孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  ダライ・ラマ14世の後継者問題で、ダライ・ラマと中国政府が奇妙な攻防

2014-09-12 22:11:04 | チベット

(“flickr”より By Khabar chitv https://www.flickr.com/photos/125034789@N08/15175535125/in/photolist-p81zTk-p5oYex-p848N8-p92cJn-p4nFPg-p4NZF9-p2TCTT-p2CgGF-p37mtD-p29zWn-oPci4P-oLmioW-p5uq87-oKS16C-oNd7AY-p5tc8W-oQRRWb-oJRVH5-oNcMMs-oNisZU-p3LRDa-p6is4F-pb8Eds-p3jVRB)

抗議行動も許されない抑圧
中国の少数民族問題としては、最近はもっぱら新疆のウイグル族の問題が表面化していますが、焼身自殺者が相次いだチベットに関しては、メディアで見聞きすることは最近はあまり多くありません。

もちろん事態が改善した訳でもなく、中国当局との緊張関係は続いています。

****中国四川省>抗議デモのチベット族に治安当局が発砲****
米政府系の自由アジア放送(RFA)などによると、中国四川省カンゼ・チベット族自治州の村で12日、当局への抗議デモをしていた100人以上のチベット族に治安当局が実弾などを発砲し、10人以上が負傷した。

負傷者らは拘束されたが、中には銃弾が体内に残ったままの人もおり、住民らは治療を受けられていないと訴えている。

報道によると、11日に漢族の役人が村を視察した際、踊りなどを披露したチベット族の女性に役人が嫌がらせをした。
チベット族の村長がこれに抗議したところ、警察当局が村長を拘束。住民らは12日に釈放を求めて抗議したが、治安当局は催涙弾や実弾を発砲して鎮圧したという。

当局は多数のチベット族を拘束したが、負傷したチベット族1人が17日に抗議して自殺したほか、重傷だった22歳の男性も死亡した。村長の息子も被弾して拘束されたが、約1週間が過ぎても収監されたままだという。

四川省や青海省などのチベット族が暮らす地域では2009年以降、中国政府によるチベット政策に抗議し、120人以上が焼身自殺を図っている。【8月19日 毎日】
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焼身自殺については、昨年末に甘粛省甘南チベット族自治州サンチュ県でチベット僧侶(43)が焼身自殺を図り、死亡していますが、このとき中国国内のチベット族居住区で自殺を図ったチベット族124人目と報じられていましたので、今年に入ってはあまり多くは発生していない・・・のでしょうか。

中国当局のチベット族抗議者への凄惨な対応については、下記のような報道もあります。

****中国 チベット人の爪に竹串打ち込み警棒で頭強打・眼球突出****
現在もチベット各地では僧侶や市民によるデモ、治安当局との小競り合いが散発的に発生、当局の弾圧も強化されて情勢は悪化している。

ラサでは私服の公安警察官が徘徊し、街頭に設置された無数のカメラがチベット人の動向を絶えず監視している。不穏な動きを察知すれば、直ちに公安が駆けつけ警察署に連行する。
ビルの屋上に50~100m間隔でスナイパーが配置されているのは、偶発的な事態に対処するためだ。

チベットでは公の場で3人以上集まると「集会」と見なされ身柄を拘束されることがある。近年、チベット人の焼身による抗議が相次いでいるのは、「抗議の声すら上げられなくなった」という絶望感と無関係ではないだろう。

11月12日にも、中国青海省のゴロク・チベット自治州で僧侶の焼身自殺が発生。「チベットに自由を」と叫び炎に包まれた僧侶は弱冠20歳だった。2008年のラサ騒乱以降、焼身自殺者は120名を超えた。

インド・ダラムサラで亡命チベット人の支援活動を行なう中原一博氏が語る。
「2008年に中国政府に対する抗議ビラを撒いた僧侶11人が逮捕、有罪となり四川省のメンヤン刑務所に収監された。最近、その内の2人が解放されたが、1人は足と腰に重傷を負っており、非常に衰弱した状態だった。もう1人は半身不随となり精神に異常をきたしていた。僧侶を解放したのは、責任問題となる監獄内拷問死を避けるためだ」

中原氏が続ける。

「公安は政治犯と見なせば女子供にも容赦がない。2012年、四川省のカンゼ州・タンゴ県で発生した1000人規模のデモでは当局の無差別発砲で2人が死亡。当局は逃走したデモ参加者を執拗に追い山狩りをした。ある僧侶は自宅で発見され、弟とともに射殺された。武装警察は彼らの母親と泣き叫ぶ弟の子供たちにも銃口を向け、5人の子供が撃たれて負傷した」

警察に連行されたチベット人は、凄惨な拷問を受ける。
ある男性はすべての指の爪の間に竹串を打ち込まれ、生爪をはがされた。

また、「チベットはわれわれの国」という貼り紙をして検挙された僧侶は、後頭部を警棒で強打され眼球が突出、視神経が切断され失明した。

これらはすべて、後にチベットを脱出した人々から得た証言だ。「公安の拷問を受けるなら、焼身で抗議の意思を示すほうがマシだ」との悲痛な声もある。

こうした惨状を伝えるためチベットに潜入したジャーナリストが、当局の脅しを受けることもある。
5月にチベット取材を敢行したフランス人ジャーナリストのシリル・パヤン氏は活動拠点のタイに戻った途端、中国大使館から「フランスでオンエアされたリポートについて説明せよ」と大使館への出頭を要請された。

パヤン氏が拒否すると、大使館側は「責任を取ってもらう」と脅迫したという。もし出頭に応じていれば、身の安全は保障されなかっただろう。【SAPIO2014年1月号 取材・文/路山蔵人氏 2013年12月19日NEWSポストセブン】
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抗議デモは徹底的に封じ込まれており、もし実行して拘束されれば凄惨な拷問も行われる・・・ということで、抗議手段としては焼身自殺しかないとも言える状況ですが、チベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世はこうした焼身自殺を認めている訳ではありません。

ただ、強く自制を求めているとも言い切れない微妙なものもあります。

****チベット人の焼身自殺、ダライ・ラマ「効果ほどんどない****
オーストラリアを訪問中のチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(77)は13日、焼身自殺による中国統治への抗議は、中国政府の政策にほとんど影響を与えていないと語った。

焼身自殺についてダライ・ラマは、「もちろんとても悲しいことだ。ただそれと同時に、そのような思い切った行動が効果を及ぼしているかには疑問を感じている」と記者団に述べた。

一方でダライ・ラマは、「中国当局者が引き金となっている兆候がある。当局者は焼身自殺の原因を調べるべきだ」と訴え、チベット人が単に社会的な抗議のためだけに命を犠牲にしている訳ではないと強調した。

2009年以来、四川省や甘粛省、青海省などで少なくとも117人のチベット人が、中国政府のチベット政策に抗議して焼身自殺を図っている。

チベット研究者らからは、ダライ・ラマが自制を求めていないことが焼身自殺による抗議を助長しているとして、ダライ・ラマの姿勢を批判する声も出ている。【2013年 06月 13日 ロイター】
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ダライ・ラマ14世「ダライ・ラマの目的は果たされた」】
いずれにしても、ダライ・ラマ14世の存在は、中国当局の統治政策への反発を続けるチベットの人々の精神的拠りどころであると同時に、その非暴力を掲げる思想が、当局との大規模な衝突や暴動に対する一定の歯止めともなっています。

従って、高齢にもなっているダライ・ラマ14世の後継者が、チベット問題の将来に向けての重要なカギを握っています。

チベット仏教にあっては、代々最高位ダライ・ラマと次位のパンチェン・ラマは転生によって後継者が決められますが、両者は互いの転生者を認定する役割に大きな影響力を持っています。

つまり、ダライ・ラマの後継者選定にパンチェン・ラマが影響力を有することになります。

パンチェン・ラマ10世が1989年に中国のチベット統治策の誤りを告発する演説を行った直後に急死したことを受けて、ダライ・ラマ14世がパンチェン・ラマの転生者として選定した少年を中国政府は転生者として認めず、政府による独自の転生者が別に認定され、ダライ・ラマ14世が認定した転生者とその両親はその後行方が知れない・・・という話は、これまでも何回か取り上げてきたところです。

ダライ・ラマ14世側によって転生者とされたニマ少年とその家族の消息については、個人情報保護を理由に中国政府は公表していません。

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2010年3月7日、中華人民共和国チベット自治区の主席バイマ・チリンは記者会見で、パンチェン・ラマ11世ゲンドゥン・チューキ・ニマの資格を否定する中国政府の主張を繰り返すとともに、現在のゲンドゥン・チューキ・ニマは一般市民として生活しており、その兄弟は大学に進学したり就職していると述べた。これは、ゲンドゥン・チューキ・ニマは仏教指導者ではないと主張する意だと解されている。【ウィキペディア】
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このような事情もあって後継者問題を抱えるダライ・ラマ14世は、「後継者は不要」との考えを示しています。

****ダライ・ラマ14世、「後継者は不要」 独紙インタビュー****
チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世は、ドイツ紙とのインタビューの中で、自身を最後の指導者とするべきと述べ、故郷の地で数世紀にわたり継承されてきた宗教的伝統を終わりにすべきとの見解を示した。

同氏は過去にも、「ダライ・ラマの目的は果たされた」と述べており、独紙「ウェルト」日曜版での今回のコメントで、その意思をさらに明確にした形だ。

英語で行われたインタビューで同氏は、「ダライ・ラマ(の伝統)はおよそ5世紀にわたり続いてきた。現在のダライ・ラマは非常に人気がある。評判の良い最高指導者がいる間に終わらせるべきだろう」と述べ、「弱いダライ・ラマが継承すれば、その伝統に傷が付く」と笑顔で付け加えたという。

また、「チベット仏教は一個人に依存するものではない。私たちは、高度に訓練された僧侶や学者を何人も擁する非常に組織立った構造を持っている」とした。

1950年にチベットに派兵した中国は、翌1951年から同地を統治。ダライ・ラマ氏は1959年の民族蜂起が失敗に終わった後、インドに逃れた。

2011年にノーベル平和賞を受賞した同氏は、すでに政治活動からは距離を置いているが、それでも国内外のチベット人に対する強力な求心力を維持しており、また民族運動の象徴として広く知られている。【9月8日 AFP】
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中国政府「(転生制度放棄を)中央政府と信者は絶対に認めない」】
中国政府が「公認」するパンチェン・ラマ11世によって、「親中派」のダライ・ラマ15世が選ばれ、チベット統治に利用されるような事態を回避しようとの考えですが、当然ながら中国政府側はこれに反発しています。

****ダライ・ラマ14世「転生」廃止発言 「秩序損なう」中国は猛反発****
 ■後継者選定で綱引き
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世(79)が、ドイツ紙ウェルトとの会見で、自身の後継問題を踏まえて、「チベット仏教の転生制度を廃止すべきだ」と述べたことが、波紋を広げている。

中国外務省の華春瑩報道官は10日の記者会見で、「発言はチベット仏教の正常な秩序を大きく損なうもので、中央政府と信者は絶対に認めない」と反発し、転生制度の維持を求めた。

ダライ・ラマを含む活仏の転生制度は、チベット仏教の輪廻(りんね)観に基づく。高位の活仏は死後、教義に沿った生まれ変わりの霊童探しで後継者が選定される。

転生制度の存否は、亡命先のインドで高齢を迎えたダライ・ラマの後継選定、さらにはチベット問題の行方に直結するものとして、これまで注目を集めていた。

中国政府は、無神論を信奉する共産党の一党独裁ながら、チベットでの転生制度を容認。高位の活仏だったパンチェン・ラマ10世が1989年に死去した後は、ダライ・ラマ側と競う形で後継の霊童探しが展開され、中国政府「公認」の候補が「パンチェン・ラマ11世」となる一方、ダライ・ラマ側が選んだ別の少年は行方不明となった。

中国当局はさらに2007年に「チベット仏教の活仏輪廻管理条例」を作り、チベット仏教の後継者選びと最終認定に当局が参加することを明記した。

チベット仏教への政治介入と批判されるが、最大の眼目はダライ・ラマの後継を中国政府主導で選定することにある。「ダライ・ラマ15世」を親中派の宗教指導者に育成することで、チベットの安定統治を図る考えだ。

亡命中のダライ・ラマの発言は、この中国政府の策略を熟知したもので、転生制度の廃止という重大決断を今回初めて明示したが、今後、中国当局とチベット亡命政府の新たな確執を招くことは避けられない。【9月11日 産経】
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そもそも無神論共産党政府が宗教的転生者を認定するというのも奇妙な話ですが、現実政治に非常に大きな影響を持つ問題でもあります。

宗教権威者であるダライ・ラマ14世側が転生制度を放棄しようとし、無神論中国共産党がその存続を強く主張するという、これまた奇妙な展開となっています。

もし、チベットの人々の精神的拠りどころとなってきた(チベットの人々が正統と認める)ダライ・ラマが不在となった場合、チベット民族運動が過激化する事態も考えられます。

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