孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  与党の非合法化、大統領・首相の政治活動禁止を求めて検察当局が提訴

2008-03-18 14:35:03 | 世相

(街中では極めて日常的なヘッドスカーフですが、このスカーフがトルコを揺るがす大問題でもあります。 “flickr”より By CharlesFred
http://www.flickr.com/photos/charlesfred/201210819/)

いささか唐突な印象を受けたのですが、トルコ検察当局は今月14日、最高裁に相当する憲法裁判所に、政権を担う穏健イスラム政党「公正発展党(AKP)」の非合法化措置を求めて提訴しました。
トルコの国是である「世俗主義」に反するというのが提訴の理由で、訴えには、ギュル大統領、エルドアン首相ら党幹部70人の5年間の政治活動禁止も含まれています。

昨年選挙に勝利した政権与党を丸ごと非合法化し、しかも大統領・首相の政治活動を停止するというのは、日本人的には“そんな滅茶苦茶な・・・”とも感じられます。
裁判所は17日に提訴の受理を検討すると報じられていましたが、その後どうなったのかはよくわかりません。
エルドアン首相は15日、「訴訟は公正発展党ではなく、国民の意思を標的にしたものだ」と強い反発を表明しています。

トルコは国民の99%がムスリムという国ですが、 “建国の父”アタテュル以来、政治的には明確な政教分離を国是としており、公的な場から宗教の影響を排除するという“世俗主義”をとってきました。
そしてこの国是が脅かされる事態が出現すると世俗主義の守護者を自任する軍が介入して、宗教勢力を排除することをこれまでも繰り返してきました。

1997年にも当時のイスラム主義的な福祉党政権に対し、軍の弾圧が行われ、圧力に屈したエルバカン首相は辞任し福祉党政権は崩壊した経緯があります。
その後、98年には憲法裁判所判決により、福祉党幹部が行った「スカーフ着用問題での反世俗主義的発言」、「シャリア体制の樹立を示唆した発言」などが反世俗主義的であると認定され、福祉党は非合法化され、党幹部も5年間の政治活動禁止を言い渡されました。

このとき福祉党議員の大部分が移籍して結成した美徳党も、2001年にはやはり非合法化され、その一派がつくったのが現政権与党の公正発展党です。
また、エルドアン首相自身、02年には“イスラム的な演説をした”という理由で訴追され、公職を追われたこともあります。
エルドアン首相やギュル大統領など公正発展党のメンバーは、“非合法化”とともに政治活動を続けてきたとも言え、日本人には唐突な今回の提訴も、ある程度“織り込み済み”だったとも思えます。

急進的なイスラム主義政党を出自に持つ公正発展党(AKP)は、昨年7月の選挙では「保守的な民主主義政党」を主張し、「イスラム国家の建設を画策している」との世俗派からの批判をかわしました。
具体的には、イスラム色の強い候補をはずし、国際的に活躍する金融の専門家などを候補に擁立しました。
また、常に世俗主義の象徴として問題になる“公的な場での女性のスカーフ着用禁止”についても、スカーフ解禁を公約からはずしました。

選挙は以前もとりあげたように、好調な経済回復という“実績”を背景とした公正発展党が勝利しました。
解散選挙のもとになった大統領選出についても、ギュル外相(当時)をあくまでも擁立し、はじめてイスラム主義的な大統領が誕生しました。

そして、“やっぱり・・・”というか、スカーフ問題に手をつけます。
今年2月、イスラム女性の象徴とされる髪を覆うスカーフを着用しての大学通学を禁止する規制撤廃に向けた憲法修正案を国会へ提出。
公正発展党の言い分としては、スカーフが着用できないことから大学進学をあきらめたり、外国留学を選択する女性も多く、この規制撤廃は“個人の自由”“教育機会の保障”に基づくものだというものです。

一方で、この学生に限定した措置が、次に公務員にも広がり、やがてはスカーフを着用しない数百万人の女性たちに宗教的・社会的圧力がかかるのではないかと危ぐする見方もあり、首都アンカラでは10万人規模の抗議集会が開催されました。

同法案は2月9日国会で可決、22日にはギュル大統領が、大学でスカーフの着用を認めるようにする憲法改正案を承認しました。
これを受けて、大学監督当局は2月25日、スカーフ着用を認める新法に違反した場合訴追もありうると各大学の学長に対して警告を発しています。

これに対し、最大野党で中道左派の共和人民党(CHP)は27日、スカーフの大学での着用を認める憲法修正は国是の政教分離に反するとして、取り消しを求める裁判を憲法裁判所に起こしました。

今回のトルコ検察当局の“公正発展党非合法化”の提訴は、このような一連の政治的対立、AKPと軍・野党の対立を受けてのものです。
昨年の選挙で1650万票、47%の得票率を獲得した公正発展党のエルドアン首相は、「(彼ら1650万人の)公正発展党支持者を、反世俗主義者だと糾弾することはできない」と述べています。

欧州委員会のオリ・レーンEU拡大担当副委員長は、「欧州型の民主主義では、政治問題は議会で討論され、投票による審判を受ける。法廷で争われることはない」と述べ、司法が政治に干渉すべきではないとの意見を示したそうです。【3月16日 AFP】
確かに、それはそうですが、AKPもそれなら選挙時に明確に公約として掲げるべきだったようにも思います。

恐らく反対する人々が危惧するように、こういうものは一部でも認められると将来的にはなし崩し的に拡がるものではありますが、それが選挙での“国民の選択”であるなら、よその国の人間がとやかく言う問題でもないのでしょう。


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