(わずか10キロにやせ細ったイエメンの12歳の少女【2月23日 TOCANA】)
【「もし私たちがずっとここにいて飢えていても誰も私たちのことに気づかないでしょう。私たちには未来がないのです」】
北朝鮮・アメリカの交渉、イギリスのEU離脱、あるいは日本と韓国の関係悪化・・・といった“派手な”“関心を引きやすい”多くの問題にかき消されてしまいがちですが、世界最悪の人道危機とも言われる(残念なことに、同様の“最悪の人道危機”は他の地域でも多々ありますが)イエメンの状況は、昨年末の停戦合意以降もほとんど改善していません。
****イエメン:紛争の影響を受け続ける120万人の子どもたち~停戦合意以降も続く子どもの犠牲*****
イエメン人道危機に関する支援会合に先立ち、ユニセフ(国連児童基金)中東・北アフリカ地域事務所代表ヘルト・カッペラエレはイエメンの子どもたちの状況について、以下の通り声明を発表しました。
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イエメンでは、紛争に関連した激しい暴力が起きているホデイダ、タイズ、ハッジャ、およびサアダを含む31の紛争地域に今でも120万人近くの子どもが暮らしています。
2018年12月13日のストックホルムにおける停戦合意以降、イエメンの子どもたちの状況はほとんど変わっていません。
その後も毎日、8人の子どもが死傷しています。犠牲になった子どものほとんどは、外で友人と遊んでいるとき、あるいは通学途中に被害に遭いました。
紛争はイエメン全土に深く浸透し、影響を受けていない子どもはひとりもいません。過去4年間にわたる大規模な暴力ならびに極度の貧困、そして、何十年にもわたる紛争、ネグレクトや搾取がイエメン社会に重い負担をかけ、あらゆる社会、特に子どもたちにとって基礎となるべき社会構造が断絶されています。(後略)【2月26日 日本ユニセフ協会】
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こうした状況を物語るのが冒頭の少女の写真です。
****イエメン内戦で“体重10kg”まで痩せた少女の姿に全世界衝撃! 完全に「骨と皮」で医者も治療拒否・・・ 飢餓千万人の絶望的状況****
泥沼化するイエメン内戦――。その最大の犠牲者は住居を奪われた市民であり、その子どもたちだ。今、イエメン国民の1000万人が深刻な食糧難に直面している。
■体重わずか10キロの12歳少女
一向に解決の兆しが見えない内戦が続くイエメンで、市民の悲惨な窮状を物語る写真に、世界中の人々の胸が締めつけられている。
空爆で家を失った一家の12歳の娘が、姉の懸命な働きかけでようやく病院に運ばれたのだが、医師に診てもらうのが遅すぎたこの少女の体重は、わずか10キロであった。
イエメン・ハッジャの病院に先日運び込まれた12歳の少女、ファティマ・コバちゃんの姿をとらえた写真に、世界中の人々がショックを受け言葉を失っている。その姿はまさに“骨と皮”だ。日本であれば小学6年生にあたるファティマちゃんの体重はなんと10キログラム。ヨチヨチ歩きの幼児の平均体重と同程度である。
2011年の“アラブの春”の余波で始まった内戦は、反政府武装組織「フーシ」が2014年に首都サヌアを制圧したことで戦闘の長期化が避けられなくなり、2015年にサウジアラビアとUAEがサヌアなどに対する空爆を開始。以来、おびただしい数の一般市民の犠牲者を出しながら今なお続いている。
ファティマちゃんの家族は内戦前からサウジアラビアとの国境に近い町で暮らしていたが、2015年3月から始まったサウジアラビア主導の空爆で家を失い避難生活を余儀なくされ、現在は木の下で一家10人が生活を共にしているという。
父親は内戦で仕事を失い、現在収入はまったくない。食糧の入手もきわめて困難で、また極度のインフレが起きているために手持ちの現金では食糧は高すぎて買えなくなっているという。
また道路交通網が分断されているためか、援助物資はなかなか一般の人々のもとへは届きにくくなっているようだ。
こうして現在、イエメンで人口の半数に近い1000万人が深刻な食糧不足に直面しているといわれている。そして家を追われたファティマちゃんの家族もまた避難生活の中でたちまち食糧難に陥った。
日に日に痩せ衰えていく家族だったが、特に衰弱が酷いのが、このファティマちゃんだった。
「このままでは妹が死んでしまう」と危機感を募らせた姉は一大決心して妹を病院に連れて行ったのだが、2つの病院で続けて診察を断られたという。見かねた親戚の者が姉にこの病院を教えて交通費を恵んでくれたということだ。
「私たちは食べ物を買うお金を持っていません。私たちが食べているのは近所の人々や親戚の人たちがくれるものだけです。もし私たちがずっとここにいて飢えていても誰も私たちのことに気づかないでしょう。私たちには未来がないのです」と姉は話している。
■イエメンで約1000万人が飢饉に直面
見るも痛ましい姿で病院に運ばれたファティマちゃんだったが、診察した医師は別段驚くこともなかった。今や病院に連れて来られる患者の多くが栄養失調の症状なのである。当月だけでも、40人の栄養失調の妊婦の診察をしたという。そして来月には43人の栄養失調の子どもの治療にあたらなければならないという。(中略)
そしてこの内戦は国内のいくつかの地域の人々を地元から追い出し、食料、燃料、そして援助のためのアクセスルートを遮断し続けていて、事態は悪化の一途をたどる様相を呈している。
イエメンに食料品はあるのだが、深刻なインフレによって人々は食料品を買うことができないでいる。そして本来安定した収入があるはずの公務員までもが給与の支払いが停止されていて、多くの公務員世帯が“収入ゼロ”になっているのだ。
「大飢饉の瀬戸際の災厄に直面しています。イエメン社会と家族は疲れ果てています。唯一の解決策は内戦を止めることだけです」(マキア・アル・アスラミ医師)
ますます混迷を深めるイエメンの情勢に何らかの光明が差し込むことを願うばかりだ。【2月23日 TOCANA】
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【支援を必要とする者に届かない支援物資 貯蔵庫で大量の食糧が腐敗の恐れ】
願うだけでは光明は差さないので、行動が必要です。
もちろん国際社会も、日本も、(関心は薄いながらも)何もしていない訳でもありません。
****辻外務大臣政務官の「イエメン人道危機に関するハイレベル・プレッジング会合」出席(結果)****
1 2月26日(現地時間同日),スイスのジュネーブにおいて,イエメンにおける深刻な人道状況への対応のため,「イエメン人道危機に関するハイレベル・プレッジング会合」が開催され,我が国からは辻清人外務大臣政務官が代表として出席しました。
2 辻政務官は,この会合におけるステートメントの中で,イエメンでの深刻な人道状況に対処すべく,本年中に同国に対して少なくとも総額約5,820万ドルの支援を実施する旨表明しました。
3 また,辻政務官は,マイーン・アブドルマリク・サイード・イエメン首相との会談を行い,サイード首相から,今回会合で表明された日本による寛大な支援に深く感謝する旨の発言がありました。
4 辻政務官は,アントニオ・グテーレス国連事務総長,サイフディン・アブドゥッラー・マレーシア外務大臣び国連関係者等と立ち話を行いました。【2月27日 外務省HP】
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会談・協議などではなく“立ち話”というのが、いかにも外交的ですが、それはともかく、問題はこうした(十分とも言い難い)国際援助が“内戦の混乱が援助のためのアクセスルートを遮断し続けている”状況で、困窮者の手に届かないことです。
****イエメン、支援食糧が腐敗の恐れ 貯蔵庫に近づけず****
国連は11日、イエメン内戦の最前線にある貯蔵庫に保管されている支援食糧が腐敗する恐れがあり、数百万人のイエメン市民が生命維持に必要な食料を入手できない状況が続いていると警鐘を鳴らした。
西部の港湾都市ホデイダに位置する紅海製粉所の貯蔵庫には、数百万人が1か月食べていけるだけの穀物が保管されているとみられている。しかし支援団体は、数か月にわたってこの貯蔵庫へ立ち入れずにいる。
国連世界食糧計画の代表とイエメン国連担当特使は共同声明を出し、「WFPは370万人に1か月分の食料を提供できるだけの穀物を同製粉所に保管しているが、5か月間立ち入りができず、腐敗する恐れがある」と警告し、「貯蔵庫へのアクセス確保は、イエメン内戦の当事者が負うべき共通の責務だ」と強調した。
ホデイダと同市内にある食料庫は、2014年からイスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派に掌握されている。フーシ派は同時期から、イエメン領土の広範囲を支配下に置いた。
翌年には、フーシ派と戦う暫定政権側を支持するサウジアラビアとその連合軍が軍事介入に踏み切ったことで、国連が「世界最悪の人道危機」と呼ぶ事態に陥った。1000万人以上が、餓死寸前に追い込まれている。 【2月12日 AFP】
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約1000万人が飢饉に直面する状況で、大量の食糧が腐敗する恐れ・・・・なんとも理不尽な状況です。
食料、燃料その他の輸入の8割以上が通過し、国際支援物資輸送の中核ともなる港湾都市ホデイダでの停戦・戦闘部隊の市外への移動に関する合意は、こうした状況の打開が期待されていたはずですが・・・。
(なお、上記記事では“ホデイダと同市内にある食料庫は・・・・反政府武装組織フーシ派に掌握されている。”とありますが、他の記事では暫定政府側の管理下にあるとされています。)
また、以下のような情報も。
“前停戦監視団長(国連特使と意見の差で辞任した)はオランダ紙に対して、ホデイダのサイロに対するhothy側の砲撃で、貯蔵されている穀物の20%が焼失したと語った”【2月16日 「中東の窓」】
1月8日ブログ“イエメン内戦 双方の非道さが招いた「世界最悪の人道危機」 何とか停戦継続を”で取り上げたように、フーシ派が支援物資を横流しているという“餓死者の目の前から食料を奪う様な行為”も現地メディアでは報じられています。
【停戦合意にもかかわらず激化する戦闘 支援物資の搬送には高いハードルも】
こうしたなか、ようやく国連WFP(世界食糧計画)の評価班が貯蔵庫に入れたとのことです。
****国連、イエメンの食糧貯蔵庫に立ち入り 昨年9月以降初****
国連は26日、イエメン内戦の最前線にある支援食糧の貯蔵庫に、昨年9月以降初めて立ち入ることができたと発表した。この貯蔵庫には、数百万人を1か月養える食糧が貯蔵されているという。
世界食糧計画の報道官はAFPに対し、WFPの評価班が同国西部の港湾都市ホデイダに近い同貯蔵庫に入ったと明かした。
同報道官は、「昨年9月以降初めて、きょうWFPのチームが紅海製粉所に入ることができた。ここには370万人以上を1か月養えるだけの穀物5万1000トンが貯蔵されている」と説明。
「きょうの評価活動の細かい結果はまだ入っていないが、この施設をなるべく早く再び使えるようにしたいと考えている」と期待を示した。
ホデイダの港は、イスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派が掌握している同国西部にある。今月17日にスウェーデンで結ばれた協定に基づき、イエメン紛争の両当事者が戦闘員らを港の外へ移動させることに合意。
この協定で、サウジアラビアの支持を受ける暫定政権が掌握する紅海製粉所の穀物貯蔵庫への自由な立ち入りが規定されたことから、今回評価班の立ち入りが可能となった。
世界保健機関によると、イエメンでは紛争開始以来約1万人が死亡。その大半が民間人で、負傷者は6万人以上に上っているという。 【2月26日 AFP】AFPBB News
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しかし、運び出しまでにはハードルがありそうです。
戦闘状況は、最近むしろ悪化しているとの情報もあります。
****イエメン情勢(ホデイダ等)****
イエメンではホデイダでの停戦、兵力引き離しどころか、ホデイダ方面も含めて、むしろ戦闘が激化している模様です
・ホデイダでは,政府軍によれば、hothy軍が市の住宅地や政府軍向けに銃砲撃を加え、その停戦違反は増大している。
・特にホデイダの南で、hothy軍がalhis に対する大規模攻撃をかけてきたが、政府軍が撃退した由。
この戦闘でhothy軍は数十名の死傷者を出した由。
hothy軍は大規模な兵力と物資を前線向けに増派している由
・(他方北端のサアダ県でも戦闘が激化していることは報告済みですが)政府軍によると、hothy軍は25日夕、ドローンによる援護を受けつつ、suq albaquaの政府軍に対して、大規模攻勢をかけてきたが、撃退され、死者13、負傷者30名の損失を被った。
他方政府軍は同日al baqim でアラブ連合空軍の援護を受けつつ、大きく前進した
(何しろ上記報道はいずれもサウディ系のal arabiya net のものですから、大本営的な報道だろうと思いますが、少なくとも北部イエメン、海岸のホデイダで、激しい戦闘が続いていることは間違いなさそうです。
hothy軍が戦闘の援護にドローンを使い始めたというのは新しい話ですが、それにしてもこれだけ長期間の内戦で基本的にアラブ連合軍に封鎖されているhothy軍の武器、弾薬の供給がどうなっているのか、極めて不思議です。
地元生産、政府軍からの捕獲の他、政府軍やアラブ連合軍からの横流しなどもあるのでしょうね。)【2月27日 「中東の窓」】
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兵力引き離しどころか、むしろ戦闘が激化している状況では、支援物資の搬出は当分見込めないかも。
こうした状況を政府軍・フーシ派双方はどのように認識しているのでしょうか?
【徘徊型自爆ドローンを使うフーシ派】
武器、弾薬の供給は、イエメン内戦に限らず、世界各地紛争において「一体どこから?」と常々疑問に思っており、その供給ルートを絶つことができれば紛争もおのずと沈静化するのに・・・と考える問題です。
イエメン・フーシ派に関して言えば、(サウジやアメリカなど政府軍支持国からは)イランからの支援が指摘されています。(イランは否定)
フーシ派が使っているドローンも“イランの武器システムとあやしいほど似ている”とも。
****反政府組織がドローン攻撃、和平に影響か イエメン内戦****
内戦が続く中東イエメンで(1月)10日、ハディ暫定政権側の軍事パレードを反政府武装組織フーシのドローン(無人機)が攻撃し、兵士ら数人が死亡した。
ロイター通信などが伝えた。内戦を巡っては先月、約2年ぶりに開かれた和平協議で部分停戦の合意が成立したが、事件が今後の協議に影響するのは避けられない。(後略)【1月10日 朝日】
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標的の近くを長時間飛び回り、チャンスを見計らって特攻・自爆する超小型のドローンを「徘徊型兵器」と呼ぶそうですが、この方面の技術で最先端を行くのがイスラエルだそうです。
それは想定内の話ですが、こうした「徘徊型兵器」を繁用しているのがイエメンのフーシ派だそうです。
*****「徘徊型」自爆ドローンがもたらすもっと危険な暗殺戦争****
(中略)国以外でこの兵器を使いこなしているのは、間違いなくイエメンのイスラム教シーア派武装組織フーシー派だ。(中略)
4年にわたる戦闘の間、フーシー派は、戦闘力でも技術でも資金力でもかなわない敵と戦うために、予想も対抗も困難なゲリラ的戦法をとってきた。
イランとの密接な関係も、彼らの戦術と戦略を特徴づけており、彼らが何度か使用した徘徊型のQasef-1戦闘用ドローンはイランの武器システムとあやしいほど似ている。
自律攻撃もありうる
フーシー派は独自に開発した無人兵器で、敵の軍事拠点や空港、レーダー装置を攻撃してきた。そのすべてが自爆タイプというわけではない。弾頭を運ぶものもあれば、単に速くて正確な誘導ミサイルとして使用されているだけという場合もある。
被害を増やすために、人口密集地域の上空で爆発させる兵器が使われたこともある。たとえば今年1月、イエメンで行われた軍事パレードに自爆ドローン攻撃が仕掛けられ、上級司令官を含む兵士数人が殺害された。
フーシー派が頻繁に使用するのは比較的初歩的な技術だが、こうした武器の威力と適性が実証されたことは確かだ。(後略)【2月25日 Newsweek】
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アメリカ・ロシア、あるいはアメリカ・北朝鮮は核兵器問題で紛糾していますが、実際に起きる局地戦・ゲリラ戦では、“技術の進歩”によって、上記のようなニッチで安価な兵器が活躍することにもなります。
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