孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  あいまいな“停戦“ 月内に国連停戦監視団300人派遣 他に打開策なし

2012-05-10 22:17:32 | 中東情勢

(5月7日 戦車の上でシリア軍兵士と語る国連監視団メンバー “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7007424374/in/photostream

監視団の訪問時には戦火が収まり、立ち去ると再燃
****シリア:政府軍情報機関のビルで爆発、40人以上死亡****
シリアの首都ダマスカスにある政府軍の情報機関が入るビル近くで10日、爆弾が2発爆発した。シリア国営テレビは、40人以上が死亡し、170人以上が負傷したと伝えた。
AFP通信によると、爆発は10日朝の通勤通学時間帯に発生した。国営テレビは「テロリストによる攻撃」と伝えているが、トルコに拠点を置く反体制派組織「シリア国民評議会」は「政府が背後にいる」と主張している。【5月10日 毎日】
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シリアでは、アナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)の調停案に沿って、「現地時間4月12日午前6時」から“停戦”していることになっており、国連監視団も現地に入ってはいますが、「『テロ組織』による攻撃に対抗する権利は留保する」としているシリア・アサド政権は、その前段階としての「4月10日までの部隊撤収」を履行しておらず、戦車部隊などが配置されたままとなっており、戦火も停止していません。

****シリア:停戦順守は遠く 監視団といたちごっこ****
アナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)の調停によるシリアの停戦は、国連監視団の訪問時には戦火が収まり、立ち去ると再燃する「いたちごっこ」が続いている。
アサド政権が監視団と接触した市民を標的にしているとの情報がある一方、反体制派も当局者の「暗殺作戦」を進めているとされ、双方とも「停戦順守」の状況にはない。

「頼むから残ってくれ。あなたたちがいれば殺りくはやむ」。動画サイトに投稿された映像で、シリア中部ホムスの住民が現地入りした監視団に懇願した。反体制勢力の強いホムスは連日、激しい砲撃に見舞われていたが、監視団訪問で突如、沈静化したという。

中部ハマでは監視団の到着前に戦車が撤退し、住民は歓喜して反体制デモを繰り広げた。だが、監視団が去ると再び攻撃の火蓋(ひぶた)が切られ、反体制派によると、30人以上が死亡する事態に暗転した。
現在ホムス、ハマ両市には監視団員が2人ずつ常駐している。

アナン特使のファウジ報道官はスイスで記者団に「監視団と接触した市民が狙われているようだ」と語った。反体制派組織「シャム・ネットワーク」のムハンマド氏も毎日新聞の電話取材に「アサド政権は監視団をもてあそんでいる」と訴えた。

国連は近く監視団員を30人に増やす方針だ。しかし、アサド政権は反体制派支援国からの派遣を拒否しており、さらなる増強は難航も予想される。国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は27日、「(アサド政権の)抑圧は容認できない。我慢ならない段階に入った」と非難した。

一方、反体制派も、強硬な活動を継続しており、AP通信によるとダマスカスなどでは停戦後、反体制派が治安幹部を射殺する事件が相次いでいる。多くは当局者が朝、自宅を出たところを襲われている。

また、ロイター通信などによると、シリア北部で28日、地中海からボートで上陸しようとした「テロリスト」を当局が阻止。沖合では大量の弾薬などを積んだ船をレバノン軍が拿捕(だほ)した。武器はリビアから流出したもので、シリア反体制派向けとみられるという。
シリア国営紙は28日、潘事務総長のアサド政権批判に反論し、「テロ行為を助長する発言だ」と論評した。【4月29日 毎日】
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【「現場(の安定化)に大きなインパクトを与える」】
こうした状況で、国連監視団300人を今月末までに配備することになっています。

****アナン氏「シリア、内戦の恐れ」 月内に監視団配備へ****
国連とアラブ連盟の合同特使のアナン前国連事務総長は8日、国連監視団の配備が決まった後も暴力がやまないシリアの情勢について、「全面的な内戦に陥る可能性がある」と警告した。アサド政権に弾圧の完全停止を改めて求め、監視団300人を今月末までに配備させたいと述べた。

アナン氏は、国連安全保障理事会の会合にジュネーブからビデオ会議で参加して情勢を報告。記者会見では、政府軍の重装備兵士や戦車などの数は減ったものの、まだ街中に配備されており、反体制派との戦闘も断続的に続いていると説明した。

アナン氏は監視団について「現場(の安定化)に大きなインパクトを与える」とし、派遣を急ぐ考えを強調。情勢を落ち着かせたうえで、政権と反体制派の対話を促したい意向だ。
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国連の潘基文事務総長も9日の国連総会会合で、国連シリア停戦監視団の軍事要員を今月末までに定員の300人とする考えを示し、各国連加盟国に協力を求めています。
しかし、実質的な停戦合意が成立していないなかでの国連監視団による停戦監視の実効性を疑問視する向きが少なくないのが現状です。

****シリアPKO、尽きぬ不安 停戦合意ないまま月内に本隊****
国連は23日、シリアのアサド政権軍と反体制派の停戦監視のため、最大300人で構成される平和維持活動(PKO)の本隊派遣を決めた。だがPKOの前提となる紛争当事者間の停戦合意がないままでの「見切り発車」。派遣に必要な決議を採択した安全保障理事会の理事国からも、実効性に疑問の声が出ている。

「シリア人はPKOが政権の残虐行為を抑え、市民の人権保護につながると期待するが、政権は過去、我々をだまし続けた」
23日に開かれた安保理会合で、米国のライス国連大使が述べた。国連のパスコー政治局長がシリアの現状を「停戦は不完全」としながらも、停戦監視要員の派遣は「事態の沈静化につながる」と力説した後の発言だ。国連事務局の見立ては「楽観的過ぎる」と暗に批判する形になった。

従来のPKOは、紛争当事者の停戦合意成立後の展開を原則にしている。今回は当事者間に明確な停戦合意がないうえ、戦闘が断続的に続き、「混沌(こんとん)とした戦地で、あいまいな『停戦』を見張るようなもの」(国連幹部)だ。また、安保理関係者によると、シリア政府の強い意向で監視要員を「完全な丸腰」(非武装)にしたといい、安全面でも不安を残す。

さらに、国連決議は、監視要員の移動と行動の自由を保障するようシリア政府に求めているが、国連の飛行機やヘリコプターを使うことに同政府が難色を示している。そのため、「本来は独立した存在であるべき監視要員が、安全も移動手段もシリア政府に頼る恐れがある」と懸念する声が安保理関係者に出ている。

一方の反体制派も足並みはバラバラだ。安保理関係者や国連幹部の話を総合すると、15日に現地入りしたPKOの先遣隊が、政権と反体制派の双方と公平に協議しようとした。だが、反体制派をまとめるリーダーは見つからず、双方の理解を得た活動計画を立てることができないという。

反体制派のシリア国民評議会は「300人では少ない。政権側の動向を監視するためには少なくとも3千人の要員が必要だ」としている。【4月25日 朝日】
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ただ、“あいまいな『停戦』”にせよ、監視団を避けての“いたちごっこ”にせよ、何もしないよりはまし・・・とは言えるかと思いますので、もし300人で足りないなら更に増員するなどの対応をとれば、沈静化に向けたいくばくかの効果は期待できるのではないでしょうか。
とにかく、今は他に打つ手がありませんので。

【「戦時」と「平時」が混在する現況
シリア国内の現況については、“アサド政権の武力弾圧が続くシリアでは「戦時」と「平時」が混在する。連日死者が出る中部ホムスは一部が廃虚と化したが、首都ダマスカスでは一見平穏な日々を送る住民も多い”【5月9日 毎日】という状況です。

****不気味な静けさ続く首都=うごめく反体制感情―シリア****
反体制派弾圧が続くシリアの首都ダマスカスは、表面的に平穏な状態が続いている。
民衆蜂起「アラブの春」に触発された反体制運動は、アサド政権の強権支配に封じ込められつつあるとの見方もある。
だが、水面下では反体制感情が渦巻き、政権打倒を目指す武装組織も息を潜めて反転攻勢をうかがっていた。

人民議会選が行われた7日、市内の投票所では一部で行列が見られたが、多くは閑散としていた。人民議会や外務省がある中心部に隣接するクファルスーサ地区では先週、治安部隊に市民5人が殺害され、反体制感情が高まっていた。
同地区はイスラム教スンニ派住民が自動車修理や家具製造工場、農場を営み、のどかな風景が広がっている。ある住民は「地区住民は家族みたいなものだ。だからアサド政権の不正や市民虐殺に反対し、結束して反体制デモを行うことができる」と話した。

アサド政権の中枢を占めるイスラム教少数派アラウィ派と、反体制派の大部分を成すスンニ派の宗派間内戦の様相を呈する中、クファルスーサ地区以外でもスンニ派のミダンやカブーンなどの地区で反体制デモが頻繁に起き、「政権打倒を」といった落書きが目立つ。

住民によれば、大統領派の民兵組織「シャビーハ」や治安組織が数時間おきにこうした地区を巡回。記者もカラシニコフ自動小銃を携行した一般車両に乗った5人組に遭遇した。ある市民は「7割程度の市民が反体制だが、多くはデモに参加したくてもできない。命を失う可能性があるためだ」と打ち明けた。【5月8日 時事】 
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****震える住民「命狙われる」=無人都市に響く銃撃音―壊滅の反体制派地区・シリア中部****
アサド政権による反体制派弾圧が続くシリアの中部ホムスに8日、アナン国連・アラブ連盟特使の調停案履行を監視する国連停戦監視団に同行して入った。

シリア第3の都市は、反体制武装組織が拠点としたため、政府軍の総攻撃を受け、ゴーストタウンの様相を呈していた。残った市民は「最近も政権の狙撃手に何人も殺されている。いろいろしゃべりたいが、命を狙われる」と唇を恐怖で震わせた。

かつては約200万人が住んだホムスのバーバアムル地区。反体制デモが頻繁に起き、反体制武装組織「自由シリア軍」が市民を守るために支配下に入れたため、ヘリコプターやミサイルによる攻撃で壊滅状態に陥った。現在、市内の別の地区や国内外に人々は逃れ、住民の姿はほぼ見当たらない。

行政庁舎や銀行が入居するビルが立ち並ぶ市中心部も、大通りに人の姿はない。調停案に基づく停戦で戦闘は停止しているが、銃撃や砲撃の痕跡が生々しく残り、乾いた銃撃音が散発的に響く。

市中心部のウータ地区では、治安関係者が近くで目を光らせる中、バーバアムル地区の家を失った22歳の大学生が恐怖を押し殺し、声を絞り出して苦境を訴えた。反体制派地区出身というだけで検問所で拘束され、1時間以上も暴力を振るわれたという。政権はビルの屋上に狙撃手を配置しており、数日前にも、射殺された人の遺体を収容するのすら困難だった。

別の50代の男性が「バッシャール(アサド大統領)は人殺しだ」と怒りをあらわにしたところ、周りの少年たちも同調した。宗派間内戦の様相を呈する中、反体制デモを主導したイスラム教スンニ派地区は徹底的に破壊され、大統領と同じアラウィ派の地区や異なった宗派・宗教の市民が混在する地域の被害は目立たない。【5月9日 時事】
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選挙にも期待できない、軍事介入も考えにくい現状
フランスやギリシャで注目の選挙が行われた今月7日には、シリアでも複数政党制に移行した初の選挙が行われてはいますが、反体制組織は「弾圧下での選挙に何の正当性もない」としてボイコット、アサド政権側が政治改革の進展をアピールする色合いが強い選挙となっています。【5月7日 読売より】

アメリカ国務省のトナー副報道官は7日の記者会見で「このような状況下で議会選を実施するのは、ばかげている」「市民の基本的人権が否定され、政府が市民に日常的に攻撃を仕掛けている状況で、信頼できる選挙を実施することは全く不可能だ」と述べ、選挙の正当性を全面的に否定する見解を示しています。【5月8日 毎日より】

本来であれば、停戦後に向けた大きな節目となるべき選挙ですが、政権側のプロパガンダ的な意味合いしかなく、殆んど注目もされていません。

シリアの反政府運動は“アサド政権の中枢を占めるイスラム教少数派アラウィ派と、反体制派の大部分を成すスンニ派の宗派間内戦の様相を呈する“状態となっていますので、もし“公正”な選挙が行われれば、国民の7割を占めるスンニ派に支持される反政府勢力が勝利するものと思われます。
政権を失えば、アサド大統領と家族は国外へ亡命ということもできるでしょうが、反政府勢力弾圧に手を染めた多くの政権支持者には報復の嵐が待っています。彼らにはもはや引き返す道はないのが現状です。

ということは、政権を追われれば混乱の責任を追及されることが必至のアサド政権が、負ける“公正な選挙“を行うことは考えられません。

外国の軍事介入についても、国連安全保障理事会での武力行使容認決議にはロシアと中国が反対するとみられ採択できる状況ではないことや、中東情勢に占めるアサド政権の重要性などから、現実性は今のところありません。

選挙も軍事介入もあてに出来ない状況では、たとえ実行性の疑問視されている国連監視団であっても、先述のように“何もないよりはまし“ということではないでしょうか。

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