孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット問題  相次ぐ僧侶・尼僧の焼身自殺 アメリカ議会は中国の対応を強く批判

2011-11-05 14:20:04 | チベット

(チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラで、焼身自殺した僧を悼む僧侶 “flickr”より By TibetanWomen http://www.flickr.com/photos/tibetanwomen/6186016380/ )

当局が制御できない最後の手段
信教の自由と高度な自治を求めるチベットで、僧侶・尼僧の中国政府に対する抗議の焼身自殺が相次いでいます。
3日に焼身自殺した尼僧で、今年11人目になるそうです。

****チベット仏教の尼僧が焼身自殺、今年11人目 中国****
中国・四川省甘孜チベット族自治州の大武で3日、チベット仏教の尼僧が焼身自殺したと、国営新華社通信が報じた。四川省では今年3月以降、チベット仏教の僧侶8人、尼僧2人が相次いで焼身自殺を図っており、人権団体によるとうち7人が死亡している。

人権団体「チベットのための国際キャンペーン(ICT)」が確認したところによると、自殺した尼僧は35歳で、信教の自由とチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマの帰還を訴え、体に火をつけたという。

地元警察はAFPの取材に対し、コメントを拒否した。
新華社は、警察の初動捜査の結果「過去数か月に起きた一連の焼身自殺と同様、ダライ・ラマ一派による(中国の)分裂を狙った策略だと判明した」との地元当局者の談話を伝えている。【11月4日 AFP】
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焼身自殺が相次ぐ背景として、当局側がデモや集会などの抗議行動を抑え込むなかで、“当局が制御できない焼身自殺という手法に訴えている”という現状が指摘されています。
チベット側にも、宗教的高揚感みたいなものがあるのでは・・・とも思われます。

****デモ封じられ…「最後の手段*****
・・・命をかけた抗議行動は、今年3月にアバ県で起きた大規模デモのきっかけをつくった僧侶の焼身自殺を幇助(ほうじょ)したなどの罪で、僧侶や親族が懲役刑などを言い渡された8月下旬前後から急増している。

多数の拘束者を出したデモの後、各チベット族自治州では治安部隊による警戒が強化され、寺院の電気や水道を止めるなどの嫌がらせも行われているとされる。デモや集会などの抗議行動は不可能な状況とみられ、当局が制御できない焼身自殺という手法に訴えているようだ。

中国外務省の姜瑜報道官は19日の定例記者会見で「姿を変えたテロの一種」と罵(ののし)ったが、20日の会見では「事件が起きているのはチベット自治区ではなく四川省」などと苦しい言い訳を口にし、米欧の干渉に対する懸念をあらわにした。【10月21日 産経】
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北京の殺戮者たち」】
中国政府の強権的な対応、人権弾圧に批判的なアメリカでは、特にチベット問題を議会が取り上げています。

****チベットへの弾圧、米議会が糾弾****
「カルサン、18歳、チョエペル、19歳…」
米国議会の下院議員会館の一室に重苦しい声が響いた。3日午後、トム・ラントス人権委員会がチベットの人権弾圧について開いた公聴会に、証人として招かれたチベット仏教高僧のキャブジェ・リンポチェ師の声だった。議員側から最近のチベットで焼身自殺した9人の若い僧侶たちの名前と年齢をあげるよう求められての発言だった。

人権問題を熱心に提起した民主党のベテラン議員故ラントス氏を記念して創設されたこの委員会は、超党派の下院議員60人近くが加わっている。
この日は中国政府によるチベット弾圧を正面から取り上げ、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相や同師を招いての事情聴取となった。チベットでは固有の言語や文化、宗教が中国当局の抑圧で抹殺の危機を迎え、四川省アバ・チベット族チャン族自治州のキルティ僧院では若い男女の僧がこの数カ月で9人も抗議の焼身自殺をしたというのだ。

米国議会も危機感をみせながらチベット問題を追及するようになった。上下両院と行政府とが共同で組織した「中国に関する議会・政府委員会」は、中国当局による広範な人権弾圧の実態をまとめた年次報告を先月発表したが、そのなかでもチベット問題にはとくに厳しい光を当てていた。

下院外交委員会はこのラントス人権委員会の公聴会の数時間前の3日午前、その年次報告を検討する大公聴会を開いていた。共和党のイリアナ・ロスレイティネン委員長が民主党の筆頭委員ハワード・バーマン議員とともに、中国当局の宗教の自由の圧迫、妊娠中絶の強制、民主活動家の逮捕、ネット言論の抑圧などを指摘して、「中国の弾圧は前年よりも悪化した」と非難していた。証人にはチベット亡命政府高官のブチュン・ツェリング氏もいて中国のチベット締めつけの強化を訴え、若い僧たちの焼身自殺をも報告していた。

バーマン議員までが「中国の政治の自由の抑圧、人権の弾圧はさらにひどくなっており、米国の対中政策にその事実を反映させるべきだ」と主張した。共和党若手のデービッド・リベラ議員にいたっては中国共産党指導部を「北京の殺戮(さつりく)者たち」とまで呼び、米国の価値観だけでなく人道主義の普遍性からも中国にもっと強硬な姿勢を取ることを提唱した。

そのうえでの午後のチベット問題に焦点をしぼった公聴会だったのだ。ここでも議長は民主党のジム・マクガバン議員が務め、「かつてチベット鎮圧策を担当した胡錦濤国家主席にまで抗議すべきだ」と論評するほどだった。ラントス人権委共同委員長のフランク・ウルフ議員は「チベットは本来、中国とは別の国家だった。その民族をいま中国当局は浄化しようとしている」と非難した。
 
国の議会がこうして中国の人権状況へと立ち入って弾圧を糾弾するのは、外交政策にも相手国の民主主義度を反映させるという米国年来の特別な身の処し方のせいだろう。全世界で共通の普遍的課題の人権には積極的にかかわるという体質もあってのことだろうが、それにしてもいまの中国が国内の人権抑圧もさらに激しくして、チベット人に犠牲が増えているという現実は日本も無視はできないだろう。【11月5日 産経 古森義久】
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アメリカが中国の人権問題を大きく取り上げるのは、問題の本質にかかわる部分以外にも、中国の著しい台頭を苦慮する外交的な観点から、人権問題を対中国戦略のひとつのカードとして使用したいというアメリカの思惑もあってのことでしょう。

【「いかなる生き仏の転生も宗教の習わしや国家の法律法規に従うべきだ」】
今後のチベット問題の行方を左右するカギが、高齢のダライ・ラマ14世亡きあとの問題です。
3月21日ブログ「チベット  ダライ・ラマ14世の政治引退表明のなかでの新首相選挙」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110321)でも取り上げたように、チベット側も対応を進めていますが、ダライ・ラマ14世の存在の大きさ、その転生をめぐる問題もあって、簡単ではありません。
ダライ・ラマ14世の死を待つ形の中国側は、ダライ・ラマ転生を認定する立場にあるチベット仏教第2の高位者であるパンチェン・ラマについて独自の後継者を擁しており、ダライ・ラマ転生についても当然に介入することが想定されています。

****ダライ・ラマ、継承者めぐる中国の発言権を否定****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(76)は24日、「90歳ぐらいになったら」ダライ・ラマの輪廻(りんね)転生制度を続けるべきかどうかを決めると述べ、中国にはこの件についての発言権はないときっぱりと付け加えた。
ダライ・ラマは、インド北部ダラムサラで開かれたチベット仏教4大宗派の指導者の会合後、4200ワードに及ぶ声明を発表した。

ダライ・ラマは声明で「90歳ぐらいになった時に、チベット仏教の伝統について、ラマ高僧やチベットの人びと、それにチベット仏教に関連する人々と相談し、ダライ・ラマの制度を存続させるべきか否かについて再評価する」と述べた。さらに、「そうした正統な方法で認められた転生以外には、中国を含むあらゆる者による政治目的のために擁立された候補者の承認も認可も、行われるべきではない」と指摘した。
また、ダライ・ラマは「疑念や策略の入り込む余地がないように、次期ダライ・ラマを決めるための明確なガイドラインを肉体的・精神的に能力があるうちに」行うことを決めたと語った。

多くの人びとは、中国が独自のダライ・ラマ継承者を選出するとみている。それにより2人のダライ・ラマ――中国当局が認めるダライ・ラマと、亡命政府または現在のダライ・ラマが認定するダライ・ラマ――が擁立される可能性が出てきている。
同じことが1995年にチベット仏教で第2の高位者であるパンチェン・ラマの次期継承者を選んだときにも起きた。中国はダライ・ラマが選んだ次期パンチェン・ラマを拒否し、独自の転生者を選んだ。

パンチェン・ラマ11世に中国政府が認定したギェンツェン・ノルブ氏(21)は、たびたび中国政府のチベット統治を称賛している。
一方、ダライ・ラマがパンチェン・ラマ11世に認定したゲンドゥン・チューキ・ニマ氏は、1995年に中国当局に拘束されて以降、公の場に姿を現していない。【9月25日 AFP】
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中国の介入を警戒するダライ・ラマ14世に対し、中国側は当然のごとく反駁しています。
****ダライが次のダライ認定したことない…中国非難****
中国外務省の洪磊・副報道局長は26日の定例記者会見で、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(76)が90歳前後になった際にダライ・ラマ制度の再検討を行う方針を示したことに対して、「ダライ・ラマ14世も当時の(中華)民国政府の認定を受けた。ダライが次のダライを認定したことはない。いかなる生き仏の転生(生まれ変わり)も宗教の習わしや国家の法律法規に従うべきだ」と非難した。【9月26日 読売】
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“国家の法律法規に従う”転生というのも笑える話ですが、中国側はチベット問題の封じ込めを狙って本気です。

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