孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  イスラエルを国際司法裁判所に提訴 その背景にある国内政治事情 格差・治安の問題

2023-12-30 22:12:29 | アフリカ

(南アフリカ共和国ダーバンのウムゲニ川に沿った緑豊かな河岸斜面にあるパプア・セウゴルムゴルフ場。6番ホールのティーから数十メートルのところに非公式居住区が広がっているなんておよそ信じられないだろう。低いコンクリート塀で、丁寧に手入れが行き届いたフェアウェイと粗末なブリキ小屋が分離されている。【2016年07月01日 HUFFPOST】)

【トルコ・エルドアン大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相 “口撃”の応酬】
多大な民間人犠牲者を出しているイスラエルがガザ地区で行っている攻撃に関しては、国際的に批判が強まっています。

後ろ盾アメリカも攻撃規模縮小を再三求めており、イスラエル・ネタニヤフ首相としてもいつまでも今の攻撃レベルを続けられないのは承知で、それだけに今の段階で何とか成果(人質救出、ハマス指導者殺害)を出したいと焦って攻撃を強化している側面もあります。

ガザでの戦闘が起きる直前はイスラエルとの関係を改善するような動きを見せていた(イスラム世界をリードしたい思惑のある)トルコ・エルドアン大統領はもともとはパレスチナを支援し、イスラエルに対して厳しい立場にあって、今回のガザ地区での攻撃に対しても、ヒトラーを持ち出してイスラエル・ネタニヤフ首相批判を展開しています。

****トルコ・エルドアン大統領 「ネタニヤフ首相はヒトラーと何が違うのか」と批判****
トルコのエルドアン大統領は27日、パレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を続けるイスラエルのネタニヤフ首相について、ナチス・ドイツの「ヒトラーと何が違うのか」と強く批判しました。

トルコのエルドアン大統領は27日、首都アンカラで行った演説で、イスラエルのネタニヤフ首相が続けるガザへの地上侵攻とナチスによるホロコースト=ユダヤ人大虐殺を重ね合わせ、「ヒトラーと何が違うのか」と述べました。

そして、アメリカや西側諸国がイスラエルを全面的に支援しているとして、「ヒトラーより裕福だ」「その支援によってガザで2万人以上を殺害した」と批判しました。

エルドアン大統領は、これまでにもイスラエル批判を繰り返す一方、今年10月にはイスラム組織ハマスについて「テロ組織ではない」と擁護する発言をしています。【12月28日 TBS NEWS DIG】
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ネタニヤフ首相も言われて黙っているような性格ではありませんので・・・

****「ヒトラーと同じ」と非難され「クルド人を虐殺する人が道徳を説けるのか」と応酬****
(中略)ユダヤ人を虐殺したナチスの独裁者を引き合いに出されたネタニヤフ氏は猛反発している。

声明を発表し、「クルド人を虐殺する人が道徳を説けるのか。(イスラエル)軍はテロ組織を排除するために戦っている」と反論した。【12月29日 読売】
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【南ア イスラエルを国際司法裁判所に提訴 ガザでの攻撃はジェノサイド】
こうした一種のパフォーマンス的な“口撃”の応酬というのは、外交、特にエルドアン大統領やネタニヤフ首相のような個性の強い政治家では珍しくありませんが、国際司法裁判所に提訴となるとやや重みが違ってきます。

****ガザ攻撃は「ジェノサイド」 南アがイスラエルを国際司法裁判所に提訴****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスに対して行っている戦争はジェノサイド(大量虐殺)に当たるとして、南アフリカが29日、国際司法裁判所(ICJ)に審理の開始を申し立てた。

南アフリカは訴えの中で、イスラエルが「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」に違反していると主張。「イスラエルの行為および不作為はジェノサイド的な性質をもつ。ガザのパレスチナ人を破滅させるという明確な意図をもって行われている」と訴えた。

ガザ地区の保健当局によると、10月7日以来の死者は2万1507人を超えている。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によれば、この中には国連の避難所に身を寄せていた少なくとも308人が含まれる。

ICJへの申し立てについてイスラエル外務省は、南アフリカがイスラエル国家の破壊を求めていると強調。南アフリカの主張は「事実的にも法的にも根拠を欠く」と反論した。

その上で、「イスラエルは国際法を順守し、それに従って行動しており、軍事行動はテロ組織ハマスと、ハマスに協力するテロ組織のみに対して行っている」と述べ、「非当事者への被害を最小限にとどめ、ガザ地区へ人道支援を届けるために最大限の努力をしている」と強調した。

南アフリカ国際関係協力省は29日、「イスラエルの無差別的な武力行使と住民の強制排除に伴うガザ地区の民間人の窮状」に重大な懸念を表明。「人道に対する罪や戦争犯罪が行われているとの報告も続いている」と指摘した。【12月30日 CNN】
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唐突に・・・という話ではなく、南アフリカはこれまでもイスラエルを厳しく批判してきました。

****南ア議会、イスラエル大使館閉鎖と外交関係停止を決議****
南アフリカ議会は21日、首都プレトリアにあるイスラエル大使館を閉鎖し、イスラエルがイスラム組織ハマスとの休戦に合意するまで外交関係を停止するとした決議案を賛成多数で可決した。

これを実行するかどうかはラマポーザ大統領の判断に委ねられるため、決議自体は象徴的な意味合いが濃い。
ただ大統領府の報道官は、ラマポーザ氏が南アとイスラエルの外交関係、特に大使館の処遇に関する議会の方針に「留意し、積極的に評価している」と述べた。

ラマポーザ氏や南ア外務省高官らはかねてから、パレスチナ自治区におけるイスラエルのハマスに対する軍事行動を批判し、国際刑事裁判所(ICC)に戦争犯罪が起きている可能性を調査するよう要請している。

イスラエルの駐南ア大使は決議案可決の前日に、本国での協議のためにテルアビブに呼び戻されていた。

今回の決議案は野党の経済的開放の闘士(EEF)が提出。与党のアフリカ民族会議(ANC)側が、外交関係停止についてイスラエルによる休戦受け入れと、イスラエルが拘束力を持つ国連あっせんの交渉に応じると約束するまで、という条件を加え、可決の運びとなった。【11月22日 ロイター】
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****南ア、イスラエルの戦争犯罪と「ジェノサイド」非難****
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は21日、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルによる戦争犯罪と「ジェノサイド(集団殺害)」を非難した。

ラマポーザ氏は議長を務めたブラジル、ロシア、インド、中国、南アで構成する新興5か国によるオンラインでの臨時首脳会議で、「イスラエルの違法な武力行使によるパレスチナの民間人に対する集団的懲罰は、戦争犯罪だ。ガザ住民への医薬品や燃料、食料や水の意図的な供給停止はジェノサイド(集団殺害)も同然だ」と述べた。

また「即時かつ完全な停戦」、および「戦闘休止の監視と民間人保護」のため国連軍の派遣を呼び掛けた。

ラマポーザ氏は「ガザでの死と破壊について、各国はそれぞれ深刻な懸念を表明してきた」「この歴史的な不当な行為を終わらせるため、本会議をわれわれの力を結集し行動の強化を呼び掛ける場としよう」と述べた。(後略)【11月22日 AFP】
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【背景に、与党支持ジリ貧の国内政治事情も】
南アフリカがイスラエルに対し厳しい姿勢をとる理由のひとつとして、“南アは長年、パレスチナの大義を明確に支持してきた。与党・アフリカ民族会議はしばしば、自らのアパルトヘイト(人種隔離政策)との闘いとパレスチナ問題を関連付けている。”【同上】ということがあります。

更に、国内政治的な背景としては、故マンデラ氏が率いた政権与党は近年党勢が振るわずジリ貧傾向にあり、イスラエル批判で親パレスチナ野党にすり寄りたい思惑も指摘されています。

****マンデラ後、南アフリカ与党苦境 死去10年、ガザ情勢で活路****
南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)撤廃に尽力したマンデラ元大統領の死去から12月5日で10年。かつて率いた与党のアフリカ民族会議(ANC)は、カリスマの不在で党勢が衰退。

苦境に陥る中、最近は緊迫するパレスチナ自治区のガザ情勢を巡り、イスラエルへの非難を強めている。政権運営の安定化に向け、親パレスチナ野党への接近に活路を見いだしたい党指導部の思惑がにじむ。

ANCはマンデラ政権が誕生した1994年以来、政治を牛耳ってきた。ただ近年は高失業率に苦しむ黒人支持者が離反し、来年実施予定の総選挙では、下院での過半数割れが現実味を帯びている。【11月28日 共同】
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南アフリカの政治といえば、これまではアパルトヘイト撤廃闘争を指導したアフリカ民族会議(ANC)でしたが、マンデラ死後10年、その神通力もうせ、アパルトヘイト撤廃の大功績も長年の腐敗・格差拡大・治安悪化でさすがに色褪せてきたようです。

来年は、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われてから30年という節目の年に当たりますが、与党・アフリカ民族会議(ANC)の置かれた状況は厳しいものがあります。

****“民主化30年”を迎える南アフリカ****
南アフリカは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われてから2024年で30年という節目の年を迎えます。かつてマンデラ氏が率いたANC(アフリカ民族会議)は、この間一貫して政権を担ってきましたが、汚職や内部対立が絶えません。別府正一郎キャスターの解説です。

マンデラ氏「全ての人種が平和的に共存する“虹の国”を打ち立てよう」
南アフリカは、もともとはイギリスの植民地で、かつてのアパルトヘイト(人種隔離政策)では、少数の白人が国を牛耳り、大多数の黒人を貧しい居住区に押し込めて支配するなど、人種差別と人権侵害が横行する体制でした。旧宗主国のイギリスも、女性初の首相となった当時のサッチャー首相が、特に白人政権を擁護していたことが知られています。  

しかし、ネルソン・マンデラ氏が率いるANC(アフリカ民族会議)などが粘り強く闘争を続け、1990年代初頭にようやく撤廃に追い込み、1994年に初めて、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われ、マンデラ氏は大統領に選出されました。逆に言えば、1994年まで、黒人は投票すらできない体制だったのです。

その選挙から、2024年には30年の節目となります。歴史的な選挙だっただけに、南アフリカはもちろん、各国メディアの間からも、この30年間を振り返り、検証しようという関心が高まっています。  

とりわけ、解放運動から政党となったANCが、民主化後に一貫して与党の座にあったので、ANCの統治の功罪について注目が集まっています。というのも、ANCのもとで、一部で黒人の生活水準の向上や、経済成長があった一方で、「格差の拡大」や「汚職の蔓延」、さらに、「犯罪の横行」などが課題になっているからです。  

私は1月に帰国し、この番組を担当し始めるまで4年半駐在していましたが、犯罪は常に警戒していました。たとえば、強盗に車が奪われる犯罪も起きていますので、街なかを運転する時は、後ろをつけられていないかを警戒していました。つけられているなと思ったら、スピードをあげたり、大通りに出たりしました。また、役場での手続きで、賄賂を要求されるようなこともあり、閉口したこともありました。  

1994年の就任演説で、マンデラ氏は、全ての人種が平和的に共存する「虹の国」を打ち立てようと呼びかけました。しかし、ANCの長期政権のもとで、さまざまな問題が噴き出しているのが現状です。「虹の国」の理想の実現に向けた、南アフリカは大きな試練に直面しています。(12月5日放送の「キャッチ!世界のトップニュース」)【12月6日 NHK】
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【治安の悪さから自警団 それが私刑などの新たな問題も】
南アフリカの治安の悪さは“定評”がありますが、背景には格差・貧困の問題があると思われます。
住民は自衛のために自警団を組織したりもしていますが、今度はその自警団の「ネックレス」に代表される私刑も問題になっています。

****暴徒によるリンチ殺人、7人の焼死体発見 南ア****
南アフリカで3日、国内で最も治安が悪いとされるタウンシップの一つで「暴徒」が男性7人を襲い、体を縛ったうえで火を付け殺害する事件が発生した。警察や住民が明らかにした。警察は殺人事件として捜査を開始した。

南アフリカでは殺人発生率が増えている。

事件が起きたのはヨハネスブルク北方にある人口35万人超のディエプスルート。タウンシップの代表は、地区内での殺人やレイプの発生率は高いが、当局からは見放されていると語った。

警察はAFPに、2人の「焼死体」が発見され、1日夜から警戒態勢を敷いたと述べた。2日未明には、ディプスロット近郊でさらに5人の遺体が発見されたという。
これまでの捜査から、両事件とも被害者は暴徒に襲われ焼かれたとの見方を示した。

ある住民は「彼らは追いかけられ、捕らえられ、縛られて、殺された」と話した。首にタイヤを掛け、それにガソリンを注いで火を付けるリンチ(私刑)の方法「ネックレス」が行われたという。

動機は分かっていないが、警察は「自警行為や私的制裁を加えることは重大な犯罪行為であり、強く非難する」と話した。【12月4日 AFP】AFPBB News
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【暴力の標的とされる移民】
格差・貧困・失業、治安悪化・・・ということで攻撃の対象となりやすいのが移民。南アには経済破綻した隣国ジンバブエからの移民が多数暮らしています。

****南アフリカ:襲撃に怯えるジンバブエ移民ら****
4月上旬、南アフリカのヨハネスブルグ北部、ディープスルートで自警団による移民襲撃が繰り返され、ジンバブエ人1人が死亡した。当局は、自警団の暴力から移民を保護する対策を強化しなければならない。

数人の移民がアムネスティに語ったところでは、今、多発する犯罪や増加する失業が移民のせいにされており、移民を敵視する自警団にいつ襲われるかもしれない恐怖の中で生活しているという。

自警団は、「移民の排除は地域社会から犯罪をなくすため」と主張する。当局によれば、3つの自警団によって少なくとも7人が殺された。

シリル・ラマポーザ南アフリカ大統領は、移民、特にジンバブエ人が、自警団の襲撃対象になっているという認識を示している。実際、自警団による移民襲撃は、ディープスルートだけでなく、南アフリカ全体に広がりつつある。

ここ数カ月、ヨハネスブルグのソウェトやヒルブロウでも移民を狙った極めて組織的な襲撃事件が起こっている。
襲撃が続いていることは、警察当局の無策と、襲撃に対する政府内の問題意識の欠如を浮き彫りにしている。いずれの事件も、未然に防止することはできたはずだ。

殺害
ヨハネスブルグで7人が殺害された複数の襲撃がきっかけに、反移民の自警団に対する抗議が始まった。
社会不安が広がる最中、ジンバブエの男性が、自警団から要求された身分証明書を見せることができなかったため、焼き殺された。この殺害をめぐり、犯人が逮捕されたかは明らかになっていない。

その後、ラマポーザ大統領は、相次ぐ襲撃事件の対応に警察力を増強すると約束し、また、外国籍の人たちへの暴力や脅しをやめるよう市民に呼びかけた。

「もはや安心して暮らせない」
ジンバブエやモザンビークから来た人たちは、アムネスティに「大変な恐怖の中で暮らしている」と話す。警察や自警団に、理由や権限もなく身分証明書の提示を要求され、日常的に身の危険を感じているという。

2人の子を持つ女性が、最近あった出来事をアムネスティに語った。女性は、10年ほど前にジンバブエを出てディープスルートに移住し、路上で野菜を売って生計を立ててきた。最近、子どもと一緒にいるときに襲撃を受け、自分の掘っ立て小屋にかろうじて逃げ込み、難を逃れた。「いつも恐怖と背中合わせで、どうしたらいいのかわからない。ここで暮らすのが怖い」と話す。

襲撃の被害者を含む移民の人たちは、昨年末に特別在留許可の期限が切れた後、大統領に「身の安全を保障し、ちゃんとした身分証明書を出してほしい」と訴えてきた。

またモザンビークからの移民は、「自警団に犯罪者扱いされるのが辛い。家族のために働いているだけ。祖国を出たのは、国内の状況が厳しかったから」と話す。

移民への襲撃が始まったのは2008年だが、その年だけで60人以上の移民が犠牲になった。以来、移民襲撃は毎年発生してきた。アムネスティは、南アフリカ政府に対し移民への暴力追放に向けた政策を立て、加害者が罪を問われない状況に終止符を打つことを繰り返し求めてきた。

今回、ラマポーザ大統領が、昨今の襲撃殺害事件を強く非難したことは評価したい。今こそ大統領は、自警団の暴力から移民を保護する具体的な対策を実行し、この憎むべき犯罪を起こした者が必ず法の裁きを受けるようにしなければならない。

背景情報
ジンバブエからの移民は、特別在留許可を発給された上で南アフリカに長年暮らし、働いてきた。だが、反移民感情の圧力に屈した政府は昨年末、在留許可の更新を突然取りやめたため、移民は不法滞在の状況に陥った。

移民排除で組織化する自警団は、#PutSouthAfricaFirst(南アフリカ人第一)などのハッシュタグを使い、ジンバブエや他の国から来た人たちで昨年末に特別在留許可の期限が切れた人たちを標的に襲撃してきた。

その後、政府は方針を転換し、ビザ申請により在留資格を取得できるようにするため、今年末までの在留を認めた。とはいえ、正規の身分がないことに変わりなく、移民は襲撃を受けやすくなっている。

今年2月、ヨハネスブルグの南の町ソウェトと、ビジネスの中心地ヒルブローでも襲撃事件があったが、警察はその場にいたにもかかわらず、取るべき対応を取らなかった。【2022年4月13日 アムネスティ国際ニュース】
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南ア政府は、ガザ地区の惨状もさることながら、自国内にも早急に対応すべき問題を抱えているように思われます。
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