南部や南方のアデン湾で海洋安全保障を担う多国籍部隊を立ち上げると発表した。

「繁栄の守護者」作戦と称し、米国や英国、フランスなど少なくとも10カ国が参加する。世界海上貿易の約1割が通過するとされる重要な航路で、警戒活動や商船の安全確保にあたる。

ただ、フーシ派は11月以降、米軍が付近で警戒を強化する中でも、ミサイルや無人機による商船への攻撃を続けてきた。商船が紅海を避けて遠回りすることで海運コストや原油価格の上昇につながるなど世界経済にも影響は広がるが、多国籍部隊の創設によってフーシ派の攻撃を抑止できるかどうかは不透明だ。

オースティン氏の声明によると、新たな部隊は2022年4月に創設された多国籍の第153連合任務部隊の傘下で活動する。「繁栄の守護者」作戦と称し、米英仏のほか、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、カナダ、バーレーン、セーシェルが参加。

オースティン氏は「航行の自由という基本原則を支持する国は、非国家組織がミサイルや無人機で商船を攻撃する問題に一致団結して対処しなければならない」と訴えた。

米国は日本やオーストラリアとも協力策を協議していた。AP通信によると、国名公表を望まない協力国もあるが、日豪が含まれるかは不明だ。自衛隊はアデン湾で海賊対処のために商船の護衛や警戒活動を担っているが、紅海では活動していない。(後略)【12月19日 毎日】
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こうしたアメリカ主導の「繁栄の守護者」作戦に対し、フーシ派の後ろ盾イランがどのように出るのかは不透明です。イランのアシュティアニ国防軍需相は14日公表されたイランメディアとのインタビューで、「(アメリカが多国籍部隊の活動といった)不合理な行動をとれば、大きな問題に直面するだろう」とアメリカをけん制しています。

【日本 「今のところ有志連合に加わるという認識はない」】
紅海は日本にとっても重要なシーレーンであり、また、自衛隊はイエメンの東アフリカ・ジブチにソマリア海賊対策で設けた基地を有していますので一定の活動はできますが、今の段階では上記「繁栄の守護者」作戦に「参加するとの認識はない」としています。

****海上幕僚長「有志連合に加わるという認識はない」****
紅海での情勢を受けてアメリカがイギリスなどと有志連合を創設すると発表したことについて、海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長は19日の記者会見で「今のところ海上自衛隊の護衛艦と航空機がアメリカが発表した有志連合に加わるという認識はない。今後も海賊対処の行動計画に従い、活動エリアも紅海に入ることはないと考えている」と述べ、アデン湾での海賊対処活動を継続するという考えを示しました。

そのうえで、イエメンの反政府勢力・フーシ派からの攻撃のリスクについては「フーシ派の活動や脅威は同盟国や連携国と情報交換しながら、冷静に判断する必要があり、その中で部隊の行動について不断に検討していく」と述べました。(中略)

防衛省「引き続きアデン湾における自衛隊の海賊対処活動行う」
防衛省は「引き続き諸外国などと緊密に連携しながら安全に万全を期しつつ、アデン湾における自衛隊の海賊対処活動を行っていく」としています。

防衛省幹部の1人は「自衛隊の現在の活動海域に紅海は含まれていない。中東全体を見渡せばアデン湾で活動をする国も必要だ。アデン湾での任務を適切に行うことで周辺海域の安定化に貢献できるだろう」と話しています。

派遣部隊の周辺に弾道ミサイルも
海上自衛隊は紅海と海峡を通じてつながるイエメン沖のアデン湾で2009年から海賊対処にあたっていて、現在は護衛艦1隻と哨戒機1機を派遣しています。

先月下旬にはアデン湾でタンカーが武装勢力に乗っ取られ、護衛艦「あけぼの」と、哨戒機が現場海域で警戒監視や情報収集にあたり、アメリカ軍などに情報提供を行いました。

海上自衛隊などによりますとその際、弾道ミサイルが発射され「あけぼの」から18キロ以上離れた海域に落下したとみられています。

アメリカ国防総省は、弾道ミサイルはフーシ派が支配する地域から2発発射されたとしています。

一方、先月30日にNHKの取材に応じたフーシ派のアベド・トール報道官は弾道ミサイルの発射について関与を否定しました。【12月19日 NHK】
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極めて政治的なこの種の発表が首相や大臣ではなく海上幕僚長からなされるのはちょっと不思議ですが、参加するなら重大な政治マターですが、参加しないなら自衛隊で事務的に対応ということでしょうか。

あるいは、協力はするが国名は出したくないということで、「参加しない」ことで目立ちたくないとの考えでしょうか。それとも単に首相・大臣はパーティ券問題でそれどころではない?

【フーシ派の狙いは? 一種のプロパガンダ?】
一方、フーシ派は派手に立ち回っていますがその狙いは何でしょうか?

“エジプトのイラン政策の専門家ムハンマド・ハイリ氏は、フーシ派はイスラエルとハマスの衝突に乗じて世界に力を誇示し、イエメンを統治する主流派だと国際社会に示す狙いがあると指摘。フーシ派の後ろ盾のイランには、緊張を高め「さまざまな交渉の切り札にする」思惑があると語った。”【12月18日 時事】

****フーシ派の攻撃、パレスチナとの連帯アピール? 紅海で物流危機****
(中略)攻撃を繰り返す背景には、「パレスチナとの連帯」をアピールする狙いがあるとみられる。

フーシ派はイエメン南部に拠点を置く暫定政権と内戦状態にあり、国際的に正統な政権とは認められていない。国内でも内戦により国民生活が疲弊しており、統治の正当性を高める必要に迫られている。アラブ人の多くが重要視するパレスチナ問題で行動を起こせば、国内外で支持率上昇につながりやすい。

イエメンの政治アナリストで、フーシ派と対立する暫定政権の職員でもあるファイサル・マジディ氏は電話取材に「フーシ派の思想はアラブ諸国の大多数とは相いれないが、パレスチナ支援を通じて一定の支持を得ることに成功している。一種のプロパガンダだ」と分析。(後略)【12月18日 毎日】
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今の段階では、フーシ派としてはイスラエルから地理的に離れた地域でイスラエルとの直接的な衝突のリスクなしに、「パレスチナとの連帯」をアピールするプロパガンダを行える・・・ということでしょう。

ガザでの衝突が始まった頃、ハマスを上回る戦闘力を有するレバノンのヒズボラの動きが注目されましたが、小競り合いは続いているものの、大規模な戦闘には至らないようです。イスラエルと接するヒズボラとしては、組織存亡にかかわるそうした全面戦争のリスクはやはり負えない、イランとしても最大の親イラン勢力をそうした危険に置くことはできない・・ということでしょう。

ただ、紅海で米主導の多国籍部隊が存在感を増せば、イランからフーシ派への物資輸送が困難になることも予想されます。そうした事態にイランがどのように反応するのか?

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