孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカのエルサレムへの大使館移転 反対が多い米ユダヤ人社会 強く支持する原理主義的福音派

2018-05-12 21:26:57 | アメリカ

(エルサレムで演説するトランプ氏。左はイスラエルのネタニヤフ首相(2017年5月)【2017 年 12 月 8 日 WSJ】
それにしても、イスラム教徒女性のスカーフはあちこちで問題視されますが、アメリカ大統領がキッパを被るというのは、どうなんでしょうか?)

準備が進む大使館移転 パレスチナではさらなる抗議行動も 懸念される流血の事態
TPP離脱、パリ協定離脱、イラン核合意離脱などと並ぶエルサレムを首都と認めるトランプ大統領の“決断”による在イスラエル大使館の移転が、イスラエル建国70年となる今月14日に行われます。

****エルサレムで米大使館移転準備進む 標識設置、道路脇には花畑****
米国の在イスラエル大使館が西部テルアビブからエルサレムに移転する14日が迫る中、エルサレムでは「米国大使館」の方角を示す標識の設置が進んでいる。
 
大使館はエルサレム市内の南部にある総領事館の建物に移転する。小高い丘の上にある総領事館に向かう道路の両脇には米、イスラエル両国の国旗が並び、道路脇には米国旗をかたどった花々が植えられている。
 
ロイター通信によると、米国大使館が移転した後の16日には、中米グアテマラが大使館をテルアビブからエルサレムに移すほか、5月下旬には南米パラグアイも同様に大使館を移転する見通し。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「残る米大陸の国々が、大使館を移転しないよう願っている」と述べた。【5月12日 産経】
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当初はトランプ大統領自身の開設式典出席も・・・との話もありましたが、結局、トランプ氏の長女イバンカ大統領補佐官、ムニューシン財務長官の他に多くの連邦議員らが出席する形で、トランプ大統領はビデオによる演説を行うと発表されています。

アメリカに追随する南米パラグアイは伝統的な友好国であり、グアテマラはイスラエルへの支援を信仰の柱とするキリスト教福音派の影響が強く、影響力のあるユダヤ社会も存在しているとか。キリスト教福音派については、また後ほど。もちろん、アメリカの強い影響力もあるのでしょう。

今回の措置については、立場によって賛否が明確に分かれます。
移転を喜ぶイスラエル側に対し、長年住んでいた土地を追われたパレスチナ側では、エルサレムの首都認定は現状を固定化し、将来的な問題解決を放棄するものとして、反発が広がっています。

イスラエルにとって建国70年なら、パレスチナにとっては、土地を奪われて70年ということになります。

ガザ地区境界での抗議デモにイスラエル軍は実弾で応戦、犠牲者が増えています。
(4月10日ブログ「イスラエル・パレスチナの“憎悪”の連鎖 反ユダヤ主義の欧米への拡散 新たな反ユダヤ主義」など)

****米大使館移転の抗議デモ、死者40人超える ガザ地区****
米国がイスラエル建国70年の14日に大使館をエルサレムに移転するのを前に、パレスチナ自治区ガザ地区の境界付近で11日、パレスチナ難民の帰還を求める大規模な抗議デモがあった。ガザ保健省によると、イスラエル軍の銃撃などでパレスチナ人1人が死亡、900人超がけがをした。
 
イスラエル軍によると、デモには約1万5千人が参加した。一部が火炎物を使ったり、タイヤを燃やしたりし、軍は実弾や催涙弾などを発射した。3月末から毎週金曜日に行われているデモでの死者数は、40人を超えた。
 
パレスチナ側は、米大使館がエルサレムに移転する14日と、イスラエル建国に伴ってパレスチナ人約70万人が難民になった「ナクバ」(大破局)から70年の15日、大規模な抗議デモをする予定。イスラエル側との緊張が一段と高まる恐れがある。【5月12日 朝日】
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ガザを実効支配しているハマスのガザ地区指導者シンワル氏は10日、イスラエルとの境界のフェンスが近く大規模デモによって突破される恐れを警告しています。【5月11日 時事より】もし、そうした事態となれば、これまでにない流血は避けられません。

リベラル傾向が強い米ユダヤ人社会 即時移転賛成は16%、移転そのものに反対する人は44%
一方、アメリカ国内に目を転じると、トランプ支持派と反トランプ派の深い分断があることは周知のところです。
ユダヤ人社会に限ってみれば、トランプ大統領の親イスラエル路線を強く支持しているのだろう・・・と思いがちですが、必ずしもそうではないようです。

もちろん、アメリカ・ユダヤ人社会には、全米ライフル協会をも凌ぐ最強のロビー団体とも言われる共和党支持のAIPACのような団体もありますが、ユダヤ人全体で見ると、むしろリベラルな傾向が強く、トランプ大統領のエルサレム大使館移転やイラン核合意離脱などに反対し、イスラエルの保守的姿勢に距離を置く人々が多いようです。

****党派政治の深い溝がユダヤ系社会を分断する****
米大使館のエルサレム移転に米ユダヤ人が反対 保守・リベラルの対立軸は信仰にも勝る

アメリカで5人のカトリック教徒に信仰を語らせれば、同じ宗教の話をしているとは思えないかもしれない。人々の宗教的志向は、この半世紀の問で、政治的な党派性を色濃く反映するようになった。

例えば保守派のカトリック教徒は、リベラルなカトリック教徒より保守派のユダヤ教徒とのほうが、共感するところは多いだろう。
 
政治的な断層はさらに、ユダヤ系アメリカ人とイスラエルを疎遠にしつつある。若い世代を中心とするアメリカのユダヤ系コミュニティーは、米大使館のエルサレム移転、イラン核合意、パレスチナ問題の3つの外交政策について、明らかにイスラエルと距離を置き始めている。
 
アメリカーユダヤ人委員会(ATJC)が昨年9月に発表したユダヤ系アメリカ人の世論調査によると、米大使館の「即時移転」に賛成する人は16%、「イスラエルとパレスチナの和平交渉の進展と連動して後日の移転」に賛成する人は36%。移転そのものに反対する人は最も多い44%だった。
 
この数字は、アメリカにはびこる党派分裂を如実に反映している。共和党ユダヤ人連合と保守派のロビー団体「米・イスラエル広報委員会(AIPAC)」は、大使館移転を称賛する。

一方で、リベラルな親イスラエルのロビー団体「Jストリート」は、「具体的な恩恵はなく、深刻なリスクを招きかねない無益な策」だと批判。昨年12月には米国内の大学でユダヤ研究に従事する学者186人が、トランプ政権に失望したと訴える公開書簡に署名した。(中略)

リベラルの理想と現実
こうした国際情勢の動向は、ユダヤ系アメリカ人とイスラエルをさらに疎遠にする恐れがある。ユダヤ系アメリカ人の49%がイラン核合意に賛成しており、反対は31%だ。 

昨年12月、イスラエルのハーレツ紙にある論説が掲載された。タイトルは、「トランプに愕然とし、ネタニヤフに裏切られ、ユダヤ系アメリカ人のリベラル派は見捨てられた孤立感に襲われている」。
 
アメリカのリベラルなユダヤ人は、「自分たちが夢見る啓蒙的なイスラエルと、ユダヤ人入植を推し進める神権政治の現実との折り合いをつけることができない」のだ。(中略)
 
ユダヤ系コミュニティーに占める保守派の割合は、アメリカの19%に対し、イスラエルは約2倍の37%。彼らイスラエルの保守派は「イスラエル・ファースト」を掲げ、国家主義的な傾向を強めている。
 
「イスラエルで新国家主義と宗教的右派が台頭」するにつれて政治的にはるかにリベラルなユダヤ系アメリカ人とますます疎遠になっていくと、政治学者のブレントーサスリーは言う。
 
それが最も顕著なのは、パレスチナ問題だ。ガザ地区のパレスチナ人に対するイスラエルによる不当な扱いを、ユダヤ系アメリカ人の論客は厳しく批判している。

ポートマンも、「70年前にホロコースト(ユダヤ人人虐殺)からの避難場所として建設された」イスラエルが「残虐
行為に苦しむ人々を虐待することは、私のユダヤ人としての価値観と相いれない」と語る。(後略)【5月15日号 Newsweek日本語版】
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トランプ政権の公約実行に大きな影響力を持つキリスト教原理主義・福音派
ユダヤ人社会が決して親イスラエルではないということになると、何がトランプ大統領を親イスラエルの方向に走らせているのか・・・。

よく指摘されるのが、保守的・原理主義的なキリスト教福音派の存在です。

****キリスト教原理主義とは****
キリスト教原理主義の特徴は、宗教的体験によって回心し、聖書の言葉をそのまま神からの言葉と信じ、個人救済を求めて福音活動に勤しむことにある。

個人救済よりも社会正義を重視し、聖書を歴史的・批判的に解釈し、他の宗教にも割と肯定的なキリスト教主流派(穏健派、世俗派)とは対照的だ。

今日、米国人の約4分の3がキリスト教徒、そのうち約半数がプロテスタント、約4分の1がカトリックである。プロテスタントはメソジスト派やユニテリアン派などさらに細かな宗派に分かれるが、それらは総じて主流派に属する。

かたや、原理主義はそうした宗派にまたがって広がっており、しばしば「福音派」(エバンジェリカルズ)と称される。

カトリックにはそうした宗派は存在しないが、それでも保守派と主流派は存在する。現在、キリスト教徒の約半数近くが原理主義的と言われている。

つまり、大雑把に言えば、米国人の約4割近くがキリスト教保守派ということになる。【2015年12月09日 渡辺靖氏 BLOGOS】
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宗教に関する知識がなく、上記解説がどこまで正確なものかの判断はできませんが、近年のアメリカ政治において、宗教保守派の影響が極めて強いことは周知のところで、“米国人の約4割近くがキリスト教保守派”となれば、それもそのはず・・・といったところでしょう。

女性スキャンダルを見るまでもなく、トランプ大統領自身が敬虔なキリスト教徒とは全く思えませんが、ペンス副大統領がこうした宗教右派の代表的存在で、その支持票を集めることでトランプ大統領の現在の地位があります。

****エルサレム首都認定、背後にキリスト教福音派の強力な根回し*****
ドナルド・トランプ米大統領は6日、エルサレムをイスラエルの首都に認定すると発表した。トランプ氏が大統領に就任する前から、保守的なキリスト教福音派はエルサレムの首都認定を求め、ロビー活動を展開していた。
 
ユダヤ系米国人の間では、エルサレムの首都認定では賛否が分かれている。これは、パレスチナ側とのいかなる和平合意にも多大な影響を及ぼす政治問題となる。

エルサレムの首都認定は、聖書の指示だと多くの福音派教徒が考えており、福音派指導者はほぼ一様に首都認定を支持している。
 
福音派の指導者は支持者に対し、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転するよう嘆願する電子メールをホワイトハウスに送るよう呼び掛けた。トランプ氏に近い複数の福音派指導者によると、トランプ政権発足以降、大統領やホワイトハウス関係者とは頻繁にこの問題を話し合っていた。
 
トランプ氏の福音派助言団体のメンバー、ジョニー・ムーア氏は「これは福音派への対応だけで決定されたわけではないが、福音派の影響なしでは決まらなかっただろう」と語った。(中略)

歴代大統領はエルサレムを首都に認定すると公約に掲げたものの、いったん就任すると実行を見合わせた。
 
多くのユダヤ系米国人は現状に満足し、米国の曖昧な姿勢が和平交渉に役立つとみていた。米国ユダヤ人協会(AJC)が9月に実施した調査によると、大使館を直ちにテルアビブからエルサレムに移転することを希望したのは全体の16%に過ぎない。和平交渉と合わせてのみ移転するべきだと回答したのは35%。全く移転するべきではないと回答したのは44%だった。
 
リベラル派ユダヤ系ロビー団体「Jストリート」のジェレミー・ベンアミ代表は、出口調査によると多くのユダヤ系米国人は政治的には左寄りで、トランプ氏に投票したのは23%だけだと指摘。エルサレムを直ちに首都と認定することを推したのはキリスト教福音派と少数のユダヤ系米国人だと語った。
 
ベンアミ氏は「外交政策を不必要に逸脱させ、抗議行動をもたらしかねない無謀な決定だ」と指摘。その上で「圧倒的多数のユダヤ系米国人が求めたことではない」と話した。
 
ただ、エルサレムの首都認定を後押しするユダヤ系団体の中には、共和党に多大な影響力を持つものもある。カジノ業界の大立者で共和党候補への超大口献金者であるシェルドン・アデルソン氏は、在イスラエル米国大使館の移転を長年求めてきた。アデルソン氏の広報担当者はコメントの要請に応じなかった。
 
正統ユダヤ教の指導者もお概ね移転を支持している。正統派はユダヤ系米国人の1割程度を占める。米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の関係者によると、AIPACもこれ以上遅らせないようにトランプ氏に圧力を掛けていた。
 
イスラム教団体からローマ法王フランシスコに至るまで、そのほか多数の宗教家はトランプ氏の決定を批判している。

福音派はトランプ氏のコア支持層
大使館移転はユダヤ人にとっては一般的に政治問題だが、多くのキリスト教福音派には信仰上の問題だ。2013年のピュー研究所の調査によると、白人の福音派の8割超は、イスラエルは神がユダヤ人に与えた土地だと信じていた。一方、この割合はユダヤ系では4割にとどまった。
 
大統領選で圧倒的にトランプ氏に投票した福音派は、トランプ氏のコアの支持層でもある。トランプ氏は宗教的保守派との数々の選挙公約を実行に移している。(中略)
 
(保守派団体「家族研究協議会」(FRC)の代表で南部バプテスト派牧師の)パーキンス氏は、エルサレムの首都認定で和平合意成立の可能性が高まったとの見方を示した。

ただ、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが併合した東エルサレムを含めて、エルサレムのどの部分もパレスチナ側に与えることには賛成していない。

多くの人々がエルサレムを首都と認めることに反対するのは、和平合意が結ばれれば、エルサレムの一部をパレスチナに委譲しなければならないと考えているからだ。
 
パーキンス氏は「イスラエルが自分たちの土地をさらに放棄するようになる合意に乗り気な福音派などいないと思う」とし、「われわれは聖書の見地から考える。その土地は誰に与えられたのか」と話した。
 
エルサレムを巡る福音派の動きを非難する向きは、福音派はユダヤ人のためではなく、イエスの復活にはユダヤ人がエルサレムを支配しなければならないと黙示録が説いていると信じているからだと指摘する。(中略)
 
トランプ氏の福音派助言者はこの説明を退けた。
ファースト・バプテスト・ダラス教会の牧師でトランプ氏の福音派助言団体のメンバーを務めるロバート・ジェフレス氏は創世記を引用し「神はユダヤ人にイスラエルを与え、3000年前にエルサレムをイスラエルの首都に決めた」と語った。「神がイスラエルを愛するから、われわれもイスラエルを愛する」と話した。【2017 年 12 月 8 日 WSJ】
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キリスト復活・最後の審判のためには「イスラエルの回復」が必要・・・と言われても・・・・
「聖書の見地から・・・」と言われるなんとも言いようがありませんが・・・。

****クリスチャン・シオニズム****
クリスチャン・シオニズムは、神がアブラハムと結んだ「アブラハム契約」に基づき、シオン・エルサレムがアブラハムの子孫に永久の所有として与えられたとするキリスト教の教理の一つ。

全教派で認められている・信じられている訳ではなく、むしろ信じている者は一部であり、アメリカのキリスト教プロテスタントの福音派の一部や、ドイツルーテル教会のマリア福音姉妹会[1]、末日聖徒イエス・キリスト教会などで信じられている教理である。この教理を信じる人をクリスチャン・シオニストと呼ぶ。(中略)

この立場では、イスラエル(パレスチナ)を神がユダヤ人に与えた土地と認める。さらに、イスラエル国家の建設は聖書に預言された「イスラエルの回復」であるとし、ユダヤ人のイスラエルへの帰還を支援する。

キリストの再臨と世界の終末が起こる前に、イスラエルの回復がなされている必要があると考え、イスラエルの建国と存続を支持する。【ウィキペディア】
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世界の終末、キリストの復活、最後の審判・・・のためには、ユダヤ人がエルサレムを支配しなければならない、だからエルサレム首都認定を支持し、パレスチナ人に返すことなどとんでもない・・・・という話になると、信仰の話であり、もはや議論のレベルを超えています。

ただ、決定のすべてではないにしても、こうした宗教右派・福音派の影響が世界のリーダー国アメリカの姿勢に大きく影響しているとしたら・・・どうしたらいいのでしょうか?

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