孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  「挙国一致多党連立政権」か、再選挙か ユーロ離脱も現実味を増すなかでの正念場

2012-05-11 22:41:20 | 欧州情勢

(反緊縮策を掲げ第2党へ躍進した急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・ツィプラス党首 再選挙になれば第1党も実現しそうな勢いですが・・・ “flickr”より By Maxflush http://www.flickr.com/photos/maxflush/7004240574/

緊縮策を推し進めた連立政権に対し、国民は厳しい審判
6日に行われたギリシャ議会選挙で、予想通り緊縮財政を行ってきた与党は、緊縮財政下で生活に苦しむ国民世論の反発を受けて惨敗しました。

****ギリシャ総選挙で連立与党が過半数割れ、反緊縮世論根強く****
2012年05月07日 15:51 発信地:アテネ/ギリシャ
6日行われたギリシャ総選挙は、財政緊縮策を推進してきた連立与党が過半数割れを喫した。融資の条件とされた緊縮策を推し進めた連立政権に対し国民が厳しい世論を突き付けた形で、ギリシャ政局とユーロ圏の経済安定化はますます先行きが不透明となった。

内務省の中間集計結果(開票率99%)によれば、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と新民主主義党(ND)を合わせた連立与党の得票率はわずか32.1%と、前回2009年総選挙での77.4%から大きく下落。欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)による融資の条件として両党が合意した支出削減策の継続が極めて難しくなった。

議会第1党は新民主主義党が維持したが、同党の得票率としては過去最低を記録。また、かつて高い支持率を誇った全ギリシャ社会主義運動は急速に支持を失い、前回の半分以下の得票率で第3党へと転落した。
変わって議会第2党には、緊縮策に反対する急進左派連合(SYRIZA)が浮上。また、極右政党「黄金の夜明け」など2党が新たに議席を獲得し、議会を構成する政党数は7党と分裂が進む結果となった。【5月7日 AFP】
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第1党は6時間で組閣断念、第2党は再選挙を意識・・・組閣難航
選挙前から、与党の惨敗は予想されていましたが、過半数を維持できるかは微妙とされていました。
結果は、第1党に与えられる50議席を使ってもNDとPASOKの合計は149議席と過半数に届かず、その後の組閣作業が難航、再選挙の可能性が取り沙汰されていることは、報道のとおりです。

与党2党にどこか1党でも協力すれば、緊縮策を維持する形の組閣ができるのですが、これだけ不人気な緊縮策維持に手を貸す党はなかなか出てこないようです。

組閣は、第1党の新民主主義党(ND)が試み、それがうまくいかなければ、第2党の急進左派連合(SYRIZA)、次いで第3党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が、それぞれ3日間の期間を与えられて試みます。
それが、すべて失敗したら再選挙ということになります。

余談になりますが、比例代表制によって過半数を制する党がなく組閣が混乱する事例(1年半組閣できなかったベルギーなど)は散見されますが、第1党に50議席を与えるとか、期限を切った組閣ルールなど、それなりの工夫はされているようです。まあ、今回はそれでも混乱していますが。

世界が注目するなか、最初に組閣を試みた新民主主義党(ND)は、僅か6時間で組閣を断念しました。
この背景としては、“政局運営の鍵を握るSYRIZAに責任を持たせる駆け引きの一環”【5月8日 毎日】とか、“連立協議の一巡後、大統領が各党党首を呼んで組閣の不成立を確認する際に、NDに主導権を取り戻すための瀬戸際作戦”【5月8日 毎日】とかの指摘もありますが、よくわかりません。
後述のように、再選挙になればNDなど与党勢力は、今回以上のダメージを受けると言われているなかでの淡白さは、何か腹積もりがあってのことか・・・という感はありますが。

第2党の急進左派連合(SYRIZA)が主張する反緊縮財政の左派連合は最初から成立の目処がたたないこともあって、SYRIZAの組閣工作は、再選挙を睨んだ動きに終始した感もあります。

“主張の近い左派小政党だけでは過半数に届かない。本格的な連立協議には中道右派・NDや中道左派・PASOKの協力取り付けが必要だが、両党との協議は組閣に許された3日間の最終日に回され、議会に議席のない左派小政党や市民団体との話し合いを優先。「組閣作業に名を借りて、再選挙を視野に左派勢力のさらなる大同団結をめざすパフォーマンスで、早くも事実上の選挙活動を始めている」(地元メディア)のが実情だ。”【5月8日 毎日】

“ギリシャの連立政権協議は、選挙後2日で行き詰まった。財政緊縮策反対を掲げて一躍第2党に台頭した急進左派連合(SYRIZA)が、話し合いどころか、再選挙になだれ込む野心を隠さず、対決姿勢をむき出しにしたためだ。”【5月9日 毎日】

急進左派連合(SYRIZA)が強気なのは、再選挙となれば、更に党勢を拡大できる状況があるためです。
***急進左派、支持率急伸=再選挙なら逆転首位も―ギリシャ世論調査****
ギリシャ・メディアが10日伝えた総選挙後の世論調査によると、政党別支持率で急進左派連合(SYRIZA)は27.7%と第1位となった。選挙で第1党となったNDは20.3%となり、再選挙になれば緊縮財政に反対するSYRIZAが逆転する可能性もある。

ただ、同党の議席数は128と過半数(151議席)には届かず、安定政権には他党との連携が必要となる見通し。次いでNDは57議席、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)36議席となると予測されている。【5月11日 時事】
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ギリシャ支援見直しの動きも
ギリシャの組閣が難航し、再選選挙による政情混乱の可能性が高まるなかで、緊縮財政の継続を前提にギリシャ支援を行ってきたEUも、今後のギリシャ支援に慎重になる姿勢をすでに見せています。
欧州金融安定化基金(EFSF)は9日、ギリシャに対して10日に実施する予定だった融資52億ユーロ(約5400億円)を、42億ユーロにとどめると発表しています。残る10億ユーロ分の実行の可否は、14日のユーロ圏財務相会合で協議されることになっています。【5月11日 産経より】

【“緊縮策を段階的に撤回する”ことで「挙国一致多党連立政権」樹立の試み
こうした再選挙への動き、ギリシャ支援体制の見直しの機運の拡大のなかで、組閣の最後の試みとして第3党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)による組閣工作が行われています。
さすがに、これがラストチャンスということで、これまでよりは多少、事態打開に向けた動きもあるようです。

****ギリシャ連立交渉、歩み寄り…再選挙回避も****
ギリシャ総選挙後の連立交渉で、第3党の財政緊縮策支持派、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首は10日、緊縮策反対派の最穏健派「民主左派」のクベリス党首と会談した。
両党首は、緊縮策の段階的見直しを目指す超党派政権の樹立に向け、ともに歩み寄る姿勢を示した。緊縮策を当面維持しつつ、再選挙を回避する突破口になる可能性がある。

クベリス党首は会談で、〈1〉同国がユーロ圏に残る〈2〉ユーロ圏などと合意した緊縮策を段階的に撤回する――ことを目的に、3年間の期限で超党派政権を樹立する案を提案した。ベニゼロス党首は会談後、「双方(の立場)は非常に近い」と述べた。両党に緊縮策支持派の新民主主義党(ND)が加われば、3党の合計議席数は議会過半数(151)を超す168議席になる。【5月11日 読売】
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緊縮策反対派の最穏健派「民主左派」のクベリス氏は先に「ND・PASOK両党だけとの連立は組まない」と表明しており、今回の枠組みに急進左派連合(SYRIZA)を取り込んで「挙国一致多党連立政権」が可能かどうか・・・というところですが、どうでしょうか。

急進左派連合(SYRIZA)としては、これを蹴って再選挙に持ち込めば、先述のように第1党の座が転がり込んできそうな状況です。
ただ、そうなると、反緊縮策政権樹立という流れが現実のものとなり、EUによるギリシャ支援のストップ、ギリシャのユーロ離脱というシナリオも現実味を増し、ギリシャ経済は破綻する事態も想定されます。急進左派連合(SYRIZA)はその全責任を負う立場ともなります。そこまでの覚悟があるのか・・・?

市場でささやかれる「ギリシャのユーロ離脱」】
一方、市場では「ギリシャのユーロ離脱」が現実の問題として論議されています。

****ちらつくユーロ離脱 市場は織り込んだ動き****
欧州各国の国債を売買する市場では、財政不安のある南欧諸国の国債が売られ、そのお金が「安全地帯」とみられているドイツや日米の国債に逃げ込んでいる。スペインやイタリアの10年物国債の利回りは6%前後で高止まり。1.5%台と低いドイツ国債との差は開くばかりだ。

ギリシャが再選挙に突入すれば、政府の意思決定は当面できない。市場の関心は、ギリシャの混迷が周辺国にどう波及するかに移っている。「スペインやイタリアなど大国の財政再建に悪影響を与える」(大手銀行)という不安が市場を覆っている。

そんな中、ささやかれ始めたのが「ギリシャのユーロ離脱」だ。再選挙の結果次第では、離脱論が現実味を帯びる可能性がある。市場にとっても、ほかの国への危機の本格的な波及を避けるために、ギリシャをユーロから切り離した方がいいとの見方がある。

「ギリシャが今後1年半の間にユーロ圏を離脱する確率は50~75%」。米金融大手シティグループは10日、こんなリポートを公表した。選挙前は50%だったが、選挙後の混乱をみて確率をアップさせた。
ギリシャは3月、いったん債務不履行(デフォルト)になり、金融機関がもつギリシャ国債は減っている。金融システム全体に与える影響は以前より小さくなっており、「離脱しても大混乱が起きるとは考えにくい」(野村証券の木内登英氏)。

だが、実際に離脱できるかどうかは別問題だ。ユーロ圏には離脱の取り決めはなく、抜けるにはギリシャが欧州連合(EU)から脱退するしかない。EUから抜ければ、巨額の支援も止まることになり、ギリシャが失うものは大きい。

ただ、ユーロ圏に残ることは、ギリシャに厳しい現実を突きつける。今春、EUなどは総額1300億ユーロ(約13兆4千億円)の追加支援を決定。ドイツなどは支援停止もちらつかせながら、緊縮策の実行を迫るとみられ、経済のいっそうの悪化と「背中合わせ」だ。

各国は14日にユーロ圏財務相会合、23日にはEU27カ国の非公式首脳会議を開き、ギリシャ問題の対応を探る。欧州メディアによると、ドイツのショイブレ財務相はこう述べた。「ドイツはギリシャのユーロ圏残留を望むが、それはドイツが決めることではない」(ブリュッセル=野島淳、ロンドン=星野眞三雄)【5月11日 朝日】
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“緊縮策を段階的に撤回する”という、いささか玉虫色の合意で、とにもかくにも「挙国一致多党連立政権」を成立させ、時間稼ぎをしながら対応していくのか、それとも、再選挙に突入し、国家破綻の危機にも直面しかねない緊縮財政見直しの方向に舵を切るのか・・・決めるのはギリシャ国民です。
(現実問題としては、キャスティング・ボードを握っているのは急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・ツィプラス党首のように見えます)
まさに正念場です。


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