孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  高い経済成長予測の一方で問題も 社会的には急速なヒンドゥー化が懸念される

2023-01-11 23:19:04 | 南アジア(インド)

(ヒンドゥー教で神聖な生き物とされ、街中を堂々と歩く牛【12月31日 DIAMONDonline】)

南インド・ケララ州に行ってきます。

インドの経済状況については下記のように。
「減速」とは言いつつも、6.6%なら日本からすれば「高成長」です。

****インド成長率、24年度は6.6%に減速 世界経済の低迷で=世銀****
世界銀行はインド経済の最新見通しで、同国の2024年度(24年3月終了)の経済成長率が23年度に見込まれる6.9%から6.6%に減速するとの予想を示した。

世銀は「世界経済の減速と不確実性の高まりが輸出と投資の伸びを圧迫する」と指摘。ただ、インフラ支出の拡大とビジネス支援措置が民間投資を呼び込み、製造能力の拡大を後押しすると説明した。

インドは7つの主要新興国市場・発展途上国中で最も急速な経済成長を遂げるとの見方を示した。

24年度以降の成長率は6%を小幅上回る潜在成長率に向かい低下する可能性が高いとの見方を示した。

南アジア地域の成長率は23年が3.6%、24年が4.6%と予想。パキスタン経済の低成長が同地域全体の成長率に影響すると指摘した。【1月11日 ロイター】
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今後については、経済政策の安定性・透明性の問題、内向きの経済政策、マクロ経済上の諸問題も指摘されています。


****成長続けるも「順風満帆」とは言えないインド経済****
2022年12月8日付ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)で、同紙コラムニストのサダナン・デュームが、「インドは中国の製造業の苦境を利用できるか?」との論説を掲げ、米中対立激化やゼロコロナ政策などの中国の諸問題が製造拠点のインドへの移転に追い風になっているが、その成功いかんはインド自身の政策によるところが大きいと論じている。

米アップルは最近、南インドでのiPhone14の製造を発表した。

アップルの発表はインド経済の明るい見通し公表の最中に行われた。JPモルガンは 2025年までにiPhone のインドでの生産は現在の5%から25%になると試算した。

モルガンスタンレーは 2027年までにはインド経済が世界第3位になり、2031年までに国内総生産(GDP)中の製造業の割合は現在の15.6%から21%に上昇し、インドの輸出が倍増すると予想している。

世界情勢も追い風である。米国との対立が激化し、ゼロコロナ政策、政府の過度な経済介入などの中国の失敗による世界的供給網再構築でインドは利益を得ることが可能だ。

人口で中国を超えるインドは潜在的な大市場だ。西側とアジア同盟国はインドと良い関係にあり、米国がインドとのビジネスを難しくする政策を導入するリスクは低い。

一方、インドが正しい舵取りをするかは不明である。インドの製造業戦略は高関税と補助金からなる。今後5年で政府は半導体、自動車など14分野で目標達成企業に2兆ルピア(243 億ドル)を出す予定で、これが5年で30兆ルピア(3650億ドル)の経済効果と600万人の新規雇用を生むと試算されている。


しかし、懐疑的な理由もある。インドのRCEP(地域的な包括的経済連携協定)からの離脱やインド経済の構造的問題である。多額の補助金は汚職を生むし、労働力の熟練不足、社会主義時代の労働法規、劣悪なインフラ、非効率な政府などの問題もある。

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2022年9月にアップルが最新のiPhone14の生産をインドで始めると発表したことを端緒に、インドが中国に代わり世界の工場になれるかを論じたのが上記の記事だ。

同日に米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ(FA)」が「なぜインドは中国に取って代われないのか」との同趣旨の記事を掲載した。(中略)

インド経済の見通しも明るいものが多く、モルガンスタンレーは、今後10年間の世界経済成長の5分の1はインドによると予測している。

FAは、インドは、①構造的優位性、②潜在的ライバルの失速、③政府の投資優遇措置で有利な地位に立つと指摘する。中国を抜く人口、民主主義や法の支配の伝統、若く有能で英語ができる労働者の存在などは、構造的優位性だ。WSJの論説が指摘する劣悪なインフラについても、FAは、ここ数年で劇的に改善され、デジタルインフラなど、一部では米国を凌駕するところもあると評価する。

インド経済が抱える多くの問題点
一方、他の問題の指摘は同様に厳しい。過去2年のインドの経済成長は急速に見えるが、これはコロナによる落ち込みが激しかった反動で、2019年比ではインドは現状で 7.6%成長である。

中国の13.1%に劣り、米国の4.6%との対比でも印象的とは言い難い。アップル、フォックスコンの一方で、グーグル、ウォルマート、ボーダフォンなどは苦境にあり、アマゾンは11月末に幾つかの事業撤退を発表している。

FAが指摘する対インド投資のリスクの最たるものは、経済政策の安定性・透明性の問題だ。

投資時点の規則が後に変更され予想利益を喪失しないか、規則はそのままでも、実際はインド国内のコングロマリットに恣意的に有利に運用されることはないか。これらの点について、過去の事例から、海外企業は政府を十分に信頼していない。

第二は、内向きの経済政策である。モディ政権が掲げる「メイド・イン・インディア」推進のための生産目標実現を条件とする補助金の裏腹として、輸入関税は高止まる。

アップルのようにインド市場向けにインドで生産する企業は限られており、ほとんどの企業は世界的供給網の中にインドを組み込もうとしている。

高関税は海外からの部品調達を困難にする。RCEPからの離脱に代表されるFTA(自由貿易協定)網からの実質的孤立を今後も続けるのはマイナスだろう。

第三は、マクロ経済上の諸問題である。高インフレ、経常赤字拡大、GDP10%に達する財政赤字は問題の深刻さを示している。また、中間層は人口の15%に留まり、いくら情報通信産業で雇用を創設しようとしても、それに対応しうる労働者の数は限られ、雇用増や所得のかさ上げへの効果は限定的だ。


将来的には、米中印の3超大国が世界の趨勢を決める時代が来るだろうが、インドが持つ潜在性を生かすためには、以上述べたような問題に対してインド政府がやるべきことは多いと言わざるを得ない。【1月11日 WEDGE】
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上記は経済的側面の議論ですが、より大きな視点で社会全体を見ると、インドが抱える大きな問題・危うさはモディ政権が進める急速なヒンドゥー化のように思われます。

****ヒンドゥー化が急速に進むインドで起きている深刻な問題とは****
(中略)
モディ政権下のインドでヒンドゥー化が進む
インドのめざましい経済発展はニュースでもよく取り上げられる。コロナ禍を経て、GDP成長率はコロナ前の水準を上回るまでに戻っている。こうした高成長を牽引するのが、2014年の下院総選挙でインド人民党(BJP)が大勝し、発足したモディ政権だ。

実は、与党となったBJPは、ヒンドゥー教至上主義を掲げ、ヒンドゥー教による国家統合を目指している。

だが、そもそもインドは世俗国家だ。政教分離を大原則として、多様性を国の根本に据えている。にもかかわらず、モディ政権下でヒンドゥー色の強い政策が次々と推し進められ、多様性が揺らぐ状況が生まれている。
 
ヒンドゥー化を可能にしているのが、圧倒的多数を占めるヒンドゥー教徒の支持。国民の約8割、10億人を超える人数である。
 
インドは仏教発祥の地だが、ヒンドゥー教やイスラム教の勢力拡大で13世紀頃までには壊滅状態となった。仏教徒が改宗させられ、最下層カーストの不可触民とされた歴史もある。解放運動が高まり、インド独立後に不可触民数十万人が仏教に改宗し、現在も仏教徒の多くがこの流れを汲むが、人口の1%に満たず、キリスト教徒、シク教徒よりも少ない。

イスラム教徒への弾圧が進むヒンドゥー・ナショナリズムの台頭
現在、問題となっているのはイスラム教徒への弾圧である。イスラム教徒は国民の14%超で、人数にすると2億人近い。にもかかわらず、モディ政権は憲法を改正し、インドで唯一イスラム教徒が多数派を占めるカシミール地方の自治権をはく奪してしまった。
 
これを皮切りに、州レベルのイスラム教徒への弾圧が続く。イスラム教徒は豚は不浄として食べないが、牛は食べる。一方、ヒンドゥー教では牛は神聖視され、道路を悠然と闊歩する姿もよく見られる。
 
ヒンドゥー教徒は19世紀の頃から牛の保護運動を展開してきた。
 
そして近年、牛のと殺と牛肉の販売を禁ずる法律を各州が続々と施行。最高裁が牛肉禁止法は無効との判断を出した後も、「食用、取引はよしとしても、と殺は禁止」といった法律が存続している。
 
過激派ヒンドゥー教徒が、牛肉を扱うイスラム教徒を暴行する事件も頻発している。2020年以降も、過激派ヒンドゥー教徒がモスクとイスラム教徒を襲撃する事件は相次いでおり、ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭を不安視する声があがっている。

「カースト」に縛られない職業として優秀な若者たちがIT業界を志す
インドの経済成長の牽引役のひとつになっているのがIT産業だ。IT産業勃興の背景には、ヒンドゥー教のカースト制度を乗り越えようとする若者たちの強い上昇志向がある。
 
カースト制度では、4つの身分に加え、どんな職業につくかを定める事細かな分類がある。その数は2000~3000種類もあるといわれ、驚くほど細分化されている。
 
カースト制度は世襲であるため、代々それが受け継がれる。個人に選択の余地はなく、資質や能力にかかわらず、はじめから職業が決められているのだ。
 
優秀な若者たちがIT業界を志すのは、新しい業界ゆえにカーストの縛りがないことが大きい。そのため、中下層カーストの人々にとって固定化した社会の階段を駆け上がるチャンスもあるのだ。
 
インド工科大学には、IT業界を目指す若者がインド各地から集まってくる。抜群のレベルの高さを誇り、世界的に見ても最難関の高等教育機関のひとつとされる。卒業後は渡米して大学院に進み、そのまま米国のIT業界に入る人も多い。
 
彼らがめきめきと頭角を現し、近年ではグーグル、マイクロソフト、IBM、アドビ、ツイッターなど米国のIT大手でインド出身者のCEO(最高経営責任者)が続々と誕生している。そしてインド出身のハイテク人材のネットワークが、世界に張り巡らされている。

経済格差が固定化され経済成長の妨げとなる懸念も
インドでは1950年にカースト制度による差別が憲法で禁止された。しかし、それはカースト制度そのものを禁ずるものではない。ヒンドゥー教の信仰と密接に結びついて切り離せないうえ、ヒンドゥー教徒は国民の約8割という圧倒的多数を占め、モディ首相のもと、ヒンドゥー色は強まる一方だ。
 
これまでは、カースト制度があるからこそ下層階級の人々も職につき、低賃金ながら稼ぐことができるプラス面があるともいわれた。

だが、それでは激しい経済格差は固定化されたままで、貧困にあえぐ人々は救われない。細かく仕事を分ける制度ではマイナス面も多く、経済成長の妨げになっているという意見も多い。カーストの縛りから脱するため、あえて仏教やキリスト教に改宗する人も増えている。
 
一方では、ヒンドゥー教には優秀な子どもを積極的に援助するさまざまな仕組みもある。カースト枠外の最下層ダリットから大統領になった人物は二人おり、モディ首相も駅でチャイを売る下層カースト出身といわれる。インドのさらなる発展に向けての模索も続いている。【12月31日 DIAMONDonline】
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急速なヒンドゥー化は社会に対立をもたらし、経済成長の妨げにとどまらず、大きな社会混乱の危険もはらんでいます。

また、インドが世界経済をリードする立場に立とうとすとき、国際的にそれが認められることの妨げにもなります。

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