孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル・パレスチナの“憎悪”の連鎖 反ユダヤ主義の欧米への拡散 新たな反ユダヤ主義

2018-04-10 22:26:16 | パレスチナ

(3月28日 パリ、ホロコーストを生き延びた85歳のユダヤ人、ミレイユ・クノルさんが殺害されたのを受け、反ユダヤ主義に抗議するデモ【4月5日 日経】)

パレスチナ人銃撃して歓喜するイスラエル軍兵士
パレスチナ・ガザ地区で3月30日、かつて住む土地を奪われたパルスチナ人とイスラエル軍との間で、17人ほどが死亡、1400人超が負傷者するという大規模な衝突が起きた件については、3月31日ブログ“パレスチナ・ガザ地区 境界に押し寄せる群衆にイスラエル軍発砲 米大使館移転・ナクバで高まる緊張”で取り上げたところです。

第1次中東戦争の期間中にはパレスチナ人およそ70万人が住む場所を追われたされており、抗議デモは5月15日まで続く見通しです。5月15日はイスラエル建国の翌日に当たり、パレスチナ側では「ナクバ(大惨事)」と呼ばれています。

4月6日にも、大勢の死者・負傷者を出す事態となっています。

****ガザ地区のデモでまた衝突、パレスチナ人7人死亡(注:その後9人に増加) 400人超負傷****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラエルとの境界付近で6日、抗議デモを行ったパレスチナ人らがイスラエル軍と衝突し、パレスチナ人7人が死亡した。

ガザ地区は1週間前にも大規模なデモが2014年のガザ紛争以降最悪の流血の惨事に発展する事態が起きていた。

ガザの保健省によると死者には16歳の若者も含まれていた。この他に408人のパレスチナ人が病院や医療センターで治療を受けた。(中略)

パレスチナ側は積み上げたタイヤを燃やし、境界フェンス越しにイスラエル兵士らに石を投げつけた。兵士らは催涙ガスと実弾射撃で対応した。タイヤを燃やすのはイスラエルの狙撃兵に対し煙幕を張るのが狙いだ。

抗議デモはガザ地区南部のハンユニスのイスラエルとの境界付近やガザ市の東などで行われ、イスラエル側の推計で2万人が参加した。

デモ参加者は数万人がデモを行ってイスラエル軍と衝突になりパレスチナ人19人が死亡した1週間前の3月30日より少なかった。

イスラエルの実弾射撃に対する批判が高まる中、国連のアントニオ・グテレス事務総長は特にイスラエル側に対し、死傷者を出さないため武器使用の自制を呼びかけていた。(後略)【4月7日 AFP】
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3月30日のデモでは、負傷者1400人余りのうち758人はイスラエル軍からの実弾を受けてのものと報じられています。

“イスラエル軍は催涙弾を発射するなどして応じた。同国軍は兵士に対し、フェンスを壊すような行為が行われた場合、実弾を発射しても罪に問わない−と指示したとの情報もある。”【4月7日 産経】

もちろん、“フェンスを壊すような行為が行われた場合”云々は、境界線を守るうえでは自衛のための行為とも言えます。(射殺してかまわないとも言いませんが)

問題は、そうした指示が現場で実際にどのように運用されているのか・・・過剰な発砲はないのか・・・というあたりです。

以下の報道は、“過剰な発砲”どころか、パレスチナ人を標的としたゲーム感覚の射撃が行われていることをうかがわせます。

****パレスチナ人銃撃し歓喜する部隊・・・・イスラエル軍、動画を調査****
パレスチナ自治区ガザ地区の国境付近で、イスラエル軍の狙撃手が非武装のパレスチナ人を銃撃し、兵士らが歓声を上げているとみられる動画がインターネット上で拡散したことを受けて、イスラエル軍は9日、この動画を調査していると発表した。
 
先月30日以降、ガザ地区との境界付近で抗議活動を行っていたパレスチナ人計31人が死亡しており、イスラエルに注目が集まる中でこの動画が浮上した。
 
イスラエル軍は、動画は「何か月も前」に起きた出来事を撮影したものとみられるとする一方で、「徹底的に調査する」と言明した。
 
国境フェンスのイスラエル側から、録画機能のある双眼鏡または照準器で撮影されたとみられるこの動画は、イスラエル民放のチャンネル10が初放映して以来、インターネット上で広く共有された。
 
この動画ではまず、境界付近を歩いている非武装のパレスチナ人とみられる数人に対し、発砲するかどうか話し合う声が聞き取れる。
 
その後狙撃手がそのうちの一人に向かって発砲したとみられ、人が地面に倒れる様子が捉えられている。
 
カメラの後方からはヘブライ語で、「やった、すごい映像が撮れたぞ! あのくそ野郎め」と叫ぶ声が聞こえる。
 
イスラエル側は、国境フェンスへの加害行為や侵入、攻撃を阻止する必要がある場合のみ発砲してきたと主張している。【4月10日 AFP】
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イスラエル・パレスチナの“憎悪”の連鎖
イスラエルとパレスチナの間の“憎悪”を考えると、想像に難くないところです。

もちろん、“憎悪”はイスラエル側だけでなく、パレスチナ側にも強く存在し、しばしば報じられるのはパレスチナ人によるイスラエル兵士・市民殺害の事件です。

3月16日には、ヨルダン川西岸北部ジェニン西郊のユダヤ人入植地付近の路上で、パレスチナ人の男が運転する車がイスラエル兵に突っ込み、兵士2人が死亡、兵士2人が重軽傷を負っています。

3月18日には、ルサレム旧市街で、イスラエル人の警備員がパレスチナ人の男に刺され、死亡。男はイスラエルの警察官によってその場で射殺されています。

こうした現実の脅威にさらされているイスラエル側も、当然に厳しい対応で臨むことになります。

****兵士たたいた少女に禁錮8月=イスラエル軍と司法取引―パレスチナ****
イスラエル軍当局は(3月)21日、イスラエル兵の顔をたたくなどしたとして、軍事裁判にかけていたパレスチナ人少女(17)との間で、禁錮8月と罰金5000シェケル(約15万円)を科す司法取引で合意した。イスラエルのメディアが伝えた。
 
少女は昨年12月、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラ近郊にある少女の自宅前でイスラエル兵2人に対し、顔をたたいたり、体を蹴ったりしたとして逮捕され、暴行罪を含む12の罪で軍事裁判所に起訴された。
 
この時の様子を撮影した動画が内外で広まり、少女はイスラエルに対する「抵抗の象徴」としてパレスチナで英雄視される一方、イスラエル側からは「テロリストだ」(レゲブ文化・スポーツ相)と厳しい処罰を求める声が上がっていた。

AFP通信によると、少女は21日、記者団に「占領下に正義はない。これは違法な裁判だ」と訴えた。【3月22日 時事】
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両者の“憎悪”は繰り返される中東を舞台にした戦争、イスラエル建国(パレスチナ側からすればナクバ(大惨事))へとさかのぼります。

イスラエル建国に関しては、旧約聖書の「約束の地」にまでさかのぼる・・・という話にもなるのでしょうが、現在のような“憎悪”が生まれたのは、イスラエル建国からでしょう。

最近話題となったサウジアラビアのムハンマド皇太子の「どんな土地においても人は自分の平和な国に住む権利を有する」「パレスチナ人もイスラエル人も、自分の国を所有する権利があると思う」という発言は、政治的意図や影響は別にして、発言内容そのものは“常識的”でもあります。

しかし、その常識が、パレスチナ難民の帰還をどうするのか、ユダヤ人入植地をどうするのか・・・といった現実にあっては通用しないのがパレスチナ問題です。

反ユダヤ主義の欧米への拡散 新たな反ユダヤ主義
イスラエル・ユダヤ人へのパレスチナ人・アラブ・イスラム側の憎悪は、中東だけでなく、移民をとおして遠くドイツでも問題化しているとも報じられています。

****ドイツをむしばむ「新たな反ユダヤ主義****
移民の子供世代に偏見が拡大、学校が温床に

ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)生存者を祖父に持つソロモン・ミハルスキさんは、ベルリンの学校に通うのが大好きだった。移民の子供が生徒の大半を占め、多様性に満ちて生き生きとした雰囲気だったからだ。

だが自分がユダヤ教徒であることをうっかり友人に話した日から、周りの生徒から差別的な言葉を浴びせられるようになった。拳銃のようなものをふりかざす生徒に処刑すると脅されたこともあった。
 
ミハルスキさんのようなケースは他にも多く報告されている。警察が昨年把握したドイツ国内で発生した反ユダヤ主義思想に基づく事件は1453件と、過去7年のうちの5年の件数を上回っている。

米国ユダヤ人会議などの団体は、警察に通報されるのは実際の発生件数の3分の1にも満たないとしている。

ホロコーストの舞台となった国でこのような偏見が根強く残る現状は、数十年に及ぶ反ユダヤ主義根絶の努力が徐々に覆され、従来その思想を支持してきた極右勢力以外にも広まっているのではとの危惧を呼んでいる。
 
ドイツ国内のユダヤ組織のトップ、ヨセフ・シュスター氏は30日に記者団に対し、「ドイツ国内で反ユダヤ思想を持つ新世代が成人に達しつつあるのではないかと恐れている」と述べた。
 
ドイツ警察当局は、国内で発生するこのような事件の90%以上は極右勢力によるものとみている。

だがユダヤ人の活動家や被害者らは、このデータが誤解を招いていると話す。警察は加害者が不明な場合、極右関係者によるものと頭から決めてかかるためだ。
 
同じような問題はドイツ以外でも見られる。パリでは先月、ホロコースト生存者の女性が殺害される事件が発生。検察は反ユダヤ主義を掲げる人物による犯行だったとした。

こうした事態を受け、欧州ではさりげない差別的発言から陰惨な暴力行為に至るまで反ユダヤ的な行為が広まっているとの認識が高まっているが、各国政府は有効な対策を打てずにいるようだ。

イスラム系移民との対立
反ユダヤ主義的な行動を監視するベルリンの非営利団体「JFDA」のレビ・サロモン代表は、ユダヤ教徒に対する暴力的な憎悪犯罪(ヘイトクライム)の多くはイスラム教徒によるものだと話す。
 
「イスラム系コミュニティーに汚名を着せたり一般化したりすることは間違っている」と同氏はしつつも、「そこに具体的な問題がないとしてしまうのは、それ以上に誤った行為だ。この問題に対処するための戦略を急いで考案しなければならない」と続ける。
 
一方で、イスラム教徒が多数を占める国から新たに入国した移民が持つ偏見や固定概念が影響しているとする見解もある。

これらが東欧からの古い移民や一部ドイツ人が持つ反ユダヤ主義思想と合わさり、今の危険な潮流を生んだとする考え方だ。
 
ドイツの教職員協会の代表、ハインツ・ペーター・マイディンガー氏は、学校が反ユダヤ主義の温床になりつつあると話す。

特に移民の子供たちが生徒の70~100%を占めるベルリンの学校でその傾向が強いとし、ドイツ語をしゃべれず権力に反抗的な「親が問題の要となっている」という。

アラビア語やトルコ語を話すコミュニティーでは、イスラエルとパレスチナの対立をドイツ国内のユダヤ教徒に照らし合わせて見ているケースが多いと話す。(中略)
 
ユダヤ教団体の関係者らは、教育を通して反ユダヤ主義に対抗しようとするドイツ政府の方針が今は通用しなくなっていると話す。多くのコミュニティーではドイツ語が通じず、ナチズムやホロコーストについてほとんど知られていない場合も多いからだ。
 
反ユダヤ主義的な犯罪の統計に問題があると指摘されたことを受け、ベルリンの当局はユダヤ教団体と手を組み、2015年に独立機関の「RIAS」を立ち上げた。(中略)
 
イスラム教徒が加害者として名指しされることが増える中、一部のイスラム系団体も対応に乗り出している。ドイツの独イスラム教徒中央評議会のアイマン・マツェック代表は、10人のイマーム(宗教指導者)にラビ(ユダヤ教指導者)と共に問題を抱えるベルリンの学校を訪問させる意向だと話す。【4月2日 WSJ】
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おそらくイスラム系移民は、現状への不満のはけ口として、ユダヤ人という“なじみ深い敵"への憎悪をつのらせているのでしょう。

現在、欧米では“新たな反ユダヤ主義”が広がっており、反ユダヤ主義が「イスラムとイスラエルの対立」というより大きな戦いと一緒にされている点でこれまでと異なるとも。

****台頭する反ユダヤ主義 ****
筆者が生きてきたこの50年、ありがたいことに欧米社会で反ユダヤ主義が政治的に問題になることはなかった。しかし状況は変わりつつあるようだ。
 
3月28日、パリで反ユダヤ主義に反対する大規模なデモ行進があった。その数日前にホロコーストを生き延びた85歳のミレイユ・クノルさんが殺害され、マクロン仏大統領が「彼女はユダヤ人であるという理由で殺された」と発表したことを受けたものだった。

また、ロンドンでも同26日、英労働党内に存在する反ユダヤ主義に抗議するやや小規模なデモが起きた。

パリでは3月28日、ホロコーストを生き延びた85歳のユダヤ人、ミレイユ・クノルさんが殺害されたのを受け、反ユダヤ主義に抗議するデモが起きた。

■1930年代のユダヤ人排斥の復活か
4月8日にはハンガリーで総選挙が実施される。露骨な反ユダヤ主義的な発言ではないものの、誰が聞いてもユダヤ人に対する批判と分かる発言を繰り返すオルバン首相が再選される見通しだ。

米国でさえ、この流れと無縁ではない。昨年8月にバージニア州シャーロッツビルに集まった白人至上主義者や極右団体のデモ参加者たちは、「ユダヤ人に我々の立場を奪わせはしない」といったスローガンを繰り返し叫んでいた。
 
これは1930年代のユダヤ人排斥が再び起きようとしているということか。必ずしもそうではない。

確かに今の反ユダヤ主義には、過去を思わせる要素はある。例えば、今もユダヤ人は怪しげな国際ネットワークを築いているといった見方が再び浮上している。

しかし今回、新しいのは、反ユダヤ主義が「イスラムとイスラエルの対立」というより大きな戦いと一緒にされている点だ。
 
極左はイスラエルを目の敵にすることが多い。パレスチナ難民の人権を奪っているとして、イスラエルを人種差別の代表とみなす向きがある。

一方、極右の最大の敵はイスラムで、彼らはイスラムを様々なテロを起こす連中と欧米に押し寄せる移民と同一視している。

そして多くの場合、極左も極右も自分たちは反ユダヤ主義者ではないと主張してきた。なぜなら極左は人種差別に反対だし、極右は大抵、親イスラエルだからだ。(中略)

■極左と極右が反ユダヤ主義の温床になり得る
(中略)極右と極左は互いを敵だと考えたがるが、彼ら自体が反ユダヤ主義の温床となり得るという共通点がある。

どちらもアイデンティティー政治(編集注、民族、宗教、社会階級など構成員のアイデンティティーに基づく社会集団の利益のために政治活動すること)を好む点だ。

極右の中には自らを「アイデンティティー主義者」と称し、自分たちは白人社会の文化を守るためイスラムと戦っていると信じている者もいる。

極左も政治を集団と集団の対立として考えがちで、各集団にそれぞれの代弁者がおり、それぞれの不満リストがあると考えている。

■アイデンティティー政治は押しつけで危険
アイデンティティー政治は、集団のアイデンティティーを個人に押しつけるものであるため根本的に自由と反する。

筆者の知人の多くもそうだが、筆者自身も複合的なアイデンティティーを持つ。ユダヤ人であり、英国人であり、ロンドン市民であり、ジャーナリストでもあり、歴史学を修めた人間でもある。配偶者はユダヤ人でなく、筆者と同様に宗教を気に掛けない。
 
自由主義的な社会においては、個人のアイデンティティーはそれぞれの手で築くものであり、それは時と共に変化し得る。

個人のアイデンティティーより集団としてのアイデンティティーを重視することは、反自由的なだけでなく、危険でさえある。

そうしたことが、かつてユーゴスラビアで起きた。昨日までの隣人が突然、セルビア人、イスラム教徒、クロアチア人となり、互いに戦う事態に陥った。
 
ユダヤ人組織が反ユダヤ主義に抗議したいというなら、それは構わない。

だが、ユダヤ人の権利もイスラム教徒の権利も守る最良の道は、全員を法の下で平等に守られる権利を持つ一人ひとりの市民として扱うことだ。右派であろうと左派であろうと、アイデンティティー政治こそが脅威なのである。
(2018年4月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 By Gideon Rachman)【4月5日 日経】
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イスラム諸国と対峙するイスラエルに親近感を持つ右翼の反ユダヤ主義というのは、よく理解できないところもありますが、多面的で変化する個人のアイデンティティーより、画一的・固定的な集団としてのアイデンティティーを重視する極左・極右による“自由の圧殺”という点では同意です。

  
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