孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「第2次世界大戦終結以来最悪の難民危機」に揺れる欧州

2015-08-22 22:48:15 | 難民・移民

【8月22日 AFP】

7月だけで10万人超
これまでも何回も取り上げてきた欧州を目指す難民・不法移民の問題はまったく改善しておらず、悲惨な結末を伝える報道が相次いでいます。

****欧州の難民問題「戦後最悪の危機」、伊沖で新たに40人死亡****
イタリア・ランペドゥーサ島沖の地中海で15日、難民や移民希望者が多数乗った過密状態の船から、少なくとも40人の遺体が発見された。

危険を顧みず地中海を渡り、イタリアやギリシャにたどり着いた人々は数十万人に上っており、欧州連合(EU)は「第2次世界大戦終結以来最悪の難民危機」への対応に苦戦を強いられている。

イタリア海軍はツイッターで、「大勢の難民が救出されたが、少なくとも40人が死亡した」と述べた。また、全国紙コリエレ・デラ・セラは、遺体が甲板下の貨物室で発見され、窒息したとみられると伝えた。

生存者は女性45人と子ども3人を含む312人で、ノルウェー船籍の「シエム・パイロット」に移された。この日は他にも、EUが地中海で実施している国境管理作戦「トリトン」で捜索救助活動に参加していた他の船により、400人前後の難民が救助された。

リビアなどから地中海を渡る危険な航海を生き延びた難民たちは、密航のための支払い金額が少ない難民、特にアフリカ系の人々を、人身売買業者が船倉に閉じ込めているとたびたび指摘している。

狭い空間に押し込まれると、壊れそうな船が転覆した場合に溺れるリスクばかりではなく、船の燃料である軽油の煙が命取りになる可能性もある。

EUは、紛争や災害、貧困が要因で欧州に押し寄せている難民や移民希望者が、第2次世界大戦の終結以来、類を見ない規模に膨らんでいるとの見解を示している。【8月16日 AFP】
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今年7月は、確認されたEU側への難民や移民希望者がひと月で10万人を超えています。

****7月の難民、過去最多=10万人超で「緊急事態」―EU****
欧州連合(EU)加盟国と非加盟国の国境警備を担う欧州対外国境管理機関(FRONTEX、本部ワルシャワ)は18日、7月に確認されたEU側への難民や移民希望者が10万7500人に上り、2008年の統計開始後、初めて10万人を超えたと発表した。

難民らの数は3カ月続けて最多記録を更新している。年初から7月までの総数は約34万人となり、昨年1年間の28万人を上回った。

戦闘やテロが続くシリアとアフガニスタンからが多く、FRONTEXは難民らが押し寄せているギリシャやイタリア、ハンガリー当局に「前例のない圧力」がかかっていると指摘した。

FRONTEXは「欧州にとっての緊急事態」と強調し、負担の大きい国への支援をEUの全加盟国に呼び掛けた。【8月19日 時事】 
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EUでは、今年4月にリビア経由でイタリアに入国しようとした難民を乗せた船が地中海で転覆し、約700人が死亡した事件をきっかけに、EU各国に一定数の受け入れ枠を設定しようとしていますが、反対国もあって義務化には至っていません。

7月には自発的な取り組みとして、3万2000人を超える難民を加盟各国で分担して受け入れることを決め、12月までにさらに8000人が割り当てられる予定です。

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・・・・しかし、割り当てに明確に反対する国が出てきたため、事実上、自発的な取り組みになってしまった。

スウェーデン、オーストリアは割り当てに賛成しているが、フランスやスペイン、その他の中欧、東欧諸国は強硬に受け入れを拒んでいる。

イギリスとデンマークはEU共通の難民政策自体から距離を置いているため、今回は1人も受け入れないと拒否している。【8月21日 Newsweek】
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イギリス:英仏海峡密入国阻止を強化
難民受け入れを拒んでいるイギリスですが、アフリカや中東諸国などから集まった移民が、仕事が得やすいと考えられているイギリス入りを目指し、運搬用列車に乗せられて英仏海峡トンネルを通過するトラックなどに隠れて密入国しようと試みており、車両にひかれて死亡する者が出るなど問題が深刻化しています。
(7月31日ブログ“英仏海峡に押し寄せる不法移民 ドイツでは国内割当制で軋轢も 財政難のギリシャでは・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150731

難民・不法移民増加への世論の批判がEU離脱論議にも影響するイギリス・キャメロン政権は、フランスと共同で密入国阻止に取り組んでいます。

****<英仏海峡>密入国阻止 両国で指揮統制センター設立****
英国のメイ内相は20日、英仏海峡トンネルの入り口があるフランスの港町カレーでカズヌーブ仏内相と会談し、トンネルを通って英国に密入国を図る移民問題を巡り、両国の警察がカレーに指揮統制センターを設立、協力して密入国を阻止することで合意した。

カレーには、約3000人の不法移民が集結しており、トンネルに通じる幹線道路が規制され、貨物の輸送などに影響が出ていた。

合意文書によると、指揮統制センターを設立するほか、英国側の資金でトンネルの入り口に通じる道路を覆うフェンスを強化し、夜間でも監視できる赤外線装置や監視カメラなどを増設することで合意。

カレー周辺には数千ユーロで英国への密入国を請け負うブローカーがいるとされ、両国で協力して摘発する。

合意文書では、欧州全体で今年6月までに34万人という過去に例がない規模の難民が中東やアフリカ各国から押し寄せてきたと説明。「(本来自国に戻るべき)経済難民も含まれており、地中海を経由する密航者が欧州に定住する流れを止めなければならない」として、アフリカ各国への支援も行うとした。

仏カレーには昨年9月ごろから英国への密入国を試みる移民・難民が増え、約3000人がテントなどで暮らしている。トンネルから密入国した人数について「誰もわからない」(メイ内相)としている。内務省によると、英国全体では今年の第1四半期だけで、2万5020人の難民申請があったという。

トンネルは列車専用で、車両を運送する貨物列車や国際列車ユーロスターが通行する。【8月21日 毎日】
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急増するバルカン半島北上ルート マケドニアでは警官隊が難民を押し返す
難民・不法移民の欧州へのルートとしては、冒頭記事にもある北アフリカ・リビアなどから地中海を渡ってイタリアを目指すルートより、比較的安全なトルコから近いギリシャの島(コス島など)に渡り、陸路でバルカン半島を北上するルートが最近増加しています。

後者のルートでは、ギリシャからマケドニア、セルビア、ハンガリー、スロバキアなどを経て多くがドイツを目指します。

このバルカン半島北上ルートの急増によって、ギリシャ政府が「わが国の能力を超えている」と、EUへの支援を求めていることや、ハンガリーがセルビアとの国境沿いに高さ4メートルのフェンスの建設していることなどは、8月12日ブログ“難民・不法移民増加 ギリシャ「わが国の能力を超えている」 欧州各国にも広がる波紋”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150812 でも取り上げました。

ギリシャでは登録手続きの遅延や劣悪な環境に苛立つ難民と警官の衝突、更には移民同士の衝突も起きています。

****ギリシャ 支援不足で移民どうしの衝突も****
中東などからヨーロッパに渡る移民や難民が相次いでいる問題で、財政難が続くギリシャの島では、支援が追いつかないため、滞在許可などを求めて移民どうしが衝突するという新たな問題が起きています。

ギリシャには、ことしに入って中東のシリアなどから、13万人を超える移民らが押し寄せていて、このうち人口3万人余りの南東部のコス島には、7000人の移民らが流入しています。

こうしたなか、コス島の警察署の周辺で、15日、滞在許可や限られた食料などを求める数百人の移民らどうしが衝突し、少なくとも1人がけがをしました。

現地では、ギリシャ政府や自治体が、サッカーなどが行われるスタジアムを開放して滞在許可の申請を受け付けたり水や食料などの支援を行ったりしています。

しかし、移民らが急増していることや財政難が続いていることから支援が十分に行き届いていない現実が事態の背景にあるとみられています。(後略)【8月16日 NHK】
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ギリシャの北、マケドニアでは20日に「国家非常事態」を宣言、警官がギリシャからの難民を強制的に追い返す混乱も生じています。

****マケドニア機動隊が難民に閃光弾、8人負傷****
マケドニアの機動隊は21日、同国とギリシャ国境の中間地帯に足止めされた、シリア人中心の難民らに向けて閃光弾を発射するなどして、少なくとも8人が負傷した。欧州では難民問題が危機的状況に陥っている。

ギリシャとの国境に近いエドメニの村付近で、暴動鎮圧用の装備をつけた警官隊は、国境に押し寄せる難民を追い返すためにこん棒で殴ったり、閃光とごう音を発して標的を混乱させる閃光弾を投げたりした。煙を発した閃光弾に驚いた難民たちは逃げ回り、倒れて負傷した人や、顔を血だらけにした青年もいたという。

この件を受け、国際人権団体「アムネスティインターナショナルは警官が空に向けて発砲したとの報告もあり、「難民を押し返すのは国際法に違反しており、受け入れがたい行為だ」と同国警察の対応を非難した。

マケドニアは20日、非常事態を宣言し、国境を封鎖した。同国を通過して欧州北部に移動し、新たな生活を始めることを希望する3000人の主にシリア人の難民たちが足止めされた。

マケドニア政府は21日の一件後、子ども連れや妊婦など「脆弱な」難民の入国を許可し、約500人が国境を越えた。

ギリシャとマケドニア国境地帯では、ここ数日間で難民の数が増加し、21日の一件は難民が警察の非常線に向かい「助けてくれ」と叫びながら押し寄せたことで発生したという。

エドメニでは、数百人の難民が仮設テントや列車内、さらには線路上で寝泊りするなどしている。付近にはポータブルトイレが5つしかなく、ボランティア数人が難民を援助している。

アムネスティは、難民の多くが医療支援を必要としており、中には内戦で負傷した人もいると警告した。【8月22日 AFP】
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スロバキア イスラム難民の受け入れを拒否
バルカン半島北上ルートに位置するスロバキアは、先述のEUの難民割当制には反対している国ですが、20日、難民の受け入れはキリスト教徒に限定したい意向を明らかにしています。

この“イスラム教徒難民は受け入れない”というスロバキア政府の対応にはEU内部から批判の声も上がっています。

****欧州難民危機で、スロバキアがイスラム難民の受け入れを拒否****
スロバキアが受け入れるのはキリスト教徒の難民だけで、イスラム教徒は受け入れない──スロバキア内務省広報官はウォールストリート・ジャーナル(WSJ)にこう語った。

「スロバキアにはモスクが足りないので、イスラム教徒の難民は落ち着かないだろう」というのが、その理由だ。

スロバキアは現在、トルコ、イタリア、ギリシャの難民キャンプで暮らす難民や移住希望者のうち200人を受け入れることになっている。

これは欧州の「玄関口」として難民が集中しているイタリアとギリシャの負担を軽減するためにEU(欧州連合)が加盟各国に割り当てた数。最終的には、EU全体で4万人の受け入れを目指す。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、今年7月の1カ月間にシリア内戦から逃れてきた難民など5万242人がギリシャに押し寄せていると発表した。これは昨年1年間にギリシャに来た難民の総数4万3500人よりも多い。

スロバキア内務省の広報官イバン・メティクはBBCの取材に対して、「その気になればイスラム教徒を800人受け入れることだってできるが、モスクもない土地には適応できないだろう」と語った。

「難民が押し寄せるヨーロッパを助けたいのは山々だが、スロバキアは難民の通過点でしかない。ここでの生活は望まないだろう」

さらにメティクはWSJに対し、「スロバキアにはモスクがない。だからキリスト教徒だけを受け入れたい」と、語った。

結局は自発的な取り組み頼り
この一連の発言は、他のヨーロッパ諸国の怒りを買った。今年の難民流入数が最大80万人にも上るとみられるドイツの外交問題評議会のノルベルト・レットゲン議長は、スロバキアの態度は「ヨーロッパの機能不全」を加速させ、EUの対応をぶち壊しにしている、と非難した。

スロバキア政府は「難民の到着時に宗教について尋ねる予定だ」と表明したが、UNHCRは、各国政府に対して、難民受け入れの際に「差別的でないアプローチ」を取るよう求めている。

EUの行政府にあたる欧州委員会の広報官アニカ・ブライトハードはこう語った。「EU加盟国は、基本的人権を定めた欧州憲法と、難民を保護する共通ルールを尊重し、遵守する義務がある」(中略)

スロバキアのメティクは、自分の発言は宗教差別ではなく、スロバキア社会の結束を維持する意図だったと弁明している。【8月21日 Newsweek】
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スロバキアの報道官の発言については、下記のようにも報じられています。

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ネティク報道官は「宗教が問題なのではないし、差別でもない。スロバキアに住みたくないと思っている人々を1000人以上受け入れるとすれば、それは偽りで不誠実な連帯だということだ」と言う。

「住む場所を強制することはできない。大半の人が数日のうちにドイツや英国、北欧諸国に向けて出国するだろう。これでは何の解決にも助けにもならない」

ただ、もしイスラム教徒がスロバキアに来ることを選び、難民申請をするならば、通常のプロセスで対応するという。【8月21日 CNN】
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どうせイスラム教徒難民はスロバキアに住む意思がないし、スロバキア側にその用意もないので・・・という話のようです。
“宗教差別ではない”とは言っていますが、やはり非常に危ういものが感じられます。

ドイツ 州政府が「もはや限界」と悲鳴
多くの難民が目指すドイツでは、7月31日ブログでも取り上げたように、国全体で受け入れた難民を各地方に割り振る制度になっているようですが、割り当てられた地方では難民希望者保護施設への襲撃事件などの軋轢が生じています。

また、8月12日ブログ冒頭で取り上げた、メルケル首相と国外退去を迫られているパレスチナ難民少女のやり取りのエピソードが示すように、その対応に苦慮しています。

****欧州目指す難民、ドイツに集中=EU全体の対策不可欠に****
戦乱や貧困を逃れて中東などから欧州に入る難民や移民希望者が増加の一途をたどっている。

その多くが押し寄せる経済大国ドイツでは、対応に当たる州政府が「もはや限界」と悲鳴を上げており、欧州連合(EU)全体での対策が不可欠となっている。

独内務省は19日、難民など保護申請者が今年1年間で最大80万人に達し、過去最多を大幅に更新するとの見通しを公表。地中海を渡ってギリシャやイタリアに向かう難民の数もかつてない水準で、その多くは陸路ドイツを目指している。

独国内では、保護申請者の収容施設不足などの問題が顕在化。グテレス国連難民高等弁務官は独紙ウェルトに対し、一部の国に負担が集中する事態は「長期的に見て無理がある」と述べ、他の欧州諸国も難民保護で責任を果たすよう求めた。【8月20日 時事】 
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寛容さと問題の根源へのアプローチ
難民・不法移民の増加が社会に与える影響を考えると、英仏海峡トンネルでの水際作戦を強化するイギリスや、国境にフェンスを建設するハンガリー、あるいは受け入れにくい者を排除するスロバキアなどの対応を一概に否定することもできません。

ただ、いつも言うように「ここはお前らの国ではない!出ていけ!」では、これまで大切にしてきた価値観を踏みにじり、異質な世界に踏み込んでいくような不安を感じます。

戦乱や政治的迫害を逃れための「難民」と、より豊かな生活を求める「経済難民」を区別する考えも、現在の国家の枠組みを前提とした世界にあっては自然にも思えるものではありますが、現在の世界が抱える重大な問題のあらわれとも言え、フェンスを建設してすまされる問題ではないように思えます。

難民問題で問われるのは、自分たちの生き方の問題でもあります。

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