孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  念願の経済制裁解除も間近 今は事を荒立てない抑制的対応

2016-01-13 22:43:57 | イラン

(イランに拿捕されたと報じられたものと同型の米海軍小艦艇=米国防総省提供 【1月13日 毎日】)

経済制裁解除を前に冷静な対応
中東においてシーア派イランと影響力を争うスンニ派盟主を自任するサウジアラビアが、シーア派宗教指導者の死刑を執行し、イランとの緊張が高まっている件については、1月5日ブログ“サウジアラビア・イランの対立で拡大する宗派対立 「相手の反発を計算した行動」? 判断ミス?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160105で取り上げたところです。

サウジアラビアがイランの反発をどこまで計算していたのか、最初からイランとの対決を狙ったものだったのかどうか、核合意で欧米との協調が進むイランを刺激して、事態の転換を狙ったものだったのか等については、よくわかりません。

もともと、王政を批判するスンニ派過激派の処刑という国内対策が主眼で、バランスをとる都合でシーア派指導者も処刑したにすぎない・・・といった見方もあるようです。
(1月8日 Newsweek 川上泰徳氏 「シーア派指導者処刑はサウジの「国内対策」だった」http://www.newsweekjapan.jp/kawakami/

どこまで「計算づく」だったのか・・・そのあたりはさだかではありませんが、イラン・テヘランにおけるサウジアラビア大使館襲撃を受けて、サウジアラビアはイランとの国交を断絶、他の中東諸国への対イラン包囲網を呼びかけています。

ただ、サウジアラビアの呼びかけはさほど広がっていないようにも見えます。

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・・・・今回の対立では、サウジの断交に追随したのは7日現在で、バーレーン、スーダン、ジプチの3カ国にすぎない。

サウジが同じシーア派の脅威にさらされているとして、同調行動を取ると見ていた湾岸協力会議のアラブ首長国連邦(UAE)、クウエート、カタールは大使引き上げなどイランとの外交関係引き下げという軽い対応を取っただけだ。オマーンにいたっては非難したにとどまった。

サウジはスンニ派アラブ諸国の支援がもっとあると読んでいたようだが、その思惑は大きく外れた格好だ。

莫大な財政支援をしてきたパキスタンやエジプトから具体的な支援行動はなく、さらにはシリアのアサド政権への反対でスクラムを組んできたトルコもサウジを応援する措置は取らなかった。【1月8日 WEDGE】
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そうした状況にあって、欧米との核合意で経済制裁も間近なイランの方は“ここは、おとなしくした方が得策”と判断したようです。
更に、イエメン・サヌアのイラン大使館がサウジアラビアの空爆を受けた・・・との事件も。

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米欧を含め国際的には、今回の宗派対立のきっかけになったサウジによるシーア派の宗教指導者ニムル師の処刑に対し、人権軽視との批判が強い。こうした空気を読んだイランはサウジの断交を挑発としながら、冷静な対応に切り換え始めていた。

特にロウハニ大統領はテヘランのサウジ大使館に乱入するなどして拘束された群衆を「犯罪者」と呼び、対立をこれ以上激化させないというメッセージを送っていた。

というのも、イランは米欧との核交渉がやっと合意に達して苦しんできた経済制裁の解除が始まりつつあり、今回のサウジとの関係悪化で新生イランの再出発が頓挫することを危惧しているからだ。

スンニ派諸国の同調が少ないこと、国際的な批判にさらされていること、そしてイランが冷静に対応し始めて外交的な得点を上げていることにサウジのサルマン体制が焦燥感を深めているのは想像に難くない。こうした焦燥感がサヌアのイラン大使館空爆につながったとの見方が出るのは当然だろう。(後略)【同上】
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サウジアラビアが主導する連合軍は声明で「イエメン・サヌアのイラン大使館周辺で軍事行動はしていない。大使館の建物に損傷はない」とイランの主張を虚偽と断じています。

真相はよくわかりませんが、イラン側としては、これでテヘランのサウジアラビア大使館襲撃をチャラにできる・・・との狙いがあるようです。

****サウジ・イラン断交】イラン、サウジへ反攻 イエメンの大使館「襲撃」はより悪質と国際世論にアピール****
イランは、内戦状態にあるイエメンのイラン大使館周辺がサウジアラビアの空爆を受けたという主張を、サウジへの“反攻”の材料としたい考えだとみられる。

断交のきっかけとなったイランの首都テヘランのサウジ大使館襲撃の際には、サウジから「国際法違反」だという非難を浴びてきたが、今回の「事件」により、サウジの方がより悪質だとアピールできるとの計算がちらついている。

イラン国営メディアによると、同国外務省のアンサリ報道官は7日、空爆は計画的な行動だとした上で、「外交団を保護する国際合意に違反する」と述べ、サウジの責任を強調した。

この論法は今月初め、イランのサウジ大使館などが襲撃されたことを受け、サウジがイランへ向けてきた非難と同様のものだ。

イランは、大使館襲撃はサウジによるシーア派高位聖職者処刑に抗議する群衆の一部が暴徒化したものだとして、「遺憾の意」を示してきた。

しかし、今回のサウジへの非難からは、それを相殺するだけでなく、軍事行動の中でのことだけにサウジはいっそう悪質だ−と印象付けようとの意図も見え隠れする。

これに対しサウジは、敵対するイエメンのイスラム教シーア派系武装勢力「フーシ派」が、館員らが退避した各国大使館の敷地などをゲリラ攻撃に利用していると主張。両国は今後も、国際世論を味方につけるために非難合戦を繰り返すものと予想される。

一方、イラン国内では、サウジ大使館襲撃は過剰反応だったとする論調も目立つ。イランのロウハニ大統領は事件直後、ツイッター上で処刑と大使館襲撃の両方を批判。同国では一般国民によるツイッターなどソーシャルメディアの利用は制限されていることから、主に国外向けに政権としての立場を示した格好だ。

イランのメディアでも、サウジによる聖職者処刑は不当だとしつつも、大使館に危害を加えることを戒める論説が多い。米欧などとの核合意に基づく経済制裁の解除を控え、深刻な外交問題を抱えたくないという心理もうかがえる。【1月8日 産経】
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サウジアラビアの呼びかけは広がらず
サウジアラビアは10日に開催されたアラブ連盟の外相級緊急会合でイラン批判を主導しましたが、具体的なイランへの対抗措置は盛り込まれていません。

****<アラブ連盟>対イラン措置盛らず 非難声明のみ発表****
イランにあるサウジアラビア大使館が襲撃された事件などを受け、アラブ連盟(21カ国・1機構)は10日、エジプトの首都カイロで外相級の緊急会合を開き、大使館襲撃について「(大使館の保護を定めた)国際法に違反する」と、イランを非難する声明を発表した。

しかし、加盟国の足並みは乱れ、具体的な対抗措置は盛り込まれなかった。

イランと同じイスラム教シーア派が影響力を持つレバノンは、声明への賛同を拒否。イラク外務省は大使館襲撃に対する非難についてのみ賛同した。サウジは、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンの4カ国で委員会を設置し、今月25日にUAEで今後の対処を検討する。

サウジのジュベイル外相は10日、「イランとの断交などは第一歩に過ぎない。アラブ諸国に(イランが)内政干渉を続けるなら、さらなる対処を取る」と述べた。

国営サウジ通信によると、会合では「大使館保護のための必要な措置を怠った」とイランの不作為に非難が上がった。

また、シーア派指導者処刑を決めたサウジの司法判断に対する「イランの露骨な内政干渉」や、UAEと領有権を争うペルシャ湾の三つの島を「イランが占有している」ことについて「湾岸諸国の安定をむしばむ」との批判が出た。

イランのヌール地域戦略研究所のサアドラ・ザレイ所長(54)は「こうした声明はイランとサウジの緊張悪化を招くだけだ。サウジは緊張を高める手段に声明を利用するだろうが、同国やアラブ連盟の影響力は経済的介入には及ばず、イランの中東での立場や周辺国との関係には影響しない」と話している。

一方、イラン内務省は9日、大使館襲撃事件で「適切な対応を怠った」としてテヘラン州の治安担当幹部1人を更迭したと発表した。逮捕者は約60人に増えたとしている。【1月11日 毎日】
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その後、この空爆問題でイラン側が何か報復行動をしたという話も聞きません。

制裁解除は早ければ週内にも
事態は、事を荒立てないイラン側のペースで進んでいるように思われます。
念願の欧米の経済制裁解除も、今週中、あるいは週明けにも解除される見通しとなっています。

****米欧の対イラン経済制裁、週内にも解除へ 日取りは不明***
イランの核開発に対する米欧などの経済制裁の解除が、早ければ週内にも始まる見通しになった。イラン政府関係者が12日、解除の前提となる核開発の縮小に関し、国際原子力機関(IAEA)との最終協議を終えたと明らかにした。具体的な解除の日取りは不明。

イランは昨年10月、米欧など6カ国と、イランが核開発を大幅に制限し、見返りに制裁を解除することを正式に決めた。イランはその後、濃縮ウランの大半をロシアへ運び出し、ウラン濃縮に使う遠心分離器の約3分の2を撤去。さらにプルトニウムを抽出できる重水炉の解体も始まり、解除の条件が整った。

解除はIAEAが現場を確認し、6カ国を代表する欧州連合(EU)がイランと共同声明を出した後に手続きが始まる。

イランのロハニ大統領は11日、制裁が「数日以内に解除される」と発言。米国のケリー国務長官も7日、「順調にいけば履行まであと数日だ」と述べていた。ただ、IAEAの確認に時間がかかり、「週明けにずれ込む」(日本外交筋)との見方もある。

解除される制裁は、EUによるイラン産原油の禁輸や各国による輸入の制限、原油の売上金の支払い凍結、国際的な銀行取引からの排除など。具体的な形で動き出すには、決定からさらに数週間〜数カ月がかかるとみられる。【1月12日 朝日】
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イランでは来月、議会選挙が行われますので、ロウハニ大統領としては早期の制裁解除を実現させ、政権の支持層である穏健派への追い風にしたいところです。

と言うか、ロウハニ政権の誕生を含めて、ここ2~3年のイランは経済制裁解除の1点に向けて動いてきたと言ってもよく、ようやくその願いに手の届くところまで来た・・・というところで、もし早期の経済制裁解除が実現しなければ、国民の期待は失望に変わり、ロウハニ政権の求心力は大きく低下します。

イラン革命防衛隊:米海軍船舶拿捕も、翌日には解放
その念願成就を目前にして、クウェートからバーレーンに向かってペルシャ湾を航行中の米海軍の小型船2隻がイラン当局に 拿捕され、乗っていた米海軍兵士10人が拘束されるという事件が。

数年前なら大事件に発展し、にわかにイラン・アメリカ関係が緊張するところですが、今回は即決で解放されています。

****イラン、米海軍船舶の乗組員10人を解放****
イラン革命防衛隊は13日、ペルシャ湾(Persian Gulf)のイラン領海で拿捕(だほ)した米海軍の小型船舶と乗組員10人を解放したと声明で発表した。

イランの国営テレビによると、イラン革命防衛隊は声明で「米船員のイラン領海侵入は故意ではなかったと結論付けられた。謝罪を受け、(船員と船舶は)ペルシャ湾の公海上へ解放された」と述べた。

同日、先立って、イラン革命防衛隊海上部隊のアリ・ファダビ(Ali Fadavi)司令官が同国の国営テレビに対し、米海軍船舶の乗組員計10人の身柄釈放に「長い時間はかからない」だろうと述べていた。

ファダビ司令官は、「領海への侵入は敵対行動や情報収集目的ではなかった」「取り調べにより、米海軍船員がイラン領海に侵入したのは(米軍船舶の)航行システムの故障が原因だと分かり、事態は解決に向かっている」と述べ、「船員たちの釈放ということになるであろう指令」を待っていると語っていた。【1月13日 AFP】
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拘束翌日には解放と、まるで欧米協調をアピールするパフォーマンスのようにも見えます。

イラン革命防衛隊は、ロウハニ大統領とる欧米との協調姿勢には同調しない強硬派のように思いましたが、ここでも“ここは、おとなしくした方が得策”という方針のようです。

経済制裁解除のもたらす種々の利害も絡んで、イラン国内にもいろんな思惑があるのでしょう。

もし、イラン側が期待するように早期の経済制裁解除が実現しない場合は、サウジアラビアとの関係でも、アメリカとの関係でも抑制的な対応をしてきただけに、保守強硬派から反動が出ることも考えられます。

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