(軍政側のスパイの嫌疑でカレン民族同盟の兵士に捕えられた男性 “flickr”より By JPHulme
http://www.flickr.com/photos/jphulme/2181621889/)
【民主勢力への圧力を強める軍事政権】
ミャンマー軍事政権は国際的な批判をものともせず、独自路線を進んでいるように見えます。
ミャンマーの抱える当面の課題は、年内に予定されている総選挙と少数民族の動向のふたつです。
総選挙については、これまでも取り上げてきたように、民主化運動の象徴、スー・チーさんは軍政容認につながる選挙への不参加を選択し、彼女が率いてきた最大野党・国民民主連盟(NLD)は解党に至りました。
しかし、たとえどんな状況下であっても選挙に参加し民意の受け皿となるべきとする幹部もおり、彼らは国民民主勢力(NDF)として総選挙参加を決めています。
****ミャンマー 民主新党、NDF本部開設 軍政圧力強化懸念も*****
ミャンマーの最大野党だった国民民主連盟(NLD)の元幹部4人が中心となって結成した新党、国民民主勢力(NDF)の本部開所式が1日、同国最大都市ヤンゴンで行われた。タン・ニヤン委員長は、年内に行われる総選挙に向けた準備が整いつつあるとして「次の選挙では完全な民主主義の達成は難しいが、一歩でも民主主義を前進させよう」と決意を語った。
式典には在ヤンゴンの米国大使館の書記官2人も参列した。あいさつでタン・ニヤン委員長は、これまでに全国に50支部を開設し、候補100人を擁立する準備が整ったとし、今後、さらに候補者を増やす方針を示した。また、民主化運動指導者でNLDを率いたアウン・サン・スー・チーさんが、総選挙をボイコットしたことについては「NLDはわれわれの母体であり、批判はしない」と述べた。
一方、中央選挙管理委員会は7月31日、同委員長らNDF幹部4人を呼び、過去の政治行動について釈明し、今後は国民和解実現のため政府への協力を誓う書簡を提出するよう求めた。
NDF側は、すでに政党登録が認められていることに加え、選管側が選挙告示前にこうした手続きを知らせてきたことを歓迎、書簡提出には応じる方針だ。
ただ、問題とされる政治行動は1990年の選挙でNLDが圧勝、政権樹立に動いたことを挙げている。このため今後、NDFが新たな民主化勢力として国民の支持を集めるにつれ、軍政から圧力が強まるものとNDF側は懸念している。【8月2日 産経】
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「過去の政治行動について釈明し、政府への協力を誓う書簡」提出を求めるというのも、踏み絵を迫るようなえげつなさがありますが、総選挙に参加していくためには「耐えがたきを耐え・・・」という辛抱も必要でしょう。
軍政と正面から敵対しての民主化運動の展開が見込めないミャンマーの現状にあっては、実質的に軍政が形を変えた新憲法枠組みではありますが、とにもかくにも、議会内に一定勢力を確保することが今後の民主化運動の出発点になります。
ただ、そうは言っても、軍政側の思いどおりに進む事態に、今度の選挙がどんなものになるのか不安が増します。
*****ミャンマー 民主勢力に圧力 総選挙へ観光入国も禁止****
ミャンマー軍政が年内にも実施する総選挙での与党圧勝に向け、民主派政党への圧力を強めている。また、外国メディアによる選挙取材も認めず、選挙期間中は観光客の入国さえ認めない方針という。報道関係者が観光客として入国することを避ける狙いとみられる。軍政は東南アジア諸国連合(ASEAN)が提案した選挙監視団受け入れにも消極的だ。公正で開かれた選挙を求める各国の要求を無視するもので、民主化勢力は反発を強めている。
軍政は総選挙の実施時期を発表していないが、現状では11月か12月となる可能性が高い。こうした中、反軍政を掲げるミャンマー民主党は10日、特別警察が同党の党員宅を訪れ、履歴書と写真の提出を求め圧力をかけているとして、選挙管理委員会に改善を求める書簡を出したことを明らかにした。フランス通信(AFP)が伝えた。
それによると、同党のトゥ・ウェイ委員長は選管に提出した1千人の党員名簿が情報当局に渡されており、「身の危険を感じ、立候補を取りやめた者もいる。当局はわが党の伸長を望んでいない」と述べた。そのうえで、親軍政の政党について「金や力を使っても国民が自由に投票できれば、彼らは票はとれない。だから他の政党に圧力をかけているのだ」と指摘。同党は国民の期待に応えるためにも選挙はボイコットしないと語った。
一方、反軍政メディア「イラワディ」によると、軍政当局者は、総選挙が11月中旬からの乾期に行われるとしたうえで、乾期には入国制限が行われると述べた。今春から導入された空港到着時点でのビザ発行も停止され、米欧や西側諸国からの旅行者は認められないだろうと語った。【8月12日 産経】
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ミャンマー民主党は、国民民主連盟(NLD)とは別系列で、3月末にトゥ・ウェイ氏(78)が軍主導の民主化の動きに対抗する勢力として設立を発表した政党です。初代首相ウ・ヌー氏の娘や、2代首相バ・スエ氏の娘が名を連ねています。
1千人の党員名簿提出が求めらており、それが軍政側に渡るということには、確かに身の危険の不安を感じます。
立候補だけでなく、党員名簿に名を連ねることも大変な覚悟を要します。
“1千人の党員”を政党登録の要件にしたことについては「少数政党の乱立を防ぐ狙い」とも説明されていますが、名簿で反軍政思想の者を把握しようという思惑もあったのか・・・とも邪推されます。
【抵抗を強める少数民族武装組織】
少数民族問題については、カレン族の抵抗が報じられています。
****ミャンマーの少数民族、軍部隊を襲撃 兵士9人死亡****
タイ治安当局によると、国境を流れるモエイ川からミャンマー(ビルマ)側に約2キロ入ったカイン(カレン)州で3日、同地域を実質支配する少数民族の武装勢力「カレン民族同盟」(KNU)が、KNU掃討を目指すミャンマー軍事政権の部隊を襲撃。爆弾攻撃で軍政側の兵士9人が死亡、12人が重軽傷を負った。
KNUは軍政と停戦に応じずに独立闘争を続ける同国唯一の武装勢力で、軍政は掃討を目的とした攻勢を強める可能性がある。タイ当局によると、両者の戦闘は最近になって激化しており、7月末にも千人近くのカレン族住民が避難で越境したが、タイ当局が強制送還したという。【8月4日 朝日】
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多くの部族は一定の自治裁量を与えられる形で、武装組織を維持したまま、軍政との停戦合意を結んできましたが、この武装組織を政府軍の指揮下に組み込もうとする軍政側の動きに対し、反発も強まっています。
****ミャンマー:爆発で2人死亡、8人負傷****
ミャンマー東部のタイ国境の町ミヤワディで6日夜、爆発物が爆発し少なくとも男性2人が死亡、8人が負傷した。AFP通信は当局者の話として、死亡した2人が爆発物を仕掛けようとして誤って爆発させた可能性があると伝えた。爆発物は自動車から市場に投げ込まれたとの情報もある。
ミヤワディがあるカイン(カレン)州東部では、少数民族カレン族の武装組織「カレン民族同盟」(KNU)が反政府武装闘争を続けている。一方で今年実施の総選挙を前に軍事政権は、KNUから分裂した政権寄りの「民主カレン仏教徒軍」(DKBA)に対し、今月10日までに国境警備隊として完全に政府軍の指揮下に入るよう求めている。
DKBAが政府軍に統合されれば、カレン族はタイとの国境密貿易で得ている利益を失う。爆発事件の背景は不明だが、ミヤワディ周辺では今月に入り武装勢力による政府軍への襲撃が相次いでいる。【8月7日 毎日】
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少数民族側の抵抗には、“国境密貿易で得ている利益”(部族によっては麻薬製造も)という既得権益が絡んでいるようです。
【インドも軍政との関係改善へ】
対外的な面では、国際社会から同じように批判を浴びている北朝鮮との接近が報じられています。
*****ミャンマー:北朝鮮外相が訪問 首相らと会談******
北朝鮮の朴宜春(パク・ウィチュン)外相は30日から31日にかけ、ミャンマーの首都ネピドーで軍事政権のテインセイン首相、ニャンウィン外相、チョーサン情報相と相次いで会談した。会談内容は不明だが、2国間協力強化などを話し合ったとみられる。
北朝鮮外相のミャンマー公式訪問は、07年の国交回復後初めて。両国は1983年の北朝鮮工作員による爆破テロ「ラングーン事件」で断交したが、共に国際社会で孤立を深めた90年代以降、水面下で協力関係を再開したとされる。
ミャンマー側は首相が朴外相と会談することで北朝鮮重視の姿勢を示す一方、最高指導者のタンシュエ国家平和発展評議会議長は会談に応じなかった。北朝鮮によるミャンマー核開発支援疑惑など、両国関係の強化に懸念を示す米国などに一定の配慮を示した形だ。・・・【7月31日 毎日】
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ミャンマーが、北朝鮮の協力支援で国内数カ所の施設で核開発を進めているとの報道もあったように、最近の両国の接近は周知のところですが、インドも中国に対抗する形でミャンマーに秋波を送っているとか。
****インド舞台の外交 中国の影 ミャンマーと協力、前面****
ミャンマー軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長が、(7月)25日から5日間の日程でインドを訪問している。「世界最大の民主主義国家」を自負するインドはかつて、ミャンマーの民主化運動を弾圧する軍事政権を激しく非難した歴史をもつ。しかしミャンマーで影響力を拡大する中国への対抗上、同議長を厚遇し軍政との協力姿勢をアピールするなど、現実路線を強めている。(中略)
インドのこうした対応は、かつては考えられないことだった。1980年代後半から90年代前半までは軍政を厳しく批判していたからだ。特に88年の民主化運動の際には、スー・チーさんら民主勢力を支持する姿勢を鮮明にしていた。(中略)
しかし、インドが欧米とともに軍政批判を強めている間に、中国がミャンマーで影響力を拡大した。ベンガル湾に面するミャンマーの港湾では、整備支援などを通じて中国の存在感が高まっており、インドにとっては安全保障上の問題にもなっている。
こうしたことから、インドは少しずつ軸足を軍政批判から関係改善へ移し、2006年にはカラム大統領(当時)がミャンマーを訪問、関係を強化する方針を打ち出した。【7月29日 産経】
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民主化云々の理念より、安全保障的な立場が優先するのが国家の論理・・・と言えばそれまですが、北朝鮮やイランと同様に、中国が問題国との関係を維持・強化することで国際的批判の実効を失わせています。
中国は、国際社会における中国のイメージアップ戦略の一環として、中国政府が主導する「国家イメージ広告」を作成中で、10月1日の国慶節(建国記念日)に合わせ、アメリカやアジア・アフリカなど世界中の主要メディアで放映する意向と報じられています。しかし、そうしたイメージ戦略より、現実の外交路線を再考することの方が、中国の評価を高めることにつながると思うのですが・・・。
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