孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン司法当局 チベットでの「大虐殺」で江沢民氏らの国際手配要請

2014-02-11 21:04:59 | チベット

(チベット・ギャンツェ 「大虐殺」ということなら、江沢民(右から2番目)よりは、チベット動乱などの時代の毛沢東(左端)でしょう。胡錦濤(右端)もチベット自治区党委書記にラサ全市に戒厳令を敷くなど、徹底した抵抗運動弾圧を行っています。 “flickr”より By Niall Corbet http://www.flickr.com/photos/35291717@N00/6314603594/in/photolist-aBZZDL-hHFXBJ-hHDUaB-8iBUHi-hyBDaC-hymh8X-hymhbH-fspaxd-hkQQAU-dS6zsL-gATZEC-aea1Mh)

チベット問題:喉元を過ぎつつある感も
チベットにおける中国政府の弾圧については、多くの国々がその非を指摘しており、北京オリンピック開催時にも大きな政治問題となりました。

チベットの状況、特に抗議の焼身自殺は最近ニュースで目にすることは少なくなったような感もありますが、下記のように継続しています。

****チベット僧侶がまた焼身自殺=政府に抗議―中国****
中国甘粛省甘南チベット族自治州サンチュ県で19日午後、チベット僧侶(43)が共産党・政府のチベット統治政策に抗議、焼身自殺を図り、死亡した。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

RFAによると、中国国内のチベット族居住区で自殺を図ったチベット族は124人になった。【2013年12月20日 時事】 
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最近あまりニュースを目にしないのが、焼身自殺の発生が少なくなっているせいなのか、メディアが“飽きて”あまり取り上げなくなったのか・・・そのあたりはよくわかりません。

チベット指導者ダライ・ラマ14世は、焼身自殺についてその効果を疑問視するコメントを行っています。

****チベット人の焼身自殺、ダライ・ラマ「効果ほどんどない*****
オーストラリアを訪問中のチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(77)は13日、焼身自殺による中国統治への抗議は、中国政府の政策にほとんど影響を与えていないと語った。

焼身自殺についてダライ・ラマは、「もちろんとても悲しいことだ。ただそれと同時に、そのような思い切った行動が効果を及ぼしているかには疑問を感じている」と記者団に述べた。

一方でダライ・ラマは、「中国当局者が引き金となっている兆候がある。当局者は焼身自殺の原因を調べるべきだ」と訴え、チベット人が単に社会的な抗議のためだけに命を犠牲にしている訳ではないと強調した。

2009年以来、四川省や甘粛省、青海省などで少なくとも117人のチベット人が、中国政府のチベット政策に抗議して焼身自殺を図っている。

チベット研究者らからは、ダライ・ラマが自制を求めていないことが焼身自殺による抗議を助長しているとして、ダライ・ラマの姿勢を批判する声も出ている【2013年6月13日 ロイター】
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一方、欧米諸国は、このところはどちらかと言えば中国との経済的関係を重視して、人道的な問題には敢えて触れない・・・という姿勢の方が目立つように感じます。

スペイン:チベットにおけるジェノサイドで江沢民氏らを国際手配要請
そんななかで、スペイン司法当局は、1980~90年代におきたチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」などに関与した容疑で中国の江沢民元国家主席、李鵬元首相ら元政権幹部5人を国際手配した・・・とのことです。

*****江沢民氏らの国際手配要請=チベットでの「大虐殺」で―スペイン****
スペインの全国管区裁判所は10日、1980~90年代にチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」などに関与した容疑で逮捕状を出した中国の江沢民元国家主席(87)、李鵬元首相(85)ら元政権幹部5人について、国際刑事警察機構(ICPO、本部フランス・リヨン)に国際手配を要請した。現地メディアなどが報じた。

全国管区裁判所は2013年11月、人権団体の刑事告発を受けて江氏らの逮捕状を出し、中国政府が「強烈な不満と断固たる反対を表明する」(洪磊・外務省副報道局長)と反発していた。

今回の国際手配要請により、スペイン政府は対中関係でさらに困難な問題を抱えることになりそうだ。【2月11日 時事】 
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この話自体は、昨年11月に江沢民元国家主席らに逮捕状がだされた時点でもニュースになりましたので、目新しいものではなく、一連の流れに沿った動きです。

当然ながら、中国側は怒っています。

****強烈な不満」表明=スペイン裁判所の逮捕状―中国****
中国外務省の洪磊・副報道局長は20日、スペインの全国管区裁判所がチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」に関与した容疑で、江沢民元国家主席、李鵬元首相らの逮捕状を出したことについて、「事実ならば、強烈な不満と断固たる反対を表明する」とした上で、中国とスペインの関係を損なうことがないよう要求した。【2013年 11月20日 時事】 
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中国の元国家主席を国際手配を要請するというのは、人道上の犯罪行為があったかどうかという問題は別として、各国が中国になびく(なびかざるを得ない現実がある訳ですが)現実政治世界においては尋常ではありません。

この世の中でいつも正義が通用するわけではないが、正義が全く掲げられないと、損得ばかりが横行する
なぜスペイン司法当局が中国指導者を告発できるのか・・・ということについては、基本的には、国家の枠組みに縛られず「人道に対する罪」を裁く「普遍的管轄権」に基づく告発ということになりますが、刑事告発した人権団体メンバーにスペイン国籍を持つ亡命チベット人がいることもポイントとなりました。

「普遍的管轄権」の現状と問題については、国末憲人氏の下記リポートが詳しく解説していますので、全文を紹介します。

*****江沢民国際手配」スペイン司法当局の意図は何か****
自国とは異なる国で起きた犯罪をあえて訴追する「普遍的管轄権」を、以前フォーサイトで紹介したことがある(2013年10月21日「国家に縛られず犯罪を裁く『普遍的管轄権』とは――マドリードを訪ねて」)。

通常の裁判管轄権は国境に縛られるが、国際秩序を揺るがす恐れのあるジェノサイド(大虐殺)や「人道に対する罪」の場合、独裁者や国家機関が罪を免れないためにも、当事国以外の国が罪を問える、との考え方である。

1990年代後半から2000年代にかけてスペインの予審判事バルタサル・ガルソン氏がこの制度を利用し、チリの独裁者ピノチェト元大統領やアルゼンチンの独裁政権幹部を次々と訴追して、大きな反響を呼んだ。

しかし、訴追のたびにわき起こる当事国からの猛反発に手を焼いたスペイン政府は、根拠となってきた司法権組織法を2009年に改正し、司法当局の権限を縮小。起きた国や関係者の国籍にかかわらず訴追する権限を司法当局に与えていた制度を改め、訴追の範囲を「スペイン国民が被害者となるか、被告人が国内にいる場合」などと限定した。

ガルソン予審判事も2010年に解任され、多くの人が「スペインの普遍的管轄権は死んだ」と受け止めていた。

それだけに、今月19日に突然流れた情報に関係者らは驚いただろう。

中国のチベット自治区で80年代から90年代にかけてジェノサイドにかかわったとして、中国の江沢民元国家主席、李鵬元首相ら5人が突然、スペイン司法当局によって国際手配されたのである。
死んだどころか、普遍的管轄権の大復活だ。

もちろん、中国側はカンカンである。外交摩擦が必至で、スペイン政府も困惑しているだろう。なのに、なぜ司法当局は、手配に踏み切ったのか。

マドリードの日刊紙エルパイスなどによると、手配されたのは江沢民、李鵬両氏のほか、治安当局の元責任者、チベット自治区の元共産党幹部、80年代の中国の閣僚の1人。

全国的、国際的な犯罪の捜査に当たる全国管区裁判所がこの日、5人を勾留するための捜索を命じる勾引勾留状を発行した。国際刑事警察機構(インターポール)を通じて中国側に伝達されるとみられる。

「政治的パフォーマンス」との批判も
そもそもは、スペインのチベット支援団体などが2006年、全国管区裁判所に5人を告訴したことに始まる。通常だと2009年の法改正によって告訴も無効となるはずだが、告訴人の中にスペイン国籍を持つチベット人が1人いたことから、「スペイン国民が被害者」の要件を満たして生き残ったのである。

担当の予審判事はイスマエル・モレノ氏。
モレノ予審判事はガルソン氏と同様に普遍的管轄権の適用に積極的な1人だったが、証拠調べの結果、今年5月に「5人がジェノサイドにかかわったとは結論できない」として、訴追しない方針を表明した。

それが一転、国際手配となったのは、全国管区裁判所の刑事法廷がモレノ予審判事の結論を覆し、手配を命じたからだった。

北京からの報道によると、中国は強い不快感を表明し、中国の立場を尊重するようスペインに要求した。スペイン側は司法の独立を説明するとみられるが、中国側は聞き入れないだろう。

スペインが中国指導者を訴追するのは、今回が初めてではない。2008年3月に起きたチベット自治区の騒乱に関する市民団体からの告訴を受けて、全国管区裁判所のサンティアゴ・ペドラス予審判事が同じ年の8月、当時の梁光烈国防相や政府高官、軍人ら計7人に対して「人道に対する罪」で捜査に乗り出した。この時も中国は猛烈な反応を示し、スペインと中国の関係が一気に悪化した。

今回も、中国が江沢民氏らの引き渡しに応じる可能性は全くない。それは、刑事法廷も十分わかっているはずだ。

以前から、普遍的管轄権の行使については「政治的パフォーマンスに過ぎる」との批判がくすぶっていた。
2000年代にスペインが試みた訴追相手は、先の中国指導者らのほか、ガザ攻撃に関するイスラエル政府とか、グアンタナモ収容所での違法尋問に関する米ブッシュ前政権の高官とか、いずれも実現性に乏しい相手ばかり。しかも、いずれも先方から猛反発を受けた。

同様の傾向は、スペインの司法権組織法に似るベルギーの人道法の場合にもあった。90年代末から2000年代初めにかけて、ベルギー司法当局が人道法に基づいて受理した告訴の相手は、湾岸戦争に関するブッシュ米元大統領(父)だの、ベイルートのパレスチナ難民キャンプでの虐殺に関するイスラエルのシャロン首相だの、逮捕も拘束もできるはずのない人物だった。

こちらも外交的な圧力を受け、スペインと同様に法律を改正せざるを得ない状況に追い込まれた。

今回のスペインの試みにも、やはりパフォーマンス性が感じられる。
本来、司法は淡々としたものであり、だからこそ市民の信頼を得るところがある。声高に主張を打ち上げるような今回の行為が、逆に信頼性を揺るがすことにならないか。他人事ながら心配になる。

司法の政治的役割
一方で、その問いかけるものは、それなりに重い。
2008年にチベット自治区で起きた騒乱は、中国の人権状況の貧しさを私たちに改めて意識させた。こんな調子で五輪を開けるのか、との懸念さえ持った人が少なくなかった。

なのに、五輪が成功すると私たちはチベットのことなど忘れ、急速に発言力を増した中国に国際社会でそれなりの地位を与えてしまったのである。今回の国際手配で我に返らされたように感じるのは、私だけではないだろう。

司法はある意味で政治の一部であり、国際社会ではことさらその傾向が強い。司法の政治的役割は、何より「正義」を世に示すことだ。

この世の中でいつも正義が通用するわけではないが、正義が全く掲げられないと、損得ばかりが横行する。
その意味で、スペイン司法当局の試みを、自己顕示のパフォーマンスとだけ受け止めるのは正しくないだろう。

ただ、スペインと中国との関係が今後どうなるか。読めない部分は少なくない。(国末憲人)【2013年11月21日 フォーサイト】
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今回の国際手配要請で、実際に江沢民氏がどこかの国(たとえば日本など)を訪問した際に拘束逮捕される・・・ということは100%ないでしょう。

それは分かっているが、“この世の中でいつも正義が通用するわけではないが、正義が全く掲げられないと、損得ばかりが横行する”ということで、敢えて逮捕状を出し、国際手配を要請する・・・というものです。
“今回の国際手配で我に返らされたように感じるのは、私だけではないだろう”という指摘も同感です。

【「いじめ外交」】
ただ、現実政治における影響はやはり懸念されます。
国民生活を預かる政府としては、当然にその影響に配慮する必要があります。

相手がブッシュ米元大統領なら、アメリカが過剰反応することはあまりないでしょうから、そう心配することもありません。しかし、相手は“あの”中国です。

****怒らせると報復する中国の「いじめ外交」は逆効果*****
・・・・現在服役中の中国の民主活動家、劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞した2010年以降、中国政府は、ノルウェー政府がノルウェー・ノーベル委員会」による選考に関与していないにもかかわらず、ノルウェーへの制裁を試みている。

中国はノルウェー産サーモンに輸入規制を導入。中国の港の倉庫には腐ったサーモンが山積みにされた。13年の中国市場におけるノルウェー産サーモンのシェアはそれまでの92%から29%へと大きく落ち込んだ。
(中略)
また2009年にパラオ政府がキューバにあるグアンタナモ米海軍基地内の収容施設に拘禁されていた中国がテロリストとみなすウイグル人6人を受け入れる意向を示すと、中国からの投資でパラオ国内に建設中だった海辺のリゾート施設の工事が突然中止された。
(中略)
2010年にはドイツの研究者たちが、ある国の指導者がダライ・ラマと面会するとその国の対中輸出はその後の2年間に平均で12.5%減少することを発見し、この現象を「ダライ・ラマ効果」と名付けた。(後略)【2月1日 AFP】
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スペイン政府の困惑は十分すぎるぐらいにわかります。
“12.5%減少”では済まないかも・・・。

追加
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・・・エルパイス紙などの報道によると、国民党は1月、虐殺などの人道的犯罪について、訴追対象をスペイン人や、スペインに定住する外国人などに限定する内容の改正法案を提出。成立すればさかのぼって適用され、江元主席らは該当しなくなる。また犯罪発生時に被害者がスペイン国籍を所持していることも条件となるため、96年に国籍を取得したチベット仏教僧らの告発は認められなくなる。改正法案は今後、下院で本格審議し、2カ月程度で成立、施行が可能という。【2月11日 毎日】
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