孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  続く内戦状態 増加する難民 悪化する食糧・医療事情 国内通信も寸断

2023-09-26 23:38:21 | アフリカ

(【国連UNHCR協会】 9月時点の難民・国内避難民状況)

【武力衝突に至った経緯と現況】
スーダンでは2019年4月の強権バシール政権の崩壊後、暫定民主政権が形成、軍のクーデター、軍と民主派の民政移管に向けた協議・・・という目まぐるしい政治プロセスが繰り広げられましたが、今年4月15日、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生し、5か月以上に及ぶ内戦状態が続いています。

****なぜ武力衝突は起こったのか?****
今回の武力衝突は、4月15日の朝、突如始まった。しかし、スーダン国内の政治文脈で見れば、起こるべくして起こった衝突であった。

スーダンでは2019年4月、民主革命により30年間続いたバシール政権が崩壊し、暫定民主政権が形成された。この暫定民主政権下で最高の意思決定機関であった主権評議会の議長ポストが、軍部から民主派グループに交代時期が迫った2021年10月、軍部によるクーデターが発生し、以降、軍部による実効支配が続いた。これに伴い、西側諸国の新たな支援が止まり、経済は混乱し、人々の生活は疲弊した。

その後、1年を経過した2022年12月、軍部と民主派間で改めて暫定民主政権を作る機運が生まれ、暫定民主政権再樹立のための「枠組合意」が形成された。

その後、「最終合意」実現に向け、「権力解体委員会の復活」、「ジュバ和平合意の履行」、「スーダン東部問題の解決」、「移行期正義」の諸課題が順次解消され、最後に「治安部門改革」を残すのみとなった。

具体的には国軍とRSFの統合、特にその時期をめぐっての合意である。国軍は両者の統合を「2年以内に行う」と発表したが、RSFは「10年は必要」とし、両者間の緊張が高まった。(後略)【8月8日 笹川平和財団 国際情報ネットワーク分析 IINA】
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武力衝突は首都ハルツームから、ダルフール等地方にも拡大しています。

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当初、国軍とRSFの戦闘は、ハルツームとスーダン西部のダルフールで行われていたが、徐々に戦闘地域が拡大し、スーダン西部だけでなく、ガダーレフやカッサラなど南東部地域でも行われている。またスーダン南西部のコルドファンおよび南部の青ナイルでは、別の武装グループSPLM-N Al-Hilu派が国軍と交戦を始めている。国としての治安維持機能が維持できなくなっている。【同上】
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8月9日ブログ“スーダン 長期化する武力衝突 これまでの民主化への流れが無に帰する懸念”及び7月14日ブログ“スーダン内戦 エジプトが和平仲介に 蘇るダルフールの悪夢”でも取り上げたように、「即応支援部隊」(RSF)の前身はかつてダルフールで残虐なジェノサイドを実行したアラブ系民兵組織ジャンジャウィードであり、ダルフールでの戦闘は当時の悪夢が再び蘇るものがあります。

犠牲者数については9月初めの報道で“国連の人権事務所は、少なくとも4,000人がこの戦闘によって死亡したと推定されるというが、現地の活動家や医師らは、犠牲者の数はこれよりはるかに多いだろうと述べている。”【9月1日 ARAB NEWS】とも報じられています。

現在戦闘状態はどうなっているのか・・・ウクライナに関しては日々報道がなされますが、アフリカ・スーダンに関しては国際的な関心も低いようで、最近の情勢についてはよくわかりません。

ただ、内戦が沈静化したとか、停戦協議が行われているといった報道もありませんので、そのことから推測すれば、今も戦闘が続いているようです。

【国軍トップ エジプト訪問】
わずかに報じられている情報によれば、ブルハン国軍最高司令官がエジプトを訪問し、シシ大統領と会談したとのこと。会談内容は明らかにされていませんが、その直前のポートスーダンでの演説では「反逆を終わらせるため、戦争に全力を費やしている」と主張しています。

****スーダン軍トップ、エジプト大統領と「危機の解決」協議=包囲解き衝突後初か***
アフリカ北東部スーダンで、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」と戦闘を続けるスーダン軍トップのブルハン将軍は29日、エジプト北部アラメインでシシ大統領と会談した。

大統領府によると、スーダン情勢を巡り「主権と統一、団結を維持した形で危機を解決する努力」について協議した。4月に衝突が始まって以降、ブルハン氏が国外に出たのは初めてとみられる。

ブルハン氏は会談後に記者会見し、「多くの戦争犯罪を犯している」とRSFを非難した。また、「(軍は)この戦争と悲劇を終わらせようと努めている」と語った。

ブルハン氏は28日、北東部ポートスーダンを訪れ、部隊を前に演説。「反逆を終わらせるため、戦争に全力を費やしている」とRSFを敗北に追い込む決意を示していた。

過去4カ月、ブルハン氏はRSFに包囲されハルツーム近郊の基地で身動きが取れないと言われていたが、最近になって基地の外を出歩く様子の動画を公開した。

RSFと包囲を解く密約の成立がささやかれる中、28日の演説ではうわさを強く否定。「軍の作戦が成功した」と主張し、ポートスーダンに続き国外にも出てみせた。【8月29日 時事】 
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****この致命的紛争が解決しなければスーダンは崩壊すると、軍トップが警告****
(中略)「我々は戦争に直面しており、もし速やかに解決しなければ、スーダンは崩壊することになる」と、紅海に面する都市ポートスーダンにおける同国の警察隊に向けたスピーチの中で、ブルハン氏は述べた。

ブルハン氏の発言は、紛争勃発以来初の外国訪問で訪れたエジプトでの29日の同氏の発言と重なるものだ。
この訪問の間に、ブルハン氏はエジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領と会談し、戦闘を終結させる方法について話し合った。しかし、両者共に可能性のある取り組みや条件についての詳細は明かさなかった。

しかし、28日に行われた別のスピーチの際にブルハン氏は、RSFとの和解はあり得ないとして、自軍が準軍事組織RSFを打ち負かすことを誓った。

スーダンの問題と政治に特化したシンクタンク「Confluence Advisory」の創設者で理事のKholood Khair氏によると、将軍はさまざまな陣営に付け込もうとしているという。

「ブルハン将軍およびスーダン軍にはRSFを打ち負かす力があると聞きたい国内の人々とエジプト、そして、停戦が目前に迫っているかもしれないと聞きたい西側国際社会とサウジアラビア」がいると、Khair氏は語った。

5か月近く続く紛争により、首都ハルツームは都市型戦場と化しており、双方ともハルツームの支配権を手にするに至っていない。

2000年代初期に大量虐殺作戦の舞台となったダルフール地域では、紛争が民族間の暴力へと変質しており、国連の人権団体によると、RSFとその同盟相手であるアラブ系武装組織がアフリカ系民族集団を攻撃している。(後略)【9月1日 ARAB NEWS】
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領との会談も報じられています。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と準軍事組織「RSF」の関係に関する話だったようです。

****ゼレンスキー大統領 スーダン軍トップと会談 「ワグネル」への対応めぐり協議か****
ウクライナのゼレンスキー大統領は、スーダン軍のトップと会談したと明らかにしました。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」への対応をめぐり、話し合ったものとみられます。

ゼレンスキー大統領は23日、外遊先のカナダからの帰路にアイルランドに立ち寄り、国際空港でスーダン軍トップのブルハン統治評議会議長と会談しました。

ウクライナ大統領府によりますと、ゼレンスキー氏らは「ロシアが資金援助している非合法武装集団」について協議したということです。この集団は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を指しているとみられます。

スーダンでは4月から軍と準軍事組織「RSF」の戦闘が続いていますが、ワグネルはRSFに武器を提供している疑いがあり、会談ではワグネルへの対応をめぐり話し合ったものとみられます。【9月25日 TBS NEWS DIG】
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【増加する難民 悪化する食糧不足 感染症流行】
こうした状況で確実に悪化しているのが難民増加・食料不足・感染症流行の脅威です。

****スーダン難民100万人突破、食料不足と医療崩壊が深刻化=国連****
国連は15日、4カ月にわたって内戦が続いているアフリカ北東部スーダンから周辺国へ逃れた難民が100万人を超えたと指摘、国内では食料が不足している上、医療を受けられずに人々が死亡していると警告した。

スーダンでは軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が4月15日に始まり、首都ハルツーム近郊や西部ダルフール地方では今なお激しい軍事衝突が続いている。

国連の複数機関は合同声明で「農家が自分や隣人の食糧を確保するために穀物を作付けするには時間切れとなりつつある。医療の供給は乏しい。状況は制御不能となりつつある」と訴えた。

国際移住機関(IOM)の週間統計によると、内戦によりスーダンから周辺国へ逃れた難民は101万7449人。スーダン国内で住居を失った人は343万3025人に上る。

ハルツームやダルフール地方、コルドファン地方にとどまっている何百人もの人々は横行する略奪、長期にわたる停電、通信の遮断、断水に見舞われている。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のエリザベス・スロッセル報道官はジュネーブでの記者会見で、殺害された人の多くの遺体が身元確認もされないまま放置されていると指摘。殺害された人は4000人を超えるとの推計を示した。【8月16日 ロイター】
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難民は更に増加し、年内には180万人を超えるとも予測されています。

****スーダンからの避難民、年内に180万人超 国連が上方修正****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は4日、年内にスーダンから近隣5カ国に避難する難民の数が180万人を超えるとの予想を示した。また、病気や死亡の増加が報告されているとして100万ドルの支援を要請した。

今回の予想値は、スーダン国軍と民兵組織「即応支援部隊(RSF)の紛争ぼっ発直後の5月に示した暫定値のほぼ2倍で、60万人の上方修正となった。

既に、近隣のチャド、エジプト、エチオピア、南スーダン、中央アフリカ共和国に100万人以上が避難。当初スーダンに避難していた出国者が帰国しているケースが多いという。

南スーダンは避難者の3分の1を受け入れる予定。非政府組織(NGO)の国境なき医師団によると、白ナイルを渡って数千人がトランジットセンターに到着しており、多くは発病状態または極度に疲労している。ほかにも、約3日に及ぶ渡河の間に船上で死亡した人々もいるという。

UNHCRは、受け入れ先の国で、栄養失調や、コレラや麻疹などの発症増加が報告されているとして、新たな到着者の健康状態に懸念を強めている。

スーダン関連の難民調整担当者は「充分な資源があれば完全に予防できる疾患によって、子どもたちが死亡しているとの報告を受けることに深い悲しみを覚える。行動の遅れはもはや許されない」と述べた。【9月5日 ロイター】
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感染症については、コレラや麻疹に加えデング熱も。

****戦禍のスーダン、デング熱で数百人死亡****
スーダン医師連盟は25日、戦禍に見舞われている同国でデング熱や急性の水様性下痢の感染が拡大しており、「数百人が死亡した」とする報告書を公開した。「壊滅的な感染拡大」が発生し、大部分が破壊された医療システムをさらに圧迫する可能性があると警告している。

医師連盟は、エチオピア国境近くの南東部ガダーレフ州では、デング熱の患者が数千人に上り、衛生状態が「恐ろしい速さで悪化している」としている。

ガダーレフ州は、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」との戦闘の影響を直接的には受けていないが、多数の避難民が流入するなど人道危機に直面している。

国連によると、戦闘開始から5か月以上が過ぎ、国内の病院の8割が機能していない。

ガダーレフの病院の医療従事者は匿名を条件にAFPの取材に応じ、「病床は空きがないが、子どもを中心に患者が次々とくる」と述べた。入院患者よりも自宅療養している人がはるかに多いという。

医療従事者や国連は戦禍のスーダンで、雨期とインフラの破壊により感染症が流行する恐れがあると繰り返し警告していた。

このほか、北ダルフール州の州都エルファシェルの保健当局は、1週間で13人がマラリアに感染したとの報告を受けたとしている。

首都ハルツームでは、東部ハジユセフ地区でコレラ感染が疑われる急性の水様性下痢で3人が死亡した。地元の感染症関連委員会が25日、明らかにした。 【9月26日 AFP】
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【通信が途絶え、国内でも家族の安否が確認できない】
その他、通信が途絶えているせいで、国内にいても家族の安否確認が出来ない状況になっています。

****戦闘再燃のダルフール、頼みの綱は「手紙」 スーダン****
戦禍に見舞われているスーダン西部ダルフール地方では、携帯電話や電話のサービスが寸断される中、タクシー運転手によって運ばれる手紙が家族らの安否確認のための重要な通信手段になっている。  

アフメド・イッサさん(25)は、情勢が落ち着くダイーンにある道路沿いのカフェで、背中を丸めた姿勢で、南ダルフール州の州都であるニャラ)に残した親族への手紙をしたためていた。スーダン第2の都市であるニャラは、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との間で激しい戦闘が繰り広げられている。

イッサさんはAFPに対し、ニャラの親族と連絡を取り合うための唯一の手段が大抵の場合、手紙だと語った。 

戦闘が始まってから5か月近くが経過する中、「戦闘開始当初から、ニャラに住む人と連絡を取るのは難しかった」と振り返った。状況は悪化を続け、スーダンの人口4800万人の約4分の1が住むダルフールでは、恐ろしい暴力が記録されている。  

ダルフール地方は、2003年に始まった紛争で荒廃した。独裁体制を敷いていたオマル・バシル大統領(当時)に少数民族の反政府勢力が蜂起し、政府がアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード」を利用して反撃。数十万人が死亡、200万人以上が自宅を追われた。  

イッサさんは手紙を丁寧に何度も折りたたみ、「手紙が届くのを一週間待つが、ちゃんと届くかどうか保証はない」「もし届いたとしても、返事が戻ってくるかどうかは分からない」と語った。  

西ダルフール州の州都ジェネイナでは3か月前、戦闘が激化し、ダルフールでの民族間の暴力再燃を象徴する地となった。西側諸国と国連(UN)は、RSFやその支持勢力が関与しているとの見方を示した。  

現在、ニャラが正規軍とRSFの衝突の中心地となっている。医療関係者らによると、ニャラではこのほど、砲弾が民家を直撃し、市民39人が死亡した。ほとんどが女性と子どもだった。国連によると、8月の10日間で、5万人以上が暴力から逃れるためニャラから避難を余儀なくされた。 

運転手がメッセンジャー  
目撃者がAFPに語ったところによると、ニャラでは9月3日、空軍戦闘機がRSFの基地や住宅地を空爆した。爆撃は主に首都ハルツームに限られてきたが、事態がエスカレートしていることを示している。  

人権活動家アフメド・ゴージャさんは、人々はなんとしてでも家族らの安否を確認しようとしていると話した。安全のためにニャラから避難したゴージャさん自身も、ニャラに残した家族の安否を16日間も確認することができず、なんとかダイーンにたどり着いた兄弟の1人と連絡を取り合うことができた。 

「愛する人たちの消息を知らされないまま、この一瞬一瞬も、私たちは死んでいっている」と、ゴージャさんはX(旧ツイッター)に投稿した。  

スレイマン・モファッダルさんは、ゴージャさんのようにニャラに残る家族の安否を気にかける人々がダイーンにある事務所にやってくるのを見てきた。机の上には、青いインクで名前が書かれた、きちんと折りたたまれた紙が積み上げられている。  

手紙の受取人がほんの一瞬でも携帯電話の通信が回復した場合に連絡が取れるよう電話番号が記されているものもある。  

これらの手紙はニャラに向かうタクシー運転手たちに手渡される。「ほとんどの場合、受取人はすぐに返事を書き、ドライバーに託す」とモファッダルさん。運転手は、爆弾や民兵が設置する検問所、雨期の豪雨によって道路が閉鎖されないよう願いつつ、帰路に就く。【9月25日 AFP】
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