孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リトアニア  日本輸出の原発建設計画に関する国民投票で、建設反対が6割超

2012-10-15 22:50:41 | 原発

(閉鎖されたチェルノブイリ原発と同型のイグナリナ原発 日立が受注したビサギナス原発はこの隣に建設が計画されています。 “flickr”より By Martijn.Munneke http://www.flickr.com/photos/martijnmunneke/4113149104/

原発建設計画が見直される可能性も
バルト三国のひとつリトアニアで14日、議会選挙と併せて、日本の日立製作所が受注したビサギナス原発の建設の是非を問う国民投票が行われました。
国民投票結果は法的拘束力はないものの、建設反対が約63%と賛成(34%)を大きく上回り、議会選挙における建設反対派躍進と併せて、今後の原発建設計画に大きく影響しそうな状況です。

****リトアニア:ビサギナス原発建設反対が6割超 国民投票****
毎日新聞 2012年10月15日 19時25分
 【ベルリン篠田航一】旧ソ連・バルト3国のリトアニアで14日、日立製作所が受注したビサギナス原発の建設の是非を問う国民投票が行われた。中央選管によると、15日朝までの開票で建設反対が62.70%に達し、賛成の33.96%を大きく上回った。国民投票に法的拘束力はないが、同時に投開票された議会選で原発計画の再点検などを求める左派系野党が躍進し、政権交代する見通しになり、日立の原発建設計画に影響が出る可能性を指摘する声も出ている。
 リトアニアは04年に欧州連合(EU)に加盟。その条件として、旧ソ連・チェルノブイリ原発と同型の老朽原発の閉鎖を約束し、09年に稼働を停止した。現在は電力の約7割をロシアからの輸入に依存しており、独自のエネルギー源確保のため原発の新設を急いでいるが、昨年の福島第1原発の事故後、国民の間に原発を不安視する声が広がっていた。
 議会は6月、ビサギナスに計画する原発の建設事業権について、日立製作所と契約することを承認。炉型は改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)で、事業規模は約4000億円。20年ごろの運転開始を目指している。
 議会選は、現地メディアが報じた14日夜の出口調査結果によると、野党の労働党が20%前後の得票率で第1党となり、社会民主党などと今後、左派連立政権樹立に向けた工作を開始する見通し。クビリウス首相率いる保守系の祖国同盟・キリスト教民主党など連立与党側は苦戦しており、近年の財政緊縮策が国民の支持離れを招いたとみられる。【10月15日 毎日】
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上記記事にあるように、リトアニアはEU加盟の条件として旧ソ連・チェルノブイリ原発と同型の老朽原発を閉鎖しましたが、その結果、発電のためのロシアからの天然ガス輸入が増大し、電力価格も高騰しています。
そうした現状を打開するためのビサギナス原発建設計画ですが、安全性と費用対効果の面で国民の支持が得られていない状況です。
一方、国境近くのベラルーシ、ロシア領カリーニングラード州のそれぞれでも原発建設が進められています。

****リトアニア、電力確保で脱ロシア依存 日本から原発輸入****
旧ソ連から独立し、欧州連合(EU)に加わったリトアニアに、日本から原発が輸出される。東京電力福島第一原発の事故後の初案件だが、「ロシアからのエネルギーの独立」をはかりたい政府に対し、野党は不要論を展開。総選挙と国民投票が10月にある。街は原発と政治に揺れ続ける。

■電力確保で狙う「独立」
新原発を待ちわびるビサギナス市は、ベラルーシとの国境に近い緑豊かな湖の街だ。市庁舎前のモニュメントも、道路の両側に並ぶ小さな青い旗も、ツルがモチーフだ。
市の誕生はソ連時代の1975年。もともとは閉鎖されたイグナリナ原発の労働者の街だった。「核エネルギーを扱う慎重さ」との意味を込めて、注意深い性格といわれるツルが街のシンボルに選ばれた。

イグナリナ原発は、86年に大事故を起こした旧ソ連ウクライナのチェルノブイリ原発と同型。91年のソ連崩壊を経て、リトアニアは04年にEUに加盟する条件として、イグナリナ原発の閉鎖を約束させられた。
ロシアのくびきから逃れてEUの傘下に入る――。ビサギナスは、政治的思惑のしわ寄せをくった。約5千人いた労働者は、閉鎖処理に携わる2千人だけになり、多くの技術者は国外へ。街は寂れ、電気料金は6倍に跳ね上がった。

「リトアニアは原子力国家。『独立』のためにも必要です」。ダリア・シュトラウパイテ市長(53)は、原発の賛否を問う10月の国民投票は予算の無駄だと強調した。「福島のような事故は心配していない。地震の多い日本とは条件も違う。技術も進歩している。我々は日本の日立(製作所がつくる原発)を待っています」

原発閉鎖で揺れたのは街だけではない。国家のエネルギー安全保障もだ。約5割だったエネルギー供給のロシア依存は閉鎖後の2010年、8割に膨らんだ。電力のための天然ガスもロシアから高く買わざるをえなくなった。

ソ連崩壊から20年。バルト3国の電力網は依然ロシアに組み込まれ、欧州大陸の送電網にはつながっていない。
リトアニア・エネルギー省のジキマンタス・ワイチュナス副大臣(30)は「エネルギー安全保障のためには、輸入を減らし、欧州のシステムに合わせる必要がある。そのためには原発が欠かせない」と話す。20年にはロシア依存を24%まで落とすのが目標だ。

かつてリトアニアはドイツに占領され、第2次世界大戦下ではソ連に併合された。原発建設を支持する地元誌の記者は言う。「我々には占領された長い歴史がある。『独立』には敏感だ。経済のロシアの影響を下げるためにも、日本や米国の企業を呼び入れ、旧弊を変えなければならない」

■反対論次々、国民投票へ
「グローバル化が進む中でエネルギーの独立とは何の意味があるのか。子供の遊びではない」。かつてリトアニアの首相と大統領を務めたロランダス・パクサス欧州議会議員(56)は、原子力そのものは支持しつつビサギナス原発には反対の立場だ。

リトアニアの国境周辺には原発が次々に建とうとしている。
チェルノブイリ事故で放射能汚染を受けたベラルーシは、国内初の原発をリトアニア国境に近いオストロベツに建設中だ。原子力を成長産業と位置づけるロシアが全面支援している。

そのロシアは、リトアニアに隣接する飛び地のカリーニングラード州でもバルト原発の建設を進めている。ビサギナス原発を含め、北海道ほどの面積の中に三つの原発が建つことになる。それがリトアニアの事情を複雑にしている。
パクサス氏は「原発に国境はない。ロシア、ベラルーシと実利に即した関係を築けないのか。市場原理にのっとり、安ければ買えばいい」。

グリーンパワー研究所のリナス・バルシス所長(51)も「小国に新原発はいらない」と語る。グリバウスカイテ現大統領の補佐官だったが、大統領が原発容認に転じたため辞任した。
新原発に反対する理由は、安全性への疑念と、経済的負担の大きさだ。バイオマス発電を増やす方が、雇用を促進し経済的メリットも大きいと主張する。

三つ目の理由として、新原発を建ててもロシアからのエネルギー独立にはつながらないと指摘した。当面はロシアの電力網につながり、ロシアの意向で原発が止められる可能性もあるからだ。「将来的に欧州大陸網とつながっても、それは欧州とロシアをつないでしまうことになる」

パクサス氏もバルシス氏も、10月14日のリトアニア議会選に自らの勢力を率いて参加する。同時に原発の国民投票が実施されることになった背景には、原発を争点にしたい野党勢力の思惑もあるとされる。
最近の世論調査では5割弱が原発反対の情勢で、投票率が5割に届けば成立する。投票結果は政府の決定を縛らないとしているものの波乱の芽を秘めている。【9月13日 朝日】
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【「どの国も、自国の経済を発展させるためにどんな電力供給源がよいかは自ら選ぶことができる」】
原発新設計画を進めてきたリトアニアのクビリウス首相は、エネルギー資源を有しないリトアニアは、「脱原発」を進める状況にはないことを強調しています。

****リトアニア首相、原発推進に意欲 日立製「最高の品質****
東京電力福島第1原発事故後、初の日本メーカーによる原発新設計画が進むリトアニアのクビリウス首相が、首都ビリニュスの政府庁舎で産経新聞のインタビューに応じ、発注する日立製作所の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)について「最高の品質が保証されている唯一の原発だ」と安全性を強調、今後も原発計画を推進していく強い意欲を示した。リトアニアでは同計画の是非を問う国民投票が10月14日に実施される。

リトアニアは、電力の60%以上をロシアからの天然ガスによる火力発電に頼る。ロシアへのエネルギー依存体質を脱却するため、2006年から原発を建設する計画を立ち上げ、今年6月に国会が、日立と契約することを承認した。

クビリウス首相は、福島の事故後もフィンランドやポーランドなどで原発計画が進行中であることを例に挙げ、「どの国も、自国の経済を発展させるためにどんな電力供給源がよいかは自ら選ぶことができる」と指摘。エネルギー資源を有しないリトアニアは、「脱原発」を進める状況にはないことを強調した。

首相はまた、30年代までの原発稼働ゼロを模索する日本の議論を注視しているとしつつ、ゼロ政策はあくまでも長期展望にすぎず日立との契約や自国の原発計画には影響を及ぼさない考えも示した。

その一方で首相は、リトアニア国境と数十キロ以内の場所に建設される予定の露カリーニングラード州とベラルーシでの原発計画について、「これらの(ロシア企業が建設する)原発は安全性について国際基準を満たしていない上、ロシアとベラルーシ政府は欧州基準のストレステストも実施していない」として深い懸念を表明した。【9月22日 産経】
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日本としても、国内では脱原発を目指しながら国外には原発を輸出するという、整理が難しい状況になっています。

悩ましい「難しい隣人」との付き合い方
リトアニアを含むバルト三国にとって、ロシアとどういう距離感を保つか・・・ということが非常に重要かつ微妙な問題となります。経済的には、地理的に近いロシアとの関係を無視することはできませんが、「嫌ロシア」感情も強く残っています。

****急成長 バルト三国 露への経済依存「?」***
政治的に壁/難しい隣人/エネ政策牽制
1990年代初めに旧ソ連から独立したバルト三国が、経済のロシア依存化に神経をとがらせている。
バルト三国は欧州各国の経済が金融危機で停滞するなか、いち早く5%超の経済成長に復帰した。背景にあるのは資源国として成長を維持するロシアへの輸出増で、地理的にロシアに近い特徴を生かした経済立て直しへの期待は大きい。
しかし約50年にわたってソ連に支配された経験から来る「嫌ロシア」感情は根強く、経済的な接近とは裏腹に、政治的な関係強化には障害が残っている。

「ロシアとの経済関係は深まっているが、20年後のロシアがどんな国かは予想できない」。エストニア国会外務委員会のミヒケルソン会長は、対ロシア関係の難しさを指摘する。
エストニアはリーマン・ショック後の2009年、実質国内総生産(GDP)が約14%縮小する危機に見舞われたが、10年には約3%増、11年には約8%増の成長を取り戻した。今年7月のロシアへの輸出は前年同月比35%増で、ロシアは全体の15%を占める最大の輸出相手国だ。リトアニア、ラトビアも対ロシア輸出が経済を後押しする。

大国ロシアとの関係強化は各国の企業にビジネスチャンスとなる。
リトアニアで音声認証技術などを開発するエトロニカのガルズィウリス会長は、「今の取引先は北欧企業が中心だが、今後はロシアやウクライナに拡大したい」と意欲的。ラトビアでデータセンター事業を展開するDEACの幹部は「ロシアにデータを保存したくない企業からの需要が大きい」と明かす。

しかし三国とロシアとの政治関係は複雑だ。三国は1940年、ソ連に併合され、多数の市民が虐殺された経験がある。91年のソ連崩壊直前に独立を回復し、今ではロシア関係の強化が追い風となっているが、民主化の遅れも指摘されるロシアが「難しい隣人」(ミヒケルソン氏)であることに変わりはない。

ロシアは今年7月、ベラルーシと原発建設契約に調印した。しかし建設地はリトアニア国境に近く、完成時期はリトアニアがエネルギー自給率の向上を狙って日立製作所と建設合意した原発の完成よりも数年早い。リトアニア政府幹部は「ロシアがあえてリトアニア国境近くに原発を建設することに、リトアニアのエネルギー政策を牽制(けんせい)する意図を感じる」と漏らす。

また、エストニア政府は2007年4月、大規模なサイバー攻撃を受けた。当時、第二次大戦で戦死したソ連兵の記念碑の移設問題でロシア系住民による暴動が起きていたことから、「攻撃はロシアによるもの」とも報じられた。【9月22日 産経】
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バルト三国と大国ロシアとの関係は、中国との経済関係が強化されるなかで、中国との距離感に悩む日本を含むアジア各国とも共通するものがあります。

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2 コメント

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Unknown (消印所沢)
2012-10-16 21:53:59
 そりゃあ,日本の迷走を見ていれば,その日本から原発を買うことに,不安にもなるでしょうなあ.
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Unknown (消印所沢)
2012-10-16 21:58:26
 …というか,ブログ主様の地元にも,川内原発があったかと存じますが,地元ではどんなムードなので?
返信する

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